※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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 ご感想をいただきました。ありがとうございました!
 さて、誰なんだろう・・?謎です(棒)。


 今回は次まで書ききれず、中途半端な回になってしまいました。しかもグロいもののまったく面白くなりませんでした。後で改稿するかもしれません。
 ただやはりグロ不快な描写ありなので、ご注意ください。


170 月の裏側(7)(志)★

 

 虫は、ナギさんたちのいた部屋を出る客の流れにあわせて、ふよふよと飛んでいく。

 

 途中、通路を移動する。照明は少なめだが、警備にあたる係員は結構な頻度でいる。

 これらの係員や守衛、警備員とかについては、気になっていることがいくつかある。

 

 まず、今ここで繰り広げられてるのは、まぎれもなく非合法の地下パーティ。

 それにしては、かなりの人数の係員や守衛たちが動員できている。

 係員自らが血なまぐさい行為をしていることも。

 非情な命令を実行できる人間をこんなにたくさん、どこから動員しているのか。

 動員数が多いとどこかから洩れやすくなるように思うし、だいたい口止め料とか考えるとすごいコストが高いのではないか。素人考えでは、そこが気になる。

 

 もっと気になるのが、彼らの外見。

 大多数の係員たちには、奇妙な統一感がある。

 服装は、共通してる。

 多少のバリエーションはあるが基本、上半身は革のベストかシャツ、下半身は革生地のズボンを履いていて、顔全体を覆う革のマスクをしている。

 マスクは革製で、ホッケーマスクに少し似ている。あの「13日の金曜日」で、殺人鬼が着けてるやつね。

 マスクにはところどころに空気抜きの穴があり。口と鼻のあたりは切込みが入れてある。後頭部は首まで覆ってるので、髪の色はわからない。

 口の部分はホッケーマスクとは違い、少し空気が通る感じに切り取られて面格子みたいな金具が縫いつけてある。

 正直、B級ホラー映画に出てくる殺人者か拷問官みたいな感じで、かなり怖い。

 目の部分の切れ込みは小さめで深い。正直、観客席とか通路とかの照明が暗めなのもあって、虫の視線からしてもほとんど彼らの目を見ることができない。あれでちゃんと彼らは外が見えてるのだろうか。

 

 そして、身体的な特徴が奇妙にも一致している。

 肉体については、常人より屈強そうだ。

 ちょっと大きいように思える手、長めの腕や足。

 厚い胸板の大きめの体格、太い首。

 身長は多少はばらつきはあるが、平均して175cmくらい。ただ厚い胸板、太い腕などたくましい体で身長以上に威圧的というか強そうに見える。

 身長が低いのは、やや胴長というか、脚が心もち短い体型のせいかもしれない。

 肌は、ごく薄く黄色みがかってくすんだ白、というかずばり土気色。

 正直、――死人の肌に見える土気色。

 どういう出身の人間なのだろうか。黄色人種の一種だとは思うのだが、思い当たるところがない。

 ただ、これらそれらの事実を、並べると。

 「遺伝子操作」とか「成長ホルモン投与による末端肥大症」などという単語が頭をよぎる。

 ここにも、何か胸糞悪い背景がありそうだ。

 

 そして基本。彼らは客に対しては何もしゃべらない。

 定型句の書かれたカードとかを示して、意思を伝えてくる。

 僕が最初、彼らは舌が切り取られてるのではないかと疑った理由の一つだ。

 ただ、仲間内ではその限りではないようで、仲間内で頭を寄せ合ってまるで話し合うかのようなそぶりをしていた(声は聞こえなかったが)。

 客は基本的に英語で彼らに話しかけているようだが、それは一応理解できているようだ。

 (もっとも話が通じないことがあるようだ。僕が見たケースでは、暖簾に腕押しで客が諦めていた)。

 そして見た限りではどんなに非道な命令であっても、受けた命令には忠実。余計なことはしない。

 感情があるのか疑われるレベル。どんな残酷な作業も、淡々とやってるという感じだ。

 

 客たちも、ややこれらの係員たちには疑念を持っているようだ。

 客たち同士ではなんだあいつら、怖い、みたいな会話を時々耳にした。

 ただ、何しろこんなパーティに参加する人たちだ。感覚がちょっと一般人とは違う。

 それに、どこかこのショーの詳細についてはアンタッチャブルになっているという気配を随所で受けた。

 客たちはおそらく相当の金持ち有閑階級で、しかもちょっと後ろ暗いつながりがある人たちなのだと思うが。

 そうした人たちであってもこの催しの闇を暴き立てることにはリスクがあるのだろう。

 

 ちなみに、これらの統一感のある「怖い係員」以外にも。

 そうした狂気じみた統一感がない、普通に出自の見当がつく係員もいる。

 たとえば腕を斬られてた女のショーのところで、熱した鏝を持って傷口を焼いてた係員、そして腕を受け取ってた料理人。

 あの傷口焼き係は、小柄な男性。料理人は体格がよく太っていた。どちらも日中韓台のどれか出身だろう。

 国領の鉄板焼きショーのときに、司会してたピエロの扮装の男。あれはイギリス英語のネイティブに思えた。

 あと、あの筋肉男もだな。これは国籍や出自の見当がつかないが、怖い係員とはあきらかに違う。

 ただ、こうしたふつうの人間のスタッフの人数はごくわずかだ。それこそここに出した4、5人程度ではないかと思える。

 

 僕の憑依した虫は、「怖い係員」にはあまり関心がなく、その体とかにはあまり近づこうとしない。

 勘がよくて叩き落とされるからか、あるいは臭いが嫌いとか理由からなのか。

 虫は客の方には関心を惹かれることはあるみたいで、よくその服とかにとまる。

 なんだか虫の食欲を惹くらしい糞尿の匂いを漂わせた客にまとわりついたことがあり、少々閉口した。

 ただ、視覚と聴覚はそれなりに互換性があるが、嗅覚はそこまで鋭く感じない。人間の感覚への翻訳が難しいのか、あるいは時間がかかる、みたいな感じを受けた。

 

 ――――――

 

 僕の虫は、ふゆんふゆんと小さな羽根を一生懸命羽ばたかせて廊下や部屋を抜けていく。

 扉が閉まった部屋も、空いた部屋もある。

 防音はかなりしっかりしているのだろう、しまった部屋からは音は聞こえない。

 扉の開いた部屋からは、さまざまな声がきこえる。

 叫び声が聞こえる部屋も、くぐもったうめき声が聞こえる部屋も、嬌声が聞こえる部屋も、どっと笑い声の聞こえる部屋もある。

 客たちは単独参加もいるけど、大抵は3~5人くらいのグループで移動している。

 あの大会場での切断ショーや鉄板焼きショーのときに見かけた覚えのある、特徴的な服装や身体の客もいる。 

ただ、少なくない客たちはあやしげなフードつき黒ローブを羽織っている。特に男性。

 女性の大多数は華やかだったり刺激的だったりするドレス姿、中には少数だが水着みたいな露出過多の人も。マスクも美麗なものが多い。

 男と似たローブ姿も少しはいるが、中に華やかな衣装を着ていたりする。

 ただ、女性客のうち3人に1人くらいは男性客の恋人や愛人(?)みたいな印象を受けた。好きで参加してるわけじゃない普通の感覚の人、ってことね。残酷シーンで失神してたりするのはそういった人たち。

 

 参加人数はよくわからない。たぶん最初の2つの夢が全体プログラムで、あの時間帯唯一のプログラム、現在は小会場でのアラカルトでのショーやサービスを提供する時間帯なのだろう。

 

 ――――――

 

 虫が関心を惹かれたらしい、部屋のいくつか。

 

 そのうち一つは、基本、「潰す」ことがテーマの部屋という印象を受けた。

 出し物は、ひたすらグロかった。

 たとえば。

 床に大の字に縛り付けた男女に、ただただひたすら重たい分銅を落としてグチャグチャに潰していくコーナー。

 分銅は3mほどの高さから落とすようになってる。六角柱の形状の分銅だ。

 UFOキャッチャー形式というのだろうか、チケットで投擲権を買い、落下の場所と高さを決めて落とせるようだ。

 それこそ複数の客たちが笑いさざめきながら、順番に分銅を指定して落としてる光景も。

 もしかすると対立組織の幹部とかなのだろうか、いかにもな悪相の男に対し十数人のやっぱりちょっと怖い感じの男たちが、一人ひとり分銅を落としていってたり。

 

 もっと直截的に、石投げができるコーナーも。

 まさしく聖書の世界という感じだな。

 杭に縛りつけられた男女に、籠いっぱいの石を投げることができる。

 一定の距離が定めてあり、客たちの会話から察するに生還する例もあるようだ。

 もっとも石投げが終わった時点で生きてる、ってだけでその後は不明だ。結局は始末されるんじゃないだろうか。

 

 投げるのが女性だと、どうしても筋力の関係で致命傷を与えられなかったりするのかもしれない。

 もっとも、僕の憑依した虫が潰れた肉に関心を寄せながらふぃんふぃん飛んでた十数分間に、浮気男なのだろう男が、5人の女性グループに石投げを受けていて。

 女性たちはひたすら数の暴力で石をローテーションで投げ続け、終わりに男はめでたくミンチになってた。引き攣るようせわしなく痙攣し、男が絶息するとみんなが嬌声を上げてハイタッチ。

 投げ側が非力でも財力があれば数打って当てることができる。死ぬまでが長引くだけというパターンもあるんだな。

 ちなみに虫は死体に飛んでいったけど、謎の係員に追い払われてしまった。

 

 「延ばす」とか「圧縮する」がテーマの部屋も。

 圧延機みたいなのに凶悪そうな男が放り込まれ、鮮血が飛び散り、薄い煎餅みたいに引き伸ばされてぶち殺されてるコーナーや、梯子に吊られた男が牽引されて引き伸ばされてるコーナーがあり。

 圧縮コーナーでは、ブドウの圧搾機みたいなのに詰め込まれた男が、バキバキに圧搾されてたり。

 部屋の中では「血を抜く」がテーマの部屋もあったが、「圧縮」の部屋では血は集められてなかった。

 さすがにね、内臓の中身とかが混じるわけだからだろう。

 ただ、どうせ殺すなら、ということだろうか、注射器でぞんざいに血を抜かれてた人も目撃した。

 

 ――――――

 

 別の部屋に入る。

 どこか緊張した空気が流れている。

 やはりソファが並べられている。中央に、赤い毛足の長いラグが引かれている。その下にビニール生地のシートが敷いてあるように見える。

 

 筋肉質の男たちが数人、ずんぐりした男を護送してくる。

 護送されている男は背は高くないが、かなり胸周りが厚く、筋骨たくましい感じだ。ただ贅肉も多い。

 肉体労働かやや後ろ暗い仕事をしていそうな、ちょっと荒んだ感じ。

 どこかで見た顔だと思うが、思い出せない。

 

 このずんぐり男をつれてきた看守や、各部屋で係員をしていたり、国領のショーのときに設置役をしてたり、見張り役・逃走妨害役をしてたりしてた筋骨たくましい男たちは、皆少し似通っている。

 

 ずんぐりした男は、部屋の中央の床に敷かれた赤いラグに座らせられる。目の前に、短刀が置かれる。

 彼は尋常でなく汗をかいている。目がきょろきょろ、動く。

 観客たちが静かになる。

 看守役の男たちは、それとなく男の逃走や、客への突撃を防げるような位置取りをしている。

 

 いきなり、おらあっ、みたいな叫びをあげて、男が目の前の短刀を掴んで立ち上がり。

 胸近くに両手でひきつけるように握り、近くの看守にぶつかろうとする。

 

 看守は、慌てた様子もなく、ひどく事務的に。

 長く力強い腕に持ったバトンで、男を殴る。バチっと音がして、青い電撃も飛び、腰だめみたいに握りしめた短刀が、あっけなくポロリと落ちた。

 ずんぐり男は取り押さえられ。だががくがくとすごい震え方でまともに座ることもできない。

 わざとではなく、本気で怖がっている感じだ。

 

 すたすたと。

 視野の外から巨大な体格の男。看守たちに比べても圧倒的な力がうかがわれる男が現れる。

 あの、筋肉男だ。

 筋肉男はひどく慇懃にその場の観客たちに、古風で優雅な礼をして。

 ずんぐり男の前に膝をつき、肩を押えた。

 そして、筋肉男を見上げるずんぐり男の目を覗き込む。

 

 見上げていたずんぐり男は、震えが止まり。

 ちょっとぼうっとした目をしている。

 何も言葉は交わされていないのだが、筋肉男が頷くと、ずんぐり男も頷いた。

 

 筋肉男は、ずんぐり男の肩から手を放し、立ち上がり。

 すこし下がって、看守たちに、やれ、というように顎をしゃくる。

 

 看守たちはずんぐり男の前に、また短刀を置いた。

 おいおい、大丈夫かよ。そう思うところだ。

 観客たちの中には、それを見ながら心配げに横の人とささやき交わしてる人もいるが、せいぜい全体の4分の1くらい。

 残りは、心配する風もなく、固唾を飲んでみまもっている。

 

 ずんぐり男は、さっきまでとはちがい、落ち着いた様子で。

 白木の柄のついた短刀を逆手に持ち。

 自分の腹に、突き立てて引いた。

 

 上がる絶叫。

 ずんぐり男は信じられないように、自分の血だらけになった手を見る。

 そして、腹に突き立っている短刀を見る。

 さっきの、一瞬の落ち着きは雲散霧消。

 客たちが、どっと笑う。

 あちこちで興奮したような会話。

 

 おそらく、催眠術かなにかだ。

 筋肉男は、満足げに頷き、看守たちに頷いて部屋を出て行く。

 

 看守たちは。

 一人が男をうしろから、羽交い絞めにし。

 一人が短刀を回収し、左手で腹に手を突っ込み。

 腸を掴みだした。

 ずんぐり男の、絶叫が高まる。

 

 看守は、まだ切れてなかった腸を、手に持った短刀で切り。

 ずんぐり男を羽交い絞めにしていた看守に、頷く。

 羽交い絞めにしていた看守は、腕を解き。

 手に持ったバトンを振る。バチバチ、と激しい放電。

 脅すように、それをずんぐり男に突きつける。いざって離れようとするずんぐり男。

 しかし、腸を握る看守は動かない。結果として、腸がずるずる、と引き出される。

 気づいて、腸を取り戻そうとするずんぐり男。しかし、激しい電撃が浴びせられる。

 さらに、もう一人の看守が、端が焼かれて赤くなっている、熱い火掻き棒を持ってくる。

 脅すようにずんぐり男に近づけられ、ずんぐり男はたまらず逃れようとする。それを追う、焼けた鉄。

 それによって引きずり出されていく、ずんぐり男の腸。

 観客は、結構な騒ぎだ。ロコモティブ*1が、自然発生。

 口笛まで吹かれる。

 

 近くの日本人の中年男性と女子大生みたいな若い女の子のカップルが、何か会話してる。

 どうしてこんな楽しそうなの?いや、あの切腹男はね、といった会話。

 聞いてて、思い出した。

 この男、たしか連続強盗殺人と強姦殺人や何かで指名手配されてたはずの男の一人だ。

 勤務帰りの女の人を誘拐し、拷問して銀行口座とか暗証番号とかを聞き出し。

 結局はボロボロに犯して嬲り殺しにしてた奴らだ。

 たしかまだ逃走中で、捕まってなかったはず。

 捕まらないはずだよ、ここにいたんだもの。

 どういう経緯で、ここで殺されることになったのかわからないが。

 正直、それでいい、死んだ方がマシな奴だと僕なんかは思ってしまう。

 うん、わかってるよ歪んでるよね。だけどさ。

 環境が悪いとかあるんだろう。でも殺された側からはそんなの関係ない。

 

 ただ、闇パーティの主催者がいいやつなんてことはあり得ない。

 あの筋肉男が関わってる時点で。また、女の人の腕が切られたり、国領が鉄板焼きにされてる時点で。

 

 僕の憑依した虫はこの血と内臓とにかなり関心があったようだが、看守の腕に止まったときにはたき落とされてしまった。

 看守の腕はとても逞しいが、なんというか死人のような土気色。毛は一本もなかった。

 

 ――――――

 

 目覚めて、まだ頭がくらくらする。

 今何時なのかもわからない。外はすっかり暗くなってる。たぶん夜だ。

 枕元のたまごスープがなくなっていて、かわりにバナナとみかんゼリーと熱冷ましと水のコップが供えられている。

 お腹すいたら食べて薬のみなさい、と走り書きのメモ。母の字だ。

 明日の朝になったら熱、下がるかな。まだ治りそうな気がしない。

 みかんゼリーだけもらおう。

 好物なのに、美味しいと感じない。

 食べるとトイレに行く。

 よろめきながらふとんに戻る。途中で箪笥の角に小指をぶつけて悶絶。泣きそうなくらい痛い。

 寒い。がたがた歯が鳴るくらい。

 

 ふとんで震えていると。

 ナギさんのことが、心に浮かんできた。

 僕は度し難い欲張りだ。

 ナギさんはしっかりした、立派な大人だ。

 不運であんなことになっていたけれど、本当は自分で自分の人生を切り開いていける女性だ。

 その女性が自分で選んだんだ、祝福すべきなんだろう。何より、本人幸せそうだったし。

 でも、どうしようもなく阿呆の僕は、今になってすごい未練と喪失感を感じている。

 

 ナギさんとたっくんを脱出させるために、接触して以来。

 ナギさんが僕を好きでいてくれることは、折々感じてた。

 そのことに、なんだか僕はすごく安心してたような、いや安住してたような気がする。

 

 僕とナギさんは年齢も境遇も違いすぎる。たぶん僕がナギさんと結ばれることはない。

 でもナギさんはたぶん、僕がナギさんの好意には応えられない、とわかってて、その上で。

 純粋に僕に好意をむけてくれてる。自分の体を使ってほしい、みたいなことをあのとき一度言われたけれど、あれ以来迫られたりはもちろん、僕になにか求めたことはない。

 ただ、もの静かで、深い愛情を湛えたまなざしをいつも僕に向けてくれる。

 

 だけど僕はナギさんの好意を知ってて、でも何も答えを返してこなかった。 

 ナギさんは、たぶん頼れる身よりも何もない。だから何もしなくても離れないでいてくれるだろう。

 僕はナギさんの境遇の悲惨さを利用してたのかもしれないな。

 ナギさんに甘えて、その好意だけを受けてた。何も言わずに、何も返さずに。

 そんなんじゃいつか離れられても当然。自業自得だ。

 

 欲しかったのなら。貴女が欲しい、って言えばよかったのかな。

 まあそれは、僕にとっての紫藤とか調布、あとナギさんにとってのたっくんのことも考えると現実的でないけど。

 だからああいった事態が生じても、どうしようもないことだ。

 

 わかってるんだけどな、頭では。

 ただ、なんでこんなに苦いんだろうな。

 

 あのサディスト若造。

 あいつが誰だかわからないが、顔は見てないが雰囲気はモテそうだし、金もあるんだろう。

 もしあいつを選ぶならナギさんは、――ちょっとどころでなく変態的プレイを受けそうだけど、いいんだろうか?

 でも最後の場面。男も以外に純朴そうで、ナギさんのことを大事に思ってるみたいだった(だいたい、そうでなければあんなリスキーな挑戦はしないだろう)。

 そう考えると、なんか愛憎入り混じるような感覚。

 ああ、これが両価感情(ambivalenz)ってやつなんだな。

 ただ、思い出すとぐちゃぐちゃになりそうだから、いったんここでこれは考えるのをやめよう。

 

 国領ハルカと違って、ナギさんは辛酸を嘗めさせられていたが、決定的な危害は加えられてなかった。

 もっともチャレンジがなくて林間学校がそのまま続いてたら、ひどいことになってただろうけど。

 たぶん、出演させられるショーが決まる段階で、捨てられないもの、守りたいものを聞かれるんだろうな。

そして国領は「純潔」と答え、ナギさんは「命」か「子供」と答えたのではないかと思う。

 もしも、これがありうる未来なのだとしたら。

もちろん、こんなショーには巻き込まれないようにするのが一番だ。ただ。

 もし万が一巻き込まれた場合には、あいつ、国領には命を選ばせないと。

 そして生き延びたら、ちゃんと、幸せな「命=生活(life)」を手に入れさせないと。

 

 そして、分銅落としや石投げ。

 まあ、グロいけど想像の範囲内だ。

 僕は男女差別主義者なんだろうな。女の人が殺されてるのを見るとダメだ。今回の夢には出てきてないが、子供も。

 なんだか、胸からむかつきがこみ上げてくる。

 男だって殺されてていいはずがないんだけどな。まだまし、っていう何か本能的な刷りこみがある気がする。

 分銅落としや石投げで殺されてた男たちって、どっか悪人っぽく見えたからかもな。

 単に無精ひげが出てただけで、偏見かもしれないのだが。

 

 ハラキリショーについて。

 ハラキリのショーなるものは、たしか1回目の世界での「怖い話」の掲示板か何かで読んだ覚えがあったし。

 しかも僕の夢ではハラキリして腸ひきずりだされてたの、まず間違いなく凶悪なクソ野郎じゃん。

 どうってことない、快哉快哉。この一連のグロ夢唯一の清涼剤だ。

 みかんゼリーの残りを食べて、熱冷ましと水でささやかな祝杯をあげよう。

 

 そう思っていたのが。

 僕に悪夢を見せることで僕になんらかの罰を与えたい何かにばれたらしい。

 次に僕が熱にうなされながら、みた夢。

 僕が大事に思ってる女の子が、この一連の残酷なショーに出てきてしまう夢だった。

 

 ――

 

「持ち場を守って!」

 

 耳に快い、しかしちょっと切迫した声が響く。

 あ、女性にしては低めだけど、よくとおるこの声は。

 もう、僕が愛おしいものと認識してる声。

 そう、調布の声だ。

 

 僕の憑依した虫は、興味深げに空中にホバリングしてその場のありさまをうかがっている。

 これはあの、最初の腕切りショーや国領の鉄板焼きショーの行われてた大ホールだ。

 

 壇上に、電気柵と思われる柵で囲われたスペース。

 そう、闘技場だ。

 電気柵のさらに周囲には、電撃槍を持つ「怖い係員」が逃走防止に囲んでいる。

 

 そして電気柵の中。闘技場の中には。

 何人かの女たちを背後にかばうように立ち、野獣たちに相対している調布の姿があった。

 

 

 

*1:
機関車のように、最初はゆっくりで、だんだん拍子が早くなる拍手。

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