タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
微量の暴力というか胸糞描写がありますので、ご注意ください。
――雨、降ってるんだ。
こんな雨の日に家にいるのは、ヤだな。
日蔭谷から帰り、泥のように眠って疲労を癒し、迎えた朝。
雨風の音に目覚めた
まだ夜明け前みたいに、どんより曇って暗い空。
屋根の上には、風の音。屋根の間からみえる空の雲の流れも、早い。
隣家に面する、あまり大きく開かない窓を開ける。
半身を乗り出して、さわれそうなくらい接近してる隣家との狭いすき間ごしに表通りを見やれば、黄色い雨合羽を着て犬を散歩に連れて歩いている人が一瞬見えた。
犬によほどせがまれたのかな。そう思うと、ほっこりする。
――ボクもあのワンコみたいに雨の中に飛びだしたい。
雨に濡れた花をつついて、露を落としたい。
東屋や遊具の下に雨宿りしてもいい。ブルブルって体の水気をはね飛ばしたりとか、さ。
知らない街角、わびしい裏町をさすらいたい。
とにかく、雨の日の、この陰った家にいたくないんだ。
そう、彼女は思う。ただ。
――ああ、でもさ。
しのりんにあれだけ心配されたからね。
過保護だよ、過保護。だけど。
今日はおとなしくしとこう。
感情の動きが読みにくい、無表情気味の
――まあ、顔の造作は悪くない。
ただ学校の廊下とかで見かけると、ほかのクラスメイトたちと比べて。
あまり笑わない感じで、口を結んでて、目が真剣で。
近寄りがたいっていうか。コワい感じなんだよね。
1年のときの彼のクラスメイトに彼の話を聞いたときも。
「印象ない。」が大多数だったんだけど、少数ながら「・・ちょっとあぶなそう?」「性犯罪者の目、みたいよね。ほら、脚への視線が。」とかもあった。
もっとも後の発言の子は、それを聞いて目を瞠った彼女に対し、慌てて。
落とした消しゴム拾ってくれたし、意外と親切だよ。とも言ってたけど。
内面を知るようになると、あの無表情顔の背後にも、激しい喜怒哀楽の感情があることを知った。
その感情のほとばしりの一部を、受けたりもした。
そのせいか。
それとも最近、
まあありがちな顔だけど、見てて飽きない顔だな、と好意的に評価を改めるようになった。
物語に出てくるケーキみたいな甘い美男子とはいえないけど、日々のごはんみたいなものだよ。
家にいようと決めたのは、これ以上馬鹿なことして
だから今日は近所のヒサヤ内科にちょっとだけ行って(それくらいはいいよね)、あとは家に立てこもろう。
うーん。でもヒサヤ内科のあのおじさん先生に診られるのか。小学校から知ってるお医者さんなんだけどなー。女医さんのとこって、どっかなかったっけ。
ヒサヤ内科は胃腸科だけじゃなくて肛門科もしてるから、ぴったりなんだけど。微妙だなあ。
今日はカメラ検査とかはナシで、相談っていうか話だけ聞くってことで、行くだけ行ってみようか。
あったことを全部、言うわけにもいかない。
異生命体の触手にお尻に侵入されました。ってのは、もちろん言えないし。信じてもらえないだろうし、さ。
いたずらで指とかモノを入れちゃったんです、心配です、っていう?
えー、やだ。恥ずかしいな。
あいつのせいだ。うん、しのりんのせいだ。
やっぱりボク、しのりんに物申す権利はあると思うんだ。
自分の馬鹿さ加減であんな窮地に陥ったのは、よくわかってるんだけどさ。でも。
どーん、ばりばりと遠雷の音もする。
台風が近づいてきてるって言ってたっけ。明日、学校本当にあるのかな。
うずうずする。出歩きたい!
でもがまんだ、がまん。
こうやって家に閉じこもる羽目になってるのも、しのりんのせいだ。
あー、しのりんに会いたい。無理難題、言いたい。
やっぱり今週中、できれば明日、しのりんに文句を言おう。そうしよう。
そしていろいろ、弄るんだ。捏ねるんだ。
そう、彼女は心に決めた。
―――――
国領ハルカは、2階にある自分の部屋から出て、いったん下に降り。
顔を洗って伯母さんにあいさつし、朝食をとり。
宗教(伯母さんは何かの宗教の熱心な信徒なのだ)の集まりに行くといって、パタパタとお化粧をして家を出ていく伯母さんを見送り。
部屋に戻って、午前中はおとなしく明日以降の補習の予習プリントなどに取り組むことにした。
おちゃらけた性格を演じることも多いけど、彼女の成績は優秀なのだ。
それに、あまりこの家には頼れない、頼りたくない。
――しっかり勉強して奨学金とか取って進学して、アルバイトもがんばって。
卒業したら、たくさんお金を稼がなきゃ。
伯父さん伯母さんにも、恩を返すんだ。
そう、彼女は思う。
数十分集中して取り組むと、休憩を取ることにしている。
本棚の脇に立ち。肩より少し低いくらいの段に、片足を上げる。その次に、もう一段上に上げるんだ。
上げるときには、バレエっぽく膝からすっと足先まで一直線に上げる優雅さを心掛けている。着ている服は、自分でリメイクしたデニムのショートパンツで、あまり優雅ではないが。
――うん、なかなかじゃないかな?
つぎにベッドの上に乗り、足を大きく前後開脚。
まずは、前に脚を抱え込む体勢でぺたっと膝、ももに上半身をつける。両足、交互に。
あの夜、竜神の洞窟で彼女が志野に言ったのは嘘ではない。
部活では彼女は一番体が軟らかいと自負している。毎日の努力のたまものなのだ。
彼女が本格的に体操競技を始めたのは高校に入ってからなのだが、もともと熱中するととてつもない集中力を発揮する彼女は、ぐんぐんと頭角を現し。
現在、先輩や同学年の子たちからは次期エースと目されている。
なにしろ進学校だから創作ダンス部としての部員は多いし活動も活発だが、新体操の大会など競技に出る部員は限られる。
平均台とかのいわゆる体操競技に至っては、個人エントリーで学年にひとりかふたり。
国領ハルカは、――一応、両方というか創作ダンスも含めて全部やってる。
まあ、弱小校だしマイナー競技なのでそれも許されるのだ。
ただ、今年はわりと体操も新体操も好調。人数も集まり、秋の新人戦でも団体で出場できるかも。
その原動力である国領ハルカは、競技会に出て。
体操では得意の床運動でやりたい放題にぴょんぴょんあばれまわり。相当に気を吐いた。
新体操にも、もちろん出場。
リボンをひらひら回したり、ボールを投げ上げたりしながら、体操競技の床運動のノリで元気に跳ね回る「動」のパートと、ゆっくりと繊細優美な表現を心がける「静」のパートを小気味よく織り交ぜた演技は観客の注目を浴び、高い評価を受けた。
顧問の十条先生も、彼女が頭脳的・独創的な演技で好成績をあげたことに、とても喜んでた。
――5月の総体予選では、もう少しだったんだけどな。
秋の大会では、入賞狙いたいな。うん。
とくに床は得意。平均台も好きなんだけどな、まだ場数が足りてない。最近はないけど、始めたころは踏み外して落ちたりしたこともよくあった。
鉄棒とかは、やっぱり上半身の力不足。鍛えて力はかなりついたが、体操選手にしては背も高すぎだし、体重も軽くない。
だからやっぱり新体操の方が向いてるかもしれない。先生も、絞るのならそちらに専念してもいいかも、と言っていた。彼女も、もちろん新体操は好きだ。
でも、自分で自分を自在に動かせる体操の万能感も彼女は好きなのだ。ひりつくような、あの緊張感も。
だから次の大会、許可が出ればまた体操にもエントリーさせてもらうつもりだ。
片足ずつ、じっくり味わうように抱えて伸ばし。
その後、両足を揃えての前屈を終えると。
すらっと長い両脚をベッドの上で真横に、一直線になるまで開き。
こんどは横に体を倒し、体側を伸ばす。左右。
そして脚をまた揃えて、うつぶせになり。
上体、頭を思い切りそらし、片足を後ろからもってきてかかとを抱える。
かすかににじんだ汗が、ピンクに薄く染まった頬を濡らす。
――もう少し。もう少しかな。
片足ずつなら、もちろん楽々頭につく。
でも、もう少し。
この前の大会で目撃した新体操の優勝者、両足を床に前後開脚でペタッとひろげてつけて、上体を反らして頭を腿の裏につけたりしてみせてた。すっごく優美に。
もちろん、彼女は今のボクと違う体勢で、上半身の重さを使ってそれをやってるんだけどさ。
同じ姿勢は取れるけどボクは、まだあそこまで綺麗にできないかな。
しばらく柔軟運動をして、そしてまた勉強にもどる。
また数十分。
そしてまた休憩、邪魔にならない程度に音楽をかけて、かるく柔軟性を高める体操をして。
この部屋を改造するときに伯父さんに頼み込んで大工さんに付けてもらった、体操競技で使うのとだいたい同じ太さの鉄のバー。
それにぶら下がる。
狭いスキマ空間につけてあるし、下にはベッドがあってマットレスがあるけど落下対策としては完全ではない。
だから本格的なグルグル(大車輪とか)はもちろんしないし、できないけれど。
だけど、軽く鉄棒に慣れるようなことをするようにして。すごく疲れてる時を除いて、毎日一定時間はぶら下がるよう、心がけてる。
新体操という競技は、選手の手足が長いほうが映える。
幸いにして国領ハルカは手足もすらりと長く、頭も小さい。この身長にしては。
もう少し伸びたら、新体操だけに絞ろうかな。
ただ十条先生は、どちらも楽しんでやればいい、って言ってたっけ。
しばらく懸垂したりぷらっとぶら下がったり逆上りしたりつばめの姿勢で休んだりしてから、ぽとんと下のベッドに下りて。
力をすべて抜いて、伏せて横たわる。
またあの竜神の洞窟での、
――うわあ。
今となっては、ちくちくとくすぐったい。
まくらに押し付けた顔に、血が上る。
もしかしてボク、さ。
なんだか物語の中の登場人物みたいに、すごい自意識過剰な、気取った言動してなかったかな。
自分がまるで佳人薄命な絶世の美女、悲劇のヒロイン気取りで。
反芻してみると、なんか言ったりしたりした気がする!
しのりん、「こいつイタいなー」なんて思ってないだろうね?
やっぱりハンマーで、しのりんの後頭部を強打しなきゃ。
言動だけじゃなくて、外見とかもいろいろ心配だ。
そんな言動したときとか、アレのときのボク、顔に変なヨゴレとかついてなかったかな?鼻の下にヒゲついてたり、さ。
しのりん、ボクの顔を拭いてくれたよね?
致す前も、気になって自分で拭いたけどさ。
そう、人生で最初で最後のセ○クス、って思ってたあのとき。
ちゃんときれいに、この体を見せられたかな。
そしてしのりんは、本当にきれいだって思ってくれたのかな。
すごくきれいだ、すごく気持ちよかった、なんて口では言ってたけどさ。
社交辞令って可能性、あるよね?
うわあビミョーだなあ、って思ってたりとか、さ。恥ずかしさで死ねるよ。
――でももし、本当にきれいだって思ってくれてたら。だとしたら。
気になること、モニョることはいっぱいあるんだけどさ。
なんだか、彼のこと。
そして彼との一夜のことを考えると、じわあっと幸福感とも焦燥感ともつかない温かい何かが、お腹のなかに生まれる。
むー!
しのりんもボクのこと、ボクがしのりんのこと考えるみたいに、考えてくれてるのかな?
しのりん的には。
ボクをあんなふうに、つよい腕で無理やり抱き寄せて捕まえて、誰にも見せたことないボクのあられもない姿を見て。
ボクの体をあんなに激しく突きさして、こね回しといて。
こんなに、気を狂わせるくらいに変な、ねじねじとねじ曲がった快感にボクを漬けこんでおいて。
まさか、さ。
あー、気持ちよかった。助かってよかったね。で終わりじゃないよね!?
すごい、その、もしかして普通の女の人は一生味わうこともないような、頭がぐるぐるして破裂しそうなえっちで変態的なこと、しといてさ。
命を救うためにやったんだからセフセフ、とかさ。
そんなの、ナシだよね?
でも今日は、まだ電話ひとつもない。
あの行為については、裁判ではキミは無罪になったけど。
ヤリ逃げなんて、ゆるさないよ?
さとみんはセ○クスじゃないって言ってたけど、でもあれはセ○クスだったんだよ。うん。
うーん。でも、どうしていいか、自分がどうしたいのか、すぐにはわからないな。
なんだかしのりんにいろいろ絡みたいけど。
2人きりで話したりあれこれしたりするのは、みなりんたちとの友情を裏切ることにならないよね?
いや、なんかなりそうな気もしてきた。
女の子的には、好きになった先着順、後から来た子は泥棒猫って感じだよね。
やっぱりみなりんたちには、こっそり相談っていうか、根回ししたほうがいいのかな。
ボク的には、もてあそばれた落とし前つけたいだけだ、とか言って。
さとみんには、ちょっと詰められそうで怖い。さとみん、頭良いし強いし。
みなりんに相談しようかな?
でもさ、最近本当に恐ろしいと思わされたのは、みなりんの気もする。
ときどき、下手をするとさとみんより恐ろしい、壮大な
小さくてかわいくて、控えめで優しい、あのみなりんが。
あんなコワい雰囲気出すようになったのは、いつからだろう。
ボクが1年生の春、みなりんにはじめて出会ったときは。
素朴で、まだ小学生みたいで、ほわほわしてた。
いやもちろん、今もそうだけど。
1年生のころのみなりんは、かわいかったけれど。
貶めるつもりはないけど、そんなすっごく飛びぬけて目立つ美少女なんかじゃ、決してなかった。
ボクの方がたぶん目立つんだろうなー、って思ってた。
いや、自分で自分を美少女なんて呼ぶつもりはないよ?
でも自惚れでなく、多分客観的にもまあ、見た目が派手でパッと見でアピールしやすいのはボクの方かな、と思ってた。
2年生にあがって、――やっぱり、しのりんとつきあいはじめたって、聞いたあたりからだな。
すごく、きれいになっていくみなりん。
少し顔色悪いなと以前は思ってた頬は、透き通るように白く柔らかに。
栗色の目。かすかに潤んでいるような、涙ぐんでいるようにも見えるその目に、手に入らない何かに焦がれる、ひたむきな憧憬が浮かび。
お手入れ不足でぱさぱさしてた少し色の薄い髪には、いつのまにかつややかな光の照り返しの環が浮かぶようになり。
大平原仲間と思ってた胸には、いつのまにか小さいけど確かな果実が。おどおどしてた背がすっきり伸ばされたのも手伝って、盛り上がりがそれとわかるくらいにブラウスを押し上げてる。
気のせいか、腰つきにも色気を感じるんだ。
簡単に言えば、――造作は変わってないんだけど、もう別人かってくらい、美少女っぽいオーラが漂うように。
これはボクの思いすごしなんかじゃない。
クラスの女子があの子すごく変わったね、って噂してるし。
根取君とか暇な男子たちが見に行って「マジ抜ける」とか言ってたな。なんか汚らわしそうだし、言ってた奴らがあまり好きじゃなかったから聞かなかったけど。
ふよふよした幼虫が、さなぎを経て蝶に羽化したような、変化。
そして、その変化に比例して、ときどき感じるようになったみなりんの謎の
たぶん、しのりんに出会って恋をした、ってことだよね。みんなはそう考えて、少なくとも女子たちはほほえましく見守ってる。公式には、ね。
本当の理由は、近いけどちょっと違う。
みなりんは、開通してる。――うん、お尻も含めて、全線開通してるんだよね?
この大変化、それと関係あるんじゃないかな?
あの、少し前のみなりんの春の桜のようなほんわりした暖色の雰囲気。今でもいつもはそうだよ、しのりんと一緒にいるときなんか、うっすらピンクのオーラが見える気すらする。
でも時々、ひとりでいる時、窓から外をみてる時とかの寂しそうな横顔。そんなときに感じる、かすかな薄い青紫色の悲運の影。
みなりんの変化は、もしかすると。
彼に犯され、無理やり開花させられたからではないか?と思ってる。
女子はもちろん気付いて、一時は指摘する声もあったけど不自然に早く立ち消えた。
そこに垣間見える、さとみんの影。――
なんとなく寒気を感じた彼女は、自分で自分の肩を抱くようにしようとして、――
ドアの開く音に。はっと、身をこわばらせた。
「今何してるんだ。何だらけてんだよ、いい身分だなお前。」
「あ、
彼女とは折り合いのよくない従兄、茂良男が鼻を鳴らしながら彼女の自室のドアを開け、立ってる。
音楽と物思いへの没入のせいで、彼が玄関ドアを開けて入ってきた音や階段を上がってくる音、聞き逃したかも。
しまった。
それとなく、逃げやすいように体を起こす。
「あ?聞いてるのはこっちだろ?バカかお前。」
茂良男はじろじろとショートデニムから露出した彼女の白い脚を見ながら。
勝手に部屋に入って彼女の学習机の椅子に座った。
すぐ身体的に加害してきそうな気配はないかな、と彼女は少しほっとした。
それが油断だったのかもしれない。
「で、答えは?ただ飯食っときながら、何してるんだ。」
「さっきまで、勉強してたよ。」
「あ?『今は』って聞いたろ?
それでよ。この家の金で、お前食わせてるよな?
つまりはオレの金、使ってるんだよな?」
「・・・」
違うよ、伯父さんたちの財産だ。まだ茂良男兄さんのものじゃないよ。
そして伯父さん伯母さんはボクがいてもいいって、言ってくれたんだよ。
そう言いたいが、飲み込む。言うと、ものすごい勢いで怒り狂う。
伯父さん伯母さんがいない今は、得策でない。
「返すのが、スジだよな。」
ほら、なんとか言えよ。
オレ、間違ったこと言ってるか?
オレの受けてる損害、償えよ。
やること、やれること、たくさんあるだろう?
金が今、ないってんなら。
ヤらせなくてもいい。手や口で抜けば良いんだ。手なら1発500円、口なら1000円、脱いでやるならその2倍。
それとも、写真とらせるか?
あの水着みたいな服とかでいい。今度、アイドル好きの写真オタク連れてくる。1枚100円な。全部アリなら、1000円で。
そう、茂良男は畳みかけてくる。
ことほど左様に都合のよい勝手な理屈で。
「ごめん、
そう、彼女は言うのだが。
できない?できないんじゃない、やらないんだろうがっ!
何ができないんだ!おらぁっ!
ほら、簡単なところからやってみればいいだろ。
まず、脱いでみろ。おう、ここで。
風呂に入るときは、普通に脱ぐだろう?
そう、嵩に懸かって要求してくる。
しまった。
いつもなら軽薄な言動で躱せてたのに。
調子が狂っちゃってたかな。
いや違う。今日は、今までに増して圧が強い。
なんか大学でイヤなことがあったのかな。
ともかく、ここは空気を変えて、――
しかし。
ベッドに腰かけていた彼女は、いつの間にか椅子から立ち上がった茂良男に、押し倒され。
上に馬乗りにのしかかられてしまった。
「
「あ?その口で言えた義理かよ?」
視野がぶれる。頬への衝撃。
「あいっかわらず、まな板なんな。」
わずかしかない胸をまさぐられ。先端を、強く抓まれ、ねじられて。
その痛みに、んんっ、と口から声が洩れてしまった。
「痛いよ、兄さん、――」
「だからなんだ。人はみんな苦労して稼いでるんだっ!」
上に着たシャツの裾から、手が侵入してきた。
頭がパニックで、体をねじって逃げようとした。意外にもうつ伏せにさせてくれた。
でも、かえって悪くなったかもしれない。だって。
「ほら、答え聞かせろよ。
抜くか、写されるか、バイトで稼いでくるか。
ノルマ、とりあえずは月9万な?」
一泊3000円。超良心的だろ?
そう、茂良男は言いつのりながら、彼女の首に手を回してきた。
いわゆる、キャメルクラッチと呼ばれるプロレス技だ。
「お?柔らかいのな。」
ぐいっと曲げられ。上からのぞきこむ茂良男の目と目が合う。
茂良男の目に、喜悦が走ったのがわかった。
「じゃあ、これは、――」
あごの手が離され。
ほっとする間などなく、茂良男が彼女の足側に体を向け。
彼女は、脚が抱え込まれ、背中側に捻じ曲げられるのを感じた。
「逆エビ固めな。ほらほら、どうよ?」
彼女の体は、柔軟だ。後ろにそらせて、足を頭につくくらい曲げることは十分に可能だ。
でも、腿のあたりまで抱え込まれ、痩せ気味とはいえ成人男性の体重をかけて背後に捩じられ。
そして、柔らかいとはいえベッドにその体重ごと胸が押し付けられ、息が押し出され、止まった。
窒息の苦しみに、彼女は体を絶望的にねじろうとするが、茂良男の体は揺るぎもせず、――。
いや、揺らいだ。重圧が緩んだ。
一瞬、
荒い息をつきながら、彼女は耳に、そのときの彼女の救世主。電話の子機の呼び出し音を聞いた。
「ちっ」
鳴り響く電話のベルに感興が削がれたのか。
茂良男は、彼女の脚を解放し、最後に彼女の細い背中を乱暴に踏みつけ、勢いをつけてベッドから飛び降り。
「じゃな。月末、きゅうまんえん、よろしくぅ!」
そう憎々しげに捨て台詞を残して、どたどたと階段を降りて行く。
電話はしばらく鳴って、そして止まり。
またもう一度鳴り出す。
鳴りやまないでよ。
鳴りやんだら、あいつがまた来るかもしれない。
そんな全く条理のない想念を覚えるが。
彼女は、のろのろと体を起こして、電話の子機を手に取った。
雨は、少し小やみになっていた。