エロシーンはありません。
幌のついたトラックの荷台には数人の青年が乗っていた。水輝は荷台の隅で邪魔にならないよう、小さくなって座っていた。抱くようにして一本の刀を携える水輝には彼らは話し掛けてこない。ただ一人、隣に座る少年だけが呑気に声をかけてくる。
「まず周辺を囲むんですが、その際に用いられるのがその弾薬でして」
少年は榊にだけではなく、周囲の者たちにもカツと呼ばれていた。正確には克人というらしい。ふうん、と水輝は克人に頷いた。荷台にいる青年たちが手にしている銃はそのためのものらしい。
克人の告げた弾薬というのが荷台に箱詰めになって積まれている。木箱の表面には何かの文字を消したあとがある。どうやら普通の方法で群れに入ってきたものではないようだ。水輝はちらりと木箱に目をやってから克人を見た。神経質そうに眼鏡を押し上げて克人が唇を舐める。
「でも通常の兵器が役に立つとは思えないけど?」
相手はたとえ力が弱くても龍神だ。人間の開発した武器が通用するとは思い難い。だがそう言った水輝に克人がにんまりと笑う。水輝がそう言い返してくることを最初から見込んでいたようだ。
「だからこその弾薬ですよ。特殊な薬品が用いられてるって言ったでしょ?」
トラックのエンジン音が二人の会話をかき消しているのか、荷台に座る青年たちは水輝たちに見向きもしない。銃を大事に抱えてそれぞれが思惑ありげな視線を互いに交わしている。ふうん、と水輝は気のない返事をしながら足を組み替えた。
「東では既に使われてるって話ですよ? ああ、沙耶さんはまだ知らないですよね」
したり顔になって克人が木箱を指差す。水輝は感慨のない目で指先を追った。意識を懲らせば箱の内容が見えるだろう。だがここで力を使えば幾ら彼らでも気付かれる。水輝は黙って克人に頷いてみせた。
「ええとですね。うちのコロニーの長は榊さんなんですけど……榊さんは定期的に関東に行ってるんです。各地のコロニーから集まった長が順様に……えっと、つまり」
そこまで言って克人は困ったように頭をかいた。何も知らない水輝にどう言えば判りやすいかを模索しているのだろう。水輝は苦笑して克人の変わりに言葉を繋げた。
「つまりあれだろ? コンビニの店長が定期的に集まってコンビニを経営する社長に会う、と。ま、あれだよな。支社長が本社社長に会うと言うか」
「そうそう! その通りです!」
そう言って克人が嬉しそうに頷く。そうした反応だけを見ているなら、克人はどこにでもいそうなただの子供だ。年頃は十代前半といったところか。だが榊は何故かこの少年に全面的な信頼を置いているらしい。榊だけではない。コロニーと呼ばれる榊の率いる群れの者たちはこの少年を重視している。それは恐らく、少年が類稀な知識を持っているからだ。
無論、それだけじゃないだろうがな。水輝は内心で呟いてから克人を促した。ああ、と改めて克人が続ける。
「この間の集会の際に各コロニーの長たちは順様からこの弾薬を受け取りました。既に実験済みだということで、データも貰ってきたんですが」
告げて克人は膝の上に乗せていた端末を開いた。無線でどこかしらに繋がっているらしいそれを立ち上げる。ここです、と示されて水輝は遠慮なく端末の画面を覗いた。そこにはとある表が映し出されている。水輝はざっと目を通して思わず口笛を吹いた。
水龍に翼龍。へえ。火龍もか。水輝は声に出さずにそう呟いた。表にはそれらの龍神を狩った際のデータが載せられているのだ。
「どうやらこの弾薬は龍神の動きを一時的に止める効果があるようです。……まあ、ボクは弾薬に使われてる薬品についてまでは詳しく知らないですけど」
克人はどことなく悔しそうだ。もしかしたら榊のコロニーにおいて克人は頭脳労働を専門にこなしているのではないか。そうでなければ他の青年たちに比べて頼りない体格をした克人がここにいる理由にならない。考え事をしていたために水輝の返事がそぞろになる。すると克人が頬を膨らませて水輝を指差した。
「もうっ。本当に判ってます? その弾薬が撃ち込まれた後ですよ。沙耶さんが動くのはっ」
「あ、ああ。判ってるって。それまで手出しは無用ってことだろ?」
克人が言う前に水輝はそう言って手を上げた。突きつけられた克人の手をやんわりと退ける。胸を張った克人がその通りです、と鷹揚に頷いた。
トラックは数時間走り続けた。途中、何度か停まってはいたが燃料の補給と、青年たちが手洗いに立つ程度で他には何の変化もない。一度、水輝は幌から顔を外に出してはみたが、山間の深い闇に覆われていて周辺の様子はよく判らなかった。意識を凝らしても人工の明かりが見えない。どうやらトラックは人の目を避けるようにしてどんどんと山奥へと向かっているらしい。
くねった山道を行くトラックの荷台で克人は淡々とコロニーについて語った。どうやら榊が率いるコロニーはまだ新しいらしい。どこかのコロニーのハンターの数が増えすぎたために派生したのだと克人は告げた。
「ボクはその時にコロニーに配属になりました。気付いてると思いますが、ボクは情報収集が専門なんです」
新しいといっても人のそれとハンターのそれでは意味が違ってくる。少なくとも十年は維持されているコロニーなのだろう。それを思ってからなるほど、と水輝は内心で呟いた。この目の前にいる克人は見たままの年齢ではないのだ。そのことを改めて理解する。
「他のことはてんで駄目なんですけどね」
言いながら克人が苦笑する。水輝はふうん、と声を返してから無造作に手を伸ばした。慌てたように首を竦めた克人の頭を乱暴に撫でる。痛いなあ、もう。と不服を漏らしたが克人はさほど嫌そうな顔はしていない。
「別にいんじゃないか? 突出した能力の方が使いやすいしな」
そう告げて水輝はおもむろに腰を上げた。その直後にトラックがスピードを落とす。え、と戸惑った克人に水輝は笑みを向けた。トラックがゆっくりと停止する。
「さあて、お仕事お仕事。おれはとりあえず後方に控えてればいんだろ?」
水輝は言うが早いかトラックの荷台から飛び降りた。暗い夜空からは雪が降り続いている。真っ白な雪の上に着地した水輝は肩越しに振り返った。非常用のライトが次々に幌の中に灯る。生成りの幌の中に灯ったそれは、まるで蛍のように見えた。
自分用エピタイです!