※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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 前々話の裏、三人称(側用人など視点)です。
 ネタバレというか先の展開がわかってしまう点が多々あるので、もし今の段階ではまだ読まない場合は飛ばしても全く問題ありません。
 ごく軽度の残酷そうな描写があります(☆が不要な程度。加筆するかもしれません)。

20231206 誤字のご指摘、ありがとうございました!


181(裏・閑話)夜と霧の館で(三人称)☆

 

 ――側用人殿。

 

 廊下で呼びかけられて、側用人である彼は振り向いた。

 呼び止めたのは、非常に筋骨たくましい巨体の男だ。

 髪を含め、体毛を剃り上げた(あるいはもとより無毛なのかもしれない)、猛禽類を連想させる魁偉な容貌。隈の深い、愁いを帯びたまなざし。

 この国の者たちには古風でエキゾチックに思われるだろう、故国の流儀であろう礼をとっている。

 

 この男は、孤立気味の環境ながらこの国の言葉や習俗を学ぶのに努力をかたむけ。

 この男の目利きで買い入れた侍女とともに礼儀作法も学び、ひととおりの知識は備えたはずである。

 しかし言葉と違い、礼法は使う機会が少なくまだ使いこなすには至っていないのか。

 あるいは故国の常識を優先させているのであろうか。故国の流儀の方が、一般にはより丁重とされるゆえに。

 いずれにせよ、その心ばえは賞賛に値する。

 側用人である彼も、このからだに刻み込まれた、長い従者としての経験を活かした丁寧な礼を返す。

 

 この、目の前の巨体の男。

 数奇な経緯から、今はいわば食客としてこの小柄な側用人の主人に与力している者である。

 忠誠心は期待できないが、これまでの働きぶりで、その手腕と異能を彼はいかんなく証明してきていた。

 この男の来歴を、偉大な主人の一介の手(・)先(・)でしかない側用人は詳しくは知らない。

 故国での法難を逃れた、きわめて高位の神官あるいは高僧のような立場であると側用人は理解していた。

 

 ――側用人殿は小娘を帰されたな。意外である。

 我は、掌中の小鳥が逃げてしまうことを恐れる。

 

 神官が懸念を伝えてくる。

 大丈夫だ、小娘はまだ気づいてはいない、と側用人は答える。

 侍女を使って鎌をかけたが、まだ小娘はこの側用人の主人の秘密には気づいていない。

 侍女は、恐怖で支配している。わずかではあるが、主の底知れぬ強大さをみせたのだ。合(・)理(・)的(・)に(・)考(・)え(・)て(・)、裏切ることはない。

 通常の手続きを取り、時間をかけても、十分だろう。

 秘密を知ってしまったため今は塔に捕らえてある、初代の乙女のときのように。

 あまり性急に、強引に囲い込むと不自然で周囲に疑念を抱かせてしまう。

 彼はそう伝えるが、巨漢の高僧は納得しない。

 

 ――わが占星の儀で、不吉な影を予見した。

 この新しく来る乙女のそばに、神の帰還の妨げとなる奇妙な存在がいる。

 神力を借りる秘術を以てしても、なぜかこの存在を見とおせぬ。

 このわけのわからない凶星は、そなたの主人にも脅威となろう。

 しかもこの者、一人ではない。妙な能力を持つ忍びの女を伴っているようだ。

 我は一度、因果を逆にたどる秘術により。

 想念のなかで先の凶星を追い詰めたが、この女間諜の介入を受け、手痛い反撃を一度受けて我が分体を1つ消滅させられた。

 なんとしても、機をみて討ち果たさねばならない。

 忍びの女も捕えてじっくりと拷問した後に贄となし、我が神に叛した報いをとくと味わってもらうつもりだ。

 

 ――そこでだ、側用人殿。

 あの新参の乙女の口を、ふさがねばならないし。

 またあの凶星を、墜とさねばならない。

 これらのための細工。我に任せてはくれぬだろうか?

 

 そう、神官は求める。

 

 側用人は、考える。

 たしかに、贄の小娘を早々に帰してしまったことには、懸念もある。

 帰さねばあの連絡先を知りたがっていた女に怪しまれると考えての、苦渋の決断だったが。

 今日見聞きしたことに、もしかすると人(・)間(・)の(・)目(・)から見ると不自然にみえることがあるかもしれない。

(こういう考え方をするたびに、ひどく頭が痛む。なにか大変なことを忘れているか、みすごしているのではないだろうかと側用人は不安に思った。)

 小娘の口をふさぐ必要があろう。

 あの侍女も、もしかすると我らの目を盗んで告発を試みようとしたかもしれぬ。

 念には念を、入れておくべきであろう。

 

 側用人が頷いたのをみた高僧は、にたり、と残忍な笑みをこぼし。

 

 ――あの侍女は、当面は要なのであろう?

 まだ、そなたの主殿の手足は、伸ばせないのだろうし。

 念のため、我が術で読心しておこうぞ。

 

 という。

 あの術は相当の精神力を使うと聞いたが、反対する理由はない。

 その方が、安全であろう。

 側用人は頷いた。

 

 ――あの侍女だが。

 あの侍女、今週末より刻みにはいる手筈の「贄の乙女」ほどではないが。

 なかなか楽しめる食材なのだ。

 術のついでに多少味見しても、構わぬであろう?

 なに、命には別状ない程度に抑えるゆえ。

 

 と、神官は重ねて求めてくる。

 ただ、いまは侍女は、近知郎に使(・)わ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)かもしれない。

 そう、側用人は思い出して言う。

 

 近知郎は、あの生娘をみて邪心をいだいていた。

 それを読み取った侍女が、近知郎が帰りの運転手となることを阻止した。

 このこと自体は、故のない恐れではない。近知郎は己の欲望を優先させる傾向がある。

 貴重な贄を、損なわせるわけにはいかない。侍女は正しい。

 だが餌を取られた人(・)間(・)の抱きがちな欲求不満(こう考えたとき、再びの頭痛を側用人は覚えた)を解消させる必要がある。

 だから側用人は、侍女に夜伽を命じた。合(・)理(・)的(・)な(・)判(・)断(・)である。

 より大きな必要が生じたのであれば命令を取り消してもよいが、既に始まっているかもしれない。

 

 ――あのチカチロウという男。狩りの才能はあるが、雑だ。美しくないのだ。

 それに忍耐がない、待つことができぬ。すぐ目先の快楽に溺れる。

 ケンパの方が、優秀な猟犬だ。

 

 神官は不満そうだ。

 しかし代わりが見つかるまでは、近知郎を使わざるを得ない。

 そう、側用人は説明する。

 彼らの負う役目は、特殊である。

 たとえ、人間性が屑であっても。

 裏切れず逃げられない状態にあり、かつ見込みある者でなければならない。

 

 注意深く狩り集めて選別した結果、見込みのある成人のごく一握り。

 男は、狩人に取り立て。

 女は、侍女に取り立てる。

 見込みがないと判断された成人は、別の目的に使われる。

 もぐりこんでいた鼠も、また。

 

 先々週だったか?巨大な水槽で、ふつふつと煮たててみたな。

 そう、側用人は思い出す。

 主は喜び、中々の趣向だと褒めていたが、問題もあると完璧主義の側用人は考えていた。

 途中から入れる場合は、暴れて熱湯を撒き散らさぬように手足を結束せねばならないのと。

 さいごは煮崩れて、美しくないのと。

 煮方にもよるが、熱で破壊されて脳を主が取り込めないこと。

 それらが、欠点である。

 掃除も大変であった。普通に焼く方が良いかもしれない。

 

 ――仕方ないのか。

 我がこのような境遇でなければな。わが故郷から才能ある忠実なる信徒たちを呼べればよいのだが。

 

 そう、神官が残念そうに伝えてくる。

 この神官、近知郎とはあまり折り合いが良くないが、決して、関係が決裂しているわけではない。表面上は、神官は穏やかに接しているが。

 不満はあるものの、近知郎を使うしかないことはわかっているようだった。

 

 ふたりの耳に、かすかに押し殺した悲鳴が聞こえる。

 神官が、愉悦を口の端に滲ませながら問う。

 

 ――始まっているようだな。

 ただ、早く読心せねば時間の経過により記憶が読み取れなくなってしまう。

 とりあえずは、そうだな、下屋敷の者を「どらいばー」に使って、小鳥の口塞ぎに行って参ろう。

 帰ってきてから、侍女の記憶を読む。

 そのときまだ続いていたら、チカチロウの交わりを途中でも終わらせるが、よいか。

 

 これまた、異存があるわけではない。

 近知郎の飢えは、満たしてやらねばならぬが。

 しかしあの侍女はまだ追加や替えが見つからない今、貴重な存在であるし。

 新参の小娘との関係上も、殺されては困るのだ。

 途中で神官に切り上げてもらうのは、かえって好都合。

 それまでは近知郎が暴走して侍女を殺さぬよう、自分が時折チェックしておこう。

 

 ―――――― 

 ―――――― 

 

 それから、2時間ほど経って神官は目的を果たして戻ってきた。

 その間、近知郎は自室で侍女を苛み続けていたらしい。

 神官が扉を開けると、むわあっという暖かい空気が顔を打った。

 

 侍女は、右手首と右足首、左手首と左足首をきつく縛りあわされ(縛った先が軽く鬱血して色が変わっている)、そしてベッドの上で、脚を大きく開く形に。

 その左右それぞれの手足を縛った縄の端が、ベッドの各両端に結ばれている。

 そのおおきく開いた白い脚の結節点に向かい、無心で腰を振る男。近知郎だ。

 日本人としては体格に恵まれ、筋骨逞しい背中。その背中がうねるたびに、肉の凶器が深く突き入れられ、半ば意識を失いかけている侍女が反応する。

 汗でてらてらと濡れている、異国の血がわずかに入っているらしい侍女の白い肌には、ごく僅かではあるが、鮮やかな青緑色の刺青が見える。

 どのみち異邦人である神官には、特に思うところはない。彼の故国では、死んでも身元がわかるようにするための、一般的とまではいえないが珍しくはない習俗だったから。

 

 侍女は着衣のまま縛られた状態で、紺のエプロンドレスは腹のあたりまでめくり上げられているようだ。胸もはだけられ、かみついたのか、多少の出血がある。

 肉感的な太腿の半ばくらいまでの白いストッキングはすでに破られ、下着もひきさかれて残骸が片腿に残っているだけ。

 

 近知郎が、目を血走らせた顔を振り向かせる。邪魔された怒りだろう、一瞬、殺気がほとばしったが、神官を目にするやいなや霧消した。

 

 ――邪魔をしてすまぬな。

 その女に用がある故、ひととおり愉しんだら、壊れぬうちに譲ってもらえぬか。

 

 神官が伝えると、慌てて頷き、黒ぐろとした肉の棒を引き抜く。先から液体が滴る。

 

 ――いや、うち放った後で良いのだが。

 そうか?もう3度目で満足はしているのか。

 

 近知郎は、いっそ卑屈な表情を浮かべて首を振り、神官に譲る。

 この2者の間では、もはや力関係の順位づけは済んでいた。

 筋骨逞しい近知郎の体も、神官の常軌を逸するほどに鍛え抜かれた巨体に比べるとひよわに見える。

 その上この神官が、人に話しても到底信じてもらえないような超常の術を行使できることを、近知郎は知っていた。

 表の世界では、連続強姦殺人事件の容疑者として追われている残虐な殺人鬼である近知郎ですら、恐怖を覚えざるをえない、底知れぬ邪悪さと残酷さをこの神官が備えていることも。

 

 ――好都合に縄も掛けてもらっているが、このまま借りてよいか。なに、譲ってくれるとな。感謝するぞ。

 

 近知郎に責めぬかれ、苦痛の表情を浮かべて失神している侍女の手足を縛めている縄をベッドから解き、邪魔にならぬように束ねて軽く結び。

 軽々と、侍女を片方の肩に担ぎ上げる。

 侍女は必ずしも小柄でないし、体も成熟している。

 しかしこの雄渾な体格の神官と比べると、まるで大人と童女であった。

 

 近知郎に手を振り、彼にはやや低い扉を神官が慎重にくぐり、歩み去ると。

 近知郎は無意識のうちにかすかに震えるくらい緊張してにぎりしめていた拳を解き、大きく息をつきながらベッドに横たわる。

 女の甘い匂いがベッドには残っていて劣情を刺戟するが、股間の凶器は恐怖に萎んでしまっている。

 彼の鋭敏な嗅覚は、神官の重ねてきた行為による、とてつもなく濃厚な死の匂いをかぎ取ってしまうのだ。

 とんでもねえバケモンだぜありゃあ、と彼は自分を棚に上げて思った。

 

 ―――――― 

 

 冷水を顔にかけられて侍女、日土里舞良(ひんどり まいら)は意識を取り戻す。視界に映るもので、別の部屋に移動させられていることに気づく。

 ヤニに黄ばんだ近知郎の部屋と違い、清潔な白い天井。しかし、手足はまだ屈辱的なかたちに縛られたままで、悪夢が終わっていないことを彼女に教える。

 そして彼女が意識を取り戻したのを知って、二杯目の水を湛えたバケツを手に覗き込む、鷹を思わせる褐色の顔。

 それを見て、学はないが敏い侍女は事情のあらかたを察する。

 

「クルスィファ様、お慈悲を。」

 

 手に持ったバケツの水は、気つけのためだとわかってはいるが。

 その水が別(・)の(・)用(・)途(・)に用いられたことがあることを目撃したことがある侍女は、命乞いをする。

 

 ――マイラはよくやっている。心配しなくていい。

 ただ、我は知りたいことがある。

 

「どうぞ、いかようにも術をかけてください。

 心当たりも、隠しだてすることもありません。」

 

 ――当然、そなたに術をかけるが。

 ただ、あの術は見たもの、聞いたものの一部しかわからぬのだ。

 たとえば見ずに書いたもの、聞かずに話したことは、わからぬ。そなたが考えていたことも、な。

 こころの中を知るには、さまざまに心の型枠を壊し、外していかねばならぬのだ。

 またあの術は精神の力も、使う故。

 陽の気を放ち、陰の気を得て、埋めねばならぬ。わかるな?

 

「――」

 

 ――なに、心配するな。チカチロウなどは、勢い余ってそなたを壊しかねぬが。

 我は能く一線をみきわめて、死ぬ寸前までの苦痛のすべてをそなたが味わえるように計らうこともできようぞ。

 

 侍女には、どのみち選択肢はない。

 化粧が落ちても美しい、鋭い切れ長の目を閉じ、歯を食いしばり。

 侍女はただ、悪夢の過ぎ去ることを祈った。

 

 ――――――  

 

 側用人は、主人たる老人の世話を一段落させ、館の地下に降りる。

 側用人は、この苦楽をともにした老人を敬愛している。特に用務があったり、老人自身から一人にしてくれと言われたとき意外は、入浴や就寝時をのぞき、基本的にはいつ用命を受けても大丈夫なように侍っていたいと考えている。

 一時期は衰えていたが、とある伝手で延命の術を手に入れ、見違えるように健康的になった。

 弊害もある、主人は悲しんでいることがあるが、――と考えたとたんに頭痛が増し、側用人は一時かがみ込んで回復を待たねばならぬほどであった。

 

 塔から地下の空間に降りることができる。

 近知郎たち上屋敷組ですら、常々は、単独でこの地下部分には立ち入りが許されていない。

 大型獣を収容できる格子付きの部屋が並ぶ一角があり。

 空きスペースに檻や、人間の英知と残酷さで生み出された種々の道具が並ぶ倉庫もある。

 その一つ。妖気漂う一室。

 

 側用人の主がいる場所である。

 主とともに、黒毛のかなり大型の類人猿がいる。2年ほど前に、実験用に入手した猿だ。

 人にとても近い動物だが、はるかに運動神経に優れ、力もおそろしく強い。野山に出るときはこれを使うことも多いが、目撃されないよう気をつけねばならない。

 人目の少ない、台風の来ていた一昨日などは外に出て街まで下り、いろいろと遊んできたようだ。

 猿は飛び跳ねる。

 

 欲しいものを直接見てきた。ついこの前も、親に連れられて来ていた娘だ。

 大きな館にいたが、人が少なく手薄。関係者の娘であろうから、嵌めずに拐うのがよい。一緒に年頃の少女もいた。あれもよい。

 そなたの勧める、その次代の贄の乙女の朋というのも、よさそうではあるな。ただなぜか底しれぬ危険さも感じるぞ。

 なにより、次代の贄の乙女はまだか。近々呼べるのか。

 次の代が来たら、初代の贄の乙女、刻みに入りたいものだ。

 

 主の要望を聞き、猿に餌を与え、彼は退出した。

 主の望みをかなえねばならないな。しかし、主は悲しむだろうな。

 ん?なぜ主の望みが叶うのに主が悲しむのか?

 何か間違っている、見落としている。

 頭痛がする。頭が割れるような痛みだ。

 塔の階段を上りかけていた側用人は、うずくまって壁にもたれ、考えようとするが。

 脳中に食い入る何かに、妨げられる。

 結局、気になる何かの糸口をみつけられないまま。

 ひとまず回復した側用人は、塔を上がり、囚われた乙女の様子を見に向かった。

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