※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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 ご感想をいただきました。ありがとうございました!
 調布さんは何というか、そういう人なんですっ、という回になってしまいました。なんというかフリーダムです・・。
 

 今回、実のところグロい描写はありませんが、グロ夢の一部なのでここまで「★」としています。
 次回から、現実世界に話が戻ります。
 
(前回のあらすじ)
 調布とその仲間は犬とハイエナにかこまれ、絶体絶命だったが。
 司会のピエロは、それだけでは面白くないとして、別のショーに調布が出場し、一定時間命を持たせることができれば仲間たちを解放するという取引をもちかけ、調布はこれに乗る。
 調布の対戦相手として運ばれてきたのは、巨大な蛇だった。


172 月の裏側(9)(志)★

 

 水槽には、蓋はされてない。正直、かなり不用心に思える。

 一応、ステージ下に、電撃槍を持った衛兵役の係員が配置されている。観客からの視線を妨げないように配慮されてるのだろう。

 スポットライトを浴びて、水槽とその周囲はあらゆるものがはっきり、くっきりと見えるようになっている。

 

 

 客からの視線を浴びながら、断頭台に上がる亡国の王女のように。

 昂然と顔を上げて、裸身の調布が水槽のへりを越えるため設置された簡易な階段を上がっていく。

 階段を上る太腿に、浮く筋肉。こんなときでなければガン見するのだが。

 一瞬だけ、頂上のステップに立って客席にどこか、ある種の感情(僕には後悔とか惜別に近いものに思えた)をにじませた視線を投げ。

 上から思い切りよく飛び降り、猫のように柔らかく着地してみせた。

 階段は、そそくさと取り除けられる。

 この後、出場者が自分の足でこの水槽を出て行くことは全く想定されていないようだ。

 

「さて、始まりだ!」

 

 ピエロの声に、ショーが始まった。

 虫は興味ぶかげに、水槽の縁にとまってこの残酷なショーを観察している。

 

 ――――――

 

 調布は軽く腰を沈め、半身になり、左手を肩のあたりに挙げて蛇に対している。

 蛇がほどけ、するすると近づいてくる。

 一番太いところで、僕の腕の前膊(ひじから先の部分)よりは太いが、そこまで変わらないと思う。

 蛇の種類によっては男性の大腿くらいあったり、女性のウエストくらいあったりするらしいから、そこまで太いわけじゃない。実際、僕の手首くらいの太さのところが多いように思える。

 色は黒っぽいが、まだらの模様がありニシキヘビの仲間のようにみえる。

 普通ならまず間合いをとって、時間をかせぐだろうが、――。

 

「おやおやおや、じらしてるのかな?」

 

 その通り、調布は蛇を避けて動いていく。

 ただ、水槽は広くない。せいぜい4畳半くらいか。

 蛇の長さは、4m以上は余裕でありそうで、あまり逃げ回ることもできない。

 底面のガラスは滑りやすく調布はやりにくそうだったが、それでも数周は回ったころ。

 

 突然、蛇が跳ねて、前に構えた調布の腕に牙のない顎で噛みつき、長い胴が巻き着く。

 調布は右こぶしを固めるが、――

 

「そうそう!

 5分、15分より早く終わってしまったら、開放の条件は満たされない!

 お伝えし忘れてたようだ、申し訳ないね!」

 

 ピエロの嘲弄。

 

 たぶん、調布は蛇を打ち据えるつもりだったんだろう。

 でもピエロの言葉で断念したようだ。顎に力が入ったのがみえた。

 

 蛇はその間、すばやく下半身(?)の長い胴を、調布の白い体に巻き付けていってしまった。

 調布は迷ったようだが、足を少し広げて踏ん張り。

 腰のあたりをガードするように右腕を下した。

 疑問手だ。

 なぜなら。

 

「どうかな、ランスロットの抱擁は?」

 

 黒っぽい蛇のうろこが、白い調布の肌に映える。

 きりきりと、肌に蛇が食い入っていく。滑らかな肌が、蛇に縛られて変形する。

 調布が右腕を下げて肋骨のない腹部から腰部をガードしたおかげで、そこを締め上げられることは免れたが。

 そのかわり、「手も足も出ない」に近い状況。

 

「そうそう、ランスロットは賢いんだよ。」

 

 左腕は噛みつきから解放されたが(牙はまったくないわけではないが、おそらく先が丸い義歯に変えてあるようだ)、蛇が手首にからみつき、拘束されてしまっている。

 蛇――ピエロは「ランスロット」と呼んでいたが、即興名だろう――の頭部は、自由になってしまっている。

 豊かな胸の片方を、絞り上げるように巻く。観客の視線が集まっている。

 蛇はさらに、右脇を通って首に軽く巻き付こうとする。

 調布は、縛められた左手に渾身の力を込め、苦労して首と蛇の間に滑り込ませ、かろうじて首単独で締め上げられることを防いだ。

 顎から下を曲げた肘でガードし、頸動脈と器官を守る。

 ただ、実は蛇はそれも計算づくだったのではないだろうか(でなければ、手首に巻いた胴で妨げただろう)。

 蛇は、調布の左手首に巻いてた胴を伸縮させて、調布の左腕をその形に固めてしまう。

 蛇は、空中に頭をゆらゆらと動かし、調布の顔を覗き込む。口先からは舌がひらひらと出し入れされている。

 そして調布の口元に、閉じて舌だけをチロチロと出し入れしてる顎をゆっくりと近づけてくる。観客が湧く。

 

「ほら、ランスロットのキスだ!」

 

 調布は、顔を反らした。

 だが、次に蛇はわざとらしくその背けた顔の正面に位置取りを変え、口をカッと開けてわざとらしくゆっくりと唇のあたりを甘噛みしようとする。

 

 だが調布はいきなり、噛みつき返した。あやうく蛇は首を引いたので空振りしたが、白い歯が空中でがちっ、とかみ合わされる。

 

「おおっ!

 新婦のキスは、すごく危険だ!」

 

 蛇は調布が思う以上に危険だと悟ったのか。

 かま首を引いて、調布から間合いを取る。

 力が入っているのだろう、巻き付く蛇のすき間からみえる首や顎に筋肉と細い血管が浮いていて、額に汗も浮き始めているが、調布がにやっと歯を見せて笑って見せた。

 

「もちろん、これで終わりじゃないよね、ランスロット?」

 

 ピエロの煽りに従ったわけでは、ないだろうが。

 蛇は標的を変えた。調布の顔にちょっかいを出すのを止め、かま首を曲げて、位置を下していく。

 

 調布は、左腕で首を守っている(曲げた左ひじが、首のあたりにある)。その手首を蛇の胴が絞りあげて、左腕は死に体になってる(もっともこれを外したら、首を締め上げられてしまうだろうが)。

 その蛇の胴は、調布の右胸を、卑猥に丸くくびりだすように巻きついている。

 蛇は、おもわせぶりに頭をその丸くくびりだされた胸の先端に近づける。

 ちろちろと出し入れされる蛇の舌が、調布の胸の先端に触れ。

 いやらしく舌での摩擦が繰り返される。

 

「おお、男女の営みが始まったね!」

 

 ピエロ男が調子づいてる。

 この蛇、ランスロット(仮)は明らかに妙な行動を示す。

 どういう訓練をすれば、こんなことができるようになるのだろうか。

 まるで人間みたいな高い知能を持っているように思える。

 表情のない蛇の顔だが、口元のカーブが笑いを浮かべているようにすら、思えてくる。

 

 調布の顔が屈辱にだろうか、赤く染まる。

 ぴろん、と床で蛇の尻尾が跳ねる。

 

 蛇の下半身は、調布の胴に巻きつき(そしてお腹を守ろうとした調布の右腕を殺し)、そして左右に拡げられた両足に巻き付いている。

 調布の滑らかな、太めの太腿に、うろこに覆われた蛇の縄が、食い入っている。

 右足に主にからみつき、左足は足首だけを締め上げ、床にもまだ2メートルくらいも残っている。

 この蛇、太さはさほどないが長さは相当ある。

 

 そして蛇の尻尾が、それ自体意思がある一つの頭のように持ち上がり。

 拡げて固定された調布の両脚の付け根を、軽くぴち、と打ち据えた。

 

「おお、お仕置きだね!

 そう、ランスロット、思い知らせてやるといいよ!

 そうそう、どうなってるんだったっかな?ジャ○プのあそこは、横に裂けてるんだっけ?

 ランスロット、ちょっと調べて、みせてくれないか!」

 

 蛇は舌ではなく、今では先が丸い牙をむき出しにした口で調布の胸先を嬲っている。

 くびりだされ、ぱんぱんに張った胸に、かみつくようにひらいた顎を当て。

 牙で胸を変形させつつ、顎を閉じて乳をはさみ、最後に胸の先端の乳首を強く挟み込む。

 調布は、――と目を転じて、僕はいやな予感を強くした。

 

 調布は、目を閉じていて。

 なにかを耐えるように、眉を顰め、閉じた口を歪めている。

 長い睫毛が、強いスポットライトに照らされた顔に影を作る。

 尋常でない汗が、顔に、いや体に浮き始めてる。

 そして蛇が乳首を挟んだ瞬間に、あ、と口が開きかけた。

 濡れた唇が、とても卑猥な、見てはいけないもののような印象を、――

 

 ざわざわ、と観客先がざわめき始めてる。

 

「ねえみてよあの女、蛇にファックされて感じてるのよ!」

 

「早く、ケツに突き込まねえかな!」

 

「牙、抜いてあるのか丸めてあるのか?ちゃんと自然に、尖らせとけばいいのに!」

 

 そんなささやき声が聞こえる。

 

 その間も、蛇(ランスロット)の胸への甘噛み、愛撫は続き。

 さらに、蛇の尻尾による股間へのぱち、ぺち、という打擲も続けられる。

 調布が、体をねじろうとして、――立っていられなかったのか。

 蛇が巻き付いていない方の脚。左足を折り、さらに巻き付いている側の右足も折ってしまい。

 膝立ちのような体勢になった。

 祈りのときのように跪いてかがみこむのではなく、逆に上を向くように体をそらしている。

 

「おお、そろそろ5分経過かな?」

 

 もう、残り3人の人質には誰も関心を払っていない。

 3人も、この背徳的な蹂躙劇に青ざめながら目を注いでる。

 正直、母親は娘の目をふさぐべきだと思う。

 

「5分経過!

 君たちは自由だが、特等席から最期まで見る権利を与えよう!」

 

 ピエロはそう宣言するが、誰も聞いていない。

 

 蛇がなにやら、力を込めたのか。

 調布が、ついに水槽の底に倒れる。

 蛇の体がうねり、――顎を守っていた調布の左腕の下にその頭が潜り込む。

 調布が目を見開き、抵抗しようとするが。

 本気の蛇の筋力には勝てないのだろうか、あるいはこの間に力を使い果たしかけているのか。

 左腕による首へのガードを外すことを、許してしまう。

 

 蛇は、今や完全に巻きつきを変えてしまった。

 調布の肌は、今やてらてらと光り、うすくピンクに色づいている。

 その肌を蛇身のうろこが擦っていったのか、ところどころに巻きつかれた痕が陰惨に残る。

 

 調布の両足首は、蛇の巻き付きによって縛められ。

 右手首も巻き付かれて固定され、背中側で足首にまとめられてしまった。

 左手首は、右手同様に手首を拘束され、しかし右手首と違って背中にそのまま通すというのでなく、肘を後頭部につけるような形で背中に引っ張られ、絞られてしまった。

 ほぼ完全に、調布はなすすべもなく拘束されてしまったことになる。

 調布は床に、横に、観客席の方にお腹をみせて転がされている状態。

 

「7分!」

 

 その蛇の下半身は、両大腿の半ばあたりに巻き付き、背後から肩のほうに引いて締めあげていくようにして、巧妙に足を開かせていく。

 僕の位置からはあの裂け目は見えないが(みたらどうなるんだろう。虫状態だと鼻血は出せないけど何か分泌しちゃうのかな)、観客席からはよく見えてるはずだ。

 事実、観客がどよめいている。

 

「おお、縦に裂けてるんだね!これは大発見!」

 

 わざとらしくピエロが覗き込み、論評する。

 ピエロの化粧に隠された顔が、いやらしい笑みを浮かべて、観客席を向いた。

 

「ランスロット、次はペネトレイトするのかな?

 あ、違うみたいだね!」

 

 蛇は、調布をこのような屈辱的な体勢に縛り上げているが。

 調布も、必死で抵抗してる。

 たくましい脚やお腹には筋肉が浮き、蛇もさすがにこれを維持するのは容易でないらしく、力が拮抗してぶるぶると震えている。

 蛇は、舌をちろちろと無防備にさらけだされた腹部や胸を舐めて。

 さらに要所要所、敏感な部分には先端が丸い牙で噛みついてみせる。

 そのたびに、調布の体に波が走る。

 

 さらに、蛇は調布の脚裏に舌を這わせ。

 調布の体が、ぶるぶると震える。

 もはや体は、上気して胸なんかを除けば、ほとんどほの赤く染まってる。

 しばらく調布のからだの隅々をなぶったあと、蛇は標的を変えた。

 

「おお、いよいよだね!」

 

 蛇の頭は、調布のさらけだされた股間に向かう。

 ちろちろと執拗に舐めて。

 頭を衝きこんだ気配が、あった。

 なぜか調布は抵抗を止め、体の力を抜いている。

 蛇は、――ちょうど男女の営みのように、繰り返し頭をねじりこもうとしていたようだった。

 虫の僕は、ぎりぎりと怒りがたまってくるのを感じるが。

 無抵抗なのがつまらなかったのか?蛇の頭部は、また調布の上半身に向かった。

 

 蛇は、最終段階に進むことにしたようだ。

 蛇は、調布の頭にひと巻き、巻き付いた。

 もはや腕で守ることができない調布の覆面の上から、調布の目をふさぐように蛇は頭に巻き付くと。

 さらに背中側の、ひとまとめにされた足首に再度からみつき。

 頭を背後に強制的に反らさせ、足首に引き寄せるように、絞り始めた。

 無防備な喉が、さらけ出される。

 

 まずい。

 このままでは、調布の背骨が折られてしまう。

 

「10分!

 だが、もう背骨はたやすく折れるんじゃないかな!ポキッとね!

 ランスロット、そろそろやるのかい?」

 

 もう見てられない。

 だが僕の虫は冷酷に、複眼をこのからみに向けて、観察し続けている。

 結果として、僕も。

 おそらく蛇はわざとゆっくり、ゆっくりと絞って、調布の苦しみを長引かせているのだろう。

 きりきり、ぎりぎり、と調布は背中に反らされていき、――

 

「12分、これはギネス記録だよ!

 なにしろ身長7フィートの大男ですら、――なにっ!?」

 

 調布が、急に首をぐいっと背中に反らした。

 信じられないことに、まだ曲げる余力があったのだろう。調布も、相当に体が柔らかいのか。

 それまで追い込まれてみせてたのも、演技だったのかもしれない。

 

 急に反らした結果、蛇の巻き付きはすっぽ抜けた。

 本当ならうろこのざらつきでそんなにすっぽ抜けたりしないものなのかもしれない。だが、蛇が巻き付いた調布の目のあたりには、覆面があった。

 覆面はズレてしまったが、頭の巻き付きを外すことに成功した調布は。

 顔を横に向け、右腕上腕部に巻き付いていた蛇の体に歯を立てたのがみえた。

 歯並びのいい白い歯が、糸切り歯から。

 蛇のすごく固いはずの、うろこに覆われた胴に沈み込んでいくのを、確かに僕は見た。

 

 がぶり。

 

 蛇の体が、痙攣するようにめちゃくちゃに跳ねた。

 調布も、体を妙に絞られて相当なダメージを受けたはずだが。

 右腕を強引に引き、蛇の拘束から抜いた。

 

 ぼぐっ。

 

 その腕が動き、蛇の体のどこかを打った。

 蛇は調布の足首とかの拘束を解き、調布の胴体に巻きついた。

 あきらかに今までとは違うレベルでの、殺すつもりの締めつけだ。

 さらに、蛇は調布の目元に向かって、魔性の早さで頭をぶつけてくる。

 口は大きく開かれ、先は丸いとはいえ、目を潰すには十分な牙が、槍のように向けられて、――

 

 ごじゃっ。

 

 そんな音が、響いた気がした。

 

 空中で、蛇の頭を調布の右拳が迎撃していた。

 

 ぬうっ!

 虫の僕は、瞠目する。

 

 調布の拳をあてられた蛇の頭の形が歪んだ、気がした。

 さらに。

 

 ばしっ、ぱしっ

 

 いつの間にか自由になった左手が、蛇の口元に突き入れられて蛇の頭を固定し。

 そして、残る右拳が蛇の頭を、打ちすえはじめた。

 あきらかに、蛇の顔が左右対称をしていない。

 ありていに言えば、半分潰れてる。

 

 蛇は恐慌を来したように、調布への死の締め付けを解除し。

 めったやたらに、体をくねらせて逃げを打つ。

 数十キロはある巨体がそのような動きをしたせいで、調布も体勢をくずされ、頭をつかんだ手を放してしまう。

 しかし、逃げ出そうとして体を離し、蛇行しようとする蛇に、解放されて立ち上がった調布はとびかかり。

 

 ごしゃ。

 

 調布の右拳が、蛇の頭部を叩きつぶした。

 断末魔の、蛇の胴体の動き。頭はつぶれてるが、まだ胴体は生きてるんだ。

 

 ひゅうっ、と調布が息を吸いこんだ。

 

 ごすごすごすごすっ!

 

 タコ殴り。

 

 調布の両こぶしが、めったやたらに蛇に叩きつけられる。

 あ、これはあかんやつや。

 僕はいつしか、いいところなく叩かれまくる蛇に感情移入しはじめていた。

 

 ときどきミスヒットもあるが、拳は丹念に蛇のとくに太いあたりを中心に叩きつけられる。

 ひととおり、蛇の生きづくりというか、タタキが作られたと思われるころ。

 

「ハ、ハハハ、――こんなことが、――」

 

「ねえ、司会さん。――15分、経ったかしら。」

 

「あ、ああ」

 

「15分。」

 

「おお、もう20分すぎだ!だが、しかし、――」

 

「勝ち、ね?」

 

「――」

 

「あたしの勝ちでしょう?違うのかしら?」

 

 なにかの怖いオーラを感じたのか。

 殺戮ショーを司会するこのサイコ野郎が、ぶるっと震えたようにみえた。

 

「おお、そうだ、そのとおりだ!

 諸君、この戦女神(ヴァルキューレ)に拍手を!」

 

 まだ蛇は胴体が死にきっていなくて、縮んだり伸びたりめったやたらにつぶれてしまった頭のついてる上半身をびたんびたんと無目的に動かしたりしてるが、それを踏みにじってる調布のどちらが勝者なのかはあきらかだろう。

 

 調布は階段を係員が持ってくるのを待たず、水槽の上部に手をかけ、軽々と超える。

 まだ汗が引いておらず、血色のよいぴちぴちの体には無惨に締め上げられた痕が残っているが。

 回復不能のダメージを受けた感じではない。

 ただ、そのときは元気でも、内臓とかが潰れてたりすることもあるらしいからな。

 ちゃんと検査しないといけないんだよ。わかってるかな。

 ――そんな声は、もちろん夢の中の調布には届かない。

  

 調布は大きく肩を上下させながら、やりきった充実感というべき表情を、その顔に浮かべ。

 なんかぴょんぴょん飛び跳ねて喜びを表して寄ってきた黒人女性とハイタッチ、そしてハグ。

 泣きじゃくりながら抱きついてきた白人母にもハグすると、その子供とも、目線をあわせてにっこり笑いかけて手を打ち当てて(give five)あげてる。

 子供の目には、純粋な感謝と憧れの色。そう、まるでスーパーヒーローを見るようなうっとりとした表情。

 

 なんだこれ。

 

 ――いや、僕さ。

 僕、こんなのに「好きなように殴っていいよ!」なんて言ってたのか!?

 僕の脳内では、空中で迎撃されてめきょ、と歪んだ蛇の顔が、僕自身の顔に置き換えられてスーパーインポーズされてた。

 

 (司会男の言葉を信じると)大男をやすやすと絞め殺せるような蛇が、その頭を歪まされ、つぶされるくらいの強打(ブロウ)。

 そんな強打、脆い人間が受けたら、たぶん頭蓋骨か顎骨そのものが粉砕骨折するんじゃないか?

 

 そして。

 蛇の胴体はすごく強靭だ。ものによるが、山刀の刃をはねかえしたりした話も耳にする。

 それをかみちぎる、恐るべき歯とあご。

 

 今思えば。

 あのときの、愚かな僕。

 国領とのことがバレて、殴っていいよと調布に言い放った僕は、まさに死の淵にかかったタイトロープの上でのんきに踊ってたんだな。

 そして、そんなおそるべき歯を隠し持つ、まさしく美しい野獣とのんきにキスして喜んで、なんならあそこをおっ立てて含ませて奉仕させてた僕って――。

 

 ぞく、と精神的な背骨に寒気が走った。

 僕が憑依している虫は、たぶん僕の恐怖とは関係ないと思うんだけど、わずかな体毛(たぶんこの虫、蠅に類するものだと思うんだ)を逆立てた。

 

 僕の憑依していた虫は、さすがにこんな危険生物の近くには寄るべきでないと判断したらしい。

 ぷいーんと空中高くに逃げて、未練がましく痙攣してる蛇の死体を見ている。

 

 僕は。

 最初は完全敵対的(アウェイ)だったのに、いまやヒューヒューと口笛の賞賛につつまれ、熱狂的に沸き起こる拍手に応えて手を振っている調布を眼下に見おろしながら。

 うーん。こんど現実で調布とあった時、普通に話したりできるかな?などと自問自答していた。

 

 さて、虫はあきらめて、次の獲物を探しに行くことにしたようだった。

 さらに高く飛び、虫の視野が暗転する。

 虫はまだ生きているようだが、ここで僕は震えながら目を覚ました。

 

 ―――――――

 

 目を開ける。

 ごく早朝、5時前くらいに思える。

 台風は過ぎたのか、ときおり強い風が吹き抜けるが、基本的に穏やかだ。カーテンのすき間から覗くと、くもってはあるが、そのうち晴れてきそうな様子。

 

 寒さだけでなく調布の拳への恐怖に震えながら、僕は一度トイレに立ち、放尿して。

 また箪笥の角に足の小指を打ち当て、同じ過ちを繰り返す自分の愚かさを心底から呪いながら。

 ガタガタと震える体、鳴る奥歯を押え、また眠りについた。

 寝る前に飲んだ熱さましが少しは効果を発しはじめたのだろうか。少しは熱が下がってきた気がする。

 学校は無理そうだけど、今日で風邪は治せそうだな。そう思いながら、僕はふとんにくるまった。

 

 それにしても。

 調布、あいつ。最初っから蛇を叩きのめして勝てるんじゃないのかな。

 なのに蛇にあんな好き勝手、やらせやがって。

 結果として調布とその仲間が生き延びた、という思いがけない悪夢の結末に安堵しつつも。

 なんだか調布に文句言いたいような、意地悪したいような、あるいはただ生還を喜んで抱きしめたいような、微妙な気持ちで僕は悶々としながら再度の眠りに落ちて行った。

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