※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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この二人の組み合わせは大抵こーなりますw
エロシーンはありません。


多輝と由梨佳のメロドラマ 1

 ここ数日というもの、奈月の姿を見かけない。それだけではない。立城の屋敷にいる使い魔の数も随分と減っている。訝りに眉を寄せて多輝は階段の上から玄関を見た。中でも一番疑問なのは蒼がいないことだ。

 

 こないだまでちゃんといたよな。多輝はそう呟いて屋敷の中を探して歩いた。だがやはり蒼の姿はどこにもない。奈月もだ。多輝はため息をついて部屋に戻った。

 

 今日のスケジュールは完了している。先ほどまで一緒にいた由梨佳の姿も今はない。多輝はふらりと部屋に入って椅子に腰掛けた。由梨佳が消し忘れたのだろう。壁にかけられたホワイトボードにはマジックで数式が記されている。多輝はぼんやりとその数式を目で追った。

 

 夕食の準備が整いました、と立城の使い魔が知らせにくる。ああ、と返事して多輝は食堂に急いだ。広々とした食堂のテーブルには既に由梨佳がついている。だが一番奥の席は今日も空いたままだ。屋敷の主である立城はここ最近は多輝や由梨佳と共に食事を摂ることはない。龍神は人間の食事をとらなくても生きていける。それは判っていても多輝はそのことを不安に思っていた。だが屋敷の中で会う立城はいつもと変わりない。

 

 グラスに注がれたワインは透明だ。多輝はグラスを傾けてゆっくりとワインを喉に流した。すっきりとした酸味を堪能してから食事に手をつける。ふと目を上げると由梨佳がグラスを持ったままぼんやりとしているのが見えた。

 

「どうしたんだ? 口に合わないのか?」

 

 そう声をかけながら多輝はさりげなく手元に目を落とした。今日は白身魚のソテーがメインディッシュになっている。カトラリーを器用に操って多輝は切り分けたそれを口に運んだ。千切ったパンでソースを拭う。

 

「ううん。なんでもないの」

 

 そう言って微笑んでから由梨佳もカトラリーを手にした。そこで多輝はそういえば、と内心で呟いた。食事のマナーを多輝に教えたのは由梨佳だ。それまである程度はマナーを身につけていた多輝だったが、ここにきてから改めて由梨佳には色んなことを教わった。最初の由梨佳はいつも困ったような顔をしていた。そのことを思い出して多輝は思わず苦笑した。

 

 ここに来てもう一月以上が経過している。そして由梨佳は食事時には多輝に注意することはなくなった。それはつまり、多輝がマナーを完璧に身につけたということだ。多輝は小さく笑ってグラスに手を伸ばした。ここでは未成年は飲酒してはいけない、などということは言われない。

 

「言葉遣いさえきちんとすれば、もうどこに出しても恥ずかしくないのに」

 

 苦笑しつつ由梨佳が告げる。多輝はああ、と返事してから眉を寄せた。その言葉遣いが一番難しいのだ。拗ねたように答える多輝に由梨佳が困ったような顔をする。だが由梨佳はそんな顔をしてはいても、本気で多輝を叱ることはない。そういう部分を含めて多輝のことを気に入っているのだ。そのことは多輝も理解していた。

 

 由梨佳が好いているのは多輝の中の男を思わせる部分だ。決して女のそれではない何かを由梨佳は多輝の中に求めている。そして多輝はそれを強く由梨佳に示して見せられないことにもどかしさを感じていた。ありていに言えば、男として由梨佳を抱きたいという願望だけが日に日に強くなるのだ。

 

 静かに食事の時間が過ぎる。デザート代わりに、と使い魔が持ってきたチーズをつまみながら多輝はグラスを傾けた。白いワインに合う、軽い口当たりのチーズの味を堪能する。グラスを片手に席を立った多輝は、そのまま暖炉に近づいた。暖炉には火が入れられている。その前に置かれたソファに座り、多輝は由梨佳に手招きをした。由梨佳もグラスを持ってソファに腰を下ろす。

 

「何か気になることがあるのか?」

 

 そっと告げて多輝は由梨佳の肩に腕を回した。細い肩を抱き寄せる。すると由梨佳はびくりと手の中で震えた。二人の間に置かれた皿からチーズをつまむ。多輝はじっと暖炉で燃える赤い火を見つめていた。

 

「ちょっと、考え事してただけよ」

 

 明るく告げた由梨佳が微笑を浮かべる。ふうん、と呟いて多輝はチーズを口に放り込んだ。グラスに残っていたワインを飲み干す。すると静かに使い魔が寄ってきて多輝のグラスに新しくワインを満たした。いかがですか、と由梨佳に声をかける。由梨佳が小さく首を横に振ると、使い魔は静かに二人から離れていった。

 

 暖炉の中で火がはぜる。多輝は赤い火に照らされた由梨佳をそっと伺い見た。由梨佳は両手に包んだグラスを回している。揺れ動くワインの表面を見つめる由梨佳の目はなぜか寂しそうだ。

 

「もうすぐ……ね」

 

 小さな、殆ど聞き取れない声で由梨佳が呟く。ぴくりと眉を上げて多輝は火に目をやった。真冬にはまだ早い。なのに暖炉の暖かさがとても心地いい。今年は随分と雪も気が早いらしい。外には季節はずれの雪まで舞っている。多輝は無言で強く由梨佳を抱き寄せた。傾いた由梨佳の頬が自然と多輝の胸元に触れる。

 

 もうすぐ多輝の教育期間が終了する。その日はまだはっきりしていないが、近いことは間違いない。多輝は黙って由梨佳の髪を撫ぜた。その日が来たら恐らく自分はこの屋敷から出て行くことになるだろう。

 

 そしてその日は多輝が予想したより随分と早く訪れた。立城の執務室に呼び出された多輝は無言で机の前に立った。立城はいつもの調子でキーボードを叩いている。

 

「で、エンター、と。それで? 他に何か聞きたいことは?」

 

 淡々とした声で訊ねながら立城は端末に光ディスクを入れた。低い音がして端末がディスクの内容を読み込む。多輝は腕組みをして立城を睨んだ。

 

「学校に戻るなってどういうことだよ。おれは別の名前で転入するって話じゃなかったのか?」

 

 低い声で告げると立城がああ、と目を上げる。その口許にはいつもの穏やかな微笑みが浮かんでいた。

 

「ちょっと予定が狂ってね。君が戻る必要はなくなったんだよ」

 

 あっさりとそう言い切って立城は再度、キーボードに手を乗せた。多輝は苛々と頭をかいて机に近づいた。立城の正面に回って机を叩く。だが立城はそんな多輝を見ても少しも態度を変えなかった。微笑みを浮かべたまま、どうしたの、と訊ねる。




まあ、多輝だから仕方ない……のです……。
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