タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
(追記)
いろいろ年代的に変なところを修整しました。カードキ○プターとか。
164 月の裏側(1)(三人称)
中河原桜は、この白百合のように美しい従姉のことが好きだ。敬愛している。
桜は引っ込み思案で、幼いころから人付き合いは不得意だった。
まわりの子どもたち、ときには大人たちは桜のなにげない言動を咎めて、怒り、暴力を振るう。
保育園、学校や公園は、桜にとって野獣に満ちたジャングルに思えていた。
誰も理解できない、誰からも理解されない、と思っていた。
ところが。
この従姉と出会って、桜を取り巻く世界は変わり始めた。
いや、正確には桜が変わり始めたのだろう。
この従姉は、彼女とわずか一歳しか違わないのに、殺伐とした世界から彼女を守ってくれる英雄であるとともに。
ちょっと人とは違ってる自分の弱いところを、(完全ではないとしても)理解して共感してくれる、そして世界との折り合い方を一緒に考えてくれる、得難い親友であり
そう、たとえば。
親戚や近所の悪ガキどものちょっかいから、桜を守ってくれたり、対策を一緒に考えたり。
ほかの子には簡単でも桜にはすごく難しかった九九を、面白いゲームにしてマスターさせてくれたり。
親にみつかると怒られる、ちょっと大人でどきどきする少女漫画をこっそり借りてきて、部屋で一緒に読んでくれたり。
時々ではあっても、この従姉はいろいろな形で桜にかかわり、この不可解な世界の水先案内人になってくれた。
そしてこの世界も捨てたものではない、と発見させてくれた。
彼女が周囲にド変人と思われつつも、なんとか社会に適合して生きていけているのは、ひとえにこの聖女のように美しい従姉のみちびきのおかげかもしれない、と本気で彼女は思っている。
この美少女、成績も優秀だし運動もかなりできる。
でも他方で、結構人間味あふれる弱点もある。
少なくとも、外見から皆が想像するような完璧美少女ではない、と桜だけは知っている。
いまだに夜、ひとりでトイレに行くのが怖くて、ぬいぐるみをひしと抱えていくことも。
少女向けアニメ番組が好きで、「美少女騎士セ○ラーナイト」に特に熱中していたことも(ちなみにこっそり、あのキラキラの変身シーンをふたりで練習してたことがあるし、いまだにお部屋にはグッズがある)。
怖がりで一人では行けないのにお化け屋敷とかが好きで、遊園地では桜や和兄(美鷹の兄、和鷹)に同行をせがんで、ホラーハウス系のアトラクションに行くのをたのしみにしてることも。
歳の離れた兄、和鷹(かずたか)のことが大好きなブラコン少女であることも。
(ちなみにこの兄の方には全くシスコンの気はなく、兄が帰省した折などに、この誰もが認める超絶美少女の妹ががんばって気を惹こうとしても、小うるさくて生意気だけどかわいい妹だなぁ、くらいにしか思っていないことを桜は知っていた。)
ただ本人はなかなかの努力家で、外面は完璧に仕上げている。内面をみせるのは家族とごく親しい友人だけ。
まさに優雅な水鳥の水面下での水かきの故事を、地でいっているのだ。
幼い頃は、この従姉に助けられるばかりだったけど。
長じてくると自分の特殊な能力で、この美しい従姉を助ける機会が出てきて、ひそかに桜は喜びを覚えている。
従姉は桜が助けてくれたことについて、すごく感謝している。
でも実は桜の働きのうち、とくに重大ないくつかには、気づいていない。
桜が、あえて隠して誰にも言わなかったからだ。
だから、美鷹はいまだに桜に対して保護者的なロールを取っている。
末っ子なのもあって、お姉さんぶりたいのだ。
でも桜が、人間関係はいまだに不得意、ズボラで面倒くさがりなのはまぎれもなく事実なので。
一緒にいるときは、ありがたくこの従姉にお姉さんロールをゆだねて対人折衝とかタイムマネジメントとかを任せ、自分はサボって手を抜いて甘えていた。
共存共栄だ、と桜は考えている。
それはさておき。
受験生でもある美鷹に合わせて、明日以降の準備や勉強をやったりした後、ふたりはしばらく無言で美鷹の少女漫画コレクションを読みふけり。
その後、美鷹でも失敗しない炊き込みご飯と焼き魚と味噌汁を作って食べ、さっき読んだ本の感想を論じ合い。
一緒にきゃあきゃあ言いながらお風呂に入り(美鷹はこわがりなので、家に一人ではお風呂に入れないのだ)。
就寝まであと約一時間くらい、というところで。
「ねえ、ものは相談だけど。
お父さんの書斎、『探偵』しに行こうよ。」
そう、美鷹が言い出す。
ちょっと子供っぽいかもしれないが、こういうお泊り会が、ふたりは幼いときから大好きだった。
ちょっと豪華な夕ご飯、庭でやる花火、お風呂での洗いっこ、顔つけ競争、みんなでやるトランプやオセロ大会、美鷹の部屋で大人たちに隠れての宝物の披露、顔を寄せ合ってのマンガ読書や感想交換、廊下での卓球テニス、などなど、楽しいことがいっぱいだったから。
とくに美鷹の広い家でのお泊り会のときは、暗い部屋をお化け屋敷に見立てて探検したりしたりした。
小学生や中学生のころよくやってた遊びだが、高校になった今も、ときどきしたりする。
ところが最近、ちょっと美鷹の関心の方向性は変わってきていて。
「探検」でなく「探偵」だと称して、親が不在時に、そのプライバシーをあばいてよろこんでたりする。
美鷹の両親の若い頃のアルバムを発掘して、あつあつのツーショットをみつけたりとか。
高校生時代と思われる美鷹の父親が、母親とは違う女の子と写ってる写真をみつけたりとか(これは少し修羅場になりかけたけど、結局ベッドルームで両親ふたりきりで2時間くらいお話合いをして無事終わったらしい。母親がツヤツヤしてたとか)。
もちろんバレてこってり怒られるのは美鷹だ。あとから電話で美鷹の母から、変なことにつきあわせてごめんね、と桜が謝られるまでが一セット。
だから桜は、美鷹(とその父の尊厳)のことを思って。
お化け屋敷めぐりの「探検」ならいいけど「探偵」はやめようよ、と言い、美鷹にブレーキをかけようとするが。
美鷹は、父の書斎に「探偵」しに行く必要があるのだと主張するのが常だった。
変人の桜にすら、たとえ家族であろうと、勝手に部屋に入ったり、ましてや持ち物を漁ったりするのが良くないことくらいわかる。
もちろん美鷹にもわかってるはずだ。
でも、何かの直感でやらねばならないと感じたのだ、と美鷹は前回も言っていた。
今回は?
「あの本家のおじいさま。ご隠居さまね。
何か、あの人のことで大変なことが起きようとしてる。」
「え?ご隠居さま、って――」
桜も、受験で多賀島に帰って来ることになった年の正月に、母に連れられて、一族のコンツェルンの元総帥の老人に、新年のあいさつをした。
ぶっちゃけそのときは、耄碌した老人にしか思えなかった。
桜たちのことをそれと認識していたかどうかも、わからないほどの。
「あるいは、もう起きてしまっているかも?」
私は今年のお正月も、ご挨拶したけれど。
去年のお正月のときとは、まるで別人みたいだったの。
アーモンド型の美しい目をわざとらしく瞠ってみせて、意味深に美鷹がささやく。
距離が近い。同性なのにドキドキしてしまうほどの美貌。漂う甘い香りに、桜は一瞬眩惑されそうになった。
これで落ちない男の子なんて、いないだろうな。
なのになんで私みたいなクラスカースト最底辺の地味女と一緒にいてくれるんだろう。
従姉妹だからだよね。そうじゃなきゃ、話もできないかも。
そう思いながらも。
「それは、遺産狙いの替え玉、とか?」
聞き返してみる。
「わからないの。
なんでみんながわからないのかが、わからない。」
――あの人、ご隠居さまは。
もう半分、人間をやめてる気がする。
去年のお正月は、軽い違和感があったけど、それだけ。
しいていえば、
今年のお正月は、なんかすごく変だと思った。
すごく、不自然に元気になっていたの。
でも、まだ変な臭いはしなかった。してたかもしれないけど、気づかなかった。
先週だったかな。お父さんが急用で車載電話で呼ばれたの。
たまたま私も車に乗ってたから、しかたなく一緒に行った。
仕事の話だから、っていわれて、隣室で話が終わるのを待ってた。
私は挨拶もしないで、ちらっと扉越しにご隠居さまを一瞬見ただけだった。でも、わかった。
別人かと思えるくらいに、すごく若返ってみえた。
肩とか腕に、筋肉が乗ってて。
でも、血の臭いがしたの。隣の部屋で待ってたあいだもずっと、臭うほどの。
すごい血の臭い。なまぐさい、臭いが。
そして肉の焼ける、あるいは煮えるような臭い。
そして。
ご隠居さまもたぶん、あの一瞬、私をみたはず。
私が気づいたことに、気づいたかもしれない。
そう、美鷹がささやく。
ホラードラマの見過ぎだよ、と桜は言おうとして。
美鷹がかすかに震えてるのに、気づいた。
台風の悪天候で気温は低めだ。でも白皙の額には、微かに汗が浮いていた。
大風が吹きつけたのだろう、がらがらがら、と雨戸がゆれる音。
美鷹は、一瞬だけ目を伏せてから。
ちょっと上目づかいに桜を見て、どこか諦めたような、自嘲するような笑みを浮かべ。
――
そう、ポツリとこぼした。
美鷹は、自分で自分が変なことを言っていると自覚してる。それでも、桜には話してくれた。
そして今は、きっと桜が信じてくれないと思ってる。たしかに、にわかには信じがたい話だ。
でも彼女が、美鷹が感じてる恐怖は本物だ。
そう、桜は直感した。
「わかった、みーちゃん。
なにも見つからないかもしれないけど。
でも、調べてみようよ。」
美鷹は、受験のプレッシャーとかでちょっと精神が不安定なのかもしれない。
いくらなんでも信じがたい話ではある。でも。
精神衰弱状態の美鷹のことばに振り回されることになっても、それはそれでいい。
小さいころから、私のほうがよほど振り回してきたし。
一時間くらい、探しものに付き合うだけだ。そのくらい、どうってことない。
美鷹には、思いもかけない返事だったみたいで。
目をぱちばちさせたあと、ありがとう、と。
憔悴が浮かぶ美しい顔に、すごくうれしそうな、あの人を魅了する笑みを浮かべてくれた。
いいよいいよ、と返しながら。
なんだか桜は、
――――――
桜には、ちょっとした特殊能力がある。
そう、人知れず美鷹を救ったことがある能力だ。
この桜の能力自体は、美鷹も知っている。
「さっちゃん、わかる?」
「うん、わかる。たくさんあるけど、」
美鷹のパパの書斎。前みたのは、2、3週間くらい前だっただろうか。ちょっと間が開いちゃっててノイズが多いかな。
灯籠流しのときだったかな、かるくこの家に立寄ったっけ。あのときはあまりしっかり見てなかったかも。あのときも敬語使ってむくれられたんだ―――。
「そのファイル。机の上の棚の、その赤いやつ。あと、右のクリアファイル。
引き出しはわからない、前回見てないから。見るなら全部見なきゃ。えーと、」
目を転じる。
「そのボード、左上の四角の中はほとんど全部。右下、赤のブロックメモ。」
家に仕事を持ち帰らない主義なのか、思ったより変わってない。だけどやっぱり多少は仕事を持ち帰ってる。
美鷹の言うように、帰宅中に呼びだされたならこれらの中に手がかりがあってもおかしくない。
さらに。
「その本棚の、これとこれとこれ、あとこれ。」
本を抜き出す。
これらは期待薄。単に読んだだけかもしれない。
「そして、その書類鞄は中身が少し変わってる。あとそこに吊るしてあるスーツ、内ポケットになんかある。――とりあえず、気になるのはそのくらいかな。」
「さっちゃん、すごい!」
「えへへ、でも空振りだよ、たぶん。」
桜の特殊能力。それは、「不完全な超記憶」というべき能力だ。
超記憶とか、完全記憶とか呼ばれたりする能力があるらしい。
「世界びっくり人間」みたいな本で、彼女は読んだことがある。
超記憶の持ち主は、生まれてから今までのすべての記憶を持っていたりするらしい。
彼女は、その不完全なバージョンを持っている。「不完全」というのは、本で読んだ、人生の一番最初からの記憶を保持している人の「超記憶」ほどは強力ではないからだ。
でも、相当のことができる。――そしてむしろ、より強力で使いやすい機能もある。
たとえば、部屋をちらっと見る。そして、数日後、またおなじようにちらっと見る。
そして「その気」になると、それだけで、まるではっきり色がついているように、その数日間に変わった点が分かるのだ。精神のモードを切り替えれば、部屋の匂い、明かりのぐあいのわずかな違いも。
「その気になれば」、絨毯の毛羽立ちや埃やゴミの場所の違いまで分かる。だから不在中に他人が部屋に入ったかどうかすらも、分かる。
いつもは「その気」にならない。違ってるところがびんびん目について疲れてしまうし、実はそれなりに精神力を消費する。
だからいつもは、ほとんど「違いを気にしない」モードか、「ちょっとだけ気にする」モードにしてある。前の方だと全然不注意で何も気づかない人レベル、後の方は一般人と同レベル。
「その気」になれば、後からでも記憶の違いをチェックして異常を発見できる。
ごくごく時たまだがこの能力、自動的に発動することもある。
そう、生命に危機が迫ったときとか。
今回は、美鷹の依頼に応じ、この能力を使って。
あの日に美鷹の父がわざわざ呼ばれた理由、そしてご隠居さまが変わった理由を探すことにした。
――――――
「難しい書類ばっかりだね。これなんか全然。」
美鷹がまず書類を見て、顔をしかめている。
桜も頭を突き出して、二人で書類とかを眺める。
鷹の爪商会への谷津崎HDとの株式交換の提案への対応、っていう書類。よくわからないけど、たぶんみーちゃんが欲しい情報とは違う気がする。
もともとは、吉祥グループ――美鷹の父もその本社に勤めている――は、ヤツザキグループの一部だった。ただ、今では吉祥グループはヤツザキグループから独立している。
ただ、どちらにも一族の人間が入ってるという意味では関連企業だし、提携関係も多少残っている。
吉祥グループは先代当主の下の妹の嫁いだ吉祥寺家が中心で、谷津崎からみて分家筋の企業グループであり、規模も小さめだ。
株式交換というのが良くわからない。株を交換して何かするらしい。企業グループの統合を図る、という趣旨のように思えるが、どういうことなのだろうか。
谷津崎奨学財団と吉祥奨学財団の寮の相互利用協定書?これはほぼ確実に関係なさそう。
吉祥美術館の整備計画か。これも多分違う。
あ、ただ計画写真と図面は、ぱっと見て覚えておこうかな。美術館は興味ある。
バアリア地方での海水淡水化プラント輸出推進に伴う人員配置計画案、という書面。人事関係の書類だと思う。これは絶対関係ないだろう。
メガフロートの輸出計画。これ、違うだろうけど面白そうだな。洋上基地か。
たしか吉祥グループはエネルギー開発とか洋上運送とかやってたかな。だからそれ関係の書類みたいだ。ただ、
吉祥奨学財団関係の書類。第○期奨学生募集のお知らせ、有利子奨学金の繰上げ返済について、奨学生OBの地区同窓会のお知らせ。どれも案で、赤字が入っている。
私も奨学金欲しいな。ちょっと見ておこう、と桜は思う。
書類をだいたいざっとみた。だが、ご隠居さま関係の仕事はなさそうに思える。一週間前なら、たとえ手掛かりがあっても職場に持って行ってるだろうか。
他のものに、当たってみるか。
ボードに貼ってあったメモをみる。
左上にまとめてある付箋には人名と電話番号、一言何か書いてあるが、ほとんど用件の詳細はわからない。ひとつは歯医者さんの予約かな。
右下にあるブロックメモは、かろうじてわかる気がするが。
「側用人って何かな。」
ブロックメモに、「95S、シドウ、Y本社依頼、れんらくまど口のみ担当?じむ側用人セバオサム」とある。
側用人って、江戸時代のお殿様のお付きの役職じゃなかったっけ。なにか指導するよう依頼があったということだろうか。ハテナマークからすると、お父さんにもあまり要領を得なかった話だったように思える。
「こっちの寮の連絡の話でも『セバさん』って出てくるね。」
まだ書類を丹念に見ていた
さっきの寮の相互利用協定書のファイルに紛れて、特別奨学生に部屋の割り当てが必要、というファクシミリ連絡票があったらしい。その紙の左肩にバッテンが付けてあって、「れんらくずみ、特別奨学生、女中分は本邸。以後はセバ氏」と手書きの書き込みがある。
想像すると。
この「側用人」のセバさんというのは、おそらく、ご隠居さまのお付きの人だ。
その人が、奨学金関係の事務をしている?
まあ、奨学財団の事務管理なんて、どこの会社でもあまり担当したい人はいないだろう。
名目上は偉い人が財を投げうって設立するものだから、その偉い人のお付きの人にやらせてる、ってことかもしれない。お付きなんて、あまり仕事もなさそうだし。
ただ、どれも
本棚の読んだ形跡のある本のページをぱらぱらしてみるが、何も書類は挟まれていないので、いったん本棚に戻した。
西欧の伝説集みたいな本と、分子生物学の本には、いくつかの付箋。あまり脈絡はなさそうに思える。付箋はサン・ジェルマン伯爵という伝説上の人物の記事と稚拙な人物画に付けてある。分子生物学の本はテロメアがどうこう、という記述がちらっと見えた。
あと、スーツの内ポケットからは、おそらく接待か何かに使ったらしいどこかのバーのマッチとポケットティッシュが出てきただけだった。書類鞄からは、おそらくは妻(美鷹の母)への贈り物と思われる瀟洒な包み紙の小箱が出てきた。たしか誕生日が近かったかな、と桜は思い出す。
「あー、あんまりなかったね。」
パパって窓際上級管理職だからさ、たいした情報ないねー、とすこし気が抜けたように美鷹が笑い。
桜もちょっと笑った。
なんだか、少し気が楽になったふたりは。
桜の監修のもと、よく注意して書類をすべて寸分違わぬようにもとに戻して、書斎を出た。
「ねえ、さっちゃん。ありがとう。」
廊下を先に立って歩きながら、美鷹が桜に言う。
「大丈夫だよ、気にしない気にしない。」
無駄足というか時間を取らせたことへの謝罪と感謝だろう、と思って、桜は答える。
「あ、このこともそうなんだけど。」
美鷹は、ちらっと振り返ってちょっと困ったように笑った。
「私、変だ、って思った?
そうかもしれない。自分でも、自分が信じきれないよ。
自分が、おかしいのかな、って。」
また、ごおっと強風が吹きすぎ、雨戸が揺れた。
きし、きし、と。
かすかに家鳴りがした、気がした。
「最近、なんか落ち着かなくて。
じっと何か、怖いものに見られてるみたいな。
そんな感じがしてて。」
壁にずらっと並んだ棚に並べられた本や、変わった民芸品などに目を奪われていた桜は、思わず美鷹の方に注意を向けた。
その無言の勢いを、感じたのか。
「でも今は、何も感じないよ?
さっちゃんがいてくれるからだと思う。」
私、軽いノイローゼかなにかなのかもね、やだな。と。
そう美鷹が付け加えて、また肩ごしに振り返り、笑みを見せた。
「あ、そうなんだ。」
そうだったらいいね、と口でなかば上の空で答えながら。
桜は、心中、警戒度を最高度に引き上げた。
ねえ久しぶりに、ベッドで怪談しようよ、と無邪気に誘ってくる美鷹の声を聞き流しながら。
桜は、この美しい従姉を守るために。
従姉の言動を記憶から呼び出し、反芻し直しはじめていた。