※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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ちょっと粗いところがあり、加筆するかもしれません。

志野視点(一部三人称(紫藤マコト視点))です。


144 王国は常に爾の胸に(20)(志/マ)日蔭谷への帰還

 

 途中から国領がちゃきちゃきと介入してくれて、実務的にすすめてくれて。

 具体的に、僕たちが何をすればいいか、はっきりしてきた。

 

 ①8月11日の満月の晩、あるいはその前後の月の出た日に、僕と国領はこの竜神沢(正確には、竜神沢の近くの集落)に来る。

 ②僕たちは竜神たちに界渡りに必要な限度で骨を貸し、竜神たちは必ず遅滞なく返却する。使用時に骨を携帯して持っていく必要があれば、僕が同行し、骨を受け取って帰ってくる。

 ③竜神が、望みの場所や地点に行けるかどうかは、保証しない。行った先がこの現在の地より条件が悪くても、引き返せるかどうかも保証しない。

 ④竜神たちに僕や国領、その仲間に対しての危険行動や背信的行動があれば、骨は使わせない。

 ⑤使う「扉」について、僕と国領がその所在地や性質の調査をするべく努力する。僕たちは調査の結果の正しさや、扉までの往来手段について保証しない。

 ⑥僕と国領の故意以外で何か問題が生じたときの責任は、竜神たちが負う。

 ⑦骨を貸すことの対価は、界渡りの成功・不成功にかかわらず、竜神の娘が払う。

 

 ①~④までは、まあ当然だ。

 でも骨の扱いとかはちゃんと決められて良かった。下手をすると、骨を竜神が持って行ってしまうことになりかねなかったよ。

 また、雨の日、月の見えない日に骨が使えるかどうかも実はわからない。だから日程の柔軟性が必要だ。

 国領の参加は任意にしようとした。しかし国領本人はやる気だし、僕にもバックアップが必要だ。まさかのときに誰にも窮地を伝えられないのは、確かにまずい。

 僕も骨の扱いとかいろいろ、気づいて後で詰めようと思ってたけど。

 これらを事前にはっきりさせてくれただけでも、国領の貢献は大きいよな。

 問題は⑤⑥⑦だ。かなり一方的に僕たちに有利な内容に押し切ったけど。

 

 ⑤の条件。扉の調査は、僕たちが主にやることにした。

 これは、竜神の娘の行動半径の問題からだ。

 誓約のため、竜神の娘は竜神から一定距離以上は離れられない。そして竜神はこの村から離れられない。

 行動半径、それほど狭いものではないらしいから大丈夫かもしれないけど、調査は一応僕たちが行う。竜神娘が行ける距離なら、もちろんそっちもやってもらうのが望ましい。

 ただ、僕たちの調査に不備があっても責任追及なんぞされたら困る。だいたい、調査方法も確立してないんだ。だから、⑤みたいな条件になった。

 あの光の太さからみて、おそらく扉はあそこだろうな、という見当はついてる。国領が言うには、あの上流の神社じゃないかと。

 これは月夜の晩に調査してみることになるが、たぶんそうだと僕も思う。

 竜神の運搬手段が問題だ。

 これはちょっと悩むところだが、一応竜神も歩けるだろうし、とそちらに責任を押し付けた。ただ、実際には協力はするつもりだ。道の状況とか、実際に見てるのは僕たちだし。

 

 ⑥の条件。これも飲んでもらった。

 こっちとしては、上手くいかなかったことの責任を押し付けられても困るってことだ。

 竜神は分からないが、竜神の娘はそれでいいと言っていた。

 ただ、この点は重要だ。上手くいかない可能性が高いことを前提に竜神とも話をしてくれ、と言っておいた。

 

 ⑦の条件は、まだ詳細を詰めていない。

 国領は何か考えているみたいだが、無理難題を吹っ掛けるつもりはなさそうだ。

 国領が、本当は一番竜神や竜神の娘に対して要求できる立場にあるのにな。

 

 僕は僕で、要求事項がある。これは飲んでもらおうと思ってる。

 要求したいのは、竜神の娘の戦闘力を借りることだ。簡単にいえば、筋肉男と怪老人対策だ。

 僕がみたところ、筋肉男と怪老人に対抗できるのは、秋月さん以外にはこの竜神の娘くらいじゃないかと思う。

 筋肉男の戦闘力は正確にはわからないが、この2人でなら勝てるのではないかと僕は思ってる。

 怪老人の方は、よくわからない。秋月さんと竜神の娘ふたりがかりでなんとか抑え込めないだろうか。

 ただ、まだどういう期間に力を借りるか、どういう形で力を借りるかは、全く未定。

 竜神の娘は竜神がいるこの村(竜神沢の近くの集落。上竜神沢とか、沢上とか言われてるらしい)から離れられないので、筋肉男たちを誘い込むことになるのかな。しかし、そんな作戦、立てられるのか不明だ。上竜神沢のほかの村人を巻き込まないかという問題もあるし。

 

 だから、そこは追って詰めていくことにする。ただ、力を借りること自体は、伝えたし、内諾してもらった。「まだ未定だけど、一定の期間、その体を借りることになるぞ。」って言って。

 竜神の娘も、「――はい。」って、しおらしく。

 竜神の娘は赤くなって目が泳いでた。うん、恐ろしいパワハラ女の本性がなければ、かわいい感じ。

 いままでの言動から、考えると。

 多分、頼られるとうれしくなるタイプなのだと思う。このとき以外も、なんか女に頼る、要求する、って文脈ではなんかうれしそうだった気がする。

 会談中も、国領とか僕に対して、単に利害関係があるってだけじゃなくて、こまごまと世話を焼きたいみたいなところが見え隠れしてた。

 ただ、どういうわけか僕の要求を言ったとき、国領からはすごくつねられた。

 まあ国領には、筋肉男関係は全く知らせてないからな。しょうがないけど、納得いかない。

 

 話し合いが終わると、竜神の娘は僕たちを村はずれ、道路が見えるところまで見送ってくれた。

 竜神との距離の限界なのかを聞くと、まだもう少し行ける、と言ってた。

 ただ、やっぱり外見が少し変わってるからかな。一般人の目に触れる可能性のあるところには、行きたくないらしい。

 

 竜神の娘は去り際に、国領をいつくしむように抱いた。

 国領も、あれだけひどいことされたのに、抱き返してる。

 国領はなあ。お人好しすぎるだろう。善意に付け込まれるぞ、そんなんじゃ。

 まあ、竜神の娘も積極的な害意はないみたいだからいいけどさ。

 

 竜神の娘は、その頭をこつんと抱きしめた国領に当てて、――そして突然、ぎくっとしたようだった。

 顔がこっちに回って、僕の顔をまじまじと、信じられないっていう感じに見つめて。

 そこでもう僕たちとは別れたんだけど、なんか顔が青ざめてて。

 半分消えかけの超感覚さんの感知が、もし間違ってなければ。

 「恐怖」の目で僕をみてた気がするんだよね。

 だけど、まったく身に覚えがないんだ。

 国領は手を振って別れて、それに竜神娘も小さく振り返してしてくれてたけど、心あらずな感じだった。

 これには国領も気づいてて、どうしたんだろうね?という感じで、僕と目を見交わした。

 うん、僕もわからない。困惑した顔を見合わせる。

 またこんど、調査結果を知らせるときに聞いてみようかな。

 

 空は白みはじめてる。結構、話に時間を使ってしまって、今は5時過ぎ、いや6時前くらいだろうか。

 僕たちは3時間しか寝てない。

 興奮してるせいかまだ眠くはないけど、そのうちどっと疲れが出るだろう。

 少し休む必要があるな。日蔭谷かな?

 でも、その前に。

 

「国領、いったん家に連絡を入れてほしいんだ。」

 

 そうだ。7時になって戻らなかったら、家の人をせっついて大捜索を始める予定だったんだ。

 そのことを言うと、国領も結構慌てはじめた。そりゃそうだよね。

 僕たちはもっとも手近な公衆電話、つまり神社に向かった。

 国領、自転車は大丈夫かな?って心配してみてたけど(いや、ほら、僕がさんざんやっちゃったからさ)。

 みてると、全く大丈夫そうだ。

 あと、気がつくと、首元からみえるあざも薄れて、かなり消えかけてる。

 まあ、もともと両手首ほどは力が入ってなかったんだろう。力が入ってたらポキン、で今は生きてはいなかっただろうからな。

 

 ―――――

 

 神社の公衆電話から、国領に自宅に電話をかけてもらった。はた迷惑にも、早朝6時くらいに。

 なんか怒られてるけど、どうも似たようなことをしでかしたことは過去にあったらしく。

 心配されてたわよ、いいお友達ね?その子にはちゃんと連絡してなさいね、と言われて解放。

 すぐ戻れ、とも言われなかったみたいだ。こっちはこれでいいか。

 そのまま、調布にも掛けてもらう。僕、出ない方がいいよな。

 調布、どうやらもう起きてスタンバってたみたいで、一発で電話に出たらしい。

 調布と国領との会話を漏れ聞いてると、紫藤への連絡は調布が引き受けてくれるみたいだ。

 でもな、あのクソ義父が出ないといいんだけどな。

 

「え?しのりん?うん、しのりんか。そっちは、ボクから連絡しとくよ。

 うん、ちょっと一昨日のお礼も言いそびれてるし。

 それにしても、ごめんね、さとみん。すごい迷惑かけちゃって。

 でも、ありがとう。大好きだよ!

 え?今日?

 そうだね、今日これから、たくくんたちのとこに行こうかなーって。

 あ、そうなんだー。

 うん、だったら、そうだね。お昼前に来れるようなら、一緒にごはん食べようか?

 わかった!しのりんにも、言っとくね。

 ほんとごめんね。そして、ありがとー。じゃあねー!」

 

 なんか楽しそうに話が終わった。

 後は、日蔭谷への連絡だけどな。これは行くしかない。

 やっぱり電話、引きたいな。

 維持費の安いPHSが圏内なら、それも候補に入るか。

 

 さて、これで日蔭谷に引き上げてもいい。

 ただ、せっかくなので。

 

「なあ国領、あとちょっとだけ付き合ってほしい。」

 

「付き合う、って?」

 

 いや、そこで警戒しないでくれ。

 ただ、僕と国領の予想だと。

 あの竜神窟で頭骨が太い光で示してた最寄りの「扉」。ここ、この神社かもしれない、ってことだったよね。

 調べてみようよ。今なら人はいない。

 月の光はもうかき消されかけてて無理かもだけど、調査は早い方がいい。

 

 そう、伝える。

 

「そうか!あ、だったら、急がなきゃね。」

 

 僕たちはいそいで参道をひた走る。ちょっとしたオリエンテーリングみたいだ。

 簡単なルートと難所のルートがある。難しいルートは、僕も紫藤と行ったことがあるけど、相当ハードル高い。

 簡単なルートを選んだ。起伏はあるが、道はそれなりに整備されてるし、道幅も広い。

 僕が先行してたけど、そのうち追いつかれて、並走する。

 国領、やっぱり相当に体力あるな、細いけど。

 

「それでさ、こっちこっち。たぶん、これだと思うんだ。」

 

 国領がずかずか、奥津城に入っていく。

 結構大きな岩屋というか洞窟があり、その中に入る。木の柵とお賽銭箱。

 その柵の少し向こう。水が湛えられた、静謐な地底の池がある。

 パワースポットっぽい。

 

「しのりん、それ。まだ、光が出る?」

 

 頭骨を出してみる。ああ、出てるけど、もうごくわずかだ、薄い。

 入り口近くの月の光がたぶんあるだろう(もう日が出て、空が白んでるからわからない)ところで頭骨をかざす。

 国領には、もはや見えないみたいだ。あ、もう出てないかな、って言ってる。

 でも、なんでか知らないけど超感覚さんがごくごく薄く残ってる僕の目には。

 緑色の光が、ぼやあってこの池に向かって照射されてるのがわかる。

 他の方向への光は、もはやあまりに薄くてみえない。

 そして、池の水面をかすかに、ぼんやりと緑色の光のゆらめきが覆っている。

 まず間違いない、この地下の池が、「扉」なんだろう。

 大きさだけなら、竜神は通れるだろう。

 どうしようかと思ったよ。学校の鏡だったら、絶対竜神は通れないだろうし。

 ただ、違う世界に行けるかどうかなんてわからない。タイムスリップするだけだったら困るよな。

 その詳細の調査は、また別の日ということにしよう。

 

 僕と国領は、池を確認してから、竜神の運搬を意識して参道をチェックしながら帰り道を歩く。

 道の幅もあるし、簡単なルートなら、竜神の巨体でもなんとかなりそうかな?

 数か所、ちょっと難所があるけど、そこは頑張るしかない。

 

 神社の入り口まで戻り、自転車に乗る。

 目を見交わし、頷きあい、走り出す。

 二人で、したたる緑の中の道を駆け抜けていく。

 セミの鳴き声が、早速し始めてる。

 この山の上の方はまだ涼しいけど、暑い一日になりそうだ。

 

 ―――――

 

 結局、日蔭谷に着いたのは7時半すぎ。

 ふとんがすごい魅力的。

 もう起き出してたナギさんにお願いして、国領から先にお風呂に入らせてもらい。

 急な眠気に襲われて、引いておいてくれてたふとんに潜り込む。

 となりのふとんにもぐりこんでる国領は、もう眠りこみかけてる。

 おやすみ、と言い交して目を閉じる。

 たぶんどっかからか見つけてきた風鈴が、ちりちり、となるのを聞きながら。

 僕の意識は急速に拡散して、世界のなかに溶けていった。

 

 ―――――

 ―――――

(第三者視点)

 

 数か月の労務者暮らしで、相当にハードな労働に従事していたけど。

 やっぱり肉体労働をすると、次の日に堪えるな、と紫藤マコトは思う。

 昨日はちょっと張り切って庭木の枝を切ったり、娘の同級生の志野君と廃棄する大物家具を動かして掃除をしたりして、ちょっと疲れた。

 だから今日は寝坊してしまって、起きたのは8時すぎになってしまった。

 すっかり日は高く昇ってしまってる。

 

 起き出して顔を洗っていると、同居しているハコヤさん(葉古屋 凪)がそっとやってきて。

 

 ――おはようございます。志野さんたちさっき帰ってきましたよ。下の間で寝てるんですよ。

 

 と、微笑んで教えてくれた。

 ありがとうございます、と返すと、彼女(ハコヤさん)はにこっと笑い返して台所に戻って行った。 

 その後ろ姿を、ぼんやりとみつめてしまう。

 

 正直、マコトはいまだに彼女(ハコヤさん)にはどう接していいかわからない。

 ちょっと、恥ずかしい、面はゆいのだ。

 飯場で、客と嬢としての接触経験があるからなのだが。

 もちろん、お金で体を買ったという点は問題なのかもしれないが。

 後から思い返して、人として恥ずかしい言動をしたことはない、――と思う。

 こうして数奇な経緯により同居するようになった、今。

 彼女(ハコヤさん)の方は過去のことは気にしていないみたいで、普通に親しみをこめて接してくれる。よくできた人だ。

 

 ――僕ももうちょっと若ければ。交際を申し込みたいくらいだ。

 それにしても組織から脱出して苦労がなくなったせいか、ハコヤさんはきれいになったな。

 

 そう、マコトは思う。

 飯場で抱いた時、彼女(ハコヤさん)は。

 金での関係でありながらも心をこめて尽くしてくれたけど、痩せた体には暴力の跡が痛々しかった。

 それにも興奮して出してしまった後には、自己嫌悪が残った。

 それもあって、一緒に暮らすのは、ちょっと気まずかったのだが。

 

 しかし、彼女(ハコヤさん)は全く気にしていないみたいだし。

 今、身近に接していて気づくのだが。

 もう完治しているのだろう、記憶にある手足のあざはきれいになくなってる。

 疲労が浮いていた顔も、しっとりと、10も20も若返ったように美しくなっている。

 気立てもいいし、たっくんというきかん坊の男の子を慈しむさまも、見ていて心が和む。

 

 うん、僕なんかじゃムリなんだろうな。

 誰か、良い人とくっついてくれるといいんだが。

 

 そう、マコトは思う。

 そう思うと、一抹のさびしさがある。

 まあ、オスの本能みたいなものなのかもしれない。連れ合いを求めてしまうのは。

 

 マコトは、別れてしまった、小柄ながら気の強い妻のことを思い出す。

 別れた妻(みなりたちの母)とは、決して嫌いあって別れたわけではない。

 家族を守るためだった。少なくとも、そのときはそう思ってた。

 住宅ローン以外の借金を全部背負って別れた後は、上手くいっていると思っていた。

 自分の犠牲で家族は救われただろう、と。

 とんでもない、思い上がりだった。

 あとで娘からなじられたとき、自分の罪深さに愕然とした。

 夫失格、父親失格だが、何かできるだろうか。

 今でも、よくわからない。

 

 とりあえずは、一生懸命頑張ってお金を稼ぐしかないかな、と思っている。

 この地獄の中を這いずり回るようだった数年間で、自分が肉体労働に適性がないことは痛感した。

 かといって、事務作業がすごく得意だというわけでもない。

 もともと要領が悪くて、真面目だけど仕事はあまりできない方なのだ。

 それでも機会があれば、娘たちのためにどんな仕事でもやるつもりだ。

 この前、彼女(ハコヤさん)と二人で志野君に言ったように、割が悪くても在宅でできる仕事をやってみたい。

 

 妻は今、寝たきりになっているという。

 罪悪感がある。

 すべての借金を自分が背負って地獄に飛び込むことで、家族を救ったつもりでいたのに。

 結局は、すべてを妻に押しつけてしまっていたのかもしれない。

 そして妻も、過労でこんなことになってしまったのだろう。

 妻にも子にも、取り返しのつかないことをしてしまった。

 

 妻の再婚を知った時。まだ飯場に来る前だったが。

 流石に落ち込んで、その頃住んでいたドヤのトイレで。

 妻の白い体を思い出し、泣きながら自分を慰めた。何度も何度も。

 そんなことをしても、何にもならなかったけど。

 でも、妻のことは今でも愛している。

 

 もうすべてが遅いのかもしれないが。

 妻に、謝りたい。あのきつい口調でもいい、言葉が欲しい。

 でも、その妻はいない、数週間にわたり意識不明だという。

 こうしている今も、病院で機械につながれている妻のことを思うたびに。

 後悔と、何もできない自分の不甲斐なさへの悲しみで、胸がぎゅっとする。

 どうにかならないのだろうか。

 

 そんなことを思いながら、マコトは志野たちが寝ている部屋の隣に向かう。

 

 志野君は、マコトたちの救出作戦にも参加していた、すらっとした茶髪の子と一緒に朝帰りしてきたらしい。

 疲れているとかで、今は二人で同室で寝てるという。男女の同衾(?)だが、大丈夫なんだろうか。

 娘のみなりとは、交際してるみたいなんだけどな。

 でも、あの大柄な、できる風の子ともなんか怪しかったな。

 

 志野君、知ってるのかな?

 みなりは、基本的には温厚な性格だけど。

 妻に似てるところもあって。

 怒らせると、すごく怖いんだぞ?

 

 そう、紫藤みなりの怒りを実体験したマコトは心配する。

 いや、もちろん娘の彼氏というやっかみもあるのかもしれないが。

 

 それにしても。

 志野君というのは、不思議な青年だ。

 

 見た目は普通のおとなしめの高校生なのだが、不気味な行動力がある。

 救出作戦の計画を立てて実行したり、この家を借りたり、その他いろいろと。

 この前は話を聞いていると、何かのビジネスを始めるようなことを言っていた。

 これは危ない、何かの折に口を出そうと思ったが、練られている計画が信金に勤めていた自分も思わず融資しそうなくらい堅実で現実性を考慮されたものだったので、黙らざるを得なかった。

 それに。

 一緒に話をしていた調布智美という同級生も、超高校級だ。

 ただ、こっちはいかにも才気があふれてるから、まだわかる。

 志野君のは、地味な外見や雰囲気から想像できないから、驚かされるんだ。

 

 ――まあ、それはともかく。

 志野君には、いろいろ恩がある。

 だからせめて、あの子。ちょっと遊んでる風の、でもすごく礼儀正しいあの茶髪の子。

 そう、ハルカちゃんって言ったかな。

 あの子と一緒に、朝帰りして寝てることは黙っておいてあげよう。

 みなりたちは今日も来るって言ってたな。

 寝てるところに踏み込まれたら、流石にそれはどうしようもないけど。

 

 そう、マコトは思った。

 

 ハコヤさんが、朝食を準備してくれている。和風の朝ごはんだ。

 盛られたご飯に、大根葉のみそ汁、干物(今日は、アジの開きだった)、小松菜のおひたし。

 食後には、玄米茶が供される。

 正直、あの飯場のもそもそした米飯、茹で卵とアクの抜けてない山菜ばっかりの煮物、薄くて粉っぽい肉なしカレーや大根とちくわしか入ってないおでんに比べたら天国だ。

 

 ハコヤさんの子供、たくくんもむにゅむにゅいいながら起き出して、お母さんの膝に乗って食事し始めてる。

 こっちは魚の代わりに卵焼きがついてる。そっちもいいな。

 ハコヤさんとたくくんにあいさつして席に着く。

 たくくんが、ハコヤさんの膝のうえで弾みながら、「おはよー!」と笑いかけてくれる。

 思わず、顔が緩む。

 マコトもおはよう、とたくくんに笑い返しながら、質素ながら美味に思える朝ごはんを味わうのだった。

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