エロまではいかないので、エロシーンはないとした方がいいかもですね。
「違うよ、由梨佳先生。おれは立城に捨てられたんだ」
そう告げて多輝はふらりと歩き出した。屋敷の門を振り返る。頑なに閉ざされたそれが、まるで多輝を拒絶しているように見えた。小さく笑って前を向く。小雪がちらつく中を多輝は頼りない足取りで歩いた。数歩後ろを由梨佳が歩いている。
「そんなことないわ! 立城さんは今はお忙しいのよ。わたしの教育プランが悪かったの。わたしなんかが担当したから」
悲しそうに由梨佳が告げる。多輝は足を止めて由梨佳を見返った。由梨佳は肩を震わせながら立ち止まっている。その頬に涙を見つけて多輝は慌てて由梨佳に駆け寄った。
「由梨佳先生が悪い訳ないだろ。おれが……おれが悪いんだ」
多輝は励ますように由梨佳の肩を叩いた。ハンカチをスカートのポケットから出す。差し出すと由梨佳が小さな声で礼を言いながらそれを受け取った。
「おれ……どこに行けばいいんだろ」
涙を拭く由梨佳をぼんやりと見ながら多輝はそう呟いた。かつて多輝に用意された部屋はある。だがそこに戻ったからといって何をすべきなのかはさっぱり判らない。そもそも多輝はヒューマノイドなのだ。メンテナンスもなしで機体が維持できるかどうかも判らない。
「マンションに戻ればいいのよ。ちゃんと使い魔が付けられているわ。あなたは立城さんに見捨てられたわけじゃないわ」
今度は由梨佳が励ますように告げる。だが多輝は力なく首を振った。立城が使い魔を寄越したことなど、今まで一度もない。唯一、信頼できそうな蒼は今はどこにもいない。やっぱり一人なんだ。そう思いながら多輝はそっと笑った。
「そんな訳ないじゃん。立城がそんな真似する筈ないし」
そう告げて多輝はふらりとまた歩き出した。慌てたように由梨佳が後ろから追いかけてくる。
「ヒューマノイドのあなたにはメンテナンスが必要よ。メンテナンス要員の使い魔を用意すると、立城さんは仰っていたから」
だからわたしは本当に必要ないの。悲しそうな呟きを多輝は敏感に聞き取った。振り返ってため息をつく。由梨佳の手を強引に握り締め、多輝は歩き出した。焦った声を上げて由梨佳が後をついて歩く。
「じゃあ、みせてやるよ」
多輝は由梨佳を連れてマンションに戻った。多輝が予想していた通り、その部屋には全く人気がなかった。ほこりをかぶった家具が幾つかあるだけだ。辛うじて水道や電気は止められていないらしい。その様子を見た由梨佳が言葉をなくす。
「な? 使い魔なんていないだろ? それよりさ」
多輝はドアにもたれたまま、部屋の中央に立ち尽くす由梨佳に声をかけた。のろのろと由梨佳が振り返る。
「由梨佳先生こそどうすんだよ。旦那さんのとこには戻れないんだろ?」
「わたしは自分の研究室があるから。そこで当分生活するつもりよ」
弱々しく由梨佳が告げる。そっか、と多輝は苦笑した。じゃ、おれはお払い箱かな。何の気なしにそう呟く。すると由梨佳が驚いたように目を見張った。困惑したように視線を彷徨わせる。怪訝に思いながら多輝はどうした、と声をかけた。だが由梨佳は口を割ろうとしない。
「だってそうだろ? 由梨佳先生はおれが要らないってことじゃねえの?」
そして自分は立城に、そして由梨佳にも必要とされないのだ。その意味をこめて多輝は苦しい胸を押さえてそう告げた。
「ちがうの! わたしはあなたの傍に居てはいけないの。あなたはまだ、立城さんに捨てられたわけじゃないわ!」
叫ぶようにして言ってから由梨佳は慌ただしく部屋を駆け出そうとした。すれ違いざまに多輝は由梨佳の身体を強引に止めた。腕に肩をぶつけるようにして足を止めた由梨佳が驚いたように多輝を見上げる。
「……何か妙なこと立城に言われたな?」
力なく抵抗する由梨佳の肩を強く引き寄せる。正面から目を覗き込むと由梨佳が観念したように息をついた。
「あなたの優しさに、甘えたわたしがいけないの。あなたの教育が延期されたのは、わたしのせいなの」
悲しそうに告げて、由梨佳は話し始めた。立城は由梨佳が多輝を誘惑したために計画が遅延したと言ったらしい。契約破棄の本当の理由はそこにあるのだ、と由梨佳は告げた。それまで悲しみだけが満ちていた心に別の何かが込み上げてくる。その正体が怒りだとはっきり自覚する前に多輝は怒鳴っていた。
「違うだろ! おれが由梨佳先生を抱きたいと思ったんだ!」
びくりと由梨佳が身体を震わせる。ごめん、と慌てて詫びてから多輝は改めて由梨佳の目を見つめた。由梨佳が悲しそうに微笑む。
「多輝くん、ありがとう。そしてさようなら」
囁くように告げて由梨佳は多輝の手を振り解いた。その場を駆け出した由梨佳を慌てて多輝は引きとめようと手を伸ばした。その瞬間、由梨佳がその場に崩れ落ちる。
「ああっ!」
小さな悲鳴を上げた由梨佳の腰がぎこちなく揺れる。それを見た多輝は何度か瞬きをした。そしてああ、と納得する。自分だけではない。由梨佳にも相当のストレスがかかっていたのだ。
腕を伸ばして由梨佳を引き起こす。由梨佳は駄目よ、と首を振りつつも抵抗らしい抵抗はしない。
「どうして、どうしてなの……」
心底、悲しげな呟きが由梨佳の唇から漏れる。多輝は目を閉じて由梨佳を抱きしめた。ヒューマノイドの業はヒューマノイドでなければ理解できない。そしてたとえ理解できたとしても、そのジレンマは恐らく永遠に解消されないのだ。
「由梨佳先生……。おれのこと、嫌いか?」
囁くように告げて多輝は由梨佳の首筋に唇で触れた。腕に抱えた由梨佳は首を横に振っている。だが抵抗する力は余りにも弱い。
「だめ……よ! 監視、されてるわ……だめ! あなたまで立城さんに……ああっ!」
唇を滑らせて襟元に口づける。多輝は口許に微かに笑みを刻んで由梨佳の胸元をそっと指でなぞった。嫌がるように首を振る由梨佳を両腕にしっかりと抱きしめる。
「構うもんか。どうせおれは立城に捨てられたんだ」
開いたブラウスの隙間に唇をつける。由梨佳は泣きそうな顔で多輝の頭を押さえようとした。だが力が入らないためか、指が多輝の髪の間を滑って落ちる。
「ちがっ、あっ、だめ……多輝くん!」
由梨佳が仰け反って声を上げる。多輝は由梨佳を壁に押しつけて強引に唇を寄せた。嫌がる由梨佳に有無を言わせず口づける。やがて由梨佳は抵抗するのを止めた。マンションの部屋に小さな喘ぎが響き始める。二人は誰もいないその部屋で抱き合っていた。
この先がエロシーンなんだと思うのですが、書いてませんごめんなさい。