タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
この話を含め2〜3回、人体破壊(切断)等のグロ、胸糞展開、不適切な描写等が続くかもしれません(該当する場合、題名に「★」マーク表示)のでご注意ください。
グロ話(「★」)の終わった次の話の前書きにあらすじをつけ、グロ部分は読まずに飛ばしても流れはわかるようにしておく予定ですので、苦手な方は★はスキップ推奨です(ただ、単に不快で不適切なだけで、すごくグロいわけではないと思いますが)。
夢を見ていた。悪夢のたぐいだ。
熱に浮かされた脳が作り出した幻でしかない。
(しかし、後で僕はそれらの一部が、将来起きうることだと判断した。)
虫の視点。
夢の中で、僕はまるで宙を飛ぶ虫のように、どこかの空中から、眼下に繰り広げられる惨劇をみていた。
虫に憑依していたとでも、いうのだろうか。
本当の虫なら、複眼でものを見ているはずだし、人間の感覚に置き換えられるような映像ではないはずだ。
だがご都合主義的に、夢の中では僕は人間のようにものを見、虫のように気ままに空中を飛び回っていた。
ときどき意識が戻った間に、枕元の洗面器にゲロを吐きながらみた夢。
そのいくつかを思い出してみよう。
食事中は思い出したくない、思い出さないほうがいい夢だ。
いや、それ以外のときも思い出さない方がいい。必要がなけりゃ。
正直、諸兄も気持ち悪くなりたくない場合は。
ちょっと目を閉じて時間がすぎるのを待つのが吉なのかもしれない。
(※以降、グロ描写が含まれます。ご注意ください。)
――――――
いくつかの悪夢。
一つめは、これだ。
目の前で、女の腕が斬りおとされている。
のこぎりで、ズィコ、ズィコ、ズィコと。
女は展翅台みたいな台の上にうつ伏せに手足をひろげた姿勢で、四肢を両手足首、その付け根とその中間の関節付近で黒い革ベルトできつく固定されている。
健康的に日焼けした褐色の肌、豊かな胸と腰。
背中も綺麗に日焼けしているが、下半身の水着の当たってたと思しき箇所はやや白い。
筋肉のよくついた伸びやかな四肢は、調布に似てる。
でもややウェーブの強いブルネットは、日本人ではないかもしれない。ハーフのモデルさんみたいな感じ。
ときおり頭が動く。痛みを受け、拘束に抗って筋肉が浮く。
残酷なことに、意識があるのだ。
声は聞こえない。
僕が憑依した虫が動き、口元の近くに視点がフォーカスすると、口元に何かの轡のような器具が挿し込まれ、後頭部に続く革バンドで固定されているのが見えた。目は栗色。
血止めだろう、斬られている女の腕は付け根できつく縛られている。それでも血は滲み出し、滴り、処刑人の革の前掛けを濡らす。
処刑人は逞しい腕に力こぶを浮かせながら、急がず、いやむしろひと挽きひと挽きを楽しむように、一定のリズムでのこぎりを引いて斬っている。
おそらく、今は骨を削ってる。苦痛で女がのけぞるように首を上げ、ぶるぶる震えてる。
ときどき、刃が鈍くなったからだろうか。
処刑人は手を休めてのこぎりの刃を切断面から離して手に取り、布で脂を拭う。
その間、介助役の小男が、焼いた鉄の鏝みたいなのをすかさず胴体側の傷口に当てる。
じゅうっ、と音がして煙が上がる。女の体が痙攣するように動く。
やがて切り取り終わった腕を、処刑人が高く掲げて見せる。観客から、まばらな称賛の拍手。
そう、観客がいる。
皆、目元(人によっては口元まで)を隠すマスクをつけていて、容貌は判然としない。
展翅台で処刑人が女を削り苛んでいるのは、舞台の上だ。
舞台はすり鉢状になった部屋の底にある。かなり広い。
舞台を囲む3面が客席で、背後の1面は客席が設けられていない。
いわゆる、「
客席はややうす暗い(完全に見えないというわけではない)。升席みたいな感じに仕切られてる。
不透明なガラスみたいなので客席間仕切ってあり、ステージからみて奥側に座っていれば横からは見えにくい。
人数はよくわからない。僕の憑依している虫(そう仮定しよう)は、あまり客席側に関心がないようだ。
どうも、この切り離された腕や血に関心がある模様。
早くタマゴを産み付けなければ、と考えているのかもしれない。
ようやく気づいたが、処刑人はあの筋肉男。
助手は小柄で真面目そうな男で、銀行員と言われても違和感がない、きちんとした服装をしている。
女はぐったりとしているが、処刑人は髪を乱暴に引き起こし、切り取った腕を目の前に示してみせている。
処刑人が髪を放すと、女は頭を落とした、そして2、3回頭を振った。現実を拒否するように。
気丈にも、まだ意識がある。麻酔をしているとは思えないから、ひどい苦痛があるはずなのに。
料理人の扮装の太った男が現れ、うやうやしく切り取られた腕を受け取る。
アナウンスが流れる。飼料は最高級オーガニックフード。多少タトゥーがあるが、万全の注意を払って取り除く。薬物は完全に抜いてあり、後ほどのディナーでお楽しみいただけます!と。
こんどは脚を切り取るのだろう。ぎりぎり、と完全に血流を止める勢いで、また脚の付け根にボンレスハムのように固く固く縄が巻かれる。
今気がついたが、女の股間、おそらく尿道にカテーテルが差し込まれ、プラスチックのバッグにつなげられている。
失禁すらも、管理されているのだ。
女の四肢を切り取る一連の流れは、ショーの演し物の一つらしい。
着飾って目元を仮面で隠している観客たちは、この惨事を興味深く見守っているようだが、すごく熱狂してるという風ではない。
「
それでもこの惨劇に興奮できるのか、仮面の奥の目を血走らせ、ボックス席の奥側で連れの女を膝に載せて挿し込んでいる男も見える。
相手の仮面を付けた女も乗り気のようだ。二人で対面座位の体勢、横向きに座って舞台を見ながら体を蠢かせている。
その男に虫が飛んで、近寄っていく。
毛深い男の腕に嵌められた腕時計。スイス製高級腕時計じゃなく、H-Shockみたいなデジタル式の時計だな。
虫は文字盤に止まる。暗がりでかすかに発光していたのが虫の関心を惹いたからだろうか。
夢の中。しかも頭の悪い虫の思考力では、文字を読み取るのに多大の労力を要した。
"Aug **th 199X
**:**:** PM"
もしこの夢が予知夢に類するものなら。
これから、残された時間はあまりない。
その後、虫は料理人にまとわりつこうとしたが、パシッと叩かれ、そこで1つ目の夢が途切れた。
熱に浮かされて頭がぼんやりしている。胃が絞られるような感覚があるが、さっき吐きつくしてもう何も出てこない。口の中に気持ち悪い苦みが広がるだけ。
天井を見上げる。微妙に天井が近くなったり遠くなったりしてる感覚。
外は暗くて、ひゅおうひゅおうと風の音が聞こえる。
父は仕事だろう。母は僕の体調不良に心配そうだったが、今は姿が見えない。
仕事に行ったのだろう。たしか近くの児童館の受付パートの仕事をしてたはずだ。
体調は、最悪だ。
僕は目を閉じる。
ぐるん、ぐるんとねじを締めるようにゆっくりと、しかし不可抗の力で回転されながら。
斜めに落ちていく感覚があった。
――――――
2つ目の夢。
場面が変わる。そしてこの夢も、奇妙な地下パーティをめぐるものだ。たぶん1つ前の夢と同じ世界線、同じ時間帯のことだと思う。
出てくる人が、問題だ。
仮面の男女が行き交う通路を歩いてる、一対の男女。
すらりとしたしなやかな体、短い明るい色の髪。
国領ハルカだ。
高いヒールの青い靴、白いシンプルなワンピースは腰をぎりぎり隠すくらいの丈。
しなやかな白い脚が、太腿の付け根近くまで、ほぼ完全にさらされている。
首に、首輪が嵌められている。
横を歩く背の低い横柄そうな太った男に、首輪をつないだ鎖が握られてる。
この場面、見たことがある。
行方不明の国領を探して空回りしてたときに、学校の開かずの間でみた夢の1シーンに似てる。多分同じ世界線だ。
国領ハルカの首につけられている、奴隷の首輪。
黒い革製で一見お洒落なのだが、内側になにか縫い込まれてる、仕込まれてる感じのふくらみがある。たぶん何かの機能があるんだろう。
外そうとすると探知されたり、爆発したり?
爆発だと主人が被害を受けるおそれがあるから、違うかな。
毒針が出る、とか高圧電流が流れる、とかかもしれない。
国領は、おどおどと鎖の一端を持つ主人の横を歩いてる。顔色が悪い。
ときどき、意味もなくぐいっと鎖を引かれたり、突然お尻を触られたりして、よろめいている。
地下のアリーナに行くらしい、ほかの似たような数組と合流。
国領と同じように女を引き連れた男もいるし、逞しい剣闘士みたいな男の奴隷を引きつれている女主人もいる。
地下パーティは、おそらくレベルごとに入れる場所が決まっているのだろう。
おそらく今歩いているのは、最も秘密の、セキュリティチェックの厳しいゾーン。
まもなく開場なのだろうがまだ会場に入れないらしく、観客がアリーナに続く通路両側に立ち並んでいる。
あの夢でみた未来が変わってなければ、たぶん未来の僕と調布も、この近くにいるはず。
ただ、僕が憑依している(?)虫は虫の勝手な関心で飛ぶだけだ。見たいものを見せてくれない。
限られた視野には、僕と調布の姿は見つからない。
ただ国領の透明な美しさは、やはり人目を引くのか。
美しい姿の奴隷を連れているが、本人自身は下卑たガマガエルみたいな男が、国領の主人に向かって、国領のことを称賛したようだ。
国領の主人はどこか残酷な笑い声をあげて、国領の鎖をぐいっと引き、ガマガエルに挨拶させる。
主人の口が動く。
国領はこわばってる顔に卑屈な笑みをうかべて、ペコペコお辞儀している。
ガマガエルが国領の胸のさき(ブラやニプレスはないらしく、ぽちが浮いて見えていた)をコロコロに太った指で摘もうとしたが、国領の主人が嫉妬ぶかくぐいっと鎖を引き、国領をよろめかせて、それを妨害した。
ガマガエル男、どこかで見たことがある。日本人だ。もう少しで思い出せそう。
ガマガエル男は、背の低いきれいな女の子を連れてる。
時間が飛ぶ。ただ、たぶんさっきの世界線の延長上だ。
ステージ上に、たぶん剣闘士たちの闘いがあったのだろうか、血みどろの人体のパーツがころがっている。
短剣を握った逞しい男の腕が、不正規な切断面を見せて転がっている。
相手は、人間ではなく猛獣かなにかだったのかもしれない。
客席では賭けがあったのか、興奮したようなささやきあいがかわされている。
札束を、鞄に詰め込もうとしている人たちもいる。
血で汚れたステージが瞬く間に清掃されていく。
その間、客席最前面とステージの間で、軽業師のような男たちが宙を舞い、踊り子たちが淫猥なダンスを見せている。
準備時間の埋め草の余興だろうが、観衆たちの反応は悪くない。もっともトイレなどに立っている人たちもいる。
清掃が終わるや否や、舞台奥ですでに組み立てられていた、巨大な金属のフレームが筋骨逞しい男たちによって運び込まれる。
学生時代にプロレスの会場設営をバイトで手伝ったことがあるが、プロレスのリングの土台のフレームにやや似てなくもない。それより、少しだけ小さいかもしれない。
その金属のフレームが手際よく並べられる。フレームは4つ、合わせるとプロレスのリングの縦横2倍弱。プロレスのリング用のフレームを、4つすきまなくピタッと並べるイメージだ。相当広い。
なぜか、4つのフレームの接する中央に、高い天井に付けられた滑車から鎖が垂らされている。
鎖は一本だけ。フレームに隠れているので、天井の滑車の真下の床面にも滑車があるか定かでないが、鎖は下のフレームの隙間を抜け、また別の床面滑車・天井面滑車を介して、フレーム中央の天井の滑車にまた繋がっている。
つまり、頭と尻尾がつながってる、鎖の大きな輪っかがあり、その一片が4つのフレーム中央の天井から床に垂らされてる状態。
フレームを運びこんだのと同じ男たちが、4つのフレームにぴったり嵌る巨大な金属板(鉄板だろうか)をぱち、とはめ込んでいく。1つのフレームあたり20枚くらいだろうか、相当に重そうだし、相当の枚数がある。
一つ間違えば指とか潰れたり千切れたりする危険作業だと思うのだが、黙々と手作業で設置する。慣れているのか、異常に速い。
男たちの手に、違和感を覚える。手袋をはめているが、それにしても妙に大きい気がする。
鉄板は無垢でなく、細かい溝が入っているようだ。
よく見えないが、もしかして網構造みたいに穴が開いてるのかもしれない。
その溝だか縦方向に肉を抜いたメッシュ構造だかで軽量化しつつ剛性を稼いでいるのだろう。
隙間ができないように、ぴったり4つのフレーム上の4つの金属板は、くっつけ合わされる。
できた平面は、新体操の床競技の演技面と、だいたい同じくらいの広さだと思う。
中央の鎖の垂れてるところは、4つの鉄板の角々が合わさるところなのだが、鉄板の角に小さな隅切りがあって隙間が開くようにされているらしく、鎖は引っかからずちゃんと動かせるようだ。
司会者が確かめて、満足したように頷く。
男たちが敷き詰められた鉄板に乗ってジャンプし、ぐらつきがないか確かめている。
それが終わると、台車に乗せられて、頑丈な支持台つきの炭火の活けられた巨大なトレーが次々に運び込まれ。
鉄板の下のスペースに入れられていく。
炎に炙られて鉄板が温まり、熱気があたりを包む。
巨大な鉄板炭火焼肉の仕掛けに似てる。
あのカ○ジに出てきた焼き土下座装置の、巨大版とでもいうべき仕掛け。
ということは?
国領とその主人がステージの上に上がる(鉄板からは相当の距離を取っている。近くは熱が輻射してくるのだ)。
軽業師やダンサー、マジシャンが役目を終えて撤収していき。
観客席の期待が高まる。手を振って拍手に応える男。
この国領の主人、有名人なのかもしれない。
加えて、客席に面していない側から、道化師のような濃いメイクをした痩せて背の高い男が現れて合流。
こいつが、司会なのだろう。
この司会が流麗な外国語でべらべらと案内してる。観衆がどよめく。
『
不吉な予感しかしない。白雪姫の母って、グリム童話ではたしか惨殺されたよな。
換気と冷房が、少し強く入り始めた。
おい、未来の僕、なんとか止めろよ。何してる。
国領の服は、まだこのときも剥がされていない。
それだけで、愚かな僕は少し安心してたところがあった。
この舞台では、これまですごい露骨にろくでもないショーが繰り広げられていたであろうことが、容易に想像できる。
おそらく公衆の面前での殺し合いとか、○姦殺人とか、人体破壊とか。
それらに比べて、服を脱がさないショーだというのなら、まだ紳士的なのではないか。
まだ今後、性的ないたぶりショーもさせることができるように、今回はまだ命を奪わないのではないか。
次回は性的にしゃぶり尽くすショーなのかもしれないが、逆に言えば次回がまだある。今回はただ苛められるだけで、殺されたりすることはない、と。
そう思ってしまっていた。
だが、この仕掛けは。
あきらかに国領の貞操ではなく、命を脅かす性質のものだ。
今回で、国領の命を収穫してしまうつもりなのだ。
国領は、あきらかに怯えている。
何が起きるかは、まだわかってないようだが。
厚手の皮のミトンみたいなのを渡される。司会者の眼鏡男が、にやけてる。
なにか足元を指差して、説明されてる。
今のハイヒールでもいいし、同じような厚い皮の靴下に履き替えてもいい。そう言われてるようだ。
にやあっと、クソ意地の悪そうな笑みが、司会の頬に浮かぶ。
「
――どちらも、きみの演技には映えるだろう。
それはそうとして、君はこのショーの出場にあたって、命じゃなく純潔を選んだって聞いたよ。なんて高潔な精神だろう!
でも、どうせ死ぬなら。君の死以外も、いろいろ僕らにみせてくれないか?
ほら、ほら!
そう言って、手に持ったバトンくらいの長さの棒で。
こんこん、と国領の背を押し叩き、唸って威嚇し。
国領に、深く深くお辞儀した姿勢を取らせる。そして。
すうっ、と超短い国領のワンピースの裾を持ち上げ、曲げてる腰のあたりにずり上げて引っ掛けた。
国領は、下着を着ていなかった。なめらかな曲線が観客の視線にさらけ出される。
お尻に、なにか青く美しい宝石のようなものがみえた。
そう、肛門にクリスタルガラスかアクリル素材の栓のような性具が、挿し込まれている。
よくみると性具は分岐して、分かれた枝が国領の前の裂け目に入り。
そこにある女の子の、ぽちっとしたつぼみに、当たるようになっているようだ。
ただ、肌の色と同じ色のテープが裂け目を申し訳程度に覆うように貼りつけられていて、みえない。
――おお残念、テープがある!
でも君が運動したら、テープは剥がれるだろうね?もしかしたら、プラグも落ちる?
みんな、もちろん見たいだろう?
馬鹿にしたようにつんつんと持ち替えたバトンでプラグをつつき、テープをなぞってみせて。
司会が、観衆にそう呼びかける。
観衆の哄笑、嘲弄。
元の姿勢に戻ることを許されたあと、ハイヒールと皮靴下の選択を再度迫られ。
結局、国領は靴下を選んだ。
ハイヒールの靴を脱ぎ、皮の靴下のような装具を着ける。
不安そうに司会者を見上げる。
司会が、汗をぬぐいながら砂時計を国領に示し、観客にも示す。
(すごい勢いで冷房が唸り、空気を冷やしていて、客席はまだ耐えられる程度だったが、ステージの鉄板の近くはかなり暑そうだった。)
――2分。2分ごとにチャレンジの機会。いいね?
国領はまだよくわかっていない。
だが司会が、アンダスタン?と威嚇するように怒鳴り、手に持ったバトンを振る。
バリバリ、と仕込みバトンの尖端に放電が走り。
脅された国領は、おそるおそる頷く。
それに客席から嘲笑が湧く。
観客の中年女性が、バカな女の子ね、誰もチャレンジしないわよ、と立って言い放ち、まわりでは失笑とブーイングが半々くらい起きた。
――BBQには、もったいないぜ。
――あのプラグ外して、ケツに突っ込みてえな。だが、無理だ。チャレンジはできねえ。
そんな会話を、虫になった僕が止まった近くの客たちが交わすのを、僕は聞いた。
半分くらいの客は、国領を殺したくないようだ。
もちろん国領に同情してるわけではなく、まだまだ犯したりまだ別の責め苦で苛んだりして、長く楽しみたいのだろう。
国領は、上玉だからな。他の奴隷たち、ショーの出演者たちと比べても。
――さあ、スタート!健闘を祈るよ。
司会の薄っぺらい激励の言葉とともに、国領が鉄板上に送り出される。
まわりに柵はない。
しかし、筋骨たくましい覆面男が4人、槍のようなものを持って各辺に控えている。
国領が鉄板のステージのヘリから出ようとすると、バリバリと槍先についた放電装置(スタンガンに似た仕掛けだ)を発動させながら追い払う。怯えて後ずさりする国領に、また笑いが浴びせかけられる。
しばらくして、国領があわてたように片足を上げる、そして跳ねる。
また、観客席から笑いが起きた。
熱が伝わってくるのだ、きっと。鍋つかみのような分厚い皮の靴下越しに。
国領が、「蛙の逆立ち」みたいに、腕で体を支えて足を浮かす。だが今度は手が熱いのだろう、また足て立ち、片足立ちで交互にぴょんぴょんする。
裾が乱れて、白く丸いお尻が一瞬、見える。
さっきの中年女が、また立ち上がって指差し、ジャッ○の淫売はどうこう、と嘲笑の言葉を投げる。客たちが哄笑する。
あきらかに腕切りショーより、反応がいい。観客がボックスの前に出てきて、身を乗り出して観てる。
まずい流れだ。客たちは気に入ったのだ、そして見たいと思いはじめてる、この残酷なショーの結末を。
そう、国領があがき、力尽きて、焼き殺される姿を。
国領は、しばらく片足でがまんできるぎりぎりまで立ち、立ち足を変えて、熱くなった足を内腿のあたりにあてて冷やす、みたいなことをしようとしてた。
でも、失敗した。熱すぎるんだ。
フライパンの上の蟻のように、国領は逆立ちしたり(ワンピースの裾が盛大にめくれ、お尻とそこに嵌められたプラグも見えて、ヤジが飛んだ)、熱源から遠い地点を求めて走り回ったり。
一度鉄板上から飛び降りて逃げようとして、電撃槍に迎撃された。
感電して、鉄板に崩れ落ちかけ、ジュッという音を立てて、左足の脛のあたりを焼かれた。
少し足を引きずり、痺れが残っているのにむりやり立ち上がって熱から逃げようと狂奔する。
そして中央の鎖に気づいた国領は、飛びつく。
鎖は、国領をわずかの時間、熱から遠ざけてくれる。
だが、ゆっくりと天井の滑車は回転し、国領を灼けた鉄板の床に近づける。
国領は、必死に鎖を手繰り登ろうとする。細く白い、汗で濡れた腕に筋肉が浮く。
「2分」
高下駄みたいなものを履いた禿頭の男が、鉄板のうえに上がり。
国領を迎えにいき、小さな子供のように国領を抱き上げ、鉄板の外に連れ出す。
あの、筋肉男だ。
それに気づいた僕は、ひどく身勝手なことに。
正史では紫藤を拷問し、殺したその男。筋肉男に憎悪を燃やすとともに。
僕以外の男にしがみつく国領ハルカに対し、激しい嫉妬を感じていた。
ステージの鉄板から降り、床に正座を横にくずしたような姿勢で座り、喘ぐ国領に水が与えられ。汗を拭くタオルが投げられた。
ふきでる汗で、白いワンピースは肌が透けている。びちょびちょだ。脛は赤くなってる。国領は貴重な水をタオルに染ませ、その痕に押し当てた。
「さあ、淑女と紳士諸君!チャレンジはあるか?
このゲームに代わるだけの、余興は出せるのか?」
「チャレンジって、何?」
暗闇になってる客席から、アルトの落ち着いた、よくとおる女の声が飛んだ。
「初参加かな?いい質問だ!
あるショーには、その提供者によりチャレンジ受け付けが認められている場合がある!
チャレンジャーは、別のより面白いショーの提供を申し出ることでチャレンジする。チャレンジの成否は、観客が決める!
チャレンジ成功なら、前のショーはキャンセルされ、女優や剣奴はチャレンジャーに引き取られる!
失敗なら、前のショー提供者はショーを再開できる、キャンセルも選べる!そしてチャレンジャーはチャレンジされたショー提供者の奴隷となるか、その女優や剣奴の代金の2倍相当の賠償金を払うか選ぶことになる!」
ちら、と時計をみた司会者は、続けて。
「しかし、時間切れだ!また2分後彼女が生きていたら、試すといい。再開!」
そう叫ぶ。
嫌がる国領の背後から筋肉男が手をわきの下に差し入れ、強引に持ち上げ、鉄板の上に運んでいく。
中央付近に。
投げ出される前に、国領は自分で立ち、鎖にまたつかまった。
休んだせいで力を回復できたのか、力強く鎖を手繰り、灼熱の鉄板との距離を広げようとするが。
「そうそう、わかってきたね。でも、だんだん難しくなるんだ。だんだん、ね?」
司会が、悪意の滴る声でそう、アナウンスする。
筋肉男は、一度鉄板を降りて、控人から何かを受け取った。
鞭だ。
「さあ、次の2分間はアクティヴに!」
筋肉男が、鞭を振るった。
全力ではなかったのだろうが、ひゅおっという音、そして破裂音。
国領のワンピース。その背中が弾け、血がしぶいた。
「おおっ、これは痛そうだ!」
もちろん、たまらず国領は落ちる。
そして、筋肉男が再び鞭を振り上げ、振り下ろす。
足を払うように振られたそれを避けて、国領がバク転で華麗にかわす。
観客が、どっと沸く。
筋肉男は、かなり高い下駄のようなものを履いていて、足元があまり安定していない。
だから、国領が本気になって走り、跳び、避ければ十分に鞭を避けられる。
しかし、走っていると少しずつ、熱が伝ってくるのだ。
じりじり、ちりちりと。
そしてせっかく回復した体力も、削られていくのだ。
がりがり、ごりごりと。
国領は、端っこまで進み、電撃槍を持った線審と筋肉男を引き寄せると、中央に走って鎖をよじ上った。
小気味よく、かなりの高さまでリズムよく登っていく。
「言わなかったかな、だんだん、むずかしくなっていくんだよ。」
鎖が降りるスピードが増し、国領の努力は無駄になった。また、鞭が鳴った。
かろうじて、鞭の直撃は免れた。ただ、国領の頬に薄く赤い線が浮いている。
汗とともに、血がにじんで滴った。
鞭。電撃槍。必死の回避。鎖。鞭。電撃槍。--
華麗な腕立て前転、側転、ブリッジ、倒立。
少しずつ削られ、ちぎれていくワンピース。
あられもなくさらけ出されはじめる裸身、その白い肌に刻まれる、赤い線状の鞭痕。
完全に、筋肉男は国領ハルカを嬲り、踊らせていた。
喜悦の残酷な笑みが、口元に浮かぶ。
「2分!」
崩れ折れそうになりながら、国領ハルカはかろうじて独力で鉄板の縁から転げ落ちた。
ずるずると足を使わず、横座りでいざるように、熱を放つ鉄板から遠ざかろうとする。
水の容器が与えられ、タオルが投げつけられる。
ただ、もう彼女の限界は明らかだった。
「次の回は、そうだね、リボンとボールとこん棒から道具を選んでもらおうかな。」
――新体操競技みたいに、ね。
そう、司会が残忍な喜悦をにじませながら告げる。
「道具を賢く使って、君の命の輝きを見せてくれよ。
今度は追い立て役は、2人に増えるよ?その次は、3人。
追い立て役の武器も、強化されていく。
さあ、どれを選ぶかな?」
国領ハルカは、荒い息をつきながら、目の前に示された3つの選択肢をみる。
リボンは、まったく使えそうにない。
ボールは、一時的な休憩に使えるかもしれない。
こん棒も、同様に休憩に足の下において使うか、鞭を振るう追い立て役と戦うのに使えるだろうか。
ただ、もう敗北はほぼ確定している。
蟻地獄に放られた蟻のように、どんなにあがいても国領ハルカは結末に死が待ち構えるこの陥穽を脱出できない。
国領の茶色の目に、絶望がよぎる。
観客席から、なにか声が上がったようだったが。
僕の憑依した虫は、うなだれる国領に近づきすぎて。
足の皮靴下の縫い糸の焦げあたりからわずかに出ていた煙に巻かれて、落下してしまったようだった。
2つ目の夢は、ここで途切れる。