タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
特に部長さん周辺など、少し内容、後で修正したり補足したりするかもしれません。
――どういうわけか、最近しのりんが冷たい気がする。
毎日、充実してる。
部活も勉強も友人関係も、調子がいい。
でも、なぜかぽっかりとこころの隅に穴が空いたままになっているような感覚を、国領ハルカは覚えていた。
――ちょっと、いじりすぎたかな?
妙な不良たちから救い出してもらったあの日。
そしてあの竜神に拉致され、その窖から二人で抜けてきた冒険。
共にしたこの2つの冒険の後で、志野は高熱を発してしまい。
国領ハルカは、いわばお預けをくってしまった状態だった。
できれば、濃厚な体験をともにした志野とふたりだけになって、じゃれつき。
ねーねーたいへんだったよね!みたいに思いを共有して、甘えたかったのだ。
ちょうど、大好きな飼い主が帰ってきた飼い犬のように。
それなのに、すぐ思いを果たせなかったのがいけなかった。
だから水曜日、志野がようやく登校してきた日に、はしゃいでしまって。
いろいろ、ひどい弄り方をしてしまったのかもしれない。
思えば、彼女の友人、調布智美もしのりん弄りに加わりながらも。
賢いことに、微妙に志野を傷つけ(すぎ)ないように配慮してたような気がする。
その点、ボクは考えなしにおもいっきりガリッてやっちゃったかもなー。
しょぼん、と彼女は肩を落とす。
どういうわけか、習熟度別クラスでいっしょになっても、微妙に避けられてる。
同じ教室にいても、いきなり志野の方に行くのは恥ずかしいから、とりあえず調布智美とか紫藤みなりのところに行ってしゃべってみる。
女の子の仁義(?)からいっても、その順番だよね、と彼女は思う。
でもそうすると、なんと志野はこっちに来ずに、ずっと男の子たちとしゃべってたり、すうっと次の教室に行っちゃったりするんだ。
あー、そうじゃないのに!なんでよ!
それに。
せめてお昼ごはんの時間、一緒にたべようと思うと。
なぜか志野は仲間の男子どもに連れ出されて、学食に行ってしまってたりする。
いや、調布智美も紫藤みなりも、彼女の大切な仲間だし、一緒にいるとたのしいけどさ。
でも志野の心が知りたいのに。
折あしく、部活も忙しくなってきてしまった。
秋の大会にエントリーできそうだし、国領ハルカは弱小校ながら次期エースと目されている。
そして良いことだといえば良いことなのだが、調子がいいのだ。絶好調。
男子体操ではやる人がいても、女子体操では難易度が高すぎてできる人のあまりいない技にも挑戦して、成功させてしまう。
平行棒もゆかも平均台も、なんなら苦手な跳馬も、すごく調子がいい。
上半身の力がついた、というのだろうか。体が軽い。
顧問の先生も、力は全国レベルの強豪校にも全く劣らない、あとは技の完成度だ、と言って期待してくれてる。
――でも。
このことを言って、褒めてもらったり、よろこんでもらったり。
ねー、これって竜神のせいかなー、とか。
あのとき大変だったよねー、とか。
どうやって竜神連れ出そうかー、とか
いろいろ二人の話がしたいのに。
しのりんが冷たいんだ。
――――――
志野にはぐらかされて逃げられることが、続き。
土曜日の放課後、こんどこそちゃんとつかまえて話そうと思って来てみると。
直接の面識はないけど、超絶美人で有名な上級生(あの英語劇に出てた、『ジュリエット』だ。まちがいない!)と志野が、渡り廊下で顔を寄せ合って仲むつましげに話しているのを、発見してしまう。
それを、遠目にみながら。
心の痛みに耐えかねて、ついに
この凛とした長身の麗人、調布智美は。
だから、この悩みを言うのはなんかライバルに負けた気がしてならなかったが。
でも、もうどうしようもなくつらかったのだ。
ちなみに調布智美と凸凹ペアを組んでる(?)紫藤みなりは、今日は住み込み先の主人に招かれて昼食をともにするということで。
一足先に、運転手つきのかっこいい外車に乗り、大富豪のお嬢様のように出発してしまっていた。
「ねえハルカ。――どのくらい、話してないの?」
調布智美は、じっと大きな黒い目を国領ハルカに据えて聞いてきた。
ちょっと決まり悪くなって、明後日の方を見ながら思い出そうとする。
「うーん。あの水曜日の後だったら、――」
あのあと、予知夢について少し教えてもらって。
そして木曜日の2時間目のあとの休み時間に、ちらっとだけ「たがまい」(多賀島毎日新聞)にトップ記事で掲載された、葉良議員の辞任の深層に関する記事のことで話したことがあったけど。
サシでの会話、それ以外はほとんどないよ。
「――ちょっと、ひどいわね。」
秀麗な顔をちょっとしかめながら。
調布智美は国領ハルカのちょっと要領を得ない話をふんふんと聞いた後。
渡り廊下の方に視線をやりながら、そう言った。
つられて、国領ハルカも視線を投げる。
あ、なんかあの
「しのりん、ひどいよね!」
それを横目でみながら、万感の思いを込めて国領ハルカは答えた。
「いいえ、彼もまあ、ひどいとは思うけれども、ね。
――あなたもあなたよ?」
「え?」
ちょっと思いもかけないところからの切り込みで、国領ハルカは狼狽した。
「ねえハルカ。文化祭の前、あなたと志野ってどのくらい話すことがあった?」
「うーん、そうだね。週に1、2回くらい?」
「今は?今週に入ってからは?」
「直接だと、週に2、3回――」
「そうね。だから今も文化祭の前と同じくらい、あるいはそれ以上、話してるでしょう?」
「でもちがうよ、やっぱり!」
もっと、濃密にはなしたいんだ。
だってボクたち、――すごく関係を深めたはずで。
「でもあなた、恋人になる気はないって言ったじゃない。」
ぎゃふん。
そうなんだよね。
ちょっとまだ心の整理がついてなかったから。
恋人になる気はない、ってあのとき言っちゃったんだった。
いや、その、恋人ってさ。うーん。実感なくて。
それにみなりんとかがいたら、ボク、入る余地なくない?って思っちゃったんだよね。
でも恋人になる気はない、って言ったのは事実。
「だいたい、恋人でもない異性に、時間割く意味なんてある?」
うぐっ。
「ヤらせてもくれない、本命に誤解される危険性もある。――時間割いてつきあう意味は、ない。
まあ志野の場合、みなりが寛大だからまだいいけど。」
それに。
あなたの態度、振り返ってみてどうかしら。
「あー、」
水曜日、志野が戻ってきたときに。
さんざん言葉の剣で切り刻んでいじくりまわしたのも事実。
けっこう、マジギレされるようなところまで切り込んじゃったかも。
フォローもしてない。できなかったんだけど。
あ。
ボク、ひょっとしてまずい位置にいる?
「ええ、多分志野は、あなたが志野のことを嫌ってると思ってるわね。」
「えー!」
いや、嫌いじゃないって、好きだっていったよ!あのときも、裁判でも!
あー、うん。その、――友達としてね。
「友達として、ね?」
ぎゃふん。
――――――
がっくり意気消沈してしまった国領ハルカのさらさらした頭を、よしよしと撫でながら。
調布智美は、考えをめぐらす。
実のところ、国領ハルカの悩みはかわいいものだ。
調布智美も、実は国領ハルカほどじゃないが悩みをかかえている。
なんなら、調布智美は調布智美で国領ハルカがうらやましかったりする。
彼に頼りにされてる実感は、ある。
あの予知夢についても、国領ハルカよりつっこんだ話を聞いた(とはいえ、伏せているところも相当ありそうだ。ナギさん関係のこととか。今度、もっとちゃんと聞きだすつもりだ)。
話をする機会は、国領ハルカよりずっと多いし濃密だろう。
好きだと言われたし、好きだと言った。ボタンの掛け違いは、起きてないと信じたい。
一緒にいて、性的なものもそうでないものも含めて、彼の強い好意を感じて幸福感を覚える。そう、精神的には。
ただ、最近、遠ざかってる気がするのだ。その、――肉体的な接触から。
そしてまだ確証が得られてない。確証が。
その点。
ぎろっと、目の前のスレンダーな姿をみる。
うにゃー、嫌われたかなー、と嘆いてる彼女。
どうみても調布智美の先を行ってるのだ。
確証を得ているのだ。この細い体に受け入れて。
軽く殺意を覚えるが、もちろん自分の感情が理性的なものではないことは自覚しているし、国領ハルカは親友だし、自制することの大切さを調布智美は知っている。
だから思考を切り替える。
うまくいけば、性的魅力向上委員会の戦略的な目的を別のルートから達成したり、あるいは補完できたりするかもしれない。
「ねえ、ハルカ。
あなた、志野にもっと近づきたい?」
恋人みたいに?
1対1で話したり。手をつないでみたり?
そう、尋ねる。
「え!あはは、そうだね、うーん。
――うん。そうかも。ごめん。」
みなりんさとみんって、しのりんの恋人だもんね。
ボクみたいな泥棒猫は、お呼びじゃないよね。
そう自虐して、またぺしゃんとなった国領ハルカの脇腹を衝く。
「うぎゃあっ!何するのさ!」
自分を抱くように脇を守って涙目でこちらを見上げる国領ハルカ。
――かわいい!もっといじめたい!
そういうサディスティックな衝動を覚えて。
どうどう、と自分をなだめすかしながら、調布智美は考えていたことを告げる。
「近づきたいのは、あたしもなんだけど。
でもあたしたち、協力できるはずよ?」
あたしたち、ってのは、みなりも含めてね。
もちろんこの前、あなたからいろいろ志野とシたことを教えてもらって、役立ってる。
でも、もっと濃厚に協力するのよ。特に、あなたとあたしにはメリットがあるはず。
「うーん。どうやって?」
調布智美は、提案する。まわりに聞いている人がいないことを確かめて。
かくかくしかじか。
聞いている国領ハルカの頬が、朱くなる。
「うわー、うわー!
それって、すごくなんかハイレベルっていうか。
ごめん、まだちょっと心が固まらないよ!」
あの、それとさ。
ボク、言われなくても、もちろんさとみんやみなりんのじゃまするつもりはないよ?
カラダ面での進展、協力するのも全然かまわない。
ただ、いっしょに、ってのがさ。その、――最終までじゃないにしてもさ?
ボク、最後まではちょっと無理だし。
国領ハルカは、そう動揺しながら、返す。
ただ、即座に否定しない、拒否しない。
それは、ほとんど承諾と同じだと、調布智美は読み取った。
「今週末は、あの子が志野を誘うはず。
だから、たぶん決行は来週末かしら?」
たしか補習最終日は、5日の土曜日。だからその後。
よかったら考えておいて、と調布智美は国領ハルカを誘う。
あの裁判の民事救済に、カウントしていい。
もし今週末のみなりがラストまで行ったら、あたしは来週末にゴールインを狙いたい。
あなたもラストまでいかなくても、加わることで。
真剣だってあの石頭にわからせることができるわよ?
「ただ、ね。」
今回、あなたを志野が避けてるようにみえて、あたしもちょっと気になってた。
ただ、もしかすると見当ちがいかも。考えすぎないようにね?今回のこれも、断ってもいい。
だって、あたしもあなたほどじゃないかもしれないけど、遠ざけられてることがひとつあるの。
志野も忙しいみたいなのに、そのことについてはあたしに関与させてくれない。なんか怖がってるみたいに。
だから、あなたが今、避けられてるって思ってても、その危険なことが終わるまでの一時的なことかもしれない。
だから。
気になるけどアレも、いちゃついてるわけじゃなくて、その関係での話をしてるのかもしれないわよ?
そう言って、調布智美は意味深に再度、視線を投げてみせる。
国領ハルカもその方向に視線を移す。
今、彼女たちが話している廊下の端からみえる、渡り廊下。
まわりにキラキラエフェクトがかかりそうなくらい、透明感漂う超絶美少女と。
鼻の下を伸ばしている(と彼女たちには思えた)志野とが寄り添い、なにか語りあっている。
二人とも、渡り廊下の欄干(手すり)によりかかって外を眺めやっていて。
まるで「未来」とか「青春」とかの題名のポスターみたいな光景。
「そうかなー」
美少女のさらさらミディアムの髪が、急な風にあおられて乱れ、口に入ったみたいで。
やだーとか言いながら(想像)、髪ゴムを出して髪をポニテにまとめようとしてる。
あ、でも志野はあの風で煽られたスカートに注意力を向けていたな!?
そして今、超絶美少女が後頭部に手をやり、髪をまとめようとしてるけれど。
志野は、美少女が腕を上げたため強調された、意外に大きくブラウスを押し上げる胸に着目した後。
さらに上げた腕の、夏服の半袖の袖口からみえる腋に熱い視線を注いでいるようだ。
「――ねえ、さとみん。違うと思う。」
「違うわね。」
――見そこなったわ。
そう言いながら、ぎり、と奥歯をかみしめる音。
志野はこんどは、ほどよい大きさの胸にふたたび着目してる。
あ、美少女が斜め向こうを向いた隙に、背中のブラの線をチェックしたな。
「うん、――ねえ、さとみん。」
「何?」
「さっきの話。ボク、受けてもいい気がしてきたよ。」
「ええ、奇遇だわ。あたしもますます強く思ってたところよ。」
視界の隅では、なんか志野の耳元に美少女が口を寄せてきて。
志野がにやけながら、かがんで耳を近づけ、美少女のささやきを聞いてる。
「みなりには、根回ししときましょうか。
ちょっと腹が立ってきたわ。二人で容赦なく搾り取るわよ?いいわね?」
「もちろんさ。」
二人は目に暗い炎を燃やしながら。
頷きあい、昼ごはんを食べながら詳しい計画をたてよう、と移動していったのだった。
――――――
――――――
(志野視点)
あっという間に日が過ぎて、今日は土曜日、週末だ。
紫藤は今日は、奨学会の方のホストファミリー(住み込み先ね)と食事会らしく、自動車でお迎えが来て先に帰ってしまった。
じゃあ調布たちとお昼ごはんでも食べていろいろ相談したいな、と思ってたのに。
渡り廊下で遭遇した、ESSの部長さんとうっかり話し込んでるうちに。
調布も国領も、薄情にもいなくなっちゃった。部室にもいない。ひどいや。
今日はいろいろ、話したいことがあったんだけどな。
それにしても部長さん、なんかキラキラしてたな。目も恋する乙女っぽくうるんでて。
思わず中身おじさんとしては庇護欲と愛玩欲をかきたてられてしまった。
うっかりして、吉祥奨学会の関係者だというホストファミリーのことをお父さんに聞いてもらうよう頼もうと思ってたのに、とうとう切り出しそこねた。
ただこれはお勤め先とか、結構センシティブな話だからな。あの場はどのみち話さなくて正解だったかも。
だから別れ際に、月曜日にお話させてください、って言っといた。
ここ数日、平穏といえば平穏な日々が過ぎてた。
なんだかんだ言っても、僕も紫藤も忙しい。
授業も勉強も部活もあるし、紫藤母のお見舞いもある。日蔭谷の人々のメディカルチェックも手配した。
(なお、日蔭谷方面について言えば、ナギさんとマコトさんが交代で買い出しに行けてるみたいで、あまり手はかからなくなってきてる。)
紫藤の送迎を奨学会の方でやってくれるようになり(これってすごいと思う。シャトルバスみたいなものかもしれないが)、僕の負担はかなり減ったけれど、それでもいろいろ雑事で時間がなくなる。
あと、紫藤の家の片付けも手伝った。
紫藤継父が家を出たのはどうやら確かで、その後は家に戻ってきていないそうだ。
一度継父から電話があり、滞在中のホテルの連絡先を告げられたそうだ。
最高級ホテルではないが、そこそこ良いグレードだった。その後、連絡はとっていないらしい。
紫藤弟と紫藤が家を出たら、家は無人となる。
だからたとえば電気ガス水道電話をどうするか、とか、郵便物のチェックはどうするか、とかを考える必要があるな。
なお紫藤継父がそれなりに有能だったのか、あるいはその奨学会の方でフォローしてくれたのか、どうも紫藤継父の借金も対外的(金融機関とか)には清算が終わっているようだ。
要は奨学会の方に債権を一本化して、家を担保にして、その清算で返す、ってことになってる模様で、もし家を売らずにちゃんと返済できたらそれはそれでいい、ということだと聞いた。担保割れしてるんじゃないかとはおもうけどね。
郵便物はときどき家に戻ってチェックする必要があるかもしれないが。
もし紫藤継父が戻ってこないのが確実なら、マコトさんとナギさんをこちらに移す手もあると僕は考えている。
なんたって電話が通じるし、余計な家賃(ただみたいなもんだけどさ)を払わなくて済む。ガスも都市ガスだし。郵便のチェックとかお任せできるし。
――――――
さて、懸案は目白押しなんだけど。
当面、やらないといけないことのいくつかに、国領がからんでる。
まず第一が、例の竜神様の帰還作戦だ。
この下調べとか、当日の遂行には国領が参加することになってる。
これ、契約上、国領がいれてあるからな。
抜けられると手が足りなくなる以前に、契約不履行で僕が竜神娘に、ほれザシュっとな、とされてしまうかも。困る。
次に、紫藤の提案してくれた、紫藤母との「夢共有作戦」(仮)だ。
国領に、紫藤母の夢に入り込んでこんにちはしてもらって目覚めさせようという作戦なんだが。
正直、実現見込みは低いというか、皆無に近いと思ってる。
僕は1回目の人生では、きわめて平凡な生活を送ってきた。
オカルトめいたことには、あのとき撃たれて死ぬまで接したことがなかった。
「虫の知らせ」とか「予知夢」とか、現実のものとは信じないタイプだ。
だから、紫藤が。
夢に入り込むことができる(?)国領ハルカに力を借りようと言った時。
頷いたのは、正直、おつきあい半分だ。
まあ、あれだ。子供に虹の根元を見に行こうと誘われて、しかたなくついて行く親の心境。
かなり馬鹿にした話だけど、実際のところはそんな感じ。
ただ、それとは別に、試せることは試そうという気がないわけではない。どっちみち手詰まりなんだし。
それにこの作戦、要は国領に紫藤母と一緒に寝てもらうだけ。危険性は極めて少ない。有効性も低いけど。
それで紫藤の気が済むなら、それでいい。
紫藤母が目覚めたりしたら、儲けものだ。
「夢の中に入り込む」なんて、僕には
ただ、目覚める可能性が全くないと思ってるわけでもない。
というのは。
昏睡状態の人でも、周りのことを知覚していることがある以上。
(これは、立花隆の臨死体験関係の本などで言及されているのを読んだことがある。)
昏睡状態の紫藤母が、意識レベルが高くなってきたときに、周囲の人の気配を感じ取り。
それが夢に反映し、良い方向の刺激となる、という可能性は(わずかだと思うが)ある。
だから本来、国領ハルカでなくても、また別に一緒に眠り込まなくてもいいかもしれない。
ただ、実績(?)のある国領ハルカには、もしかして眠っている人の意識に訴えかけやすい何かの要素があるかもしれない。
よくわからないが、ボディタッチの有無とか、匂いとかだろうか。
ただ、問題がある。
国領ハルカは、やはり僕への恨みを忘れていない。
病み上がりの水曜日の日に、メタクソ攻撃されて思い知ったよ。
その後も、僕を半分無視してるんだ。
習熟度別クラスとかで同じなんだけど、紫藤や調布とばっかり話してて、僕の方には寄ってこない。
なんだかすごく悲しい気がするけど、女の子がいったん冷めたら、それを変えることなんてできない。
ほら、言うじゃないか。女は「上書き保存」で、男は「名前を付けて保存」だって。
男は昔好きだった子のことをいつまでもしつこく覚えてるけど。
女の子は次に好きな人ができたら、前の人は忘れてしまうか、なんなら黒歴史にしてしまうからね。
あのとき、国領が僕のことを好きって言ってくれたけど、あれはあくまで吊り橋効果。
それに、好きって言ったって、「友達として好き」なんだよな。
そしてこの数日の様子をみると、答えは明らかだ。もう、国領は冷めてる気がする。
そんなときに男が追いすがっても、全く無駄なんだ。
話は戻ると。
紫藤の提案した、この「夢共有作戦」。
僕から頼んだり、僕が参加するって言ったりすると、拒否されたり、ひどい条件を付けられるおそれがある。
だから紫藤が、自分で頼むのがいいだろう。
僕は引っ込んで、せいぜい国領(たち?)が紫藤母の病室で寝るときに邪魔が入らないよう、見張りするくらいかな。
そう、紫藤には言った。
紫藤はもともと言い出しっぺは自分だし、自分の母のことだから自分が頼むつもりだったみたいだが、なんか僕の言葉のどこかがひっかかったのか、首をかしげていた。
それはともかく。
国領の力を借りなきゃいけないことがたくさんあるのに、関係が冷却化してきてしまってるんだ。