エロシーンはありません。
ああ! BL警報忘れてました!!!
すみませんすみません!!
あの日の朝に倒れてからずっと、順は自室に伏せっている。見舞い客らしい男性を横目に見送ってから火藍はため息をついた。見張り役を買って出たのは間違いだったかも知れない。順から借りた部屋では今ごろ水輝が膨れている筈だ。深々と息をついてから火藍はちらりと廊下の向こうに目をやった。
寝込んでいるんじゃないのか、貴様は。何度、順にそう怒鳴っただろう。だが何度火藍が叱り付けても順はのらりくらりとはぐらかすばかりで、一向に態度を改めようとはしない。苛々とこめかみを指で叩きながら火藍はつい無意識に廊下の向こうから来たメイドを睨みつけてしまった。驚いたようにメイドが頭を下げる。火藍は慌ててメイドに詫びた。
ドアの中から笑い声が聞こえてくる。どうやら今日は順の体調もいいらしい。ほっと胸をなで下ろしながら火藍は壁に寄りかかった。静かに目を閉じていると寝ていると勘違いする者もあるらしい。こうしていると時折、もしもしと声をかけられる。だが大抵は火藍が先に目を開けて相手に会釈する。すると通りかかった使用人などはそれで火藍が起きていると納得するようだ。
腕組みをして火藍は目を閉じた。ドアの中に意識を飛ばす。だが特に変わった様子はない。穏やかに商談を続けているようだ。傍にメイドもついているし、今日は順も妙な気は起こさないだろう。そう思いかけて火藍は顔をしかめた。今日の商談相手は男だ。これまで幾ら順が寝所に不特定多数の女性を引っ張りこんだとは言っても、男相手にそんな真似をする筈がない。何を心配しているのだろう、わたしは。呆れた気分で火藍はそう呟いた。
不意にドアの内側が静かになる。それまで少しだが聞こえていた人の声が急に途絶え、辺りはしんと静まり返った。火藍は訝りに目を開けて周辺の様子を伺った。そしてドアを見る。
もしかして何かあったのか。火藍は息を潜めて刀を握った。紅い糸の巻かれた柄を握り締め、じっと息を殺す。静かにドアノブを捻って火藍は一気に部屋の中に身を躍らせた。
一気に男に迫ろうとした火藍はそこで硬直した。商談に来た筈の男が何故かベッドの上で半裸になっている。メイドまでベッドに上っているのはどういう訳だ。しかも何故か順が男を後ろから抱えている。
「あっれー? どったの? 火藍ちゃん。もしかして仲間に」
「この、大馬鹿者!」
火藍は声高に一喝して大股でベッドに近づいた。順に抱かれて喘いでいた男の襟首を捕まえる。強引に後ろに投げ飛ばすと男のペニスを口に咥えていたメイドが悲鳴を上げてその場に横倒しになった。
「貴様は怪我人だろうが! 大人しくしていろと何度言えば判る!?」
声を張りながら火藍はメイドを片手に抱えてベッドから下ろした。最後にベッドに残った順に鞘に入ったままの刀を突きつける。
「それともいっそのこと、ここで刀の錆にしてやろうか!?」
「いや、まあ、それは遠慮願いたい……うはー。そこで出さないでよー」
途中から順は情けない声を火藍ではなく床に向けた。ぎらりと火藍は順の視線を追ってそれを睨みつけた。床にだらしなく転がった男が荒く息をつきながら腰をひくつかせている。どうやら射精してしまったらしい。火藍は頬をぴくりとひきつらせて順に向き直った。
「ちょっと面白そうな薬、売り込みにきたからさあ。じゃあ、試してみよっかってことになって」
悪びれるでもなく順がだらしない笑みを浮かべてそう告げる。火藍は強く奥歯を噛みしめた。殴りたい衝動に駆られるが、相手はマスターだ。手を上げることが出来ない。
「あれー? 殴らないのぉ? つまんないなあ」
にやにやと笑いながら順が下から火藍の顔を覗き込む。自然と俯きかけていた火藍はぎり、と歯を食いしばって刀を眼前に突き出した。鞘と柄に手をかけて刀を抜く。だが完全に抜き切る前に順がのんびりとした声を上げた。
「はいはい、そこでストップ。駄目だよぉ、こんなとこで抜刀しちゃ。カノジョが怖がるじゃないの」
「き、貴様という奴は!」
彼女、と順が言ったのはメイドのことだ。だが当のメイドは何食わぬ顔で服の乱れを整えると、さっさとベッドの乱れを直しにかかっている。とても火藍を気にしている風ではない。が、確かにこんな場所で抜刀するなど非常識極まりない。しかも敵の影はどこにもないのだ。
火藍は抜きかけていた刀を静かに鞘に戻した。うんうん、と順が満足そうに笑う。そんな順に舌打ちを返してから火藍は肩越しに男を指差した。
「あれはどうする気だ。放置しておく訳にもいくまい?」
「んー。数時間もすれば抜けると思うんだけどねえ。気絶でもさせて別の部屋に放り込んでおく?」
言いながら順はパジャマのボタンを留め始めた。ポケットから何かを取り出して火藍に放る。火藍は片手で受け止めて手を開いた。硬い感触のそれはピルケースだった。どうやら男が服用した薬品が入っているらしい。火藍はため息をついてケースをポケットにしまいこんだ。
床に転がって一人で喘いでいる男に近づく。火藍は無造作に男のシャツをつかんだ。素早く引き寄せて当身を食らわせる。男はあっけなくその場に昏倒した。ずるり、と脱力した男を片腕に抱え、火藍はちらりと順を見返った。メイドに整えてもらったベッドに入った順が笑みを浮かべて手を振っている。要するに始末はよろしく、という意味だろう。火藍は深々とため息をついて男を抱えて部屋を出た。
割といいコンビだと思ってます。