タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
今日も文化祭の後処理で昼休みが潰れてしまった。
また調布と一緒に大会議室に行き、決算処理を協力して行った。金額の読み合わせチェックとか。
ただ、さすがにこれでひと段落らしい。今日の放課後は免除だ。
教室に、並んで歩いて帰る。
「大変だったわね。――今日は、「あの家」に行くのかしら?」
「ああ、その予定だ。」
前に述べたように、日蔭谷の借家には電話が通っていない。
廃工場と共有してる関係だろう、電気水道ガスは使えるのだが。ちょっと中途半端な状況だ。
だから何が起きているか、わりと足しげく実際に通ってチェックしないといけない。
見つかってしまう危険を考えると、あの2人には買い出しに行かせちゃいけないし。
運動不足にならないようにしないとな。近所に散歩くらいはいいのかな――。
「あたしも行きたいけど、今日は先約があるのよね。」
「ああ、もちろんそちらを優先して構わない。」
「本当は気が重いのよ。――早く終わったら、そっちにちょっと顔出してみたいけど。」
紫藤の小父様や、ナギさんたっくんにも会いたいし、と言ってる。
「それはうれしいが、無理はしなくていいぞ。」
国領を含めた一味の中では、調布が一番日蔭谷には遠い地域に住んでる。
いや、僕も高低差があるし、時間距離ではいい勝負なんだけどね。
「それで。今日のは、まず大丈夫な用事なんだけど。だけど、保険をかけておきたい。ご自宅に電話していいかしら?」
「お、おう。――何事だ?」
危険な行動なら、阻止しようかという考えが頭をかすめる。
「だから保険よ。9時までに1度、電話を掛けさせて。掛かってこなかったら、あたしの家に電話を掛けて、親に机の上の封筒を見るように伝えて。親は、今日は多分早め、8時過ぎくらいには帰ってきてるはずだから。」
「おい、何をする気だ?」
場合によっては、全力で止めるぞ。
しかし、ぼくのその警戒っぷりをみてとった調布は、くすりと笑った。
「ありがとう。心配しなくて大丈夫。あの例の、救出劇の後始末。」
あれ五七五だわ。あたし才能あるのかも?と笑ってる。
僕にはピンときた。多分、あのバイクを借りたことの関係だろう。
カゴちゃんと称する少女の家にはガレージがあったし、バイクも複数台所有してたりするんだろう。
でも、あの子自身が、僕たちが借りたバイクを両方とも所有してるとは思えない。特に古カブは、女の子が積極的に欲しがるバイクではない気がする。
あのバイクは多分カゴちゃんなる子が、伝手を辿って借りてきたものなのだろう。
だから、調布としては彼女に借りがあり、その彼女も他の誰かに借りがある状態。それを返さないといけないんだろうな。
調布と同じ中学校の出身だった子から、調布は中学校時代は相当にリア充で活動的で学校内外で名前を売っていたと聞いたことがある。今でももちろん相当有名だが、こんなものじゃなかった、と。陸上部でもないのに先生に見込まれて大会に出されて優勝したり、学校に喧嘩しにやって来た他校の不良を追い返したり。
おそらくその名声だか実力だかを見込んで、バイクのレンタル料がわりに顔を貸してくれと頼まれたのではないだろうか。
「ああ、ただ、もし何かできることがあったら言ってくれ。夜でもいい、駆けつける。」
ありがとう、と調布はごく自然に、きれいに白い歯を見せて笑って答えた。
調布には、かなり心臓に悪い笑みを向けられることが多い。でも、こんな風にも笑えるんだな。
というか、本当はこっちが地なんだろう。親しい女の子相手にはだいたいこんな感じだし。
―――――
ちなみにこの日の朝、若原君という高木を通じて友達になった少し大人しめの同級生から、折りたたまれて簡単にシールで封がされた伝言メモをもらった。
1年生のとき同じクラスだった子から、ことづけられたらしい。
うん?ラブレター?そんなはずないよな。ないない。
授業が始まってから、先生や他の生徒の注意がこっちに向いてないのをみすまして、こっそりノートの陰で開けた。
ちょっと癖のある字だ。宛先も何もなく、用件だけが書いてあり。
「昨日の話、放課後に話そう。
放課後すぐ、文芸部の5階の部室か、放課後30分過ぎ、学校を出て駅の反対側の○○神社参道で。ダメならW君に伝えて。H.K.」
H.K.は、おそらく国領ハルカ。
昨日の話の続き、か。
もう成績もそろそろ発表される。
いろいろ多忙なんだが、この際に片づけておいた方がいいか。
僕は国領対策をいろいろと考えながら、なかなか頭の中に入らず、耳からこぼれて流れて落ちていく先生の言葉に集中しようと試みた。
―――――
「遅かったな。」
「ごめんごめん、すぐ行けるかと思ったんだけど、さ。」
放課後、神社の参道で、ようやく国領と落ち合う。
僕は少し、イライラしてる。
本当は紫藤を日蔭谷に送っていきたかったんだけど、国領の呼び出しで行けなくなってしまった。
いいよいいよ、と紫藤は言ってたし、紫藤弟と待ち合わせしてるようだったから、まあいいか、となったんだけど。
まず、それで最初からちょっと国領にイラっときてたのは、事実だ。
紫藤と一緒にいられる時間が、短くなっちゃうじゃないか。
そもそも。この待ち合わせ場所に来るまでにも振り回され、待たされたんだぞ。
―――――
放課後すぐ、文芸部の和室に行ったけど鍵が閉まってた。15分ほど待ったが誰も来ない。
4階の文芸部の本拠地を覗いてみても、国領はいなかった。今日は来ていませんよ、と、ちょっとぽっちゃりした、人のよさそうな3年生の先輩。多分、部長さんが言う。
ちょっと怯えた目でもう一人の、内気そうな女の子がこちらを見る。
シューズの色をちらっと見る。下級生か。怯えの色が濃くなる。いや、僕、怒ってないですよ。ええ、貴女には。
いや、シューズを見たのを、脚を見られたって思われたのかな。いや確かに興味はありますけど今のはそうじゃないんです。ごめんなさい。
もしかすると神社の方かな。
そう思って、次に神社に向かう。
だいたい時間どおりに到着したのだが、蚊を追いながら待つこと20分。
その間、通りかかる女の人に不審者を見る目で見られたりしながら、僕の不快ゲージは少しずつ高まっていったわけだ。
そして今ようやく、へらへらと笑いながら国領が登場。クソが。泣かすぞ。いや、キレてないっすよ。まだね。
「どこで話す?こっちはどこでもいい。」
「帰りながら話そうか。今日は自転車?」
「そうだ。国領、バスなんじゃないのか?」
「ボクは今日は歩きでいいんだ。行くところがあるし。志野は?」
「僕も行くところがあるな。家は鳥兜団地だけど。」
「うーん、まあまあご近所さんなんだね。ボクは家は、白髪町だよ。」
白髪町というのは、距離的には僕の住む鳥兜団地の近くと言えなくはない。
ただ、鳥兜団地は山の上を開発した新興住宅地だけど、白髪町は、その丘の下の南側。鳥兜団地と調布の住む面影山の中間あたり、やや面影山寄りか。まあ古くからある町だ。
街の中心部からもそこそこ近いし、低地でアクセスは悪くない。ただ、開発が早かったので路地はちょっと狭く入り組んだ感じで、古びた住宅が軒を連ねる。
地理的には鳥兜団地に近いのだが、バス路線とかは違う。市街地中心部に行く途中でもない。だから僕も近いとはいえ、あまり白髮町近辺に行ったことはない。
自動車を使うことを前提にすると、利便性からいえば鳥兜団地の方がいいかもしれない。
さて。
神社は蚊が多いし、話に適さないな。自転車を押しながら、近くにあるという公園まで、二人で寄り添って歩く。
近所の小学生の悪ガキどもだろう。僕と国領がそうして歩いてるのを見咎めて。
「静かな湖畔の森の陰から男と女の声がするー♪」とか、「ぶっちゅーんしろよー!」とか、卑猥な冷やかし言葉を投げてきやがる。
クソガキめ。ただでさえ、紫藤に会いに日蔭谷に行くのが遅れてイラついてるんだぞ。
たしか旧約聖書に、預言者が悪ガキどもに「禿げ頭」と呼ばれて、悪ガキどもに呪いをかけたって記述があったな。気持ちがわかるよ。
僕の怒気を感知したのか。国領はへらへらと下手に出て、何か懐柔するようなことばかり言ってて、本題に入らない。
その迎合っぷりがますます気に障る。要は、機嫌を取ってやらないといけないガキだって思われてるってことだろ?
自覚できるくらい、気持ちがささくれだってきてる。
なんか嫌味かなにか言ってやろうかと思い始めたあたりで、ようやく少し落ち着いて話せそうな小さな公園にたどり着く。
自転車を停めて、ベンチに座る。
「その。悪かったよ。――都合が悪かったかな?」
おそるおそる、国領が言ってくる。目の中に、怯えがある。前回はすごく毅然としてたのにな。
今日は皆に怯えられる日らしい。
「ああ。ちょっといろいろあるはあるんだけどな。まあいいんだ。」
まだ気が荒れてるけど、日陰のベンチに座って一息つくと、ちょっと悪いな、と言う気にもなってきた。
国領だって遅刻したのはいただけないが、忙しいんだろう。そりゃそうだ。生徒会って、ある意味罰ゲームじゃないか。
名誉はあるかもしれないけど、一般生徒の雑用とか、代わって全部やってくれてるんだ。ある意味、僕たち一般生徒はフリーライダーってわけだ。
それに八つ当たりするわけにも、いかないよな。
しかも国領は、まあ悪い奴じゃない。
フレンドリーだしな。僕みたいな胡乱なやつでもちゃんと話し相手になってくれるし。
ちょっとうかつなところはあるけど、親友のためにリスクを冒す侠気(?)もある。
それに、たぶん一般的にいえば整った容貌。美人なかっこいい女の子って感じ。少女漫画に出てきそう。キラキラエフェクトつきで。
クソガキに冷やかされてイラっとはしたけど、ある意味、なんかこそばゆい感じでもあった。
つまり、モテない僕なんかがいかにもイケてる女の子と一緒にいられて晴れがましいけど落ち着かない、って感じ。調布と一緒の時にもときどき感じる感覚だ。
でも調布とは違って、国領と僕とはそんな関係じゃない。それがなんかイライラするって感じに拍車をかけてた気もする。なんだ、この感情?
国領への嫉妬心か?普通、嫉妬心は同性に向かうものだけどな。
いやまてよ、多分この感情は嫉妬の一種で正しいんだろう。国領自身ってより、国領の選ぶだろう誰か(僕より素晴らしい誰か)に嫉妬してるんだ。
ややこしいが、無理やり言葉にしてみれば。
今、一緒にいるこの国領が、僕を選んでくれてないことに不満がある、嫉妬してる?
うまく言えないな。でもそんな感じだ。
んでもって、それはやはり完全に筋違いな独占欲だ。
だいたい国領は、ちゃんと相手してくれるタイプの女の子だ。ほら、なんか地味男に対して蛇蝎視してくる子とか、上から目線で全然相手してくれない子もいるじゃん、ああいうのとはまったく違う。
かといって、オタサーの姫みたいに逆方向に微妙な、もやもやムーブをするわけでもない。
本人はちょっと変わり者だけど、そんなところはまともだ。
それに。
そもそも僕がそんな嫉妬心なんか抱くなんて完全筋違いじゃないか。僕には、紫藤がいるんだ。
あと、いつまでいてくれるかわからないけど、調布も。
そう自分の心理を分析しなおして、気を落ち着けて、上目遣いでこっちを見てる国領に正対する。
うん?なんかやつれてるな。
「こっちこそ悪かったな。忙しいんだろう?」
「いや、今日である程度めどがついたし、もうそろそろ、落ち着くさ。――企画委員もでしょ?」
「あ、そっちがとりまとめだもんな。こっちは今日、終わったぞ。」
心の整理をつけたせいか、気分が落ち着き。
なんだかますます国領が労しくなってくる。
だがな、ここからは交渉だ。敵味方だ。心を引き締める。
「それで。どうする?こっちは結果がでた。」
「ボクのクラスもだよ。」
「最初に勝負するか、それとも条件や要求を決めてから勝負するか?」
「条件は先に決めようよ。――勝ったものが要望を出す。負けたものが聞く。基本、それでいいよね?」
「ああ。」
「だけどさ。不可逆的な、取り返しのつかないことは命じない、ってことにしようよ。」
「ん?」
「ほら。前も言ったと思うけど。ボクさ、そういう、その。
「ああ、わかったわかった。」
要は、国領の処女とか、性的なこととかを求めるなってことだな。
当たり前だ。こんな小さな勝負にそんなクソ重いことを賭けさせてどうする。フェアじゃないよな。
さっきから、国領がこっちを不安に満ちた目、怯えを含んだ目で見てた理由の一端は、これだろう。
そんなクズ男だと思われてたのか。ちくしょう。
あ、でもそういう奴って思わせたのは僕だよな。イラっとしたから、そう匂わせて意図的に威圧したんだったっけ。
身から出た錆か。
だがな。それだけだと昨日の態度の説明がつかない。今日ホームルームで成績もらったら、思ったより順位が悪かったのか?
「取り返しがつかない、ってのは分かりやすいな。まあ取り返しのつくことでも、重すぎることはナシにしようか。」
たとえば500万円よこせ、と言われてもできないからな、と僕は例示して、国領もふんふんと頷く。
いや、実は出せるんだけどね。でもそれはここでは言わない。
「勝負するか?」
「うん。ただ。ボクが勝ったとしても、ボクの要望、もしかすると昨日言ったのとは変えるかもしれない。いい?」
ん?
まあ、いいか。僕もある意味同じだからな。希望自体を変えるかもしれない。国領もそれでいいよ。
そう言って、僕はおもむろに自分のクラスで下校前のホームルームで配布された成績一覧を取り出した。
国領も同じようなものを取り出す。お互いに交換して、見入る。
「これは予想外だったな。――どうする?」
「うーん。」
同点だ。国領はクラス1位、全体7位。僕と同点同着だ。
前回は紫藤とも同点だったから、この結末も予想して処理を先に決めておくべきだったかもしれない。
紫藤のときは、たまたま願いがお互いある意味同じだったからよかったんだが、国領とはそうはならないだろう。
「両方敗けでもあり、両方勝ちでもある、ってこと?」
「そうだな。だから。」
理論的に考えられる処理方法の一つとして、両方敗けとみて、お互い何も願いを出さない(出せない)、という処理がある。
まあ、フェアだし処理も簡単だ。
もう一つの理論的な処理の可能性として。
両方勝ちとして、両方願いが出せる、という処理もある。
これも、ある意味フェアだ。紫藤のときはこれにした。
ただ、後者はお互いの願いがお互いに矛盾するときの処理が複雑になりそうだ。
そう、整理してみる。
「一方が、願いを出す。もう一人は、『その願いを取り消させる』という願いを出してもいいし、その願いを受けたうえで、自分の願いを出してもいい。――どう?」
そう、国領が提案してきた。
なるほど、願いの相殺か。
「それでもいいが、先に願いを出す側が不利じゃないか?」
後に願いを出す側(後攻)は、先に願いを出す側(先攻)の手をみて、後出しじゃんけんができる、ってことになるよな。
たとえば、先攻が「500円よこせ」っていう願いだとして、後攻が「510円よこせ」にできちゃう。それはおかしい。
「そうだね。だったら、」
先攻・後攻をなくしてしまえばいい。
先攻が願いを出す。後攻は、「先攻の願いを叶えない」という願いが出せる。
でも、後攻が「先攻の願いを叶える」ことにして、自分の願いを出した場合。先攻は後攻の願いをみて、先に出した先攻の願いを撤回して「後攻の願いを叶えない」という願いを改めて出せる。あるいは、先に出した願いを変更して、「後攻の願いをキャンセルする願い」にする。
ただ、この2回目の先攻のターンでは、それ以外の願いはダメ。無限ループになるから。
それでどう?と、国領がさらに修正案を提案する。
うん?
僕はいまいち頭が良くないから、それがフェアなのかすぐにはわからない。でも、一応よさそうな気がした。
要は、両方敗けとしてしまうと、なんの願いも出せないってだけで終わる。でも、この国領の提案だとお互いに相手の願いを聞いた上で叶えるチャンスがあるし、拒否権も保障されてる、っていうことになる。
そっちの方が、なんかいい気がする。
ただ、後攻が微妙に有利な気もしないでもない。だって、先攻の願いを聞かないって選択を後攻がした時点で、後攻は自分の願いを知られなくて済む。
「その場合、先攻が望めば後攻は出そうとしてた願いを開示するってことにしたらどうかな。先攻はもちろん、それを叶えなくていい。ただ聞ける、ってだけ。」
後攻は、ちゃんと開示するかな?恥ずかしい希望だったりしたら、知らんふりして適当な嘘っこの願いを示して、ごまかすんじゃないか。
だから上手くいくか、ちょっとよくわからないが。
まあいいや。
「それでOK。――どうする?国領からは、もう願いは出したってことになるのか?」
つまり願いは、紫藤と調布のどちらか別れろってことになるのか?だとしたら、拒否一択だ。
「いや、願いを出すのは、ちょっと後でもいいかな。」
少し考えさせてよ。そう、国領が言ってる。
まあそうか。二人のどちらかを選べって僕に迫ることは、国領とあの二人との関係をぶっ壊す可能性もあるって国領も思ってるんだな。
だから、別の手を考えてるってことだろう。
まあ、いいんじゃないか?
ただな。
「僕もまだ、願いを考えてないんだが。」
お互いに顔を見合わせて、笑う。
なんか気持ちがほぐれてきた。
白い糸切り歯を少し見せて国領がきゃははと笑い、千日手かな?と言って、少し後ろに体を倒して、ベンチの背もたれに背をつけた。
歯並びがきれいだな、と笑う顔をみててぼんやり思う。今まで背もたれに寄りかからず前かがみだったってことで、つまり国領もかなり緊張していたのかもしれない。
体をベンチの背もたれに倒したせいで、ちょっと短めな国領のスカートの裾からいつもより多く露出した白い脚をみるともなくぼんやり眺めて、そう思う。
「じゃあ、そういうことで。」
しばし、どうでもいい軽い話をして。
お尻を軽く払って、国領が立ち上がる。
「それとも、せっかくだから少しこのあたりでも案内しようか?」
国領は、ここらへんの土地勘があるらしい。
「興味はあるが、今日は用事があってな。」
あ、まずい。
今日は日蔭山の家に行かないといけないんだけど、意外に時間が過ぎてる。あと買い出しも頼まれてたっけ。
「あ、もしかするとアレかな?あの人たち。」
「うん、そうだ。」
「ボクも行きたいなー。けど、今日は習い事の日なんだ。いろいろごめんね。」
国領はちょっとすまなそうに言うと、うーんと伸びをした。ブラウスとスカートの間から柄物の肌着がわずかに見えた。
そういえば、以前、合気道がどうのこうのって言ってたな。今日なのか。あ、公民館もこの近くなのかもな。
「じゃあね、道分かるよね?」
「大丈夫だ。じゃあな。」
「またね!」
国領が手を振って、歩いていく。途中で一度振り向いて、手を振ってくれたので、僕も振り返す。
自転車に跨がり、ペダルに足をかけ。
国領の遠ざかりゆく後ろ姿をぼんやり見ながら、僕は自分の頬を軽くたたく。
さて、行ってきますか。
心配してたが、思ったより穏便にいきそうだな。
でも、たまたま今回は同点だったからよかったけど。今後、敗けたらどうしよう。
取り返しのつかないことの一つだ、って主張して、どちらかを選ぶっていう選択を避けることにするか。
あるいは、もう勝負は受けないか、だな。
そこのところの話。勝負を続けるかどうかって話はしなかったな。また今度だ。
今はちょっと急ごう。紫藤たち、時間切れで帰ったりしてないよな?