タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
一度投稿ミスしました。
(調布智美視点)
家に帰りつくと、服を脱ぎ捨ててシャワーを浴びることにする。
濡れたスカートを、洗濯機の横の脱衣かごに放りこむ。
このスカート、洗えるんだっけ。ドライクリーニングじゃないといけないのかな。
タグを確認して、洗えることを確認する。でも手洗いなのか。別にしておこう。
こんなことも、母任せにしてきてたんだ。
こうして土曜日も仕事をしてる母の方が、学生の私なんかより明らかに忙しいのに。
夕食の準備や自分の部屋の掃除くらいは、自分でやるようになったけれど。
朝食の準備も家の掃除も、洗濯とかも母まかせだった。
今度からは、自分でもやることにしよう。
シャワーに入る。熱めが好きだ。
ぐっしょり濡れた髪を洗い、夏とはいえ濡れて冷えた肌を洗い。
胸を軽く抑えたとき。覚えず、甘い感覚を覚えて吐息が出た。
──志野、あんた責任取りなさいよ。
心の中で照れ隠しに毒づいて(?)、気を引き締めて粛々と体を洗う。
手入れとか、変えたわけでもないのに。
最近は肌がすごくつやつや、すべすべしてきてる。こうして洗う、触覚ですらわかる。
(これは同じグループの子たちにも、指摘されてしまった。)
ちょっと前から、体調は好調もいいところで。
時々混ぜてもらう陸上の練習でも、タイムを更新し続けてる。
それに最近気づいたけれど、回復力が上がったというのか。
最近は軽い怪我みたいなのは、切り傷ですら一日と立たずに治ってる気がする。
志野に手厳しく打たれた鞭跡も、翌朝にはきれいに消えていたっけ。
できると煩わしい口内炎や吹き出物など、そもそも全くできなくなってしまった。
何より。
あの、5月の連休明けの日。
美術室で志野から、きれいだって言われた日から。
一日の狂いもなく、28日周期で生理が訪れるようになってる。
つまり、これらすべては。
きっと体が、勝手に。
雌としての私のコンディションを、整えようとしている、その表れ。
そういうことだと思う。
ちょっと前の私だと、男に媚びる自分の体に対する嫌悪感で、絶食とかしてたかもしれないけれど。
今はそんなことはない。
むしろ
変わったものだ。
シャワーを終えて髪を乾かしていると、母が帰ってきた。
「お帰り。」
「ただいま。お風呂入ったの?」
「うん、シャワー。お母さんも入りなよ。」
母は今日は自動車で通勤したようで、それほど濡れてはいないみたいだ。
でも、それもいいわね、と目じりを緩める。
「それともお父さん、迎えに行く?」
「そうね。行ってもいいけど。ごはんの準備もあるし。」
「お父さん、傘持ってないんだよね?
あたし、駅かバス停まで迎えに行ってもいいけど。」
「あ、お願いできる?だったら、電話しときましょうかね。」
父は結構新しいものが好きで、携帯電話もわりと早くから契約してる。
私にもこの7月からサービスが始まったPHSを契約してくれると言ってるけど、なんだか見張られてるって感じもして、まだ要らないって言っている。
ただ、あると便利なんだろうな。
父は、関東の大学で講師として教えている。専任講師というやつで、ポジションを得られたのはまだ割と最近だ。
母も大学の教員だけど、先に多賀島大学で専任教員となって、今は助教授になっている。
キャリアとしては、母の方が高いということになる。
父がそれをどう思ってるかよくわからないが、表面上は、母の尻に敷かれてる状態を受け入れていて、夫婦仲は悪くなく思える。
ちなみに私が高校受験のとき、首都圏の高校を受験してたのも、首都圏に進学しても父と一緒に住めばいい、ということがあったのだと思う。
それに、あのころは私は母とはかなり険悪だったな。
距離をとった方がいい、と母は思っていたのかもしれない。
もっとも、父とも、それほど仲が良好だったというわけでもないのだが。
どこかいそいそと夕食の準備を始めた母を置いて、私は外に出ることを考えて、スポーティなショートパンツを身に着ける。
雨はまた強くなってきてるな。丈夫な傘を持っていくか。
今日、もらった傘。
傘に罪はないし、これ、持っていこうかな。
傘をくれた、あの男のことは、──どちらかというと、やっぱり気に入らない。
客観的には颯爽としてて、かっこいいんだろうけどな。そつがなくて仕事もできて出世しそう。
でも、あたしは。
あの不器用で出世しなさそうだけど誠実で変態な志野が好きだ。お金は自分で稼げるし。
そうだ、あいつだったら、あんなときどうしてたのかな。
心の中で葛藤しながらも、結局勇気を出せず違う道に逃げて行ってた?
それとも、傘をパッと押しつけて、走って逃げてた?
それか傘を渡そうと話しかけて、ナンパか痴漢と間違われてた?
そんなありそうな冴えないシナリオが思わず頭に浮かんで、顔に笑みが浮かんだ。
いいのよあんたは、あたしとみなりのことだけ見てれば。
父からも母に連絡が入ったらしい。今からまさにバスに乗りこむところだそうだ。
少し道が混んでるとしても、もう10分ちょっとくらいで家の最寄りのバス停に着くだろう。
私は、念のため上からウィンドブレーカーを羽織り。
あの丈夫な傘(強風に煽られて、一度強く落としてしまったが、持ち手が傷ついただけで無事だ)を父のために、1本は自分が差すために、携えて。
また勢いを強めた雨の中、マンションを出て迎えに向かったのだった。
──────
最寄りの、下り線のバス停。屋根庇も何もなく、バスの標識がぽつんとあるだけだ。
(ちなみに、上り線のバス停には屋根がある。)
唐人坂下というバス停で、傘を片手に佇む。
あの「トト口」の映画の一場面みたいだ(あたりは住宅街で、私はもう子供とは言い難いけど)。
バスが来て、数人の乗客を吐き出す。
その中の一人、ホワイトシャツにグレーのチノパンツの姿で、かなりの量の荷物を抱えたみなれた姿に、私は傘を差しかけた。
「お父さん。」
「あー、サトミか。ありがとう。」
母は、迎えに行くとは言ったけど私が行くとは言っていなかったのかな。
子供の頃、それこそ小学校中学年のころまでは、週に1度帰ってくる父を、いそいそと夕暮れのバス停に迎えに行ってた気がするけど。
中学校以降は、ほとんどなかったし。
母ほどじゃないけど、邪険にしてたこともあった。
なんならちょっと、蛇蝎視していたかもしれない。
それこそ、父とは洗濯物を一緒にしないように母に圧力かけてたり。
悪いことをした。
「鞄、持つよ。」
「いや、あー、これじゃ傘、持てないか。
じゃあ、こっちを頼むかな。」
多分PCでも入れてるのだろう、ずっしりした鞄を渡される。
簡単にいえば父のいで立ちは、両手に鞄、背中にリュック。
到底、傘が差せる感じじゃない。
駅のバスターミナルは屋根があるからよかったけど、こっちのバス停から家までは多少歩く。
迎えに来てよかったでしょう?
「大学、いつまで?」
「そうだね、来週、成績評定を提出したら、休めるかな。」
父は非常勤時代が長かったので、本務先以外にも、まだ複数の大学から仕事を受けていて。
結構、今学期末は忙しいんだそうだ。
その鞄の中にも、大事な答案とか入ってるんだよ、なくしたら大変だ!と笑っている。
「お父さん。ちょっと教えてほしいんだけど。」
父の研究分野は、あまり研究者の需要がないというか。
そこそこのメジャー分野ではあるんだけど、やや先細り気味の人文社会学系だ。
でも最近、志野と投資もやりはじめて、外国のこととか産業のこととかに興味が出てきた私には、ちょうどいい情報源だ。
「今から電子機器関係は伸びるって聞いたけど。
インターネット関係って、どうなの?」
ここしばらく、あまり会話がなかった娘からの問いかけに、父は少し驚いていたようだったが。
彼の知る限りで、誠実に考えて答えてくれた。
なんか会うたびにダサい服装のセンスに軽くイラっとしたこともあった父だけれども。
世渡りはそこまで上手くないけど、きっと教育者としてはいい人なのだろう。
「サトミは、将来なんの仕事に就きたいの?」
父も、私に聞きたいことがあったみたいだ。
ぽつぽつとではあったが、父と私の会話は、ふたりで雨の中を歩き、帰宅するまで。
いや、その後も食事を食べながら、続いたのだった。
――――――
たいして強くもないのに、めずらしく酒を飲んで上機嫌になり、すこし赤くなった父が、母とダイニングで談笑してる。
私も同席して、母と同じ食後の玄米茶を飲んでる。
平和な光景だ。
私はときどき、ふたりの会話に混ざってたけど。
折をみて脱出しようか、などと思い始めたときにその話が振られてきた。
「サトミは、夏休みどうする?」
「どうする、って?」
「母さんの実家に帰省するか?それとも東京、行ってみたいか?」
高校受験で途切れるまで、私はだいたい、夏休みに母の実家に里帰りしていた。
父親の実家筋には、あまり行ったことがない。
父方の祖母が私のまだ小さいころに亡くなり。
父が私を、かなり性格に問題のあるらしい父方の祖父に近づけたがらなかったせいだ。
母方の実家は、
町の人口は3万人に満たない程度でしかないが、温泉も近場にあり、ローカル線ではあるけれども電車も通ってて、意外にアクセスも悪くない。
中学2年の夏までは、この母の実家によく帰省してた。その後は、高校受験の関係で帰省してない。
豊かな自然の中で、いとこたちと遊んだ記憶もある。
かっこいい従兄への、かすかに淡い初恋の思い出も。
いかついけど気のいい、眉の太い叔父さんと叔母さんの思い出も。
今頃、彼らはどうしてるだろうか?
どちらも惹かれるものがある。
「お父さんたちは?」
「ああ、東京なら仕事をするし。
母さんの実家にも、少し滞在してもいい。」
「別に、実家は行かなくてもいいのよ。
ただ、私は。あの子の3回忌でもあるから、」
「あたしは、両方いってみたい。
ただ、友達と約束があるから、遅くなる。お盆終わりのぎりぎりか、ちょっとだけすぎるかもしれないけど。」
あの竜神のことを思い出して、忘れないうちに言っておく。
予定だと、お盆休みの直前に竜神を異次元の世界に送り戻す(?)ことになってたはずだ。
天候のこともあるから動くこともある、って志野は言ってた。
前後数日、空けた方がいい。
まずいな、重要なことなのに忘れかけてたけど、あいつはちゃんと準備しているのかな。
それはともかく。
どちらに行きたいかと言うと。
――実家にも挨拶しておきたい。来年は多分、受験で行けないだろうし。
そして、東京にも行きたい気もする。
でも交通費がすごいかかりそうだ。
それを口にすると、そんなの気にするな、と笑って言われた。
また少し考えて決めなさい、と言われて、その話はいったん一段落した。
私は、語りあってる母たちをみながら、記憶をさぐる。
――――――
まだ小学校の頃、母の実家の田舎に帰省するのが楽しみだった。
さまざまな年齢のいとこたち、いとこの友人たち、そしてその友人たち。
自分の周囲より、ずっと濃密な親戚関係、人間関係。
多賀島市の中心部だと想像もつかないくらいに、深い森に息づく神秘的な自然。
もちろん、それは祝福ばかりではなくて。
田舎特有の濃い人づきあいも、きっと長く住んでいたらイヤになるだろう。
自然もきれいなだけじゃない。私の滞在中に、小さな子供が谷川の淵で溺れて亡くなったこともあった。
けれど、ときおり訪れるだけの私にはどちらも魅力的で。
その魅力は成長するにつれて減じたけれども、懐かしくも慕わしいものだった。
最近あまり年賀状も帰ってきてない気がするけど、従兄たちは元気だろうか。
そのときの私は、ただ幼年期の幸せな思い出を確認したいと思っていた。
――――――
私は、その後供されたお菓子は断って(甘いもの好きの父は、取り分が増えるよろこびと、チェックの厳しい母と戦う仲間が消える悲しみの入り混じった表情をしていた)、部屋に戻った。
そして机の引き出しから、かわいい写真のついたその袋を取り出した。
数日前、学校で流行に敏い子から聞いた話に釣られて、探して買ったものだ。
そういうものを、本来の目的外に使う人がいるという、話は聞いていた。
ただ、その安全性についてはまったく保証の限りではない。推奨できない、とも。
そして私は、我ながら馬鹿なことと思いながらも、街に出て。
おしゃれな雑貨店でみつけた、ヒューマングレードを謳っている輸入物のこれを購入した。
会計をしてくれた雑貨店の店主さんも、まさか私がそんな目的を考えているとは思うまい。
もちろん、一時的なもの。今週限りのものでしかない。
もし、――いや、先のことは考えまい。
私は、丁寧に封を開けて、ゆっくりと取り出したそれを口に含んでみた。
――――――
――――――
(上竜神沢、第3者(「竜神の娘」)視点)
「これ、またしょうこりもなく話が来たんですが。
にぎりつぶしちまっても、いいんですよ。」
「そうは、いきますまい。
小父さんの、ご懸念もわかりますが。」
調布智美に付き添われて、国領ハルカがアルバイトをした、その日の午後。
その日、ダム建設の土木作業現場に呼び出され。
天候が崩れる前になんとか片を付けたい現場がある、と懇願され。
そして、その期待に応えて八面六臂の大活躍をした、竜神の娘は。
謝礼の入った封筒を、この竜神の娘が気を許す数少ない外部の人間である、中年男から受け取りながら。
その中年男の感謝の言葉の後、依頼とも愚痴ともつかない言葉を聞いていた。
苦虫をかみつぶした、日に焼けたこの中年男の表情からすれば。
この中年男にとって、この依頼はやっぱり、あまり納得のいくものではないようだ。
この中年男、別にすごく善人だというわけではない。よくいる、ごく普通のダメ親父だ。
ただ性格なのか、彼なりの正義感なのか、この界隈の人間にしては、まともでちょっと優しいだけのこと。
特に、女子供には。
そして特に、 ――ちょっと美人な女の子には。
だから。
その条件をみたし、さらにあやしげな宗教団体にこきつかわれているらしく。
なんだかほっとけない、この竜神の娘には。
ウロコとか怪力とかの変わったところが、あったとしても。
会う前にはいそいそと軽いお菓子とか用意して、竜神の娘の笑顔を見て鼻の下を伸ばしてしまうくらいに、甘かった。
さて、この中年男が語っている、依頼の内容は。
要は女を売りたい者がいる、ということ。
これは、一度消えた話と同じだ。
また人の売買の仲立ちをしてほしい、ということだ。
竜神の娘は、中年男の言葉を聞きながらも。
今回、その中年男からもらった、樹脂のカップに意識を向けていた。
かき氷の一種なのだろう。黄色の氷菓が封入されていた。
表に、1枚レモンのスライスが載せられていた。
ほほう、かき氷か。わざわざこんな上等な器に詰めて売り物にしているのか。と彼女は思ったのだが。
彼女が思うかき氷より、さわやかで甘酸っぱい味。
彼女なりに力をふるい、汗を流した後には、堪えられないほどに美味であり。
さくさくしゃくしゃくと、くぼみもない平らな、使い捨ての木の匙で掬う手が早まる。
そう、竜神の娘はサ○レレモンに意識の半分が持っていかれており。
中年男も、そのほほえましい様子をみて。
話を中断し、額に寄っていたしわを伸ばし、その顔に朗らかな笑みを浮かべた。
――――――
以前、竜神の娘は、とある事情から、ある急死した仲介屋の仕事を引き継ぐ立場になり。
たいていは物資の売買の立ち合い。当事者の信頼関係が微妙だったりで、ちゃんとディールがなされるかを立会い、実行させ、確認して終わりなのだが。
裏仕事というのか、芳しからぬ仕事も引き継いでいる。
この竜神の娘としてはやりたい仕事でも、やらねばならぬ事でもない。
だから気が向いたもの(ごくまれだが、竜神の娘の価値観からは認めるべきものがあるのだ)以外のそうした仕事は、やはり引継ぎで知ることとなったほかの
ただ、竜神の娘としては、この中年男から特にたのみこまれた依頼は、なるべく受けるようにしている。
個人的に、この男が好ましいというのがもっとも大きな理由だ。
食べていくには、今のところは十分な収入がある。
彼女が本気を出せば、冗談抜きに、飯場の労務者たちを酷使して数十日単位の量の仕事が、わずか1、2日で終わったりする。
しかも、建設機械が入らないような悪条件の場所ですら。
だから、飯場側はそれに見合った正当な対価をこの竜神の娘に払っていた。
もちろん彼女は力のある素人にすぎないので、彼女がガガッと進めた後に、飯場側も技術的な観点からそのフォローをする必要もあって。
彼女が飯場のために
それでも村人たちが食べていくのには、十分すぎる稼ぎになっていた。
ただ彼女は、竜神との誓約のため、この周辺でしか働けないし。
ダムが完成すれば、仕事もなくなってしまう。
だから立会や仲買の仕事も、軽視すべきでないのかもしれないが。
――――――
氷菓を、食べつくした。
ちょっと恨めしく思いながら、感謝の言葉を述べる。
中年男は、いいんすよいいんすよ、また持ってきますわ、と言いながら、ガラを回収してくれた。
さて。
「――人を欲しい、とおっしゃる筋はあります。
いくらでも欲しい、寝たきりでも欲しい、という筋も。」
そう、竜神の娘は前提として言っておく。
「ただ、伺った話だと。
これはこの前、なくなった話と、同じ話のような気がします。
つなぎ先も同じですから、簡単に出来そうですけれども。
気が進まない事情が、おありなんでしょう。」
「そうなんすよ。断られても、構いませんで。
ただまあ、ちいっと知ってる限りでは、あまり今度の人は、うーん。」
何か、苦笑いしている。
どうやら、直接か間接だかの知りあいらしい。
「それほど、良くないお人ですか。」
「まあ、――この前の人よりは、ね。」
どうやら、かなり印象の悪い人らしい。
それはともかく。
「小父様のお考えでは、どうなのですか。
こちらが断っても、どのみちもっと悪い話になる。
――お口ぶりからは、そうお考えなのでしょう?」
中年男は、そういわれて。
意表を衝かれたように、目を瞬かせる。
「姫さん、やっぱり只者ではないですね。
――ええ、たぶん買われなかったら、『消される』でしょうなあ。
保険をかけて、――あ、保険ってご存じなんすよね。」
「ええ、遠い親戚が、その関係の仕事をしていたみたいで。
子供のころ、父が尋常終身保険を契約したことを、母と話しておりました。」
そうだ、そっちの親戚はまだ生きているのだろうか。
父の筋の親戚は疎遠になっていて、確かめていなかったな。
あの保険証書も、どこかにあるのだろうか。
そう、彼女は話しながら思う。
「大きな声では、言えませんが。
それを掛けられて、事故で死ぬ、という感じで話が進みそうですな。
まあ、そうなっても仕方ないような女ではありますが。」
そう、中年男は吐き捨てる。
なるほど。それほど心を痛めなくてもいいということらしい。
「事情はいろいろ、ありそうですが。
買われた方がその方にとってもよいということでしたら。
私としては、構いませぬ。
つなぎ自体は、前回同様でしょうし。
えり好みせず、細くとも多少は仕事をしておかねば、とは思っております。」
いざというとき、あるいは竜神の娘が死んだ後、村人たちにとって。
こんな仕事の伝手でも、役立つこともあるかもしれない。
竜神の娘は、現実家でもあった。
「それと、これがその書類でさあ。」
中年男が、ショルダーバッグから取り出してみせてくれた書類にも、軽く目を通す。
書類の一つに貼られていた写真には、外見はそれほど悪くないが、陰険な光を目に宿す豊満な女が映っている。
「
「あ、こんなのもありんした。
姫さん、どうぞ。」
彼女の関心は、中年男が同じショルダーバッグから取り出してくれた、別の菓子に奪われていくのであった。