タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
到着した側用人さんは、おじいさんになにか指示を受け。
まいらさんの手首の縛めをはずし。
脚と胸の先端をつなぐテグス(かなにかの紐)もはずした。
わたしの位置からは見えなくて気づかなかったけど、体の前側で腿と胸先をつなぐテグスのほかに。
体の背中側をとおり、首と肩を越して、脚と近い側の胸先につながるテグスもあったみたいだ。
まいらさん、体の前側、背中側の両方から腿と乳首をつながれていて。
だからあんなふうに、膝を上げやすい体の前側じゃなくて、わざわざ真横に脚を上げてたのか。
わたしはそんなふうにぎちぎちに拘束され、拷問され、ひどい目にあっているまいらさんのことを。
かわいそうだ、と思うと同時に。
奇妙なうらやましさを感じた。
もし、わたしがあのまいらさんの立場で。
志野くんが、わたしをああして縛りあげて、逃げ場もなく苦痛を与えて、追いつめてきてくれたら?
そう思ったんだ。
その考えが浮かぶと、頭がくらくらするような陶酔感と、ちく、とまた熱いなにかが下腹部の奥でにじむような感覚を覚える。
わたしの手は、いつのまにか、まくられたガウンの下にはいり。
そこに触れようとして、――あわててもとにひきもどされた。
その間に、まいらさんの足首を床に固定してた鎖も一度はずされたけど。
完全開放でなく、2m程度の長さの鎖で置き換えられた。
多少は身動きできるようになったけど、逃げられないようにしたのか。
そして、伯父さんが連れてきた人たちに、わたしは目を転じる。
江戸門剣波さんという、あのわたしが最初に連れてこられたとき、門番をしてた人。背の高い人だ。
そして按堂近知郎さん。ぎらぎらした目線を、まいらさんに向けてる。
江戸門さんが、さりげなくおじいさんをガードし。
近知郎さんが、つれてきたもう一人の男の人を護送してる。
そして、最後のその、見知らぬ男の人。
体は大きくないががっしりした体型、すこし小太りになってるけど眉も太いスポーツマンみたいな雰囲気。
エネルギッシュで、髪もさっぱり刈り込まれててる。できる風の若い店長さん、みたいな感じ。
この人は、体の前で手錠を嵌められた状態で連れてこられて、ちょっとおちつかなげに周りを見回してる。
なんだか見たことがある。
この人。わたしが間違ってなければ。
ニュースで見た。死体遺棄事件で追われてるはずの人。
書店店頭の女性誌の表紙に、周囲の人を洗脳して支配し、殺し合わせてた疑いがある、とか書かれてた。自分はほとんど手を汚さずに。
逃亡中だと聞いてたけれど。
「その女に勝て、と?」
「そのとおりです。
負けを認めさせるか、意識を失わせるか。
意識を失わせ、結果として死んだとしても咎めません。」
「なんなんですか。あなたたち。僕に何の得があるんですかね?
あなたたちは、僕を正当な理由もなく拘束してる。犯罪ですよ?これは。犯罪。は・ん・ざ・い。
僕はちゃんと弁護を受ければ無罪なんですよ。ただ、エツコに逃げろと言われたから逃げただけです。いろいろ報道されてますがね、あれやったのは、全部エツコたちですよ。
僕はちゃんとした、市民なんですよ。わかってますか?
あなたたちはなんです?いきなり善良な市民を殴りつけて、拐って。人身の自由に反してるじゃないですか!本当の犯罪者は、あなたたちでしょう!?
そこに座ってらっしゃるあなた、ご老人。責任者ですか?
わかってらっしゃると思いますけどね、今すぐ僕を自由にしてください。そして非を認め、それなりの賠償を払うんです。そして、ここでちゃんとした待遇での滞在を認めてくださるというなら、示談で済ませることも考えましょう。
でも、こんなことを続けるというなら、ですね。僕にも、――あああアあアアーッ!」
江戸門さんが、すうっと動いて。
なめらかな手つきで、この少しかん高い声でつけつけと苦情を言っていた男の人の頭の横にその手をすべらせていた。
手に、きらっと銀色の光。ナイフか何かだ。
そしてふしゃっ、ぼたぼたぼたっ、と、耳を切り取られて、男の人の側頭部から血が噴き出た。
男の人の絶叫が、響く。
さらに。
おじいさんがくい、と自分に男の人を近づけるよう身ぶりで指示し。
近知郎さんが、なおも叫び続けてる男の人を小突いて移動させ、さらにがっちり肩を押さえてひざまずかせると。
おじいさんは、またステッキをもたげ。
ステッキのさきを、切り落とされた耳のついてた頭側の傷口に押し当てた。
煙と、さらに大きな絶叫。
十数秒、ステッキは押し当てられ。
離されたとき、傷口は赤黒く焼かれて出血は止まっていた。
離された、おじいさんのステッキ。
その先から金属が露出し、赤くなってるのにわたしは気がついた。
さっきとは別機能だと思う。こんどはシガーソケットみたいな機能なんだろうか。
「説明、繰り返しましょうか?」
何も変わったことは起きなかった、とでもいうように。
伯父さんが、おだやかな声で繰り返す。
信じられないものをみるような目で、男の人が伯父さんを見つめる。
「・・・」
「ああ、失礼。お耳が、聞こえにくくなりましたかね?
だったら、———————」
「なあ側用人サンよ、目と耳のバランス取って、まぶたも切らねえか?」
近知郎さんが、面白そうにニヤニヤしながら口をはさむ。
「いえいえ。目は関係ないでしょう?
無体なことはしてはいけませんよ、近知郎。
剣波さん、鼓膜は残したんでしょう?
だけど御前様の血止めで、鼓膜が焼けてしまったのかもしれませんね。
それなら。
針を刺して、アブミ骨を直接刺激できるようにいたしましょう。どれどれ、—————」
「聞こえるっ!聞こえる、――ますっ!」
男の人は、これ以上酷いことをされる可能性を示唆されて。
手錠をつけられたままの両手で切られた耳のあたりをおさえながら、必死に話に割り込んだ。
脂汗が、白っぽくなった顔に浮いてる。
「それは重畳。聞こえてらっしゃるみたいですね。
それで。
私どものご提案させていただいたこと。繰り返して申し上げれば、—————」
「分かった、分かりましたっ!
その女を、
「いえいえ、あまりお聴き取りになれてないようす。
正確に言えば、負けを認めさせるか、失神させればいいだけです。
殺さずに勝ち、技量をお示しになられたら。
その女、お好きにお使いいただいてもかまいませんよ。」
「————好きに使って、かまわない?」
まだ顔面蒼白で、体もがくがくふるえてるけど。
男の人の目に、どこか違う光が走った。
わたしは、こんなに離れていて、安全に隠れているのにもかかわらず。
ぞくり、と背筋にうそ寒いものが走ったのを感じた。
「ええ、存じておりますとも。
新聞などで見聞きしただけでございますが。
あなたは、なかなか独創的だ、創意工夫がすばらしいとか。
わが主も、あなたのことを知って、そうお喜びでしたから。」
「————そうだ。勝てば僕は、どうなるんです?」
なんだか、さっきまでとは表情も違ってきてる。
化けの皮が、はがれてきたような印象。
さっきまでと同じように、ちょっとやり手の若社長みたいな顔なのに。
何か正視できないようなおぞましい化け物が、人の皮を破って姿を現したように思えた。
「あなたの実力が認められれば、私たちの仲間にお迎えいたしましょう。
現在は、あなたさまのような方を、積極的にスカウトしております。」
「勝てば、その女も好きに使っていい、とおっしゃいましたね?」
傷ついた耳を抑えていた両手は、いつのまにか外れ。
男の人の、どこか嗜虐的な視線がまいらさんを舐めあげた。
床に鎖で左足を繋がれているまいらさんは、臆したふうもなく、硬い表情、鋭い視線でそれを見返した。
それをみる男の人の表情が、ゆらあっ、とごくわずかにゆがんだ。
わたしには、舌なめずりをしているように思えた。
「そうですね、ええ。
いろいろ発散されるのにも、お使いいただいても構いません。
ただ、玩具とはいえど共有物ですので。しばらくは手足を切ったり、顔を傷つけたり、といったことはお控えください。
特に今から1か月ほどは、傷が残らぬように。
重要なお仕事。おもてなしのお仕事などもありますのでね。」
「そう、ですかね。ほう、ほう。
それで、その期間がすぎればそれもあり、と。
まあ、気が進みませんがね?僕は、強いられた。
うん。心ならずも強制されたんだ。仕方ないんですよ。
冤罪で、偏狭な日本人の社会に抑圧されて。
そして自分の意志によらず、戦うことを強制されたんだ。」
ぶつぶつと男の人はつぶやく。
その目には、何かの狂気が渦巻きはじめていた。
「やらなきゃ、やられるんだ。だから、これは仕方ない。
つまり、これは自衛。正当防衛だ。
その後、僕を殺そうとした女を、痛めつけてやるのも。
必要な、正当な処罰。おしおきというやつだ。」
「お受けされますかな?」
「ええ。正義は勝ちます。」
男の人は、負けた時のことを何も考えていないように思えた。
目にはなにかの妄執が、どろりとわだかまっている。
きずついた耳はわすれたように、近知郎さんが男の人の手錠を外してもかばう素振りもみせず。
てのひらをグーパーして、感触をたしかめている。
どこか暴力的な雰囲気を、ただよわせ始めている。
まいらさんは、女の人だし。
背は低くないし、ちょっと気性が激しくてヤンキー風なところもあって。
女の人どうしでの喧嘩では、弱くないと思うけど。
この男の人とは、体重からして違うし、――。
わたしはそう思いながら、まいらさんに目を転じて。
まいらさんが、どこか怒ってるような、好戦的な表情を浮かべてるのに気づいた。
ぎらぎらした目。まだ乾きかけの血がついてる吊り上がった口元に、わたしは凄惨な美しさを感じて。
息をのんで、まいらさんの顔から眼を離せなくなった。
そしてまいらさんは、口をひらいて発言した。
「あんたさ。好き勝手、自分が正しいみたいに言ってくれてるけど。
あんたの顔、見覚えがある。
入院してるときのテレビでみたわよ?
――たしか小さい男の子まで、殺させてたわよね。――外道。」
「あれは、エツコたちが勝手にやったことで、僕は――」
「――あんた、反吐がでる。腐ったようなやつね。
あのニュースみて、本当にぶん殴ってやりたいって思ってたわ。
そこの近知郎のクソ野郎の方が、まだマシよ。」
「君は誤解してる。僕が悪いんじゃないんだ。
エツコたちが、勝手に勘違いしてあんなことをやったんだ。
僕は、被害者。被害者なんだぞ!
君は、僕の名誉をキソンしてるんだよ?
だいたい君もね。そんなこと言ってるけど。
君の顔も、僕は週刊誌で見た気がするな。たしか男のペ●スを切り取って――」
「はい、そこらへんでよろしいでしょうか。それでは。」
すごく、気になる!
まいらさんのことを、何かこの男の人が言いかけてたんだけど。
側用人さんは割って入って、男の人の左足を、まいらさんと同様に2メートルほどの鎖でつなげた。
ふたりは、つながれた床の中心から、2メートルの半径の中。
最大離れると4メートルくらいの距離に、つなぎ合わされたことになる。
御前様がすわったままののソファを、近知郎さんと剣波さんが軽々と持ち上げ、少し後ろにさげる。
その2人が動き回る、2メートルの半径に入らないように。
御前様が、うなずく。
「さあ、どうぞ。」
側用人さんのことばに、男の人がまいらさんにとびかかった。
じゃらじゃら、と鎖が鳴り、まいらさんはすばやくそれを避け、男の人から離れた側に最大限逃げた。
男の人は、今度は無理に近づこうとせず。
鎖が留められてる、床の中央付近に歩み寄り。
まいらさんの鎖の端、床につながってるあたりを手に持ち。
ぐい、っと引く。
鎖につながれたまいらさんの左足が引かれて、仰向けに倒れ、引き寄せられる。
ああ、やっぱり。
腕力じゃ、やっぱり敵わないんだろう。
男の人が、まいらさんの左足のくさりをたぐり、上に引き上げ。
まいらさんは、自由な右足で蹴ろうとしたが、男の人はかわして。
まいらさんの体の、上にのしかかった。
「ほら。『ごめんなさい』は?」
男の人は、まいらさんのお腹のあたりにまたがるのに成功した。
抵抗するまいらさんの腕をさばき。
その手首をつかんで、床に押さえつける。
喧嘩慣れした、感じがする。
「これで、勝ったんですか?」
男の人は、レフェリーのように近くで見守る伯父さんを見上げて尋ねる。
まいらさんが、必死に腕を外そうとするが、がっちりと男の人につかまれてる。
「いえ、まだですね。
負けを認めるか、失神するまでですね。」
「そうですか。――おい、早く負けを認めろよ。」
男の人は、今度はまいらさんの腕を強引に体側に下げさせ。
のしかかってる膝で、その腕を押さえつけた。
体重がかかったんだろう、まいらさんの顔に苦痛の色が走った。
「ほら、ほら。」
男の人は、がす、と一度まいらさんに頭突きすると。
平手で、下からにらみつけるまいらさんの頬を打った。
1回、2回、3回、――かなり強い勢いで。
繰り返す。
「鼻でも折ってやろうか。ああ?」
こんどは、手加減せずに男の人が顔を正面から殴りつけようとする。
だけど、まいらさんは素早く大きく首を振り、それを外した。2度、3度。
ただ、頬とか口元とかにかすったり、一部当たったりしてしまってる。
「ちょろちょろしやがって。首を絞めてやる。
またその前に、ちょっと。
これまでの僕を傷つけた暴言へのおしおきをしなきゃな。」
男の人は、侍女服の前のあわせを乱暴に開け、まいらさんの胸元をはだけた。
真っ白な胸元がさらけだされる。
ブラを引きはがした男の人は、形のいいまいらさんの乳房をわしづかみにした。
大きな乳房に指が食い込むのを、わたしは息を止めて見入った。
「――噛みちぎってやろうか?いや、それとも、」
男の人の横顔に、どこか残忍な歓喜の笑みが浮かんでいた。
まいらさんは答えず、顔を横にそらした。
男の人は、またがるところをすこしまいらさんの胸側にすすませ。
まいらさんの顔を、自分の正面に向かせようと手をのばした。
きっと固定してビンタするなり、殴るなりするんだろう。
ああ、もう駄目だ。この体勢なら、なんでもできてしまう。
わたしは思わず、みていられなくて目をつぶった。
「ぐっ!?」
何が起きたのか、わからなかった。
一瞬でなぜか、男の人の体勢がくずれてる。
仰向けに倒れて、のたうちまわってる。
わたしが目をはなした、その一瞬のうちに。
まいらさんの左足首の鎖が、男の人の首に巻き付いてて。
まいらさんが横になったまま、器用に足でそれを引き、男の人の首を絞めた状態になってる。
多分。
まいらさんは、この、のしかかってる男の人の油断をみすまして。
その背後の自分の左足を上げて、その足首の鎖を男の人の首にひっかけたんだ。
そして、足を引いて背後に倒し、右足で男の人の首に回った鎖を抑えるようにして、締めあげたんだ。
右足は単に上から押さえてるだけじゃなくて、床側の鎖にもつま先をひっかけてかっちりした輪にしてる。
ちっとやそっとじゃ、外れないだろう。
男の人は、必死の形相でその鎖をつかんで外そうとしている。
自分の爪で、自分の首沿いに傷が走った。吉川線だ。
でも、この男の人の腕力では、まいらさんのかけた鎖ははずせないようだった。
びくん、びくんとして、やがて私のところまで届く異臭がした。
失禁したんだ。
ぐにゅ、と男の人の体から力が抜けた。
まいらさんは、上体を起こして。
男の人の首のあたりに、指を這わせた。
そして、すぐ足の鎖を緩め。
男の人の胸のあたりをすごい勢いで、ぐい、ぐいっと押しはじめた。
すると。
かひゅ、かひゅっと息がして、男の人の胸がせわしなく動いた。
「勝負あり。
だがマイラは、手加減した。」
御前様が、きしむような声でそうつぶやき。
男の人の胸を押していたまいらさんが、固まった。
「ご判断は、いかがでしょうか。」
側用人の伯父さんが、きく。
「そなたら。考えは?」
おじいさんは、きしむ声で近知郎さんと剣波さんに問いかけた。
「この男はバカだな。さっさと終わらせればいいのによ、もったいぶりやがって。」
「その男、資質はありますが、油断がすぎる。人心の操作は上手いが、技量的には凡庸です。」
近知郎さん、剣波さんがおじいさんの問いに答える。
「不要。中途半端。
一度、牢に戻せ。
あの、何といったか。新しく手に入れた、ファラリスの雄牛だったか、あれの試しに――」
御前様と呼ばれるおじいさんが、何か指示をして。
活を入れられて意識を取り戻した男の人は、また手錠を嵌められて。
ふらつきながら、江戸門さんと近知郎さんに引き立てられて出ていく。
まいらさん、御前様と伯父さんだけが、部屋に残った。
まいらさんは、伯父さんの指示で、かなり離れた壁際で頭を垂れた状態で控え。
ソファに座った御前様とそのすぐそばに立つ伯父さんが、ひそひそと話を交わす。
わたしの強化された聴覚でも、やっと聞き取れるかどうか。
そんな小声だ。
「先代、次代の荷への乙女、その友人たちに、下見したあの乙女。
5人となる。足りよう。
直ちに合力し集めよ。クルスィファに告げよ。
どうしても足りぬ時は、下屋敷から代わりを見繕ってもよい。」
おじいさんの、きしむ声がそう伯父さんに告げ。
伯父さんは、深く頭を下げた。
「さて、セバ。」
「はい。」
本当に声が小さくなり、ほとんど聞こえなくなってしまった。
確実に、まいらさんには聞こえていない。
そのまいらさんを一瞥しながら、二人が話してる。
「――、善性が残って、――
観察、――」
「はい。」
「証拠、――。裏切り、――。刻む。」
「はい。」
「最近、マイラや、あの荷への乙女など、人間の牝、――。」
何かしゃべっている。
しかし。
声が小さい。聞き取れない。
潮時だ。
わたしは音をたてないように、立ち上がった。
足音を忍ばせ、来た道をたどることにする。
明日、何も知らないふりをして帰してもらおう。
そして、相談しよう。助けをもとめなきゃ。
なにかここでは、異常なことがおきてるんだ。
それにしても。
わたしには、正直わからないことだらけだった。
ただ。
おじいさんが、いい人とは必ずしもいえないことがわかった。
(迷いがある。昼のおじいさんはいい人で、嘘とは思えなかった。一種の二重人格だろうか?)
だれかが、塔、もしかするとそれ以外の場所にも、監禁されてることも。
まいらさんが、おじいさんに痛めつけられてることも。
(あの筋肉痛のようなぎこちなかった動き。あれは、こういうことをされてたからかもしれない。)
施場の伯父さんや近知郎さんたちが、実は人を簡単に傷つけるような、恐ろしい人たちだということも。
そしてまいらさんも、何かの事件に関与してたことも?
そして、「荷への乙女」か。なにか荷物を送るために女の子を集めようとしていることも。
とにかく、相談しないと。志野くんに、そしてさとみんに。
――――――
――――――
(第三者(施場側用人)視点)
側用人である彼は、主人に忠実である。
その彼の主は、まいらと呼ばれる侍女に疑いの念を抱いているようだった。
側用人である彼の目からは、彼女はまあまあ優れた侍女見習である。
経験不足だが愚直に学ぶ姿勢があり、忍耐強く、近知郎たちの性欲処理役も果たし、使い勝手がよい。
今日示したように、戦闘力が高いとまではいえないが、自分の力を知っていて、機転が利く。
ただ、たしかに彼女は、今日試合わせた愚かな候補者を殺せたのに、殺さなかった。
まあだからあの負けた愚かな男を、新しく入手した拷問具のテスターにできるというものだ。
だが善性が残りすぎていると、いえなくもない。
懸念事項として、彼はそれを意識にとどめた。
ただ、そこから。
話は逸れて、この主人の最近感じていることに移っている。
つまりは、まいらや「贄」の乙女を見たときの感覚について、主は疑問を覚えているようだ。
「――奇妙な感覚が、ある。
何かをなすべき。しかし、それをできていない。
これは、人間の感覚であろう、そうだな?」
「はい。人間の牡は精を貯めて、それを打ち放ってその感覚を消すのです。」
側用人は、この主人が性欲を感じているということに思い至り、頭痛を覚えながらそう答えた。
思えば、90近い老人だったこの主人は。
今では60台、下手をすると50台にも思えるくらいの若々しさ、強健さを取り戻している。
その身体に、精神が引っ張られることは十分にありえよう。
そして今まで刻んできたのは、ものにならなかった指名手配犯などの半端者たち。
それらの者の多くは若い男。性犯罪者も多い。
そうした者の血気盛んな脳からも、彼の主人は影響を受けてしまったのだろう。
「なるほど。あの近知郎やクルスィファも、そういうわけでマイラを使っているのだな。」
主人が納得したように、つぶやく。
本来、側用人である彼は、主人のそうした用途のことも考えてまいらを購入したのだが。
これまで入浴や添い寝を命じても、主人はまいらに手を出してこなかった。
だが、
「まいらに、抜かせましょうか。」
「うむ。――いや、今日はよい。今から、猿を街に出させたい。
マイラも、あの愚か者の尿で汚れていよう。」
そういうことか。
主は、贄集めを急いでおられるようだ。
また明日にでも、まいらに奉仕させよう。
そう、側用人は考え。
まいらにねぎらいの言葉を述べるとともに、しばし舞踏室で待つように命じ。
まいらには立ち入りを許していない区画へ赴く主人の供として、舞踏室を出たのだった。
ふたりとも、屋根裏に何者かが潜んでいたなどとは、気付いてもいなかった。