※この作品はR-18です。

魂の座 二部 緋色の遺言   作:伊駒辰葉

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別行動している水輝のシーンです。
エロシーンはありません。


湯飲み茶碗と宝珠 1

 龍神を無事に狩ってトラックはコロニーに戻った。どうやら先に情報が入っていたのだろう。水輝はトラックを降りると同時に群れの者たちにもみくちゃにされた。どの顔もとても喜んでいる。水輝はだが味気ないほどに淡々と挨拶だけをしてコロニーの端、誰も来ない場所に向かった。

 

 人気のない倉庫にはダンボールや木箱が乱雑に詰まれている。水輝は入り口をくぐって倉庫の中で腰を屈めた。木で出来た床に座り込んでため息をつく。さすがに力を使わずに相手を仕留めるのには体力がいる。だがここ最近の水輝はろくに眠っておらず、体力そのものが落ちているのだ。

 

 器そのものの力はどの龍神もそれほど大きくない。本体である龍に戻れば別だが、人の形をしている間はそれなりに体力も制限される。水輝は重い腕を上げて刀を足の間に抱え込んだ。ポケットから煙草を取り出して唇に挟む。そこで水輝はふと目を上げた。どうやらここに入ってる荷物の中には弾薬があるらしい。禁煙、と赤く大きな文字が倉庫のあちこちに張られている。やれやれと息をついて水輝は煙草をポケットに戻した。

 

 もう一週間、ちゃんと飯食ってないもんなあ。水輝はそう呟いて壁に頭を預けた。のろのろとジーンズのポケットを探る。出て来たのは一個のキャンディーだった。包みをむいて口の中に放り込む。

 

 このコロニーに来てから、水輝は人並みには食事を与えられている。が、水輝が標準的に食べる量は人のそれとは激しい差がある。だが新参者である自分が食料を大量に要求すれば、さすがにここの者たちは訝るだろう。

 

「うわー……すげえ腹減ってきた……」

 

 空腹時に思い出すのは奈月の作ってくれた料理の数々だ。思わず空腹感に負けて奈月を呼んでしまいそうになる。だが水輝は頭を強く振って自分の思考を遮った。少なくとも今の奈月は安全な場所にいる。おまけに最強のボディガードまでくっついているのだ。あの場所から外に出す理由がない。

 

 このコロニーには当分、居続けることになる。何故ならまだ付近に龍神の気配がしているからだ。今度のことで狩りの段取りを上の者は考えるだろう。そして前回の反省点を生かして再び狩りが行われる。その際に目指す龍神に当たれば言うことはない。だが、その次回の狩りがいつ行われるのかがまったく判らないのだ。

 

 疲れたため息をついて水輝は膝を抱えた。あごを腕に乗せてぼんやりと倉庫の中を見回す。あらゆる荷物には同じ札がつけられている。木村総研の文字を読み取って水輝は薄く笑った。転んでもやっぱりただじゃ起きないか。そう呟いてみる。

 

「誰が転んだんですか?」

 

 ドアを開けて入ってきた克人が無邪気に笑いながら告げる。水輝はのろのろと手を上げて返事をした。

 

「んー? おれ、かなあ」

「え? 沙耶さんは別に転んだりしてないですよね?」

 

 少年らしいあどけない目がくるくると表情を変える。驚いたように目を見張った克人に水輝は力なく笑いだけを返した。

 

「それより、沙耶さんは行かないんですか? みんなもう分け始めちゃってますよ?」

 

 何を、と克人は言わなかった。だが水輝にはそれで克人が示したものが何かを理解した。龍宝珠。ハンターの主食だ。が、宝珠は普通の食材のように包丁で切り分けられるものではない。水輝は不思議に思って克人にどうやって分けるのかを訊ねた。

 

「あ、そっか。沙耶さんは初めてコロニーに来たんでしたっけ? ええとですね。狩った宝珠はまずコロニーの長の許に集められます。それで長がこう……順様から与えられた特殊な道具で宝珠を刻むんです」

 

 言いながら克人が指を揃えた手を軽く下げる。水輝はへえ、と呟いて克人に手招きをした。初めて聞く話に興味を覚えたのだ。克人は嬉しそうに笑ってちょこんと水輝の横に腰を下ろした。

 

「その道具は長しか使えませんし、他の誰も見ることは許されていません。でも、ボクが思うにカッターみたいなものじゃないかと」

「カッター? って、カッターナイフか? んな、やわなもんで切れるか?」

 

 笑いながら水輝はそう返した。克人も話をすることが楽しいのだろう。えー、と子供らしい声を返してくる。

 

「だって順様から授かったものですし、切れるんですよ、きっと!」

「そりゃ、お前、カッターってのを前提にしてるだろ? わかんないんだろ? 実際は」

「ふふふ」

 

 水輝の笑いに克人が含み笑いする。勝ち誇ったような笑い方に水輝は横目に克人を見た。なるほど、克人は実は答えを知っているのだ。もったいぶらずにいえよ、と水輝は克人を軽く肘で小突いた。

 

「ボク、実は見ちゃったんです。……内緒ですよ?」

「内緒ね、了解」

 

 軽い気持ちで水輝は頷いた。たとえ道具が何にせよ、さほど驚くことはない。何しろ開発したのがあの順なのだ。当然、使えるものは何でも使うだろう。宝珠を加工して宝珠を切る道具にしたと言われても、大して驚きはしない。

 

「糸です」

 

 指を立てて声を潜め、克人がそう告げる。言われた意味が一瞬判らず、水輝の反応は遅れた。だがすぐに正気に戻る。

 

「糸? 糸ってあの木綿糸とかの?」

「そう、その糸です。真っ白な糸で……ええと、ほら。ゆで卵を綺麗に切る時とかに使いません? 糸で切ると綺麗に輪切りにできるでしょ?」

 

 言われて水輝は天井を向いた。脳裏にいつか見た光景が蘇る。確かに克人が言った通り、いつだったか奈月が糸を片手に卵を切っていたことがある。珍しくて何度か同じ事をしてくれと頼んだら、奈月は困ったように笑いつつも卵を切って見せてくれた。

 

「なるほど、そうか。白い糸……」

「ええ、きらきらしてたから、もしかしたら真っ白というのとは少し違うかも知れないですけど」

 

 どこからかっさらったのかな。水輝は内心でそう呟いた。恐らく克人が言った糸というのは宝珠が形を変じたものだ。順は確かに効率的に宝珠を切り分けるという術を見出していたのだろう。




大抵は飯を作ってくれる女の子のとこにしけこんでるのでw
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