※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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 前話の途中、紫藤が眠った場面からの志野視点でのスタートです。


20 援助+交際だ、援助交際ではない(2)

 スタンダールも、たしか書いていた。

 恋愛でもっとも幸せなのは、愛する人とはじめて手をつないだ時であると(うろ覚え)。

 

 一回目の世界では、童貞じゃないけどまあ準童貞。一応知識もあるし、実体験したけど技量ゼロ。ペーパードライバーみたいなものだ。二回目の世界では真の童貞。そんな僕が、紫藤に手をつないでもらっただけで、すっかり舞い上がってしまうのはしかたない。

 

 ベッドの中には頬を薄いバラ色に染めた紫藤が、すやすやと寝息をたてている。寝顔は穏やかだ。睫毛、長いな。瞼をよくみると、細い血管が走っているのがみえるほどに薄い。唇はすこし荒れてて、色も少し悪い。リップクリームもグロスも何も使ってないんだな。丸顔という印象だったが、少し頬が細くなってしまっている。たぶん紫藤母の多忙で、家事等の負担がかかってしまっているのだろう。笑顔や気弱な雰囲気とかのせいで柔和な印象だが、よくみると地味ながら端正な顔立ちだと思う。

 

 寝顔を見つめながら、こんなことになった、この二時間に思いを巡らす。

 ーーーーー

 

 正午ごろに紫藤を見つけたとき、紫藤はよくみると顔が赤く、足元が相当おぼつかなかった。やっと歩いて、立っている状態。言葉から判断して傷んだものを食べたか、と最初は思って吐かせたが。

 

 話を聞いて紫藤家に乗り込み、カエルみたいな男を確保して詰めていった。ちゃんと録音できてるか不安だが、ウ○ークマンが役立った。なんとか詰め将棋を詰めきれた。まあ相手のカエルが脇甘すぎだったから、僕みたいなへぼ将棋指しでも詰められたのだが。

 

 紫藤にも聞いていたが。紫藤父が一枚噛んでの売春というか人身売買かよ。強姦罪は親告罪だが、もしかするとそっちの人身売買の線だったら、親告罪でない罪で行けたかな。人身売買罪ってあったような気がする、でも細かい内容を覚えてない。

 紫藤父を巻き込まない、という方針もあり、勉強不足もあって、カエルに釘を刺す(と書くと残酷だ)くらいしかできなかったが、大丈夫だろうか。大学時代、聴講してた刑法の授業、もっと身をいれて聞いとけばよかったな。

 まあ、あの両生類男はたぶん金はありそうだが蛮勇はなさそうだった。紫藤へのあんなアプローチはやめるんじゃないかな。

 

 問題は紫藤の父だ。紫藤にとっては義理ではあっても父親だ、やはりこんなことで前科をつけたくないのだろう。それに被害者であっても、加害者の家族は差別、弾圧されるからな、告訴に消極的なのはもっともだ。

 でも。僕の中では紫藤父を積極的に救うために行動する、ということはしなくてよいだろうという考えが確立しつつある。もしかすると、谷津崎に紫藤を売ったのはこの継父かもしれない。紫藤の家族思いの優しい心はそれとして尊重したいが、だが僕は紫藤をあの串刺しの運命から救うために行動する、そこは譲れない。その妨げとなるものは、非情と謗られようが排除する。結果として見殺しとなるとしても、僕自身はこの紫藤の継父の救済のため、積極的に介入することはしないつもりだ。

 

 ーーーーー

 

 ところでこの状況。いつ人がくるか分からないが、紫藤父たちの行動からみて、しばらくはほかの家族は帰ってこない予定なのだろう。そして中身がこじらせチェリーな高校生男子、まあ1日一回は抜かないと誤動作を起こしかねない、性欲タンクが1日で一杯以上になる奴の前に、立ち回りで少し服が乱れ、第一ボタンの取れたブラウスの女の子が、身の危険も知らず寝てるわけだ。

 

 事案、再び。

 

 さっきのカエル男は、まあ見てくれも行動もキモいと思うが、ガワが違うだけで僕も同類なのだ。うん。

 こうしてる今も、見返されないからと安心して、紫藤のそのボタンの取れたブラウスから覗く、胸元の白い肌をガン見してる。

 

 頭のなかでは、反芻してる。正午に見つけたときの、紫藤を抱えあげたときの膝裏や、背中の感触、吐かせるために俯けにしたとき、支える手で触れた控えめだが柔らかい胸、背中を擦ったときに気づいたブラの紐、背負ったときに背中でつぶれていた双丘や抱え込む手に触れた生の腿の裏。

 

 うん、我慢できない。犯罪起こす自信がある。

 

 柔らかい手に未練はあるが、一度、紫藤の手を離そう。手汗もかいてきてしまったし、理性が持たない。そっと名残惜しく手を離すと、うぅん、というような吐息を紫藤が立てた。この吐息で喘がせてみたい、という思いに、一気に、その、股間のものが固く立ち上がってしまう。頭の中の天使と悪魔の争いが、一気に悪魔に傾いてしまう。

 

 気をまぎらわせよう。回りを見回す。書棚には本が多いが、少し昔の子供用の本が多い。こちらの時間軸だとつい最近亡くなった、ドイツの児童文学の大家の分厚い赤い装丁の本。映画は正直原作と違うと思ったけど、あのテーマ曲は大好きだったな。フッフール格好いい。

 

 その作家の本は好きだったのか、かなり集められている。M○M○は暗さが足りず、きれいすぎる気もするけど悪くないよね。

 あと日本の作家も。パステルカラーの、点描に似たとても柔らかな筆致の表紙。不思議な感じの童話集だったかな。

 かとおもえばシベリア送りになった、有名な帝政ロシア期の作家の本。よく読み込まれてて表紙はボロボロになってる。僕はスヴィドリガイロフが好きだ、あの屈折ぶりが格好いいんだよ。

 

 ベッドに隣接して、勉強机。小学生児童用とおぼしきメルヘンチックな机だが、きちんと丁寧に整理され、机の上にはほとんど物がない。机自体もそれなりの使用感はあるがきれいだ。

 線対称の位置にある弟の机は正反対だな、積み上がった本やプリントで、使える面積は四分の一以下だ。机の横にもプリントが地層を作り始めてる。

 

 少し気が紛れて、回りにさらに視線を向ける。二階の部屋は、明らかに子供たちの部屋だ。ただ、机以外でも、タンスなどの家具や備品は、高校生と中学生の部屋というより、小学生の姉弟の部屋という感じだ。たぶん、前の父親との離婚以後、経済的に苦しくなって調度も更新できなかったのだろう。この年で、簡単なカーテンみたいなものはあるが姉弟同室というのもちょっと異例じゃないだろうか。紫藤も、その弟も嫌だろうに。エ○本どこに隠すんだよ。っていうかどこで読むんだよ。

 

 弟の本は書棚でなく、ベッドの回りに積み上げられてるものが多い。苦澤龍彦の全集や二島由紀夫の文庫本がある。あと題名見えてるあのハードカバーは赤橋和巳かよ、今でも読む人がいるんだな。

 あとちょっとこれは問題だな、姉弟の禁断愛がテーマの18禁マンガがあるじゃないか。ちょっと前衛的というか、毛孔のひとつひとつまで写実的に書きかねないような、偏執的な画風の作家だ。寡作で少ししか知らないが、結構中身もえぐかったと思う、無理心中の失敗で生き残った弟の回想とかで、後味悪く終わるパターンとかが多いんだよな。いや知ってる僕も、ある意味シスコンだったのだが。マジこれを姉の前で開いて読んでるのか?紫藤弟、度胸ありすぎ。

 

 あとエ○本とは言いがたいのかもしれないが、ある意味それより心臓にくる、四肢切断ものや内臓引き出しもの、に近い幻想画集が数冊表紙を見せている。セクサロイドっていうのか、美しい女性型アンドロイドの変身やその半壊状態みたいなものを描く画集、これは僕も題名だけ知ってた。球体関節人形の写真集、マーク・ライデ○の画集もあるな。なんか濃すぎるよ。早熟で頭のいい子なんだろうな、でもちょっとラインナップが危うい感じがする。

 

 簡単なカーテンあるけど今は両者の固有スペースともカーテンは開いてる。これで、同室で生活してるのか。

 まあお互いに没交渉で、勝手に相手の本をみたりしないって感じなのかもな。ほら中学2年生になると意識しちゃって女子とあまり話さなくなるじゃん。

 でも僕なら絶対意識するだろうな。オカズにするよな、常考。着替えとか見ちゃったら。

 

 いかん、また妄想で勃ってしまう。ぶんぶん、と頭を振る。でもおさまらない。ハンガーにかかった制服とか、雑に置いてあるパジャマまで気になってくる。顔を埋めて嗅ぎたい。そんなことしてて見られたら社会的生命の喪失だけどな。

 

 ーーーーー

 

 結局、紫藤が起き出したのは僕が青果店で買った訳あり品を品定めして、ヤバそうなやつから食べて処分してた時だった。

 身を起こした紫藤は、元気そうだ。胸元がかなり開いてるのに気づいてなさそう。オレンジを剥いてあげると全部食べて、まだお腹が空いてるみたいだ。うん、若者はそれでいいと思うよ。

 迷ったが、あのクッソ適当に作ったサンドイッチも出して一緒に食べる。紫藤が嬉しそうに微笑み、僕も思わずにやけた、気持ち悪いであろう笑みを浮かべてしまう。

 

 食べ終わった。食べ終わってしまった。

 もうここにいる理由がなくなってしまった。

 帰るか。

 

 「じゃあ、僕はこのへんで。」

  

 名残惜しいが、そう告げて立ち上がる。

 だが紫藤は、切なげな目で見上げて、訴えている。もう少し僕のことを知りたい、だって?

 いや、一緒にいられるのは嬉しいよ、すごく嬉しい。

 けど本当の、そう本当のことを言えば、この人のことをもっと知るのは、やめてた方がいいよ、うん。ろくなこと考えてない。この男、ずっとあれから貴女を頭の中でいろんな体位で責めぬいて、喘がせてましたよ。「今日、わたしのことをいっぱい知ったでしょう?」って?そうだよ、得られたデータ、胸とか脚とかの感触、を妄想にフル還元済み。ついでに言えば自分があのカエル男になり代わったときのロールプレイまで頭のなかでやってた。

 

 ーーーーー

 

 下心満載の僕のことをつゆ疑わず、にこにこしてる紫藤は僕と並んで歩く。足元は安物の100均で売ってるようなビーチサンダル、少し歩きにくそうだ。少し短いと思ってた膝丈少し上のスカートだけど、たぶん短いのが好きな訳じゃなく、小学生か中学生のときの服を仕方なくそのまま使ってるみたいだ。

 

 公園は葉桜。日射しを受けて新緑が輝く。ベンチに座る。カエルの話はしない。とりとめもなく話す、学校のこと、過去の思い出、好きだったこと、将来の夢、そして。

 

 話が少し尽きたとき、紫藤がちょっとモードを変えて、悲壮な顔で切り出した。

 

 「それでさ、今日はありがとう!でも、お金のこと、返すけど、もうちょっと待ってもらえるかな、ーー」

 

 「いいよ、紫藤さんのためになったらそれで僕はいいんだ。」

 

 「そんなわけですまないよ。わたし、絶対に返すね。アルバイトもするつもりだし。」

 

 「バイト、大丈夫?決まってるの?」

 

 「決まってない、今も探してるよ。見つからなかったら、どんなことしてでも。」

 

 なんか危うい。ブレーキをかけよう。

 

 「その気持ちはありがたいけど、それで紫藤さんが不幸になったらいやだな。今日のあのカエル男みたいなのに引っ掛かったり。」

 

 「大丈夫だよ。それに、その、ーー」

 

 もじもじしてる。

 

 「ーーもしね、お金を返せなかったら。志野くんが、その、わたしに、あのカエルさんのしようとしてたことだとか。どんなことだってしてもいいよ。」

 

 さすがに内容が内容だけに、声を潜めて、耳元でささやかれた。

 息子が立ちました。ポジション的に苦しいです。

 ジーンズでなくて、もっとゆったりした服にしとけばよかった。

 

 「それは、うれしいけど、」

 

 なんかフェアじゃないよね。

 僕はたまたま居合わせただけ。紫藤の窮状につけこんで、あまりの暴利をむさぼることになってしまう。

 そう説明したが、あまり紫藤は納得してない。可愛く頬を膨らませている。

 

 僕は説得を続ける。助けになったかどうかは疑わしい。ほかの人なら、もっとうまく処理できたろう。だとしたら、あの五万円、あれは一種の損害賠償。お詫び金。

 

 「それに今日、僕は紫藤さんと会えて嬉しかった。」

 

 そして大好きな紫藤さんと会えて相手してもらった、その感謝料も入ってる。

 アイドルに握手してもらったら、お金をあげるでしょ?

 

 しかし紫藤には、あまりわかってもらえてない。A○Bシステムはもう少し後の発明だったかな。なんか枕営業の方を想像してるみたいだ、顔を赤くしてもじもじしてる。

 わからせるべく、違う表現で、同じことを伝えてみる。

 

 「僕は紫藤さんが好きで、紫藤さんが幸せになるようにしたい。だから、紫藤さんが幸せになるよう、お金を貸す、あるいはあげる、というのはダメかな。」

 

 しかし、紫藤は納得していないように反論した。

 

 「志野くん。確かに、志野くんの気持ちは、うれしいよ。でも、それじゃ、わたしはただの寄生虫だよ。」

 

 紫藤はちょっと目をつぶって考えた後、続けた。

 

 「それだと、わたしは自分を許せない。それは、わたしを幸せにしない。わたしは、寄生虫のままで、自分が志野くんからの好意に値するなんて、きっと思えなくなるよ。」

 

 「紫藤さん、潔癖なんだね。」

 

 「潔癖じゃないよ、志野くんは勘違いしてるみたいだけど、私はドロドロだよ、汚れてるよ?

 でも、だからこそ、ちゃんと、その、好きな人との関係は恥じるところのないように、きれいにしておきたいんだよ。」

 

 紫藤は口ごもり、「好きな人」のところで顔を赤らめて目を伏せながらそう言った。

 ーー尊い。たぶん紫藤さん、僕のことをかなり勘違いしてるんだけどな。

 

 「僕が紫藤さんをアルバイトとして採用する。でも、仕事内容は特に指定しない。これじゃダメ?」

 

 紫藤は首を振った。

 

 「それはダメだよ。何かが、私がちゃんと志野くんのために努力して行う、そんな何かが必要だよ。」

 

 そして、逆提案してきた。

 

 「志野くんのどんな命令でも、わたしは従うよ。だけど必ず、なにか苦労のある内容の命令。それならいい。」

 

 「それだと、さっきと逆の意味であまりにフェアじゃないよ。」

 

 二人はとほほ、と顔を見合わせた。二人とも潔癖っていうより頑固なのかな。ちょっと笑えて来た。

 

 「じゃあさ、こういう契約にしよう。」

 

 僕は提案した。

 

 「たとえば、お散歩を一緒に付き合ってもらう。それで1回いくら、勉強を一緒にしてもらう。それで1時間いくら、とかは?勉強は教えてもらうのも込みで。こんなのどう?」

 

 紫藤は、何か騙されてるけどどこが間違いなのかわからない、という表情をした。

 

 「それって、わたしがやりたいことと同じだよ。志野くんに、わたしがちゃんと恩を返した、って感じがしない。わたしが、バイトでなくても、お金がもらえなくても、やりたいことだもの。」

 

 「将来の夢、それってやりたい仕事でもあるよね?やりたい仕事をしたら、お金がもらえない、ってのも変じゃない?やりたい仕事で、お金も稼ぐ。何か変?」

 

 紫藤はますます、何か騙されてるけどわからない、という焦燥感を見せた。マンガだと、目がぐるぐるしてるあの感じだ。

 

 「でも、何か違う気がするよ。」

 

 「じゃあさ、紫藤さんも自分からしてみたい、そんなに抵抗のないことだったら安い金額にする。紫藤さんがしたくない、抵抗のあることを無理に僕がお願いするなら、高い金額にする。中身は、そのうち話し合って決める。そして、僕が命令したんじゃなくて、紫藤さんから先に申し込んだことは、バイトじゃない扱いでただにする。それだとどう?」

 

 紫藤はやっぱり少し釈然としない表情だったが、一応、試しに、これで1、2週間くらいやってみようよ、という僕の言葉を不承不承受け入れた。

 

 紫藤に援助して交際するんだ。うん、援助しながら交際するだけだ、援助交際ではない。ちょっとそこだけ聞くと人聞きは悪いが。

 でも、内容はJKお散歩にできるよな。膝枕と耳掻きも頼んでみようか。顔はお腹側でプリーズ。添い寝もありかな。

 そのうち、それ以上も。なんだろう。

 楽しみになってきた。

 僕はちょっと黒い笑みを浮かべた。

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