それから数時間。立ち続けようとしたマリー二等兵他三名をソファーに座らせて資料を読み続けた私は、日が傾き始めた頃になってようやく読み終えられた。少女達のプロフィールや中隊の配備書、そして糧食の備蓄確認にこの隊の指揮系統、全てを取り敢えず確認した。糧食は流石に軍隊だからか豊富に備蓄使用されており、彼女達の身体作りに大いに貢献しているらしい。
「んぁ?どうしまひた、たいひょう?」
ソファーでこくりこくりと前後に首を揺らして眠っていたマリーの顎を持ち上げ、顔色を確認する。寝不足なのか、目元には少しだけ隈が見えたが、健康な顔つきだ。良い物を食べている証拠である。
そのまま、彼女達を寝かせておいた。
ーーー
マリー達数名を中隊長室に置いて、家の外で歩哨をしていた少女達二人を率い、物資の確認に向かった。
先ずは、武器庫を見るとしよう。あんな錆び付いた武器ばかりじゃない事を祈りたい。
「武器庫は何処にあるか知っているか?リース二等兵」
「はい、ワイヤット隊長!この隊舎を出て直ぐ隣が武器庫になっています」
「了解だ、では早速見るとしよう。付いてきてくれ」
「あ、はい隊長!!」
少女達に案内されて、私は武器庫に着いた。外から見る限り、普通の家屋、正直な所一見武器庫だとは分からない装いだ。まぁ、良い。カモフラだと思っておこう。
「では、中に入るか」
「はい!」
少女達に開けてもらい、中へと入る。小屋の中には、所狭しに武器が転がっていた。
…何故転がっている?ここ一週間で弾薬の申請は無いのは報告書で確認している。故に暴発の危険性は無いだろうが、一瞬身体が硬直する。心臓に悪いぞこれは。
「ワイヤット隊長?」
「どうしましたか?」
「…これはいつからこうなんだ?」
「えっと…そのぉ…多分ですが、私達が来る前からだとぉ…思います…はい」
「嘘なら懲罰だが、本当だな?」
「間違いありません!!!」
「そうか」
まぁ本当にそうなんだろう。よく見渡してみれば転がっている小銃達には埃が被っていた。逆に、立てかけられている小銃には埃が無い。つまりはそういうことだ。だが転がっているのをそのままにしているのは問題だ。
「良いだろう、本当の様だな。だが、転がっている小銃をそのままにしていることは職務の怠慢だ。ここの管理は?」
「まだ誰も居ません隊長!」
「何?いないのか?」
「はい!私達は全て二等兵でありますワイヤット隊長!!」
二等兵でも立てかける事位出来るだろう…と言い掛けたが彼女達はまだ軍隊に入って一週間。教官も付けて貰えないど素人の集まりだ。いや、この場合私がここの教官をするしかないのか。
思わず額に手を乗せた。
「…すー…ふぅ…そういえばそうだったな。なら取り敢えずとしてリース二等兵とミラノ二等兵がここを管理しろ。他にも数名付ける」
「え?あ、分かりました隊長!」
「了解です、隊長」
「整理整頓は取り敢えず明日からで良い。外で銃剣突撃訓練してる彼女等を呼び戻して転がってる銃を全て立て掛けて置くんだ」
「「はい!!」」
少女二人が敬礼して踵を返し中央のグラウンドへと走っていった。私は一人になった。
「…しまった。一人は残しておくべきだったか」
…まぁ、仕方ない。この駐屯地はそこまで広くないのだから、直ぐに別の者が見つかるだろう。
私は武器庫から出て、中央グラウンドの左右にある兵舎へと向かったのだった。
ーーー
で、兵舎に来たのだが…どうやら誰も居ないらしい。扉を開けて中に入っても中は静かだった。
ふと、周りを見る。微かに香る少女達の匂いと、乱雑な生活をしていたのだろう、散らかり放題の部屋が視界に広がっていた。脱ぎ捨てた服やら煩雑に積まれた書籍。そして…ベッドの柱には必ず一つ、ロザリオが掛けられていた。
「…後で整理整頓をさせようか」
視界の端に見える白い布は極力見ないで兵舎を出た。絶対後で掃除させよう。
「…さて、どうしたものか。戻るべきか、それとも誰かが通り掛かるまで待つべきか…うーむ」
「ん?あれは…新しい隊長?」
「みたいですね」
「む?」
後ろから話し声が聞こえ、振り返って姿を見た。するとそこには二人の少女が立っていた。名前は確か、銀髪の娘がデリラ二等兵でその横にいる赤髪の娘がマチルダ二等兵だっただろうか?
「あ、やっぱり新しい隊長だ。お疲れ様ですワイヤット隊長!」
「お疲れ様です、ワイヤット隊長」
「やぁ。確か…君がデリラ二等兵で、その隣にいるのがマチルダ二等兵だったかな?」
「その通りであります!」
「はい、そうです」
「それは良かった。早速なんだが、糧食が保管してある場所に案内してくれないか?」
「え?あ、はい!分かりました!」
「…何か気になる事があったのですか?」
「いや、確認だ。普段どんな食事をしているのかというな」
「…そうですか。わかりました隊長」
…怪しまれたか?本当に確認するだけなんだが…まぁ、最初は仕方ないか。これから信頼と信用を築くとしよう。
ーーー
涼しげな表情のデリラ二等兵と人懐っこい小型犬みたいなマチルダ二等兵に案内されて、食糧庫へとやってきた。その来る途中で聞いた話だが、パンは態々街へ買い付けに行っているらしい。今日も二個分隊二十人で街中のパン屋に買い付けに行っているのだそうだ。
…ふぅ…後で業者に頼むとしよう。毎回買いに二十人も使われたら訓練なんてしても意味がない。というか上は何もしてないのか。もしや一週間前に作った部隊をそのまま放置したのか?いやだがそれは流石に…
そう思っていたらデリラ二等兵が足を止めて振り返った。どうやら着いたようだ。
「こちらが食糧庫です、ワイヤット隊長」
「凄いんですよワイヤット隊長!小麦粉がいっぱいあって、干し肉とか塩漬けの野菜なんかもいっぱいあるんです!」
「…すぅ…そうか」
………その食糧、戦場に行く時に使う糧食なのでは?と思ったが言わないことにした。そもそも彼女達は何も悪く無い。何もかも全て、私に一切合切全部ぶん投げた上層部の責任だ。後でキッチリ平時用の糧食を申請してやろう。そして上層部のポケットマネーで払わせてやる。絶対にだ。
「中は…一応確認しておくか。開けてくれ」
「はい!」
「はい」
中へ入るとやはりというか、所狭しと樽と布袋が並んでいた。樽はガッツリ塩をぶっ掛けているんだろう、嗅ぐだけでしょっぱい匂いがしてきそうな程だった。
「よし、もう閉じていいぞ。ありがとう」
「あ、はい!」
「…はい」
キョトンとした顔のマチルダ二等兵と訝しげなデリラ二等兵に見守られながら、私は食糧庫を後にするのだった。