※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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 ここから数話、微鬱展開です(グロくはない)。
 耐性弱めの方はまとめて後から読むか、読み飛ばしてもOKと思います。
 鬱展開終わりと筆者が思うあたりでタイトルに☆を打ちます。

 時間経過を修正。


135 王国は常に爾の胸に(11)(国)竜神の花嫁★

 

 大きな穴倉。

 そこにさらに掘り穿たれた、土牢。

 藁筵にうずくまっていた囚人は、はっと頭を上げ。

 そしてまた、寝ているかのように頭を伏せ、動きを止める。

 ゆらゆらと、土牢のすぐ外に置かれた大蝋燭が揺れる。

 

 暗闇の中を、明かりもなく、すっすっと歩いてきた人影が、土牢の前に立つ。

 和装の、美しい長い黒髪の若い女だ。

 もっとも、見た目どおりの年齢ではないのであろうが。

 

「起きているのであろう?食事は要るか。」

 

「ねえ、ボクを出してよ、返してよ!

 こんなことして、ただで済むと思ってるの!?」

 

 寝たふりをしてすきを窺おう、そう思っていた国領ハルカは。

 見破られたのを知って、普通に起き上がり。

 そう、相手を糾弾した。

 その頬に、もう涙の痕跡はない。

 

「ほう、ただでは済まない、とな。

 それでは、ますます出すわけにはいかぬな。」

 

「ぐっ、ー」

 

 言葉に詰まる国領ハルカをみて。

 くつくつと、女は笑う。

 こんな緊迫した場にあっても、この御侠(おきゃん)な少女の様子は愛らしいな、と女は思う。

 自分の失われた少女時代の一シーンが、脳裏をよぎる。

 

 お盆の上の塗り椀に盛った食事を供するために、女は土牢の格子の一部を開けて、お盆を中に置く。

 

「きっと毒だ。毒が入ってるんだ。ボクを殺す気だね?」

 

「殺すつもりなら、すぐにでも殺せた。毒はない、安心して召されい。」

 

 敵愾心のこもった国領ハルカの視線。

 それを、なんでもないように女は受け止めた。

 事実、この和装の女は数々の修羅場をかいくぐっていて。

 このくらいのことで動じるようなものではなかった。

 

「食べない。ハンストする、と言ったら?」

 

「仕方ないであろう。女の子(めのこ)は痩せ形を好む、というしな。」

 

 はんすと、というのはよくわからぬが。

 多少痩せても良いのであれば、そうすればよい。

 ずっと食わずとも、それは死因が変わるだけの話。

 そう、一蹴される。

 

 空腹だった国領ハルカは、しかたなく供されたおしぼりで手を拭き、食事に手を付ける。

 季節の野菜と豆に、小麦の麺の煮込み。

 ほうとうに似た手料理だ。

 素朴だが、美味しい。

 一口食べ始めると、がつがつ食べてしまう。

 

 食べ終わると、ご馳走様、と言ってしまうのは育ちがいいせいだろう。

 その様子を、好ましげに女は見守っていた。

 

「いきなりで、すまぬが。

 そなたを生きてここから出すわけにいかなくなった。」

 

 いきなり告げられた、死刑宣告。

 国領ハルカは、少し暖かい食事で元気づいていたが、もちろん猛反発する。

 

「どういうわけさ!勝手にさらって、こんなとこに閉じ込めて、そしてもう出せないって!」

 

 ボクが抜けだしたら。

 警察に言う。ひどい目に合わせてやる。もちろんだ。

 そう、少女は息巻く。

 

「ひどいことであろう。しかし、変えられぬ。」

 

 少女の健啖家ぶりに、孫娘を見るように目元を緩めていた女だったが。

 しかし、きっと頬を引き締めて、そう告げた。

 

「そなたは、見てはならぬものを見た。本当であれば、これらの道具で、」

 

 女はさっと、数々の責め具を示して見せる。

 

「命絶えるまで、責め抜くところだ。

 事実、そのようにした怪しからぬ男どもも多い。

 だが、そなたには、別の道を選ぶ機会を与えよう。」

 

 女の縦長の瞳孔が、自分を飲み込むくらいに広がるような、そんな錯覚。

 国領ハルカは魅入られたように感じた。

 

「『竜神の花嫁』となる道だ。」

 

 -----

 

 それから2時間ほど後。

 国領ハルカは、女に与えられた情報を整理していた。

 

 狂気の言葉だった。

 女は、国領ハルカに語った。

 竜神をみたものは、その試しを経ずに生きてこの地を逃れることは許さない、と。

 あの村の女たち。彼女らも、ごく一部の例外を除き、竜神をみたことはない。

 竜神の出る時間を決めて、絶対に竜神と接触しないようにしているのだと。

 

 もし見たら?そして下界に伝えたら?

 おそらく、竜神なるものを捕獲しようとするか、殲滅しようとするかするであろう。

 しかし、竜神は世の常ならぬ力を持っていて。

 多賀島市くらいの都市なら、容易に滅ぼすことすらできたのだと。

(過去形であることに、国領ハルカはわずかな疑問を覚えたが、その場では問いたださなかった。)

 

 竜神は悪か?それはわからない。

 人間の善悪の尺度で、測ることは難しい。

 竜神は、いつのころからかこの地に定住していた。

 地元の村人に、食べ物や住まいの知識を与え、病を癒し、外敵から庇護した。

 そして、贄を取った。--とされているが。

 

 食べたりしてたわけでは、ないらしい。

 もともとは、儀礼的なもの。

 一晩を過ごす、お世話役のようなものだったのではないか。

 

 竜神は、長い周期で眠りにつく。

 たとえば50年間眠り、50年間起きる、というような活動周期。

 その眠りについた間には、大型の熊や狼なども竜神の住まう洞窟に住みつき、贄を食い荒らした。

 だから、誤解されてしまったのだろう。

 

 竜神は、この世界のものではない。

 偶然に、この世界に飛ばされてきてしまったのだ。

 この世界のものは、竜神には合わない。

 竜神は、少しずつ衰えていった。

 眠りの期間は長く、活動期間は短くなった。

 死期は、迫っていた。

 

 一つ前の活動期間に、供された贄。

 それが、国領ハルカの目の前で語っている、この女だと。

 

 竜神は、孤独だった。

 そして、年老い、もはや人間でいえば老人。

 老竜神は、跡継ぎを望んだ。

 彼の元の世界では、可能だった異種間交配。

 竜神と人間が子をなすことも、竜神の元いた世界では可能だった。

 しかし、姿かたちは似ていても、この世界の人間たちとはなぜか不可能。

 

 なかば絶望に浮かされて、竜神は、一つ前の覚醒時期には贄と番った。罪人を要求し、種を植え付けた。

 無駄な努力だった。

 この時期の贄や罪人のことについては、確かに、竜神にも責めがあるかもしれない。

 ことごとく、死んだのだから。

 

 絶望の中の、一筋の光。

 それが、目の前の彼女である。

 「竜神の花嫁」にして、「竜神の娘」となった者である。

 竜神と番い。

 そして生き延びた者。

 竜神の力の一部を受け継いだ者である。

 

 それを聞いて。

 国領ハルカは、目の前の彼女をしげしげとみて。

 そこに、確かに通常の人間にはないいくつかの特徴を認める。

 爬虫類のそれのように縦に切れた瞳孔。

 外から見えるところだけでも、頬の一部、手足の一部に認められるウロコ。

(薄暗い蝋燭の明かりの中ではあるが、それらが病気によるものではなく、ちゃんとしたウロコだということが、彼女にはわかった。)

 そして、心話。「心術」と彼女は語ったが、それを含むいくつかの超常能力。国領ハルカの動きを止めたのも、その一つ。

 それらが、彼女に与えられたのだと。

 

 選択肢は、2つ。

 一つは、安らかに殺されること。

 ただし、親元には、ちゃんと死体を返してやる、と女は言う。

 

 親の死に目に会えないこと、親より早く死ぬことは、親不孝であるからな。

 せめて、死に顔は見せよ。死化粧もしてやる、と。

 

 そう、悲痛な表情で、言うのだ。

 

 ちゃんと清めて、箱に詰め。

 付き合いのある組織から、「らくとあいす」だったか?それを入手し。

 腐れたりせぬように冷やして、親元に返す、と。

 そのくらいの情はある、と。

 

 殺すにしても。

 眠るように死なせてやる。苦痛のない死を与える。

 忍び込んだ盗人や、ここに逃げ込んだ女を追ってきた、女に乱暴する男は、徹底的に責めぬいて殺した。

 それに比べれば、はるかにましであろう?

 

 女が本気で言っていることは、疑いない。

 事実、女は彼女(国領ハルカ)のことを、気に入っているようだった。

 人の感情に敏感な彼女(国領ハルカ)には、それがわかった。

 純粋に好意で、言ってくれているのだろう。

 しかし。あまりに絶望的な選択肢である。

 

 もう一つの選択肢は、「竜神の花嫁」。

 竜神の贄となること。竜神と、番うこと。

 

 これも、ほぼ助からぬ。

 死にざまも、むごい。

 もちろん、及ぶところで亡骸は拾って洗って届けてやる。

 それは心配するな、と。

 

 いや、そんなことは心配してないんですが、と彼女(国領ハルカ)は思う。

 

 それは、どんなことになるの?

 

 そう、聞く。

 

 竜神の窖(あなぐら)に、降りていくのだ。

 入ったものは多く、出たものは少ない。

 そして竜神と出会い、番うのだ。

 

 そう、女は答える。

 そして、番った後、どのような死に様を迎えるか、無感動に、正確に、説明する。

 耳を塞ぎたくなるくらいに、微に入り細を穿って。

 

 じゃあ。

 もし、竜神がその気にならなければ?

 だって、ほら、ボクって体がまな板みたいだし、さ。

 お姉さんみたいに、色っぽくなんてないし。

 それに、竜神の目をかいくぐって、逃げ出せたら?

 そしたら、ボク、警察に駆け込んで。

 大捜査してもらうからね!それでもいいの!?

 みーんな、お姉さんたち、つかまっちゃうよ!?

 

 そう、激怒を買うことを覚悟で、聞いてみる。

 

 頑是ない孫のわがままを聞く、祖母のように。

 竜神の娘は、笑みさえ浮かべて頷く。

 

 そうであったら、しかたない。

 そこまでのことであったのだろう。

 ただし竜神は強い。その力を受け継ぐ、自分も。

 これまで竜神を逃れたものは、ほとんどいない。

 この私以外は。

 あとあれらの者には(そういって女は、集落と思しき方向に腕を振った)、罪はない。

 ほとんどなにも、知らぬよ。

 

 運命を試せ、そして見出すがよい。

 竜神の窖(あなぐら)で。

 

 そう、竜神の娘は言った。

 

 どうやら、国領ハルカには。

 この博打にかけるしか、道は残されていないようであった。

 

 ーーーーー

 

 その後もいくつかの質疑があり、それが尽きて。

 女が去った、ろうそくの明かりだけがたよりの暗闇の中。

 彼女(国領ハルカ)は考える。

 少しでも生き延びる可能性を上げる方策は、ないだろうか。

 取引に使えるようなものが、何かないだろうか。

 何か事態を打開できそうな道具や知識は、ないだろうか。

 

 何もなかった。

 彼女は、夢想的で独創的で、ちょっと不思議な魅力を備えてはいても。

 でも基本的には平凡な、無力な少女にすぎなかったのだ。

 彼女の押し殺したすすり泣きが、土牢に響く。

 整った顔を、熟柿のように赤く歪めて。

 残酷な時の歯車は容赦なく、彼女を噛み砕いていく。

 

 

 はずだった。

 

 もしそこに、妙な異分子が。

 変なやつが、またもくちばしを挟まなかったら。

 未来の調布智美が、伝えたように。

 数日後、丁寧に洗浄され、梱包された死体が、自宅かどこかに届けられていたことだろう。

 

 ─────

 

 それから1時間くらい、経った頃だろうか。

 決心はついたか、と女がやって来て、彼女(国領ハルカ)に問うた。

 ふかしたての素朴なヨモギ風味の餡入り団子とお茶を勧めながら。

 

 決心ついてなんか、いない。

 いないけど、ここにいては体力もおちてゆくだろう。

 だから国領ハルカは、その問いに答えるより先に。

 

 ねえ、寒いよ。

 レインウェアとか持ってきたけど、取り上げられたままだよ。返してよ。

 

 そう文句をいう。

 女は気の毒そうな表情になり。

 ださい綿入れ半纏を持ってきてくれた。もちろん彼女(国領ハルカ)のレインウェアも。

 これ、暖かいから中に着とかれい、と。

 その言葉遣いに、死んだ大好きなおばあちゃんのことを思い出して。

 また、泣きたくなってしまった。

 

 ボク、決めました。

 竜神に会います。

 そして、逃げます。

 お姉さん、捕まっちゃいますからね!

 

 そう、空元気を出して女にいう。

 女はちょっと悲しそうだったが。微笑んで。

 

 いいさ、その意気だ!

 逃げられたのなら。それが天命。

 逃げて全部、ぶち壊してしまえばいい。

 竜神の試しを、打ち破りなさい。

 

 そんなことまで、言った。

 

 心にもない嘘のようには、思えない。

 なんだか、この人のことを憎めないや。

 

 いままでに聞いた、この人の話からすれば。

 たぶんこの人、ある種の大量殺人鬼なんだろう。

 でも、こんな残酷なことを強いるのが本心とも、思えない。

 何かの事情が、あるのかもしれないが。

 

 それでは参ろうか、と。

 女は国領ハルカが逃げだすなんて思ってもいない様子で、土牢から出してくれる。

 ただ国領ハルカには、わかった。

 尋常でない力を、この女はもっていると。

 逃げようとしたら。

 蚊を叩き潰すより簡単に、この人は、ボクの両腕両足を叩き折れるのではないか。

 何より、あの身動きを止める不思議な力もあることだし。

 

 もはや太陽は沈み、深い闇。

 二人は土牢のあった穴蔵とつながっている大きな洞窟に入る。

 木枠でできた、大きなゴンドラ。

 木の車輪がついていて、垂直ではなく、斜めに引き上げるようになっている。

 粗末な滑車が複数組み合わされ、ウィンチが設置され。

 女一人の力で引き揚げられるようになっているようだ。

 (もっとも女の、竜神から受け継いだ怪力があってのことかもしれないが)

 

 竜神も、決まった時間にこれで上らせてもらってるのかな。

 人間用では、おそらくない。

 気を付けてしっかりつかまってないと、木枠の粗い格子のすき間からスルッとすべり落ちてしまいそう。

 

「化粧や髪梳きなどは、「もう、いいよ。」――そうか。」

 

 ずばっと切り捨てると、ちょっと寂しそうに女は笑った。

 

 そなたの武運を祈るが、もしものときは。

 そなたと遺品を届ける先は、その背嚢の荷札に書いてあるところで良いのだな?

 

 そう、女は言い。

 

 国領ハルカ。

 ――そなたの来世に、福のあらんことを。

 

 そういって、ぎゅっと彼女を一度抱きしめた。

 そして彼女(国領ハルカ)はゴンドラに移乗するよう促され、ゴンドラが下ろされ始める。

 荷物は、すべて返してもらえた。

 小さなビクトリノックスの8徳ツールも、リュックの中にはあったのだが。

 取り上げられることもなく返してもらえた。

 目で問いかけると。

 構わぬ、それで歯向かえるようならそうするが良い、と言われた。

 

 懐中電灯は、あまり持たないかもしれないな。使うとは思ってなくて、電池を交換してない。

 とりあえずレインコートの前を留めよう、下に着いたら。肌寒い。

 

 ゴンドラが、下の地面についた。

 このまま、ゴンドラを引き上げるロープをたどって上に登って行ったらいいんじゃないか?

 そう思ったが。

 彼女がゴンドラから降りると、情け容赦なくゴンドラは引き上げられてしまった。

 

 しかたない。

 彼女は、懐中電灯を点灯し、周りを照らして見回す。

 あの蛸が動き回れるくらいの、大きな洞窟だ。

 地肌が滑らかなのは、毎日あれがはい回ってるからだろうか。

 

 もっとも、洞窟の壁や床に小さな裂け目や穴があちこちにあるのを、彼女は認めた。

 小さなトカゲかヤモリのような生き物が、臆病そうに、顔を出すのも。

 竜神と、鬼ごっこすることにして。

 そういった小さな裂け目や穴に入り込んで、隠れるという方法もあるかもしれない。

 もしかすると、その裂け目の中には、外に通じているのもあるかもしれない。

 そう思うと、この「竜神の試し」も、楽勝ゲームとは言わないまでも。

 決して攻略不可能ではないんじゃないか、という気がしはじめる。

 

 洞窟の中の、非日常的な光景もあって。

 少しずつ、国領ハルカのテンションは上がってきた。

 

 彼女は慎重にあたりを照らしながら、少しだけ上り坂になってる正面通路を歩く。

 懐中電灯で照らした壁面が、何か彩色されてる。

 

 ほう。小さな蛸を、大きな蛸が肩(?触手の根っこのところ)に乗せて、運んであげている様子。

 大きな蛸に、小さな人間が跨って乗っている様子。

 小さな蛸と、小さな人間が仲良く(?)ボール投げか何かの遊戯をしている様子。

 

 思いのほか人間くさい彩色画に、国領ハルカは少し竜神の評価を改める。

 きっと、仲間うちでは優しい生き物なんだろう。

 本当なら。

 時間をかけて、分かり合えるのかもしれない。

 ただ、ボクには、その時間は残されていないんだろうけど。

 

 1時間くらいもさまよっただろうか。

 とある曲がり角を曲がったときに、ついに国領ハルカは蛸に出くわす。

 

 国領ハルカの透き通った声での、悲鳴が上がり。

 すぐに何かでふさがれたような、くぐもったものに。

 何かバサバサと衣服が剥かれるような音。

 ぎゅっと肉を締め付けるような音。

 ぴたぴたと何かを嬲る湿った音。

 ごくかすかに耳を澄ませていれば聞き取れるだろう、ずりゅっ、という音。

 懐中電灯は床に転がり、その陰惨な光景から目を逸らすように。

 明後日の方向を照らしていた。

 

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