タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
後で細かいところを修正するかもしれません。
夕陽に染められた坂道。
志野くんさとみんと別れて。
日蔭谷からざくろが丘に上がる坂道を、千里と一緒にのぼる。
子供のころ。
――まだ子供だろうって?怒るよ?
コホン。そう、もっと小さい子供のころだよ。
わたしと千里は、いろんなとこに遊びに行った。
世界は果てしなく広くて、いろんな発見があった。
家の近くに住んでた、もう転校しちゃった親友のチカちゃんと一緒に。
まだ小さくてかわいかった千里の手を引いて。
この坂を下りて遊びにいったりも、したよ。
そのころは、まだ日蔭谷には人家も多く残ってて。
そこからザク小に通学してくる子たちもいたからね。
なんか戦前を思わせるような、古いトタン屋根の駄菓子屋さんが、この坂を下りた交差点の向こう角にあって、昔はときどき行ってた。
周りの家も、似たりよったり。
看板は赤いポカ・コーラ。緑色のスプライト。フトク生命の赤い看板。
木造板張りの壁で、冬は冷える。
冬はやかんを載せた石油ストーブで温めてた。店の番台(?)の後ろの和室には、こたつとみかん。
店番はおばあちゃんと、孫くらいの年齢のお姉さんが多かった。
お姉さんは、たぶん高校生か短大生くらいだっただろうか。
そのころのわたしには、大人っぽくてきれいに見えた。
いつもいるわけじゃないけど、お姉さん目当てで男子中学生たちが部活帰りに寄ってたな。
タバコ屋さんも兼ねてて、ひと仕事終えた常連らしきおじさんが、店番のおばあちゃんとしゃべってたりした。
労務者の人たちのライトバンも、よく止めてあった。タバコとか買いに立ち寄るんだ。
でも、そこに停めてある車の側とかには近寄るなって、言われたな。
おばあちゃんからだけじゃなく、その常連のおじさんからも。
ときにはその労務者のおじさん自身からも。
わるい人たちじゃないけど、男の人ってときどき自分でも抑えきれなくて乱暴になることがあるんだよ、って、おばあちゃんは言ってた。
そのときは、なんのことかわからなかった。
汗臭い労務者の人たちの中には、ときどき余計に買ったラムネをくれたり、頭をなでてくれたりするおじさんもいたし。
がさつでぶっきらぼうな人も多いけど、いいところもあるって思ってたから。
もちろん、何かもらったりしたら丁寧にお礼を言ったよ。
でも中には、わるい人もいるんだ。当然だけど。
わたしたちが中学校に上がったばっかりのころだったかな。
もう日蔭谷には、あまり行かなくなった頃。
となりのクラスのさーちゃんが、学校に来なくなった。
そしてそのまま、転校。
男の人に乱暴されたんだ、って言ってた。
後で、犯人の男の人が捕まった。労務者の人たちのひとりだったと、うわさで聞いた(本当かどうかは、知らない)。
その人が、ラムネをくれたことのある人だったかどうか、わからない。
たぶん、違うんだろう。
でもそのころ。中学校に上がってしばらくしてから、なんとなく男の人が、怖くなった。
ちょうど中学校に上がってから、男子がスカートめくりとか、セイタイとかいやらしいことを仕掛けることが多くなったからでもあるけど。
あ、セイタイってのはね。整体じゃなくて。
なんかお医者さんごっこの進化版なんだ。生体解剖の略なんだろうね。
むりやりターゲットになった女子の手足を押さえて、服とか剥いだり。
あそこを見たりさわったり。
入れたり。
男子だけじゃなくて、女子の一部も仕掛ける側に回ってて、犠牲者を選んだりするんだ。
ヘタすると男子よりずっと陰湿で残酷なことを考えついて、男子にやらせたりする。
イヤだよね。わたしもターゲットにされそうになったことはあるけど、友達に助けてもらったよ。
まあ、中3になってから、あの変態ストーカーに似たようなことされかけたけど。
ああ、話がそれちゃった。
要するに、男の人もわるい人もいれば、わるくない、いい人もいる。
そしていつもはわるくない、いい人だけど、なんかのきっかけでわるい人になってしまうこともあるんだろう。
当たり前のことなんだけど。
その逆も、あるのかな?
いつもはわるい人が、いい人になったりとか。
志野くんは?
いつもすっごくやさしいけど、ときどきいじわるなこともする。
あ、でもいじわるになっても、わるいことはしない。
その2つは、似ててもちがう。
志野くんは。
無理やりなこと。そう、セイタイなんか絶対しないだろう。
そして志野くんは、すっごくやさしい。
わたしとさとみん以外にもやさしいのは、ちょっとときどき、もやもやするけど。
あのたっくんのお母さん。ハコヤさんとかにも、やさしい。うん、もやもやするけど。
でも、紳士なんだから、しかたないよね。
千里にも、見習わせなきゃ。
「ほら、千里。」
「え?」
「あんたも、ちゃんと女の子にはやさしくするんだよ。
いや、女の子ってだけじゃなくて。女の人に。年上でも。
――わかってるよね?」
あわてて言葉を足したのは。
なんとなく、駄菓子屋のおばあちゃんのことも頭をよぎったから。
駄菓子を買いに行くと、しわのある顔をすぼめて。
ありがとう、ってとってもやわらかく笑ってくれてた。
駄菓子屋は、今でもある。
災害が多い地区だから移転事業が進められてるけど、まだ移転してないみたいだ。
おばあちゃんは、まだいるのかな。
まだそんなに経ってないから、まだ元気だと思うんだけど。
また行ってみようかな。
最近、増えてるコンビニとかに、お客さんを取られてなきゃいいけど。
コンビニは昔からあったけど、最近、増えてきてる。
最近のコンビニは、昔のとちがって、なんかぴかぴかしてて人目をひく。
でも品物のねだんは高いから、わたしはほとんど使ったことはない。
だってコブタヤの特売だったら1ダース88円で買えるタマゴ。コンビニだと6個で200円なんだよ。
「え!ええっ、なんでわかったの?」
なんか畏怖を浮かべた、千里の顔。
ん?なんだこの反応。
いや、意味わからないよ。
でも、まあいいんだ。千里だし。
したり顔で、告げてみせる。
「弟のことなんか、おみとおしだよ。当たり前のことでしょう?」
「ひえっ」
千里のキョドりっぷりがひどい。
え?知ってたの?あーっ、うわーっ、とか。
うるさいな。
「うるさいよ?――それに。
あんたももう小学生じゃないんだから。いろいろ気をつけなさい。」
いい機会だと思って、最近思ってたことを、千里に注意する。
脱いだ服は、ちらかさない。洗うんだったらちゃんと下にもっていって、洗濯機にいれる!
でないと、つぎに着る服がなくなるでしょう?
寝ぐせ付きすぎ。お風呂にはいったらよく拭く。
朝、寝ぐせがついてたら髪の毛には水をつけて直しなさい!
トイレットペーパー。使い切ったのなら、ちゃんと次のに交換。
5センチだけ残していかない!次の人、困るよね?わかる?
ガラスボトルの麦茶。1センチだけ残して冷蔵庫にいれとかない!
こんどやったら、シイタケのもどし汁をいれとくよ?(もったいないからしないけど)
アレの参考資料。写真とか。そのままベッドに残しとかない!わかってる!?
あとクリネ○クスは使わない、高いんだから。わたしが集めてきたポケットティッシュ、あるでしょ?
千里がしおれてる。なんか最近負け越してたから、いい気分。
わたしは勝利の幸福感を味わいながら、沈みかけた夕陽に照らされた坂道をあがり。
千里を引き連れて家路をたどるのだった。
―――――
家に帰って夕食の準備をしてると、
「お父様、おかえりなさい。」
あわてて鞄を受け取り、きれいになったリビングに案内。
お父さん《勇さん》は、うっそりとうなずいた。
ここ1週間ずっとそうなんだけど、あまり機嫌がよさそうじゃない。鬱屈してる。
乱暴なこともしないし、いやらしいこともしない。
やっぱりこわいから、あまり近づきたくはない。
でも、私の問いかけに対して、今日は家で食べると言ってる。お弁当じゃない。
だったら給仕とかしないといけない。もちろん千里がするわけはないから、わたしがするしかない。
「ありがとうな。」
ビールを注ぐと、お礼を言われた。
うーん、なんか慣れない。けど、どういたしまして、と言ってみる。
少し太ってきてて輪郭が崩れかけてるけど、本当は端正なんだろう顔が少しだけほころんだ。
そして、ぐいっとビールを一口飲んだ
「ヤツザキの奨学生の話。お前を迎えたいそうだ。」
そう、告げた。
「!ありがとうございます。」
お盆を持って控えてたわたしは、思わず、顔を上げた。
「ああ。がんばってくるといい。――」
「この家は、手放すか、貸すかすることになる。
その相談にも、乗ってくれるそうだ。
お前の母親。あれの治療費も、全額出る。大学病院での精密検査も、手配してくれるそうだ。
住み込みの寮は、御前様。──ヤツザキのご隠居様だな。そのお住いの山荘近くにある。羽立毛市の、樋木崎に入ったあたりだ。おそらくは、な。
何人か、同じような寮生もいるそうだ。
お前の弟は、――転校してもいいが、今の学校の寮でもいい。
就学費用も生活費用も、十分に出してくれると言っている。住み込みは高校の間までだが、大学進学費用と生活費も、成績条件を満たせば出してくれる。」
前に聞いていた話と同じだけど、やっぱりすごい厚遇だ。
どきどきする胸を、抑える。
でも、わたしは。
わたしは、今の学校にいられるのかな。
志野くん。
そしてさとみん。ハルカちゃんたちとは、――
「しばらくは、今の学校に通ってもいい。ただ、正式に特別奨学生となる次学期からは、移ることになるだろう。
特別奨学生は、他の一般奨学生とは全く違うらしくてな。
御前様の傍にお仕えするからな、セキュリティの関係で外部との連絡もチェックされたり制限されたりすると聞いた。
詳しい話は、俺の兄から聞くといい。この前、会っただろう。あれが、御前様の付き人をしている。」
そう言って、
しかたない。
別れるのは悲しいけど。これは、長くみたら、しあわせな未来への一歩だ。
正式の特別奨学生になってしまったら、志野くんと会えなくなるのかな。
でも。
少なくとも、今学期中はこのまま通えるんだよね?
特別奨学生はどうなるのかな。お休みの日もあるのかな。
そうだとしたら。
羽立毛市から多賀島市まで、電車もバスもある。
自転車だと2、3時間かかるかな。でもそれでもいい。
お休みの日には、会いに行けばいいんだ。
それが、もしダメなら。
高校の間、1年半だけがまんする。
ご奉公が終わったら、ずっと志野くんのそばにいられるようにするために、頑張るんだ!
まだまだ聞きたいことはあったけど、
近いうち、御前様にご挨拶に伺うことになる。急かもしれないから、来週の放課後の予定は開けておくように。
明日?明日は普通でいい。俺も少し遅くなる。夕食はいらない。
挨拶に行くことになるとしても、そんな早い時間じゃない。夜遅くならなきゃいい。
そう、言ってる。
「ありがとうございます、お父様。」
深々と、頭を下げる。
「いや、いい。
――ああ、お前の友達。調布サトミと言ったか。」
「はい。」
どき、っと胸が打った。
「会ったぞ。――そんなに、警戒するな。
普通に話して、食事をしただけだ。娘が世話になってる、礼も言いたくてな。」
気のせいか、少し目が優しい?
「あれは、いい女だな。
――いや、手など出さんぞ?」
「転校したら会えなくなるだろう。今のうちに、遊びにいったりするといい。」
思いもかけない言葉だ。
さとみんからも、志野くんからも、さとみんが
さとみんのことを、
おもいがけないことに、さとみんの体を狙ってるって感じじゃなくて、純粋に気に入ったのかな。
志野くんは、
そして何か、するつもりだったんじゃないかって。
わたしも、
そうだとしたら、本当は許せない。
でも、少なくとも今の
それはともかく、遊びに行っていいっていうのは、うれしい。
長続きしない、きまぐれかもしれないけれど。
「はい、ありがとうございます。」
思わず、顔が輝いてしまう。
ありがとうございます、ともう一度言って、膝をついてビールを足して。
お風呂の準備をして、
「みなり姉。何もされなかったの?」
ちょっと期待しているみたいな顔。
何を期待してるんだね、きみは。
「何もなかったよ。あ、でも。」
奨学生の話が決まったみたい。まだわからないけど、決まったら千里は、今の学校でいいみたいだ。
寮になるけど。
家は、売るかも。
そう、伝える。
「えー、みなり姉。大丈夫なの?オレいなくて。」
「そりゃさみしいけど、仕方ないよ。」
千里は、今の私立の学校が好きだ。
小学校のころはいじめられてたってほどじゃないけど、どっちかというとおミソで。
クラスの活発な男子とかからは、馬鹿にされて小突き回されたりしてたからね。
だから、学校を続けられるって知ってうれしそうだ。
家を売るか貸すかするかもしれないってことについては、あまりこだわってないみたいだ。
でも、わたしが転校することになる、住み込みで連絡とりにくくなる、っていうのは心配そうな顔。
「みなり姉。あののっぽさんと会えないじゃん。」
いいかげん、名前で言いなさいよ。
でも、千里は、ずいぶん志野くんになついてるみたいだ。
馬があったんだろうか。
「しかたないよ。今学期は、まだ会えるし。
転校しても、手紙とか電話とか、きっとできるよ。」
できるかどうかわからないんだけどね。
でも、これがいちばんいいんだ。
お休みの日も、あるといいな。
「うーん。みなり姉がいいんだったら、いいけど。」
なんか千里は心配そうだ。
のっぽさん。あ、思い出した。シノ先輩にも、言ってた方がいいよ。そう、言ってる。
わかってる、わかってるよ。
でも、志野くんがいろいろ抱え込んでるのは、傍からみててもわかる。
あまり、わたしのことで迷惑や苦労をかけたくないんだ。
せっかく運が向いてきたんだ。
ここはわたしも、話がちゃんと決まったら。
びっくりサプライズをしてあげればいい。
そして御前様のあいさつとかがおわって、採用も正式に確定したら、志野くんとピクニックにいきたい。
そして、――うーん、その、あの。
わたしを味わってほしいんだ。
だって、さとみんが進んでる気配があるんだよ。
わたしだって、やるときはやらなきゃ。
そう、こぶしをにぎって目に闘志の星をうかべる。
そんなわたしを。
千里は、半分うれしそうに、でも半分心配そうにみていた。
―――――
その少年。
紫藤みなりという女子生徒の弟として、我々に知られる少年は。
まあ、簡単にいえば変態だった。
でも彼のために弁護すると、男の子の多くは、そうなのだ。
誰にだって、小学校の高学年から中学校にかけての時期。
――そう、中二病とよばれる病に罹患する一時期に。
いわゆる黒歴史の量産期があり。
その間は、似たような変態になる。
芋虫がさなぎになるのと同じだ。人間も変態する。
症状はさまざまで。
オープンに、自らの欲望を追求できるものもいるし。
ひそやかに自らの欲望を押し隠し、陰で追求するものもいる。
後者が、その時代はムッツリと呼ばれていた存在だ。
約20年後には陰キャと呼ばれている者が、おおむね示す症状だ。
この少年もその一例である。
だから、まあその意味では平凡だ。
気が弱いし、基本的には善良なので、たとえば痴漢みたいな行為はしない、できない。
でも、その日バスや電車でたまたま乗り合わせた、ちょっとかわいい子のことを脳裏に刻み込んだり。
それとなく、前を歩く女の子の足をガン見したり。
ちょっと性的妄想をかきたてるチラシに欲情したり。
そして家に帰っては、学校の授業内容よりも熱心に復習する。
そんな感じ。
ただ、その少年はもう少し業が深かった。
その少年は、姉を愛していた。
そう、姉としてはもちろん、女として。
彼の姉。幼い時は彼の庇護者だったが、やがては見下ろすようになった彼女は。
彼の理想の女性だった。
その姉と毎日、起居をともにする。
通学先は男子校だ。女っ気などない。
いちばん身近な女性が、この姉であり。
しかもこの姉、弟をあまり男として意識していないようで。
平気で部屋で一緒にいるときに着替えたり、彼がはみがきをしているときに隣接するお風呂に入ってたり。
最近などは、継父に性的に虐待されたところを目撃したりしたこともあって。
彼は日々、自らの性衝動に、ブレーキをかけるのが精いっぱいだった。
もちろん、あまりブレーキをかけ切れてなかったりするのだが。
その彼に、ある日現れた強力なライバル。
あらゆる意味で、その少年の上位互換に思えた。
(もちろん、頭脳の優秀さでは少年の方が上だったかもしれないが。)
そのライバルは、彼の姉と急速に仲良くなり。
身長も高く、外見も平凡だが悪くはなく。
どうも所属する運動部では、輝かしい戦績を挙げたらしく。
しかも近所の凶暴な不良たちを、あっさりと伸してみせる戦闘力を持っていた。
ぐつぐつと煮えたぎる敵愾心をぶつけようとしたこともあったのだが。
話してみると、実はそのライバルの青年は、少年とも趣味が合う。
まあそうだろう、同じ
同学年だったらきっと、肝胆相照らす親友になっていただろう。
そんなわけで、
もちろんなかなか想いは変えられないけど、最近は
まあ、あきらめがついてきたところだったのだ。
そんなある日。
どうやってそんなことができたのか、後から聞いて彼は感に堪えた。
さすがじゃん、シノ先輩。
少年の
そして。
姉への想いに一応は区切りをつけることができた少年は、新たな境地を開拓する。
漂う成熟した
少年は、惹かれた。
志野たちが準備した、だっさい服を着てさえ、どこか色気を漂わせる腰つき。
しっとりとして、輝くように肌理の細かい腕や首筋。
月の光のような、穏やかな微笑みを浮かべる、伏し目がちな顔。
平凡な範囲ではあるが、とても美しいように彼は感じた。
黒歴史のスケッチブックには、彼女の絵が増えていく。
少しきわどいものも含めて。
日蔭谷の家を初めて姉と訪れたとき。
彼は、目撃してしまったのだ。
部屋の片隅で、たっくんとよばれる小さな男児に、胸を吸わせる彼女の姿を。
もちろん、鈍感な
女の子たちは、あ、かわいい!とかのんきなことを言っていたが。
彼には、衝撃的な光景だった。
そして、激しく勃った。
張りのある、小ぶりだが形がよい、牛の角のような胸。
口に含みたい。吸いたい。ねぶり尽くしたい。
家に帰って、思い出して抜いた。何度も。
つい、目で追ってしまう。
彼には警戒心を抱いていないのか、恩人の縁者だからか。
彼女も、歳の離れた弟に対するように、親しく優しく気安く接してくれる。
彼の通う男子校には30代くらいの既婚者の事務員さんと、50がらみの陽気なシスター先生くらいしか、女っ気はない。
ちなみにその二人、モテモテである。
免疫のない彼が。
どこか影のある、たおやかで妖艶な未亡人の魅力にヤラれてしまったのは、必然だったかもしれない。
しかし彼の不純度70パーセントの、その思いを。
あっさりと彼の姉は、見抜いてみせた。
そしてそれとなく、釘を刺す。
雄として、優しくあれと。
要は、がっついて乱暴なことなんか絶対駄目だと。
わかってる。わかってるよ。
でも、なんであの人は、あんなにエロいんだろう。
膝をついて冷蔵庫から食材を取り出す後ろ姿ですら。
何気なく後れ毛をかき上げる姿すら。
口に手を当てて笑う、その白い喉の動きですら。
煩悩を刺激する。理性を失いそうになるんだ。
ましてや。
家に帰り、平積み状態の本の山から掘り出す、橙色の背表紙の文庫本。
金閣寺の炎上を描いた、耽美的な物語。
その一節を読み返しながら。
彼は作中の将校の妻に、今日も会えた女性を重ねていた。
でも、ぼくだったら、な。
お茶に入れるんじゃなくて、直接にねぶって吸って飲みたいな。
あ、そして僕もおむつ嵌めてみたい。うん、たっくんみたいに。
でろでろに甘やかしてほしい。
そんな、少々こじらせた欲望に基づく思考を巡らせて。
最近、小さいながらも固く自分を主張する、分身を持て余していた。