タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
※「河を渡って木立に憩う(8)」で出てきた、根取君の先輩の高校名を変えました。
(「白玉高校」→
それに応じて、今回の内容でも修整後の高校名を使用しています。
仕事って、能力じゃなくて、立場や気の弱さで配分されちゃうよね。
そう、国領ハルカは思う。
自分が気が弱い、ってわけじゃない。
それなりに厳しい経験も経てきたし、交渉力も頑張って身につけた。
でも、やっぱり根が甘ちゃんなんだろう。
忙しそうな生徒会長とか3年生たちに同情してしまって、仕事を請けてあげてたら、こんなことまで押し付けられた。
そう思いながら、生徒会関係の書類。自分が準備したそれを、担当の先生に届けるために手に取り、歩き出す。
最近、ちょっと不本意なことが多い。
性獣との戦いでは、神経をすり減らし。
生徒会関係も、その有能さと人の良さを見込まれて仕事を増やされて。
そして迎えた学期末。
せっかくだからみんなで仲良くなんかしようよ、と
クラスの中心人物たちは、そうは思わなかったらしく。
面白い奴らだけでなんかしようぜ。
あの湿ったやつら?
呼ぶだけ無駄じゃん。
そんな態度だった。
それに反発したのもあり。
国領ハルカは、欠席することにして。
以前から生徒会長に打診されていた、同日開催予定の学期末の先生方との反省会への出席という仕事を引き受けることにした。
彼女が欠席すること、そしてそれにも影響され相当数の女子主要メンバーたちが欠席することを知って。
クラスカースト上位のパリピ男子どもは、あわててハルカに参加を慫慂してきたが。
もう仕事を引き受けてしまったということを名分に、角は立たないよう押し通した。
なんか、パリピどもの浮かれ具合を見てるのがつらかったというのもある。
こんな日は、早く帰りたい。
会議があるから、早くは帰れないけど。
帰ったら、勉強も何もしないで、ずうっと好きな曲を聞きながら、好きな小説を読みふけりたい。
そう、
グイソ・サーガを最初から通読しようかな。
最近、なんかもったりした感じになっちゃってるけど。
イシ○トとア○ネリスの結婚なんて、うまくいく気がしないんだよ。
直近のパ□編も。あまり好きじゃないんだ。
ひいきの引き倒しっていうか。パリピたちの自己満足ワールド見せられてるみたいで。
そんなことを考えていたので。
一晩かけて作った生徒会選挙の告示案や冒頭の挨拶案などを、職員室の顧問の先生に届けに行く途中。
呼び止められたのに、最初は気が付かなかった。
「国領、ちょっと待ってくれ。」
「え?ボク?あ、しのりんだ。どうしたの?」
性獣だ!
前回はまあまあ友好的に別れたつもりだったけど。
後からペテンに気付いたのかな。
また
でもね。一度合意した条件は死守して、拒否だ、拒否。
そう、思っていた。
「悪い、国領。ちょっと話したいことがあってな。――昼休みとか、空いてるかな?半分だけでいい。」
「うーん、大丈夫だよ。あの部屋でいいのかな?」
昼休み、昼寝したかったんだけどな。
今日の会議次第も、清書に時間かかっちゃって寝不足なんだよ。
そう、
「生徒会室、行くのか?途中まで一緒に行きながら話すか?」
「うん、いいよ。職員室なんだ。この書類、顧問の先生に届けに行くだけ。」
それにしても。
生徒会長、忙しいのは分かるけど。
そんなときの副会長でしょ。副会長もいないんじゃ、こまるよ。
生徒会側が、
まあ生徒会長、副会長はもう引退だし、受験生だから大変ってのはわかるけどさ。
だいたい他の2年生も。部活が忙しいって、それボクもなんだからね?
寝不足な頭でそんなことを思っていて、志野の言葉から注意がそれてしまっていた。
「生徒会選挙か。
――あれ、9月末じゃないのか?」
「だけど、選挙の公示とか立会演説会が9月だからさ。この時期に、もう準備始める必要があるんだ。」
というか、ほとんどもう、
ちょっとイラっとくる。
「忙しいんだな。悪かった。それで、また後で言うつもりなんだが。」
なんか救出作戦のとき、顔を見られたかとか聞いてくる。
その話も、もうしたよね!?
脱出後の反省会のとき、もう話したことだよ。
うじうじと細かいこと、引っ張らないでほしいな。
もう、ボクは別のことで忙しいんだけど。
いつもならもう少し余裕もあって、柔らかく受けられるはずだった。
でもその日、
少し、いやかなりシビアなモードになってたのかも、しれない。
ちょっとの間、登下校にガードを付けようという志野の提案に対し。
必要以上に気持ちを害されてしまった。
「急になに?大丈夫だよ。」
なにこの人。
いまさらじゃないか。
ほんの数日ガードつけて、何になるんだ。
まったく、意図が読めない。
あ!もしかすると、そういうことかな?
「いや、その、何て言ったらいいか。」
志野がへどもどしている。
恐ろしい性獣だと知らなければ、こういうところは好感の持てる純朴な青年にみえるんだけどな、と
残念。
キミの下心、みえみえだから。
「いろいろ危険じゃないか?
国領のことを考えると、なんか胸が痛くなることがあって。」
ほらやっぱり。
―――――
要は、彼。性獣志野は、次の犠牲者であるジュリエット攻略の前哨戦、手馴らしとしてか。
あるいは、ジュリエット攻略戦が上手くいかないことから、気晴らしとして。
彼女、国領ハルカに粉をかけ始めた、ということだろう。
キミをみて胸が痛む→本当はキミが好きだったんだ!コンボだろう。知ってるよ、その定石。
もちろん、願い下げだね。そんなこと。
そう思って、
「お昼休みの話、ってもしかするとそのこと?
だったら、パスで。」
「いや、違うんだ。そうじゃなくて。」
「わかったよ。まあ、お昼休みは行く。でもあらかじめ言っとくと、無理だからね?」
無理無理。
いや、気持ちが少しささくれだってる今も、別に志野はイヤな奴とは思わない。
志野はいい奴だ、それは疑いない。友達としてなら、ね。
これを恋人にするって?冗談はよし子さんだ。
こんな不実な恋人、絶対拒否だ。
しかも、すごい性癖の変態野郎って分かってしまったしね。みなりん情報で。
あれ?よく考えたら、昼休みに二人きりであの部屋で話すのか。
気を付けないとな、下手するとなんかしかけてくるかも。
いつも鞄にアクセサリと一緒に付けてる防犯ブザー。念のためポケットに移動させとこう。
そう思いつつ、再会を約して、職員室の前で別れた。
職員室に入るとき。また妙な波動を感じて横目で廊下を見やると。
またあの性獣の物欲しげな目が、
ぞくっ、とした。
なぜだかまた、奇妙なスリルを。
そう、不思議にゾクゾクとする感覚が、背骨に沿って。
頭頂部から尾骶骨の先まで走り抜けるのを、感じてしまった。
―――――
「こんなんじゃだめだよ?ほらここ。」
うるさいなあ。
職員室の中。
背筋を伸ばして直立不動で、先生のコメントを受ける。
教員挨拶の、直すべき箇所の指摘。
細かいところが多すぎ。そのくらい、いいじゃないかって思うところが多い。
字にも文句があるらしい。
確かに
汚いという訳じゃないけど、少し特徴的だとよく言われる。
それも気に入らないらしい。
「これ書いたの、国領か?
あまり知性の感じられない書体だぞ。まあいまさらだけど。」
じゃあ、他の人に頼めばいいじゃないですか。
っていうか、この開会のあいさつ。これ、先生の発言内容でしょ?
生徒会役員に頼らず、自分で書いたら?
っていうか。もう休み時間そろそろ終わります。
ボクはもう、次の授業あるんですけど。
表面には、良い子を取り繕い、礼儀正しく先生の指摘を受けていても。
心の中は、結構な毒を吐いている
―――――
昼休み。
国領ハルカは、ちょっと楽しみにすらなってきていた。
本当はまだその時期じゃないけど、女の子の日の前みたいに。
自分がちょっとイライラしてるのが、自覚できる。
なんか憂さ晴らししたい。
志野がボクに言い寄って、口説いてきたら。
思いっきりシビアに、袖に、コケにしてやりたい。
けちょんけちょんに。ぎったんぎったんに。
わかってる、八つ当たりだ。でも、かまうもんか。
なんか、その時のことを想像すると、胸がすっとする。
注意深い人間なら、彼女に黒いオーラが発生し始めているのに気付いたかもしれない。。
いざとなれば、
ボクに言い寄ったってのは、さすがにさとみんも許せないだろう。
まな板みたいなボクに粉かけたって知ったら、さ。
さとみんなら、志野にも対抗できるだろうし。
そういうわけで。
かなり黒くなっていた
昼休みの志野との対談を、実のところはかなり楽しみにして臨んだのだった。
―――――
もちろん。
開幕からガツンと。
上から目線で
――話はきいてやる。でも受け入れるとは限らない。
――拒否の理由についても、一切説明しない。イヤなら、今すぐ帰る。
でも志野は、この
意外にも爆発もせず、誠実に対応しようとしてみせる。
そのことが逆に、
やっぱり、この獣には何か下心があるにちがいない。
ボクのためだけなら、こんなに下手に出る必要、ないもの。
1日だけなら受けてやる、と言って揺さぶる。
耳の早い国領ハルカは、知っている。
志野たちのクラスはまれにみるまとまりの良さで、クラスほぼ全員でお疲れ様会を開く模様だということ。
おそらく文化祭での貢献がある志野も、出席したいだろうこと。
要は、無理難題だ。志野が絶対飲めないような条件。
できない、と志野に言わせよう。
ほーら、キミがダメなんだよね!?ボクへの危険なんて、そんな程度のものなのかな!?
そんなふうに、追求してやろう。
どこかサディスティックな快感を、
しかし。
「わかった。
クラス会はあきらめる。――だったら付き添わせてくれるか?」
予想外だった。
下心野郎の、ちょっと困った顔が見たかっただけ。
そこまで、志野に無理させるつもりはなかったのだ。
なんだかんだ言って、性癖だけ除けば、こいついい奴だし。
「うーん。」
何か恩を着せつつ断る理屈は、ないものか。
しかし、さらに志野は押してきた。
「もちろん、べったり張り付いたりはしない。会話とかもなくていい。10メートル後くらいからついていく感じでもいい。」
「?」
あれ?
志野が
当然、志野がボクに付くんだろう。
そして一緒に帰って警戒心を削ぎ、帰りのどこか人気のない場所とかで押してきたりするんだろう。
そう思っていた。
だって。
救出作戦の日の、
みなりんと目と目を見交わして、これで大丈夫、と確信できるくらいに。
だから、志野が力説するような、身バレの危険性はほとんどないと
だったら、志野が付き添いをねじ込んでくるのは、別の理由。
手慰みに
そう思っていたのだ。
しかし。
こんな風に、言葉も交わさないでいい、ということになると。
もしかすると、志野は本気で
「とにかく。国領のことが心配なんだ。」
「いったい、何が狙い?何を知ってるの?」
狙いが読めない。
だけど。
総明な彼女がちょっと思い出したのは、別方面の気掛かりなこと。
それも、彼女の鬱屈の一因だった。
根取からの誘いは、もちろん全部断った。
今日の予定について、打ち上げと併せて聞かれたときも、ダメと言って切った。
ただ、そのとき、生徒会の会議で遅くなるってことを、断る理由として言ってしまってた。
そのことを、思い出したのだ。
もしかすると、根取は。
ボクが今日は遅くなるってことを、錦汰摩高の先輩とやらに流していて。
今日、その先輩とやらが、待ち伏せとかすることになってるのかも。
そして。
男の子ネットワークのことはよくわからないが、志野がそのことを何らかの伝手で知って。
角が立たないよう、
そうだとすると?
一概に断るのは、考えものか?
そのとき、
彼女の思考は、一時中断した。
―――――
それなりの交通整理が、できた。
1次会参加後、
その後、そのまま、あるいは2次会を中途退席して、
そういうことになった。
かなり志野に負担がありそうだが、志野は唯々諾々とそれを飲んだ。
本当のところは、どうなんだろう。
錦汰摩高関係も気になるが、志野はそっちのことは一言も口に上げずに押し通した。
何か、錦汰摩側の情報提供者と、密約があるのかもしれない。
密告者の身元がわかっちゃうから、絶対に表面上は理由にしないように、とかいう?
補習期間もできるだけ
まあ、それはいい。
どのみち
帰宅時刻も、似たようなものだろう。
要は今までとそこまで変わらない。
チーズケーキの店に行く約束も、まだ果たされてない。
念のため、あまり自分に近づかないよう性獣に厳命して。
その日の性獣たちとの打ち合わせは、終わった。
―――――
会議は眠くなる。
先生がたとの打ち合わせは、おおむねシナリオ通り進み。
来学期への活動方針等も了解を得て、ようやく会議が終わった。
「あーあ。
「だよねー。」
げっそりした顔を、見かわす。
「ハルカちゃん、もうそろそろ暗くなっちゃうけど。帰り大丈夫?乗せて行こうか?」
芦花っちは、お父さんが自動車で迎えに来るらしい。
いいなあ。お金持ちみたいだし。
でも、今日は約束あるし。
芦花っちの家は、反対側だ。遠回りさせるのも、悪いだろう。
「いや、いいよ!こっちも、約束があるんだ。またね!」
「うん、気を付けて!じゃあね。」
雨に濡れたハナミズキの花のようにみずみずしい、芦花ちゃんが去っていくと。
電話を掛けた。
会議の休憩時に、一度
だから多分、志野も2次会に行ったはずだ。
そっちに電話を入れて、さとみんに連絡。
10分後に正門、らしい。
「いくらなんでも、8時前なんて。」
新校舎の渡り廊下、1階から3階テラスへのオープンエアの長大な一直線の大階段。
建築的にはかなりの無駄だそうだが、彼女らの間では、「天国への階段」と呼ばれていて親しまれてる。
ただ、国領ハルカは知ってる。
この階段、2階部分までの部分は、段の隙間を通して下からスカートの中が見えたりするんだ。
自販機とか置いてあってその部分はアクセスしづらくしてるけど、もぐり込めないわけじゃない。
志野は知らないみたいだけどね。
その大階段の下りたあたりにあるベンチに座り、つい目を閉じてうとうとする。
暑さは引いてきてて、そよ風もある。気持ちがいい。
ほら、彼氏さん来ましたよ。
そう呼ばれた気がして、はっと目を覚ます。
彼氏さんじゃないんだけどな。でも、ありがとう。
そう言おうとして周りを見回すと、誰もいなかった。
たぶん、彼女の無意識がそんな風に主人格に呼びかけたんだろう。
正門の方を見やると、たしかに薄闇の中に、背の高い、歩いてくる人影をみつけた。
――やっぱり、今日に限っては性獣であっても、ついてきてもらって、正解かもしれない。
わずかなうたた寝で、元気をいくばくか回復した彼女は。
ちょっとは気持ちも、落ちついた。
志野には、悪いことをしたかもしれない。友達ともっと遊びたかっただろうに。
ちょっとは柔らかく接してやろうか。
そう考えながら、弾むように軽快に、
その姿は、事情を知らない者の目からみれば、仲のいいカップルのようにみえたかもしれない。
もちろん、当人たちはそんなことは全く思っていなかったけれど。