タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
ちょっとおしゃれな南欧料理店、「ラヴィアトゥール」。
まだ宵の口で、楽し気にさざめく声、グラスの音、カトラリーの音が響く。
街はずれに位置しているが、安くて美味しいワインと食事、お洒落な内装、過剰でなくカジュアルだが親切なサービスで、若い女性たちに人気のレストランだと、情報誌に掲載されてたのを覚えてる。
その一角。半個室になって落ち着けるスペースで、予約を入れていた女性6人組のグループが今しも来店して案内されている。
どの子も飛び抜けた美人というわけではないが、それぞれに魅力的で目を惹く美しさがある、――と思う。
私を除いては。
この6人の中に、紛れ込んでいる異物が、私だ。
どう考えても、場違いではないか。
だって、残りの5人はみんな二十歳過ぎの、それはもう花も盛りのお姉様方。
そこに、高校2年の小娘である、化粧の一つもしていない私、調布智美が紛れ込んでいるのだ。
しかもどういうわけか、恭しく6人掛けの長テーブルの真ん中の席に誘導される。
私、先に抜けるって言ったよね!?
だけど他の5人の女の子、いやお姉さまたちは、私が抜けやすい端っこを取ろうとしても。
いやいや、さとみさんがそんな席なんて。少しでいいからいてくださいよ。
私たち、お互いにまだ初対面だったりする子もいるんですよ。
そう言って、私を真ん中に据えるのだ。
いや初対面なら、なおさら初対面同士で親しみを交わす必要が高いんじゃないかな。
そう思うが、勢いに負けてしまったのだ。
「ねえ、サトミさん。どうしましょうか。」
県庁の職員さんだという、いかにもできる風の小柄な女性、永山若葉さん。
私の副官的な立場を自任しているらしい彼女が、右どなりの席から私に問いかける。
手に捧げ持たれたドリンクのメニュー。いや、そんなにしてくれなくても。
「そうですね、カジュアルなお店だし、皆さん、お好きなもので。」
あ、でも。
私はその、飲めないので。
ノンアルコールの飲み物にしようかしら。
そういうのだが。
「またまたぁ、そんなに気を使われなくていいんですよ。
まあ、お言葉に甘えて。私たちは、ワインからで、――いいよね?」
「いいとも!」「いい!」「OK」「白がいいです!」「みんな、白でいい?」「いい!」「最初白で、その後いろいろ!」「あれ、グラッパもある!」「何それ」「すごく強いお酒だけど、すごくおいしいの」「へー、それよさげ!」「後で試そうよ!」「あ、このサングリアも後で試そうよ」「ほんとだ、おいしそー」
なんであなたたち、こんなにノリがいいの。
特にあなた、南平陽乃さん。あなた、今日、「解放」されたばっかりよね。
ほんの少し前まで、死にそうな青い顔してたわよね。
もう晴れ晴れした顔で、すっかり場に溶け込んでるけど。いや、それはすごくいいことだけど。
なんとなく釈然としない気分を覚えながら、私は今日の1日を、思い返していた。
―――――
今日の朝。
――”(覆された宝石)のやうな朝。”*1
とある詩の一節を思い返しながら、私は手足を伸ばし、力を込めて伸びをした。
手足に、横溢する力を感じる。
やわらかい布団は心地よく、夢の続きへといざなおうとする。
それをまぶたに落ちる、カーテン越しの朝日の照り返しが、妨げようとする。
今日は学校だ。あいつにも、会える。
そう思ったとたん、現金にも目がぱちっと開いた。
そして。
昨日のことを思い出す。
思い出すと、顔に血がのぼってきて、今、自分の顔が、醜く赤くなってるだろうと分かる。
誰も見ているものはいないのに、顔を枕に埋めたくなる。
私が昨日、志野に何をされたか。
あられもない姿で屈辱的な姿勢を強いられ、その膝の上で尻を打たれ。
磔にされ、丹念に丹念に快楽と苦痛を擦りこまれた。
ばっと掛けふとんを蹴って跳ね起きると、少し端が剥がれた湿布が背中、お尻、太腿にへばりついてるのを感じる。
あ、傷。残ってるかしら。
今日の水泳、やっぱり休まないといけないかな。
もう、それもこれもあいつのせいだ。
―――――
言い訳はしない。でも。
今ではあのみなりの小父様の「煙草」が原因だと、ほぼ確信してる。
あれには、何らかのおそらくは合法的と言い難い成分が含まれていた。
今思うと、煙草を吸うと言いながら、小父様はほとんど吸い込んでいなかった。
指に挟んで灰皿に置き、自らは少し体を反らして、ゆったりと灰皿と距離をとって腰かけて。
慈愛にみちた(とそのときは見えた)表情で、私を見守っていたように見えたが。
あれは、自分は吸い込まないようにして、私が煙を吸うように仕向けていたのか。
とんだ食わせ者だったわけだ。
その、小父様の「煙草」の煙の話だ。
それに曝露した服は、今はビニール袋に密閉している。
密閉するときに服の匂いを吸い込んで、また軽く淫靡な気分になり、就寝前のシャワーで自らを慰めた。
そう、あの匂い。あれは、一種の媚薬なのだと思う。
おそらく、濃度が高すぎると強度の精神的不安や身体の機能低下をもたらす。
いわゆる、バッドトリップだ。
本来はごく薄い濃度で、使うものなのだろう。
薬と同じだ。
薬は容量により、毒にも薬にもなるのだと聞いたことがある。
そして、その媚薬は。
ごく薄くであっても、効果は強烈だった。
それで狂ってしまった私の言動を、思い返すと。
ああああと叫んで、頭を何かにぶつけたくなる。
とりあえずくまたろう(私が小学校のころに買ってもらった、大きなくまのぬいぐるみ)にぶつけよう。
くまたろうを召喚して、ぼふぼふとたたきまくる。
とにかくこの媚薬が、「その気持ち」を引き起こすのだ。
高濃度すぎて体調を崩したわたしは、おそらく志野にホテルに連れ込まれ*2、ブラウスのボタンを外されたときにようやく本来の作用が発生する状態に戻れたのだろう。
最初は、強烈な食欲に似た性欲。飢えているときに食物をみたときの食欲のような性欲を感じた。
志野を押し倒した。自分でもこんな力が残っていたのかと、驚くような力だった。
そして舐めた。舐めまくった。志野の汗を、肌を。
とてつもなく美味に感じた。舐めるたびに、力が湧き出てくるようだった。
足りなくて、肩口に噛みついた。ごくわずかに血がにじんだけど、志野は気づいただろうか。
いやもちろん、本当に美味しかったわけじゃないし、本当に力が湧き出たわけじゃなかったんだろう。
きっと、精神的な渇望が満たされたのだ。
そこから、さらに急激にバッドトリップから回復した。
志野は、なんて思っただろうか。
恥ずかしすぎる。変態だ。痴女だ。
くまたろうを叩くのをやめ、ぎゅむぎゅむと抱きつぶす。
その後、私は私を責め苛むように、志野を誘導した。
きっと媚薬のけしからん作用のせいだ。そうに決まってる。
もちろん私もちょっと変態なところがあると、自分で知ってる。
でも、そのわずかな萌芽を、あの媚薬は大きく拡大してみせたのだと、そう思う。
志野は私の誘いに乗ってきて。
私を小さな子供のように、その膝に乗せ、打ち据えた。
私は、とても恥ずかしい姿勢で、女の子の軽々しく見せてはいけないところをむき出しにされ。
男の大きな粗野な手で、無惨に打たれた。
結構容赦なく、強く。脳に響くくらいに。
そして不思議なことに、私はその痛みを痛みとして感じると同時に、どうしようもないほどの快楽に流された。
私はそれなりに自分に自信がある。
外見も一応普通以上だろうし、体も手入れをしてきた。
まあモデルさんとか女優ほどじゃ全然ないと思うけど、ときどきは美人と評されることもある。大女だけど。
それが、こんなにあられもなく、尊厳の欠片もなく蹂躙される、この理不尽さ、残酷さ。
自分がこんなにも理不尽な、残酷な責め苦を受けている、という被虐の実感が。
なぜか奇妙な、激烈な快感を私にもたらしていた。
その後、志野は一度は私を紳士的に扱おうとしたが。
再び私の誘導に乗り、私を磔にして責めた。
いや、私が誘導したというのは正確でない。
あれはもう、私と志野の共犯だったと思う。
途中から、志野も私に対する嗜虐心を、そして情欲を隠そうとはしなくなっていたし。
あれは、今思えばこの媚薬が志野にも影響をもたらしていたからだろうと思う。
そして理性の軛を解き放たれた志野は、またも熟練の手並みで。
私の防御を剥がし、私の反抗をこつこつと砕き、私をぎりぎりまで追い詰めた。
執拗な鞭やパドルでの苦痛、執拗な愛撫による快楽、そしてその両者の併存させたカクテルで。
もうあと少し、志野の責めが続けられていたら。
私は志野に屈服し、理性を失い、ただ快楽に溺れ、這いずりまわる獣に堕ちはてていただろうと思う。
思い返すと、危なかった。
そこまで回想して。
気が付くと、抱く腕に力がこもってしまったのだろうか。くまたろうがむぎゅと変形してた。ごめん。
腕を緩めて、くまたろうを撫でながら。
私は、薬くさい、湿布の匂い、そして足にまとわりつく感触を改めて思い出し。
おそるおそる、浴衣の裾をまくってみた。
どれくらい、腫れと内出血は引いただろうか。
おどろくべきことに。湿布を剥がしても。
私の見た限りでは、まったく傷らしいものを見つけることができなかった。
体をひねっても近くでは見えないので、鏡を使ってチェックする。
痕は何も、みあたらない。
おどろくほどの早さで、内出血は消えたらしい。
あざになりそうかな?と思った部分も、目を皿のようにしてみても目に見える痕はなく、押してみても何も痛みは残っていない。いつも以上に肌の状態はいい。
これなら水泳にも出られるだろう。最近、プールに行けてなかったから本当は出たかったのだ。
よかった。
幸運を喜んで、くまたろうをごめんねごめんねと撫でさすりまくり。
わたしは朝食をとりに、身支度しながら自室を出た。
―――――
学校で志野と顔を合わせる。
どうしても、昨日のことが思い出され、顔を赤らめてしまう。
どうもそれを、みなりには気づかれたようだ。
みなりがどこか不穏な視線で、志野をにらんでいる。
志野、ごめん。ごまかせなかった。
でも、志野も共犯なんだから。責任は半分取ってもらおう。
私も、みなりには謝らないといけないかな。
授業は進んで、水泳の時間。
冷たい水を切って、一匹の魚となって泳いでいくこの感覚。
やっぱり、好きだな。
力を100%ふり絞ってもいいところが、またいい。
たとえば志野がやってる卓球とか。
力を100%込めて打てない。打つと、コートに打ち返せない。
いや、技量のある人がやれば、また違うんだろうけど。
その点、水泳はいい。陸上はいい。何も考えずに、単純に、100%力を出していいから。
みなりからの視線を感じる。
うん、分かってる。謝らせてよ。
水泳の後の更衣の時間の後、教室に帰る途中に、みなりにそっと耳うちして、謝罪した。
「え?いいよいいよ、さとみんは。そりゃね。」
さとみんは、もちろん愛されていいんだよ。
わたしだって、愛されたいし。
わたしたちは、ふたりとも、同志だよ。
そう、わるいのは、志野くんだ。
分かってる、分かってるよ?
私に、そうみなりは柔らかく微笑んで言う。
確かに、どこかみなりの不穏な怒りが感じられるが、その矛先は私ではないようだ。
どういう論理か、そこがよく私にはわからないが。
みなりは多分、志野に対して不満を抱いている。
うーん。私も悪いんだけどな。
ちょっと良心が痛むけど、ここは志野に頑張ってもらおう。
誤解があったら、後で私が解こう。
その後。
昼休みにみなりは志野とおそらく話し合ったのだろう。
みなりはにこにことしていたし、志野も、基本的に外見を見る限りはとくに大丈夫そうで。
そしてみなりは、私にも、ちゃんと志野くんと話をしといたから大丈夫だよ!と言ってきた。
よくわからないが、上手くまとまったのだろう。
あとで会うから、志野にも聞いてみればいいか。
その日は、みなりは病院、私は美術部の用事で。
放課後に志野と仮部室で話し合った。
もっともそのとき、志野は何か寝ぼけていた。仮部室で誰かと話す夢を見ていたようだ。
ただ、志野は直前に誰か出てこなかったか、としつこく聞いていたが、私は何も見ていない。
いきなり志野が息を切らせながら、ドアを開けて飛び出してきたのだ。
おそらく志野が夢うつつで、何か内なる自分と対話する夢を見たのだろう。
そうそう。
志野が心配していたのは、私への鞭の傷のことらしい。
改めて謝罪され、心配そうに様子を聞かれた。
あとかたなく消えたことを伝えると、安心していたようだった。
よかったら見る?と誘いかけてみたい気もしたが、思いとどまった。
さすがにそれは痴女だろう。
いや、いまさらというか。
続きをしようと誘ってしまった段階で、もういろいろ手遅れな気もするけれど。
二人ともいったん部活に戻り、放課後、二人で下校した。
夏の風を切って走る自転車に、二人乗り。
私は彼の肩に手をかけて乗った。その力づよい肩の感触にドキドキしながら。
きらきら光る街路樹からの木漏れ日、吹き過ぎる緑の風、流れていく街の景色。
彼を過ぎてきた空気を、胸深く吸い込む。
楽しい。
この一瞬が、続いてくれたら。
その後、志野に何か好きだと叫ばれたりして赤面しながら、自宅に帰り着いた。
(ちなみに彼が執着して見つめていた中学生たちが好きかと聞いたので、私の方が好きだと言ったものらしい。分かってるけど恥ずかしい。)
後ろに志野の視線を感じながら、マンションのエレベータに乗り込む。
別れ際に手を振りたい、と思ったけど、私のキャラではないのでやめておいた。
恥ずかしかったというのも、ある。
多分、今振り向くと赤く染まった顔を見られるだろう。
彼は私をそのことで冷やかしたりはしない。そういうところは、大人だ。
だけどやっぱり、恥ずかしすぎる。志野にだけは知られたくないのだ。
私が彼に夢中だということを。
エレベータの上昇に合わせて、体に重力がかかり。
体の内臓が、芯が疼き、思わず吐息が出そうになり、かみ殺した。
認めよう。彼が欲しい。
唇に手が行きそうになって、かろうじて思いとどまった。
唇に残る彼の感触を思い出したいと私が感じていることを、自分でも認めたくない。
このままずるずると、彼に傾倒しきってしまいそうだ。
でもここで、踏みとどまらないといけない。
彼は、私のものになることはないのだから。
きりっ、と唇の端を噛み、その痛みで自分を我に返らせる。
到着音のベルが鳴り、私は息を吐きながら自分の家の階の廊下に降りた。
今日は、彼に日蔭谷に誘われたが行かなかった。
行きたくなかったわけではない。でも先約があった。
私が志野(たち)に秘密に進めている、ある仕事が入っている。
本当は志野にも相談すべきだったかもしれないけど、流石に志野を引っ張り込むのは悪いと思って。
最初は私が一人でやっていたが、少しずつ仲間が増えてきた。
私には荷が重い仕事だ。だから、仲間はありがたい。
自宅ドアを開ける。
考えてみると、かなり良いグレードのマンションだ。
裕福な親のもとに生まれたこと、感謝しないとな。
壁も厚く、防音にも優れている。
少しぐらいなら、叫んでも跳ねても大丈夫なくらいに。
親の不在時に志野を呼んで、そういうことをしたりしてもバレないかもしれない。
いや、違う。今のは考えただけ。考えただけだ。
男の子が、女の子を押し倒す空想をするのと同じだ。
頭を振って、鞄を置き、手早く着替える。
セミフォーマル。大人っぽい服装、OLさんっぽく見えなくもない服装。
スカートでなく、スラックスに着替えて、自分のデスクに向かい、今日の準備をする。
持っていくものを確認していると、電話が鳴った。
時計に目をやる。もうそんな時間か。
息を吸い込み、電話に出る。
「もしもし、私、永山と申しますが、調布さんのご自宅でしょうか。」
「はい。永山さん、私です。智美です。」
「あ、さとみさん!永山です、今から行けます!」
「わかりました。では、打ち合わせどおりでお願いします。先方との約束は7時、ダソキソドーナツ大工町支店前で。相手には、紺色のリュックと多賀島ウォーカーの雑誌の目印を伝えてあります。私たちは、7時の少し前に落ち合いましょう。打ち合わせ自体は、ダソキソの近くにある喫茶店、『ルクソール』で。調布の名前で個室がとってあります。」
「了解!」
今日は私と永山さん。
私は資料を入れた紺色のリュックを背負い、家を出るべく、ドアを開ける。
ちょっと迷ったが、時間はまだあるし、大工町は近くだ、自転車でなくても間に合うだろう。
深呼吸をして、やってきたエレベータに乗り込んだ。
ダソキソドーナツの前には、すでに永山さんが、到着して私を待っていた。
身を包む紺色のスーツ。落ち着いた風情のOLさんだ。手に多賀島ウォーカーという情報雑誌を持っている。
私より7歳年上にあたる。短大卒だと聞いたから、就職4、5年目くらいだろうか?
でも、私をみてぱあっと顔を輝かせる様子は、なんか年下の子のように見える。
本人も少し小柄だからだろうか。
「さとみさん!」
「こんにちは、若葉さん。」
腕時計を見る。もう少しだろうか。
「さとみさん。今日の方は、」
「ええ、まだ最近の方。彼は本性を見せたようだけど、本格的にカタに嵌められきってしまう前だったみたい。」
「そう、ですか。喜ぶべきなんでしょうね。取り返しのつかないことになる前で。――あ!あの方でしょうか。」
「そうみたいね。」
そこへ、おずおずと近づいてくる女の子の姿。
打ち合わせどおり、グレーのベレー帽をかぶった姿。
少し重たげな一重の切れ長の目、端正で、ちょっと厚めの唇、肩を少し超えるくらいの長い髪。
ほっそりとはしていない、肉付きの良い体。
もちろん太っているわけじゃない。運動してて、しっかり締まった体だ。
男の人には、きっと受けるんだろうな。彼の選択眼の良さ(?)を感じる。
だがその愛らしい顔は、今は緊張していて顔色が悪く、セクシーな唇も、かすかに震えている。
怖いんだろう。ちゃんと電話で説明はしたのだが、騙されるかもしれない、脅されるかもしれないと思っているかもしれない。
大学に通う傍ら、演劇サークルに加入し、劇団員をしていると聞いたことがある。
私は丁重に挨拶をして、写真でそれと分かってはいたが、相手に念のため素性を確認した。
そして、涼しい、話ができる場所に誘った。
ちゃんとしっかりした、個室で話ができる喫茶店だ。ええ、もう懲りてるし。
―――――
私は、彼、私の元家庭教師だった松浦美益から奪った記録をもとに、彼の餌食になった、あるいはなりかけていた女の子たちの解放運動を進めている。
とりあえずは、数人、手当たり次第に接触した。
最初は誤解を受けて怒鳴られたりもしたし、逆に泣いて感謝されたりもした。
そして。
今、私の横に座ってうんうんと劇団員の彼女、南平さんの話をきいている永山若葉さんのように。
同志ができた。
同志の数は、少しずつ増えてきた。
解放された女の子が、私と行動を共にしたい、と言ってくれて参加するパターンが多い。
中には、その友達までも加わるというパターンも。
ああ、とにかく。
そういう子たちで、ローテを組んで、彼の犠牲者たちを解放する活動を進めている。
さらには、女性解放活動のムーブメントに進展しつつあるらしい。
多賀島大学に、そういう非公式サークルができつつあるとか。
うーん、正直そこまでは考えてなかったんだけどな。
私は一人でこれをやるのがしんどくて、仲間が欲しかっただけなんだけど。
解放を進めるため、女の子たちを呼び出すときに。
ヒモみたいな男がついてきて、危うく戦いになりそうなこともあったから、仲間が欲しかった。
そう。この永山若葉さんも、そのパターン。
私の、元家庭教師に騙され、恥ずかしい写真を撮られて嵌められ、元家庭教師の知人のヒモに寄生されてしまっていたらしい。
ヒモがくっついてきて、私を脅してきた。
私は肚を据えて対決し、なんとかヒモを制圧し、若葉さんと手を切らせることに成功した。
ヒモ自身は若葉さんへの脅しの材料を持っていない、まさに寄生虫だったこと、松浦が改心してヒモに永山さんを解放するよう要求していたらしいこと、そしてヒモ自身にろくな戦闘力がなかったこと、ヒモには永山さんは唯一の宿主でなく、他に当てがあったらしいこと、といった理由で、たまたま上手く追い払えた。
ただ、永山若葉さんの目には、それがすごく英雄的な、それこそ白馬の王子様みたいに見えたらしくて。
私を慕ってくれて、副官的役割を買って出てくれた。
それ以来、永山さんも解放活動に積極的に参加してくれて。
おかげで、事務的なところや、説得とかも上手くいくようになり、すごく感謝しているんだけど。
なんか過大評価されてる気がする。釈然としない。
私はたかが高校二年生の小娘なのに。
その解放された子たちや、その知人たちが組織化されていく気配が、ある。
その中心人物が、私?
うーん。
そして。
今回、解放対象になった女の子。南平陽乃さんへの解放活動も成功して。
南平さんも、私たちに加わりたい、と自分から進んで申し出てきてくれた。
途中から緊張がほぐれ、今はキラキラした、憧憬のまなざしで私たちを。
――いや、主に私を見つめている。
うーん。
あなた、騙されやすいんじゃないかしら。
私は、そんな頼りがいのある女じゃない。私だって、たまたま助けられただけだし。
なんなら、陽乃さん、あなたも私より年上なんでしょう?
この私の横に座る、ちょっとみなりを思わせる彼女。
永山若葉さんもいけないんだ。
ほら、良い働きをしたでしょう?といわんばかりに、ほこらしげな目で私を見つめてる。
褒めてもらいたそうな仔犬みたい。ちょっとかわいいけど。
ちなみに。
永山さんのヒモの件で触れたように、私の元家庭教師である松浦美益も、独自に過去の清算活動を進めているようだった。
ちょっと古株(?)の子に接触したときに、彼の方から賠償と和解の提案が既に来ていると言っていた。
その子はこっちには加わらなかったけど、情報をもらうことができた。
どうも彼は女の子たちの直通の連絡先を、手元にもっていないらしい。
嵌めて売り飛ばしたようなパターンで、売り飛ばし先の連絡先があれば彼も動けるとか。
まあ連絡先は、あのファイルに書いてあったので、私たちは把握してる。
だから、今のところはお互いにあまり重複せずに活動してきている。
だけどそのうち、気は進まないが、彼の力が必要となる場合も出てくるだろう。
彼も、私たちの力が必要な場合がでてくるだろう。
そうなれば、一度接触して話をしないといけないだろう。
ただそのときは、彼。志野にも事前に打ち明けて話をしておこう。
なお、私の元家庭教師は、どうも大学に復帰して真面目に頑張っているらしい。続くかどうかは知らないけれど。
―――――
彼女、南平陽乃さんへの説明と、彼女関係のビデオテープや資料類の手交、消却方法等の注意等を告げた後。
どうやらこれから一緒にお食事に、という流れになってしまった。
どういうわけか、期待に満ちた視線を感じる。
若葉さんからも、そして陽乃さんからも。
見返すと、きらきらとした目がこちらに向けられている。
うーん。まあ、ちょっとだけ付き合ってあげても、いいかな。
連日レストランってのも、なんか気が引けるけど。
初対面の若葉さんと陽乃さんだけだと、話も続かないだろうし。
今日は母が遅い日だ。帰宅は9時くらいだろうから。
念のため、家の留守電にメッセージを残しておこう。
軽く軽食だけご一緒することにして、先に退席させてもらおう。
あれ。
小一時間くらいなら、と言ったとたん。
若葉さん。なぜそこでいそいそと電話を掛けに行くのかな。
仲間を喚ぶのは、スライムだけにしてこうよ。
だけど、なんだかそういう話になったらしく。
あと3人来ますから!近くの料理店、当てがあるんです。予約しておきますね?
と、満面の笑みで告げられた。
いいのかな。
だいたい私、未成年なんだけど。
さとみさん、お酒飲めないんでしたよね。大丈夫ですから!とか若葉さんが言い。
陽乃さんも、うんうんと微笑みながら頷いている。
まあ、しょうがないか。
私は若葉さんの会社の女の子に人気だというちょっとおしゃれなビストロに、連行されてきたのだった。
そして冒頭のように。
困惑しながらも、女の子たちに囲まれて祝杯(?)を上げる羽目に。
いや、楽しいし美味しいし、いいんだけど。でもなあ。
ちょっと釈然としない気分が残るのだった。
―――――
―――――
(第三者視点)
乾杯!と声をかけて、彼女、永山若葉は手に持った、磨き抜かれたグラスを干す。
永山若葉の左斜め前。中央の調布サトミの向かいに座る、今日、解放されて彼女らの組織に加わった、色白で魅力的な柔らかい頬をほころばせている、女子大生の南平陽乃も。
永山若葉の、調布サトミを挟んで反対側。つまり調布サトミの左側に座る、地元の食品会社の社員だという、少し浅黒い引き締まった頬と切れ長の目がどこか日本犬のようなひたむきな印象を与える平山公子も。
その向かい。つまり調布サトミの左斜め向かいに座る、メタルフレームの眼鏡をかけた知的な風貌の主婦、百草園子も。
永山若葉の向かい。つまり調布サトミの右斜め向かいに座る、まだ今風の女子高生っぽい、茶髪のフリーター、高幡冬灯も。
頬を緩めながら、ワインのグラスを掲げて、口にする。
そして一座の中央に座る、きりっとした顔立ちの長身の彼女。
調布サトミと名乗るそのミステリアスな女性も、少し戸惑うようにくっきりした眉を寄せながら、グラスを傾けた。
そのカジュアルでありながら流麗な所作に、永山は心臓の鼓動の高鳴りを感じる。
これではいけない。私はその趣味はない。
でもなんでこんなに、その、性的にも心惹かれるのだろう。
この子が私にとっての白馬の王子様だから、なんだろうけど。
目を軽く閉じてグラスを傾ける、調布サトミの白い喉に、視線が引き寄せられる。
もっとも彼女のグラスにだけは、ワインではなく。
赤いノンアルコールカクテルが入っていることを、この場の一同は承知していた。
本人曰く、まだ未成年ですから、と。
そんなはずはないのだが、まだ信頼を得られていないのかな、と永山若葉は考える。
まあいい、これからの働きでコツコツ信頼を獲得していけばいいんだ。
それに、信頼がまだ得られていないとしても、無理もない。
彼女たちは、それなりに光る、衆に優れた者たちで。
自分たちの容貌や能力にはそれぞれ自負を持っていたとはいえ。
皆、挫折を経験していた。
そう、あの松浦という悪魔的な頭脳を持つ青年に、騙され、罠に嵌められ、性的に搾取され。
煉獄の中にいたのだ。
目の前の彼女、いまグラスを置いた、この謎めいた美貌の女性に、救い出されるまでは。
それに、彼女らが優れているとはいっても。
この調布サトミのあふれる才気とカリスマに比べるべくもなく。
ここまで圧倒的だと、競う気にもならない。
ただ、憧憬の眼差しを寄せるだけ。
そして。
気がつくと、彼女に惹かれているのは、永山だけではないようで。
「サト様、きれい、、」
多賀島大学の演劇サークルで活動しているという、すこしエキセントリックな魅力を持つ、女子大生の南平陽乃。
グレーのベレー帽は、いまは外していて。
デリケートそうな白く柔らかい顔には、見間違いようのない憧れの表情。
感に耐えたように、口から呟きが。
うっとりとした視線、半開きの口。
考えが漏れてる、だだ漏れだよ。よだれも出そう。
かろうじて耳のいい私には聞こえたけど、本人には聞こえなかっただろう。
もし聞こえたら気持ち悪がられるかもよ?
あ、でもライバルが減るか。いいかも。
いや、私はノンケだ。ストレートだ。
そう、永山は考え。
ぶんぶん、と頭を振る。
隣から、永山ともすでに親しく面識のある主婦の百草園子が軽く肘で南平をつつき、「口に出てるよ」とか何かささやいたようだ、南平はハッとして口に手を当てた。
こっちは、これでいいけど。
問題はこっちか。
「ねー、さとみさん!」
茶髪のフリーター女。チャラい感じの彼女、高幡冬灯が。
年少の強みを活かして、なれなれしく接近を図ってる。
皆の警戒の視線を浴びつつ、平然と高幡冬灯は切り込みをかける。
「さとみさん、そのカクテル、美味しいんですか?」
「ええ、ちょっと苦いけど美味しいわよ。」
「ちょっと、味見してみたいなー、なんて?」
あ、仕掛けやがった!
一同の心情を文字にすれば、そういう感じで。
調布サトミに、皆の視線が集まる。
「ええ、そうね。試してみるかしら?――すみません!」
しかし、彼女はあっさりと高幡冬灯の間接キスの仕掛けを受け流し。
「これ、もう一杯ください。――ほかに、試してみたい方は?」
「あ、やっぱり私も!」「あ、私も」「うーん、平山さん、半分こしましょう?」「ええ」「じゃあ、3つで!」
そういうことになった。
目論見を外された高幡冬灯は、皆の抜け駆けを咎める視線にめげず。
さらに切り込みを図ろうとする。
しかし。
「さとみさん、これ美味しいですよ。いかがですか。」
そっと、メタルフレームの眼鏡を掛けた、鋭角的な細面の百草園子が、声を掛ける。
今は専業主婦をしているが、大学院修士課程に在学していたという、いかにも知的な風貌。
前菜料理はそれぞれ手元に来ているが、軽くつまめる小海老の揚げものがテーブルに来ていた。
取り分けられて、差し出されたお皿を、調布が感謝して受け取る。
もちろん、他の参加者の分も。
調布は、それを口に含むと。
きっとおいしかったのだろう。
その頬をうれしそうに、ほころばせた。
あ。ポイント堅実に稼いだな。うらやましい。
それにしても、――サトミ様は、美しいだけじゃなくて、かわいい!
尊い。愛でたい。
みんなの心の声は、最大公約数としてはそういう感じ。
そこでひとまず、皆、手元のアンティパストと海老を摘まみ、ワインを味わい。
いろいろと当たり障りなく、解放後の近況とか、活動の話とかをして。
「さとみさん、」
今度は調布サトミの左に座る、平山公子がおずおずと声を掛ける。
平山の外見は、どこか有名な女子テニス選手を思わせる。
高校時代までは剣道部だったというが、肌は農家である親の手伝いで日焼けしているのか、やや浅黒い。
ストイックな引き締まった体つき。大きくはないが、一重の切れ長な目は、日本犬のような印象。
学業成績は優秀だったが、進学する余裕がなく高卒で地元の食品会社に勤めていた。
黙々と働く単調な生活に疲れを感じていた勤続6年目に、友人の紹介してくれたお見合いパーティーで松浦に出会い。
真剣な交際と思っていたところ、騙され、脅され。
ずるずると堕とされ、ほとんど松浦たちのグループの共有玩具、奴隷状態になりかけていたところを、調布に救われた。
「え?何、公子さん。」
「私も、さとみさんのお手伝いができますか。」
私も、お手伝いしたいです。
私は、永山さんみたいに頭は良くないけど。
薙刀と剣道なら、自信があります。
それは、あまり口数が多くなく、人づきあいがうまくない彼女にしては、精いっぱいのアピール。
もちろん、この女性。調布サトミは。
勇気を振り絞ったその言葉に、ふんわりと包み込むように、うれしそうに。
「ええ、もちろんよ!」
花がほころぶような笑みを返す。
心強いわ。ヒモみたいな男が来た時に、対処が難しいのよね。
大変だけど、お願いしてもいいかしら。うれしいわ。
そう言われて。
公子は、自分に注がれるその笑みに、じわあっと体の芯が熱くなるような思いがする。
なんだか目蓋も少し、熱い。
なんだろう。この感覚。
初めてかもしれない。
そう、外見からは想像もつかないくらいチョロい公子が、感動に浸っているとき。
公子の、右斜めの向かい。
調布サトミの向かい側、多賀島大学に在籍している南平陽乃も、あわてて手を上げる。
数か月前、素行不良で劇団を追い出された、知り合いの元劇団員の誘いを断り切れずに誘い出され。
松浦一味の卑劣な計略に堕ちて。
脅迫が始まり、食事も喉を通らず、大学も不登校気味になり。
次回に心を決めろと脅されたまま、放置気味に1か月近くが過ぎ。
精神的に落ち込み、思いつめていたところに調布から連絡を受け、そして解放を告げられたのだ。
「はいはい!あたしも、あたしも!何かお手伝いしたいです!演技なら、自信があります!」
「ありがとう!演技できるなら、ちょっと試したい作戦があるの。
でも、陽乃さんはまず、今学期の単位を頑張ってもらおうかしら?」
生活が乱れてるって聞いたし、まずそちらの立て直しが先でいい。
でも、余力ができたら。是非お願いしたいです。
そう、温かみのある声で言われて。
「え、そうですよね。えへへ、――」
頑張ります。もう大丈夫!
大学にもあまり行けてなかったけど、明日は必ず行きます!
くすぐったい思いで、そう伝える。
慈愛の笑みを浮かべてくれる、白い大輪の百合のような女性に。
会っただけなのに、自分の困窮状態を気にかけてくれてるんだ。
ここ数か月、引きこもりがちだったけど。
きっと大丈夫、立ち直れる。立ち直らなきゃ。
そう思う。
「それで、サトミさん。」
この集まりにおける、副官を自認する永山若葉も。
「サトミさんの肌。すごくきれい、まるで高校生みたいです――」
機をみて、積極的に、その手を取って。
ライバルでもある仲間たちにで遅れないように。
調布サトミとの間を詰めるのであった。
仲間たちの羨望の視線を浴びながら。
―――――
「ごめんなさい、今日はありがとう!とっても楽しかった!
でも、門限があって。お先に失礼します。」
調布サトミと名乗る女性は、そう言って申し訳なさそうに財布からお金を出し、追うように席を立った、会計担当に収まっている永山にそっと手渡す。
「いいんですって。サトミさん、高校生ってことになってるんですよね!」
もちろん、誰も調布サトミを高校生などと思っていない。
落ち着いた挙措動作、母性すら感じさせる包容力、凛とした指導力。
きっと自分(たち)より、少し年上だろう。経験を積んだ、何らかの組織の敏腕エージェントに違いない、と皆思っている。
そう、内調とか、公安とか。
しかし、その豊富な経験を伺わせる物腰とはそぐわない外見。
どんな風に、その少女のような咲き誇る若さを保っているのか、永山若葉も、他の皆も、知りたいと思っている。
外見は、本当に高校生と言われても納得してしまいそうな、青い果実のようなみずみずしさがあるのだ。
本人に聞いても、「いや、本当に高校生なんですよ。」と冗談ではぐらかされてしまう。
「いやそんな、悪いです。これだけは、払わせてください。」
まあ、いい。
肌のお手入れの秘密は、きっと国家機密なのかもしれない。
お金も、領収書がなくても出るお手当てがあるのかもしれない。
そこのところは、まだ打ち明けてくれなくてもいい。
私たちも、まだ力不足だし。
ちょっと寂しいけど、また認めてもらえるよう、がんばろう。
それより、何より。
この謎めいた美女は、私たちを救ってくれた。
どこまででも堕ちていく滑らかなアリ地獄から、救い出してくれた。
それで十分だ。
特に地獄を垣間見たこともあるメンバーは、もはや盲信に近い崇拝と親愛を彼女に寄せつつあった。
彼女の去った一座は、しばらく静かになり。
ほうっ、とため息が誰ともなく漏れ。
そして、また笑い声が復活する。
「んもう!躱わされたー!」
高幡冬灯が、プリン頭をかきむしって。
一同に、笑いを提供する。
「そういえば間接キス。良いアイデアでしたのにね。」(百草園子)
「モグちゃんも!こっそりスプーン、入れ替えようとしたでしょう!」(高幡冬灯)
「ええっ!そんなのありなの!?」(南平陽乃)
「アリアリですよ?でも失敗しましたけど。」(百草園子)
「さすが、既婚者!」(高幡冬灯)
「今回は、あの手に触れた永山さんが、唯一の成功者ですけどね。」(百草園子)
皆の羨ましそうな視線が、永山若葉に集まる。
「いえいえ、そんなそんな。
そういえば公子さん、頼りにされてましたね。」(永山若葉)
あわてて、サイドに振る。
「うれしいけど、――もっとしゃべりたかったです。」(平山公子)
「でも、今度は確実に連れて行ってくれそうでしたよ?お話する機会、きっとありますよ。」(永山若葉)
「私もボディガードとかできたらいいんだけどなー。」(南平陽乃)
「あ、陽乃さん。実は、今度の作戦、陽乃さんに期待大なんです、――」(永山若葉)
「えー!そうなんですか?」(南平陽乃)
「え!なになに、どんな?」(高幡冬灯)
「詳しいことは言えないんですけどね、今度のターゲットが結構、アプローチが難しい状態で、――」(永山若葉)
「作戦に参加したら、――接触、できます?」
「ええ!私はこれまで数回お供して、あの方とダソキソドーナツを分けあったこともあるんですよ?」(永山若葉)
えー、うらやましい!
じゃあ、私も!
あたしだって!
ボディガードがんばります。道場の朝練も、さぼってたけど行かなきゃですね。
ねえねえ。その作戦でドロドロに頑張った後。シャワーとか一緒に、浴びたりできるのかな?
うわー、いいシチュエーションです!捗りますね!
絶対目の隅から、見ちゃうよね?
あー、ピンチのさとみさんを、救い出したりしたい!キミコちゃん、うらやましー!
ねえ、演技ってどんな感じかな。抱き合ったりとか?
あはは、そんな都合のいいシナリオ、ないって!
そんなふうに。
一同は額を寄せ合い、情報を交換し。
その結束と、リーダーたる調布智美への一方的な愛と忠誠を高めていくのであった。
―――――
「ん?水泳の後、髪を乾かさなかったからかな。――なんか一瞬、寒気が。」
そのころ、調布智美は。
帰宅途中で、不意に出たくしゃみをいぶかしんでいた。