タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
忘れていましたが、若干だけ不適切な描写がありますのでご注意ください。
(20260118)
・囚人の人物像を一部修正しました(髪の長さなど)。
(20260201)
・隠し通路の描写を一部修正しました(分岐の存在など)。
隠し通路の入口は、かなり小さい。わたしの腰より少し低いくらいの高さだ。
でもこのちいさな入口のむこう側の通路は、高さはかなりありそうだ。幅はせいぜい5、60cmくらいかな。
天井も床も、高さは一定してない。通路は壁際沿いに続いていて、すぐ曲がっているようだ。
隠し通路の入り口から頭を隠し通路に入れて、みあげてみると、薄暗がりのなか、上に開口部があって何かの配線がひきこまれてるのがみえた。
この空間、スチーム配管とか電気配線とか天井裏の点検口を兼ねてるんじゃないかと思う。
このあたりはたぶん冬は寒いせいで、スチーム暖房がある。わたしの部屋の窓際ちかくには、スチーム暖房のうにゅうにゅした、着ぶくれしたパイプのかたまりみたいな形状の放熱パネルが設置してある。
そのヒーターのスチーム管とか、電気配線とか通してるスペースが屋根裏とかにあるけど、この隠された通路もその一部なんだろう。
たまたま(なのかな?)わたしに割り当てられた部屋は建物のいちばん端っこなんだけど、その部屋のまさに端っこ側の壁に、本棚に偽装されたこの謎の隠し通路の扉があったわけだ。
さて。
まず、冷静に一度本棚に偽装された隠し通路の入口ドアを閉じてみる。
表からは見えないところにパッキンまであって、ぴっちり閉まるようになってて。
まるで自動車のドアみたいに、気密性がとても高い構造だ。
部屋の入口が相当小さくて、しかも本棚も相当重く丈夫な材質というのもあって、たぶん音響とか通風とかではこの入り口の存在には気づかないだろう。
そして、扉を動かすレールとかも表(部屋側)からは見えないように綿密に計算されて設置されてる。
単なる点検口にしては、妙に念がいってる。
どうしてこれに気づいたのか、自分でもわからない。
それはそうと。
どうしようか。
もういちど、音がしないように気をつけながら秘密の入り口をあけてみる。
ふわぁっと、涼しい微風が吹いてくる。おかしなにおいはしない。
明かりはなく、まっくらだ。床にはごくわずかにほこりがつもっている(ほんのすこし、ね)。
普通なら、もぐりこもうなんて思わないかもしれない。
たまたま得られたすごく不安定な立場をくずしかねないのに、またどんな危険があるかわからないのに。
でも、かるく理性が麻痺してたわたしは。
――この秘密の通路を探検してみたい。
いや、探検しないといけない。今すぐだ。
そう、つよく感じた。
ただ、わたしがもぐりこんでる間の偽装には気をつけないといけないな。
まいらさんとかがわたしの様子を見に来たときに、わたしがいない+隠し通路をあけっぱなしじゃ困る。
探検のための準備も、しないといけない。
――――――
数分後。
わたしは偽装工作をつくした部屋をみまわしていた。
クッションとかを使って、ベッドには人が寝てる風なふくらみがある。
部屋のライトは消し、ベッドの枕元の照明があるだけ。
隠し通路の入り口は、完全に閉まってしまうと中からはどこにあるか判別できないかもしれないから、ノートを挟んで完全に閉まらないようにしてる(ぼんやりしたベッドサイドの照明だけど、まっくらな隠し通路の中からはドアの切れ目の光の筋がみえる。目印として十分だ)。
一見すると、隠しドアのことなどわからない。ぼんやりした明かりでは、見つけるのは不可能だろう。
次に自分自身を見下ろす。
ガウンは探検には不向きだ。だから、袖はまくり、裾もふとももの半ばくらいまでまきとって軽く縛り、動きやすいようにしてある。
汚れるかもな。でもまあ、なんとかしよう。
つぎは明かりだ。通路の中、まっくらだからね。
わたしは、かばんにつけてあった、ちいさな豆電球ライト&ボールペンつきのホイッスルキーホルダーを手に持っている。
心配症な志野くんが買ってくれたんだ。見ると心がほっこりする。
志野くんはこれに限らず、冬ごもりのえさをあつめるリスのように、ちょこちょこと、いいと思ったものを買っては献上してくるんだ。
あの保湿用の乳液とか、ちょっとつばの広いかわいい帽子とか、おしゃれな髪留めとか。
ただ中にはときどきは的はずれなものもあって、これもそんな残念グッズの一つだと思ってた。
ほら、十手型キーホルダーとか10徳ナイフみたいなものとか、男の子の好む小道具ってあるよね。
だけどこれは、意外に使えそうだ。
わたしはひそかに志野くんに感謝を覚えた。
わたしはライトを点け消ししてみて、たしかめてから。
まっくらな隠し通路への入り口に身をくぐらせ、探検に乗り出した。
小林少年みたいだ、といつになく心を躍らせながら。
――――――
この隠し通路、おそらくあの謎の塔にもつながってる。
わたしの部屋は、あの塔にいちばん近い側の建物の端にある。
そして通路(というか、スキマだね)は、この建物の外周を少し進んだ後、分岐している。
一つは本館側。もう一つは、あの謎の塔の方向。
謎の塔に向かう通路は、急にせまいスキマとなって、いったん階段みたいに上がった後、また下がっていき、おそらく床下あたりをくぐってる。
そして、そのまま、手足をついてようやく通れる、閉所恐怖症になりそうなスペースを這い進んで、――。
塔への渡り廊下をわたったんじゃないか、と思われるあたりで、鉄格子が嵌めてふさがれてる。
鉄格子は開閉可能な扉つき。ナンバー式の南京錠がはめてある。
わたしは、あのメモ書きの数字を思い出し。その数字に回して合わせてみる。
ぱちり、と南京錠が開く。
音がしないように気をつけて鉄格子の細い扉をくぐり、 ――悩んだけれど、開けっ放しにしておく。
天井の高さが回復して普通に歩けるようになり。
そろそろと進むと、ふと、足元の床が途切れていることに気づく。あぶない。
見下ろすと、たぶん地下まで続く奈落になってる。
見上げると、上まで、たぶん塔の最上階までずうっと続く、吹き抜けになってる。
ホチキスの針みたいな形の、パイプの足場が壁についてる。
よく川の護岸壁にあるようなやつだ。
その足場が壁面に付いてて、上から下までずっと移動できるようになってる。
風が、ふうっと吹き抜けてくる。どこかに開口部があるんだろう。
わたしは、ちょっと取って返し。
さっきの南京錠を、目印代わりにこの通路の入り口付近に置いた。
さて、上かな、下かな。
わたしは、上を見上げ、下を見下ろし、――上を選んだ。
理由は特にないけど、ラプンツェルだったら塔の最上階にいるんじゃないか、と思ったんだ。
キーホルダーのライトを口にくわえて、上を向いて上がる。
最初は足をすべらせたら、と思ってびくびくしてたけど、意外に大丈夫だ。
すきまがとても狭くて、背中がつきそうで、かえって安心感がある。
ただ、大人の人だとここを登るのはかなり難しいかも。太った人は絶対無理だろうな。
最上階のフロアとおぼしきところに、つく。
わたしは慎重に、くらやみの中を通路に降り立った。ここで足を滑らせて落ちたら、泣くに泣けない。
通路は、わたしの腰くらいの高さしかない。
通路を進み、――分岐路で瞬時、体を凍らせた。
ごくかすかだけどぼんやりと明るくみえたんだ。
次の瞬間には、自分のキーホルダーの明かりを消した。
明かりがみえるということは、わたしの方も見える、聞こえるということ。そうじゃないかな?
ただ、明かりは動かない。何の動きもない。
外気の動きも感じる。どうやら、通風孔があるみたいだ。
ちょっと大胆になってるわたしは、その明かりに近づいてみた。
この分岐路(ちゃんとした通路とは言いにくいかもだね、非常に細い)は、今までの通路と違い、幅は狭いが高さは高い(天井くらいまであるんだろう)
明かりはかなり高い位置から、間接的に漏れてる。
わたしは、その狭くて高い分岐路に入る。
ここにも簡単な足場みたいなのがあり、そのあかりの方向にアクセスしやすくなってる。
わたしは慎重に足場をたしかめ、上にのぼっていく。
鋭敏になった感覚で、異状がないのをたしかめながら。
上にのぼると、とても上下に狭い空間がわたしの左右にあった。
これは、部屋の天井裏に類するものだとわたしは理解した。わたしがのぼったあの狭いけど高いスペースは、部屋と部屋の間の壁のすきまなのだろう。
その部屋の天井裏に通風孔があり、そこからわずかなあかりがこの天井裏スペースに漏れている。
わたしのすごく鋭敏になった感覚が、その光が拡散してきたのを捉えたんだ。
たぶん、こんなに感覚がとぎすまされてなかったら無理だっただろう。
そして、この天井裏と外(戸外)との間にも、通風孔がある。
今日はほとんど新月だから、外の通風孔からはほとんど明かりはもれてきてない。ただ、風の動きがある。
だから、わたしがすこしカサカサしても、部屋の人には変なひとが天井裏にいる!なんて、思われないだろう。
そう賭けて、わたしはそっと身を乗り出し。
まず、部屋に通じてる通風孔を、のぞき込んでみた(通風孔のグリルはルーバー式で、いまは開いてる。ルーバーの桟と桟との間は、指くらいなら通せるくらいの間隔だ)。
部屋の中の明かり。天井からぶらさがる裸電球のものらしい。
下に、シンプルなベッドがみえる。だれかがその上で寝具に潜り込んでる。
見えるギリギリの範囲に、廊下に面した鉄格子の一部がみえる。牢屋?
簡素な壁につくりつけのテーブル、そしてそのテーブルに置かれた食事ずみの食器を乗せたトレー、水差し。
目に見える範囲にはないが、おそらくは便壺を使ってる?(感覚が鋭敏化してる今だからこそ嗅げるけど、ごくごくかすかに臭う)。
簡素とはいえ、それほど劣悪な環境ともいえないが、これは牢獄だ。
やはり塔の最上階には、誰かが囚われている。
もぞもぞ、とベッドの中の人が身動きして、わたしは息をひそめた。
顔に寝具がかかってるけど、髪は見える。
髪はもとは顎くらいまでのショートカットで脱色したか染めていて、それが中途半端に伸びた感じ。薄手の寝具に浮き出たあまり大きくない体つきからみて、おそらく女の人。
だれかはわからないが、いなくなったもう一人の特別奨学生じゃないだろうか、という考えが頭にうかんだ。
いったんわたしは顔をひっこめ、背後を伺う。
反対側にも同様の部屋がある。そちらもみてみよう。
そのもう一つの部屋も慎重にのぞき込んでみる。
こちらも同じようなつくりだけど、部屋の中、見える範囲には誰もいなかった。
わたしは、また1番目の部屋に戻り、誰かが寝てる様子を観察しながら思案する。
ともかく、ここは確認した。
なんかの理由で(ルール違反の懲罰とかだろうか)、誰か(たぶん、篠崎さん)がこの部屋に閉じ込められている。
そう考えよう。
わたしは探検を続けようとして、ふと、思いついて。
キーホルダー付属のボールペンで、あの鍵を包んでたメモ書きの端を破った紙片に。
そして音をたてないように気をつけながら、他の階を見て回ることにして、通路を引き返した。
――――――
一つ下の階を見ようとして、例のいちばん下から上までの吹き抜け空間に戻ってきたとき、わたしの耳にかすかに何かの音が聞こえてきた。
誰かが、あの2階の扉を開けて通っている。
と同時に、本当にかすかに、人(と動物?)の動く物音、声が聞こえる。
地下だ。
わたしはひとまず、動きのありそうな地下にもぐる。
(後から思うと、そんな大胆なことがよくできたなーって思う。
いつもの小心なわたしだったら、できるだけ人影から逃げてたはずだ。)
地下階の通路は、高さが低い。おそらく廊下の天井裏か何かのスペースの一部だと思う。
空調ダクトとか配線が這いまわってる。各部屋の天井裏に入り込める。
天井裏は音が響くのか、それともわたしが敏感になってるせいか、あちこちから音が聞こえる。
動物も飼ってるのかな。鳴き声みたいなのが聞こえたりする。
そのなかでわたしは、人の話し声を聞きつけ、慎重に近づいていく。
「—————から、————を出さない?強情な——————。」
「御前様、どうか、——————はぁっ、」
よく聞こえない。おじいさんと、まいらさんの声だと思うけど、————
わたしは、われながら熟練の物音ひとつたてない足取りで。
その声の聞こえてくる部屋の広大な天井裏スペースに入り込み。
適当な換気口からそっと様子をうかがう。
かなり広い部屋だ。
天井もやや高めで、豪華なシャンデリアが吊ってある。
地下室だからどことなく陰鬱な印象だけど、内装は豪奢な感じ。暗い赤を基調とした内装。
わたしはそのシャンデリアの近くの通風孔から、舞踏室を眺めている。
眼下に、シャンデリアに一部視界をじゃまされてるけど、御前様とまいらさんの姿を認めた。
まいらさんは、普通の侍女服を着ている。だけど、普通の状態じゃない。
少し高めの天井から垂れ下がる鎖。その鎖の先端に手錠があり。
まいらさんは、その手錠に両手首をいましめられていた。
手首は頭上に引き上げられた状態だけど、足は地面につけられる。実際、片足はつけてる。
でも。
そのまいらさんの、様子がおかしい。
まいらさんは、片足だけを地面につけてる。
もう片足は、かかとがお尻までつくくらいに膝をまげて、そしてその膝を上げてる。
いや。
姿勢として、すごく不自然だな。あれは。
片足を自主的に上げてるんじゃない、上げさせられてるのか。
かかとがお尻に着いた状態で、縄で縛られて固定されてるんだ。
スカートが乱れてるなーとおもってたけど。
よくみると、まいらさんの曲げた足首と、ふとももの上側が縄で縛りつけられてるんだ。
ぎゅっと、そこは縛りつけられてる。ふとももが軽く変形するくらいに、縄が食い込んでる。
そのうえで。
高めのハードルを越えようとしてるみたい。あるいは、空手の回し蹴りをする直前みたいな感じに。
かかとをお尻につけた状態で、その片足を横に高く上げてるんだ。
体に対して、直角くらいの角度で。
さらによく見ると、変なところがいろいろある。
まいらさんは、体をおちつかなげにふるわせてる。
上げさせられてる方の足は、縄とかで上に吊ってるわけじゃない。
自分の力で、上げてるんだ。すごい努力で。
どうして?とおもったけど、わたしの目は、やがて。
まいらさんの上げた膝から、ちょっとはだけた侍女服の胸元に伸びてる細い線をみつけた。
(そういえばなんでボタン外してるんだろうって、思ってたんだ。)
突き出た、大きな胸の片方。上げてる足とは、逆側の胸。
その胸先が、不自然に変形してる。
たぶん。
あの上げてる足の腿のまんなかへんに結ばれた、テグスみたいな細い丈夫なひものもう一端が。
あの大きな胸の先端と結びつけられてるか、あるいは強力な洗濯ばさみみたいなものを介して固定されてるんだ。
だから、まいらさんがあの上げてる膝をおろすと、胸の先がちぎられるみたいな痛みをまいらさんに与える。
現に、まいらさんが疲れて足を下ろそうとすると、不自然に胸元が揺れ、またあわててまいらさんが姿勢を戻す。
そんな光景が、みられる。
わたしは。
そんなむごたらしい光景なのに、—————なんていやらしいんだろう。
胸をハッと衝かれるような思いとともに。
ひどく残酷な、奇妙な興奮を感じてしまったんだ。
うん、—————ちょっと、じわあっとするくらいに。
すこし細面というか、とがった美貌のまいらさんの、ちょっと八重歯ぎみの口元。
ゆがめた口元からこぼれた白い犬歯が、赤いくちびるをかみしめてる。
そんな苦痛を、まいらさんに与えて。
おじいさん、御前様は。
ゆったりと一人がけのソファに座り。
まいらさんの苦痛を、じっくりと愉しむように。
かたわらのカクテルテーブルに置かれた、グラスを傾けてる。
そしてまいらさんと、何かのやりとりをしている。
「そなたら牝は、——————。
なぜか?——————。だが、不要となった牡、——————、快い。
おそらく、贄の儀式を——————」
ん?
一つには、まいらさんの荒めの息づかいに気をとられてしまったせいもあって。
すごく聴覚が強化されていたわたしでも、おじいさんの言葉は完全には聞き取れなかった。
ただ、わたしと話しているときとは完全にモードが違うっていうか。
言葉づかいはおろか、声自体も違ってる気がした。
最初の面談とか、今日のお昼とかのときのおじいさんは、基本的には穏やかだ。
温かみのある落ちついた声、ちょっと訛りがあるけれど、親しみやすい話し方。
でも今のおじいさんは、人が違ってるみたいだ。
声は少し押しつぶされたような声。こわばった喉を無理やり動かしてるようなきしみ声。
話し方も冷酷というか、冷淡というか。
だいたい、まいらさんがどんな悪いことをしたかわからないけど、ひどいじゃないか!
さっきから痛めつけられてるまいらさんの光景に興奮してるのを、棚にあげて。
わたしはおじいさんへの義憤に駆られつつも、目をこらす。
おじいさんは長い杖を持ってる。片側がこうもり傘の取手みたいに曲がった、ステッキだ。
そのステッキの先で、まいらさんのスカートをすうっと持ち上げる。
もともと、片足をあげててスカートはめくれてる。
ステッキでもちあげられて、まいらさんの足の付け根、下腹がみえてるんだろう。
(わたしは上空からみてるので、角度的にみえない。)
おじいさんは、ステッキの先端をどこかそこらへんの、おそらくはひどくやわらかい皮膚に押し当て。
ステッキの握りの親指付近にあるんだろう、なにかのスイッチを押した。
「—————あ、ああっ、ああああっ!」
劇的だった。
まいらさんは、必死で逃れようとしたのか。
ガチャンガチャン!と、まいらさんを繋ぐ鎖が激しく揺れ。
反射的に脚を閉じようとして、上げてる膝をおろしかけて、—————そして胸先をつなぐテグス(仮)に阻まれ。
胸も引きちぎられるような痛みだったんだろうか。また足を上げ直す。
そこに、御前様が、ふたたび。
おそらくは、仕込み杖になってるステッキの先端の、電極からの電撃をまいらさんの敏感な股間にあてた。
「ぐぅっ、—————!」
かろうじて、まいらさんは耐えきった。
くちびるか口内をかみ破ってしまったのかな、口元から血がしたたり落ちた。
「やる、か?」
「—————」
「やるのか?」
声には出さず、頭を垂れてたまいらさんが、頷いた。
うなだれたままで。
「人間。言葉を使う。」
おじいさんは、またステッキを持ちあげ。
まいらさんは、びくりとするが。
こんどはまた杖の握りの別のスイッチのボタンを操作したのかな。
先端から、ズルズルと革の帯みたいなのを引き出した。
すごい。
あれ、十徳ナイフみたいに複数の機能を仕込んだ、仕込み杖なんだ。
数回、ひょおうひょおうと振ってみせると。
まいらさんは身を縮めるため、折り曲げようとする。
しかし、上に吊るす鎖は、まいらさんの豊かな凹凸のある体を無防備におじいさんの前にひきのばしてる。
気がつくと、下におろしてるもう片足。
あの足首のハイヒールの、ストラップだと思ってたけど。
おろして地面につけた片足も、革のカフスでいましめられ。
そして床につけられた金輪みたいなのに、固定されてるんだ。
それに気づいたわたしは、また。
下劣な、ぞくっとした感覚が背中を走るのをおぼえた。
そして。
ばちっ、とまいらさんの無防備に開かれた股間に。
御前様の仕込み杖の鞭が。冷酷に、赤い筋をきざむのをみて。
なにかがじわじわとにじんでくるのを、感じた。
――――――
しばしの間、まいらさんは必死に耐えていたけど。
やがて、叫び声が口から洩れ。
そしてついに、再度の電撃を受けて。
(最後の1回は、ただ押し当てるというより、ぐりぐりと杖の先端をもぐり込ませる気配があった。)
「—————やります、御前様!お許しください!—————」
まいらさんが、そう言うと。
御前様は、拷問を止め。
ゆったりとソファに座りなおし。
グラスに湛えられた赤い何かの飲み物をすすった。
まるで、ここが優雅なサロンであるかのように。
だけど、わたしは一瞬みえたものに、心をとられてしまった。
いままでシャンデリアに一部じゃまされて見えてなかったんだけど。
最後に、まいらさんの体の奥に電撃を送るために、身を乗り出したとき。
そのとき、おじいさんが頭に何かをかぶっているのがみえた。
ひどくへんなもの。
棒が突き出た、小さなスカルキャップみたいにみえた。
あれって、—————?
そのとき。
近づいてくる足音に、わたしは思わず身をかたくした。
「御前様。おそくなりまして申し訳ありません。」
「—————」
あの、伯父さんの声だ。
側用人さんが、帰ってきたんだ。
何人かの人を、伴って。