※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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 紫藤みなり視点です。

20231103 登場人物(紫藤みなりの前の、特別奨学生)の名前を、一部修正します。
 (旧)篠崎(しのざき)瑞江(みずえ) → (新)篠崎(しのざき)瑞(みずき)


175 月の裏側(12)(紫)

 

 わたしは、遅くなりがちな足取りのため、近知郎さんにときおり小突かれながら。

 美しい花壇と植え込みのある、館へのアプローチの上、あゆみをすすめた。

 

 この館、とてもきれいでおしゃれなんだけど。

 どことなく、陰鬱な感じがするんだ。

 

 べつに蔦が壁を這いまわってるわけじゃない。まだ新しいと思う、ガラスもぴかぴかにみがきあげられてる。

 日当たりが悪いわけでもない。洋館のまわりはいくつかの形のいい原生木と、後から植えたとおもわれる庭木を趣味よく残して草木が払われ、お手入れのいい芝もあって、すこしかたむいた夏の日をあびて白い壁がかがやいてる。

 まるで、南欧のお洒落な別荘地みたいなかんじなんだ。

 

 でもわたしには、なぜかホラー映画の舞台の洋館みたいに思えて、思わず、足が止まってしまう。

 いいのか、いいのか?あんなところにいって?って言われてるみたいに、気持ちがゆれる。

 すると、近知郎さんに小突かれることになる。いたいよ、もう。

 いや、わかるけどね。のろまだなあ、って思ってるんだろうけどさ。でもね。

 洋館が、入った人を食いつくす、得体のしれない怪物のように思えてしまう。

 

 それでも、ようやく洋館のおもおもしい両開きの扉の前にたどりつき。

 呼び鈴を、近知郎さんが鳴らす。

 いらだたしげに、数回。はよ出ろや、とかひとり言を言っている。

 

 かちゃ、と鍵が開き。

 扉をあけて、お仕着せを着た女の人が、両開きの扉のうち片方を細めに開けた。

 

「はいはい、そんなに何度も鳴らさなくても。

 ――あー、かわいい!」

 

 そしてわたしたちを認めて、扉を広く開けて広い玄関ホールに招じいれてくれた、そのきれいめな女の人。

 背はふつうくらいか少し高め。軽く脱色したソバージュの髪。

 ゆたかな胸、細めのくびれ、そしてお尻が大きいのは、ちょっとさとみん系。

 

 でもどこか青くて硬い、とがった感じのあるさとみんと違って、熟れきっていかにも女らしくやわらかそうな体。

 コリー犬みたいな、豊満なからだに比べて細めにみえる、派手な感じの白い顔は美人だったんだろうと思わせるものがある。

 いや、いまでもきれいな感じだけど、さ。

 ただ近知郎さんに相対するときとか、目元に険が浮かび。

 しゃべったりわらったりするときの口もとや目じりには、年齢を感じる。

 歳は、30代なかばくらいだろうか?

 

 そして、この人、何より。

 ただごとでない女らしさというか、むせかえりそうなくらいの色気みたいなのがある。

 さとみんも最近、その手のフェロモン(?)放出するようになって男子から注目されてるけど。

 この女の人のは、ずっと大量。むんむんする感じ。

 この色気っていうか、女らしさっていうか。

 たっくんのお母さん、ハコヤさんにそこは似てる気がするけど。

 この人のは、控えめなハコヤさんとはちがって、咲ききった(少し満開を過ぎた?)花みたいに、どぎつく濃く香ってる。

 

 わたしはこの人に好意的に「かわいい」って評してもらったけれど。

 申し訳ないことに、こういういかにも「女」の匂いがする人、クラスメイトだったらちょっと苦手かもな?と思ってしまう。

 うん、わたしのただのひがみかも。胸の大きさとかで勝手に優越感抱かれたりしそう、なんて。

 ただそれより、この系統の人。一見さばさばした人にみえるけど、芯のところはなんかねっとりしてる気がして。

 とくに意中の男の人をめぐってのライバルとみられたら、すごく大変そう!って感じる。

 その点、さとみんはそこらはドライ、「去る者は追わず」だと思う、たぶん。あ、志野くん以外は。

 

 志野くんのことでは、なー、さとみんは、なー。

 なんかちょっとだけ、危うい気がする。

 たとえば志野くんに振られて、心がくだけるようなことがあったら。

 なんだかんだ死ぬのがこわくて生きてはいくだろう、生き汚い私とはちがって。

 一見するとつよくみえるさとみんは、本当は、――。

 

 あ、いけない。考えにふけるのは、あとででいい。

 それはそれとして、この女の人にはこれからお世話になるんだから、ちゃんとしなくちゃ。

 この前の脂肪女のときは、それで失敗したんだ。

 気をつけよう。まずはあいさつだ。

 

「ありがとうございます!

 紫藤みなりって言います。よろしくお願いします!」

 

 名乗って、深々と頭を下げる。

 

「あらあ、みなりちゃん、っていうんだ?

 元気ね、ちっちゃくてかわいーい!

 アタシは、日土里(ひんどり)舞良(まいら)。「舞う」に「良い」で。『まいら』って呼んで?

 4月から、ここで侍女、――ハシタメっていうのかしら?をしてるの。よろしくね?」

 

 さっそくまいらさんによって、わたしの手から、重たい学校のかばんとかが奪い取られた。

 もうしわけなくて、あわあわと手がうごいてしまう。

 

「ありがとうございます、まいらさん。

 まだわからないことばかりでご迷惑をおかけすると思いますが、いろいろ教えてください!」

 

 そうだ、わたしがまいらさんのことをちょっと苦手に思ったのは、あの脂肪女にも似てるからかな。

 だけど、この人はあの脂肪女とは別の人だ。だから、そんな色眼鏡で見ちゃだめだ。

 この人も、勤め始めてまだ3ヵ月か。

 そんなに長く勤めてるわけじゃ、ないんだ。

 でも先輩は先輩だ。いろいろ仕事を、教えてもらわないと。

 

「そいつ料理も掃除もなんにも、できないんやぜ?

 できるんは、あのじいさんに腰ふることくらいや。『まいら』じゃのうて『売女』や、バイタ。」

 

 また、近知郎さんが余計な憎まれ口をたたく。

 キッと、まいらさんが近知郎さんをにらみ返した。

 何か言い返すかと思ったが、何も言わない。

 ただ、目には暗い炎が燃えているように思えた。

 この二人、仲が悪いのかな?

 口もきかない犬猿の仲というより、関係が破綻しちゃった元夫婦みたいな雰囲気も感じる。

 

「文句あんのか、文句。

 ほんまのことやろが。バイタ。」

 

「――アタシだってかんばってる。掃除だってしてるし、――。」

 

「ケッ、何をがんばってるんかい!

 掃除ってなんや。せっせと爺のをしゃぶって、キレイにしてることか?お気楽なもんや。」

 

「ちがう、今はやってる!それに礼儀作法も、お茶だって、――」

 

「チカチロウ、マイラ、止める。」

 

 だれかが、声をかけてきた。低く、よく響くバス・バリトンの声。

 ぴぃん、と空気が張りつめた。

 

 後ろの廊下から、またもうひとりの男の人があらわれた。

 端正な顔、ちょっと細いが鍛えられた体つきの、かしこそうな風貌の人。

 ごくふつうの白い半袖シャツと濃いグレーのスラックス。シャツから出てる、日焼けした小麦色の肌のしたに、筋肉の束がみえる。

 志野くんに似てる。一般的には志野くんより美形っていわれるだろうな。理想化された志野くん?

 わたしは胸がどき、っとした。

 

「チカチロウは、間違い。

 マイラの仕事は、違う。

 マイラは、良い仕事をする、いままで。

 チカチロウは、ひどい仕事をする、いままで。

 ○○○○○は、チカチロウを怒る、この前。」

 

 言葉は片言で、文法や発音もまだ慣れない外国の人ってかんじだった。肌色とかも考えると、日系の外国人なのかな。

 だけど、意味はいちおうわかる。

 まいらさんはしっかり仕事してる、近知郎はダメで叱られてる、って言ってるんだな。

 

「――わーった、わーったよ。」

 

 うるせーな、とぶつぶつ言うが、近知郎さんは正面からは反論しないし、にらみ返したりもしない。顔を背けてる。

 近知郎さんは、どうもこの人が苦手みたいだ。

 ちなみに、このちょっとカッコよさげな人の言った「○○○○○」のところ。

 近知郎さんの口から聞くと、「苦しい歯」に聞こえてた、その名前だと思う。

 この男の人から聞くと、「クルスィファ」みたいに聞こえた。ネイティブっぽい発音だ。

 この男の人、そのクルスィファさんと同郷の人なのかもしれない。

 

「テドさん、ありがと。」

 

「はい、マイラ。どういたしまして。

 ――君、は、大丈夫、です?」

 

 テドさんと呼ばれた、ちょっと格好いい男の人のアーモンド形のきれいな形の目が、こっちを見つめている。

 わたしはその視線に、志野くんみたいな真摯さを感じて、どきっとした。

 

「紫藤みなりと言います。よろしくお願いします。」

 

 丁寧に頭を下げる。

 

「僕は、手戸(テド)万出(マンデ)、です。」

 

 そういって、胸元からIDカードみたいな名札を出してみせてくれる。

 名前は外国人っぽいな。でも、漢字表記なのか。

 日系の人で、帰化したかどうかしたんだろう。

 テドさんがカードを持ってる、その親指の位置のせいで、顔写真とかその他の情報は見えなかった。

 

「僕と、アンドウ・チカチロウ、は、同じ、です。

 僕と、チカチロウ、の、役目は。御前様を守る、こと、です。

 よろしく、です。」

 

 一見冷たそうな、整った直線的な頬を緩めると、意外なくらいひとなつっこくみえる。

 素朴なところがあるのに、かっこいい。

 志野くんに、エキゾチックさと大人の魅力がくわわった感じだ。正直、好み。

 

 ――いやいや、いけないいけない。浮気はだめだよ。

 わたしには志野くんがいるんだ!

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

 なんか心の中に、不服そうな志野くんが壁の曲がり角から頭を出してこっちをみてる絵が浮かんだので。

 ちょっとそっけなく、芸もなく同じようなことを2回繰り返して手戸さんに言った。

 でも、それでよかったかもしれない。

 

 視線の端にいる、まいらさんの視線。

 手戸さんがわたしに話しかけてからは、圧がきつくなってた気がしたけど、それが緩んだ気がする。

 たぶん、まいらさんは。

 この手戸さんが、好きなんじゃないかな?

 手戸さんはかっこいいけど、でもそれだけだ。わたしは志野くんが好きだし。

 手戸さんをめぐって、まいらさんにライバル認定されるなんて、まっぴらだ。

 

 ――――――

 

 その後、手戸さんに近知郎さんは追い払われ。

 重そうなスーツケースを運ばされてた。

 まいらさんの手から、手戸さんはわたしの荷物をとりあげ、入り口からほど近い豪華な応接室にはこんでいってくれた。紳士だ。

 手戸さんは、でも、応接室を出るとき、入り口で頭を上にぶつけてた。

 いたそうではなかったけど、頭を擦っていた。ちょっとかわいい。

 ただ、わたしはその後ろ姿をみおくりながら、微妙な違和感を抱いた。なんだろう?

 

 手戸さんが去ると、まいらさんは、わたしをふかふかしたソファにすえて。

 ちょっと待っててね、と言って席をはずし。

 そして5分くらいで、おしゃれなティーセットをお盆にのせて戻ってきた。

 軽くひざをつくようにして、コーヒーテーブルに、どこかすこしぎこちなげな手つきでティーカップを置き、お茶をそそいでくれて、めしあがれ、と言ってくれる。

 

「ありがとうございます。」

 

「いえいえ、どうぞ?」

 

 お茶もマナーもお料理も、プロの講師まで手配してもらって。

 ひととおり、練習したんだけどね。まだまだてんでだめ。

 でも、がんばったんよ?

 

 笑って自分もお茶をのみながらそういうまいらさんからは、今のところは敵意も隔意も感じない。

 それにしても、いろいろ研修してもらえるなんて、びっくりだ。

 

「みなりちゃん、だっけ。トクベツ奨学生?」

 

「はい。そうなんです。」

 

「もう一人、トクベツ奨学生って子、いてるよ。

 ミズキちゃん、って子。

 篠崎(しのざき)瑞(みずき)ちゃんね。」

 

 なんかムズカシイ字で、アタシは書けないんだけど、と言って笑ってる。

 でもだいたい、まいらさんの「こんな感じの字?」という説明でわかった。

 

「いい子だと思うんだけど、ちょっと前から、なんかふさぎ込んじゃってて。

 アタシとはタイプ違うしトシも違うから、なんにもできなかったけど。

 みなりちゃんがお友達になってくれたら、元気になるかもしれない。」

 

「今は、どこにいらっしゃるんですか?」

 

 まだ、学校かな?

 

「どこだろう?最近、そう、ここ1週間くらい、ぜんぜん見ないんだ。

 前は、お食事を一緒にとってたんだけど。」

 

 首をひねってる。

 そういうの、気にならないのかな。

 その私の不審に、まいらさんは気づいたようだ。

 

「ほらアタシ、バカだから。いろいろ気がつかないの。

 高校中退で、仕事みつかんなくてさ。」

 

 あー、ええっと。

 そのうちわかっちゃうだろうし、言うね。

 あのクソ男、近知郎がさっき言ってたこと。

 あれって別に、完全に間違いじゃなくてさ。

 アタシ、ここしばらくストリップやソープやクラブで働いてたの。借金しこたまこさえてさ。

 そして愛人っていうか玩具として売られたのよ。お爺さん、御前様のね。

 

 そんな、なまなましいヘビーな話をいきなりぶちこまれて、わたしはどぎまぎした。

 でも、どうりでなんかあふれる色気があることに納得がいった。

 

「御前様、って。もう90歳近くだ、って伺いましたが、――」

 

「そのはずなのよね。でも、とんでもない体よ?」

 

 もしかすると。

 そういう、うーん、その、性的なご奉仕を、まいらさんはしてるのかな?と疑問を覚える。

 おもわず、まいらさんの、多分男の人にはすごく魅力的にみえるだろう体に視線が行ってしまう。

 それを見て取って、まいらさんは。

 

「でも言っとくけど、御(・)前(・)様(・)と(・)は(・)、まだなのよ。だから近知郎は、そこはまちがってる。

 そのうち、と言われてるんだけど。」

 

 でもそれはもちろん覚悟してる、とまいらさんはいう。

 

 すごい額の借金も帳消しにしてもらったし、病気(まいらさんは口を濁してたけど、性病かもとわたしは推測した)も治療してもらった。

 研修とかいって、お茶やお花やお料理も教えてもらって、たぶんそれ以外もお金かけてもらってて、いまさら嫌ですなんて言えない。

 買われてなけりゃ、アタシそろそろ死んでたか、保険かけてバラされてたと思う。

 そ(・)う(・)い(・)う(・)お(・)勤(・)め(・)のためだ、っていわれて買われたんだし。

 でも、まだなのよね。あの側用人さんからは、御前様も、以前は女を抱いてたみたいな感じのこと、ちらっと聞いたんだけど。

 でもさ、アタシも御前様の好みじゃないからって追い出されたら、行くところないんだ。

 

 そう、言う。

 ただ、添い寝はときどき求められて応じるらしい。

 そして将来の介護要員としても期待されてるのか、入浴にもときどき付き添って背中を流したりしているらしい。

 

 それらの機会にみたおじいさんの体は、とても90歳の老人には見えなかったという。

 あの体は並の60代よりずっとずっとたくましい、アッチもぜったい現役のはず、という。

 しかも、4月にまいらさんが雇われたときより、今の方がずっとたくましくなってきてる、らしい。それはもう、急激に。

 

 きんにくじょうきょう、いや、えーと、――きんにくぞうきょうざい、だっけ?

 それ使ってるのかしら。

 

 そう、自分で言いながら首をかしげてる。

 

「その、お話とかされるんですか?御前様は?」

 

 その、どんな感じの人柄か知りたい。

 

「うーん、頭はちょっとだけボケてきてるのかもって、思った。」

 

 アタシ、バカだからよくわからないんだけどさ。といいながら、いくつか教えてくれる。

 

 添い寝や入浴、食事のときに、話すこともあるが。

 話はできるが、前会ったときと同じ話を繰り返すこともある。

 そしていろいろな人やものを怖がってる。そしてカニを、とくに。物音とかにも怯えてたりする。

 

 カニ?

 

「そう、たしか『カニ』。なんなのかしらね。」

 

 そんなところがあるけど、身体的には介助はいらないらしい。お風呂ももちろん自分で入れるし、おむつではない。排便とかのしまつをしたことも、ない。

 ただ入浴時、ひどくなまぐさかった(たぶん脱糞などの粗相をして、匂いが残ってた?)ことが、あった。

 

「粗相しそうな感じじゃ、ないけど。

 夜に粗相したりしたときは、あの側用人さんが、なんとかしてるんじゃない?」

 

「そうですか。」

 

 そうだとすると、おじいさんのおむつを替える介助とかは、――すくなくともしばらくはなさそうだ。

 一緒にお風呂はいりましょう、はイヤだけど。

 うーん、でも、脱がずに背中を流すだけくらいなら?家族で温泉入るようなものかな?

 あと、気になるのは。

 

「あ、まいらさん。近知郎さんたちのほか、この家にはどれくらいの人がいるんですか?

 たとえば、クルスィファさん、って、――」

 

 この館の住人のこと。特に気になるクルスィファさんだっけ、その人とかのことを聞こうとしたとき。

 

「――おくつろぎになれましたか?」

 

「!」

 

 ふと気がつくと、応接室の入り口に伯父さんが立っていた。

 まいらさんも気づかなかったみたいだ。びっくりしてるけど、さっと立ち上がって壁側にひかえて一礼した。

 

「御前様の、準備ができました。

 ご挨拶にいきましょう。

 あ、荷物はそのままそこで構いませんよ。」

 

「はい。」

 

 制服のままでいいのかな。ちょっと襟もとをなおしたりしながら。

 わたしはやわらかいソファから立ちあがり、まいらさんに御礼を言い、伯父さんに先導されて廊下をあるいた。

 

 洋館はありがちなL字型、ロの字型じゃなくて、なんていったらいいんだろう。

 「の」とか「G」、あるいは「6」っていうか。中心部が割れ落ちたうずまき蚊取線香に近い形なんだと思う。

 もちろん曲線でなくて、基本、直角直線。

 中庭を囲むように、建物がトグロを巻きかけたようにあって(とはいっても、基本、ロの字といっていい。ロの形につながってなくて、建物がさいごの1辺の半分だけ、巻きが重なってる感じ?)。

 そして、その終点が、塔になってる。

 建物は基本2階建てだけど、この塔だけは5階建てくらいありそうだ。

 塔は小さいよ。だけど高い。

 不思議な構造だ。

 

 わたしたちは、長い廊下をてくてくと歩く。廊下を半分くらいすぎたところにあった内側に開いた窓から、お洒落な柱廊と中庭がみえた。

 建物の入り口のある一辺の曲がり角あたりで、廊下に鉄格子の仕切りがあり。

 そこで靴を脱ぎ、室内ばきに履き替えることになってるみたいだ。

 なるほど、ここまでの部分は広いけど応接スペース、この先が私室というか居住スペース(?)なのかな。

 わたしは促されて、その横のシューズクロークで上質そうな客用スリッパに履き替え、伯父さんが開けてくれた鉄格子の入り口をくぐり、居住スペースに入る。

 

 足が沈む赤いじゅうたんの廊下を、さらに進む。ところどころの壁には、油絵が掛けてあったりする。

 アール・ヌーヴォー的な、曲線を多用した優美な階段を使い、2階にあがり。

 とある1室の、とびらの前に立つ。

 こんこん、と伯父さんは、重厚な扉をたたく。

 そのとき。

 

 わたしは、ふと足がすくむのを感じた。

 なにか、ありえないことだけど。

 動く骸骨や吸血鬼のような、とてもこわいものがその向こうにいるような気がして。

 

「お連れしました。」

 

「―――」

 

 なにか聞き取れないが、応えがあり。

 伯父さんは重い扉をわたしのために開けて、入るようと促した。

 わたしは、足のふるえを必死で押し隠しながら。

 促されるままに、その部屋に入った。

 

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