※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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紫藤みなり視点です。
微量、不適切な表現がありますのでご注意ください。(微NTR?微百合?苦手な方は飛ばしてください。)


157 罪がまだ美しかった頃(13)(紫)☆?

 

 最初は、そこまでやるつもりではなかったんだ。

 現状を冷静に、客観的に把握しよう、っていうのが出発点。それはたしかだ。

 

 ただ、100%純粋にその目的だけだったかというと、そういうわけでもなく。

 やっぱり、自分の利益というか、好奇心というか。

 そういうものが、さとみんの姿態に刺激されてむくむくとふくらんできてしまったんだ。

 

 そう。わたしは。

 さとみんが、どこまで「開発」されてるか知りたかった。

 だって、やっぱり気になるよ。

 さとみんは親友だ。だけど、ライバルでもある。強敵(とも)なんだ。

 しかも、さとみんはわたしより先を知ってる。

 

 今、さとみんが自分で暴露してしまったように、さとみんは処女(バージン)ではないらしい。

 そしてさとみんの、あの男女関係を知り尽くしたような風格、あの男の子の目を惹く怜悧な美貌。

 それらから推論すると。

 きっと男友達と重ねてきた、豊富な経験にもとづいて。

 志野くんを悦ばせ、至高の楽園(第七天)をかいまみせてきたにちがいない。

 そういう結論に、達せざるをえないんだ。

 ただ、これもわたしの推測どおり。

 志野くんとさとみんは、まだルビコン川(ポイント・オブ・ノーリターン)を超えたわけでもない。

 

 だったら、二人の間で何がどこまで行われてきたのか?

 それを究明する必要があるんだ。

 

 わたしの脳裏には、ベッドに入った志野くんに、しどけなく裸の背中をあずけ。

 そしてその体を軟らかくねじって反らして、志野くんを下から見上げて。

 そして、志野くんのあごをV字にひらいたひとさし指と親指とで下から持つようにしている、想像上のさとみんの映像がぽふん、と浮かぶ。

 もちろんその想像の中では、ふとんが被さってるふたりのお腹から下は、みえない。

 だけど志野くんが、快楽を味わっているようにいやらしい顔でにやけていて。

 そして志野くんが、ときどき。

 ずん、と腰を動かすと、さとみんが殺しきれない嬌声を上げるんだ。

 

 まってよ、さとみん!

 そう。

 そのベールの下で、何が行われているのか。

 そう、二人の到達点を、究明しなければ。

 

 まずは、ここから。胸からだ。

 志野くんは、なにしろ志野くんだからね?

 クラスにいるときも、さとみんだけでなく、鶴見さん(つるちゃん)の胸に視線を吸引されてたし。

 わたしと下校しているときにすら、通りすがりの発育よさげな女の人に目を奪われる。

 登山家がエベレストの峰に向けるような、熱烈な視線を向けているんだ。

 つまり志野くんは、女の人の胸が好きな男の子(おっぱい星人)なんだ。

 

 いや、だけどさ。

 志野くんの目が泳ぐのは、そういう 名峰(巨乳)だけじゃないんだ。

 標高の低い、丘陵と呼ぶのすらおこがましい、わたしのつつましい起伏(虚乳)にすら。

 志野くんが熱い視線を向けてるのを、わたしは知ってる。

 

 そう。

 わたしですら。

 この、無きにひとしい胸を数回にわたり開発されたんだよ。

 ――だとすると、だ。

 さとみんの、このもてあそびがいのある胸は。

 さぞかし濃厚に志野くんの寵愛を受けたに違いない。

 許すまじ。

 

 そんなことを、考えていて。

 すこしだけ、嫉妬でわたしはいじわるな気持ちになってきてたんだと思う。

 どういったらいいのかな。「これか?この胸か?わが夫を誑かしたのは!」みたいな。

 歴史メロドラマで、夫と姦通した侍女を詰問する女主人の気分って言ったらいいのかな。

 

「これ?この胸なのかな、わたしの志野くんを夢中にしてたのは?」

 

 あ。考えたことが口から出てしまってた。

 恥ずかしすぎる。ねちっこいおじさんみたいな言葉だよね。

 なにより「わたしの志野くん」って。感じ悪っ!

 だけど、恥ずかしさでわたしの顔に血がのぼりきるより早く。

 

「ごめんなさい、みなり。やっぱり、イヤよね、――」

 

 あれ?

 さとみんはあのいつもの強気が抜け去ってて。

 なんか、しみじみとした沈痛モードに入ってる。

 いつものような、きりっとした頼もしい顔つきじゃなくて。

 いや、きりっとはしてるんだけど、申し訳なさそうな下がり眉になってるよ。

 

「あなたが不快に思うのも、仕方ないと思う。

 だからせめて。憂さ晴らししてくれたらいい。

 あたしは、どんなにされてもいいから。」

 

 いつもはちょっと低めのよくとおるさとみんの声だけど、今はすこし細い、震えた声になってる。

 なんだか、かわいそう。

 そんなことないよ!と喉元まで出かかった。よしよししてあげなきゃ、って。

 でも、わたしの中の悪魔が邪魔をした。

 この際、いいチャンスだ。調べつくすべきだよ、って誘惑のささやきに、負けてしまって。

 そして、こう考えちゃったんだ。

 

 ――お言葉に甘えてたしかめてみるよ、志野くんの仕事というものを!

 

 いま、わたしは。

 両手首を上げ、脚を広げた姿勢で布テープでベッドに固定されたさとみんの体の上に乗ってる。

 お腹というより、腰の上。

 うん、あの、千里のえっちな本でいえば、騎乗位とかいう体勢。

 足で体重を支えてるから、そこまでさとみんは苦しくないと思う。

 

 すこし足側に移動して、上体を倒してさとみんに覆いかぶさり。

 また唇でさとみんの乳房をくわえてみる。

 はむはむ。

 ちゅっとすってみると、びくんとさとみんが動揺した。

 おもしろい。

 

 さとみんみたいに経験豊富だったら、こんなの慣れっこかと思ったんだけどな。

 わたしが稚拙にはむはむとすると、あきらかにさとみんが抑えきれず、体を震わせてる。

 まるで、――

 

「ねえさとみん。志野くんは、どんなことしてくれたのかな。」

 

「――」

 

 ちょっとおどおどした目で、見上げるさとみん。

 日ごろは先生にすら強気な、ぶっきらぼうなさとみんの、新鮮な姿に、わたしは。

 下劣にも、ぞくぞくしてきてしまった。

 

「こんなこと、したのかな?」

 

 さとみんの両胸を、わたしの手に収めてみる。

 そう、わしづかみってやつだ。

 

「どうなのかな、さとみん?」

 

「――」

 

「何か、言ってよ。」

 

 ぎゅうっと手に力をこめてみる。

 すごい、すごいよ。

 手に収めきれない。わたしの小さな手だと、つかんだ手のひらからあふれ出すんだ!

 重くないのかな。

 それにしてもさとみんの胸の形は美しい。きっと強靭なクーパー靱帯に支えられてるんだと思う。

 そして手のひらに感じられる突起。さっきより固くなってきてる?

 

「さとみん、痛い?」

 

 こんどは、否定するように頭を横に振った。

 

「じゃあ、これは?」

 

 指にもっと、力を込めてみる。

 まるい乳房に、食い入る指。

 

「――痛い、です。」

 

 なぜに敬語。

 だけど、わたしの頭は、もうぐだぐだにゆだってきてて。

 当然のようにその、女主人(ミストレス)としての役回り(ロールプレイ)を受け入れてしまったんだ。

 

「何か言うこと、あるんじゃないかな。」

 

 わたしは、まるでいつもの気弱なわたしでは、ないみたいだった。

 強気にさとみんを追い詰めた。 

 

「――申し訳ありません。」

 

 そしてさとみんが、いつもの強気なさとみんでないみたいに。

 長い睫毛の切れ長な目を伏せて、謝罪するんだ。

 

「うん、そうだったら、どうすればいいと思う?」

 

「――」

 

「罰。罰だよね。さとみん。」

 

 わるい子は、罰を受けるんだよ?

 そう言い聞かせる。

 

「お願い、みなり。せめて、――」

 

 ――心の準備を。

 

 そう、さとみんが願うけど。

 

「いいや、罰だね。今、これから。

 むごく静かに。さとみんに、罰を与えるよ。」

 

 そうわたしが言うと、さとみんが体をぶるっ、と震わせた。

 気のせいか。

 さとみんの太腿のつけ根のうえに座ってる、わたしに。

 じわあっ、とさとみんの熱い体温が、輻射熱のように立ち上ってくる気がした。 

 

 大雨で夏にしては少し涼しい、この朝。

 さとみんとわたし、ふたりの体からの熱気で、部屋はすこしずつ蒸し暑くなってきてて。

 頭のヒューズがとんだわたしたちは、その先に進んでしまった。

 

 ─────

 

 これは、罰なんだから。

 もっと、痛くしよう。

 

 わたしは、渾身の力をさとみんの胸をつかむ腕に込めた。

 

「あ、ああっ!」

 

 体をのけぞらせるように、さとみんがびくっと跳ねた。

 無理もないよ。力を入れすぎた、って思ったもの。

 さとみんの乳房に食い入ってる指を外すと、5つの爪痕が。

 ああ、ちょっとこれはやりすぎたよ。

 いつものわたしなら、顔をさあっと青ざめさせて。

 さとみんごめん、大丈夫!?と呼び掛けて、さすさすするところだ。

 でも。

 このときのわたしは、わたしじゃなかった。

 じぶんでも蠱惑的だとわかる、ひどく嗜虐的な笑みが片頬に浮かんだんだ。

 

「どう?さとみん。志野くんは、ここまでひどいこと、してくれたかな?」

 

 そう、問いかける。

 

「はぁ、はぁ、――いいえ。」

 

「それで、さとみん。

 志野くんに、さ。

 さとみんは、ここを触らせたのかな?」

 

 青い血管がかすかに透けて見える、白い乳房。

 その先端を、こんどは優しく撫でる。

 

「いいえ。――ああっ、嘘!触られました!」

 

 嘘だね。

 嘘をついたさとみんの胸を、パチッと叩く。

 そんなに力は入れてないんだけど、さとみんの体が跳ねる。

 

「嘘をつくと、罰を受けるんだよ?」

 

 横に反らされた、さとみんの顔をまた両手でこちらに向かせて、覗き込む。

 さとみんの目が、泳ぐ。

 

「触られたんだね?じゃあ、――罰に値するよ。」

 

 そして。

 わたしは、さとみんのみずみずしい、そしてたくましいからだのすみずみまで。

 志野くんに触られたか、問う。

 

「へえ、ここもなんだ。」

 

 わきも。

 おへそも。

 首筋も、舐められたことがあるって、さとみんは白状する。

 

「気持ちよかったのかな?

 だったら、さ。」

 

 そのぶん、苦しい思いも味あわなきゃ、ね?

 

 敏感な、さくら色になってきてる肌を、わたしも舐める。

 汗だろうな、かすかな塩味。

 臭いまでかいで見せる。さとみんが嫌がる。

 そして薄い、紅潮してきた柔肌を、残酷につねる。

 (おそらくは)苦痛に身をよじらせる、さとみん。

 でも、たりない。

 

 思いついて、カーテンについてた洗濯ばさみを取ってくる。

 バネは、まだまだ強い。

 その先の、ギザギザのあごで。

 さとみんの、白い胸の尖端のピンクの乳首をはさむ。

 さとみんが、耐えるようにまゆを寄せる。

 

 でも、たりないし、生ぬるい。

 まだまだ、もっと強いなにかが、必要なんだ。

 

 ――そうだ。

 

 机の引き出しに残ってた文具に、手を伸ばす。

 ステイプラーじゃ綴じられない、厚めの書類をたばねる、1センチ強くらいの黒いバインダークリップ。

 いわゆるダブルクリップというやつだ。横からみると火星人みたいだと思ったりするよね、あれ。

 

 それをひとつ手にとり、さとみんの目の前でかちかち、と開いて閉じてみせる。

 

「まさか、みなり、――!」

 

「うん、いい声で啼いてね。」

 

 わきから胸に続く、その尾根筋にあたる部分。

 いわゆる、横乳のあたりだね。

 

 ダブルクリップのバネは、とても強力だ。

 その隅っこだけ、小さく噛ませるとすごく痛い。

 だから、大きく噛ませた。

 見た目は肉を大きく挟まれて、とても猟奇的な感じだけど。

 まだがまんできる痛みだろうし、痕も残りにくい、――と思う。

 

 でも。

 

 洗濯ばさみの比でなく強力なバネに、つよくその白い肌をはさまれて。

 おそらくは強く抓まれる痛さを感じたさとみんが、ううっ、と声をあげる。

 

「さとみん、静かにしようね。――お口に、これつけてみようか?」

 

 特大のダブルクリップ。

 2、3センチくらいの厚さの書類も綴じれそうなやつを、みせると。

 さとみんは、涙目で絶望的に首を振った。

 

 ―――――

 

 それからのことは、細かくいうこともないかな?

 わたしは、一つ一つ質問して。

 さとみんに、嘘をつかせて。

 そして白状させて、罰を与える。

 哀願するさとみんに、これはしないで、と言われたことを。

 

 そう、もちろん気づいたと思う。

 さとみんがわたしの尋問に嘘をつくのは、――そう、コミュニケ―ションなんだ。

 嘘をついて、わたしにさとみんをいたぶる口実を与えてくれるための。

 そして、してほしいことを「してほしくないこと」として言う。

 それをわたしが、実行する。時にはアレンジを加えて。冷酷に。

 

 ――そして、さとみんは。

 前身をくまなくくすぐられ。

 敏感な脇腹を抓まれ、ときに強力なダブルクリップに挟まれ。

 耳や腿の内側や、あらゆる性感帯に唇と指で執拗に愛撫され。そして。

 

「さとみん、また嘘をついたね。嘘は、罰で報われるんだよ。」

 

 わたしは体をひねって、あられもなく広げられた、さとみんの両脚の接合部。

 その、ひどくやわらかい皮膚の裂け目のあたり。

 さっき愛撫して、ほのかに赤らんできてるそこに。

 ぱしっ、と軽く平手打ちをする。

 

「うぐっ!」

 

 叩いた手に、濡れた感触。そう、濡れてるんだ、びっしょりとね。

 それをなじって、さらに責める。

 でも最後までさとみんは「その言葉」を言わなかった。

 

 ――うん、でもここが潮時だよ。

 

 さとみんの意識が2度目に飛んだ時に、そう思ったわたしは。

 責めを止めて、こんどは優しく優しく全身をマッサージした。

 わたしだったらこんなにやってほしいな、と思うように。徹底的に。とろけるように。

 さとみんの鍛え上げたからだから、力が抜けていくように。

 

 そして、わたしはさとみんの体に覆いかぶさり。

 さとみんの口をわたしのくちびるで覆った。

 

「!」

 

 うん、さとみんが驚いてる。

 わたしも。

 すごく、やわらかいくちびるなんだ。女の子どうしの、キス。

 そして。

 

「っ!」

 

 わたしはそのまま、そっとさとみんの形のよい鼻をつまんだ。

 息を止められたさとみんが、最初はおどろきに動きを止め。

 そして焦ったように、身じろぎして。

 やがて絶望的に、空気を求めて体をねじる。

 でも、わたしを無理に振り落としたり、頭を激しく振ったりして、わたしのくちづけを外そうとしたりすることをしない。

 

 わたしはさとみんに覆いかぶさり、さとみんの太腿を割るように、じぶんの太腿を当てていた。

 その太腿に、じわあっ、とさとみんの割れ目から熱をもった何かが、伝わってきた。

 つまんでた手を外し、口を離すと、さとみんがふいごのような荒い息をついて、脱力した。

 

 そして、――窓が曇るくらいに熱気のこもった、この殺風景な部屋のベッドに。

 あそこを湿らせて、いや、しとどに濡らした、虚脱状態のさとみん。

 それを見下ろすわたし。

 そんな絵図が完成したんだ。

 

 そして、わたしも。

 なにか、やりとげた!という心地よい達成感と疲労を感じ。

 最後の努力で、さとみんを縛めていた布テープをはずす。

 おそらくは、さとみんも力いっぱいねじったり引っ張ったりすれば、ちぎれたんじゃないかな、とは思うけどさ。

 

 最後のテープを外すと。

 自由になったさとみんにわたしは、ぎゅむっと抱きしめられた。

 わたしもさとみんも、この一幕に力というか精神力を使い果たしたんだと思う。

 わたしたちはあまりの疲労に、ベッドの上で、裸のまま。

 横向きになって、お互いをだきしめて。

 目を閉じてしまったんだ。

 

 ─────

 

 雨空とはいえ、夏。部屋がもわっと暑くなってきている。

 湿気るから、閉め切ってるのかな。

 すこしだけひんやりした何かに、すがりついてる。すべすべしてて、気持ちいいけど、下敷きになった腕が少ししびれる。

 目を開けてみる。目にも何か邪魔なものがかかってる。長い、黒い髪。

 そして、まじかにある、長い睫毛にふちどられた切れ長な目を閉じた、鼻筋の通った端正な顔。

 あ、あれだ。

 「やってもうた」というやつだ!

 

 記憶の欠落がぱらぱらと埋まっていく。

 ああ、なんてことしちゃったんだろう。

 さとみん、傷ついてないかな。

 いや、体に傷をつけちゃったのはたしかだ。それに、心にも。

 わたしが、志野くんのことでさとみんを恨んでる、って思ってたりしないかな。

 怒ったりなんか、してないのに。

 怒ってるみたいなことを、言ってしまった。

 いや、わたしだって。ねたましい、うらやましいってのは、あるんだよ。

 でもさとみんだったら、いいんだ。あ、たぶんハルカちゃんも。

 だけど、さとみんが過剰な罪悪感を抱え込まないようにしなきゃ。

 さとみんは、意外とそういうところが潔癖だし。

 

 さとみんは規則正しく寝息を立ててる。

 目を動かすけど、もう時計はしまっちゃったんだった。

 今、何時だろう?

 それすらもわからない。

 

「さとみん、さとみん!」

 

「もう食べられないわ、――んん?」

 

 さとみんは、ぱちりと目を開けた。

 そして。私と目をあわせて。

 さくらんぼのように赤くなった。

 

―――――

 

「ごめん、本当にごめんねさとみん。――痕、残っちゃうかな。」

 

「大丈夫よ、みなり。気にしないで。」

 

 わたしが凶暴な力を込めてさとみんの胸に爪を立てたところ。

 痛々しく、青く指の痕が残ってる。

 ほかのところでは。

 バインダークリップの痕も、やっぱり残ってるんだ。

 

「これくらいは、すぐに治るから。」

 

 さとみんは、そういう。

 ほんとうかな。

 さとみんは、わたしに気づかってそう言ってるんじゃないかな、と思ったけど。

 さとみんは、心からそう信じてるようだ。

 でも、ここまでの痕。すぐ治るはずがないよ。

 

「大丈夫、大丈夫だから。寝たら治るの。」

 

 そういうものなのよ、と屈託なく笑う。

 さっきまでの、しおらしいさとみんの影は見つからない。

 もしかして、あれは第二人格で、こっちのさとみんはされたことは、あまり覚えてないんじゃ、――

 

「それにしても!やってくれたわね!?」

 

 あ、だめだ。覚えてるよ。

 悪いことをした猫のようにくびねっこをひっつかまれて、ぶんぶんされそうに。

 でも、その後でぎゅむっと抱きしめてくれた。

 

「ごめんなさい、謝らないといけないのはあたし。――その、志野のこと。」

 

「いや、それはいいんだよ、さとみん!」

 

 わたしは再度、さとみんに自分の思うところを伝える。

 さとみんとだったら、ぜんぜんいいんだ。

 ただ、ちょっぴりときどき、うらやましくなっちゃって。

 それでさとみんに意地悪したくなったりしちゃうって、こと。

 

「ねえ、みなり。あたしも、それでいい。

 ――その、ときどき、あたしに何かぶつけたくなるんでしょう?

 それくらい平気よ。また、こんな風にしてくれたって、ううん、もっとひどいことしても、いいの。」

 

 さとみんは、そう言ってくれる。

 でもさとみん、それは悪いよ。

 そうなる前に、話し合ったりして、――

 

「いいから。これでこの話は、おしまい!

 それでさ、みなり。相談があるの。

 実はさあ、――」

 

 なんだろう。

 さとみんが眉を八の字にしてる。さとみんが困るほどの事態、って、――?

 

 ―――――

 

「そうなんだ。」

 

「そうなのよ。――何とかならないかしら?」

 

 そう。

 さとみんとわたしは、この狂乱の一時間のはじまるときに、服を脱いだ。

 その場所が、悪かった。

 たまたまわたしたちの服。最初はベッド上の横に置いてたつもりだったんだけど。

 何かのかげんで、さとみんの下着とスカートが、さとみんの体の下に入ってしまってて。

 具体的には。そう、ちょうど、腰の下のあたりに。

 

「さとみん、その下着とかは手洗いしてくるよ。」

 

 わたしは、そう申し出る。

 だってさ。さとみんが、その、うーん、濡れちゃったのは。

 わたしのせいだよ。

 ぐっしょりとさとみんの、その、潮で濡れた下着とスカートを手に取って、お風呂場に持っていこうとする。  

 (ちなみに、そのおかげで、ベッドは被害(?)がなかった。いや、べつにシーツを洗って乾かせばいいからいいんだけどさ。)

 

「でもさ、雨だし。すぐは乾かないかな。」

 

「もちろんあたしが洗うわよ、あたしのだし。」

 

 さとみんは、顔を赤くして手をばたばたさせる。

 

「一緒に洗おうよ。」

 

 わたしのシャツも、一枚濡れちゃってるからさ。

 そういうと、さとみんも納得したようだ。

 うん、それはそれでいいんだけど。

 

「着替えだよね。――わたしのまだおろしてない下着、入るかな?」

 

「みなり、ごめん。試させてもらっても、いい?」

 

 ―――――

 

 ふたりで仲良くお風呂場で並んで、ちゃっちゃとお風呂の残り水で濡れた下着類を洗って、絞った。

 そこまではよかった。

 問題は、着替えなんだ。

 わたしの下着を、試してもらったのだけれど。

 

「――絶望ね。」

 

 当ててはみたんだ。当てては。わたしのまだ新品の下着を。でもさ。

 ちっちゃいちんちくりんのわたしとちがって、さとみんは発育がいい。背も高いし体もしっかりしてる。

 お尻も胸も大きい。

 そうすると。

 

「ぜんぜん無理だね。」

 

「なくていいわ、しかたない。」

 

 ただ、そう言った後、さらなる問題が立ちはだかるんだ。

 さとみんのスカートも、汗と液体でじっとりと湿っていて、洗ったんだけど――

 

「スカートも、だね。わたしの、入るかな。」

 

「ジーンズとか、ない?」

 

 うーん。

 あるけど、わたしにすら小さくなってるんだ。ましてや。

 

「やっぱり、さとみんには小さいよ。」

 

 千里のは、どうかな。

 かなりダボっとした奴なら、着れるかもしれないのでは。

 

「ごめんねさとみん。これ大丈夫?」

 

 ――勝手に徴発してためしてもらう。

 

「うーん、はいらない。ムリね。」

 

 千里君、脚は細いのね、と言ってる。

 

 駄目だったか。

 千里のジーンズもチノも、全く無理みたいだ。

 体格的にはなんとかいけるのもある気がするんだけど、千里も服をほとんど買ってこなかったから、小さいのしかないんだよね。

 

 体格的に、勇お父さんのものなら、もちろん入るだろう。

 でも、それだけは嫌だ、とさとみんが強い拒絶反応を示した。

 わたしも、できれば避けたい。勝手に服を借りたのがバレたら、何されるかわからない。

 まあ、勇お父さんのお気に入りのさとみんだったら、何も言われないかもしれないけど。

 

「マコトさんの服が、あったりする?」

 

 身長的には千里とおなじかちょっと高いくらいで、丈は合わないかも。

 でも確かに、幅は大丈夫と思うんだけど。そう思うんだけどさ――。

 

「ごめん。このまえ、日蔭谷の家にもっていっちゃったんだ。

 ――わたしの、スカートしかないね。ロングっぽいのなら、いけるかな。」

 

「ウエストが問題ね。――無理かしら。」

 

 しかも、ロングスカートはあまりないんだ。

 だって生地の量が違うからさ、ロングの方が高いし。あまり買ってなかった。

 この前志野くんに買ってもらったデニムのロングがあるけれど、ウエストが入らない。

 細くくびれたさとみんの腰だけど、それでも無理だったよ。

 

「ミドル丈でいいわよ。なんなら、冬物でも。」

 

 ないんだ。入るのがないんだよさとみん。

 結局。

 

「これかなあ。一番大きいのなんだけど、――」

 

 さとみんが死んだ目で、わたしが梱包していた荷物を開けて引っ張り出してきたそのスカートを見る。

 

 いろいろ試した。お気に入りのキュロットや、お母さんの服まで。

 でも、これくらいしか入りそうなのがなかったんだ。

 

 素材はいい。黒いしっかりした上質の生地。

 ショッピングセンターのキミドリヤ(衣料品店だね)で、特売ですごい割引されてたのをみて買ったけど。

 わたしには大きすぎて、しばらく寝かしとこうと思ってたやつだ。

 それなら、いける。いけるんだけどさ、――

 

「ちょっと短いわね。でも、ほら、日蔭谷か最寄りのスーパーまで持てばいいのよね。」

 

「ちょっと短い、って、――」

 

 さとみんに言ったら激怒されそう。「痴女」って単語が頭に浮かんだってことを。

 それに、長さ的には確かに短いけど、――テニスのスコートよりわずかに長いくらい。腿の半ばくらい。

 これくらいのミニを着てる女の子、たくさんいるよ。うん、いるんだ!

 でもさ。

 ただ、さっきのもうひとつの問題と、組み合わさると。

 

「ねえ、みなり。まあ、いつもの状態なら、これでいいのよ。でもね。」

 

 さとみんが、わたしに、しみじみと語りかける。

 ちゃんと下着を着てれば、――まあ風がめくりあげても、一応は下着があるんだ。

 それを見られるのはいやだけど、一応は守られてる。

 でも、今は。

 

「よりによって。こんなときだと、――ね?」

 

 そう、ノーパ○になってるんだよ、さとみんは。

 かける言葉もないよ。わたしも、深い同情のまなざしを注いだ。

 注がれたさとみんが、いえーい、とやけくそのように笑ってミニを着たまま足をあげてみせた。チアガールみたいに。

 うん、一瞬だけどばっちりだったよ。白いお尻の肌も、デルタも。

 

 ―――――

 

 さとみんがしおしおになってるのは、新鮮だったけど。

 やむなくその選択肢を取ることにした。

 ショッピングセンターのコインランドリーにたどりついて、そこですばやく乾かす。

 それしかないよ、ということになった。

 

「ショッピングセンターに、たしか銭湯があってさ。

 そこに、コインランドリーも併設されてたと思うんだ。」

 

「そうね。そこで30分くらいで乾かして、そのまま日蔭谷に下りましょうか。」

 

 そうして、わたしとさとみんは、荷物をまとめて。

 家を慎重に戸締りし、団地の中央部にあるショッピングセンターに向かうことにしたんだ。

 台風の余波なのか、吹きすさぶこの風雨の中を。

 

 

 

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