タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
2023/1/1 高木の下の名前を修正。
次の日。
僕はいつになく爽やかに目覚めた。
昨日は、あれから急いで家に帰り。
母からは少々詮索されたが、まあ何とかごまかした。
時間的にもそれほど遅くならなかったのが、有利に働いたみたいだ。
ただ、調布に2回抜いてもらってたし。寝る前にどうにもムラムラが収まらなくて、もう1回。
お風呂のとき、調布とお湯のなかでいちゃいちゃしたけど。あれが最後まで進んじゃって調布を貫いて喘がせる空想をおかずにして抜いてしまった。
だからさすがに疲れはてて、寝坊するんじゃないかと思ったんだが。若い体の回復力はすごい。
朝、僕の股間の相棒とともに元気に起床。
朝、登校する。
うれしそうな紫藤に、おはよう、と言って、言われて。
その後調布に出くわして、思わず赤面して挨拶して、赤面されて挨拶されて。
気づいた紫藤からは、黒いオーラが発生して。
うん、後で紫藤に謝らないとな。
平謝りだ。
それにしても。
爽やかに復活してるのは、調布も同じだ。
周りの子たちに笑顔を向けながら、溌剌とした感じでやり取りしてる。
白百合みたいに清冽な姿を見ていると、昨日の淫靡なやりとりが夢みたいだけど、そうじゃない。だって。
ごくごく時たま、僕に調布の視線が飛び、――頬が少し赤くなる。
他の子たちには、多分まだばれてない。でも紫藤は気づいてる。
だって、僕と調布の視線が絡むたびに、紫藤のオーラが黒くなってきてる。気が気でない。
その上。
3時間目の体育での水泳、どうも調布も参加したみたいなんだ。
乾かしきれなかった長い髪が、つややかだ。
昨日は、痕が残ってもいい、水泳は見学するから、とか調布は言ってた気がしたんだが。
スクール水着だから、確かにカバー範囲は広いとはいえ。
パドルの痕は消えるかもしれないけど、一本鞭の痕はさすがに消えないんじゃないか。
背中ほどじゃないけど、太腿にも一本鞭の痕を少し残した気がする。
まあ調布は弁も立つ。なんとか友人たちはごまかしたのかな?
だけど、きっと紫藤はごまかせない。
痕が残ってたら、僕と結びつけて真実を突き止めるだろう。
いずれにしても僕はすぐにはそれを調布本人には確認できなかった。
前の席の紫藤から、ノート切れ端に記された昼休みの呼び出しメモが僕に回ってきたから。
少し丸い字で記された、呼び出しメモには。
かわいい丸っこいドクロのマークが、メッセージの最後に書いてある。
怖い。
―――――
そういうわけで。
昼休み、僕は仮部室で。
紫藤の前に正座している。
紫藤は椅子に座り、僕は自主的にその前に頭を垂れている。
もちろん言い訳したいけど、まずは怒りをなだめなければならない。
誠心誠意、平身低頭、謝る。
それに対して紫藤がため息をつく。
「――志野くん。わたしは、怒ってるわけじゃないんだよ。」
嘘だ。
いや、本人的には、嘘を言ってるつもりはないんだろうけど。
この「怒ってない」って言いながら怒る人、やっぱり怒ってるんだ。
しかもすごいめんどくさい怒り方で。
要は、この言葉。「謝っても許さないよ?」ってことなんだよ。
でも。
これは、僕が悪い。――いや、僕が悪いのか?
僕って、そんなに悪くないじゃん。調布を救援しに行ったんだし。
善行を褒められるべきだと思う。
じゃあ、調布が悪いのか?――いや、調布も悪くない。
確かに紫藤継父に会うことを、もっと早く僕に言ってくれてたら。
そういう気もするが、でもそうしたら確かに僕は反対しただろう。
そうすれば、紫藤継父は紫藤の友人たる調布への悪感情を抱いただろう。
それは紫藤への悪感情にもつながって、紫藤が折檻されたかも。
場合によっては、これから先も紫藤の外泊が絶対禁止とか、束縛度が上がったかも。
そう考えると、確かに危険な行為とはいえ、調布の行為は一概には責められない。
紫藤継父が妙な攻撃を仕掛けてきたから失敗しただけで、もしそれがなければファインプレーだと思う。
紫藤継父からの次回の約束とかも躱したみたいだし。
あれ?だとすると?
一回転して、やっぱり僕が悪いのか?
僕はしどろもどろに紫藤に順を追って一つ一つ説明しながら、考えを巡らす。
調布から電話があり、救援しに行った。
うん、これはいい。立派な行いだよと、紫藤もうんうん頷いてる。
調布を助けた。そして調布に休んでもらうためにラブホに入った。
ここらへんで、紫藤の眉間に暗雲が漂う。
僕も自分で説明してて、なんでそうなったんだろう、と思う。
いや、調布に求められたからなんだ。だけどまあ、調布は悪くない。
確かにあの時の調布は足元もおぼつかなかった。気も動転してただろう。着替える必要もあった。
その調布の窮状を聞かされた紫藤の眉間の暗雲が、少し薄れる。
しかし。
ラブホに入った後、なぜか調布は休息も与えられず、すぐ着替えられた訳でもなく。
なぜか僕にギチギチ詰問され。あげくの果てには僕のを口で抜く羽目に。
悪いやつだな、弱った状態に乗じて調布にそんなことさせたやつって。うん。
あれ?
紫藤の眉間に雷雲がみえる。今にも稲妻が落ちそう。
「志野くん。
――申し開きは、そのくらいかな?」
あ、ハイ。
「分かってるよね。志野くん。」
確かに志野くんには、お父さんの救出とか、すごく頑張ってもらったよ。
感謝しても、しきれないよ。
それ以外も、いっぱい。
でもさ。
これはひどいよ。
さとみんを助けてあげたのはいい。
わたしだって、同じ立場なら、さとみんを絶対助ける。
でもさ、そのあとどうしてそうなるのかな。
わたしが、同じ立場なら!
うん、もしわたしだったら。
そしたら、わたしだって。
そのホテル入って、さとみんみたいに、志野くんと、いろいろ、――。
コホン。ともかく!
ちゃんと最後までじゃなく途中までにしたこと。そこはえらい。
情状酌量してあげるよ。
でもね。
志野くん、もちろん反省して。すごく。
そしたら、わかるよね。これからどう行動すべきか、――。
何か紫藤の怒りのポイントが違ってきてる気もするのだが。
ともかく、僕は紫藤に詰め詰めされて、いたたまれなくなり。
最後は紫藤の足にすがって、なんとか許してもらえた。
紫藤はやっぱり優しいからな。
足にすがって情けない顔で見上げると、さすがに
調布だったら、そのまま躊躇なく顔を蹴とばすんだろうけど。
しかもだ。
足にすがって上を見上げると、見えないけど、なんかすごくそそる。うん、思ったより見えないんだけどね。
いろいろお得だ。
「じゃあ、お昼にしようよ。」
ようやく立ち上がって普通に座ることを許され。
手を二人で洗いに行き、お弁当を広げる。
紫藤もようやく怒りを解いて、うれしそうににこにこしながら卵焼きを口に入れてる。
僕にもくれる。僕もシャケを紫藤にあげる。
ほのぼの時間。
もう大丈夫かな?
僕も自分のお弁当を食べながら、そっと探りを入れてみた。
「みなり。実は、聞きたいことがあって。
ほら、今日の3時間目。女子はプールだったよね。
その。調布の、脚なんだけど、――」
なんか口に出してから、不味いことを言ってしまった気がした。本能的に身がすくむ。
紫藤の背後あたりから、謎の地鳴り音が響きはじめてる、気がする。ゴゴゴゴゴォォォ──
「志野くんは、さっきまでわたしが言ってたことを忘れてしまったのかな。」
紫藤が悲しそうな顔をする。
やめてくれ、そっちの方が軽蔑や怒りの視線より僕の心臓にグサグサくる。
「志野くんには、反省の態度がみられないよ。
確かにわたしの体は貧弱かもしれないけどさ。さとみんと比べたら。
でも、――」
「みなり。違うんだ!これは、――」
僕は白状する。
それまで、昨日のことは、「気分が悪くなった調布を、やむを得ずラブホで介抱したりした。そのときに僕は調布に怒ってしまって、きつく問いただした。その後、やむを得ず一緒にお風呂に入った。そして、やむを得ず口で抜いてもらった」って感じに、伝えてて。
調布をギチギチ責め上げたって、言ってなかったんだけど。
調布に問いただすときに、聞き出すためにちょっとその、脚とかお尻とかをピシッと叩いたりした、っていうふうに、説明を付け加える。
うん?どこを叩いたの、って言われても。
そうだね、背中とか、お尻、大腿あたり。
いや、ちゃんと調布が答えてくれなくて、頭にきちゃったんだ。
それにさ。
だいたい男に一人で会うなんて。危険だよね?
ましてや相手は。後で白状したけど。みなりの、あっちの、今のお父さんだったんだよ。
たしか前、紫藤も気を付けてねって、調布に言ってくれてたよね?
僕も、調布が心配で。
ついカッとなった。今は反省してる。
結構、きつく叩いた。うん、手とか、板や紐みたいなのとかで。いっぱい。けっこう激しく。
だから、後から冷静になって、気になってしまったんだ。
調布の脚とか背中とかに傷とか痕とかって、残ってなかった?
そう、聞いてみる。
「え?うーん、なかったよ?」
紫藤によると。
紫藤があまり気にしてなくて見てなかったから気づかなかったということは、ない。
それどころか。
どうも紫藤は、着替えの時に調布の体を目の隅からガン見してたみたいなんだ。
なんてつやつやした健康そうな肌なんだろう!って。
確かに、紫藤も調布も色白だけど、調布の方が血色がよくて健康そうだったかな。ピンク色っぽい感じで。
そして、紫藤はいう。
もちろん、紫藤は泳ぎの合間で順番待ちしている間も、調布の次の順番ですぐ近くから見てた。
その記憶を探っても、太腿に傷があったなんて思い出せない。
太腿の前側つまりお腹側だけじゃなくて、裏側つまり背中側も、だ。
なんてきれいなんだろうって思ったのが、はっきり記憶に残ってるそうだ。
「だから。
きっと志野くんは怒ってても、優しいから。
きっと自分では強く叩いたつもりでも、そんなに痛くて痕が残る感じにはならなかったんじゃないかな。」
ぱちっと叩かれて赤くなるのでしょ?あれ、アイスノ○とかで冷やせば結構消えるよ?
さとみんも、そうしたんじゃないかな。
叩かれたときは、痕がついてても。
朝になってみたら消えてたから、水泳も出たんだと思うよ。
それにさとみんは。水泳もすごいんだよ!
ほら、あのドルフィンキックっていうんだっけ。あれとかさ、――
紫藤が脇道にそれ、にこにこモードに入ったので、僕はほっと胸を撫でおろした。
でも、やっぱりちょっと気になる。
なんか醜い嫉妬に駆られてたあのときの僕は、相当の力を込めて調布を打った。
確かに、裂傷はつけないように打った気がする。
だけど、相当強く叩いた。内出血の赤い痕が、残ってたはずだ。
後で、黒っぽくなったりしてもおかしくないくらいに。
一本鞭も使ったから、僕が気づかなかっただけで、多少は裂傷ができててもおかしくはない。
まあ、やりすぎた詫びも再度言うことにして、後で聞いてみよう。
―――――
紫藤継父についても聞いてみた、時間から判断すると、昨日は調布と別れた後はまっすぐ帰宅したみたいだ。
まだ出張から帰った後の温和モードが継続してるらしい。よいことだ。
ただ、やっぱり調布に陰湿な攻撃を仕掛けてきたことといい。本当に反省したなんてことはないはずだ。
またそのうち、化けの皮がはがれるだろう。
だからその点は気を付けてほしいと言い、変化があったら教えてくれるよう頼んだ。
「それで、志野くん。」
えっへん、と紫藤が胸をそらせる。
「今回は、さ。せんえつながらわたしが志野くんに勝ったんだよ。」
「そ、そうだな。偉い偉い。」
例の定期試験での勝負のことだろう。
「もちろん、お願いを聞いてもらえるよね。」
「ああ、もちろんだ、――もう、決めたの?」
「うん、だいたいは決まってるんだけど。でも、細かいところをいろいろ考えてるよ。」
そう、にこにこしながら紫藤が言う。
かわいい。
「またピクニックとか、行きたいんだよ。ふたりで。」
なんて小さな、ささやかな要望だろう。そんなの、勝負で叶えるようなことでもないのに。
時間ができたら、きっと行こう。この週末でもいいくらいだ。
僕はそう思いながら、二人で行き先についていろいろ提案しあった。
これまでは山に行くことが多かったから、海とかでもいいな。貝殻とか、変な形の流木とか拾いたい。
あるいは、サイクリングで古墳群とか見に行くのもいい。
そんな感じで紫藤とはひととおり、計画を立てた。
今週末か、来週末。まだそこは、詰めてないけど。
ピクニックに行こう。それは、約束した。
楽しみだ。
――――
午後の授業も終わり、今は最後の現代文。
あの須苦原先生が担当だ。ちょっと頭が良くて面白くて、でも調布は苦手にしてる先生。
多分だけどな。須苦原先生、調布のことが気に入ってるんじゃないかな。
なんの根拠もないけど、そう思う。
先生は女子生徒に距離が近いけど、特に調布にはどっか特別扱いしてるような気がすることがあるんだ。
それはともかく。
授業冒頭で、いきなり手作りの小さな冊子が配られた。
この前作った、俳句とか短歌とかの講評らしい。先生の担当してた3クラス分。
名前は出ていませんが、イニシャルは出ています、――といったとたんに、ええーっという声。
僕もちょっと青ざめる。うん、すごくこっぱずかしいのを作った覚えがあったから。
紫藤に目をやる。耳と首筋がかすかに赤い。
さては、やらかしたな。
ちらっと調布の後姿をみる。すました感じに背筋を伸ばした姿。
流石だな。あいつなら読まれても大丈夫な作品を作れたんだろう。
作品集は、作品と先生の簡単な講評がついてる。ところどころにヘタウマな猫の絵が描いてある。
そして、こともあろうに。
先生が、後でゆっくり読んでくれていいんですが、印象に残った、良いと思った作品をいくつか紹介します、などと言いながら作品を紹介し、講評を読み上げ始めたのだ。
―――――――――――――――――――
シュートして落ちる一瞬無重力 地球も僕も同じ天体 (J.K.)
(講評)これは、きっとバスケットボールの試合ですね。作者はバスケットボール部の選手で、きっとジャンプショットか何かを入れてから落ちるまでにこのような無重力の感覚を覚えたのでしょう。それが月や地球と同じ、天体のようだったという発見が面白いですね。
―――――――――――――――――――
先生が読み上げて、私はこれはとってもいいと思いますねー、でもバスケットボールなんて全然できないんですが。運痴で。ええ、悪かったですね!と言ってみんなを笑わせてる。
うーん。イニシャルわかると、高頻度で作者がわかるぞ。
このJ.K.は、たぶん神奈川純だ。ほら、あいつ顔伏せてる。
でも僕もこの一首。結構青春っぽくていい感じだと思うよ。
―――――――――――――――――――
柱廊を友とさざめきすぎゆく君
(講評)これは、きっと好きな人と渡り廊下か何かですれちがった様子を詠んだ作品ですね。笑いさざめきながら通り過ぎる、ちょっと気になる人。でも自分は認識してもらえず、心がまるで不安定な水面の上のボートのように揺れているのでしょう。なんだか甘酸っぱくて、もう青春爆発しろよって感じです。
―――――――――――――――――――
先生が講評を読み上げただけで、みんな笑う。女の子たちが、ねーねーこれだれ?とか少し声を上ずらせてさざめきあってる。
もう当たって砕けて裂けて散ってくれって感じですよね、と先生がまた余計な一言。みんなウケてる。
これ、誰かわからないけど、相当恥ずかしいぞ。マジかよ。
うん?高木がなんか固まってる。あれ、高木の下の名前って、圭次だったっけ。
じゃあ、もしかすると、相手って、鶴見さん?
鶴見さんは前の方でお友達と何かしゃべってる。まったく自分のこととは気づいてない感じだな。
―――――――――――――――――――
鳴く蝉に背中を押されて歩きだす 進みゆく君残される僕 (●.S.)
(講評)これも青春って感じですね。夏の盛りの一シーンなのか、それとも心象風景なのか。日々、成長していく、眩しく目に映る思い人。そして、それに比べて全く成長が実感できない無価値なままの自分。
こういう劣等感、身に染みる実感がありますね。でも現実もそうだとは必ずしもいえません。無価値だ、成長できてないって思いこんでる君も、世界でたった一人の価値があるし、しばらくして振り返ると大きく成長できてることがわかると思いますよ。
―――――――――――――――――――
ああ、変な汗が出てきた。これ、僕が作った奴だ。
なんとなくかっこよさげな言葉を気分で連ねただけだ。ただ、作った時はなんか紫藤のことを考えてた。
紫藤が変わっていって、僕を離れてくれても構わない。ただ、幸せになってくれれば、って。
でもな。本当の率直なところを言えば、僕は強く紫藤に執着してしまってる。離れるなんて、今ではムリ。
あれ、紫藤は多分気づいたな。机に伏せちゃったよ。こっちに調布もちらっと視線を投げる。気づかれたな、多分。
講評はまじめに書いてくれてるのに、先生からは相変わらず辛口の口頭コメント。ぐぬぬ。
男子とかどっと笑ってるけど、僕知ってるぞ。
パリピ的に陽気に過ごしてる風に振る舞ってみせてるお前らだって、結構内面は拗らせてるんだろうが。
―――――――――――――――――――
眠たげな君の横顔みるだけで 早まる鼓動熱くなる頬 (M.S.)
(講評)これは解説不要ですね。片思いなのでしょうか、それとも両想いなのでしょうか、もうそれも詮索不要という感じですね。詠み人が、眠そうな男の子あるいは女の子を想う素直な気持ちが伝わってきます。誰かを好きになる、透き通るような熱情が感じられます。
―――――――――――――――――――
これ、間違いじゃなければ紫藤だよな。
あ、紫藤が固まってる。後ろからみると耳が赤い。やっぱり紫藤だな、これ。
僕を詠んでくれたのかな?だったらうれしい!
だけどな、僕。眠そうに見えるのかな?
あ、いや。黒歴史を思い出したぞ。タイムリープしてきたとき、僕は眠りこけてるって思われてたんだ。
それに最近も、忙しくて確かにちょっと眠そうにしてたのかもしれない。ううむ。
コメントとして、先生がまた余計な一言。言っとくけど年をとっても人を好きになることはあるんですよ!ただ、年を取るにつれて純粋さがなくなってド汚くなっていくんです、などと言っている。
僕も年取ってるし、ド汚いのかな。うーむ、そうかもしれない。
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息切らし転びながらも追っていく いいんだたとえ追いつけなくても (T.U.)
(講評)これは部活の一場面でしょうか、それとも目標を追う心象風景でしょうか。どちらもありそうですね。部活だとしたら、試合の一場面。弾かれたボールを追っていくさまが目に浮かびます。それとも、思い人を追う心なのでしょうか。ひたむきな様子が印象深いです。
―――――――――――――――――――
これ、宇都宮さんかな?バスケ女子だったと思う。
やっぱり先生が講評とはかけ離れた拗ねたコメントを言ってて、みんなが笑ってる。宇都宮さんも笑ってるから、作者じゃないのかもしれないな。
イニシャルとは言え名前がわかったり、少し作者の属性に言及したりというところは、プライバシーの観点とかがうるさい今っていうか20年後には眉を顰められてしまうのかもしれない。でも僕自身はこんなのも結構面白いやりかただと思う。恥ずかしいけど。
それにしても短歌だけでなく俳句もあるが、意外に短歌が多い。みんな真面目だね。
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放課後のトイレの鏡に映る顔 とっても嫌い、でも好きになりたい (U.T)
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え?鶴見さんかな。他クラスかな。
鶴見さんって結構リア充女子っていうか、すごく毎日を楽しんでる女子高生って感じだと思ってたんだが。
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夜ひとり心の中の呼び声に耳を澄ませばざわめく心 (T.W)
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若山君かな。大人しくて内向的だけど、実は豊かな内面世界とか持ってそうだ。
ただ若山君、表情はまったく変わらないな。先生が持ってる別のクラス、Eクラスとかの生徒かもしれない。
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夕焼けと目にやきついてわすれない 黒板みつめるきみの横顔 (R.A.)
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これ、青山だよな。なんか女子が気づいたのか、急に静かになってる。
僕も興味あるな。青山って誰が好きなんだろう?
調布とかじゃないといいけどな。でも青山の席、最前列からみて横顔って、調布の可能性もあるのか。
そして。客観的にみるとこの2人、ちょうどお似合いっていうか、2人とも頭が良くて容姿端麗で美男美女のカップルって感じに見えるし。
青山も、調布の塩対応時代も含めて関係はそこまで険悪ではなかったしな。
青山は良い奴だけど、さや当てなんてしたくないな。
だいたい僕は勝てないだろう。調布とかでないことを祈ろう。
そういえば、調布の作品ってまだ出てないな。
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好きだよと私を抱いた強い腕 叩いて縋って胸で泣きたい (S.C.)
(講評)これは事案ですね。みなさん、高校生は節度ある交際を心掛けましょう!
それは冗談として、ともかく思慕のストレートさ、熱さが印象的です。
作者は、与謝野晶子のように恋に身を焦がす情熱家なのかもしれませんね。恋愛沙汰にはもう縁のなさそうな評者からは何も言えませんが、言うとしたら、一生懸命悔いのないように生きてね、っていうくらいでしょうか。
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これ、――調布だな。
調布は取りすましてるけど、微妙に気づかれてるぞ。
でもさすがに調布は怖いからだろうな、女子グループはつつかない。えー誰―?って感じで。分かってるくせにぃ。
男子グループの特にノリのいい奴らが気づいて何かツッコミいれるかと思ったが、えーこれ、すげー、経験あるってこと?マジ?とか言う感じで、作者追及に行かない。先生の口頭コメントでもあまり跳ねたことは言わず、そのうち、次の一首が紹介され、流れてしまった。
これ。僕を詠んでくれた?そう思うのは自意識過剰かな。
でも、僕叩かれちゃうのか。あ、いや、うん、身に覚えがある。結構ひどいことしてる。昨日も。
調布から拗ねてるような視線が一瞬飛んできた。うーん、やっぱりそうかも。
―――――――――――――――――――
吹く風にきみが嫌いとシャウトする 友にも言えない風しか知らない(H.K.)
(講評)友達でしょうか、恋人でしょうか。面と向かって言えないのは、もしかすると表面上は当たり障りなくつきあってる恋人や親しい友人だったり、そうした親友の恋人や恋人の親友だったり、立場上はものが言いづらい先生や兄弟だったりするからなのでしょうか。でも、だれにも真実を告げられないながらも、風の中に叫ぶことができるそのあり方に、孤独でありながらもふっきれた自由な鳥のような姿が目に浮かびます。
―――――――――――――――――――
間違えてなければ、国領ハルカだ。みんなは気づいてない、いたっけ?みたいに首をひねってる。
あいつは、誰が嫌いなんだろう?
自意識過剰だけど。僕だったりしたら、へこむな。
でも、可能性はある。二股野郎だし。この作品を作った時期から言っても。
いや、あいつと付き合ってるわけじゃないし、あいつにどう思われたっていいんだけど。
でもあいつ、なんだかんだ言って、良い奴だしな。まっすぐだし。そんなあいつからみたら、二股野郎の僕は許せないってことになるのかもな。
人に言えないって条件も合致してるし。確かに紫藤には言えないよな。やっぱり僕かも。
それからもいくつか教室を爆笑の渦に叩き込んだり、みんなを静まり返したりする作品があったりして。
そんなこんなで、現代文の授業は終わった。
ホームルームの途中、調布に視線を投げた。調布が気づいたのか振り返り、一瞬、視線が交差する。
今日中に必ず話さないと、ってわけでもない。でも、できれば知りたいし、やっぱり謝っときたいかな。僕がやったこと、冷静に考えるとちょっと許されないよな。
放課後、仮部室で話したい。
紫藤はどうするかな。病院かな?日蔭谷も行くとしたら、結構時間なさそうだけど。