※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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 志野視点です。


202(仮)剣の僧正(14)(志)

 

 傾いても、まだ強烈な西日。

 僕たちは、むせかえる緑の中、ひたすら帰りの道をたどっていた。

 

「志野くん、大丈夫?」

 

「大丈夫、帰りは下り坂が多いから。」

 

 そうは言っても、登り坂もしっかりあったんだけどね。

 僕のこぐ自転車の荷台には、紫藤の姿。

 竜神の娘から借りた白と赤の浴衣も、ちょっぴり子供っぽいけどよく似合ってる。

 裾を気にしながら、横向きに座ってて、片手を僕の胴に巻きつけてくれてるんだ。

 

「下り坂は気持ちいいよね。――ほんとにまだ、大丈夫?疲れてない?」

 

「大丈夫だよ。」

 

 どうしてだろう、さっきから1、2分おきくらいに疲れてないか聞かれてる気がする。

 もう竜神沢近くのアップダウンの多い箇所はおおむね抜けて、さっきからずっと下り坂。ほとんどペダル漕いでない。

 もうすこししたら、山を降りきる。そしたらその先、ずっとごく軽い傾斜が続く平地になる。

 この先、高速道路の高架がみえる坂がたしかあったよな。

 あれ抜けたら、もうほとんど平地だ。

 それにね。全然疲れてないっていえば嘘になるけど、まだまだ大丈夫。紫藤なんて、軽い軽い。

 

 地面からは、一日中炎天下で熱されたアスファルトの発する輻射熱の照り返し。

 その中を、でも自転車は一陣のぬるい風をまきおこしながら、僕らふたりを乗せて走り抜けていく。

 頬に風を感じながら、僕は、竜神の村でのことを思い返していた。

 

 ――――――

 

 竜神を送り出す洞窟の調査を終え、あの恐ろしい竜神の娘の村を訪れ。

 もともと世話好きなうえに、思いがけなくも紫藤を気に入ったらしい竜神の娘に、僕たちは歓待(と言って良いと思う)された。

 

 ただ、竜神の娘はやっぱり僕には何か含むところがあるんだろう。

 僕が後ろを向いてたりすると、僕のことを上目遣いでギロッと睨んでたりしてる様子だ。

 そう、あの特徴的な、明るいところだとゲ○ゲの鬼太郎の「猫娘」みたいに、縦長になり、色も変わる瞳孔で。

 

 そのうえ、この竜神の娘。

 僕が紫藤と話してたりすると、それを見て、顔を赤くしていたりする。

 正直な話、竜神の娘の顔を見るのが怖かったから僕は直視できなくて。

 しっかりとは、表情を確認できなかったんだけれど。

 たぶん、――怒りをためこんでるんじゃないかと思う。頭に血がのぼるくらいに。

 怒りの対象は、僕の二股関係(本当はちがう。いやちがわないけど、相手は調布だ)のことだろうか。

 そのほかにも、何かあったっけ?

 昔の人だからな。知らないうちに不作法な僕の言動がこの女の地雷を踏みぬいていたとしても不思議ではない。

 

 でも仮に彼女が、僕に対してなんらかおもしろくない思いを持っているとしても。

 竜神の娘の、少なくとも紫藤に対する態度は決して粗雑なものではなく、むしろその真逆。

 国領に対する態度より距離はあるが、ソフトで丁重だ。

 ほら、相手が僕や国領だと、竜神の娘は敬語も使わず、よりストレートな物言いをするけどさ。

 紫藤がいる席では、丁寧にやわらかくしゃべるし、その余波で僕にも敬語を使って表面上は丁寧な態度をとる。

 

 それはまあ、いぶかしいけれど。

 紫藤に対してつっけんどんに振る舞われるより、ずっといい。

 うん、だからそれはそれでいいんだ。ただ、よく理由がわからなくて、不気味っていうか。

 

 竜神の娘の謎ムーブに心をかきみだされながらも、竜神の搬送に関する打ち合わせもおわり。

 流されるままに村の子供たちの川遊びにつきあうことになり。

 最初は僕が、それと交代して紫藤が、川に入って子供たちを見守ることになり。

 微妙に水面につきそうなデニムのワンピースのスカートの裾を気にして、引き上げるたびに紫藤の白いふくらはぎが悩ましくちらちらみえて、――これはこれでそそるんだ。

 

 でも紫藤は、押し倒されてびっちゃりぬれてしまい(変な意味じゃないよ)。

 子供たちや、救出に入った竜神の娘も川に入ってぬれてしまい。

 結局、竜神の娘の家で風呂に入れてもらうことになった。

 

 紫藤たちを待たせ、僕は竜神の娘を手伝って風呂の用意をした。

 屋根だけがつけてある薪置き場から、直焚き式の風呂のための薪を運び。

 竜神の娘が、その人外の肺活量で火をおこし、薪を焚きつける。

 

 彼女について、僕は薪風呂の操作を学ぶ(僕が入浴中は彼女が、彼女たちが入浴中は僕が、火の番をすることになる。だからふたりでお風呂の準備をして、引き継ぎをしたわけだ)。

 火の世話をしている、口を引き結んで真剣な竜神の娘の横顔。

 この女の本性は、ろくでもない脳筋パワハラ女である。それは間違いない真理だ。

 そう、僕も頭ではよくよくわかっている。

 そうなんだが、でも。

 

 この女、そのドブカスなパワハラ体質と、人外っぽいところに目をつぶれば。

 その我慢強そうで整った顔だちは、1回目の人生での僕のお気に入りオナペだったAV女優さんに似てて。

 

 そしてこの女、まず間違いなく僕より強いはずだが。

 彼女を見つめる僕と目が合うと(怖いからあまり合わないようにはしてる)。

 戸惑うように、すこしだけ釣りぎみの目をそらす。

 

 たぶん、本当のところは。

 目を合わすと目が穢れる!とか、うわっ二股野郎キモっ!とか、思っているのだろうけれど。

 むりやり都合よく曲解すれば、「べ、べつにあんたのことなんて気にしてなんかないんだからねっ!」みたいに。

 そう、ツンデレ風美女のしぐさにみえてしまう。

 僕に対してためこんだ怒りのせいか、あるいは暑いせいか、頬に赤みがさしてるのも、そう思うとそれっぽい。

(どうでもいいけど、僕はそんなふうに、たとえば電車で乗り合わせただけの人たちの表情や会話の仕草に、面白い解釈をつけてみたりする妄想をしてみたりする。諸兄もそういうの、暇つぶしにやったりするよね?)

 

 いや、でも。僕はもちろん油断しないよ?

 夢想と現実をごっちゃにして、セクハラや痴漢でつかまる人々とは違うんだ。

 この女、超パワハラドブカス勘違い女だってのはひとときたりとも忘れてないし。

 世話焼きで、子供とか紫藤とかぬいぐるみとか、かわいいもの好きで親切なところがある、というのはわかったけれど。

 殺されそうになった恨みは、忘れないんだ。

 

 だけどさ、ほら。妄想は自由だ。

 ささやかに脳内で妄想を楽しむことは、基本的人権の一つだと思うんだ。

 日本国憲法で保障すべきくらいに大切なことだよ。

 それにさ。僕、この女にいろいろ「貸し」があるじゃん。

 家に帰ってから、オカズにするくらいは許されるべきだ。うん。

 

 火吹き竹を口にあて、すごい風量で空気を薪にふきつけて火を燃え上がらせている竜神の娘をみながら。

 特にその、左座右起っていうか、片膝をつくようにしゃがんだせいで露出してる、エロい膝と。

 太いアレを口に含んでるみたいな構図の横顔を脳裏に刻みながら。

 僕は、そう思った。

 

 ――――――

 

 僕たちが(というかこの娘が)、手早く風呂の火を熾し。

 ようやく薪に火がちゃんと燃えついたのを、確認した竜神の娘から。

 火の前の場所を交代され、火吹き竹を渡され、火の調整などについていくつか注意点を伝えられた。

 

 そして、その指示を僕がちゃんとできそうか、確認された後、わずかな間を置いて。

 

「言いにくいことなのだが。」

 

 竜神の娘が、話しかけてきた。

 

「勇士殿は、国領ハルカ───のに、あの───少女に───ておられる。

 そもそも勇士殿は国領ハルカ──────────。

 ───、───、───。

 それらは、───であろう。

 勇士殿は、──────るべきだ。」

 

 何か違うことを、僕に言ってきた。すこし、居住まいをただすように、硬い口調で。

 

 でも、たまたまそのとき僕は。

 今、竜神の娘から教えてもらった風呂釜の扱いのことなどで頭の中がいっぱいで。

 しかも薪のパチパチする音も重なってたのもあり。

 さらに並行して、竜神の娘の着ている和服を頭の中で帯を持ってくるくる回してはぎ取って、「あーれー」とか言わせる妄想とか、いろいろこの女に対するセクハラ復讐劇を展開したりするのに、脳のリソースが食われてて。

 この竜神の娘が言った言葉が、頭にほとんど入ってこなかった。

 

 いや、だってさ。

 林間学校やバイクツーリングのときのかんたんな炊飯はともかく、こういう薪風呂での火の番なんてはじめてだし。

 それに。

 さすがに暑かったのか汗ばんだ竜神の娘が、純粋に動物的に美しく、――もっと言えばすごくエロく思えて。

 頭の中で、風呂釜に関する真面目なことと、竜神の娘に関するけしからん思考とを、スレッド処理するのに忙しかったんだ。

 

 そうして油断しきって質問を聞き逃した僕は、すぐには答えようがなく、ただただ彼女を見返す。

 結果として、竜神の娘のその問いかけの後に、沈黙が下りる。

 ぱちっと大きな音で、薪がまた爆ぜた。

 

 うーん。何を聞かれたのかな。

 僕は油断を猛省しながら、竜神の娘に注意を集中した。

 竜神の娘は、やや緊張したたたずまいで、その猫の目を(みは)り、じっと僕の返答を待っている様子。質問を繰り返してくれる気配はない。

 形のよい、おおきなふくらみを示す胸が、息にあわせて上下する。――この女、ブラしてるのかな?サラシでも巻いてるのかな。

 いや、そんなことの検討は後だ。

 だがいまさら、なんでしたっけ、とは聞き返しにくい雰囲気。めっちゃ怒られそう。だってパワハラ女だし。怖いよ。

 聞かれたことの、手がかりは?

 僕は、頭をめぐらす。

 たしか。

 

 ①僕と、そして国領のことを、聞かれた。

 ②僕を責めるような口調。紫藤たちの前では、話したくなくて今まで待ってたみたいだ。

 ③国領の名前、そしてたぶん紫藤のことが出てたが、恋バナ系のふわふわした話じゃない。シリアス話。苦言系。

 

 まあ、これだけわかってたら十分だ。後は文脈で推測できる。

 楽勝、楽勝。

 

 おそらく、聞いてきたのは、竜神(たち)との契約についてのことだ。

 なぜ国領は来なかったんだ?と聞いて、僕を詰めようとしてるんだろう。

 

 だって契約上は「僕と国領ハルカが竜神の帰還について調査と協力をする」っていう内容だったんだから。

 なのに国領ハルカはこない。かわりに部外者の、紫藤を連れて僕がやってきた。恋人だ、と言って、まるでデート気取りで。

 そして、竜神の娘は紫藤にこそ優しいが、僕を睨んで、顔に血がのぼるくらい怒っていた。

 

 ――これだけピースが揃えばもう、あきらかだ。間違いない。

 この女の問いかけは、僕(たち)の契約違反についての追及(クレーム)

 「言いにくいことなのだが。」に続く竜神の娘の言葉は、おそらく次のようなもの。

 

”勇士殿は、国領ハルカとこの契約を結んだのに、あの恋人だという少女に仕事を任せておられる。

 そもそも勇士殿は国領ハルカとあの少女とを、今後も無断で交代させるのか

 契約軽視無断交代公私混同

 それらは、契約の不履行といってもいいであろう。

 勇士殿は、私情はともかく国領ハルカと話し合い、早く復帰させるべきだ。”

 

 そんな感じだろう。

 国領ハルカが来ないのは、確かに契約違反になるかもしれない。

 それと、国領ハルカが来てくれなくて竜神の娘がモニョる、っていうのは「乗り換えたのかよ?」っていう感情的な要素も一部あるのだろう。

 竜神の娘は、国領ハルカを気に入ってたみたいだったしな。

 

 さて、と。

 紫藤と交代で国領は用済みです、っていうわけじゃないってことを、わかってもらわないといけない。

 竜神の娘は、紫藤のことももちろんかわいがってくれてるし、紫藤はしっかりした子ではあるけれど、紫藤の年齢を低く誤解してるからな。

 ほら、何かお願いしてるプロジェクトの途中で担当者が新人に代わったりすると、不安になるじゃないか。この仕事、軽く見てんのか?って。本当はそんなことなくても、さ。

 

 僕らでさえそうなんだから、ましてや一所懸命滅私奉公のこの戦前パワハラ女的には。

 約束を違えて、しかもかわりに新しい恋人(ここは誤解なんだけどね)引き連れてイチャイチャしながら仕事しようなんて、許しがたかったであろうことは、想像にかたくない。

 帰還プロジェクトは竜神側にとってはすごく重大事だからな。僕がいいかげんに片手間でやってる、みたいに思って頭にきたのかも。

 へそを曲げられないように、竜神の娘にちゃんと説明しておこう。

 顧客の不満への初期対応は、大事だからな。いや、僕は顧客対応ヘタクソだったけど。

 

「国領のことなら、心配無用だ。国領には国領の役割がある。

 ちゃんと、その役割を果たしてもらってきてる。

 契約を結んだからな。たとえ本人が嫌だと言って逃げようとしても、逃さない。きっちり、最後までつきあわせる。」

 

 まず、強い口調でそう言う。「契約違反じゃないんだよ、ちゃんとこの仕事は僕たちで最後までやる」と、僕と国領の強いコミットメントを、竜神の娘に対して印象づけないといけないからね。

 国領はすでに契約まとめるのに活躍してもらったから、そのことも「役割を果たしてもらってきてる」と、さりげなくアピール。

 

 それに対して、竜神の娘は特徴的な目をしばたたかせた。驚いた風だが、それは僕の断固とした強い口調に、だろう。

 よしよし。僕たちが契約をしっかり守るってこと、印象づけられたかな。

 疑われて心外だ、って感じでこのまま押し切ろう。

 

「それに紫藤は国領の代わりじゃない。ふたりとも必要だ。

 それに紫藤は十分に大人で、一人前に役割は果たせる。」

 

 紫藤も同い年だって、あとで言おう。あ、それより調布のことを言っとかないとな。

 

「それに紫藤だけじゃない。別にもう一人、いる。――いいだろう?」

 

 そう、竜神の娘に、サポート人数が増えることの了承を求める。

 竜神側にとって、悪いことではないはずだ。

 

「勇士殿は、――」

 

 なんか唇を噛み、絶句してる。だが呆れた様子ではなく、僕を見返すその目は、――思ったより、優しい?

 あ、たぶん国領がいなくなり、人手が足りなくなると思って心細かったところに。

 国領も大丈夫だし、さらに、ちゃんと協力してくれる人を僕が確保してるってわかって、僕の本気度がわかり、安心し、感謝してるんだな。

 うん、僕はお前とちがって温厚で誠実だからな。恨みは忘れないから、いつか仕返しさせてもらうけどな。脳内で。

 

 すると。

 

「勇士殿は、きっと、渇いているのだな。

 その渇きは、たとえば。

 もし私が勇士殿にこの―――、す――味わってもらえば、わずかでも癒えるのか?」

 

 あれ。お風呂場の方から、ショウタくんと愛美ちゃんがキャハハハとはしゃぐ大きな声がしたので、一部聞き取れなかった。

 待たせてしまってるが、紫藤がなにか面白い話か遊びでも教えてあげてるんだろう。早くお風呂に入らせてあげなきゃ。

 

 こんどのこの質問の推測は容易だ。今回は、前半は完璧に聴き取れたし。

 さっきの話は、納得したみたいだ。それで、勘違いして怒ってしまって悪かった、っていう感じなのだろう。

 だから、直接には非を認めはしないけど。

 僕が薪をはこんだり、火おこしをしたりしたから、喉がかわいたか、なにか出そうか、って埋め合わせを提供しようと思って聞いてるんだ。

 

 それにしても昔の人だからかな、言い回しが荘重だ。

 この「なにか」の部分が聞き取れなかった。麦茶か、スイカか何かかな。

 麦茶は川遊びの前にも出たし、改めて聞くとは思えない。スイカだったらいいな。水気のある甘い果物とか食べたい。

 まあ何かわからないが、麦茶でもいい。風呂上がりだったら、麦茶でもなんでも美味しいだろう。

 それにしても、僕も薪運びとかで汗かいたけど、僕の2倍くらい、竜神の娘は立ち働いてたからな、この女も、喉くらい乾くだろう。

 改めてみつめてみると、全身に汗をかいてる模様。頬にも汗が伝ってる。

 

「ああ、それでいい。それなら、多分。

 あとで、ゆっくりな。」

 

 ――でも本当は、今すぐ欲しいくらいだ。

 

 そう、猫の瞳(色が変わるんだ。今はよくみると、輝度の高いアンバーにみえる)をのぞき込み。

 声に力をこめて、そう言うと。

 竜神の娘は、ぶるっ、と一瞬だけ身をふるわせて。

 

「ええ、それでは、そのように。

 存分にお召しになって、いただきましょう。」

 

 すこし硬い、挑戦的な笑みを浮かべて、頷いた。

 あ、やっぱりスイカかなにかだな。楽しみだ。

 たしかに喉が渇いてる。風呂上がりにしゃくしゃく食べたら、きっとすごい美味しいだろう。

 

 ほぼ間違いなく、さっきの問いかけは。

 

”もし私が勇士殿にここの畑で生った、スイカを味わってもらえば、わずかでも癒えるのか?”

 

 だろう、自信がある。

 

「楽しみにしている。」

 

 そう伝えると、猫目娘はまた、なぜかちょっと色っぽい笑みを浮かべて頷き返し。

 

「それでは、私は子供らを湯に。

 勇士殿、その間は火のこと、お頼みします。」

 

 そう言って、風呂場に戻っていった。どこか、弾むような足取りで。

 最後だけは、敬語だった。―――

 

 ――――――

 

 たいしたことないやり取りだったのに、この一幕。

 なんだか妙に印象に残ってしまっている。

 たぶん、最後のあの竜神の娘の笑顔だな。本当の意味での自然な笑顔をみせてくれたのは、このときがはじめてだったかもしれない。

 パワハラカスなんだけど、妙に可愛く思えてしまった。

 

 その後は、あまり語るべきことはない。

 熱い風呂を浴びて、用意してくれた涼しい浴衣を借りた。

 そして浴衣に着替えた紫藤や竜神の娘、そして子供たちと、居間でくつろぐ。

 紫藤の浴衣が、かわいい。竜神の娘の浴衣も、なかなか似合う。

 

 やっぱり竜神の娘が用意して切って出してくれたのは、スイカだった。僕の推理は正しかった。

 僕が縁側から種を飛ばすのをやってみせて、子供たちに大ウケし。

 ぶちゃーと最初は汚らしくなったけど、そのうち子供たちもできるようになり。

 行儀が悪いと、僕は子供たちともども、竜神の娘に叱責され。

 そんなこんなで、僕をダシに意気投合した紫藤と竜神の娘はふたりで何か別室に行って、仲むつまじくなって戻ってきて。

 

 紫藤は服が乾かなかったけど、浴衣をそのまま借りて。

 僕のもやや生乾きだったけど(僕のも洗ってくれたんだ)、浴衣で戻るのはちょっと、と思ってその元の服に着替えて。

 そしてまた竜神の娘が世話焼きの性分を爆発させて、なにやらお土産の果物の包みをもらい。

 森の中を抜けて、自転車に乗り、そして傾きゆく日と競争するように走って今に至る。

 

 おや。

 高架のみえる坂を超えて、坂を駆けおりると。

 あのアラビア風の、俗悪ホテルがみえてきたぞ。

 

「志野くん。喉、かわいてないかな。」

 

 どうしよう。なんだかなにか、うまく行きそうな気がするぞ。

 僕はそっと下腹に力を込め、ペダルを力強く踏み込み。

 自転車のスピードを上げたのだった。

 

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