タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
少し適切でないかもしれない描写がありますので、ご注意ください。また少し細部の修正必要かも。
感想を頂いていたことに先ほどようやく気づきました。ありがとうございます!生来の性格で個別のお返事はできないかもしれませんが、こっそりみて励みにします。
「ざくろが丘入り口、ざくろが丘入り口ーー。」
夕暮れの道をバスはひた走り、台地の上がり口の緑の折り返しを過ぎる。アナウンスにハッとすると、気がつかないうちにもうそんなところまで来ていた。
ここで降りて、歩いてもいい。家の最寄りのバス停は、時間帯によっては会いたくない人がたむろしたりしてるのだ。
迷っているうちにバスが発車してしまう。
今日はきっと幸運の日だ。大丈夫、大丈夫。
そう信じることにした。
「ざくろが丘中央、ざくろが丘中央ーー。」
ぞろぞろとみんなが降車していく。わたしも運転手さんに通学定期券を見せて降りる。
こじんまりしたショッピングセンター、そのバス停のロータリー。ああ、あいつがいる。ーーまあ、でも、最悪じゃない。
「おい、みーなりー。」
「ーー
馴れ馴れしく変な抑揚で呼び掛けてくる、金髪セクハラ野郎。無視したいけど家の付き合いもあるから、返事はする。
「なあ、胸、また揉ませてよー。」
答えるんじゃなかった。ぎりっと奥歯を噛んでから、「やだよ。じゃあねー。」と最小限で返して通りすぎる。
横にいた同じような崩れた風体の、手下みたいな(たぶん)下級生のヤンキーたちが、口々になんかあげつらってくる。
「うっそ、頼めばもませてくれんの。」
「でもねえじゃん、ブツリ的に!」
「無視してる、感じワリー。」
「貧乏くせー。」
「ねえねえ、ちゅう高(※多賀島中央高)?」
「オメエラよー、言っとくけどあれ俺んだから。ショジョ予約済み。」
「ギャハッ!でたよ!予約済み!」
野卑なヤジ、嘲笑。ヤニの臭いがする。困った風な笑みの仮面を貼りつかせ、ひたすら無視して、ーーなんとか抜けた。ふう。
あの金髪野郎、佐賀ゴウジくんは一応、わたしの幼馴染みということになるのだろうか。家が近いので小さい頃から知ってる。昔からちょっと乱暴で、よく髪を引っ張られたり叩かれたりしたが、幼稚園時代はそこまでの被害はなかった。
小学校に上がると箍が外れて結構な悪ガキになった。今思い出してもむかつく。スカートをめくられるのはしょっちゅうで、着替えのときに脱いだ下着を奪われて、取り返そうと追いかけるとクソ男子どもとパスしあってゲラゲラ笑ってたこともあった。やらないと殴るって言ってお医者さんごっこを強要されたこともある。あのときは激しく泣き出したわたしを聞きつけて、元警察官のおじいさんが助けてくれたが、あやうく縄跳びの持ち手がわたしのはじめての彼氏になるところだったよ。危なかった。
あれ以来、注意して安全な距離を保とうとしているので、さっき言われたように体を触られるくらいはあったけど、そこまでのピンチはない。それに本人も順調にヤンキー化して同じようなケバい子を侍らせるようになったので、ここ2、3年は今みたいな言葉のセクハラで済んでいる。
でもまあ、ゴウジはまだいい。中3のときのあいつよりマシだから。
明日からはちょっと坂が大変だけど、ざくろが丘入り口で降りようかな。そう思いながら家に急ぐ。
家の程近くに三角公園と呼んでいる、小さな公園がある。ブランコと水道トイレ、小さなジャングルジムとすべり台とベンチだけの公園。覗くと見慣れた青いブレザー姿があった。
「千里。」
「あ、みなり
弟の千里だ。3つ違いの中二。小さいときは、わたしについてきて、何か恐いことがあるとわたしのうしろに隠れていたが、最近は身長もわたしを抜き去って、多分(姉の欲目でなければ)多少は格好よくなった。しかし反抗期に入り生意気になり、そして変な方向に屈折していきつつある。
「あいつが帰ってきたから、出てきた。」
「不機嫌?」
「オレの顔をみてあいつが機嫌いいとき、ある?」
「そっかーー。」
ポツポツ話す。千里はベンチで煩そうにコバエを払いながら、学校の課題を進めている。ひねて可愛くなくなったけど、こういうところは真面目だ。それをみて、決心を固める。
「じゃあ、わたし、先に行くから。30分したら入っていいよ。裏口。」
「姉ちゃん。また、アレすんの?」
「仕方ないじゃん。」
「やめろよ。みっともねぇし。」
「ほかにしようがないよ。」
「オレ、姉ちゃんのこと軽蔑してるから。あれ、やってることってバイタ、ビッチだよ?そのうちマジで本番されっから。」
「千里が家に入れないじゃない。」
「オレを理由にすんなよ。オレはいやだっつってんだよ。」
「お母さんだって、ーーー」
「別れて、って言おうぜ。それか、オレたちだけ離れて住む。」
「それ前いったよね。お金がないって。」
「あの家売ればいいじゃん。オカンのだろ?」
「お父さんのことがあるからーー、きっと売れないよ。」
前のお父さん、わたしが中二のときに別れた、実のお父さんの思い出があるんだ。だからお母さんは手放せないでいる。
小さな建て売り住宅だ。前のお父さん、わたしと千里の実父は、夜遅く帰ってきて疲れきっててあまり一緒に過ごした記憶はないけど、普通のお父さんだったと思う。よく抱き上げてくれてた気がする。
中二のときに、お父さんの友達の会社がつぶれて、連帯保証人になってたお父さんも何もかも失った。だけど、たまたま家はお母さん名義になってて、残った。でも、それだけしか残らなかった。
ダメになる、その直前にお父さんとお母さんは離婚して、お父さんは家を出ていった。お前たちを守るためだ、って言ってた。お母さんは泣いてた。
お父さんはいなくなった。お母さんも必死に仕事を探し、働くようになった。
その職場にいたのが、今の、新しいお父さんだ。一見、ハンサムで体も声も大きく、頼りがいがありそう。でも、最初からわたしと千里は気になってた。嘘くさい爽やかさなのだ。
でも、前のお父さんとの離婚後、お母さんが再婚したい、って言ったときに最後まで反対できなかった。萎れてたお母さんが少し持ち直したのは事実だったし、もうその頃からあのストーカー男の被害が始まってたから、男手が必要、というお母さんに反対できなかった。
千里は反対したが、私立中進学のことを持ち出されて黙った。でも、今でも再婚してしまったのはわたしのせいだ、と責めてくる。
最初は大きな軋轢はなかった。そのうち、新しいお父さんがまず千里にきつく当たるようになった。男の子を甘やかしちゃいけない、といって。
千里も確かに反抗期に入ってたけど、本当は千里が「お父さん」と呼びたがらなかったからかもしれない。些細なことで殴ったり、蹴ったり。間に入ったお母さんも殴られた。
それからわたしにも当たりはじめた。成績が落ちると正座させてグチグチ説教し、黙っていると「聞いているのか!」と言って平手打ちする。
そのうち千里が気に入らないことをする、といってわたしに管理責任があるといって謝らせるようになった。そして罰と称して、あるいは全く理由すらつけずに、いろいろなことをしてくるようになった。親娘なら当然、というが、普通なら、絶対しないことだと思う。
お母さんは疲れきっていて、相談してこれ以上悩ませたくない。一度相談したときは、新しいお父さんが言うことを鵜呑みにされて、わたしが父親をたぶらかす、いやらしい女だとされかけた。
必死の抗弁で誤解されたことになったが、今でも、お母さんには生活を支えてくれてることに感謝しつつも、奥底では頼れないんじゃないか、信じてくれないんじゃないかと思ってしまっている。もう一度、信じて裏切られたら、もう立ち直れない気がしている。
あれ以来、私には千里しか味方がいなくなった。その味方も、もう味方じゃないかもしれない。
お母さんも嫌になってると思う。けど別れられない、家を出ようともしない。多分、この家にお父さん、前のお父さんがいつか帰ってくるような気がしているんだろう。そんなはずないのにさ。自分でその道を絶ったのに。でも認められないんだろうな。
「じゃあ、行くから。」
千里からの答えはなかった。今からわたしがやることは、わたしが勝手にやること、ということなんだろうな。
もう暗くなってきてる。早くしよう。気は進まないけど、いつもの汚れ仕事をするだけのことだ。
かつては帰ってきて目にするとあんなに安心した家のフォルムが、巨大な動物、恐竜のようなもの、の死骸に思える。孤立無援だ。
お父さん、お父さんはわたしたちを守るためにいなくなったんだよね。でも守れてないよ。嘘つき。
どんなに貧乏してもいいから、一緒にいればよかったんだ。でももうみんな、全部バラバラだ。
家のドアの前、いや、獣の顎の前に立つ。この巨大な動物は、もう死んでる。これは死骸だ。死骸は、何かの加減で破裂して、おぞましい腐臭をあたりに撒き散らすだろう。いつかは。
でもその「いつか」まで、わたしは生きているだろうか。
ーーーーー
ドアを開ける。汚い靴やビールのアルミ缶や部品みたいなものが散乱する玄関。きれいにしろと怒られる、でも捨てると罰を受ける。
心臓の鼓動が高まっている。リビングへの扉はこの時期、いつも全開されていて、帰宅をごまかせない。
「ただいま帰りました。」
「おかえり、みなりちゃん。」
煙草と強いアルコールの臭い。へらへらと笑う顔。手招きされて、すぐそばまで、近づく。鼓動が早い。
「いい子でいたかなぁ?」
肩を抱き寄せられて、薄汚い無精髭の頬を擦り付けられる。体を思わず固くしてしまいそうだが、そうすると別のところで意趣返しされることが多い。ごくりとつばを飲み込んで、体を緩めてしなだれかかる。我慢だ!
「実ってきたねー。お母さんと同じくらいかな?」
新しいお父さんは、ちょっと体を放して、胸元を見てくる。反応に困るので、薄く笑うしかない。やっと体を放した。今日はしつこく触られなかった。
「鞄を見せるんだ。」
鞄を開ける。
中を見る。字が丸すぎる。ギャルっぽくて不潔だ(何がわるいのか、よくわからない。)。プリントはこれだけか。隠してないだろうな。と言われる。
今日はテストの結果も帰ってきてない。こっちでは罰はないはず。
でも、新しいお父さんの機嫌がだんだん悪くなってきてる。難癖つけて罰せられないからだな。
「そうそう、あいつの態度はなんだ。あれは。」
「千里ですか。」
「そう。あれはお前が指導してこうせい(更正?あるいは矯正とか強制の言い間違いかもしれない)しないといけないんだぞ。まったくなっとらん。」
「はい、申し訳ありません。お父様。言って聞かせます。」
「言って聞かないだろう。俺が厳しくやってもいいんだぞ。」
「いえ、わたしが悪いんです。」
「言ってできないんだから、罰が必要だな?罰が。」
ようやく思うとおりになったせいか、顔がニヤケ顔になって、緩んで頬がたるんでいる。ーー吐き気がする。
「はい、お父様。でも、ごめんなさい。明日、体育があります。」
「そうかそうか。それなら傷がのこらないようにしないとな。優しいだろう、俺は?」
「はい、お父様。」
「俺にキスするか、叩かれるか選べ。」
「叩いてください。」
「キスなら1回でいいぞ。」
キスなんかしないよ、絶対に!死ぬ方がマシだ。
「叩いてください。」
「言ったな?ベルトは傷が残るから、ほら、俺の膝に上がって腰を出せ。」
言われたとおり、小さな子供のようににやけ男の膝に乗っかり、お尻を突き出す。
バシッ、と手で叩く。服の上から、だ。だったら大丈夫かな。
数回叩いて、服の上から撫で摩っている。寒気がして、鳥肌がたった。不吉な予感がした。
あ、スカートを捲りやがったな。ここまでは、前にされたことがあるけど、それ以上だったら。
下着を下ろされた。声を出そうと息を吸い込んだ。しかしそのとき、喉に手がかかった。
「声出すなよ、出したら殺す。」
声帯を圧迫している。そのまま叩いてた右手でも首を絞めるように圧力が加わった。そのときわかった、この力ならたぶんわたしの細い首くらい折ってしまえるだろう。
だが、それ以上の圧力は加わらず、巧妙に押さえる場所がずれた。やばい、苦しめるために気道を塞ごうとしているのか。息ができない。苦しい。目の前が赤くなった気がして、爪を立てて抵抗しようとしたとき。
「叫んだら。お前とあいつを殺して、無理心中したことにするぞ。お前らできてんだろ?」
本気だ。ダメだ、千里を死なせちゃダメだ。抗おうとしていた力が抜けた。しまった。もうだめだ。力を抜いてしまった。みなりのいくじなし!
抵抗を止めたのを感じ取ったのか、鋼鉄のような手が緩んだ。咳き込む。空気を求めて、息を吸う。ぴゅうっと滑稽な音が出た。
「そんなんじゃありません。」
声が掠れてうまくしゃべれない。
「俺が証言するんだよ。証拠を添えてな。」
「ーー。」
「できないと思うか?」
「いいえ、お父様。」
手がまた剥き出しにされたお尻を這いずった。
そして、ばちっと叩かれた。ばちっ、ばちっ。10回くらい。じっと無感動に耐えた。止まった。お尻を覗きこんでる。
「ガキかよ
「気を付けます。」
醒めてしまったのか、もういい、と急に払い除けられた。膝で下着が止まっていたので、うまく踏みとどまれず、床に転がってしまう。下着を上げて、服を整える。
「あの、千里を入れて良いですか。」
「あいつが勝手に出ていったんだ。勝手にすればいい。ーービール持ってこい。」
「はい。ありがとうございます。」
冷蔵庫からビールを持ってきて開けて注ぐと、さっきのことがなかったかのように、「いい嫁さんになれるぞ」と笑った。ゾッとする。この人の中は、どうなっているんだろうか。
一礼して鞄を掴み、退出して二階の子供部屋に行く。また降りて、勝手口をそっと開ける。
「千里、遅くなってごめん。」
10分くらい待ってたのだろうか。千里は無言のままで、千里の鞄を受け取ろうと伸ばしたわたしの手を突き退けるようにして、入っていく。リビングに入らず二階に向かったのを確認して、わたしはお風呂を準備し、おつまみの漬け物を切ってリビングの今のお父さんに届け、お風呂の準備ができたことを告げて、もう一回お酌して二階に戻った。少しして、階下からお父さんが風呂に入った音がした。
時計を見る。7時半を過ぎ、もう8時近い。
「千里、なんか食べる?持ってくるよ。」
返事を聞かず降りて、二人分、魚の干物をトースターで焼き、レタスを適当にちぎって、炊いてあったご飯と納豆と一緒にお盆で持って上がる。子供部屋のちゃぶ台に置くと、千里に食べよう、と促す。モソモソと二人で食べる。
「しょうゆ忘れてた。」
そういえば、たれ付きでない特売の一番安い納豆だった。お弁当に付いてくる小袋のしょうゆをもって上がる。醤油差しはリビングにあるが、今は入りたくない。
「足りた?」
食べ終わって聞くと、煩そうに頷いた。
本当は育ち盛りだ。足りないんじゃないかな。お父さんが寝てから何か夜食を用意しよう。
また階下に降りる。今のお父さんは長風呂だ、いない隙に郵便を整理して置き、空いた弁当ガラとかのごみを捨てる。
新しいお父さんは、お風呂を上がってから、リビングでテレビを見ながらそのままソファで寝るか、部屋でビデオを見てたりする。
お風呂に入ってからは、比較的構ってこないことが多い。例外ももちろんある。何か気にくわないことを思い出してか、すごく狂暴に暴れまわったこともあった。髪を掴んで引き摺りまわされたりとかも。ごそっと抜けてハゲになったりしなくてよかった。毛根えらい。
お風呂から上がってきた新しいお父さんは、むっつりとして何も言わず、目をギョロっとさせて、タバコを持って部屋に引っ込んでいった。やった、今日はやっぱりラッキーな日だ。早くお風呂に入れるよ。
「千里、お風呂に入りなよ。今空いてる。」
机に向かっている千里から返事はない。
「へんじがない。ただのしかばねのようだ。」
少し重々しい声色をつかってナレーションを入れてみたが、反応がない。調子がいいときはウプッて吹き出させてやったこともあるんだけどなー。
ほんじゃ先に入るよ、と声をかけて階下に降りる。制服を脱ぐと、解放感。ちょっと爪先立ちになり、洗面台の鏡を見ながら腰を捻って、叩かれたお尻の手の跡をチェックした。下着から少しはみ出て、指の跡が赤く残ってる!でも後でアイスノンで冷やして、体操着は裾を出して少し緩めに着ればなんとかなりそうかな。ファンデーションを塗る手もあるが、よく見えないし、色が不自然だったり、汗で浮いてばれたりしやしないか気になるから却下。う○こと間違われたら舌を噛んで死ねる自信がある。
服を脱いで洗濯かごに入れ、お風呂に入る。髪の毛を洗っていると、誰かがやって来て脱衣場で服を脱ぎ始めた。お母さんはまだ仕事があるはず。
髪を素早くすすいで折れ戸から顔を出すと、やっぱり千里だった。服を脱ぎながら何も言わず、無遠慮にじろじろとわたしの濡れた体を見ている。おい、親しき仲にも礼儀ありだぞ。
「千里、わたし今、入ってるんだけど」
千里はフンッと鼻で笑って、「ビッチが何いってんの。」と言い、わたしをお風呂に押し戻して入ってきた。目が無遠慮にわたしが手で隠している胸や脚の付け根に注がれていて、わたしは恥ずかしさと困惑で顔が赤らむのを感じた。
色気づいたのか、最近こういうことが多いんだ。風呂上がりに踏み込まれたり、着替えをじっと観察されたり。
だいたいさ、あんたもてるって自慢してたでしょう?相手は自分で探してよ。姉に向かって盛るな、股間で起き上がってるそれを、恥ずかしげもなく見せつけるな。わたしはあんたのお姉ちゃんなんだぞ。