タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
時間が取れず遅くなりました。内容、後で少し書き足すかもしれません。
(追記)
12/9 末尾付近を加筆しました。
赤外線モードでもあまり見通しが効かない闇の急傾斜を、猛スピードで滑り降りていく。
基本的にはなめらかだが、大変に急峻な傾斜だ。
エクストリームスポーツ。
そういうジャンルがあるってのは知ってたし、動画サイトでちょっと見てみたことはある。
ハリウッド映画みたいに面白い、けどまあ自分では、しなくていいかな。
そう思ってた。
だって動画見てると、玉ヒュンするし。
ニュースでは、ときに死亡事故も流れるし。
パルクールみたいなのは面白そうだけどさ。滑空や滑走系は、怖すぎる。
それが、無理矢理自分でやる羽目になるとは!
フリーライドスキーだっけ、あの自然の山肌を滑り降りるやつ。あの超急滑降の動画みたいだ。
斜面に直角を心掛けて靴底でなんとか滑る。耳元で唸る風。
斜面はつるつるしてはいるが、肌をすべらせて大丈夫なほどじゃない気がする。
滑り台みたいにお尻ですべろうとしたら、削れていっちゃうんじゃないかな。
ちょっと擦れて痛いだけで大丈夫なのかもしれないが、試す勇気はない。
赤外線アイで視界ぎりぎりにみつけたでっぱりが、急速に目の前に迫ってくる。
アイススケートみたいに足面を斜めに向けて、方向転換し、横に回避する。ふう。
でもこんどは横壁が迫ってきてる。斜めになりかけて、あわてて逆方向に転換。
迫りくるでっぱりの回避がどうしてもまにあわないときは、軽くジャンプ。
ジャンプはすごい心臓に悪い。着地で滑ってバランスくずして、お尻を付きそうになる。
ものすごいスピードだが、終点にいきなりとがってるものとか置いてないだろうな?
プスッて刺さって終わりなんて、目も当てられない。
いや、固いなにかがあるだけでトマトケチャップ不可避だ。そっちも嫌すぎる。
ただ、僕の懸念は当たらず。
なんとか地底の広間にザザザザァ、と止まった。直径30メートルくらいか。四方に道が通じてる。
ひとつは僕の滑り降りてきた急斜面で、傾斜角と滑らかさからみて常人には登攀は無理だろうな。上まで、ビル5~6階分くらい?
他の出口があるだろうか。なければ詰んでる。
まてよ。まず国領を捜そう。
背負ってたリュックから、懐中電灯とヘッドライトを取り出して装備。
赤外線アイでもある程度はわかるのだが、日頃の視界と違いすぎて見落としが出そうだ。
ほら、光をつけると。
何らかのワゴンのようなものの跡、そして軽登山靴と思われる足跡。
僕自身の足をあててみる。
27cmの僕の足より、かなり小さくみえる。
22、3cm位か。
十中八九、国領の足跡だろう。
あと、ワゴンみたいな車輪の跡は。
たぶん、人間かあの龍神と称する生物が行き来する装置があるのだろう。確かに思い返すと、何やら巻取り機みたいな装置が片隅にあった気もする。
畜生、あの女。
安全な手段もあるのに、ひとつ間違えれば大根の摩りおろしみたいになる可能性あるエクストリームスポーツを強要しやがったな。
包丁だって人に向けちゃいけないんだよ。
きっといつか、反省させてやるんだ。
とりあえず、すごいエロい嫌がらせしてやる。脳内で。
裸に剥いて、絵筆でくすぐるとか。
うん、いいな。
あの和風美女の容姿とあいまって、小妻容○の責め絵みたいな情趣がある。
頭の中で妄想を働かせて、少し元気になった(意味深)僕は。
超感覚さんのおかげで浮き上がってみえる国領の足跡を追いながら、この迷宮の探検とマッピングを始める。
もちろん、竜神との遭遇には気をつけねば。いろいろすぐ隠れられそうな岩の裂け目とかを念頭に置きながら進む。
臆病な性格ゆえ。
ヘッドライトの投げかける光にこそこそと隠れる小さなトカゲとか、ヤモリとか。
そんなものにさえ、僕は心臓をどきつかせる。
だって怖がりなんだ。しかたない。
ただ、あまり慎重にもなっていられない。
国領が竜神の試しを受けてると、あのクレイジー女は言ってた。
その詳しい内容について女は語らなかったが。
終わったら亡骸を返す、と言っていた。試しが終わると命を失うこともありうる、ということは推測できる。
僕の乏しい想像力じゃ、国領が18禁同人みたいに触手プレイを受けてる、みたいな情景しか浮かんでこないのだが。
それとも、なんか質疑が繰り広げられてるのだろうか?宗教問答みたいな。異端審問とかされてたり。
まさか、ね。
奇妙な廻廊のような空間を横切りながら、ぼくは自分の妄想を取りあえずはしまい込んだ。
探索の途上。
生贄たちの行方を示唆するようなものもみつけてしまう。
まだ捜索を開始して、10分と立っていないころだ。あの滑り落ちてきた十字路からさほど離れていない場所。
酸っぱいような、甘ったるいような妙な匂い。
この洞窟、基本下の方の階層は湿っていて、上に近い階層は乾いている。
その、比較的乾いた階層にあたる場所。
半ば、見ることになるものを十分に予想しながら覗いてみたが、やっぱり後悔した。
20体強の死体だ。多くは男性のもの。女性のものも、ごく少数。髪が残ってる死体も。
洞窟のなかでも特に低温で乾燥した空洞にあったせいか、乾いて干からび、死蝋化しているように見える。匂いはあるが、蠅や蛆は湧いていない。
ただ、強烈な死臭。
本当はわずかな臭いなのかもしれないが、少なくとも超感覚さん起動中の僕には堪える。
鼻での息を止めながら、死体から情報を読み取ろうと努める。
すごく古いものではないが、ごく新しいものでもない。素人推測だが、数年前〜十数年くらい前のものか?
結構、年の行った壮年や老人の死体が多いように見える。
国領のものらしい死体は、見当たらない。
いくつかの死体の腹部は、爆発したように肋骨や背骨が欠けていたりする。
また、手足が引きちぎられた死体も。これはすべて男性の死体みたいだが。
丁寧に並べられていたらしく、少し広めの教室くらいの部屋みたいな空間は、整然とした印象。
ただな。カタコンベの写真は見たことあるが、無数の死体の凝視なんて経験したことはない。
しばらく観察したが、国領に結びつきそうなものはなさそうだ。
救出に失敗したら国領の死体もここに加えられたりするのだろうか。僕のもだが。
そっと手を合わせ、引き返した。
探索を続ける。暗闇の中、ヘッドライトと赤外線アイの視界で。
部分的には岩肌、部分的には土肌。
通路には、何らかの手が加えられている。
探索していて、思う。
ある種の奇妙な芸術味が、この洞窟には、ある。
あるいは、一部に描かれた壁画らしきもの。
あるいは、整然と建ち並ぶ柱廊。
あるいは、深い亀裂に、架けられた細い橋。
広い、ほぼ正円型に掘り抜かれた地下のドーム。
地下とは思えぬ広い空間で、険しく切通し状に斜面を登る通路。
ちなみにこの最後に言及した通路、中央部分は階段ではない。人間にはやや無理な角度のなめらかな斜面だ。
人間には、ちょっと幅広なすべり台ってとこだ。すべり面は、幅2メートル以上ある。
すべり面の両脇に、人間には大きすぎる段が刻んである。あの蛸が、吸盤とかで登る手すりみたいなものかもしれない。
国領の足跡は、これをみて引き返し、脇道に逸れている。やや地下深くに向かう緩傾斜の通路へと。
ぴこん、と超感覚さんが警報。
このあたりの地面。岩肌が多いが、地面は薄く土で覆われてる。
その土が、乱れてる。
先に進み、教室ふたつぶんくらいの空間。
「!」
空間の入口近くに、破れた服の破片。
カーキ色の生地、山歩きの定番色だ。
慌ててまわりを探る。
部屋の中央部近く。いくつかの闘争(?)の残滓。
あの色が少し茶色い髪(聞いたことはないが、ブリーチだろうか、地毛だろうか)の頭を覆っていただろう、サファリハット。これは、ほぼほぼ無損傷。
服の袖口のボタン?。きらっと光を反射。複数ある。
そして、年頃の女の子の好みそうな、可愛い下着の切れ端。上も下も。
上は胸近くまでのTシャツかタンクトップらしい生地の破片と、Aカップのブラ。
下のショーツも、ほぼ全部。
どちらも乱暴に引きちぎられたようにみえる。
他には。
雑多な布切れ。服や靴下の一部か、あるいはリュックか何かの一部かもしれない。ただ、国領がおそらく背負っていたはずのリュックか鞄か自体は、あたりにはみあたらない。
それと、懐中電灯のライトの一部かもしれない、透明なプラスチック片。
プラスチック片は僕のヘッドライトの光を反射してて、気づいた。
何、僕はグズグズしてたんだ。
無能な自分への憤りと、おそらくは襲われて死んだ国領への申し訳なさで。
胸がつぶれそうな思いで、その場に膝をつく。
ある限りの国領の遺品を、ポケットに押し込む。
あれ、入らないな。
後は自分のリュックのサイドポケットに入れよう。
鉛みたいな何かが、胸の中にある。
涙は出ない。
自分がした大罪から目を背けるべきでない。
僕は阿呆だ。最初から気狂いか馬鹿だと思われてもいいから、頭のいい調布に全部打ち明けて相談すればよかったんだ。
いや、国領自身にだって。
あいつ霊感とか信じてそうだし、もしかして話が通ったかもしれないじゃん。
取り返しのつかない事態だ。この頭を固い岩にぶつけて割ってしまいたい。
せめて。
あの竜神とかいうやつ。あいつが国領を殺したのなら。
ぶち殺す。あのクレイジー女の目の前に死体を並べてやる。
そう、激烈な感情が頭を支配してたせいか。
だから「キーン」という、危険をしらせる超感覚の耳鳴り。
あの、以前筋肉男や竜神の接近を教えてくれたあれ。
それが鳴り出したとき、僕はごく自然に殺意に塗りつぶされて。
スプレーを取り出せるかポケットを軽く叩いて確認し。
流れるように、リュックから新たに開発・製造してみた黒色火薬製の手榴弾もどきを取り出して用意し。
余計なもの、手持ちの懐中電灯とか国領の遺品とか、をリュックにしまい込んだ。
這いずる音。あまり速くはない。
先に気づいてれば、逃げ切れるだろう。
国領は不意をうたれたか、あるいは正面から話をしようとしたのかもしれない。
向こうには僕の所在はバレてるだろう、ライトもつけてたし。
通路のひとつから灰色の巨体が入ってきたとき、僕は部屋の中央に立ち。
問いかけた。
「お前が国領を、殺したのか。」
言葉での答えはない。
"土。種。撒く。過ぎた。"
"可能性、小。これから。知る。"
"2つ、土。無駄。無意味。"
"わが子。危険。予防。廃棄。"
そんな観念が、流れる。
たぶん2人目の人間である男の僕(国領が1人目?)は危険で種を撒いても無理だ、だから処分しよう、ということだろう。そんなに外れてない自信がある。
灰色の巨体が迫る。
ぴゅうっ、と触手が襲ってくる。僕の頭を狙ってる?
もちろん、軽く見切って避け。
反撃として、容赦なく眼と思しき器官に向けてスプレー発射。クマにも効くやつ。
ただ、密閉された空間だと僕にも被害が出る。だからこの部屋みたいな空間から出る通路に走る。
だが。
ゾワッとした感覚。一瞬、背後を見もせずに、サイドにステップ、身を屈める。
さっきまで僕がいたあたり。触手によって投げられた、赤子ほどもある石塊が飛びすぎていく。
狙いの正確さからみて。スプレー、あまり効いてないのか?
まあ、この世界の生物ではなさそうだからな。
竜神が進んでくるスピードはそこまで早くないが、せまい通路であんな石ころ投擲を乱射されたら詰みかねない。
あの腹部爆発の死体も、この石投げによるものなのかもしれない。
どこかでこの蛸、竜神を食い止めねば。
比較的狭い通路。時折、背後から強烈な勢いで石塊が投げられ、ひやひやする。
だが、少し距離が開いてきたか。
谷のような巨大な奈落の上、一本橋のように渡された石に差し掛かる。ここがいいな。
たぶんこの竜神、大蛸が作った石橋だ。巨体を支える頑丈さがある。だが、僕の狙いは石橋が渡された岸。
橋みたいなこの巨大な自然石は、壊せないだろう。しかしそれを支える岸の地面は、比較的軟弱な土にみえる。ここを破壊したい。
隙間の裂け目や穴ぼこに、黒色火薬て作った手榴弾もどきを複数仕掛け、ライターを擦る。
ずりずり来てる気配。
”伸ばす。裂く。絞める。潰す。殺す!”
追ってくる竜神の思考波が闇の中から、たたきつけられてくる。
やっぱりスプレー、少しは効いたのか。すごい怒ってる。
でもな、怒ってるのは僕の方だ。まだ復讐できてない。
僕は橋のこっち側にもう渡っていて、手榴弾もどきも、そこに仕掛けてある。
導火線に着火、急いで走って距離を取る。十数メートル、導火線にはまだ余裕あるかな。竜神にちょうど直撃してくれたらそれもいいが、まあ橋を落とせればそれでいい。できれば竜神が橋の上にいるときに。
横道になりかけのくぼみに身を寄せて、伏せて、耳を塞ぎ、口を開けて、───
爆発音。思ったより小さいか?
いや、連続する音。いかん、狙った橋の肩ではなくて、こっち側の壁が崩落しかけてる!
そういえば橋のわたってる谷の下から微かに水が流れる音がしてたし、壁の地盤自体、弱かったのか?
全力で、未知の通路の先に走る。どどん、グラグラと地面が揺れ、軋むような音、土や石混じりの風が背中にぴしぴし吹き付ける。
しまった。やりすぎたかもしれない。
石橋はわからないが、石橋を渡ったこっち側の通路の上部付近が崩落して塞がったんだ。
蛸に直撃はしなかっただろうが、少なくともすぐには来れまい。その意味では目的を果たしたが。
でも、僕の国領探索も困難になってしまった。
うん?
今しがた飛んできた土埃でまだ濛々としているし、地面もそれでおおわれているが。
微かに風が吹いている(崩落個所が完全にふさがってないのかもしれない)。
風に吹きはらわれて、土埃が薄くなってくると。
今しがたの柔らかい土ぼこりで覆われかけてるが、足元に誰かの足跡がかすかに残っている。
周囲を確認。
壁に寄りかかりながら歩いてたのか?壁際に、不規則に、足跡らしきものが。
この通路を、先に行ってみよう。
壁際の地面付近に、ヘッドライトを受けて何か光るもの。拾い上げてみると、ちぎれた登山シャツのボタンみたいにみえる。
国領、あの竜神からどうにかしてここまで逃げ出したのか?
僕は足跡を追う。しかし途中から地面が岩壁になってしまい、追跡は相当困難になってしまった。
懐中電灯を再び取り出し、慎重に足跡や遺留品を探しながら進む。
このあたりの道幅は、狭い。あの大蛸がかろうじて通れるくらいか?
あまりあの蛸はこっちの通路には来ていないのではないだろうか。少なくとも最近は。
ところどころ巨岩がくずれ落ち、道をふさぎかけてるところもある。
清冽な清水の流れが表に出てきてるところがあり、僕は一瞬、土まみれになった手と顔を洗うために立ち止まった。
この水、飲めるかな。まあ飲むのはやめておこう。まだ水のペットボトルがある。2つ買ってあり、1つは手つかずだ。
顔を拭いて、ふうっと息をついたとき。
かすかな水の音に紛れて、遠くからすすり泣きのような声が聞こえた気がした。
国領か?生きてるのか!?
僕は慌てて超感覚を研ぎ澄まし。
周囲に注意を払い、かすかに声が聞こえたと思った方向に道をたどっていった。
とにかく、国領が生きてさえいれば!
応急的なものでしかないが、救急キットも持ってきてある。
国領がどんなことになってたとしても、僕がどんな対価を払うことになったとしても。
絶対に、こんな暗い窖で人生を終わらせたりなんか、させない。
絶対に、生きてここから脱出させてやる。
そのときの僕は、そう決心していた。
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―――――
(第三者視点)
彼女は、若く美しく力に溢れていて、しかし孤独である。
数奇な運命により、眠り込んでいた彼女を置いて、時は流れ。
今や存命の年齢の近い女友達は1人。その子も、あの世へのお迎えの近い年頃だ。
わずかな数になってしまった、集落の住人。つまり頼れる身寄りもなく集落に取り残された女たち、救いを求めてたどり着いた寡婦たちやその子供たち。
まだ何も知らない、小さな童たちを除けば。
彼らは、尊敬とともに畏怖のまなざしを彼女に向ける。
彼らが(古風な生活スタイルだが)安寧に保護されて暮らせているのは、彼女の超人的な体力・能力のおかげだと彼らもわかっていて、尊敬してくれてはいるが。
そのために彼女は手を血で汚しもしたし、またそもそも人間にはふつうみられないような特徴的な外見を持つに至ってしまっている。
彼らに怖れられるには、十分だ。
その彼女も、所詮はお伽話の浦島太郎のように時に置いて行かれただけ、もともとは能力を偶々得ただけの小娘にすぎないというのに。
彼女は、他の村人の家からポツンと離れた、かつて自分の両親のものであり、若干だけ改修して暮らしよくしたあばら家で、もの思いに耽った。
気になるのは、やはり今日さまよいこんだ男女のこと。
竜神の試しを経て、彼らは生還するだろうか?
不思議に、そのことが気にかかり。
あの青年を竜神の窖に送り出し自宅に戻り、そうしてしばし物思いに耽ったあと。
彼女はいそいそと簡単な茶菓子など、もてなしの用意をして。
また外に出て、彼らが試しを潜り抜けたときの出口となるはずの、竜神の洞窟の入口近くに佇んだ。
――空振りに終わるであろうな。
それでいいのだ、せっかく作った菓子だが、村の童に与えよう。
東の空から昇りだしておぼろに地上を照らす月の光を、背中に受けながら。
竜神の試しを受けているはずの
どうしてだろうか。
彼の毅然とした姿をみたときに早まった鼓動が、落ち着かない。
「
ふと口を突いて出る言葉。自分でも戸惑って、その特徴的な目を瞠る。
娘時代に触れ、気に入って暗記するほど読み返した本の一節。
流れ出た記憶は、遡っていく。
あの本をくれた叔父は、彼女を守ろうとして毅然と村人に立ち向かい、ーーそして撲殺された。
病身だが教養のある、高潔な人だった。
ときどき、懐かしそうに若いときにすごした都会の暮らしのことを、まだ小さく聞きたがり屋だった姪に語ってくれたものだ。
彼女は過去、何もかもを諦めざるを得なかった。
密かに夢みていた女学校進学は、もちろん。
結局は贄としての役割を押し付けられて、その命をも。
でも、まだ無邪気な小娘だった頃は。
たしかに叔父の見た、語ってくれた広い世界に憧れていた。
「吾人は恋愛を解せずして死する人の生命に、多くの価値あるを信ずる
人外の化け物となり。復讐のため手を血に染めて。
もう恋愛なんてありえない、わかっている。価値のない、この命。
でも、今。
石となったと思っていたこの心臓を叩くのは、何の感情だろうか。
大力を揮ってもほとんど乱れることのないこの息を、荒く乱してしまうのは、――
「――
不意にこみ上げた慟哭に、戸惑いながら。
彼女は目から流れる雫を、袖に吸わせた。
空に浮かぶ三日月は、そんな彼女を静かに見守っていた。
挿絵はBing Image Creatorによるものです。あまり正確ではありません。