---------登場人物---------
春日 悠人(はると):主人公
春日 諾子(なぎこ):悠人の母
春日 悠年(はるとし):悠人の父(M商事・開発部・課長)
加木 充司(じゅうじ):主人公の遠縁(悠年の母方の従祖母の孫娘(はとこ)の婿養子の夫)
加木 清充(きよみつ):充司の子
枇杷の実の精:謎の老人の残留思念
金賢姫:サタンの娘。AJK団総帥。
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その晩、私は明け方近くまで、苦しそうな表情を浮かべる悠人の真上で、充司さんと清充君に抱かれ続けた。私は一晩中苦しみ続ける悠人の顔を見下しながら、看病するどころかセックスすることを充司さんに強要されたのだ。私が誘(おび)き出し、私が薬を盛り、私が与えた祟り器によって苦しむ息子を見下ろしながら、私は悪の快感に打ち震えながらいつも以上に興奮し、何度もエクスタシーに達してしまっていた。悠人の顔や身体に、愛液と凌辱者達の精液が入り混じった裏切りの淫汁が浴びせられ、ドロドロに汚れていくのも顧みずに、ただただ快楽に身を任せて行った。私に取り憑いた魔女の残滓は確実に私に浸透し、私を邪悪な魔女に変えようとしていた。
私は悠人を蔑み、穢し、そして駄目にしてしまう事に、ただならぬ快感を覚え、邪悪な興奮に打ち震え続けた。それは充司さんも清充君も同じだったようだ。いつも以上に激しく、執拗に、ねちっこく、私を貪り、精を放ち続けた。それは充司さんによって執り行われた黒ミサ(サバト)だったのかもしれない。私は息子を悪魔に捧げ、苦しめ、呪うという死のスパイスを味わいながら、最高の邪淫と最悪の快感を味わい、一晩中セックスをし続け、邪な随喜の声を上げ続けた。
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僕はそのまま、目を覚ますことなくその悪夢を見続けていた。いや・・・長く異常な夢の中から僕は抜け出す事が出来ないでいた。夢の中とは到底思えぬ苦痛が全身を貫いていた。キリキリと腸(はらわた)が痛む感覚はますます酷くなり、僕は激痛に耐え兼ね、身体を折る様にして、その冷たい空間に横たわっているのが精いっぱいだった。もしかするとこれは現実なのだろうか・・・
「枇杷の仙人さん・・・これは夢なの?・・・それとも現実?・・・母を信じるって?・・・」
その問いに答えてくれるはずの仙人さんはもう居なかった。枇杷の実はもう僕が食べてしまっていた。きっと今頃は胃で消化され影も形もないに違いない。深く考えようとしても腸(はらわた)がキリキリと痛み、思考はぼやけていくだけだった。痛みの間隔はますます短くなり、苦痛は深くなっていくばかりだった・・・
「これは夢?・・・現実?・・・お願いだ、誰でもいいから教えてくれ・・・」
だがその言葉は虚しく響くだけだった。もう僕のまわりには氷の女も、魔女と化した母も居なかった。激痛をこらえる僕を置いて母はどこかに行ってしまっていた・・・。絶対的な絶望だけが僕に残っていた。肉體の痛みなど比べ物にならない心の痛みが僕を打ちのめそうとしていた。僕は目を固く閉じ、殻に閉じ籠もって、全てから目をそらそうとしていた。まるで羊膜に包まれた胎児のように、真っ暗な子宮の中で羊水に浸かりながら、全てを遮断しようとしていた。
「夢なら早く覚めてくれればいいのに・・・」
しかし痛みは一向に薄れることはなく、その悪夢から覚めることは出来なかった。それどころか、全てを遮断しようと目を瞑っても、僕のまわりには酷く不快な淫臭が立ち込め、獣のような咆哮が低く聞こえ続けていた。僕はその臭いや咆哮が何であるか目を開けずとも分かっていた。それは僕が一番見たくないもの・・・母さんとあの卑劣な男との獣の様な、淫靡で、退廃的な・・・邪淫の交わり・・・。
「こんな夢など見たくない・・・こんな母など感じたくない・・・」
何でこんな酷い夢を・・・夢の中の枇杷の仙人さんはいつも素敵な夢を見せてくれていたのに・・・。なぜ今日に限ってこんな酷い夢を・・・。しかしその理由を僕はとっくに悟っていた。内心ではすっかり感づいていた。現実でも母さんはあの男とただならぬ関係にあることを・・・。
「助けるべきは母の方だ・・・僕にできる事って何?・・・どうしたら良いの?・・・仙人さん・・・もう手遅れなの!?」
仙人さんに言われた事が僕の脳裏に木霊する。でも考えは一つもまとまらなかった。
【そしてお主を本当に救えるのは・・・お主の母だけじゃ】
「何で僕が助けられる側なの?・・・」
やがて腸(はらわた)の痛みは耐えがたいほどになっていった。まるで淫虫によって腸内を食い荒らされているような激痛が全身を襲っていた。
しかし、夢の中の母さんからは暖かな真心を感じる取ることなど出来なかった・・・。鼻孔を刺激する淫臭や耳に響く嬌声は、母さんの牝の部分を嫌と言うほど僕に突きつけていた・・・。絶対的な絶望しか残っていなかった。僕は激痛にあえぎながらますます殻に閉じこもり始めていた。まるで胎児に戻っていくように・・・自分を無にしてしまうように・・・
「母さん!・・・かあさん・・・たすけて・・・タスケテ・・・」
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充司さんによって執り行われた黒ミサ(サバト)が終わった明け方近くには、息子を呪い続けた私の心は真っ黒に穢れ、魂は瀕死の状態になっていた。私はこの時確かに邪淫に染まり・・・魔女に堕ちてしまっていた。私も唯魔子になっていたのだ・・・。
そして邪悪な快感が去り、正気が戻り始めても、その記憶も邪悪な快感の名残も去ることはなかった。私は唯々(ただただ)自分の罪の大きさに打ち震え、恐怖に唖然と佇むだけだった。快感の余韻に身体をひくつかせ、股間からは淫汁をいまだに溢れさせながら、私は二度と許されぬ一線を越えてしまった事を悟っていた。充司さんは正気に戻った私を嘲笑するように満足そうな笑みを浮かべながらこう言った。
「さあ、約束通りお前には特等席を用意してやったわ。お前に僅かばかり残ってしまった良心の痛みを感じながら、息子が内側から食い散らかされてダメになって行く様子を直ぐ傍で見ていなさい。息子が苦しむさまを見ながらセックスし続け、邪淫に逝き続けたお前なら、もっと深い魔の快感を味わう事が出来るわよ。ウフフッ・・・悪魔に魂を売った者だけが味わえるとても素晴らしい体験よ・・・。人間の魂が蝕まれ心の激痛にのたうち回る様子をたっぷりと見るがいいわ。そして邪淫に染まりながらマゾの快感を貪るといいわ。絶対的絶望の快感の中でその僅かばかり残った良心を磨り潰していきなさい・・・」
充司さんの眼は魔女そのものだった。そしてその声はまたしても魔女の声だった。しかし、そう言ったことを自分では自覚していないように、充司さんは眠そうな目をしながら清充君と二人で悠人の部屋を出て、夫婦の寝室に向かおうとしていた。
「その子・・・割合としぶとそうだから、体内に寄生した祟り器と私の可愛い淫虫が、清らかな心を全て食い尽くすまで暫くかかりそう・・・。その間に私は寝て来るわ。馬並みに丈夫なこの男の肉體もそろそろ限界のようだから数時間の睡眠を取らせるわ。そうね、今日の昼頃に又ここに来るわ」
そう言ってじっと私を見下すように振り返った。まるで私を見透かすように・・・。
「良かったわね・・・その間お前は息子のもだえ苦しむ様子を見ながら何度もマゾの快感を貪り、何度も逝くことが出来るわよ。昼までに逝き狂わずにちゃんと最後まで見届けたらその子の最後の精液を少しだけ分けてあげても良いわ。魔に取り憑かれた生贄が最後の射精をして、魂と共にすべての良心を吐き出した時の精液ってとっても美味しいのよ・・・。魂を真っ黒にしたお前なら、この上ない美味に感じるはずよ。いえ、そんなものでは済まない・・・病みつきになるはずよ。やがてお前は、それを味わうためなら何でもするようになるわ。安心おし、その度にお前にも少し分けてあげるわ。私の手下として・・・悪魔の手先として・・・。楽しみよね・・・・せいぜいその子の悶え苦しむ様を味わっていなさい・・・あははははっ」
そう言って部屋を出かけた充司さんが一瞬、私を唆すように囁く。
「安心おし・・・良心が痛むのは最初の一人目だけ・・・。二人目からは純粋な快感だけしか覚えなくなるから。自分の息子なら猶更(なおさら)よ。人間を殺すのと一緒・・・二人目からは快感に変わるから・・・クゥフフッ・・・」
そして、魔女の嘲笑を上げながら充司さんは部屋から出て行った。
私はそんな充司さんを怯えた表情で睨みつけていたに違いない。きっとそうなってしまうに違いないと、心の中では薄々感じていた。邪淫に呑まれた途端、自分が魔女になってしまうことを・・・邪悪の快感に呑まれれば簡単に悪の手先になってしまうことを・・・当の私が一番よく分かっていた。
(抗えるものならやってみるが良い・・・)
そう言わんばかりに私を放置して行ってしまった充司さんの後姿をじっと見つめ続けるだけだった。
(まだ私は完全にそうなっていない・・・)
それでも私は、僅かばかり残った良心と理性を総動員してそれに抗い続けようとしていた。私に残った何かが・・・私の中の善なるもの全てを総動員しながら、悪に染まってしまった自分を何とか正気に戻し、必死で悪を否定しようとしていた。顔中に淫汁を浴びせられ、苦しみの表情を浮かべて昏々と眠り続ける悠人の傍らに膝まずいて、私は悠人をどうにか救おうとしていた。
だが、全ては遅すぎていた・・・。
(この酷い結果を招いたのは全て私のせい・・・)
私は快楽に負け・・・息子を悪魔に売り渡してしまった事を思い知るだけだった。私は自分のしでかしたことのあまりの酷さに、あまりの惨たらしさに、途方に暮れていた。
(誰のせいでもない・・・すべて私のやったこと・・・私の悪行の結果・・・)
邪悪な暗示に呑みこまれていたと言うのは全て言い訳に過ぎない。魔女に取り憑かれていた時でさえ、私は意識を失っていた訳ではなかったのだから。私は自分の情欲に負け邪淫に浸っていただけだった。快感の渦に呑み込まれながら、悠人を蔑み、悠人を傷つけ、悠人の人生の全てを台無しにしてしまうあらゆる悪事に加担していたのだ。
(ごめんなさい悠人・・・私は・・・あの音が響き渡ると・・・あの音を聞いてしまうと・・・あなたの母親じゃなくなってしまうの・・・)
そう・・・あの音を聞くと私は充司さんの牝奴隷になってしまう・・・あの男(ひと)の言いなりに悪魔の手先になってしまう・・・私はあなたを、悠年さんを裏切る快感から逃れられなくなる・・・。そして今や、そうなるのに音はいらなくなっていた。悪に染まる時その呪わしい音は麗しいものに変わって勝手に頭の中で響きわたっていくのだから・・・。
「うぐぐっっ」
突然、悠人が苦しそうな喘ぎ声をあげた。その目には薄っすらと涙が浮かびあがっている。
(この子には何の罪もないのに・・・)
私は思わずその手を握りその様子をうかがった。
(ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・)
悠人の顔の周りには、顔を中心に私の愛液や、充司さん親子の精液、エロ下着からにじみ出た淫液・・・そして祟り器となったボールペンが吐き出した汚液がベッタリと付着し、酷い臭いをまだ放ち続けていた。その汚辱は顔だけでなく、胸やお腹、股間まで巻き散らかされ、酷いありさまだった。そして・・・悠人の肛門から中に入り込んでいった悍ましい触手がどうなってしまったのか、考える事すら恐ろしかった・・・。
「眠むれ、眠むれ、母の胸に・・・・」
私はいつの間にか祈るようにシューベルトの子守歌を口ずさんでいた。もうとっくに忘れていたことだった・・・悠人はどんなにぐずったり、むずかっても、この子守唄を謳うと機嫌がよくなり、すやすやと安らかな寝息を立てたのだ。
「眠むれ、眠むれ、母の胸に・・・・」
脳裏に低く響いていたブリブリという忌まわしい音が、ピアノのように響くその歌声にかき消されていく。悠人を助けたい・・・悠人を救いたい・・・悠人を安らげたい取り戻したい・・・私の必死の思いが、忌まわしい音を退け、私の中の何かを呼び覚まし始める・・・。
「こころよき歌声に むすばずや 楽しゆめ」
心なしか悠人の苦痛に歪む顔が緩んだような気がした・・・。もはや私には忌まわしい音は聞こえてこなかった。悪魔の洗脳から脱したように、私は一心に歌い続けた。
眠れ、眠れ、母の胸に
眠れ、眠れ、母の手に
温かきその袖につつまれて 眠れよや
眠れ、眠れ、 かわい我が子
一夜寝ねて 覚めて見よ
紅のばらの花 開くぞや まくらべに
悠人の顔から苦痛が消え、安らかな表情が一瞬うかんだ。
「悠人!・・・悠人!・・・はると!・・・ハルト!」
しかし、悠人に安らかな表情が浮かんだのはほんの一瞬の事だった。私の歌声が止んだ途端・・・悠人の顔には苦痛の表情が戻ってしまっていた。いえ・・・前よりも酷い苦痛の表情に・・・私の歌声が悪魔の不興を買ったように極限の苦痛が報復のように悠人を襲っていた。
「ああっ・・・悠人・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・)
私はかえってこの子を苦しめている・・・。私はこの子に罠を掛け、この子を地獄に突き堕としてしまったのだ・・・。全て私のせいだ。今更、私は何をしようとしていたのだろうか・・・
(虫が良すぎる・・・)
私は自分の業の深さに恐れおののきながらも、自己嫌悪にのまれ、自身自身が許せなくなっていた。私は自分の快感のために、自分の肉欲のためだけに、この子を巻き込み、この子の未来を狂わせてしまったのだ・・・。
(謝るのは卑怯だ・・・私は許されてはいけない・・・許しを乞うてはならない・・・その上私は清充君とアナルセックスで処女と童貞を捧げあい、あなたよりも深く爛れた絆を結んでしまっている)
それは言葉にすらできない後悔だった。私に握られた悠人の手が苦しそうに痙攣し、その手から生気が失われていくのを感じていた。私がこの子を殺すのも同然だった。取り返しのつかない事をしてしまったことは明白だった。謝って済むことではなかった。私はやがて多くの人を悠人の様にしてしまう・・・。
(私は罰せられなければならない・・・もう元には戻れない・・・清充君とも私はとんでもない間違いを犯している・・・死ぬのは私の方だ・・・)
私は悠人の苦しみに快感を見出しそうになる自分が恐ろしかった。気を許せば私はいつでもそうなってしまうよう変えられているのだ。充司さんに唆されれば、あの放屁音を聞かされれば・・・いつでもそうなってしまうのは明らかだった。これからも私は悠人にどんな酷い仕打ちをしまうのか分からなかった。きっと殺せと言われれば・・・地獄のような快感の中で悠人ですら殺してしまうに違いなかった・・・。私はそんな自分が恐ろしく、許すことが出来なかった・・・。
ふと悠人の机の上を見ると、一本のカッターナイフが目に入った。私はフラフラと立ち上がると、いつのまにかそのナイフを手にしていた。
(もう元に戻れないなら・・・あなたをダメにしてしまったのなら・・・私は生きていく資格などない・・・あなたが・・・いないなら・・・あなたの優しさや、朗らかさや、聡明さを失わせてしまったのなら、私は生きていけない・・・。そして、私があなたをそうしてしまうなら、私はこの世に居てはいけない・・・)
苦しそうに顔をゆがめている悠人の手を再び握りながら、私はカッターの刃をキリキリと取り出し、手首に押し付けていた。
眠れ、眠れ、母の胸に
眠れ、眠れ、母の手に
眠れ、眠れ、かわい我が子
手首に当たったカッターの刃先は異様に冷たく、一瞬鋭い痛みが走った後は痛みもさほど感じなかった。スッと赤い筋だけが、縄の跡がくっきりと残った手首に滲んでいった。
「悠人・・・本当にごめんなさい。母さん、先に行くわね・・・悠人・・・さようなら・・・」
シーツの上に血が噴き出し、真っ赤に染め上げていった。
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一体どれくらいそうしていたのだろう・・・死のような苦痛の中で絶対的絶望を味わっていた僕に温かなものが触れていた。ふと意識を戻してみると、温かなものが僕の手にそっと触れたのだ。自分の殻に閉じこもり、全てを遮断していた僕は目を固く閉じ耳を塞いだままだった。だが目を開けなくとも、それが何かすぐに分かった。
母さんの手だ。
ほっそりとした優美な手・・・そこには確かに温かさとともに慈愛と誠意が感じられた。
確かに母さんの手だ。
一体どういう事だろう・・・先ほどまで、冷酷で、残忍で、卑猥でしかなかった母の雰囲気は全く感じられなかった。いや、全て払拭されていた。その手のぬくもりからは優雅で、慈愛に満ち、品位すら感じられるのだ。
【そしてお主を本当に救えるのは・・・お主の母だけじゃ】
枇杷の実の仙人さんの言葉がふと思い出された・・・そして・・・その温もりを通して母の気持ちが伝わってくるような気がした。僕はまだ怖くて目も耳も開けられないでいた。しかし、だからこそ母の気持ちが伝わってくる。今はこれで十分だった。もっと握っていたかった。その時・・・母の歌声が聞こえてきた。
「眠むれ、眠むれ、母の胸に・・・・」
シューベルトの子守歌だった。ピアノのような母の声・・・愁いを帯びたはにかむような母の声が脳裏に響き渡った。母の温かみが僕の全身に広がっていく。そして死のような苦痛が急に軽くなり始める・・・。腸(はらわた)の中で蠢いていたものが、怯える様に動きを止めていた。そして・・・母の慈愛と共に悲しみの感情が・・・心を満たしていった・・・。僕はこの時初めて戦う決意が出来ていた。きっと僕はこの苦痛に打ち勝つことが出来ると、なぜか僕はそう考えていた。僕は母に裏切られていなかったのだから・・・。
(ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・)
大いなる悲しみが・・・息子に手を掛けた苦しみが・・・僕の心に流れ込んで来ていた。一端手が離された後、再び愛おし気に僕の手が握られた。
「悠人・・・本当にごめんなさい。母さん、先に行くわね・・・悠人・・・さようなら・・・」
ポタポタと身体に熱いしたたりが落ちてくる。それは淫汁などと言う生易しいものではなかった。母の命そのものだった。それは熱く・・・とても熱く・・・焼けるようだった。そして悲しく、愛に溢れていた。
「さようなら?・・・・」
僕の身体にポタポタと垂れかかってくるこれは何だろう?・・・何が何だかさっぱり分からなかった・・・。きっとそれは母の悲しみそのものだった。嘆きの塊だった。僕は恐ろしくて目をどうしても開けることなど出来なかった・・・。
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「悠人・・・本当にごめんなさい。母さん、先に行くわね・・・悠人・・・さようなら・・・」
シーツの上に血が噴き出し、真っ赤に染め上げていった。私は朦朧としながらも改めて苦しそうな悠人の顔を見ると、淫汁がベッタリと付着した顔にはまだ私のエロ下着がかぶされ、鼻が半分覆われている。私は急に哀れになり、せめてもと悠人の顔からエロ下着のパンティーを脱がしていった。そして・・・私が死ぬまでの暫くの間・・・悠人の全身を覆う淫汁を少しでも清めてあげようと思い立っていた。
「これがあなたにしてあげる最後のことね・・・」
残念ながらタオルが仕舞ってある納戸まで歩いていくほどの体力も気力も残っていなかった。私は悠人の傍らに丸めて敷かれてあったタオルケットを取ると、くまなく全身を拭いていった。血がシーツの上にまるで水たまりの様に溜まっていくのも構わず、私は悠人の身体に浴びせられた淫汁を丁寧に、ひたすら丁寧に、謝る様に拭っていった。悠人の顔に私の血が時々滴り広がるのを何とか掬いながら、悠人の全身を丁寧に拭きあげていった。
「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」
そして・・・ふとその手を止めていた・・・。
(自分で浴びせておいて・・・自分やっておいて・・・私はいったい何を言っているの?)
しかし、私は自分のこの不可解な行動を止める事は出来なかった。ほとんどの淫汁が拭い去られ、悠人の中で蠢く祟り器を除けば悠人は前の様にその外見だけは綺麗に戻っていた。しかし、一番淫汁を浴びた悠人の顔や首筋からは、嫌な臭いが取れずにベタベタとしたヌメリが残っている気がした・・・。
「悠人・・・御免なさい・・・はると・・・」
出血多量で意識が遠のいていくのを感じながら、悠人の顔を舐め上げていった。
(ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・)
苦く悪臭を放つ粘液が私の咥内に溢れ、強烈な吐き気をも擁しながらも、私は何の躊躇もなくその汚辱を嘗めとり、吸い込んでいった。私は自ら浴びせた淫汁を一心に舌で拭い去っていった。
「清めてあげる・・・悠人・・・あなたは穢れないで・・・はると・・・はると!」
淫汁にまみれた悠人の顔は、やがて私の唾液まみれになっていった。私は悠人の顔をペロペロと舐めあげる度に、苦く悪臭を放つ汚液が私の中に入り込んでくるのが良く分かった。しかし、私は自分が穢されている実感が湧かなかった。悠人を少しでも楽にできると思うだけで、私は心が軽くなり、魂が安らぐのを感じていた。まるで悠人を嘗め上げる事で私の魂すらも清められていくようだった。
(これは気休めかもしれない・・・でも悠人、私はそう感じたいの・・・悠人、あなたは私を何度も助けてくれた・・・最後の最後・・・あなたは死にゆく私の魂をも救ってくれようとしているのね・・・悠人・・・ありがとう・・・でももう良いの・・・あなたは穢れないで・・・充司の悪に・・・私の悪に打ち勝って・・・)
大方の淫汁が取れた顔を再びタオルケットで拭うと、私のつばの香りが匂う程度になって、ほとんど気にならないレベルになっていた。
「やっと美男子に戻ったわね・・・悠人・・・これで心なく逝くことが出来るわ」
私はホッとしながら心の中でそう語り掛けると、瘡蓋が出来て閉じかけた手首の傷の上に、冷たいカッターの刃を再び押し付けていた。
(より深く、より強く・・・これ以上は未練だわ・・・さよなら悠人・・・)
カッターの刃が手首の半分ほどぐらいまで食い込み、骨に深く突き刺さっていくのが分かった。激痛が襲ったが心の痛みに比べれば何ほどのものではなかった。断ち切られた手首の動脈から鮮血がシャワーの様に悠人の上に吹きかかり、ベッドの上には血飛沫が真っ赤な海のように広がっていった。
「私の命を注いであげる・・・悠人あなたは生きて・・・生きて・・・生きて!」
悠人から苦痛の表情が薄れ、うっすらと安らぎの表情が浮かんだような気がした。気が緩んだ私は、やがて意識が遠のいていった。私に死が訪れようとしていた・・・
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