タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
多少、細かい部分を修正するかもしれません。
「そろそろ、電話をかける時間ですね。
様子をみてきます。」
わたしは、伯父さんとまいらさんにひととおり、ざっと案内をしてもらって。
またさっきの玄関ホール近くの応接室に戻ってきていた。
窓の外を見やると、かなり日が傾いてきてる。7時前くらいかな?
伯父さんが、応接室から離れると、まいらさんがほうっ、とため息をついて、かしこまって控えていた壁際から離れて、あの廃人製造ソファに、ちょこん、とわたしと並んで軽く腰かけた。
こっちを見やって、「疲れたでしょ」みたいな感じに、軽く笑った。
わたしも、おずおずとわらいかえす。
ちょっと気づいたこと。
まいらさんは、あきらかに伯父さんをおそれている。こわがってる。
御前様という、あのおじいさんよりも。
まいらさんは、ときどき。
わたしといっしょにいて気が緩むと、ちょっと、いやかなり下品な言動もあるし。
近知郎さんとのやりとりとかでみるように、気性の激しいところもかいまみえる。
でも基本、わたしには親切だし、いつもはがんばって礼儀正しくふるまおうとしてるみたいだ。
礼儀作法の先生に付いて勉強した、というだけあって、お辞儀とか立ち居ふるまいとかも、まだぎこちないけどちゃんとした印象。
くりかえすように、わたしといるときは、かなりゆるい。
本人がいうとおり、わたしには、「フツー」に話せる仲間を求めてるんだろう。
まいらさんは、(わたしの勝手な推測だと)結構、女同士では合う人、合わない人がいるタイプ。
わたしは、今のところ「合う人」認定されてるみたいだ。
(ただ、この手の人、ちょっとしたことで「合わない人」判定に変えてきたりするんだよね。)
篠崎さんというもう一人の特別奨学生は、たぶん「合わない人」だったんじゃないかな。
それはともかく。
わたしに対するゆるんだ感じは、べつにわたしは不快じゃない。
だいたいわたしは、まいらさんからすれば半分くらいの
わたしとしても、気のおけない感じにいろいろ話せる方がいいよ。
でもその真逆が、伯父さんに対する態度だ。
伯父さんに対しては、なんかすごく、おそれおののいてる感じがする。
まいらさんの態度は、まるで主人に生殺与奪の権利をにぎられている古代の奴隷みたいだ。
ここでみてる限りは、伯父さんはそんなに理不尽な命令もしてないのに。
きっと伯父さんが、まいらさんを雇う(「買われた」ってまいらさん言ってたけど、まさかだよね)ことを決めて。
そして、首切りの権限も持ってるんじゃないかな。
御前様というおじいさんがぼけてきてるとしたら、伯父さんがいろいろ決めてるんだろうし。
「いろいろ、ありがとうございました。
さすが、いろいろお仕事されてるんですね。」
少しつかれた感じのまいらさんに、お礼を言っておく。
「あー!そんなこと、ないのよ。
アタシも3か月もいながら、最初しばらく、お医者さんで抜けることも多かったし。
その後も、研修のお勉強とかが入ったし。
ちゃんとフルに勤めてるのは、ほんの、この1か月くらいかなあ?
しかもね、見るなさわるな立ち入るな、って言われてるところがいっぱいあって、まだよく知らなかったりするのよね。」
「いつもは、どんなお仕事されてるんですか?」
「そうね、お昼のあいだは、――ごはんとお掃除かな?
でも、みなりちゃんはお勉強もあるんでしょう?そこまでお仕事はないんじゃないかな。」
簡単に聞き取ってみる。
食事の配膳関係とお掃除洗濯ベッドメイクなどが、まいらさんの昼間のお仕事らしい(洗濯はランドリーサービスなども使ってるらしい)。
気になった、食事関係についてすこし聞いてみる。
基本的には、御前様やその周囲の人の食事の準備は、「下屋敷」からくる料理人がしてくれる。
食材の下準備や簡単な調理とかは、まいらさんも手伝うことがある。
(「下屋敷」は、この建物にくる直前の、三叉路の広場らのあったあの集落を漠然と指してるんだと思う。)
御前様と伯父さん、そして手戸さんはほとんどいつも一緒に食事をとる。
この3人への配膳と給仕は、まいらさんが行う。
それ以外の人たち、つまり、わたしを車で連れてきてくれた
これらの人たちには、給仕などはしない。
(クルスィファさんのことは、話に出なかった。わたしも、このときはききわすれていた。)
このうち、手戸さん、近知郎さん、そして江渡門さんは「上屋敷組」みたいな感じで、住む部屋も上屋敷にあり、基本的に上屋敷に常駐してて、御前様のガードもかならずこの3人の誰か。
のこりの人たちは「下屋敷組」みたいな感じかな。この前、お父さんを自動車で送ってきてくれたクマモトさんも、この下屋敷組。
下屋敷に部屋があり、シフトで日中だけ上屋敷の警護に来る感じらしい。
下屋敷には、あまり人数は多くないけど奨学生(一般奨学生)や、社員の寮もあるらしい。
「でもね、腕のことは、よくわからないけど。
下屋敷の人の方が、まともよ?」
だから、あまり上屋敷の警備の人たちには近づかないでおいた方がいいわよ。
そう、まいらさんは言う。
やっぱり近知郎さんは変だよね。うん。
江渡門さんも、あまりまともじゃないのかな。
この二人の名を言ったときのまいらさんの口調には、かくしきれない嫌悪感があった。
「あ、でも、あの手戸さんだけは別!」
手戸さんは、まいらさんの理想に近いらしい。
とはいっても、まいらさんもあまり親しくしゃべったことはないみたいだ。
まあ言葉の壁はあるけど、まいらさん自身は、そこは気にならないみたい。
そこはカラダでわかりあえるのよ、と片目をつぶって言ってる。うぼぁー。
こういうことを言ってるまいらさんは、すごく生き生きしてる。コイバナが好きなんだね。
「紳士的ですよね。近知郎さんと比べると。」
気を取り直して、手戸さんをほめる。
だけど意外だな、志野くんみたいなタイプがまいらさんも好きなのか。
「くらべる相手が、間違ってるわよー。
近知郎は、最悪!へらへらしてるけど性格サイアク。
手戸さんは、あのワイルドで野獣的なところもいいのよね。」
ん?ワイルド?野獣的?
手戸さんは、志野くんに似てて、知的なかんじがいいんだけど、――?
「ワイルドなんですか?」
「やだー、まだ試してもらったことはないけどー。
でもあの太い腕とか、毛の生えてる腕や胸とか。
ぜったい、ワイルドだと思う!
あと、あのひげもいいわー。」
太い腕、ってほどでもない、――よね?
たしかにしっかりしてて筋肉が隠されてるけど、締まった感じだよ。
毛。腕と胸の毛。――毛なんて、生えてたっけ?
ましてや、ひげ?
ひげって?
「ええ、あの軽く生えてるブショーひげの、っていうのかしら。
あれでほっぺたチクチクしてほしい!」
え、ええ――?
志野くんと同様、手戸さんの頬はなめらかだ。
わたしの頭に、ぴこん、と何か警告灯が灯った。
「--手戸さん、背が高いですよね。」
おそるおそる聞いてみる。
「あ、さっき、ぶつけてたわね。かわいかった!」
そこは、同じものをみてたんだな。
でもわたしは、手戸さんが応接室で頭をぶつけたときの違和感を思い出していた。
そしてこの、どこかおかしなまいらさんの言動。
しかし、わたしが考えをまとめるまえに。
まいらさんが、しゅたっと立ち上がって、壁際に控え、うやうやしく、頭を下げる。
(こういうところは、まいらさんは機敏だ。)
戸口を振り向くと、案の定、伯父さんが戻ってきてた。
「それでは、電話を入れておきましょうか。」
伯父さんは、あの笑顔もどきを浮かべ、わたしたちの先に立って先導する。
かたつむりの殻のような構造のため、本当に時間がかかるんだ。
なんでこんな構造にしたんだろうな。
「さあ、こちらに。」
さっきの、あの御前様にごあいさつした書斎の部屋だ。
軽くノックして、答えがないのに伯父さんはドアをあけ、わたしを招じ入れた。
「扉、閉めた方がいいですか。」
「どちらでも。」
伯父さんに、促され。
わたしは、なんだか高そうな黒光りしてる、無垢材の机に社長さんのように座り。
手を伸ばして、電話機を取る。
電話機は、シンプルなグレーの電話機。
さとみんの電話番号は、覚えてる。
ぴぽぱと押して、るるると音がするとすぐつながった。
「あ、さとみん。わたしです。みなりです。」
「みなりちゃん?ありがとう。用事は済んだかしら。」
え?
「みなりちゃん」って?
とまどいを声に出さないよう、つとめる。
「うん、大丈夫。用事は、――たぶん、もうそろそろ終わりじゃないかと思うけど。」
ちらっと入り口近くにいる伯父さんに目をやると。
伯父さんは、皮一枚の笑みをうかべて頷いた。
「よかったわね。――そうね、本題だけど。
例の件、あの仕事はミツミちゃんに振ったから、一緒に取り組んで?
急ぎだから、ミツミちゃんにはもう始めてもらってる。みなりちゃんも帰ったら、どのくらいまで済んだか電話して聞いて、進めて。」
「え!?ええ、あー、うん、わかった!ミツミちゃんだね。」
わたしの観測範囲に、ミツミちゃんなる人物はいない。
だからやっと、わたしはきづいた。
これは、ブラフかな。さっきの、「みなりちゃん」も。
わたしは、あの学校の応接室でさとみんが出て行くときの、ウィンクと指で唇を撫でるしぐさをようやく思い出していた。
「明日までには、先生に相談できるくらいにすませときたいから。お願いね?」
「わかったよ、またね!」
電話を、なにごともないように切った。
でも、失敗したかな。
「さとみん」とか、したしげな呼びかけを使っちゃったよ。
「終わりましたか。」
「はい!ありがとうございました。」
「それでは、どうしますか。
もしよかったら、お食事も準備できてますし、お着替えもお部屋も用意しますから、泊まっていかれませんか。」
「え!?いえ、ありがとうございます。でも、弟もいますので、今日は帰ります。」
弟は食事もろくに作れないので。
そう、千里を口実にする。
「そうですか。」
伯父さんは特に残念そうな顔もみせず、頷いた。
「では、送らせますね。そう、――」
「側用人さま。下のものに送らせます。」
廊下にいたまいらさんが、そう進言してきた。
どういうわけか、顔に血の気がなく、白っぽくみえる。
「そうですか。では、そのように。」
「はい。ただいま。」
まいらさんはほっとしたように一礼すると、廊下を急ぎ足で去っていく。
わたしと伯父さんは、ゆっくりとその後を追った。
――――――
まいらさんに教えてもらったことだが、外と通話できる電話は、ここともう1か所しかないようだ。
あとはどうも、内線専用らしい。
たとえば、玄関ホールから私邸スペースに入った、そのすぐそば(シューズクロークのすぐそばだ)、侍女(まいらさん)の待機所がある。
そこにも電話の受話器らしいものがあるのだが、この電話は下の村の警備詰め所、そして下の村との境界の詰め所など、内部で話すときの専用線なんだ、外には電話はかけられない。玄関の呼び鈴もここに流れる。
来訪者はほとんどいないが、来た場合には、侍女詰め所にいるまいらさんか、警備詰め所に詰めてる、シフト番の警備の人が駆けつけてきて開けるオペレーションらしい。
予約のある客がほとんどだろうし、飛び込みの客がいても下の詰め所でチェックして連絡がいくんだろうな。
ただ、年末年始には御前様の親族があいさつに訪れる、とめずらしく伯父さんがまいらさんの説明を補足した。
下の村から迎えがくるまで、わたしとまいらさんは、言葉少なに応接室で待っていた。
もちろん、学校のかばんとかも持って。
「それじゃね、ゆっくり休んで。」
迎えに来た車の音が、すると。
なんだか、さっきから無口になってしまったまいらさんが。
どこかいたいたしくおもえる笑顔をうかべながら、わたしのかばんを運んでくれて。
玄関前のロータリーに入って横づけした車のトランクに入れてくれて、そしてわたしが乗り込んだ車の後部座席の窓の外で手を振った。
結構、情の厚い人なんだな。
というかたぶん、篠崎さんという子がいなくなって、ひとりぼっちで心細いんだろうな。近くにいるのがあの近知郎さんとかだし。
わたしはそう思って、動き始める車の中で手を振りかえし、さらに頭を下げていた。
運転手は、あのクマモトさんという人ひとり。
何もしゃべろうとせず、わたしと目すら合わせず、黙々と車を運転してくれる。
わたしも考えることがたくさんあって、放置してくれるのがうれしかった。
ちなみに今回は、左ハンドルの外車じゃなくて国産車だ。
途中でうとうとしてしまったが、気がつくとざくろが丘への坂を車が猛然と登ってた。
すっかりくらくなってる。8時すぎくらいかな。
この前、家に勇お父さんを送りにきたときに道を覚えてたのだろう、クマモトさんはほれぼれするくらいきれいにキュッと家の前に車を停める。
「ありがとうございます。」
お礼をいうと、うっそりと頭をさげてくれた。
車が方向転換して、去っていくのをみおくって、多分みてないと思うけどもう一度頭を下げ、家に入る。
家には、2階にだけ電灯が点いてる。
勇お父さんは、いないんだな。
緊張して自覚してなかったけど、ちょっとお腹すいちゃった。
もし千里がまだ食べてなかったら、軽くなんかつくっていっしょにたべよう。ざるうどんかな、オムレツでもつくろうかな。
わたしはそう思いながら、家の鍵を開け、中に入った。
――――――
――――――
(第三者視点)
「何か、彼女は御前様から聞いたと言っていましたか?」
側用人は、おだやかに女に尋ねる。
ソファに座る彼の前に立つ女は、緊張のあまり背を軽く丸め、前で組んだ手をぎゅっと絞り、自分で自分に軽い痛みを与えて恐怖をやわらげようとしながら。
罪人のように目を伏せてうなだれ、尋問に答えている。
「いえ、なにも。
御前様のむかしの話を聞いた、と言っていました。
カニのことも、聞いていないようでした。」
「でもカニのことを、何か話していましたね?
何と言っていたのですか?」
「はい。向こうからは何も言い出さなかったので、2回ほど、話題に出してみました。
御前様の行った昔の戦争に関係してるんじゃないか、戦争で死んだ人を、ヤシガニというカニが食べていたのを御前様がみたのじゃないか、と言っていました。」
「そうですか。いいでしょう。
ただ、これからはカニのことを聞かれても、適当に流すように。」
「――。」
「嘘はわかりますよ?クルスィファがいますからね。」
「――はい。」
「それから。今日は近知郎の部屋に行きなさい。
あの子を見て、興奮してしまったようです。」
「――はい。
そして、あの、ミズキちゃんは、――」
「
「もしかして、みなりちゃんが来ると、――?」
「余計なことは考えないように。言わないように。
でないと、あなたもわが主やクルスィファに入念にかわいがってもらったり、近知郎たちに下げわたされたりすることになりますよ?
とくに最近、クルスィファは街に出てないようですしね。」
「――申し訳ありません。お赦しください!」
「いいでしょう。
それでは、少し遅くなりましたが、御前様にお食事を。
料理はもうほとんどできているそうです。」
「はい。」
赦されて、恐怖をうかべた侍女が、小走りに去っていくのを。
側用人は、もうすっかりつくり慣れてきた(と自分では考えている)にこやかな笑顔の表情で見送った。