タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
書きたいことがいくつかある中で「どっちが先か?」とか迷っていて進みが遅くなっていましたが、なんか決心が固まり、――ええいっ、と書きたいことを書いていってみることにしました。
志野視点です。
125 王国は常に爾の胸に(1)(志)
目の前の小さな頭蓋骨を見つめる。
調布を家に送り届けた後。
僕は普通にまっすぐ家に帰り、普通に夕食をとり、普通に日課を済ませた。
両親におやすみを言って、ふとんに潜り込み。
寝静まったころを見澄まして、そっと起き出した。
両親も寝付くのはかなり遅い。11時すぎくらい。
僕はわりと最近忙しかったし、中間試験前あたりは午前2時くらいまで起きて勉強していたこともあった。だから、まあ夜遅く起きてるところを見られても問題はない。
けれども、この頭蓋骨は見られたくない。だから、寝静まるのを待った。
頭骨をみる。
猫や犬のものではない。人間のものに近い。ただ、明らかに小さい。
そしてこれは僕の直感にすぎないのだが、子供のもの、という感じがしない。
たまたま百科事典に載ってた、大人と子供の年齢別の頭骨の写真と見比べてみる。
9歳児のあたりから、まあまだ少し頭の、目より上の部分が大きいけど、基本的には各部分の比率が大人の頭骨と近くなるのかな。
だが、この目の前の頭骨。
大きさからすると4、5歳児くらいの大きさか、下手するとそれより小さく見える。そして、そのあたりの小児の頭骨は、僕の目にはこの目の前の頭骨とはかなり違ってみえる。簡単にいえば、その歳あたりの小児は、目の上の部分つまり頭が大きいんだ。
同じく写真がついてた、フローレス原人のものとも比較。
しかしな、これとも違う。これは逆だ。こんなに目の上の頭蓋の部分は小さくない。
もっともそこらへんは、個性かもしれない。今の日本人でも、頭の形なんて色々だよね。絶壁だったり丸頭だったり。
まあ、いい。重要なのはそこじゃない。
この頭骨が備えている、奇妙な力が問題だ。
前回、文化祭の前の日。7月13日、約一週間前。
あの日の条件を思い出す。
満月に近い月の光を吸い込み。光を発していた。
超感覚なんかない紫藤でも、すごく注意すればその発光に気付くくらいの光を。
今日はちょうど半月の月は、まだ出たばかり。
地平線近くの月は、大きく少し赤みがかって見える。
投げかけられた月の光が当たってる机の上に、頭骨を置く。
うん、吸い込んでるのかな。よくわからない。
超感覚さんを呼び覚まさなきゃ。
息を止めてみるが、まあ危機感みたいなのがないからか、発動しない。
飯場の時は発動したけど、あの時は身にひしひしくる危険があったからな。
ううむ。
次だ、次。
別の形のドキドキを試そう。
まあ男の子だったら、誰でも持ってる秘密の図書館。
うん、片思いの子の写真とか。新聞のちょっと妄想をかき立てる広告とか。勇気を出して買ったちょっといかがわしい雑誌のグラビアとか。
僕の場合は本棚の奥にそのスクラップ帳を隠してある。
取り出して、眺めてみる。
うん、今になってみると、それほどドキドキしないな。
いや、興奮するはするんだが、超感覚さんが起きるほどじゃない。
紫藤とか調布とかといろいろあったし。うん。
しかたない。
頭の中で合成してみよう。
こんな風に、紫藤が服を剥がされたり。
囚われた調布が脚を抱え込まれて、ほらこんな感じに、――
んでもって、それを見せつけられながら、なすすべもなく筋肉男に首を絞められてる自分を想像。
よし。一発で発動したぞ。ちょっと大事なものをなくした気がするけど。
まず周りを見回さなくても、強烈な緑の光が舞ってるのが分かる。
机の上の緑の炎に包まれた頭骨。そこから1筋のやや太めの光。2筋の中くらいの光。あと数筋、細い光。それより細い筋もありそうだが、ほとんど見えない。
できるだけ音がしないようにベランダの窓を開け、月の光を吸わせながら、太い筋、中くらいの筋の3筋の光の方向を確かめる。
一番太い1筋は、多分学校だ。あの旧校舎の階段の鏡に続いているんだと思う。この太い光も、あの文化祭の前夜に見たほどの太さではない。多分、距離によってある程度減衰するんだろう。
2つの中くらいの筋のうち、やや太い1筋は街はずれに向かっている。
正確な方向を、紙に記録。
もう一筋は、北西方向か。紫藤の家の方向に近いが、ちょっとズレてるな。これはやや細い。
あと数筋の細い筋は、これは太さと近さに相関性があるという仮説からすれば、かなり遠くなるのかも。でも一応メモった。
多分だが、近い大都市に向かってるような気がする。
さらに小さい筋は、遠い大都市だろうか。海外かもしれないが。
この筋。僕の目には「光」に見えてるけど、本当は違うのかもしれないな。普通なら可視光線じゃないか、そもそも光ですらない何かをむりやり視てる感じに翻訳してるのかも。
ともかく。
あの日。僕と紫藤がタイムスリップしたときは、満月に近かった。時間は真夜中くらい、月はかなり傾いてた。
あれから月はどんどん欠けていってて、月の出の時間も遅くなってる、はずだ。一日4、50分くらい遅くなる。
今日は半月、しかも月は出たばかり。
小さなリュックに頭蓋骨とタオルと筆記用具を入れ、立ち上がる。
そっと着替えて靴下を履き、部屋を出て。
玄関ドアを、細心の注意を払って開けて出る。足音を忍ばせて下りる。
下に降りる階段の明かりには、小さなカナブンみたいなのがまとわりついてる。近くの山から飛んで来るんだ。
子供のころはそういう虫を集めるのが好きだったな。今でもちょっぴり。
だってときどき、雌のカブトムシとか大物がいたりするんだよ。まあいいけど。
下に降りて、駐輪場から自転車を出す。
学校の筋は、分かってる。今忍び込むのも、準備不足。それも分かってる。
街に続く筋。これと、北西の山の中に伸びる筋。どちらかの場所を、確かめたい。
今日は、近場の街に続く筋か。
走らせているうちに、確信が持ててきた。
この筋。多分、あのあたりだ。
調布とこの前入った、アステロイドプラザ裏のホテルの近くじゃないかと思う。
―――――
自転車を停め、もう一度頭骨を取り出す。光の方向を確かめる。
超感覚さんは出力低めで、粘り強くまだ続いてる。
この超感覚が続いたり続かなかったり、ってのもよくわからないんだよな。まだ欲しいのに終わっちゃったりすることもあるし。
残念ながら、光が続いていたのはあのホテルミニマスではなかった。うーん、近いは近いけど。
アステロイドプラザ裏の小さな山。その山の、街の方向からみて回り込んだあたりだ。
距離的には遠くないけど、交通の便があまり良くない。都市部から丘陵地帯に切り替わるあたりの、丘陵地帯側って感じ。
古い廃業したレジャーランド。遊園地だな。
観覧車、ジェットコースター、そして回転木馬とかの遊具があるやつ。
といってもあの市川市の例の某リゾートとか、富士のなんとかハイランドみたいなすごい大きさじゃない。面積は花やしきより広い、でもアトラクション密度でははるかに及ばない。
いくつかの大型アトラクション以外はしょぼくて、百貨店の屋上よりはまあ多少ある、って程度だろう。
ペンキ剥げてたりするところもあるけど、遠目では保存状態も悪くなさそうにみえる。今でも少し手を入れれば、使用に耐えるかもしれない。
ほら、もっと荒れてると不良が入り込んで肝試しとかするじゃないか。特に市街地に近いと。でもあんな感じじゃ、まだなさそうだ。
日中は警備員さんとかも回ってるのかもしれない。バブル崩壊で経営難になって廃業したって感じ?
光の筋は太さを増して、この施設の一角に続いてる。
多分風のせいか、観覧車のゴンドラがゆっくり動いてる。下では他の建物で風が遮られてて、上には普通に吹き付けてるからだろうか。
きい、きい、と観覧車がきしみながら回る音。
ただな。さすがに今は踏み込まない方がいいだろう。準備不足だ。
頑張って忍び込めないこともない。ただ、みたところちゃんと戸締りしてる、どっか壊さないと入れないだろう。そしてそれで警報とか鳴らしてしまうと面倒。
今日は、その時じゃない。また下調べして出直そう。
帰る前に、学校、遊園地に続く3つ目の筋の方向だけを確認しておく。
自宅から測った角度、そしてこのホテルミニマスの近くのこの遊園地から測った角度。
この2つの地点で測った角度から、3つ目の場所のおおむねの場所が割り出せると思う。
現在地と、光の指し示す方向にあるランドマークをしっかり記録。
あとは帰りがけに、もう1地点記録しとこう。
頑張って自転車を走らせて帰り(途中でもう1箇所、光の筋を記録し)、自転車を停め、足音を忍ばせ、超感覚を駆使してなんとか家に入る。
さすがに緊張して疲れた。頭骨を丁寧にしまい込んで、ふとんにもぐりこんだ。
―――――
翌日。
僕は朝ごはんを食べながら、母親に切り出した。
「今週、学校の正規の授業が終わるんだけどさ、」
うちの高校、もちろん夏季休暇期間も補習があるんだけど。
ただ、一応授業も終わることだし。土曜日休みだよね?
ちょっとまた外泊させてほしいんだ。うん、友達と一緒。できれば二泊。
もちろん、ちゃんと勉強もする。いったん家に帰ってもいい。迷惑かけないようにする。外食になるかもだけど、お小遣いでなんとかなる。
そう、交渉する。
文化祭で外泊しまくった後のことでもあるし、突然夜中に出て行ったりもしてる。昨日のは気づかれてないと思うけど。
簡単にいえば素行不良。ちょっと後ろめたくはある。
でもできれば、本格的に調査を進めたいんだ。あと、その、まあ、なんだ。紫藤とも、その。うん。
「いいけど。ちゃんとご家族の方にご挨拶するのよ?」
こまごまと迷惑を掛けないように、と小言をもらったが、まあ一泊ならOK、と。
親ごさんにこっちからもご挨拶しとこうかしら、と言っていたけど、それは勘弁してもらった。
―――――
登校する。普通に平和に一日が進む。
昼休みに、一緒にご飯を食べる仲間のうち、高木や青山とかあたりに軽く夏休みの話とか、補習の話とか振ってみる。
ちょっと、手伝ってもらえたらなと思うことがあって。
ああでも、こいつら。今週で授業が終わるってことで頭が一杯だな。
それにな、僕のガバ計画に巻き込むのもちょっとな。
こいつらも頼りになるんだけどな。でも。
紫藤は当事者だし、僕もまあ、そうだ。調布も紫藤の親友だし。
だけどこいつらまで僕のエゴで巻き込むのは悪い。
ここは、――やっぱり調布かな。
最近いろんなことを調布に頼ってたりもしてて、悪いと思うんだけど。
今回しようと思ってるこれは、紫藤には頼めないんだ。高木にも。
調布もちょっと、当てにできないのかもしれないんだけれども――。
―――――
放課後、僕と紫藤と調布は示し合わせて日蔭谷まで行くことにする。
紫藤は紫藤弟と駅で待ち合わせ。
そんなわけで、まあ僕と調布とでまた自転車。
また昨日みたいに、ちょっと学校から離れた場所で調布と落ち合って、日蔭谷に向かう。
自転車で走り、途中のスーパーで買い物。
カラカラとカートを引き、生鮮食品や消耗品を入れていく。
あの家には2階もあるんだが、たしか使ってなかったのか電球とか切れてたな。
結構、もう食べられなさそうな食品やら黄ばみまくった服とか捨てたけど、まだまだゴミがある。ゴミ袋も買い足しとかないと。消毒用アルコールとキッチンブリーチも。
さて。
あまり話するのに向いたところでもないけど。
買い物しながら、調布に話があるんだ、と話しかける。
「何かしら。」
ああ、その。頼みごとがあってな。
調布、多分、地元は出て行くんだよな?
「まあ、――そうなるかも?」
首をかしげてこちらを見ている。
調布は比較的上昇志向が強い。多分そうなるよな。
僕もそうだ、と返す。
正確にいえば、その話じゃないんだが。
「地元に戻るときは、実家に帰ることになるのか?というか、ご両親、引っ越したりする予定あるかな?」
ちょうど飲み物コーナー。
紫藤父、お酒飲んだりするかな。煙草は吸わないと言ってたし、なんか下戸風な感じもしたな。意外にナギさんは好きかもな。
いや、やめとくか。年齢をレジで聞かれたら面倒だ。
そうだ。お菓子を少し買っていくか。お菓子は心の栄養だって誰か言ってた。ポテチとか。
「さあ、――わからないわ。」
ただ、母は苦労して今の大学のポストを取ったみたいだし。
多分だけど、動かないでしょうね。下の子もいないし、私が家を出たら2人暮らしには十分に広いだろうし。
父親、週の半分は東京暮らしだから、分からないけど。
母親は多賀島だけだから、今のままでしょうね。
だから、帰省するとしてもあの家になるでしょう。
そう、言っている。
カートを押していく。
あ、お菓子売り場だな。おやつを入れよう。
調布の勧めで、新発売のじ○がりこ*1もいくつか。
僕も好き。あとルマ○ドも。あれ安くて美味しい。
たっくんに食べさせていいものも必要かな。ビ○コでも入れておこうか。
「変な話だが。将来、調布のご実家に連絡させてもらうかもしれない。」
「何の話?」
警戒してる、とまではいかないが、ちょっといぶかしむような。何この人、って感じ。
いや気持ちはわかる、すまない。圧倒的説明不足だ。
「いや、あまり気にしなくていいんだ。ほら、全部カタがついたときの話。多分卒業後の話なんだ。」
紫藤の親父さん、多分、生活立て直すとしたら、この近所じゃないよな。
葉を隠すなら森。大都市圏とか、人の入れ替わりが多い場所の方がいいだろう。
そして紫藤の義理の父親。アレが、あの家にずっといるなんて思えない。
どんな風になるかわからないが、紫藤と義理の父親がずっとあの家で暮らす、なんてことはない。
そんなの僕は許すつもりはない。義理の父親を追い出すか、縁を切らせて紫藤を引き取りたい、あるいはせめて
ただ義理の父親を追い出せたらいいが、母親があの状態では、ちょっと無理だろう。
どこかの時点で家を売って、借金返済とかに当てることになるんじゃないか。
他方で僕の親は公務員。転勤族だ。
僕自身も、多分進学や就職は県外になる。
ちなみに正史では僕の父親も2度ほど人事交流(?)かなにかの転勤で県外に出た。
その後、多賀島に戻っては来たし、この2回目の世界が、正史どおりとも限らないのだが。
だとすると。
「この3人のうち、地元に残るのは調布の実家くらいかな、と思ったんだ。」
もちろん、僕は調布と紫藤のことが好きだ。ずっと一緒にいたい。離すつもりなんて、ない。
でも、何が起こるかは分からない。離れてしまうと、去る者は日々に疎しっていうし。
そうなったらそうなったで、連絡も必要ないかもしれないけれど。
ただ、何かがあったとき。
その時は、その時だけは連絡を取らせてほしい。疎遠になってしまっていたとしても。
そう伝えてみる。
「そうね。もちろん、いい。」
あたしも、そう。
ずっと、このままあなたとあたし、みなりの3人の関係が続けばって思うけど。分からないわよね。
うちの親。二人ともあまり家にいないし、事務的な面が得意な人たちでもない。
でも、連絡して悪いなんてことは、もちろんない。何かあったら、遠慮なくどうぞ。
よほど関係がぐちゃぐちゃになってない限り。いや、ぐちゃぐちゃになってても。それでもいい。
そう言われる。
なんかすごく熱烈な言葉をもらったような気がして、くらっとした。なんかまっすぐこっちを見てる、真剣な調布の目を、見返せない。なんか視線が眩しいっていうか。いたたまれないっていうか。
でも、頑張って目を合わせて、微笑み返して。
ありがとう、と感謝して。
ちょっと唐突だとは思ったが、親御さんにも、できれば伝えておいてくれるよう頼んだ。
いや、今、当面のところは、調布の実家に連絡するつもりなんてないけどね。
レジでお金を払い、大量の消耗品などをサッカー台でビニール袋に詰めていく。
てきぱきと水濡れ防止袋に調布が生鮮品などを入れ、僕が詰めていって。
ダサいビニール袋を手に提げて、自転車に向かった。
うーん、考えなしに買ったから結構、カゴにぎりぎりだな。僕たちの鞄もあるし。気を付けないと鞄が落ちそうだ。
―――――
段差とかで落ちそうな鞄にひやひやしながら、日蔭谷に自転車を走らせる。
日蔭谷に着くと、すでに紫藤と紫藤弟は先に到着していた。
ナギさんたちにも挨拶して、また食材とか渡す。
脱出してしばらくは気が抜けて二人とも寝込んでいたらしいが、マコトさんもナギさんもだんだん回復して、今日は二人で家の周りとかの掃除をしていたそうだ。
貴重な近所の住人とも挨拶をしたとか。うーん、そっちは本当は避けても良かったかもしれないけどな。
でも、何も挨拶なしだとかえって怪しまれるか。
一時的に親戚の伝手で住まわせてもらうだけなんです、と言っておいたとのこと。まあ嘘じゃないし、いいか。
なんとなくナギさんと会うのは面はゆいっていうか恥ずかしかったが、ナギさんはごく自然に、しかし暖かい好意が伝わるような物腰で接してくる。
そして気のせいでなければ。
表面上は普通の親愛の情に隠された、ほのかな熱がある、――気がする。
うーん、女の人はすごい、いろいろ。コミュ力高いよ。
それに比べて僕は不器用もいいところ。思わず気になってぎこちなくなってしまう。
いや、ナギさんが嫌なんじゃないんだ。逆だ。なんか考えるとどきどきして、ぐるぐるして、なんか誰もいないところでわーって叫びたいような、――
「志野くん、ちょっと手伝ってもらえるかな。」
髪の毛を手拭いで覆った本格的なお掃除スタイルの紫藤がパタパタとやって来て、僕の人知れぬ煩悶を打ち切った。
おおう、力仕事か。2階から壊れた家具とか、降ろすんだって?
うん、それは僕の望むところだ。この無意味な焦燥を何かにぶつけたい。
鉢巻きをしたマコトさんと一緒に、僕はちょっと狭くて急な木造の階段を上った。
―――――
ひとしきり掃除が進み。
1階は、すっかりきれいになった。いや、いままでもそんなに汚れてたってわけじゃないけど。家具を動かして模様替えしたりして、見違えるような感じ。
2階も、脚の折れた椅子とか破れたソファとか、大量のシーツとか擦り切れた座布団とかを片付けてしまった。もう少しきれいにしたらちゃんと住めそうだし、むしろ1階より居住環境的にいいかもしれない。
今はいいけど、きっとこの家、冬は1階がすごい冷えそうなんだ。
みんなで風が通って涼しい1階の部屋に降りて、麦茶を飲む。
セミの鳴き声が響く。
「ねえ、ハルカって来たりしてる?」
「うーん、わたしの来た日には、まだかな。」
「まだ、志野さん、調布さん、みなりさんご
国領の話になった。
国領は割と義理堅い。そういえば、紫藤母のお見舞いにも複数回来てたな。
直接の面識も一応あるらしいけど、それほど密じゃない(紫藤は家に国領を招いたことはなくて、紫藤母とは、運動会とかであいさつしたりした程度らしい)。
でも、まだこの日蔭谷には来ていないらしい。
心持ち紫藤弟が聞き耳立ててる気がする。うん、分かってる。紫藤弟、国領が気になってるんだろう。
あいつコミュ力高いしな。僕と同類のこじらせシスコンである紫藤弟にも普通に話してたし。
「無理もない。生徒会は先週から今週、超忙しかったらしいからな。」
「そうね。でも、そろそろ暇になると思う。」
そしたら、みんなで一回お食事会でもしようか。みたいな話を紫藤や調布たちとする。
ナギさんも
うーん、僕はその。人がたくさんいると、落ち着かないんだけどな。いや、なんか疎外感、感じたりして。
でも、このメンバーなら大丈夫か。
そのうち。土曜日とかかな。今週、授業ないし。
隙あればよじ登ってこようとするたっくんを、かわしながら。
いつの間にか出されてた枝豆を、つまみながら。
傾きかけてるけど、まだ強烈な西日を浴びて酸素をもくもくと噴き出してそうな庭の木々を眺めながら。
そう思った。