タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
ご感想をいただきました。ありがとうございました!
国領ハルカ編(?)、もう少し続きます。
今日もまた、爽やかな朝だ。
昨日は、無事に国領への襲撃イベントをかいくぐり。
かなり疲れはしたものの、すっきりした達成感を味わいながら、家に帰り着いた。
ちょっと興奮が抜けきらなくて。
我慢できなくて、紫藤と国領で抜いた。
うん、紫藤は。キューを構えるときの、腰をこう、突き出してる感じね。あれを後ろから、ほら、抱え込んで。ぐりぐり。
国領は、――あの追跡してるときの後ろ姿や白い膝の裏とかに、ナニか目覚めちゃったんだ。うん、NTR系。不良に首を絞められてた姿の脳内映像を再生。
分かってるよ、最低だ。国領のいうとおり、男ってクズ、カス、最っ低のゴミだよな。
それでもまだ興奮抜けなくて、少しだけ夜ふかしした。
いろいろ研究ノートを読み返したり、筋肉男対策を考えたりもした。
ヤンキーどもと戦って思ったけど。
普通レベルの人間相手なら、僕の超感覚は、結構強力だ。
でも、やっぱり僕自身のスペックはそこまで高くない。
そして超感覚は、僕自身のスペック自体を引き上げてくれるわけじゃない。
あくまでそのスペックの範囲内で、最善の結果が選べるようにできるってだけだ。
筋肉男は、たぶんこんな小手先の技で敵う相手じゃない。スペック自体が僕とは雲泥に思える。
調布が負けて殺されかけるくらいの相手。
そして超感覚のある僕が(発動させなかったはずがない)、何かの切り札を使って刺し違えるのがやっとだった相手。
もちろん、スペック上げていくのは怠らないようにするけど。
何かの切り札を持たないといけないな。
まあ、僕は他力本願だから、秋月さんをその一つに数えてる。
でも、僕は臆病だからな。秋月さん以外の手段も保険で持ってないと、落ちつかない。
本当のことを言うと、秋月さんが銃を持ってて使えるのなら。
あの筋肉男と怪老人は、あっさり撃ってもらいたい。
殺すことになるのかな?
それは秋月さんの手を汚させてしまうことになってしまうが。
個人的には、あいつのやったこと、やることを考えると。
殺すのも仕方ないと思ってしまう。
だけど、本当に人を殺すって考えると、やっぱり逡巡する。
たとえば、お前やれって言われても、なかなか簡単にできる気はしないよね。
いや、必要だったらやる。やるしかない。
人殺しで死刑になったり、牢獄で数十年過ごしたりすることになるかもしれなくても。
それはいいんだ。僕は一度生きてるし。
でも、それしか方法、ないんだろうか。
ただ、あいつらは。
僕たちの常識の世界の住人じゃない。
普通のこの国の制度では、あいつは裁けない、捕らえることもできない気がするんだ。
何か超常的な力を持ってる気がする。筋肉男の記憶阻害能力とか、怪老人の常識を逸した膂力とか。それ以外にも、何か隠し玉を。
法律や制度って強力だけど、ああいう想定を超える相手には対処できないし、かえって邪魔になることすらあるような気がする。
たとえば、筋肉男にちゃんと刑事裁判とか、できるのだろうか?
限定的かもしれないが、何らかの方法で記憶を弄れる相手に?
最後は殺伐としたことを考えながら寝たけど。
ボウリングや国領の護送や、いろいろ昼間は動き回ったせいか。2発抜いたせいか。
ぐっすりと深い眠りについて爽やかに目が覚めた。
やっぱり若い体は調子がいい。朝立ちもすごい。
―――――
午前10時半に、紫藤の家の側の公園に迎えに行く予定になってる。
三連休の時間を捻出するために、火曜日からの補習の予習資料を早朝にがんがん進める。
今から来週までは紫藤シフトだ。
それはこの3連休も含む。
できるだけ一緒にいるようにしよう。
ラッキーにも、外泊許可はもらってる。
まだ、約束の時間にはかなり早いが。
先に一度、日蔭谷に立ち寄ることにする。
僕は親に断って、家にある不要品、つまり食器とか、調理器具とか、そういうものを提供してもらった。
あまりお金のない友達の家に分けたい。うん、嘘はついてない。十分な理由だ。
段ボール箱にまとめて、ゴムロープで荷台に括る。ちょっと自転車に乗りにくい。
荷崩れしないように、慎重に坂道をくだり、いったんは日蔭谷を目指す。
日蔭谷では、もうマコトさんとたっくんナギさんが活動してた。
ふるぼけた麦わら帽子をかぶったマコトさんが、おっかなびっくりで脚立にのぼり、伸びすぎて家にかかってる木を切ってる。
下ではナギさんが支えてて、ときどき枝が落ちそうなところにさまよい出てくるたっくんを抱え上げて出してる。
うん、たっくんは学んでしまってるよ。そっちにいけば大好きなママが抱っこしてくれるって。
挨拶すると、元気な声が返ってくる。
ふたりのじゃまにならないように、しばらく、たっくんを庭の真ん中に連れ出して遊ぶ。
やっぱり男の子だからか。ちょっと危ない遊びが好き。
高い高いをしてあげる(これは実は危ないらしいと聞いたので、ほんのちょっとね)。
あと、両手を持って、ぐるぐる回る。
ぎゃははと笑って、足をバタバタさせて回転してる。
ナギさんがこっちをみて、ほっこりと笑ってくれた。
あとで時間があったら遊具のある公園に連れ出そう。そうしよう。
あとバッタと蛙を観察。まあ男の子の定番だよね。
折を見て、みんなで休憩して冷やした麦茶をいただく。
家から持ってきたお茶碗セットとか提供して、感謝された。
付き合いがなかったみたいで。
普通の家ではもて余しがちな食器の贈答セットみたいなのすら、ひとつもなかったんだよね、この家。
あと、買い出しでほしいものリストをもらう。
なるほど、蚊取り線香がもうなくなりかけか。山が近いしね、蚊も多いのかな。
少し僕も手伝って、雑木の枝を払ったりした後。
僕は日蔭谷からざくろが丘団地への坂道を、元気に自転車で上っていく。
待ち合わせ場所の約束の公園について、しばらく少年たちの手打ち野球をみながらまったりしてると、紫藤が来た。
「志野くん、おはよう!」
「おはよう、みなり。」
今日は茶色のキュロットスカート。生足が目にまぶしい。
靴は白のラムダか。ちょっと工夫の余地があるな。こんど一緒に買いに行こう。
紫藤は僕の横にきて、風雨にさらされてペンキがはげかけてる木のベンチに腰掛けた。
この前。あの救出作戦の前にその、あの、にゃんにゃんもどきをした後、あまり紫藤と触れ合えてない。
ときどきぎゅってしたり、キスしたりして紫藤成分を補給してるが、足りない。
ダイレクト濃厚接触が必要なんだ。
ベンチに並んで座って、少年たちの手打ち野球を観戦するふりをしながら。
隣の紫藤の、キュロットスカートから出ている膝を目の隅からじっと眺める。
うん、体は小さいけどそれなりにしっかりした太腿が、あの布の下に。
さわさわしたい。できればねぶりたい。
そしてちょっと上に遡りたい。いや、下でもいいな。あの白いふくらはぎをねぶって、そして、――
「志野くん。めっ」
なんか物欲しそうな顔をしていたのだろうか。
目の隅でみていた視線を動かしていくと、急に眉をひそめた紫藤のかわいい顔が割り込んできて、叱られた。
なんで気づかれたんだろう。
しゅんとしたふりをすると、よしよしかわいそうに、と頭を撫でてもらえた。
ふふ、ちょろいぜ。
「またちょっと後で、ゆっくりしようね。」
きらきらした、紫藤の笑顔。
まあ真昼の公園で、少年たちの前。ちょっとあれこれできないよな。
僕は紫藤のまだまだ小さい、でもすでに滑らかな肌の存在を知ってる体を未練がましく目の隅にとどめながら。
ほうっとため息をついた。
「そろそろ行く?」
「そうだな。もうちょっとだけ。この回が終わったら。」
いや、手打ち野球なんてほんとはみちゃいないよ。
あの少年たちは、気のせいでなければ僕を意識して張り切ってるみたいだけど。
ただ、あの部分が元気になっちゃってて立てないだけなんだ。それだけだ。
―――――
無事に分身がおとなしくなってから、僕は紫藤の荷物(衣類とか詰めた、大きいリュックサックだ)を前カゴに入れ。
二人乗りして、坂道をくだる。
真夏の太陽が照りつける。斜面になった土手の濃緑色のススキが揺れる。
その中を、二人乗りの自転車が風を切って走り抜けていく。
この斜面にも、昆虫採集らしい捕虫網を持った男の子がいるな。なんかススキの株の中を覗き込んでる。
結構そういうところにエロ雑誌が転がってたりするんだよ。悪友とよく探しに行った。
そういうので性癖がつくられたりするんだよね。あの子の狙いはどっちかな。バッタかな、エロ本かな。
日蔭谷の家にたどり着くと、紫藤の家からの救援物資を開ける。
紫藤母の着なくなってた服とか、紫藤父の捨ててなかった服とかがメインだ。
ちょっとナギさんには小さいかと思ったが、あまりサイズに関係ない服を多く選んだとか。
ナギさんは喜んでた。ちょっぴりダサい服もあったけど、全然OKだって。
紫藤父も、昔の痩せてた頃の服が入るようになったと喜んでいる。よかったですね。
たっくん用の服もある。紫藤弟の小さい頃の服、捨てられずにとってあったらしい。
これも中には黄ばんでるのもあったけど、使えるのも多い。
さすがにセンスは少しもっさり古い感じだけどさ。ただ、たっくん自体、顔は昭和顔だ。平成だけど。
「そういえば今日、弟さんは?」
「千里はね、午前は授業なんだ。」
僕たちの学校とはスケジュールが違うみたいだ。
特にこれといった予定はないのだが、お昼には調布も来るって言ってた。
あ、国領も呼べばよかったかな。もう大丈夫だろうし。
ん?
ちょっと何か引っかかりのようなものを覚える。
国領関係で、忘れてたことがあるような?
そうだ。
一応、昨日ので誘拐イベントは回避したと思うけど。しばらく家にいるときも気を付けろって、言い忘れてたかも。
途中でケンカする前には言っておいたんだけどな。もうイベント終わったから大丈夫と思うけど。
後で電話してみよう。
いや、紫藤に電話してもらおうか。
なんか僕、国領に嫌われたっぽいし。――はあ。
そうだった。
昨日の護送中、痴漢の話で国領を怒らせてしまったんだ。僕の無神経さで。
もうお役御免だ帰れよって、あの国領に言わせてしまうくらい。ガチギレしてたよな。
思い出すと、急にずぅんと気が重くなった。
しかもだ。
その後。僕は彼女を、本人の同意なくこっそり尾行してついていった。
それで彼女を誘拐しようとしてた不良どもをぶちのめせたから、結果オーライではある。だけど本人の同意がなかったのは事実だ。
そして救出後、僕は国領を尾行して家まで見届けた。
国領ももちろん、途中で僕の追跡に気づいて言葉を交わした。
でも国領は、誘拐イベントから救出したのも、その後に国領を追跡したのも、僕じゃなくて、「ロミオ」だと思ってるんだ。
そう、国領が僕に向かって「ロミオ」って呼びかけてきたんだから、間違いない。
ああ。
あのときのあいつの声、震えてたな。
やっぱり、すごく怖い思いをしたんだろう。
それまでの国領の僕に対する権高な態度、理不尽な怒りにも、思うところがあるけどさ。
でもあのときの国領の少し細い、怯えて震えた声を思い出すと、胸が痛くなる。
だからもしあいつが話しかけてきたら、水に流してやらなきゃ。
だって僕、あいつの2倍の年齢の大人だよ?あいつがどんな思いをしてたか、ってことくらい、わかってるよ。
あ、それに。
ロミオは不良ムーブしたから、ロミオも怖がられてたのか。
声が震えてたの、それもあるのかもしれない。
フレンドリーな国領が、一言だけ礼を言った以外に何も話そうとせず、まるっとロミオを無視してひたすら家路を急いでたもんな。
怖かったんだろう。家についたとき、安心したっていうような独り言、漏れてた。
後から表札の苗字が国領とは違うことに気付いて、ますます胸が痛んだよ。
ともかくだ。僕とロミオの一人二役は誰にもバレてない。
ありあわせ衣装での思いつき変装だったけど、国領はもちろん、あの不良どもも気付かなかったし。
我ながら、咄嗟に機転がよく効いたものだと思う。自分で自分を褒めてやりたい。
でもこのこと。僕とロミオが同一人物だってこと、絶対国領に気付かれたらダメだ。
僕があの後も、国領に付いていったと気づかれたら。
また彼女の怒りの炎に油を注いだり、あるいは傷つけたりすることになるかもしれない。
だって、イヤじゃん。ついさっき、痴漢男(じゃないけどさ)として罵った相手に助けられて、家までつきとめられちゃうなんて。
きっと、舌を噛みたくなるような屈辱だろう。
だから僕とロミオの一人二役は、これから先も、絶対に国領に気づかれちゃいけない。
あの国領のきれいなピンク色の舌を、守らなくちゃ。
女の子が多少生意気だとしても、それはしかたないよ。
ここは大人の僕が、泥をかぶってやらなきゃ。
それに、だ。
国領と僕とは喧嘩しちゃってるからな、当面、必要なときは。
「ロミオ」として行動するのもありか。
「僕」だと、あいつは素直に助けとかを受け入れないかもしれないし。
まあ、考えようによっては、それもスパイダ○マンみたいでカッコいいじゃないか。
誰にも知られず、正義の味方。うん、それもわるくない。
そうそう。
国領が入って行った家の表札には「布田」と出ていた。
国領の実家は少しだけややこしい話があるみたいだな。
離婚したが、子供の姓が変えられなかった、とか?。
あるいは、もっと単純に親戚の家に居候してるとか。
将来の国領の不運イベントに関係するかもしれない。心に留めておこう。
そして、まだあったぞ。
国領は将来、芸能関係の仕事に就くのか?役者とか、女優とか。
「役」という言葉に少し記憶が刺激された。
まあ、かなりの美形だからな。頭もいいし、キャラも面白い。
芸能関係の仕事についたとしても、違和感はない。
1回目の世界では、それで何か失敗しちゃったってことかも。スキャンダル関係とか。
断定はできないが、そういった可能性もある。
この推測も、僕の備忘録に書き込んでおこう。
こんど国領にあったら、役者、女優とかアイドルとかはやめとけって、言っとこうかな。
マコトさんとナギさんは引き続き外回りの手入れ。
たっくんは、連絡係。いや、ママにこれ、といってメモとか渡すと、あい、と持って行ってくれる。
階段は危ないから、たっくんは階段には入らせない。僕の家にあった子供用のガード柵が役に立ったよ。
僕と紫藤は、30分交代くらいで2階の掃除を進める。
いろんなガラクタを片付けると、思いのほか快適そうな空間に。
ネズミがいた形跡があったので、アルコール消毒する。
畳はできれば替えるか、裏返すかしよう。
―――――
「こんにちは、ナギさん、あ、たっくん、そしてマコトさん、みなり、ついでに志野。」
「こんにちは、さとみさん。」「とーふ!とーふ!」「ああ、よく来たねえ」「さとみん!」「おうっす。」
お昼の少し前に、調布がやってきたので作業を一時中断した。
買い出し部隊がお昼の食材の買い出しに行く。
在庫を確認して、お好み焼きにしようと決定。
豚肉が少しあったからね。小麦粉もソースもマヨネーズも。
それだけじゃ足りないから、海老とかイカとかかな。
近場のスーパーに、僕と紫藤と調布の3人で繰り出す。
僕の自転車は紫藤と二人乗り、そして調布は赤いマウンテンバイク。
やっすい自転車を1台買ってもいいかもな。ナギさんたちが乗れるように。
用心して変装とかすれば、ナギさんやマコトさん、買い物に出てもいいかもしれないと思うんだ。
特にナギさん。女の人って、そういう買い物とか好きだという固定観念が僕にはある。
実はそうじゃないかもしれないけどさ、ただ、ほら、傾向として。
そして今、僕が買い物カートを押し。
紫藤と調布の二人が頭を寄せ合いながら、買い物リストの商品を選んでる。
こうしてみると、タイプは全然違うけど、仲の良い姉妹みたいだ。
また、あの夢。紫藤と調布と僕とで仲良く暮らしてる夢を思い出して、多幸感を感じる。
夢なんだろうな。でもある意味、まさに今、その夢がごく部分的に叶ってるじゃないか。
くすくす、と二人が何か言い交して笑ってる。
姉妹丼、という単語が突然脳内スクリーンにブロック体で降りてきて、ごくりと唾を飲む。
なにかの波動を感じたのか、調布がこっちを向いてちょっと柳眉を逆立ててる。
まずい。バレたか。
僕は明後日の方向を向き、また筋肉男対策のことを考える。
秋月さんと打ち合わせが必要だな。いつ乗り込むか、どう乗り込むか、とか。
ひととおりの買い物をすませて。
早速作ったお買い物ポイントカードにハンコを押してもらって、家路につく。
紫藤が道端のねこじゃらしを摘んで、二人乗りする僕の自転車の荷台から、僕の首筋にさわさわする。
くすぐったいよ。
よし、あとで仕返ししてやるんだ。あんなことや、こんなことや。グヘヘ。
紫藤に、マコトさんがお酒を好きか聞いてみた。
下戸らしいが、良いことがあったときにはビールをグラスに半分くらいだけ飲んでたそうだ。
どうも紫藤母が結構な酒豪だったらしい。雪国の造酒の有名な県出身とかで。
紫藤母、どうなるのかな。僕の手落ちでもある、胸が痛む。
胸が痛む?
やっぱり僕も、お医者さんに診てもらおう。
よく考えたら、あの超感覚、何の代償もなく使えるのは変だ。
どっか体に無理がかかってるのかもしれない。
―――――
日蔭谷の家に戻る。
原始的なガスコンロを出して、プロパンガスから分岐ホースを引き、座敷の真ん中で焼く。
たっくんが、あきらかにわくわくしてナギさんの膝の上で弾んでいる。
このくらいの歳、僕ってなにか考えてたかな。
はじめての記憶、家で姉となにか火遊びしてた記憶があるな。
姉がマッチで丸めた紙に火を点けてたんだ。
母が飛んできて消されて叩かれ叱られて、わんわん泣いてたっけ。
まだ僕、ちゃんと喋れなかった気がする。姉もまだ小学校に上がる前だ。
だとすれば僕が2歳くらい、たっくんくらいのころだろう。
マコトさんがなんか張り切って焼き焼き奉行をやってくれて。
みんなに、豚玉やイカ玉やエビ玉のお好み焼きが行き渡る。
ひっきりなしにマヨネーズとかソースとかが行き来する。
うん、買い足したいけど、来客が多い状態、そんなに続かないだろうし。
この家自体、あまり長く住めるかわからない。
お金自体は、実はあまり心配してない。
コンサルティングの話。少し進んでる。これで少し収入が出ると思う。
あと調布との投資話。これも進めようと思ってる。今日、それについても調布と相談しよう。
ひととおりがつがつ食べて、みんな弛緩した感じ。
僕は調布と紫藤と、コンサルティングの話とか、投資話とかについて相談しながら、トランプに興じてた。
投資についてはこんど、お金をやり取りする、ということに。振込口座とかを教えてもらう予定。
紫藤もふんふんと一緒に話を聞いている。
七並べしてるんだけどな。この6と8を止めてるの、きっと調布だよな。容赦ないな。
僕が降参すると、調布が8を、紫藤が6を出した。ガッデム、結託してたのか。
悪の黒幕二人が楽しそうに頬を少し上気させながら負け犬の僕をこきおろし、視線を合わせて笑ってる。
平和だ。
「そういえば、ハルカは来なかったわね。」
「おとなしくしてるように、って言っといたから、家にいてくれるとは思うが。」
「――ああ、そのことなんだけどね。」
横で服とか救援物資とかを荷解きして選り分けてたマコトさんが、顔をほころばせながら言う。
「朝、一度来られたんだよ。志野君が来る、ちょっと前だったかな?
その、床の間においてあるお菓子。それを置いてね。
帰りにまた来ると言ってたよ。礼儀正しいし、いい子だね!」
それは初耳だ。
確かに、床の間のところに美味しそうなお菓子がある。気づかなかった。
飯場に顔が割れてるかもだから気を付けてくれ、って言ったのにな。
国領は家の中には入らず、入り口でお菓子を渡して挨拶して、すぐ行ってしまったらしい。
やや本格的なトレッキング姿、自転車に乗ってたとか。
ナギさんは、ちょうどそのころう○こを盛大に漏らしたたっくんの始末をお風呂場でやってて、国領と会えなかったらしい。
「お父さん。ハルカちゃんはどこに行くか、何か言ってた?」
「さあ、――山歩きでもしてみようと思ってるんです、って言ってたかな。」
こっちの方向、紫藤たちのざくろが丘団地より遠くには、まとまったいわゆる団地はない。
古くからの町が点在してるだけだ。
だから、その間はまあ、山とか丘ばっかり。
私有地なのかもしれないけど、多賀島が緩いのか、この時代が緩いのか、あんまり気にせずホイホイ歩いてた。
狩猟期は危ないけど、それ以外だと結構山菜取りとか、タケノコ取りとか、私有地でも入ってた気がする。
「ハルカちゃんは、ほら。神社とか、廃墟とか突撃する人だから。」
「そうよね。女の子なんだから、気を付けないとって思うわ。」
「何も、こんな時に行かなくてもなあ。」
微妙に、ざくろが丘というのは多賀島市内から飯場に行く途中にかかってるんだ。
それにな。
僕はちょっと不吉なことに気付いた。
昨日、僕は確かに国領ハルカの誘拐イベントを阻止した。
あの不良たち。なんか因縁つけて、どっかに連れて行こうとしてたよな。
だから、それを阻止したのは、いいんだ。
ときどき聞く話だったりする。ヤンキーどもが女の子をさらったり、家出少女を連れ込んだりして、ズタボロにしたりするの。
僕の地方じゃ、「雑巾」とか言ってたと思う。
監禁されてた女の子が死んでしまった事件が発覚して報道され、大問題になったこともあった。
それと似た悲劇、他にもあるんだと思う。
進学校にいた僕たちにすら、そんな話が聞こえてくるくらいだったから。
問題はここからだ。
あの未来の調布情報では、国領ハルカは一部が欠損したバラバラ死体にされ、丹念に洗浄され、冷却され、箱詰めされた状態で、発見された。
だけどさ。
あんな感じの不良どもが。
死体を几帳面にバラバラに切断したり。
丹念に血抜きして、洗浄したり。
それを丁寧に梱包して、腐らないようにドライアイス付けて、送ったり。
そんなこと、するか?
奴ら、どちらかというと逆なんだ。
小学生のカブトムシ飼育と一緒。捕まえるまでは熱心だが、あとは餌もやらず放置。
気が向いたらバコバコするだけ。それで殺しちゃうんだ。
あとはドラム缶に詰めて捨てたり、穴を掘って埋めたり、川に流したり。
その始末もすごい杜撰で、それで発覚しやすい。
つまり。
奴らはまちがっても、そんな丁寧なことはしない。というより、できない。
さあっと、血の気が引いた気がした。
まずいな。計算違いかもしれない。
今、国領はどこにいる?
「なあ、――国領がどこに行ったか、親御さんに電話とか、できるかな。」
紫藤と調布も、なんかそわそわし始めた僕を、気掛かりそうにみている。
一昨日の夜、僕が訪れた未来のことは、まだ二人に話してない。
でも、昨日も僕がしつこく国領をガードしたい、って言ってたし。
なんか僕が国領ハルカについて懸念を持ってるのは、二人とも気づいてる。
ただ、それは飯場関係のことだ、って僕は言ってた。
そしてどうも調布も紫藤も、飯場関係についてはあまり危機感を覚えていないようだ。
結構、足がつかないように気合を入れて変装させたらしいから。
(その後、国領は2回変装を変えて日蔭谷に戻ってるので、僕はその1回目の国領の変装がどんなものだったのか、直接に見てはいない。)
「あたし、ハルカの電話番号を手帳に控えてるわよ。掛けて聞いてみる?」
「ああ、頼めるか?僕がかけても、ちょっとな。」
あまり男からの電話、歓迎されないだろう。
ましてや(保護者に伝えてるかは知らないが)大喧嘩した僕からの電話なんて。
昨日はちょっと理不尽に切れられて、なにこいつって思ったけど。
あいつはいい奴だ、死なせちゃだめだ。もちろん、悲惨な目にも合わせちゃいけない。
「志野くん、ここに電話はないから、近くの公園にいこうよ。
急ぐなら自転車で、急がないなら、たっくんも連れて行く?」
「そうだな。あー、自転車はいらないかな。たっくんも、連れて行こう。」
杞憂かもしれない。
もともと、あの未来の調布のいた、鏡の中の世界。
あれが、この2回目の世界の延長だという保証もない。
まったく違うかもしれないんだ。もう、この世界はあの世界とは時間的に全く別の世界線になってるのかもしれない。悲劇は起こらないのかもしれない。
僕には、遠くの空でもくもくと立ち上がり始めた入道雲のように。
心の中で、不安が盛り上がり始めたのを感じていた。
ただ、折しも午前の授業が終わって、紫藤弟がお腹を空かせて帰って来たので。
ちょっとその不安のことから、気がそれてしまっていた。