タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
「ねえ、みなり。寒くはないのよ?だけど。」
さとみんが、そわそわしながら。
スースーするのが落ち着かないだけ、と言い訳がましく言ってる。
「わかってるよ、さとみん。やっぱり、手ぬぐい巻いてくればよかった、って思ってるんでしょ。」
わたしとさとみんの仲だ。そんなの、まるわかりなんだよ。
また街路樹を揺らして、突風が吹き抜けていく。
わたしたちは、家を出発し。
団地の中央部にある、ショッピングセンターをめざして歩いていた。
―――――
さとみんが
わたしは、せめて手ぬぐいを巻こうと主張した。
ただ、さとみんの美意識(?)的には、それは許せなかったらしい。うん、ふ○どしは嫌だと思ったんだろう。
長めのタオルでもいいんじゃない、って。そういったんだけどね。
タオル地がもこもこで、外からみたスカートのラインがあきらかにくずれるし、赤ちゃんのおむつみたいで屈辱的だって思ったらしい。
たしかにもこもこなのは、恥ずかしいのかもしれない。
でもほら、今みたいに風にあおられてスカートがめくりあがったときのこと。考えてごらんよ。
見られたのが手ぬぐいやタオルなら。恥ずかしいけど、それだけだ。
何もつけずに見られたら最悪だ、痴女事案だよ。
だから多少かっこわるくても、最悪を避けるためにわりきればいいのに。見栄っ張りだなあ。
でもわたしは、外がこんなに風が強いとは知らなかったから、家を出るまでにさとみんを説得しきれず。
結果としてさとみんは現在、紙装甲どころか、無装甲。
たぶん、素肌を風がなぶってる状態。
不幸中の幸いは、女の子の日じゃなかったことかな。
だけど風は結構強い、急にあちこちの方向から吹く。台風が近づいてるみたいなんだ。
ちゃちな折りたたみ傘じゃ、煽られて骨が反転しそう。実際、道すがらにそういうパラボラアンテナ状の傘を持ってた人を目撃してる。
だからわたしたちは、さとみんが持参したじょうぶな長傘をさすことにして、わたしはそれに入れてもらってた。
幸いにも今は雨が小止みになってきてる。傘からはみ出てもまあ、そんなにぬれそぼらずに歩けるくらいになってる。
「ねえ、みなり。わかるでしょう?
女には、命を賭けてでも。
誇りと尊厳を守らなければならないときがあるのよ。」
無駄にきりっとした顔で、こっちに向き直ってそう言う、さとみん。
ほら、横からぴゅうっと吹いた風で、お尻の上、腰近くまでスカートがめくれたよ?
わたしはかろうじて荷物を片手に抱えなおし、空いた手を伸ばして、そっとスカートを押さえて直す。
わたしの手に、さとみんが驚いてたじろぐ様子。
違うよ、ちかんじゃないよ。さっきので、わたしに警戒しちゃってるのかな。
わたしより、そっちの大学生くらいのお兄さんを警戒した方がいいんじゃないかな。なんか、うれしそうな顔をしてたよ?
それにしても、誇りと尊厳、ねえ?
風でまくられて、ぜんぶ見られたら。
それこそ誇りと尊厳、まるつぶれじゃないかな。
「巻くは一時の恥、さらすは一生の恥だと思うよ。」
そういってみたけど、さとみんも意地っぱりだから。
だいじょうぶよ、このくらいの窮地なんてたくさんくぐりぬけてきたんだから。と譲らなかったんだ。
今は、ほんとは後悔してるんだろうけどな。
さとみんは、そうこうしてるうちに。
駅の階段を上るスカートの短い女子高生みたいに、片手でおしりのあたりをガードすることにしたようだ。
さとみんは、いつもは制服のスカートも長い方だ。それこそ、校則で認められた長さ上限ぎりぎりだ。
(その影響を受けて、さとみん
だから、そういうミニスカ用テクニックには無縁だったみたいだけど、ここにきてたよらざるを得なくなったみたいだ。
でも、この突風の前には、あまりにもはかない抵抗に思える。
家で、下着を扇風機で乾かしたらよかったのかな。
この前壊れちゃったアイロンがまだ生きてれば、なんとかなったのかもしれないけれど。
またひゅうっ、と風が吹き、ばらばらばらと、ショッピングセンターのロータリー上の街路樹から大きな雨だれが落ちてくる。
ちょっと傘から外れてたわたしは、あわててさとみんの傘の下にまた逃げ込む。
長崎駿の映画でこんな場面あったよね。うん、トト□。
ひゅうっ。
「あっ!」
ただ、この風が曲者なんだ。また、さっきと違う方向からひょおうと吹いてくる。
さとみんが必死にガード。後ろは守った、後ろは、ね?
でもほら、こんどは前が吹き上げられちゃってるよ!?
さとみんの右手は傘を持ってるので、ガードに回せるのは左手だけ。わたしも日蔭谷に持っていく荷物とかで手がふさがってて、あまり助けになれてない。
さとみんは、かわいそうなくらいに翻弄されてる。
長い黒髪も、吹き散らされて乱れてる。前も見にくいだろう。
わたしもたいがいだけど、下はキュロットで防御力が高い。
髪も乱されてるけど、短めだからね。まだましだ。
苦闘するさとみんを前に、なんか申し訳ない感じ。
わたしは重く感じて両腕で抱えてた荷物を、左手にまとめて持ち直した。
せめてすこしはノーパ○さとみんを、まもってあげなきゃね。
そうしてたどりついた、このショッピングセンターのロータリー。
こういうときに限って、茶髪金髪のヤンキーの一隊がみえる。
あ、あいつだ。ゴウジたちだよ。
ゴウジたちは学校の補習、ないのかな。わたしたちと同じく休みなのか、あってもサボったのか。
ゴウジとあのプリン茶髪のヤンキー彼女さんと、そしてのっぽのイガグリ少年、それともう一人、痩せたパンクロッカーって感じの紫メッシュのリーゼントの少年。
まだわたしに気づいてないけど、わたしたちの来た方向に向かってきてる。ゴウジの家にいくのかな?
どうしよう、このままだと出くわすコースだ。
ゴウジに会いたくないよ、って思って。
本能的にさとみんのうしろに、わたしは隠れちゃったんだ。
だけど。
ゴウジはまだわたしに気づかずニヤついて、横のイガグリ少年となにか言い交わしてたみたいだけど。
何気なくこちらに目線を投げて、――まず、目立つさとみんに気づいた。
さとみんは、そのとき。
わたしがさとみんのうしろに隠れたのを。
たまたま、また強くぴゅうって吹いてた突風を見かねて、自分のスカートの後ろ側をガードしてくれたのだと思ったみたいで。
ありがとう、みなり、と言って、前のガードに専念しようとして。
うつむいて、スカートのすそを指で軽くつまんで抑えてたんだ。
そしてゴウジたちがいるのに気づいて、まだスカートを気にしておさえながら、上目遣いにゴウジたちを見やった。
おそらくは、恥ずかしさで赤らんだ頬、世の理不尽にうるんだ瞳で。
「!」
ゴウジはそんなさとみんをみて、一瞬固まった。
ああ、最悪だ。
ゴウジは、女好きなんだよ。
そして、さとみんは。
いかにもヤンキー漫画に出てきそうな、つまりゴウジみたいなヤンキーどもの好きそうな容貌(偏見)。
切れ長の鋭い目が印象的な、そう、ちょっとキツめの美人さんなんだ。
それに加えて。
いつもは隠してる、短いスカートと長めのブーツの間に露出した、魅力的な白い生足。
いつもより目立つ、サマーニットを押し上げる盛り上がり、白い二の腕。
なによりも、この含羞のまなざし。
ゴウジの目に、魅力的に映らない訳がない。
まずい!
きっとゴウジはさとみんに気づいたら、粉をかけて因縁をつけ。
あんなことやこんなこと、――
瞬時にわたしの脳内妄想モニタが、スタンバイ解除。
さとみんがゴウジ一味によって、裏路地にひきずりこまれてる映像が再生。
抵抗するさとみん。だけどわたしを人質にとられ、両腕をリーゼントとイガグリ少年に抱え込まれ。
なすすべもなく、正面にかがみこまれ、スカートをめくりあげられ、――
『ほほう、こいつはおでれえた!もう、準備完了だなんてな!』
『『!』』
『違うの、これは!』
『げへへ、みろよこれ。体は正直だな?』
『ああっ』
なにかをつけた指をさとみんにつきつけるゴウジの映像を最後に、ピーっという音がして黒塗り画像・サウンドのみ状態に移行した。
うん、あまり知識がないからそこから先が想像できないんだ。ごめんね。
それはともかく。
まずい、まずいよさとみん!
割って入ろう、そしてわたしに注意を引きつけて、さとみんにはにげてもらって、――。
だけど、さとみんをみたゴウジは驚愕したように固まって。
口を開け、目を見開いた後。
そしてすぐ、なんというか直立不動になり。
その
さとみんに注目する。
でもまだ意識がスカートに持っていかれてるさとみんは、それをゴウジたちが道を譲ってくれたと解釈したらしく。
いつもと違ってろくに注意を払わず、ゴウジたちに軽くほほえみ、会釈して前をとおりすぎてゆく。
それを、立ちすくんでみているゴウジ、気が気でないようなプリン頭の彼女さん。
ふたりとも、腰ぎんちゃくのわたしに気づかないくらいにさとみんに気を取られていた、けれど。
次の瞬間。
ようやくゴウジは、わたしがさとみんと連れ立ってて、振り向いてゴウジたちをみてるってことに気づいて。
それはもう、さとみんをみたときと同じくらい、もしかするとそれ以上に愕然として。
急激に、顔色をわるくしたようだった。
目つきの悪いのっぽイガグリ少年も、こっちを固唾をのんでみてる。
そして、プリン頭の彼女は。
プリン彼女は、――わたしに気づいてゴウジのうしろに回って。
なんかあわてたように、ゴウジとささやきかわしてる?
パンク少年だけが、よくわかっていないらしく、え、何?みたいな感じでおろおろしてる。
そして、ゴウジの指示が下り。
みんなでなんか別の方角に方向転換。ゴウジに急き立てられ、パンク少年もわたしたちを未練げに、
あの方向、ゲーセンかな?お昼近いから、はずれにあるラーメン屋さんかな。
「ねえ、みなり!その、銭湯は!?」
わたしがゴウジの向かった方向を向いて立ちどまり、ぼけっと考えをめぐらしてたら。
わたしをおいてけぼりにして先に進んでしまったことに気づいたさとみんが、もどってきたらしく。
きまぐれな風の緩急をぬって、スカートをガードする手を離し。
必死にわたしの肩を揺すって、わたしを我に返らせてくれた。
「あ、ごめん、こっちだよさとみん。ほら、あっちの外れの方なんだ。
でもいったん、そこの屋根ひさしの下に入ろうよ。」
ざくろが丘団地は、バブル前、たぶん1970年代の終わりか1980年代の初めの方に造成された。
わたしが、まだ足もともおぼつかなかったよちよち歩きのころ。
できたばかりのここに両親が分譲住宅を買って引っ越してきた、って聞いたことがある。
今ではすこし古風に感じるショッピングセンターが、団地中央につくられてる。
バスのロータリーがあって、タクシーだまりみたいなところがあって、少し広場がある。
そしてその奥に目抜き通りというか広場というか、長細いスペースがあり。
そのスペースをはさんで、八百屋さんとか小さな本屋さんとか理容室とか魚屋さんとか肉屋さんとか婦人服のお店とかクリーニング店とかお茶や乾物も置いてるお米屋さんとか、そういった雑多な商店が並んでるんだ。
その目抜き通りをはさむ2列の商店群は共通の広い庇とオーメント(雪国でいう雁木ってのに近いと思うけど、もっと幅広いよ)があるので、雨にはぬれずに店の前を歩ける。
その目抜き通りとは別の区画に、コブタヤという行きつけのスーパーもある。
加工品や肉、魚とかはコブタヤが安いけど、野菜は八百屋さんが安い。
肉屋さんと魚屋さんの方が値段が高いけど、モノがいいらしい。
だけど高いからわたしはほとんど肉屋さんでは買い物しない。魚屋さんはときどきアラを買うことがあるよ。
いちど、肉屋さんでいい肉を量り売りしてもらって、すき焼きとかしてみたいな。
ああ、話がそれちゃった。
郵便局、銀行とかは、また外縁寄りの別の区画にあるんだ。あとたぶんゴウジたちが向かったラーメン屋さんとか中華飯店とかゲーセンとかも、別区画。
そしてすこしこれらのお店から離れた場所、駐車場のそばに、銭湯とコインランドリーがあるんだ。
「ありがとう、みなり。」
さとみんは一度、雨よけにアーケード(じゃないな、庇?)に入って、ふうっとため息をついて、傘を閉じてばさばさと水を落とす。乱れた髪を片手ではね上げる。
「早速行って、放り込みましょうよ。」
「そうだね。雨だから乾燥機が空いてるかどうか、不安だし。」
もし乾燥機が空いてなかったら、婦人服店でショーツくらい買ってもいいかもしれない。
さとみんの審美眼に適うものは、ちょっとないかもしれないけどさ。なんかお歳を召したご婦人向きの、ベージュのやつとかが多いんだ。
―――――
乾燥機は幸いにして空いてて、さっそく下着を放り込む。
100円で20分。下着とごく少しだけだから十分すぎるくらいかな。完全パリパリに乾くだろう。
「ねえ、あの家に何か買っていくもの、あるかしら。」
「しいていえば、麦茶かな。」
夏は、麦茶の量産体制を敷くよね。
ティーバッグは高いから、大袋のにしようかな。でもあの家に茶漉し、あったっけ。
「あと、お米かな?
でも、こんどにしようよ。」
前に住んでた人が、お米を残してたし、たしかこの前志野くんも買い足してたけど、何しろ重いから大した量は買ってなかったと思う。
だけど消費量は、多いはずだ。
でも重いからな。今度にしよう。自転車のとき。
いまはわたしもさとみんもリュックだけど、それ以外にも荷物抱えてるし、傘もあるし。
結局わたしたちは麦茶とか替え歯ブラシとかちょこちょこした軽いものをコブタヤで買い込み。
コインランドリーに戻り、ほかほかに乾燥された洗濯物を回収し。
さとみんはいそいそとお手洗いに消えていき。
そしてあきらかにすっきりとした表情で、生気5割増につやつやになって再登場した。
まさしく用を足してきたって感じだな、ぷふっ。と思ったのは秘密だ。
「そろそろ行こうか、さとみん。」
ちょっとだけショッピングセンターを案内してから、わたしたちは坂をくだり。
日蔭谷の家に向かった。
―――――
―――――
(第三者視点)
「イレさん、あれ誰だったんすか。さっきの。」
あの娘、けっこーマブかったじゃないっすか。
あの、ちっちゃい子もみたことありますけど。
あの背の高い娘のほう。
紫メッシュを入れたリーゼントの彼、
ゴウジの指令に従って、移動しながら。
そう、彼の兄貴分である
縦男は、威勢はいいがあまり腕力には自信がなく、どちらかというと不良仲間ではいじられ役だ。
進学したヤンキー高では、ゴウジの部下みたいな役回りをしている。いいとこパシリやナンパでの声掛け役だが。
ゴウジは粗暴だし、ときどきだが些細なことで腹を立てられて殴られたりもする。
でもまだ彼の高校ではまともな方だし、宙ぶらりんで孤立してるとみんなのサンドバッグになるのは目にみえてる。寄らば大樹の陰、という打算もあった。
まだゴウジの仲間になってあまり長くないが、その限りで見聞きしたゴウジの性格からすると、今回の行動には違和感があった。
そう、たかが女の子2人(姉妹にもみえたが、顔はずいぶん違っていた)に怖いものしらずのゴウジがあんなに驚いた様子をみせたり、かかわりを回避しようとしたことが。
そのゴウジは、今はゴウジの情婦の役回りの穢美が何かけたたましく騒いでいるのに付き合わされてる。たぶん穢美は、さっきの女にゴウジが目を奪われたのにすねてるんだろう。
「あのな、あの女な。」
答える威令世は、ゴウジのグループの副長格だ。
見た目は丸刈りに剃りこみをいれて目付きのわるい、いかにもな昔風の硬派のヤンキーにみえる。
しかし意外にも人柄は篤実で、このグループの実質的なまとめ役だ。
腕力特化のゴウジには一歩譲るが腕っぷしも強く、他校の不良たちからも一目置かれている。
「ありゃあな、けっこーヤバい奴なんよ。あの大きいほうの女な。」
「え?」
たしかにキツめな感じかもしれないが、美人だったよな、と縦男は思い返す。
こっちをあまり見てた風ではないが、笑って頭下げてくれてたし。いい感じ。
ちょっと声かけてみたい。脈ありじゃねえ?と。
そう思っていたのだ。
「元、
「ええっ?」
背も高かったし、すごい、いい体だったけど。
容貌は涼やかで理知的。とうてい元スケ番とは思えない、どっちかっていうと学級委員長タイプじゃないのか。
しかもフゾクって。
「あの南中のハカノセとも、タイマンで引き分けたってよ。」
「!」
ハカノセといえば。中学時代から超強いって近隣で有名だった、1学年上の男。たしか族やってた。
少し前、喧嘩で殴った相手の意識が戻らず、少年院に入れられたかどうかしてたはず。
「俺な。あの女、中学のとき見たことあるんよ。」
威令世によれば。
彼は、ハカノセとは別の中学だったということだが。
威令世の中学校の不良どもが附属中に殴りこみに行った際に同行していて、あの女を見たという。
代表同士のタイマンでカタをつけよう、と相手から申入れがあり。
そして、あの背の高い女が代表として出てきたらしい。
そのときは威令世の中学校の側には、事前情報がなく。
女を出してきた。しかも相手(女)はまだ2年、ということと。
そして代表として女が来た理由は、風紀委員長だからだ、ということらしく。
すっかり舐めきってしまい。
女の背に隠れんのかよ、情けねー!と、相手の学校の男たちを嘲り。
殴りも蹴りも何でもありで道具なし、どんなに怪我しても文句を言わない、と女に約束させ(逆に負けることはよもやあるまいと、こちらもそう約束し)。
そして決闘した結果。
威令世たちの中学の代表は、なすすべもなくその女にボロ敗けしたという。汚い手、一切なしで。
「最初は、距離をとられてな。」
女は最初、逃げるようにじりじりと間を取ったという。
それで、威令世の側の代表は、ますます侮り。
不用意に近寄り、回し蹴りを当てようとしたとき。
「油断してたのもあったけんどな、もう、すげえ速さでバッと腰にこう、斜めにぶつかってきてな。」
組みつかれ、あっという間に宙に持ち上げられ。
水車落としか柔道でいう裏投げのような感じに、駐車場の舗装された路面に叩きつけられ、さらに馬乗りに乗られ。
それこそ、ボッコボコに。
傍からみてもわかるほどの馬鹿力で、タコ殴りされたという。
「柔道ッスか?」
柔道部などに所属するヤンキー少年は多い。
縦男も弱いが、格闘技は好きだ。伝聞した戦いぶりからは、柔道とか柔術とかが連想される。
しかし、そういうわけではなかったようだという。附属中側の見届人も驚いていたとか。
「まあ相手が女ってこともあってな、こっちの番長が対戦、嫌がってな。
強えけど、2、3番手くらいのを出しとったん。」
それでも実力はその学年でピカ一、番長の代理戦にも出る、なんなら次期番長と目されてた奴だった。
だからトップや副番が出てても、同じ結果だったかもしれない。
むしろトップを出さなくてラッキーだったかもしれん、と威令世はいう。
「こっちのトップは、キチッと約束を守る男じゃったけ。それで仕舞いよ。」
相手からは理不尽な要求もなく。ただ公正な勝負で勝敗をつけた以上、以後は遺恨なしだと釘を刺されたという。
こっちの代表として出て負けた男は、油断してたとはいえ女に負けた、ということで面目を潰され。
けじめとして不良グループを抜け、その後は真面目に格闘技系の部活に打ち込んでいたという。
その男は、まあ言い訳もあるのかもしれないが。
あんなハードパンチ、あれ以前も以後も食らったことがねえ、とこぼしていたとか。
「
でも女なのにガチにタイマンに出たってだけで、すげえ度胸っスよ。」
度胸は買うが、そのとき勝てたのはたまたまだろう。
やぱり男女で筋力は違うしな、と縦男は思う。
だが、威令世は首を振る。
「それだけじゃねえ。その後も何度かあったらしいんよ。」
その後の防衛戦で、今度は油断してない挑戦者たちまで蹴散らした、その女番長は。
一部のヤンキーの間では、今でもちょっとした有名人らしい。
ちなみに、その当時の附属中周辺の公立中には、わりと硬派な連中が多かったのと。
何より負けたときの評判へのダメージがデカすぎて割に合わないことがあり。
各校では、その女のいた附属中は手出し無用と認識されるようになったらしい。
「本当は違えよ、あの女番がクッソ強かったからよ。」
そんな話を聞きながら、縦男は。
ゴウジの態度に、すこし納得した。
ゴウジもおそらく中学のときに、附属中に殴り込みに行った番長が返り討ちにされたのを目撃したとか、したのだろう。
ゴウジもひくような狂暴さ、かぁ。女って、ホント見かけによらねえんだな。
ただ、わからないこともある。
じゃあ、あのくっついてた、ちっちゃいかわいい子はどうなんだろうか。
ゴウジさん、あの子をみたとき驚いてた。
たしかちょっと前見たときは、フツーにコナかけてなかったっけ?幼なじみみたいなものって聞いたけどな。俺のだ予約済み、って。
そんなやべー女がバックについてるならヤベぇ、ってことか。
あの、小さい子も。
前回みたときはおどおどしてんなぁ、ほんとに高校生かよ飯ちゃんと食ってんのか、くらいしか思わなかったけど。
今日はすげぇマブくみえた。人違いか?ってくらい。
もう少しあの子のことも知りたいけど、ちょっと今は聞かねえ方がよさそうだな。
その後、みんなで入った珪華楼という安くて量が多くて旨い中華料理店で、グルグル模様のついたどんぶりから、お気に入りの麺をすすりながら。
縦男はそんなことを考えていた。