タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
細部については、後で修正するかもしれません。
20231103 登場人物(紫藤みなりの前の、特別奨学生)の名前を、一部修正します。
(旧)
「――じゃあね。ちゃんと食べるんだよ?そして、しっかりめざまし時計をかけてね。」
電話先でもごもご言っている千里に、もう一度念を押し。
千里から不承不承の返事があったのを聞いて、おやすみを言って受話器を置いた。
志野くんにも掛けた方がいいんだろうな。でも長距離電話だと料金高いんだよね。
それにこう、その。
伯父さんとかの衆人監視のもと、借りた電話で彼氏である人(なのかな?考えると恥ずかしいな)に電話を掛けるほど、わたしの心臓はつよくない。
だから心残りをいだきながらも、切りあげざるを得なかったんだ。
「よろしいですか。」
伯父さんが、わたしに問いかけたので、わたしはうなずいた。
電話をかけていたのは、あのおじいさんの執務室。
時ならぬ大雨で地盤が緩み、外との通行に支障をきたしたと知らされたわたしは、伯父さんの勧めもあって。
急な話ながら、一晩、館に泊めてもらうことにして。
まいらさんとまかない(のはずだけど、すごく豪華で美味しかったよ)を食べたあと。
外との電話ができるこの執務室で電話をかりていたんだ。
「それでは、行きましょうか。――では、頼みましたよ。」
伯父さんは、おじいさんの様子を見にいくことにしたのだろう。
まいらさんにそう言って、わたしたちを残して。
廊下にも敷かれた赤いじゅうたんの上を、去っていく。
わたしはまいらさんと、自分たちの部屋のある区画。
まいらさん曰く、「女中部屋」のある一角に向かうことにした。
「ねえ、みなりちゃん。
もちろん着替えとか、持ってきてないわよね?」
「――はい。でも、大丈夫です。」
そう答えたものの、どうしようか?と頭を悩ませる。
お風呂場で下着を洗って、よく絞って着る?
いや、乾燥機とか使わせてもらおうか。そのあいだノーパ○だけど。
洗わずに着るのは、なんかやだ。
「着替え、ないのよね?」
「はい。ないです。」
うん、まいらさんにみすかされてた。
「大丈夫、一応、当てはあるの。
その、ミズキちゃんの服を借りれば、ね。」
「――?」
一瞬、誰のことかわからなかった。
ちょっと軽く頭がぼうっとしてたんだ。
まいらさんは、その困惑をみてとったようだった。
「あ、篠崎みずきちゃんね?
もう一人の、トクベツ奨学生?の子。
あの子、あなたよりは背は高いけど、まあまあ細い子だったから。」
未使用のストックがあるはずだから。
最低限だけ借りて、あとは洗濯して明日の朝までに乾かしとくわよ、とまいらさんは言う。
「勝手に取っていって、いいんですか?」
「うーん、多分、――戻ってこないと思うから。
それに、未使用の、新品のを借りるだけ。
もとは、アタシが買い出しで買ってきたものなんだし。」
だからそれ、借りればいいよ。大丈夫大丈夫。
お風呂も、場所とか入り方、教えてあげる。
後で、一緒にいきましょうね。
そう言いながら、まいらさんは、わたしたちに割り当てられた私室のある区画に入ると。
篠崎さんのものらしい部屋の扉に、手をかけた。
鍵もなにもかけてないらしく、ふつうに開く。
しばらく篠崎さんを見てない、って以前、まいらさんが言ってたけど。
部屋で引きこもってる、ってわけじゃないんだ?
ただ、このやりとりの間。
あまりにささいなことだけど、「たぶん戻ってこない」って言ったときの、まいらさんが。
もうこの世にいない人のことを話すような感じだったのが、気になった。
ちなみに。
扉の中は、ふつうの年頃の女の子の部屋。
わりと整頓されてるけど、少し机の上とかには教科書やノート、プリント類が重ねてあったり。
今にも住人が、現れそうな感じ。
壁に、爽やかそうな男の子が朝、缶コーヒーを持ってるポスター。
たしかミ○チルの主題曲の、去年の冬のドラマの主人公の一人。ロン毛の俳優さん。
ドラマはみなかったけど、クラスの子たちがきゃあきゃあ言ってた。篠崎さんも好きなのかな。
ベッドの上に、脱いで雑にたたまれたパジャマ。なんとなく生々しい。
「――これでどうかしら。少しだけ大きいかもだけど。」
まいらさんは勝手に入り、クローゼットの下の引き出しをあけ、まだパックに入ったままの新しい下着をとりだしてくれる。
パジャマはないけど、まいらさんのガウンか何かをみつくろってくれると言ってる。さすがにわたしには大きいかもしれないって言ってるけど、まあ一晩着るだけだからしかたないよね。
「扉、鍵とかかけないんですか?」
「あー、部屋にいる間はかけたほうがいいかしら?
けどこの子、かけずにいなくなっちゃったのよね。」
いなくなったのはどこでなのか、この館でなのか、学校から帰ってこなかったのか、捜索届とか出してるのか。
なんかいろいろ聞きたいけど、なんとなくまいらさんがこの話題を避けたがっている気もする。
わたしは何も、聞けなかった。
お風呂、30分後くらいに迎えにくるわね、と誘われて、わたしも承諾した。
――――――
自室に戻る。
まだ何も置いてない、ホテルの一室みたいな部屋。
手足を伸ばしてベッドにぽふん、といきおいをつけて横になってみる。
ベッドのコイルが効いてて、ぽゆんぽゆんする。すごくよく眠れそう。
そして、さっきから。
気のせいでなければ、あの紫の実の果汁を飲んだときから。
なんとなくいい気持なんだ。地に足がつかないというか、ふわふわした気持ち。
お酒を飲んだときって、こんな感じなのかな?
なんだか肌が敏感。頬を自分でさすさすするだけで、なんかすごく気持ちいい。
ごく数滴、飲んだだけなんだけどな。
頭がふわあって、うすいもやにつつまれてる感じがする。なんか考えに集中できない。
そして。
志野くんのことが頭をよぎる。はあっ、と吐息が出てしまう。
志野くんに、ぎゅうってしてもらいたい。キスしたいよ。
そして、もっと先のこともしてもらいたい。
胸を手のひらで押さえてみる。胸の先が敏感になってて、なんだか甘やかな感覚がじわあっ、と胸にひろがった。
ん、なんだかまずいぞ。
おなかの下のあたりの奥が、うずくような感じがする。手が思わずのびる。
手を、足の付け根のところにあてようとして、――ひっこめた。
あぶない、なにしようとしてたんだろう、わたしは。
でも。
欲望はなくなってない。強まってきてる。
この前、志野くんと体をふれあわせたときのことが頭をよぎる。
いけないいけない。
まじめな方向に頭を働かせて気をまぎらわせようとする。
この奨学生制度。なんだか、話がうますぎるような気がする。
まあ、そのうちおじいさんの介護とかさせられるのかもしれないけど。
90近いはずのおじいさんはすごく元気だし、まいらさんも介護してる感じじゃない。
たいしたことしてないのに、学費も住むところも、お母さんの治療費もだしてくれてるとか。
厚遇がすぎて、なんだか不安になる。
でも、気になるところもある。
その篠崎さんという子がいなくなってるのに、誰も気にしてないところが変だ。
伯父さんとかなら事情を知ってるんだろうけど、まいらさんはなにも聞いてないと言っていた。
でも、何か察してる、話題をさけてる気配がある。何の事情があるんだろう?
ぼんやりした頭では、考えてもわからないので。
なんだか快楽を求めてる体をもてあましながらも、気をそらすために、先に部屋に持ってきて置いてあったかばんを開けて、教科書などを取り出す。
明日は志野くんと遊びたいから、今日のうちに宿題と予習をすませとこう、と思ったんだ。
そのとき、かばんの底にあるあの包みが目に入った。
あの、謎の紙包み。
いつのまにかわたしのかばんに、はいってたやつだ。
なんとなくあたまがもやもやと気持ちよくなって、気が大きくなってたわたしは。
その紙包みを、開けてみることにした。
ラブレターならおことわりだ。ストーカーならさようならだ。
そう思い、ただなんか危険なものが包まれてたらイヤだから、慎重にひらいてみる。
鍵だ。
包まれていたのは、何の変哲もない鍵だった。
紙は?
包み紙には、メモがある。
「力二三シカルナ」
そして、4桁のナンバー。
すごく読みにくい、字の中心がそろってない字で書いてあった。
はて?
――――――
30分くらいして、ノックの音。
まいらさんだ!
「すごくぜいたくだけど、住む区画には、お風呂とトイレがあるのよ。」
わたしたちの部屋のある区画。いちばん、奥まった建物の辺のスペースにも、1つお風呂場とトイレ、洗面所がある。あと、ミニキッチンみたいなのも。
上屋敷組の警備のひとたちが住み込んでる、入り口近くの1階の区画にもあるそうだ。
そして、御前様の住むスペースにも。つまり、居住区画にはもれなく1つずつ。
掃除はたいへんじゃないのかな。きいてみると、毎日ちょこちょこ掃除するほか、週に1回、外から入って掃除してもらってるそうだ。
わたしたちの区画の水回りの、お風呂場とトイレ・洗面所を案内してもらう。
合宿所みたいなあじけない感じを覚悟してたけど、ふつうの家のトイレとかお風呂場みたいなくつろげる感じ。
わたしに洗面所の場所、トイレの場所、消耗品(トイレットペーパや掃除道具、芳香剤とか)の場所、使うときのルール(ほとんどないけど)とかを教えてくれたあと。
まいらさんは、じゃあ、みなりちゃん入ってきたら、と言って着替え用のガウンとバスタオル、そして歯ブラシなどのグルーミングセットをわたしにくれた。
これ、どのくらい借りてていいですか?と聞くと。
ずっと使ってていいよ、着替えはお洗濯するなら洗濯カゴ(お風呂場の脱衣スペースにある)に入れておいてね、と言われる。
「じゃあね、ちょっと早いけど、おやすみなさい。
明日は早いかもしれないから、早めに寝るのよ?」
あと、夜中はあまり出歩かないこと。
雨が気になるかもしれないけどね。
そうまいらさんは言って、ひらひら手を振ってくれた。
わたしはちょっとトイレに行った後、脱衣スペース(ここはあたたかみがある無垢材の床だけど、銭湯みたいに脱衣カゴとか置く棚がある)に入り。
着替えを確認し、ガウンを広げてみる。
ガウンは、心配してたほどおおきくない。まいらさんにはどうみても小さめで、これも篠崎さんというもう一人の特別奨学生の人のものかもしれない。
さて、お風呂に入るとしますか。
たった二人しかいないのに、旅館みたいに広めの浴槽。ちゃんとお湯を張ってある(まいらさんによれば、これでもおじいさんの入る大浴場に比べるとずっと小さいらしい)。
お湯の感じ。どうも温泉だね、これは!
そういえば、ここはちょっと離れてはいるけど樋木崎温泉なんだ。
急にテンションが上がってくるのを感じる。
体を洗うのに、少し苦労した。
(体がほてって、感覚がすごく敏感になってしまってるんだ。
その、胸とか下とか洗うときに。)
ともかく、それをくぐりぬけて。
お風呂場の中で体を伸ばして、はしたなくぷかぷか浮いてみる。
うん、極楽極楽。
わたしはおもわず、顔に笑みを浮かべた。
清潔なガウンを着ると、わたしは部屋に戻り。
思い出して、ふたたびカギとメモを見る。
どのようにしてこれがわたしのかばんに入ったのか、わたしはようやく気が付いた。
たぶん、これはあのおじいさんからこの前もらったぬいぐるみについてたものだ。
わたしがうっかり落としたんだろう。手戸さんが来たのも、これを回収するためだったのかもしれない。
そうだとすると。返さないといけないのかな?
でも、これをすぐに返すべきではない、とわたしは直感的に思った。
だいたい、この鍵がぬいぐるみについてた鍵かどうかも、本当のところわからない(たぶんそうだろうけど)。
そしておじいさんがこのメモ書きと鍵をよこしてくれたのは、何かしてもらいたいことがあったからじゃないかな。
わたしは、ちょっと自分の部屋の扉の鍵にあてがってみる。
うん、違うね。この鍵はずっと小さい。
わたしの頭に、ふと。
わたしの部屋のあるこの一角の廊下の、突き当りが。
かたつむりの殻の最奥部分にある(であろう)、中庭の塔とつながってるはずだということを思いだした。
もしかすると?
姿をみせない篠崎さんという子、あの塔にいる?
なんだか、すこし昔の推理小説みたいな考え。
あの塔、そういえば案内してくれなかった。
――「青髭」みたいに、死んだ人の死体がいっぱいつるしてあったり。
――ラプンツェルみたいに、女の子が、幽閉されてたり。
そんなこと、あるはずない。
ここは日本で、世界でいちばん安全な国の一つだ。
だけど。
夜中、こっそり部屋を抜け出して、その塔につながるわたり廊下を閉ざしている鍵を試してみたのは。
そんな妄想があったからだと思う。
――――――
夜中、おそらくみんなが寝静まった頃。
わたしは音がしないようにそっと自分の部屋の扉を開け、抜け出す。
目指すは、あの塔へ続くと思われる扉。
監視カメラみたいなものは、この建物にはない。
また、ほかの区画とは、夜に鍵がかかる廊下の扉付き格子で切り離されてる。
くわえてわたしには、最近発動の機会がない空蝉の術(?)がある。
きっとだいじょうぶだよ。
おそらくはお昼に口に含んだ、あのお酒みたいな効果のある果汁のせいだろう。
わたしはいつになく大胆になっていた。
結論からいうと、あの包み紙につつまれてた鍵は、塔への扉の鍵ではなかった。
大きさが違う。みただけでわかった。
戻ろうかな。
そう思ったとき。
ふと、わたしの頭に音のしない警報が鳴り響いた。
塔への廊下は、廊下の端に直通でついてるわけじゃない。
この洋館の母屋の建物は、ちょうど「G」みたいな形になってて。
その中心部の最後の辺に、まいらさんとわたしと篠崎さんの部屋がある。
でも、その最後の辺の廊下の端から、中庭にもう一度短く建物は折れ曲がってて、それが塔につながる廊下になってる(廊下っていうか、「でっぱり」だね)。
上から見ると、この建物は真ん中部分が折れてしまった、中途半端な巻きの四角い蚊取り線香みたいな感じだ。
だけど、さらに巻き巻きの最後の部分から中心部に折れ曲がってて、そこに塔がある。
だからわたしは、とっさにその塔へつながる「でっぱり」の空間に身を隠した。
これで、母屋側からわたしたちの部屋の前の廊下を見る人には、わたしの姿は見えないだろう。
しかし、わたしの頭のなかの警報は鳴りやまない。
わたしは、――さらに、塔への扉のある空間の、建物の柱の物陰に隠れた。
塔へ続く扉から人が出てきても、かろうじて死角になる位置。
もちろん、廊下側から人がきて塔に入ろうとしても、死角になる位置。
そしてわたしの行動は、――ただしかった。
がちゃん、と音がして。
母屋側の、わたしたちの部屋のある区画(女中区画と呼んでおこうかな)。
その区画と、その隣の区画を区切る鉄格子の扉が開けられて。
だれかがやってくる。
「あたらしい子は、寝たのか。」
この声は?
「はい。ただ、あの子は、――」
もの言いたげな女性の声。
まいらさんの声だ。
「わかっている、わかっている。今日はまだ、な。
デザートは、最後に取っておくものだ。」
くつくつという笑い声。
御前様、あのおじいさんの声だ。だけど。
わたしは物陰にひそみながら、違和感を感じていた。
御前様というあのおじいさんは、妙に筋骨たくましく、若々しい体をしていたけど。
この前会った時も、今日の昼食会のときも、話しぶりとかはふつうにやさしい感じだった。
でも、今聞いているこの声は、まるで別人みたいな感じ。
なんというんだろう。冷酷で、非人間的というのだろうか。
奇妙に嗜虐的な、背筋がぞくっとする響き。
同じ喉から出る声なのに、違ってきこえる。
そして、訛りというほどではないんだけど。
なんか、どことなくしゃべり方に妙な癖がある。
「今宵は、昂っておるでな。
長く責めてやろうぞ、――」
「御前様。明日の朝、その女は勤めがあります。」
これは、伯父さん(施場さん)の声だ。
「一度あれを返すのであったな?
ならばしかたなし。軽く気をまぎらす程度か。
今宵あたりから、先の子を刻むかと思っていたが、クルスィファから話をきくに。
もうすぐ、『荷への乙女』が揃えられそうだというではないか?」
ん?なんの荷物だろう?乙女って?
「ええ、――」
廊下をひそひそと声が近づいてくる。
普通なら、ほとんど聞こえないような小声だと思う。
でも、あの果汁を飲んで感覚が妙に鋭敏になってるせいだろう、わたしにはその言葉が聞こえた。
この果汁(のせいだよね?)の効果は、本当に不思議だ。
頭はぼうっとしてるんだけど、感覚はすごく敏感に、鋭敏になってる。
「おお、あの子の匂いがするではないか。」
「ジンメンジュの果汁をお飲みになったからでしょうか。あれだけ飲まれると、かえって鈍るはずなのですが。」
わたしのひそむ壁(たぶん、柱か何かがあるんだろう)のでっぱりのすぐそばまで、3人が来てる。
彼らのごくぼんやりした影が、わたしの目の前のじゅうたんに落ちている。
(廊下のあかりは、ごくところどころにしか灯されていないし、あまり明るくない。)
小太り体型の男(たぶん、おじいさん)の影、胸やお尻が大きいことがわかる女の人(まいらさん)の影、そして小柄な男の人の影。
小柄な男の人の影は、わたしのひそむ物陰からは見えなくなった。たぶん、今、塔へ続く扉を開けてる。
まいらさんの影はうつむいてる。たぶん先頭の伯父さんと最後尾のおじいさんに挟まれる位置。
そして、おじいさんの影は、――ん?
まいらさんの影の頭のところに、なにか飾りがみえる。これはわかる。
(侍女のつけるヘッドドレスだと思う。お風呂に入った後、またつけたのかな。朝早くから夜まで、お仕事たいへんだ。)
おじいさんの頭にも、何かがついてる。麦わらぼうしでもかぶってる?
頭のところに、なにか影がひろがってる。いや、帽子じゃなくて巨大なトゲみたい?
しかし、よく見定められないうちに。
かちゃ、と塔への扉が開かれて、一行は入っていき。
そして、扉がまた閉じられた。
わたしはしばらく、どきどきする心臓をなだめながら立ち尽くしていた。
――なんだろう。まいらさんとおじいさんたち、なにをしにいくんだろう。
まいらさんの部屋は、この女中区画にある。
だから、なにか用事があってあの塔に行くんだ。
――囚われの、ラプンツェル?
軽い酩酊状態の頭は、わたしに集中して考えることを許してくれない。
わたしは無意識のうちに、自室に蹌踉ともどる。
音がしないように、部屋の扉を開け、そして閉じて、ふかふかのベッドに倒れ込む。
――知りたい。
いや、知らないといけない。
なんだか、そんな気がする。
でも、あの塔に忍び込む手段はない。
わたしの部屋の窓から、塔がみえる。
そういえば、窓の数は少なく小さい。
かべに、登って行けそうな手がかりもない。
――囚人を閉じ込める、監獄のよう。
そんなへんな考えが浮かんでしまい、頭を振る。
どうにかしてる。
わたしはさっきの興奮からか、熱くほてる体を冷やそうと。
ベッドの上をころころころがる。
床にころんと落ちそうになって、あぶないあぶない、とふみとどまった。
そのとき、わたしの目は何か気になるものを捉えた。
まだ何もものが入ってない、壁につくりつけの本棚。それが気になる。
わたしはベッドから下りて、本棚をしげしげと眺める。
そして、直感のうながすままに。
腰のあたりの高さについてる、本棚の小さな物入れの引き出しを引き、抜き出してしまう。
そして。引き出しの入ってた、そこの空間を覗き込む。
――やっぱり。
引き出しの奥、本棚の背の部分。
そこに、小さな鍵用の鍵穴がある。
わたしは、ガウンのポケットにいれてあったあの鍵。
おそらくはあのおじいさんが、ぬいぐるみに隠してくれた鍵。
それを取り出し、その鍵穴に嵌め、回す。
油がさしてあったのだろうか、ほとんど音もなく鍵が回転し、錠が開く。
そしてわたしは、本棚を引いてみる。
あ、これは引き開けるんじゃなくて、スライド式か。
本棚をスライドさせると、そこに隠されていた、くらい空間が現れた。
ちょっと冷たい空気が、ふうっと流れてくる。
隠し通路が、そこにあった。