※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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優一郎のコンプレックスは健在です。
エロシーンはありません。


奈月の製作者 3

 何を言われるより、優一郎はこの時にはっきりとした衝撃を受けた。どう足掻いても父親には近づけないのだろうか。そんな不安まで胸にこみ上げてくる。

 

「大事なのはバランスだ、と僕は聞いたよ。何をどう言ってもヒューマノイドの機体というのは機械を組み合わせて作られる。一つ一つの部品にただ金をかければいいというものではなく、それらの組み合わせの妙が彼女を実際に存在させているんだと」

 

 それを立城に語ったであろう時の総一郎の表情まで優一郎には想像できた。決して高飛車ではなく、それでいて強い説得力に満ちた口調までが脳裏に蘇る。総一郎はただの一度も優一郎と絵美佳を自分の子供だから、と甘く扱ったことはない。どこまでも一人の人間として、そして一人の科学者として総一郎は子供たちに接してきた。

 

「わかります。確かに高価な素材は用いられてますけど、それだけではないということは」

 

 バランス。優一郎はそう呟いて奈月と立城を見比べてみた。そして実験台に横たわる二体の機体を見る。由梨佳と奈月は総一郎が手がけた機体だ。そしてもう一体の多輝は自分が作ったものだ。その三者を比べた時、優一郎はどうしても奈月の機体が中でも秀でているとしかいえない。何故なら多輝の機体に奈月と同じだけの力をこめた場合、暴走して機体が崩壊してしまうことは優一郎にも予測できるからだ。

 

「僕では無理だったと、そういうわけなんですね」

 

 力なく笑って優一郎は告げた。だから立城は最初から奈月の作成を優一郎には依頼しなかったのだ。どんなに水輝が求めると判っていても、たとえ手間がかかっても、総一郎に依頼するしかなかったのだろう。

 

「残念だけれど、僕はそう判断した。奈月さんの機体はそうそう壊れてもらっては困るからね。何しろ相手が水輝だもの。間違いなく水輝は奈月さんを庇うだろうし……」

 

 そこまで言って立城は珍しく言葉を濁した。口許に手を当てて黙り込む。優一郎は不思議に感じてそんな立城をじっと見つめた。奈月がその横で困ったような顔をしている。

 

「水輝さんとの行為の負担が大きいと?」

 

 優一郎は真面目にそう問い掛けてから、ふと奈月を見やった。奈月が真っ赤になってうろたえている。それを見た優一郎も思わず焦った。いえ、すみません。と詫びが自然と口をついて出る。

 

「それもあるんだけれど」

 

 そう言った立城の顔には笑みは全くない。奈月をからかう素振りもなく、ただ口許に手を当ててどこかを見つめている。優一郎は怪訝に思いながら眉を寄せた。

 

「水輝さんの弱点になりうるから、力が必要だと」

「まあ、そうだね。だから奈月さんには水輝の力がこめられている。定期的に注入されると言ってもいいかな? 僕たちにおける性交渉というものは、人のそれとは大きく意味が異なっているから」

 

 意外なほどに冷ややかに立城が告げる。だがその目は優一郎を見てはいない。どうしたのだろう、と思っていると立城は無言で立ち上がった。カップを実験台に置いてそのまま部屋を出て行ってしまう。取り残された形になった優一郎は呆然と立城の後姿を見送った。

 

 奈月はかつて存在していたという夜叉と同じ性質を持っている。少なくともこの時点まで優一郎はそう確信していた。かつての夜叉……つまり砂夜と呼ばれた女性が紫翠に対する想いをこめたものであったなら、今の奈月は水輝に対するそれをこめた機体だ。想いが向かう先は違うかも知れないが、同じ龍神の感情をこめたものという意味では同じ性質を持つ筈だ。

 

 その筈だ。優一郎は胸の内側で二者を比較して再確認した。違いはただ、ヒューマノイドであるために奈月の命には限りが殆どない状態だということだ。砂夜は力を揮ったためにその命を削ったと聞く。だが奈月に関して言えばそれはない。夜叉としての力を揮っても、最悪の場合でも機体に不具合が出るだけだろう。

 

 そして奈月は永遠の命を携えて、永遠に水輝の傍にいる。

 

「あれ?」

 

 優一郎は瞬きして、先ほどの思考をリピートしてみた。

 

 永遠の命で水輝の傍にいる。それはかつての砂夜が決して出来なかったことではないだろうか。恐らく砂夜は紫翠とずっと共にあることを望んだだろう。だが龍神である紫翠と砂夜では寿命に大きく差がある。龍神が不死とまでは言わないが、人や夜叉に比べれば永遠にも近い時を生きられただろう。もっとも紫翠の命は他者によって断たれてしまったが。

 

 それが決定的、かつどうしようもない差なのか。優一郎は愕然と目を見張って奈月を見た。奈月は戸惑ったような視線を返してくるだけだ。

 

 例えば奈月にこめられた想いの主がこの世を去っても、奈月は残る。想いが形のままで存在してしまうのだ。

 

 それはまるで永遠の命を持つ水輝のために作られた器なのではないか。そう思った時、優一郎は背中に冷たいものを感じた。

 

「あ、あの、おかわりはいかがですか? わたし、いれてきますね!」

 

 優一郎の返事も待たずに奈月が部屋を駆け出して行く。その目にうっすらと涙が浮かんでいたことに優一郎は気づかなかった。




奈月のキャラが若干ぶれてます……(泣)
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