その頃・・・留守番をさせられていた暁人の恋人・藤原綾乃は言いつけを破り、無断でセックスバトルの会場に向かおうとしていた・・・。
藤原綾乃はたった一人で歓楽街の最深部、しかもSMクラブ「J-POP」の前で一人佇み、どうしたものかと困り果てていた。
「私だってチーム「MRO」の一員なんだから・・・」
自分が連れて行ってもらえないと知り、勢いで秋月家を飛び出したものの、制服姿で来てしまった綾乃は夜の帳が下りた歓楽街では異常に目立ってしまう事を思い知らされていた。制服系の風俗嬢と間違われては何人もの酔客から声を掛けられていた。ただでさえ耳目を浴びる美少女が歓楽街の最深部にポツンと居るのだ。思慮のある大人から見れば、好色で邪な狼たちの餌食になるのは目に見えている。だが奥手の綾乃は、まだ自分の置かれた危うさすら気が付いていない。
(この格好では「J-POP」に入る事すらできやしない。ましてや会員制のクラブだったなんて・・・)
「J-POP」の店先で逡巡していると、入り口から出てきた一人の男性から声を掛けられる。黒服を着た受付担当の従業員のようだ。
「あのさ・・・せめて制服じゃない格好で来てくれるかな。そんな恰好で店先をうろつかれると、当局から目を付けられるんだよね。特に今日はマスターから法定順守を厳しく言われてるから」
綾乃の困り顔を察したのか、その人のよさそうな黒服は、一つの提案を持ちかける。
「そうだ・・・ここの制服を一つ貸してあげるから、それを着てみたら?アルバイト見習いってことでさ。そうしたら、タダで店に入れるぜ?・・・いや、あんたなら今日からでも稼げると思うよ。インターンシップ・・・今から受けてみない?」
一瞬、綾乃はその甘言を真に受けそうになる。しかし、綾乃の身体を下から上まで嘗め回すように見る黒服の視線に気が付き、思わず身をすくめてしまう。
(あの時の満司のよう・・・)
その視線の意味を悟り、綾乃は逃げるようにその場を後にしていた。
「けつ・・・お高くとまりやがって!」
本性を現した黒服の罵声が綾乃の後ろから浴びせられる。無我夢中で駆け出し、いつの間にか店の裏手に出ていた。そこで、聖満とばったりと出会った。
「だから、今日はダメなんだって。支配人にお前さんだけは絶対に入れないようにきつく言われているだよ」
従業員口と書かれた狭い入口から、一人の少年がやくざ風の男らにつまみ出されている。どうやって来たのか聖満だった。
「何でだよ。いつもなら・・・」
そう言って強引に入ろうとする聖満を、一人の男が掴んでいきなり殴りつける。
「下手に出てりゃつけあがりやがって、失せろ坊主!」
聖満は殴られた方の頬を手で押さえながら、恨みがましい目を男どもに向ける。が、やがて諦めたように立ち上がるとトボトボと入り口から離れて行ってしまう。
「へっ・・・気持ちの悪いガキだぜ。アレでいっぱしに親父とSMショーに出てるんだからな・・・」
吐き捨てるようにそう言うと、従業員口をぴしゃりとドアを閉めてしまった。先日の事もあり、綾乃は聖満に声をかけるかどうか迷う。
(子供をこんな場所に一人にしてはおけない・・・)
結局、綾乃は自分の事を棚に上げて、聖満の後を追っていた。
「聖満君・・・大丈夫?」
ようやく追いついて綾乃がそう声をかけると、聖満が驚いたように振り返る。意外にも振り返った聖満の目には涙が浮かんでいる。
聖満の幼い人生はこんなことの繰り返しだった。児童養護施設と満司の間を行ったり来たりしながら、まともに小学校に行ったのは必要登校日の半分ぐらいでしかない。満司は女を変えるたびに場所を移動しており、転校することが多かった。行けば当たり前のようにいじめにあった。もともとゲームばかりしてコミュ力不足の上に、人を見下したような内向的な性格・・・好かれるはずもなかった。養護施設では児童を親身になって世話をしてくれるような所員に巡り合うようなこともなかった。何より「母親から見捨てられた」と自分自身で感じていた。それは母親への憎悪となり、同時に母親のような女への深い渇望をもたらしていった。父親である満司からは親の愛情などを示されたことは一度もなかった。
小学校高学年になり、いっぱしの思春期を迎えるまでは、ほとんど養護施設に預けられていた。だが、調教する女を責める道具として聖満が使えることを知った途端、満司の態度が変わっていった。特に唯子のような女を安心させるとき「幼子連れ」であることは絶大な効果を発揮した。子供に対する警戒心の低さを利用して女に近づき、母性本能を刺激しながら背徳感を極限まで高めていく。こうして満司は「子連れの調教師」としてその悪名を轟かせていった。今や聖満は満司にとって無くてはならないアイテムだったのだ。
聖満は自分が満司にとって都合よく利用されている道具に過ぎない事を十分に理解していた。そこには親の愛など微塵もなかった。だが、人間を破滅させていくことの楽しさ・・・淫欲におぼれ夫や子供を裏切っていく「牝」を作り出すことの快感・・・満司と言う男と共に経験する不道徳で爛れた生活は、現実離れしたゾクゾクするものだった。そして、気がつけば聖満は、いつの間にか父・満司を調教師として尊敬し、その邪な考え方と行いを当たり前のように吸収していった。こうして聖満は道徳心も倫理観もない、女を牝豚としか見なせない、モンスターに育っていた。
だが、満司にとって、聖満は他の牝豚奴隷と同じだった。人間の魂からの解放の具現化・・・道徳心も倫理観も良心もない人間の製造・・・究極の「作品」だったのだ。
しかし、秋月一家の一連の行動は聖満の魂すら揺るがし、大きな揺さぶりをかけていた。眠っていた聖満の心を呼び起こし、冷めきっていたと思っていた感情がもたげ始めている。殴られた時の痛みが、今まで犯してきた女の悲鳴と重なる。堕され牝豚に変えられる直前に浮かべる女たちの悲痛な表情が、ずきずきとした痛みと重なる。そして、唯子と暁人との経験・・・痛みを乗り越え、牝豚が人間に戻っていく経験に・・・不思議な感動を覚えていた。
「聖満君・・・大丈夫?」
優し気な声でそう聴かれた途端、こらえていた涙が溢れてきてしまっていた。思わず綾乃に抱きついていた。同時に、雌の発する臭いも嗅ぎつけてしまっていた。
(この女を守りたい)(この女を犯したい)
相反する感情が沸き上がる。一物が大きくなり、抑えきれない淫欲が高まっていく。唯子と同じ香りをもっと嗅いでいたかった。
「抱きつかないでって・・・」
そう言われれば言われるほど、きつく抱きしめてしまう。
「もう・・・しょうがないんだから・・・」
そう言いながら綾乃が頭をなで始める。いつものパターン。いつものやり口。母性を刺激しながら、牝豚に堕としていく。こうやっていろいろな女を堕とす手伝いをしてきた。思わずニヤケ笑いがこぼれる。
女なんてみんな同じだ。
「あっ・・ダメ・・・そんなところ触らないで」
尻を撫で上げながら、制服のスカートに手を忍ばせていく。股間を撫で上げた途端、ハッと息をのむような呼吸の乱れを感じる。綾乃の秘部は知り尽くしていた・・・洋魔子から教えられた弱点・・・クリトリスと会陰とアヌスの三点責め・・・。綾乃の抵抗する力がやがて弱まっていく。
(やっぱり女なんてこんなもの。ただの牝だ・・・)
幼い顔に、まるで中年のようなシニカルな冷笑が浮かびあがる。だが、次の瞬間・・・
「じっとそのまま・・顔を上げないで、合図したら一目散に逃げる事・・・」
綾乃が緊張した声音でそう囁く。
「おい・・・中坊と女子高生でこんなところでいちゃつくなんて怪しからんな」
「そこの姉ちゃんはさっきからウロウロと男誘っているらしいじゃねえか」
「制服はどうせ本物じゃねえんだろ」
「シマを無断で荒らされると困るんだよな姉ちゃんよ」
複数のチンピラに囲まれていた。路地から入ったSMクラブの裏手・・・人気は全くない。
「私は別に・・・娼婦じゃありません」
「へ・・・じゃあ子供相手にここで何やってんだよ?その中坊とスケベなことしてたよな」
チンピラがじりじりと囲みの間合いを詰めてくる。
「この子が可哀そうだったから・・・殴られて、心を傷つけられて」
そう言ったものの、ここにいる男どもに通じる訳もない。
「あっ・・・お母さん・・・お迎えですか?」
綾乃がそう言ってチンピラ達の後ろに視線を送る。釣られて何人かのチンピラが後ろを振り返る。
「今よ!」
綾乃がそう言って、聖満を路地の反対側に押し出す。聖満がダッと逃げ出し、チンピラたちと反対の方向に駆け出していく。
「早く!警察を呼んできて!」
だが、途中で聖満の足が止まってしまう。
「えっ?」
「守りたい・・・綾乃の事・・守りたい」
そう言うと、こちらに取って返し、チンピラの方に駆け出していく。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っぁ」
聖満は一人のチンピラに体当たりしたかと思うと、拳を腹部に叩きつける。
ドズッ
だが、ヒットしたのはタッパの大きなチンピラの膝蹴りだった。
「グエッ・・・」
胃の内容物が逆流し、吐きそうになるのを何とかこらえる。強烈な痛みが腹部を襲い、そのままチンピラの前にうずくまってしまう。
「とっとと逃げておけばいいものを・・・この女を「輪姦(まわす)」邪魔なんだよ・・・中坊は家に帰ってかあちゃんのおっぱいでも吸ってろ!」
うずくまった聖満に向かってチンピラの蹴りが炸裂する。脇腹に激痛が走り、止まりそうだった吐瀉物を倒れながら吐き出してしまう。
「げっ・・・汚ぇ・・・馬鹿野郎!」
ドガッ ドガッ ドガッ
周りにいたチンピラ共も数人がかりで聖満を蹴り上げ始める。
「止めて・・・キャッ・・・」
綾乃がとっさに聖満を庇い、そのままチンピラどもの蹴りをまともに肩で受け止める。ずきずきとした痛みが、綾乃の肩を襲い始める。
「綾乃・・・・」
必死で聖満を庇いながら、痛みをこらえているはずのその口元は微笑みを浮かべている。涼やかな目をして壮絶な笑いを浮かべている。
(こいつマゾなのか?・・・でも臭いがいやらしくない・・・)
そして、やがて聖満も気が付く。それが自分を安心させるためだけの虚勢であることに・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・」
「輪姦(まわす)前に、ふたりとも少し痛めつけておかないと分からないようだな!」
そう脅すと、聖満を庇った綾乃の身体を再び蹴りつける。
「・・・・・・・・・・・・・・」
周りにいたチンピラ共も数人がかりで綾乃の身体を蹴り始める。だが、根負けしたように、やくざの蹴りが弱まり始める。
「あん?・・・女・・・早くどけよ。青痣だらけだと価値が落ちるんだよ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
あきれたようにチンピラの動きが止まる。
その時だった・・・
「おんしら大の大人が女と子供に暴力かい?もうその辺にしとき!」
ドスの利いた女の声が、チンピラの背後から響き渡る。驚いて振り返るチンピラ共を睥睨しながら、乳母車を引いた女・・・三好良枝が立っている。その両手にはスタンガンが握られ、パチパチという放電音が綾乃の方にまで聞こえてくる。
「何だ?・・・あの女・・・乳母車なんかを引いて・・・」
「おい・・・やめろ・・・あの女・・・」
「マッド・リリーだ」
チンピラの一人が叫ぶ。「娼婦版ジョーカー」それがマッド・リリーだった。怒らせると何をしでかすか分からない。うつ病になるまで脅迫電話をかけ続けられたチンピラ、呪いの藁人形を毎日玄関先に置き続けられ離縁された組長、放火を匂わせる脅迫状を毎日送りつけられ引っ越さざるを得なくなった暴力団・・・その常軌を逸した行動で、三好良枝は単なる娼婦ではなく「マッド・リリー」としてその悪名をこの界隈のやくざに轟かせていた。要は迷惑な狂人だったのだが、一度狙いを定められるとせこい嫌がらせを執念深く何度でもし続けられるため、かかわりを持つのを極端に恐れたのだ。その嫌がらせに高をくくった相手は、例外なく何度も繰り出される精神的なダメージで調子を狂わされ、やがてボディーブローのようにジワジワと追い詰められてしまう。相手が音を上げて降参するか、精神的に潰されるまで何度でも・・・その異常な執念の被害にあったものは枚挙にいとまがない。
つい先週、正気を取り戻すまでの10年間、三好良枝は「娼婦版ジョーカー」として恐れられてきたのだ。
「あの乳母車の中には、殺した胎児の遺骨が何体も入っているっていう噂だ・・・」
1人のチンピラがまことしやかにささやく。伝説の調教師の最初の女・・・「娼婦版ジョーカー」にかかわりを持ちたいと思うやくざは一人もいなかった。
「いや姐さん・・・ここはうちの組のシマでして・・・女子高生風の娼婦がウロウロしていると若いもんから・・・」
「その娘は、私のはとこの娘だよ・・・全くの堅気さ。そしてそっちの男の子は私の息子さ。それを知っての乱暴かい?」
そう言って目を細めながら睨みつける。
「ぇつ?・・・」
「申し訳ございませんでした。あっ・・・満司さんにはご内密に・・・」
「おい引き上げるぞ」
そそくさと、チンピラ連中が引き上げていく。
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「大丈夫かい・・・制服が泥だらけだね。クリーニング代ぐらい置いていかせればよかったね」
そう言った良枝の表情は次第に普通の主婦に戻り始める。まるで全速力で飛ばしていたスポーツカーが、ゆっくりと速度を落とし法定速度で走り始めるように。
(もしかして、良枝さんも二重人格じゃ・・・)
綾乃がそう考え始めたころ、いきなり良枝はその場にしゃがみ込んでしまう。
「ああっ・・・怖かったわ。ついこないだまでは何でもなかったのに。どうせ死んでも良いと思っていたから、何でもできたわ・・・。でも、今は・・・・」
そう言って、ぽかんと自分を見つめる聖満に慈しみの目を向ける。そこにはマッド・リリーこと「娼婦版ジョーカー」の片鱗も感じられない。その視線を名残惜しそうに引き剥がすと、もの問いたげな綾乃に振り返る。
「あなたが急に暁年さんのお家を飛び出していったから・・・多分ここに居るんじゃないかと思って、追いかけてきたのよ。そうしたらやくざの怒声が聞こえてきて・・・まさか・・・聖満にまで会えるなんて・・・」
そう言うと、愛おしそうに聖満の顔を撫でようと、その顔かたちを確認しようと、恐る恐る手を伸ばす。
「間に合ったから良かったものの、もうこんなところに一人で来ちゃダメよ」
綾乃と聖満、どちらともつかずに二人に向かってそう言う。良枝に顔をなでられていた聖満が今度は綾乃を訝し気に見つめる。
「よく聞いて聖満君。この方があなたのお母様なのよ」
それを聞いた聖満の顔は驚きよりも怒りが強く表れていたに違いない。撫でられていた顔を背け、母親の手を振り払って綾乃の腰にしがみついてしまう。
(何を今さら・・・)
そう言いたげな顔を向けて、綾乃の腰を盾のようにして後ろに隠れながら良枝を睨みつけている。
「そうよね・・・今更よね・・・」
その様子を悲しそうに見ていた良枝はそう独り言ちてしまう。
「父ちゃんが言っていた。お前は俺を殺そうとしたって・・・」
「・・・・・・・・・・」
「聖満君、それは違う!あなたのお母さんは心中しようと見せかけただけよ。お父さんの・・・満司さんの愛を取り戻すために」
急いで綾乃は、暁人から聞いた真相を聖満に話す。
「違うわ・・・綾乃さん・・・私は・・・本当に殺そうとしたの・・・この子を・・・」
「・・・・・・・・・・」
綾乃はその言葉に思わず絶句してしまう。
「この子さえ居なければ、あの人が帰ってくると思っていた・・・」
「でも、あなたは聖満君を殺さなかったわ」
綾乃も黙ってはいない。問わずにはいられなかった。
「私は自分を傷つけることを、愛する人に全てを捧げることを、あの時、全く厭わなかった。この子を殺そうとするその瞬間まで・・・・」
聖満に向けられたその目は、10年以上前の光景を思い起こそうとしているように遠くに向けられているようだった。
「私は満司が置いて行った短剣をつかむと、まだ生まれて数カ月しかたっていないこの子のほんの数センチ前まで、剣の切っ先をつきつけたのよ」
そう言うとぶるぶると震えながら、剣を持っていた手を見つめる。
「でも、出来なかったんですよね?」
「出来る訳ないじゃない!」
「だったら・・・」
「でも私は、そんな自分が許せなかった。きっと、唯子さんもそう。たったほんの一瞬でも、私は真剣にこの子を殺そうとしてしまったの」
そして剣を掴んでいただろう手をギュッと握りしめる。
「私は自分を罰しなければいけないの・・・私は許されてはいけないの・・・だから私は・・・気が付くと、ココとココに剣を刺していたわ」
そう言って、自分の脇腹と首の2カ所指し示す。襟首から覗いていた首の切り傷は、10年以上経過しているようには全く見えないほど痛々しく、はっきりと残っていた。
「プールナーナンダさんの波動でもこの傷だけは癒えなかった。きっと私がそれを望まなかったから・・・・」
「・・・・・・・・」
「でも、あなたは聖満君を殺してはいない。10年間も正気を失い、もう十分に罰を受けたんじゃないですか!」
「私の中では、終わっていないの。もし満司に10年前と同じような事をされれば、私は再び唯子さんの様な牝豚に戻ってしまう・・・・」
「そしてまた俺を殺すのか?・・・・・・・・」
聖満が吐き捨てる様に言う。
(この親子には、すでに乗り越えられない大きな壁が出来上がってしまっているのだろうか?・・・)
でも、聖満君が自分でこんなにしゃべるなんて・・・。
「きっと良枝さんはまた思いとどまれるわ・・・だって10年前も思いとどまれたんですもの・・・きっと・・・」
だが、確信はなかった。なぜ思いとどまれたのか。何がそうさせたのか。
「魂を失わなかったからですか?」
そう聞いてしまっていた。その言葉を聞いて良枝が口元をほころばせる。
「多分、そうね・・・。魂か・・・面白い言い方ね。私風に言わせてもらえれば、あの時はSMを愛にまで昇華していなかったから・・・・」
「SMが愛なんですか?」
「あら決まっているじゃない・・・互いの魂を高めあうSMもあるのよ」
「えええっ・・・・!」
「うふふっ・・・あなたも今に分かるわ・・・暁人君かっこいいし・・・たまにはSMプレーをしてみるのも楽しいわよ♡」
「やだ~っ♡」
照れる綾乃を微笑ましく見つめながら、良枝は言葉を続ける。
「でも、満司は違った・・・あなた達も気が付いているでしょ?あの男にとって奴隷は作品なの。魂は不要なの。取り除くべきものなの。だから、SMショーを通じてしか愛を表すことができない・・・」
「SMショーでしか・・・そうだわ・・・私こんなことしていられない・・・ショーはもうはじまっている・・・」
気を取り直したように綾乃が良枝に尋ねる。
「私・・・どうしてもあのSMクラブに入って、チーム「MRO」に加わりたいんです。あそこに行って、みんなと戦いたい・・・暁人の力になりたいんです。多分・・・そうしないと勝てないって思うんです」
そして聖満と良枝を見てハッとする。
「今・・・ハッキリと気が付きました。そこには私だけでなくて、聖満君や、良枝さんがいないとダメな気がします」
「MRO・・・暁年さんが言ってた三好家再生作戦ね・・・」
そう言って聖満を見る。無関心を装っているが先ほどから聞き耳を立てているのがよく分かる。
「聖満はどう思う?」
今度は良枝の方から顔を聖満の顔に近づけ、頬と頬を摺り寄せる。
「えへへっ・・・こんな事してみたかったんだ」
「止めろよ、殺すぞ!」
だが、真っ赤になって離れようとする聖満の手を握り締め、良枝は放そうとしない。
「あなたがやったことの1/10もしていないわ」
「・・・・・・・・・・」
「唯子さんだけじゃない・・・「牝豚」とあなたたちが勝手に言って嘲笑っている全ての女性に対して、あなたがやったことの何百万分の一もやっていないわ」
「・・・・・・・・・・」
「綾乃さん・・・私たちも行くわ。そしてこの子に、暁年さんがきっちりと満司をやっつけるところを見てもらいましょう」
「でも、暁パパが勝つなんて保証はないんです・・・っていうか・・・2%って・・・」
「何を言っているの?暁年さんはね、0%じゃなければきっと勝つわ。そういう人なのよ」
確か唯ママも暁人も同じような事を言っていた。一体全体みんなどうしちゃったんだろう。みんな私と同じような事を考えているなんて。
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再び「J-POP」の入り口に綾乃が現れると、再びあの黒服の男があきれ顔で姿を現す。
「おいおい、ここは女子高生の遊び場じゃないんだよ。とっとと帰るか、インターンシップに入ってもらうか・・・」
そう言いかけた時、綾乃の背後に「マッド・リリー」が立っていることに気が付く。
「こ・・これはリリー姐さん。お久しぶりっす。今日は、随分と落ち着いた格好で。それに刺青も目立ちませんね・・・」
愛想笑いを浮かべながら、綾乃と良枝を交互に見始める。
(この異常な組み合わせは何だろう・・・)
そう訝しんでいる様子が手に取るようにわかる。
「この娘はね、私の「はとこ」の娘よ。今日は私と一緒に「売り」の方に回るから・・・」
「えっ・・・この娘もばいしゅ・・・「売り」ですか?」
驚いたように黒服が聞き返す。
(清純そうな顔をして、見た目よりも阿婆擦れだったのか・・・)
がっかりしたその顔を満足そうに見ながら、良枝が叱りつける。
「馬鹿ね・・・今日はうちの亭主の「SMショー」でしょ。お酒やつまみの場内販売よ」
「でもリリー姐さんの格好も地味ですが、はとこの娘さんの制服姿は・・・今日はちょっとヤバいんすよ。何かそれなりの衣装を着けてもらえませんか?」
「じゃあ・・あれで良いわ・・・ええと・・・バニーガール?」
「ああっ・・いいっすね」
黒服がそう言って綾乃の身体を嘗め回すように見つめる。
「きっと似合いますよ。はとこの娘さんも・・・」
その視線をゾッとしながら受け流すと、綾乃は良枝に恐る恐る聞いてみる。
「良枝さん・・・バニーって?」
「あらとってもかわいい服よ。私も綾ちゃんにはお似合いだと思うわ」
「そ・・そうですか・・・暁人も気に入るかな?」
「男で嫌いな人なんかいないわ」
良枝はきっぱりと断言する。二人の女子会話を何気なく聞いていた黒服が、ふと良枝の乳母車を覗き込む。
「今日はなんだかいっぱい荷物を持っているんですね」
「はじめて乳母車が役に立った気がするわ」
「一番正当な使用方法かもしれませんよ」
綾乃もそう答えていた。
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女子ロッカールームに入った二人は、乳母車の中で窮屈そうに膝を抱え込んで隠れていた聖満を外に出す。
「痛てて・・・」
関節を伸ばしながら顔を顰めた聖満は、しかし、この探偵ごっこのような雰囲気に少し興奮気味のようで、一向に嫌な顔をしていない。
(この子にとってはいい経験なのかも・・)
綾乃はそう思いながら、本物の探偵が勤務中にグーグー寝ている光景を思い出して一人微笑んでしまった。乳母車にもともと入っていたスタンガンや催涙ガスのスプレー缶を、及川探偵の車の中に置いてきていたのだ。この近辺の張り込み捜査でもしているのだろうか、見慣れた車が有ったのですぐに分かった。もっとも及川は車の中で缶コーヒーを手に持ちながらぐっすりと寝ており、声をかけても一向に目を覚ます様子はなかったが・・・。
「多分、突き当りの部屋に行くとバニーガールの衣装が有るわ。この子は女子用の黒服の一番小さいのが着れると思うから、それを着てもらう」
以前勤務したことのあるこの場所を良枝は熟知しているようだ。とっとと服を持ってくると綾乃に見せる。
「赤と黒どっちがいい?そうね、あなたが赤ね。私はおばさんらしく黒にしておくわ」
「こ・・・これって・・・レオタード・・・えっ?・・網タイツ・・・ハイヒールもこんなに高くて・・・ピンヒール・・・」
「もう・・・お股の角度が一番広いものを持ってきたんだから文句は言わないの。本当はお股の毛の手入れをしないと着れないものの方が多いのだからね」
「えええっ・・・?」
「それでも「インターンシップ生」になるよりはましよ。あんたのような世間知らずなら、今夜のうちにまず間違いなくなく輪姦(まわ)されて、薬漬けにされていたわね」
「まっ・・・まわす?薬漬け?」
「悪い事は言わないから、これを着て私についておいで・・・これ聖満・・・ほかのお姉さんのロッカーを漁ってはダメよ!」