※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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天然ぼけもここまでくるといっそ清々しいとか思ってますw
エロシーンはありません。


魔胞子とかマホ牛とかじゃない 1

「だから何度も言ってるだろうが! あんたもわっかんない女だな!」

 

 怒鳴りつけるようにして言ってからその青年は頭をかきむしった。何でそんなに怒られるのだろう。不思議に思いながら奈月は首を傾げてみせた。

 

「判んないのか!? ほんっとーに判んないのか!?」

 

 突如として部屋に現れたその青年は、呑気に出かけようとした奈月の前に立ちはだかり、部屋から出てはいけないと言った。だが奈月にしてみれば、何故そんなに止められるのかが判らない。何しろ逢坂は朝まで戻らなければ逃げろと言ったのだ。

 

「わかりません」

 

 青年の余りの勢いに半泣きになりながら奈月はそう告げた。すると唐突に青年が怒鳴るのをやめる。ああ、悪い。小声でそう詫びてから青年はどっかりとその場に腰を下ろした。

 

 金髪に翠色の瞳をした青年の容姿から、最初奈月は英語でなければ言葉が通じないのかと思った。だが意外にも青年の口から聞こえたのは日本語だった。そのことに安心する間もなく、奈月は唐突に怒鳴りつけられたのだ。

 

「えーと、つまりだな。ここが結界に包まれてるのは……判るよな?」

「はい」

 

 青年に合わせて畳の上に正座して奈月は頷いた。青年は疲れたように笑いながら畳に指で線を描いてみせた。翠色の光の線が指に合わせて描かれていく。

 

「これがこのアパートな。で、結界はこういう具合に張られてるんだが」

 

 四角く描かれた翠の線の周りを更に翠の線が取り囲む。はい、と奈月は神妙な顔で頷いた。青年がうん、と頷いてそのアパートらしきものを囲んだ線……円で描かれたその線の脇に指を置いた。

 

「ここにちょっとまずいのがいるんだ。で、あんたが結界から出るとそいつにあんたのことがばれるって訳。了解?」

 

 奈月はじっと畳に描かれた線を見下ろした。畳に線など書いてしまったら大家さんに怒られてしまうのではないか。奈月は全く関係ないことを気にしていた。返事のない奈月を訝ったのか、青年がおい、と声をかける。奈月は慌てて目を上げてにっこりと笑って頷いた。

 

「その方はわたしに用があるのでしょうか?」

「用があるっていうか、そいつ、あんたを探してるらしいんだが」

 

 そう言ってから青年が畳を軽く手で撫でる。すると描かれていた線は綺麗に消え去った。

 

「わたしを?」

 

 驚きに目を見張った奈月を呆れたように青年が見つめる。が、次いで青年はしみじみとため息をついた。長く三つ編みにされた金髪を背中に追い払う。

 

「ほんっとにあの狸オヤジは」

 

 そう告げて青年は腰を上げた。仕方ないなあ、と呟いて奈月を見下ろす。奈月は不思議な気分で青年を見上げた。この青年が現れると同時にあの宝玉は消えてしまった。なのにこの青年からは宝玉と同じ力を感じる。

 

「あんた、青龍神の女だろ?」

「あの……わたしは確かに水輝さんのものですけど、人間ではありませんから」

 

 その言い方は少し違うのではないか。奈月は思ったままを口にした。すると青年がああ、と笑って手を叩く。

 

「そっか。確かにそうだな。俺もあの狸のものかって訊かれたら気色悪いしな」

 

 間違ってはないんだが。青年は呻くようにそう付け足した。そこで奈月はようやく理解した。この青年は誰かのものなのだ。だがその誰かというのが誰か判らない。奈月は困惑しつつも青年の言った通りにしばしその場に大人しく座っていた。

 

「えー、と。あんたはつまり青龍神の力を受け入れることが出来るんだよな? と、これでいいか?」

「あの、えっと……はい」

 

 そう答えて奈月は頬を染めた。すると青年が慌てたように手を振る。違う、そういう意味じゃなくて。ひとしきり喚いた後、青年はぐったりと肩を落とした。

 

「何で俺がこんな苦労をせにゃならんのだ。要するに! 青龍神の力を身体に入れてもなんともないよな!? ……それとも他の力のほうがいいのか?」

 

 伺うように青年が付け足した言葉にぴくりと奈月は眉を上げた。水輝以外の力を甘んじて受け入れるなどと考えたことはない。

 

「わたしは水輝さんのものです。それ以外の何物でもありません」

 

 きっぱりと言ってから奈月は青年を見上げた。青年が深々とため息をついてそうだろうな、と呟く。

 

「論点が激しくずれてる感じがするが、まあいい。ちょっとそこでじっとしてろよ」

 

 そう言ってから青年が何かを呟いた。何だろう、と奈月は耳を澄ませた。だがはっきりと言葉が聞き取れない。そうしているうちに青年の合わせた手の中に煌きのように力が生まれる。それを見止めた奈月は驚愕に目を見張った。青年がどこかから導いたその力は、紛れもなく水輝のそれだったのだ。

 

「目を閉じて力を抜け。……って、睨むなよ!」

「あなたは、いったい!?」

 

 声を荒らげて奈月はその場に立ち上がった。目の前の青年は断じて水輝ではない。なのに導かれたそれは間違いなく水輝の力だ。目を吊り上げる奈月に圧されたように青年は一歩だけ後ろに下がった。

 

「だから! いいからそこに座れ!」

「ですから! どうして水輝さんの力を、あなたが!?」

「魔法士だからだよ! あー、もう、気が散ったじゃねえか!」

 

 青年が怒鳴ったと同時に生まれていた力が霧散する。あああ、と力なく呻いて青年はぎらりと奈月を睨みつけた。だが奈月も負けてはいなかった。まほうし、というのが何を指すのかは判らないが、青年が水輝の力をここに導いたのは間違いない。

 

「水輝さんはあなたのことをご存知なんですか!?」

「知ってるに決まってるだろ! 嫌だけど!」

 

 奈月の怒りのこもった声に青年が即座に怒鳴り返してくる。奈月は青年の告げた嫌だけど、という言葉に敏感に反応した。

 

 静かな笑みを浮かべて奈月は真っ直ぐに青年を見た。

 

「まさか、あなたは水輝さんの敵、ですか?」

「……お、おい。ちょっと待て! 何でそういう話になるんだ!?」

 

 慌てたように青年が首を横に振る。奈月は静かに一歩、前に出た。青年がそれに合わせるようにして一歩、後退する。




キャラが増えました。
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