この二人は仕方無い!!w
エロシーンはありません。
「どうしたもこうしたもあるか! 学校に行くために教育したんじゃないのかよ! そのためにおれは」
「苦労なんてしていないじゃない。あ、そこ、触らないようにね。重要機密の入ったディスクがあるんだ」
流れるような口調で告げながら立城がひょいと手を伸ばす。多輝の手の傍からディスクを取り上げ、立城はそれを机の引き出しにしまった。多輝は言葉に詰まって唇を引き結んだ。
確かに自分は苦労などしてはいない。教えられることを記憶し、身につけただけだ。しかも由梨佳はとても教え方が上手く、覚えるのにも何ら苦労しなかった。多輝は現在、高校三年生だが大学で学んでも何も支障がない程度には知識を増やしているのだ。
そして同時に多輝は由梨佳と始終共に過ごしてきた。精神面でも充実していたのだ。だから立城が言ったことに嘘はない。多輝は唇を噛みながら俯いた。
「君にはちゃんとマンションが用意してあるだろう? 特に問題はないと思うけど」
ついでのように言いながら立城は再び何かを入力し始める。多輝は顔を上げて立城を睨みつけた。だが立城はそ知らぬ顔をしている。まるで相手にされていない。そのことだけがよく判る。
いつだって立城は今と同じように多輝を子ども扱いしている。その割にはこうして突き放す。多輝は歯を食いしばって首を強く振った。
「おまえにとっておれは何なんだよ! ただの子供って訳じゃないだろ!?」
もし、単に立城が手元に子供を置きたかっただけなら、何もわざわざ多輝を生み出さなくても良かった筈だ。子供という条件を満たすだけなら、幾らでも周囲にいる。だが立城はあえて多輝を作り出したのだ。
憤る多輝に対して立城は酷く冷静だった。ふわりと笑ってから手を止める。かけていた眼鏡を外し、ジャケットのポケットにしまいこみ、立城は首を傾げてみせた。
「僕にとっての君? それはとても簡単だよ。君は役割の一つを分担する存在に過ぎない。他の意味などどこにもないよ」
「だから! その役割ってなんだよ!」
ヒューマノイドという存在を利用して立城は何かをしようとしている。それは多輝にも理解できている。だが、多輝個人に振られた役割というのが判らない。
「君の頭は何のためについているの?」
言われた多輝は言葉をなくした。つまり自分で考えろ、ということか。多輝は大声でそういい返した。いつだってそうだ。立城は最後の最後で答えを隠す。決して教えてくれようとはしない。そして最終的には多輝もそれで納得せざるを得ないのだ。
「それが僕が失望した理由だよ。さあ、君はマンションに戻りなさい」
そう告げて立城はドアを指差した。失望。多輝は口の中で呟いて嗤った。
「最初っからお前はおれに何の希望も抱いてなかっただろ!? そんなことがよく言えたな!」
「それだけ判っていれば上等だ。ほら、由梨佳さんも待っているよ。さっさと行きなさい」
微笑みながら立城はドアを示した。多輝は慌てて振り返った。いつの間にかドアのこちら側に由梨佳が立っている。だが由梨佳は多輝を待っているというより、立城の言葉を待っているように見える。
「なに言ってるんだ。由梨佳先生はここに残るんだろ?」
だからおれは一人で。そこまで呟いてから多輝は目を見張った。まさか、と呟く。由梨佳は主人と別れて間もないのだ。とても一人で暮らせる状態ではないだろう。その意味をこめて多輝は立城に迫った。だが立城は平然としている。
「君こそ何を言っているの。由梨佳さんは君を教育する、という約束でここにいたんだよ? 君の教育が終わった今、ここに用はないだろう?」
「なっ……」
まともに答えに詰まって多輝は慌てて由梨佳を振り返った。由梨佳は黙って俯いている。それがどういう意味なのかを考える前に多輝は立城につかみかかった。
「ここで放り出すってえのはないんじゃないか!? お前、由梨佳先生がいまどんな状況に置かれてるか判ってるだろうが!」
「契約は契約だからね。それと」
そう言いながら立城は胸倉をつかんでいる多輝の手を逆につかんだ。ふっ、と立城の姿が視界から消える。目を見張った多輝は次の瞬間、ドアに向かって吹き飛ばされていた。激しい音がして壁に身体がぶつかる。間近で悲鳴を上げたのは由梨佳だった。
「いきなりつかみかかるような下品な真似をしないでくれないかな」
さらりと言って立城は乱れたシャツを直した。ぐらつく頭を押さえて多輝はよろけつつもその場に立ち上がった。一瞬のことだったために結界を張る暇がなかったのだ。
「立城さん! あなたこそ、いきなり力を揮うことはないでしょう?」
よろける多輝を支えながら由梨佳が叫ぶ。多輝は驚いて由梨佳を見た。多輝を支える由梨佳の手が小刻みに震えている。由梨佳は必死で勇気を振り絞っているのだ。そのことが痛いくらいに伝わってくる。
「あれ? 由梨佳さんまでそんなこと言うんですか? あの程度の攻撃、避けて当然ですよ。出来ないのは多輝が未熟なだけです」
それに僕は大した力は使っていませんよ。そう付け足しながら立城は緩んだネクタイを締めなおした。椅子に腰をかけて肘杖をつく。そこにはいつもの立城はいない。笑みを消した立城は紛れもなく吉良瀬の当主の顔をしていた。
「実に残念ですね。まあ、吉良博士と離縁なさった時点で契約は破棄されていたも同然なんですが」
そう告げて立城は軽く指を鳴らした。音もなくその場に使い魔が一人現れる。その姿を目にした多輝は絶句した。現れたのは桜だった。立城の傍にいる中でも、桜は恐らく一番に信頼されている使い魔だ。
「二人を屋敷の外まで案内してあげて。ああ、そうだ。由梨佳さんには後ほど給与を振り込みますので」
それっきり、立城は多輝と由梨佳を見ることはなかった。桜に強く促され、多輝はのろのろとした足取りで執務室を出た。傍にいる由梨佳が何度も多輝に声をかける。屋敷の外に出て、初めて多輝はその声に耳をとめた。
「多輝くん、あなたのせいじゃないわ。わたしが悪いのよ……」
苦しむように由梨佳が告げる。多輝は力なく首を振った。そうじゃない。小さく呟く。
修正はしていませんが、改行は入れてます。
砂吐きそうですw