※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

151 / 321
 志野視点です。
 やや粗いところがあり、後で修正するかもしれません。


151 罪がまだ美しかった頃(7)(志)

 

 志野くんに、判決の言い渡しをするよ!と朗らかに紫藤たちが公園にやってきたのは、しばらくそうして公園でたっくんを遊ばせていた時だった。

 たっくんは機嫌がいいが、ちょっと足がもつれたりして、疲れた気配があった。そろそろお昼寝時間なんだと思う。

 だから紫藤たちが来たのは、ちょうどいい頃合いだったと言える。

 でもな。なんでそんなに嬉しそうなんだろう。

 紫藤の朗らかな笑顔を見ると、話合いで決まったことは、紫藤にはそんなに悪いことではなかったみたいだ。

 なんだか少し、悪い予感がする。

 だって紫藤。僕に罰を与えるときって、いつもうれしそうなんだよ。

 ただ、紫藤の罰は、罰っていうか。

 実質、僕へのご褒美なんだけどね。たいてい紫藤の開発なんだ。

 でも今回は調布がいるからな。リアル罰になるんじゃないか。

 怖い。

 

 もちろん調布、国領も一緒に来た。

 調布は、ちょっとけむるような何かの感情を込めた視線で。

 あえていえば「怨」というような視線で僕を一瞬見つめて、僕を心底寒からしめたけど、基本は穏やかな、平静な表情。

 国領は、ちょっと罪悪感(誰に対して?僕に対して?)を感じてるような視線。

 うーん、もしかすると讒言プレイやっちゃったよ!ってところか?

 まあわからないけれども、最悪、それでもいいや。

 紫藤と調布が深刻には傷ついてないだけで、僕としては上出来だ。

 

 家に戻り、ナギさんがたっくんを寝かせに部屋に戻る。

 マコトさんは、紫藤弟とともに休憩ということで2階の部屋に引っ込んだ。

 2階の部屋3つはかなりきれいにしたので、マコトさんはそのうちひとつを主に使ってるみたいだ。冷房はないけど古いナシ○ナルの扇風機を回してた。

 

 僕たちは下の座敷に集合した。

 上座に調布、紫藤の官憲組。卓をはさんでこちらが僕と国領、被疑者組。

 国領は僕らがたっくんと遊んでた時間に、少し事実関係や僕への処罰感情について補足を求められたようだ。でも、最終的な判断には加わってないらしい。

 まあ、調布たちからみたら、国領も被害者的な側面があるってことかな。理不尽な気もするがさっきの公判での扱いの違いの理由はわかった気がする。

 紫藤と調布がちょっと視線で何か話し合ってる。やがて、紫藤が口火を切った。

 

「コホン。じゃあ、志野くん。判決だよ。

 話し合いの結果なんだけどさ。

 結論からいうと、罪となるべき事実1だっけ。志野くんとハルカちゃんとの間の関係については、さ。

 ハルカちゃんの命を救うための手段として、適切性がほんとにあるのかって話にも、なったんだけど。

 うたがわしきは被告人の利益に、だからね。

 ふたりとも一応、刑事上は処罰しない、ってことにしたよ。」

 

 まあ、学級裁判だからな。罪刑法定主義も何もあったもんじゃない。

 有罪なら妙ちきりんな罪と罰が宣告されるだろうし、有罪でないのはありがたい。

 

「まあ、処罰しないといっても、完全に無罪放免ではないんだよ。

 当分はしっかり、わるいことしないか観察する、みたいな。」

 

 観察されるのかよ。

 さっきのたっくんのように、背中を丸めて地面をみつめる紫藤の後ろ姿がぽわん、と頭に浮かんだ。

 もちろん僕はアリのように小さくなって、その地面を右往左往している。

 

「保護観察処分ね。あなたたちふたりがみだりに淫行に走らないように、チェックするわよ。」

 

 ひでえ。非行少年が受ける処分かよ。

 でもよく考えたら僕たち、まだ青少年だったよ。

 

「そして、罪となるべき事実2だよ。

 志野くんが竜神の娘さんの色香に惑わされて、軽々しく危険な約束をしたこと。

 これは、有罪!」

 

 なんかうれしそうな紫藤。

 その笑顔に、思わずほっこりするけど、――。

 

「なんの罪なんだ?」

 

「キブツなんとか罪の未遂罪だよ。」

 

 そんな罪はないぞ。器物損壊には未遂罪はないんだ。

 大学で習った覚えがある。

 

「正確には、器物損壊罪≒(ニアリーイコール)自殺関与罪プラス背任罪、その未遂みたいなものね。

 あなたは、無謀にも自殺に等しいことを、竜神とその娘とあなた自身で行おうとしてるわけでしょう?

 あなたの所有権者であるみなりにとっては、――」

 

「待て、なんだその所有権者って。」

 

 さっきの論告求刑にも出てきたけど、うっかり確認し忘れてた。

 僕は物じゃないぞ。

 

「あなたはみなりのもので、みなりはあなたのもの。違うのかしら?」

 

「うっ」

 

 違うというつもりはない。というか確かに僕はそれを願ってるけど、――

 

「まて、論理が変だ。その理論でいくと夫妻が殺しあったら、器物損壊――」

 

「これは学級裁判。扱われてるあなたの罪も、いわゆる刑法で裁かれるべき罪じゃないの。

 私たちの中での、落とし前の話。

 ただ、それを分かりやすく一般の刑事法的な考え方に翻訳してるだけ。」

 

 私たちの世界の話で言えば。

 あなたが勝手に色欲に目をくらませて、あなたの命を危険にさらす行為をした。

 それはみなりからみれば、所有物が自己の色欲という利益を図って、自己破壊を企てたようなもの。

 そしてその所有物が人間だから、自殺みたいなものでしょう。

 自殺は刑法上は禁止されては、いないけど。

 私たちの世界では、罪なのよ。

 あなたが死んだら、みなりがどれだけ悲しむと思う?

 

 そう、調布が補足説明する。

 よくわからないが、頭のいい調布が言ってるんだから的外れではないんだろう。

 まあ僕にもぼんやりわかる気がする。

 

 そして、調布の説明によると。

 この自殺関与・器物損壊・背任の未遂罪(背任は、私利による裏切り行為で所有者の紫藤たちに損害を与えようとしたからだそうだけどな。うーん)についての僕に対する処分は不定期刑(?)だが、一応、執行猶予を付けてくれるらしい。

 少年犯罪なのか成年犯罪なのかよくわからないが、まあいいだろう。

 ちなみに国領は僕が色仕掛けで騙されるのを防ぎ、その無謀な計画を少しでもまともにしようとした功績があるとして、無罪だそうだ。なんか不公平な気がする。

 まあ、国領が居心地悪そうだった理由がわかった。

 事前の聴取で、だいたい判決の見当はつく。

 それで、たぶん僕だけ有罪ってのがバランスわるいと思ったんだろう。気にしなくていいのに。

 

「それでさ。ケイジ上のこととは別に、ミンジ上の話があるんだよ。」

 

 この2つは別だからね、と。

 紫藤が、どこか得意そうに知識を披瀝する。

 

「ん?」

 

「民事上は、別に衡平を図る必要がある。そうよね?」

 

 非難すべき罪を国家が罰するのが刑事の話。当事者の衡平を図るのが民事の話。

 刑事で処罰されても、被害者の損害は残る。だからそれについては民事で救済が必要だ。

 まあ、間違ってはいないが、そもそも学級裁判だしな。国家なんてないし。刑事と民事は未分化の状態なんじゃないかな。

 まあでも、紫藤たちに損害があるとしたら、手当はたしかに必要だろう。だったら、

 

「損害賠償か?」

 

 不貞行為についての、慰謝料みたいなものか。

 まあ、仕方ないのかもな。

 あ、悪くないかもしれない。

 これを機に紫藤にまとまった金を渡せる。

 

「いえ、あたしたちの損害は、金銭で慰謝できるようなものではないの。」

 

 じゃあ、土下座謝罪とかか?

 まあいくらでもするよ、そんなことなら。

 なんなら僕にとっては、ご褒美だ。

 

「あなたはハルカと濃厚な接触を持った。だったら、」

 

 調布は、少し複雑な感情のこもった、強いて言えば怨ずるような目つきになり。

 

 ──衡平上、あなたはあたしたちに、ハルカと同様に。

 あなたと濃厚な性的接触をする機会を与えなさい。

 

 そう、僕に要求した。

 

 ―――――

 

 だからか。調布があまり喜んだ気配がなかったのは。

 確かに最近、っていうか今さっきも、かなり濃厚な性的接触を持ったばかりだからな。

 そんな機会わざわざもらわなくても、大丈夫ってことなのかもしれない。

 

 紫藤が喜んでる気配だった理由も、わかる。

 調布との関係が進んでると思ってて、追いつきたいのかもしれない。

 そんなに進んでないし、なんなら調布には最近変態チックなプレイばかりしてる気もするんだけどな。

 僕はもちろん、嬉しいが、―――

 

「金銭賠償は、なくていいのか?」

 

「貧乏学生からなけなしの金を毟り取るなんて、しないわよ。」

 

 紫藤も頷いてるけどな。軍資金はまだあるんだ。

 コンサルの方も、収入が見込めるし。雀の涙だけど。

 

「なに、悪い顔してるの?」

 

 そうか。

 さっきも思ったが。

 損賠ルートがOKなら、わざと悪いことしてお金を渡す手もあるな。

 いや、やっぱりわざとしたら有罪になって何か恐ろしいことをされそうだ。

 なまねこなまねこ。

 

「ボクはこれで不服はないよ。

 それで、そのハイニンだっけ。2つめの竜神との契約についても、民事の話があるのかな?」

 

「あ、そっちに行く前に。

 忘れるところだったけど、1つ目の方については、ハルカに対しても民事上の責任の話があるのよ。」

 

「えっ!聞いてないよ!」

 

「ハルカには、事前には言ってなかったわね。

 民事は、簡単に言えば、志野と同じ。

 あなたと濃厚な性的接触をする権利を、あたしたち二人に与えなさい。

 ――いいわね?」

 

「えっ?だってボクたち、――女どうしだよ!?」

 

 国領が恐怖新聞を受け取ったかのような表情をしている。

 そうだそうだ。がんばれ国領。ポイントはそこじゃない気もするけど。

 紫藤が国領に寝取られたりしたら、大変だ。

 

「男女平等。いいわね?」

 

「――ハイ。」

 

 だめだった。

 たぶん、実質的には国領への制裁ということなんだろうけど。

 まあ権利はあっても、使わなくてもいいんだよな。

 紫藤と調布も、多分これは脅しでつけたんだろう。

 あと、僕の扱いが国領と比べて不公平にならないように、ってことか。

 まあ本気だとしても。20年後には誰も気にしなくなる性的指向だな。今はまだ奇異に思われるかもしれないが。

 

 ただ。

 なんか調布が色っぽい笑みを浮かべて、楽しみね、と言いながら国領に微笑みかける。本気にしかみえない。

 おずおずと、国領もこわばった顔で微笑み返す。

 大丈夫かよ、こいつら。

 

 ―――――

 

 2つ目の器物損壊関係(?)の話。

 民事上の処分は、僕も少し頭の片隅で考えた、そして一度はあきらめてたことだった。

 

「その、8月の竜神帰還計画。

 わたしとさとみんも、それに加わりたいんだ。いいよね?」

 

「あなたも、自殺したいんじゃなかったら人数は多い方がいいわよ。」

 

 だまされるかもしれないし。

 だますつもりはなくても、結果的に手に余る事態になるかもしれないでしょう?

 水臭いのよ、あなたは。

 あたしたちは、飯場襲撃の仲間、分かちがたき兄弟であり姉妹なんだから。

 

 そう、調布は言う。

 

 まあ、そうなのかもしれないな。

 竜神を界渡りさせるとき、僕以外は国領だけしか頼りになる味方がいない、って状態、本当は避けたいと思ってた。

 国領は有能だけど、手が足りない気がする。国領は戦闘力もあると思うけど、調布がいればますます安心だ。

 ただ調布はともかく、紫藤を巻き込むのはちょっと躊躇するな。司令塔とかやってもらおうか。

 ともかく、これはこれで願ってもないことだ。

 

 そんなこんなで、僕と国領への刑と償いの措置が言い渡され。

 控訴するか、聞かれたけどさ。

 裁判官、紫藤なんだよな。じゃあ違う判断は出ないだろう。

 そう判断して、国領と顔を見合わせて、判決を受け入れることにした。

 民事責任の関係も、これでいいわよね、と念を押されて、国領の慌てる様が、ちょっと面白かった。

 

 ─────

 

「ところで。」

 

 空気が緩み、紫藤と国領はなんかきゃらきゃらと笑いさざめいてる。なんか文芸部の部長さんのことみたいだ。

 たいていの部活で3年生は、一学期で引退だ。部長を誰にするか、誰が引き受けてくれるか、切実な問題だ。

 文芸部は、だれが部長やるのかな。

 紫藤はちょっと性格として向いてない気がする。

 そしてたぶん国領はできない。創作ダンス部の部長だろうな。いや、あいつ生徒会もあるんだよな。だったらそれも無理か。

 そういえばESSも決めないといけないんだ。まずいな、僕は無理なんだが、――

 

 そんなことを考えてると、調布が寄ってきた。

 

 「あなたたちが言ってた、竜神のこと。

 ハルカからは聞いたけど、あなたからももう少し教えてくれないかしら。」

 

 まあ、確かに。あまりに荒唐無稽に聞こえる話だからな。

 だから、僕は僕の体験したことをできるだけ記憶に忠実に伝えた。

 そして、例の開かずの間の文書で知ったこと。

 さらに、父の仕事関係で知ったことも、付け加えて。

 かなり怒られるかと思ったが、竜神の胚の一部を保存していることも、伝える。怒られはしなかったが、かなり呆れられた。

 

「あなた、多賀島大にコネを作ってたわね。まさか、これを見越してなのかしら。」

 

「そんなわけ、ないよ。でも検査してもらうのは、アリだよな。」

 

「秘密をどう守るか、ってことが問題ね。まあ、毒性とかについて問題ないなら、検査に回すのもありかもね。その竜神の娘とかいう女や、ハルカの様子をみると、病原体というわけじゃなさそうだけど。」

 

 でもさあ。それ(検査)やって、公表されたりすると生物学や物理学、ひっくり返るわよ。歴史学なんかもだけど。

 その修羅場、見たい気がするけど。

 闇から闇に葬るべきなんでしょうね。

 

 そう、調布は残念そうに言う。

 

「その村、あたしも見ておきたい。洞窟と、神社も。

 それにしてもあなた、叩けば埃だらけね。」

 

 要点をメモしながら、あとで計画を練るわよ。まずは洞窟と神社までのルートのマッピングね、とか言ってる。

 頼もしいな。

 

 しばらくして、ナギさんマコトさんにも話し合い完了を伝え、紫藤弟とも合流し。

 庭の木に実っていたという、かなり酸っぱい夏みかんをみんなでおやつに食べる。

 

 国領と調布に紫藤弟がいじられて赤くなってる。こうしてみてると素朴なところあるじゃん。愛読書はエグいけど。

 

 そんなことを思いながら、僕は紫藤、そしてマコトさんとナギさんとで在宅アルバイト計画を練るのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。