タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
(第三者(調布智美、国領ハルカ)視点)
思わぬ遭遇後に砦山から市街に降りた二人は、その後。
調布智美が通っているスポーツクラブに行き、いっしょに求人の貼り紙をみたり。
(国領ハルカが探していたどんぴしゃのものはその時はなかったが、窓口の係員によるとエアロビクスや体操のインストラクターや補助員の空きが出ることもあるらしい。引き続き、調布智美は気をつけて見るようにしておく、と国領ハルカに請けあった。)
無料配布されてる求人雑誌をいくつか集め、公園のベンチで頭をよせあって検討し。
(該当しそうなものをいくつかみつけて国領ハルカは大いに乗り気になったが、年齢制限でひっかかる。年齢制限でOKなものも、どうも時給や勤務場所からみて成人向けじゃないか?と調布智美が難色を示し、来週放課後などにチェックしてみることにした。)
気晴らしにゲーセンに立ち寄り、予算1000円でUFOキャッチャーに挑んでみたり(坊主になりそうになったが、さいごのトライアルで奇跡的にぬいぐるみを釣り上げることができ、国領ハルカはぴょんぴょん跳んで喜んだ。)
そんなこんなで、楽しくすごした後。
調布智美は、国領ハルカを自宅のそばまでエスコートして送りとどけたのだった。
──────
調布智美は、5時すぎに一度自宅に戻り、某所に電話を入れてアポイントメントを再確認し、父母に少し出かけてくる、と断って。
(父母は昨日の仲直り(?)のためか、なんとなく仲睦まじそうな雰囲気をかもし出していて、微妙な時間帯ではあったが機嫌よく一人娘を送り出した。)
そして今、彼女は自宅の近くの、打ち合わせのできる個室がある喫茶店に来ていた。
「さとみさん!」「こんちわー。」「──おじゃまします。」
「あ、どうぞどうぞ。」
それぞれに挨拶しながら個室のドアを入ってくる、3人の女性。待ち合わせして、一緒にきたのだろう。
先頭に入ってきたのが、永山若葉。
彼女の副官を自任する、仕事のできるちょっと小柄な女性だ。きょうはブラウスに短めのタイトスカートで可愛らしくまとめている。
そのすぐ後から、高幡冬灯。
色の落ちかけた茶髪、いい加減なTシャツにダメージジーンズ姿が、なぜかしっくりとなじんでる娘。高校は卒業しているが、今はフリーターだ。
最後に、平山公子。
きりっと結んだ口、まつ毛に隠れた伏し目がちの黒い目。ブラウスに地味な服装だが、見る人がみれば武道で鍛えた肉体と機敏な挙措動作に気づくだろう。食品会社の事務員をしている。
とりあえず新しく入った情報の共有と協議のため、集まった調布智美のシンパたちだ。
彼女らは、松浦美益に脅迫のネタを握られ、その毒牙にかかった、あるいは、かかりかけた女性たちであり。
たまたま志野と調布智美が松浦美益を制裁し、その脅迫ネタを入手したことを発端に、窮地から救われた者たちの一員である。
この女性たちは、酷い目に遭っていたところを調布智美に救われたため、強い忠誠心を彼女に対し抱いており。
いわば親衛隊のように、彼女と志を一つにする一味を結成していた。
もう松浦美益の被害者たちへの救出活動は、ひととおり進められ。
中には、現在加害者である松浦との間で示談中の状態だったり、決着はちゃんとついたもののあまり後味の良くないものも、当然ありはしたものの。
非常に奇跡的なことに、これまでのところ取り返しのつかないことになってしまった人はいない。
ようやく所在が突き止められた、この最後の1名を除いては。
しばらく軽い雑談をしてから、調布智美は切り出す。
「最後の一人。どこにいるか分かったんでしょう?」
「はい。ただ、接触は難しそうです。」
調布智美は、永山若葉に報告を求める。
調布智美は先に、永山若葉から簡単に電話でこの概要を聞いていたが、他の面々は初めてであり。
永山若葉が語る言葉に、耳を傾ける。
この、最後の一人。ミヤノ(宮野?)・グレースという女性についての情報は少ない。
松浦の持つ女たちのデータの中には、このように情報が比較的少ないものが相当数(半分から、2/3くらい)含まれている。
これらは、おそらく松浦自身がアプローチしたのではなく、その仲間たちが絡めとった女性たちであろう、と調布智美と永山若葉は推測していた。
松浦美益は切り込み役を果たすこともあったものの、管理役に近いポジションを務めることが多かったようであり。
自分が嵌めた女性たち以外の女性たちについての種々のプレイにも参加して記録を保存しており、それらについては情報が乏しいのだ。
救い出した後、話を聞かせてくれた女性たちから聞くと。
切り込み役としては「
そして、消息がようやく掴めた最後の女性も、この御子須リハン経由で松浦らの蜘蛛の巣に捕らえられた女性らしい。
松浦たちのグループの慰み者になった後、あまり筋のよろしくない男に一度身請け(?)されたらしく。
(身請け、というと美談のように聞こえるが、要は何かの貸し借りの清算として売られたのではないか、と調布智美と永山若葉は踏んでいた。)
そしてこの筋のよろしくない男が、つい最近、この女性の身柄を、とある黒い噂のある企業グループに移したらしいという情報を知るに至ったのだ。
「『
「──はい、これは運営会社の名前です。有名というわけではありませんが、ショービジネスなども手掛けています。
数年前に経営破綻した、『多賀島ユリーンランド』の跡地を最近、子会社を使って取得していますし、大型豪華客船『クィーン・ジルコニア』の運営会社でもあります。」
「あ、ユリーンランド、なつかしー!
けっこうやり手の企業、ってわけ?」
高幡冬灯は、コーヒーフロートをちゅうちゅうと吸いながら質問する。
「はい。ただ、必ずしもいい噂を聞きません。」
このグループを率いるワンマン社長、
悪徳政治家とも癒着しているとか、後ろぐらい勢力と結んでいるとか、果てはまわりで人が失踪しているとかいう話があるとか。
「一筋縄ではいかなそうね。
ミヤノさんご本人は、今はどこにいるのかしら?」
永山若葉がまとめてくれた、女性本人の写真入りのB5サイズ1枚にまとめてくれた資料を見る。
写真はコピーしたもので、あまり映りはよくない。小顔で少しきつめの顔立ちにみえるのは、白黒でもわかる、カメラに向けられた強い視線のせいだからか。
「『現在、多賀島ユリーンランド跡に所在している可能性が高い』?」
平山公子が読んで、目線を上げる。
「ええ。この跡地には、施設も残っているのですが。
その施設で、ときどき地下ショーが開催されているようなのです。
本人が出演しているのか、スタッフなのかはわかりませんが、おそらくこの方も。」
これらの情報は、調布智美が志野を通じて知り合った探偵社に依頼して、得られたものだ。
それなりの料金がかかり、彼女の貯金を減らしたものの、信頼に値する仕事ぶりであり、短期間にこれだけ的確な情報が得られたことから、十分に元が取れたと彼女は考えている。
「たしか、ハーフなのよね。結構な美人さんだわ。
──遊ばせているとは、思いにくい。
何らかの形で、ショーに出されているんじゃないかしら。」
出演者としてなのか、通訳としてなのか。おそらく望んでのことではあるまい。
早く、話をつけて救い出してあげなきゃ。
ただ、どうやって接触するかが問題よね。
白黒の写真をみつめながら、そう調布智美は思った。
探偵社からは、今後の接触方法についても所感が述べられているが。
情報元は厳重な秘匿の必要があり、そのルート経由は相当に難しいとのこと。
「──そのショー、どうやったら観客として参加できるの?」
まさか本社に押しかけて参加させろ、ってわけにいかないわよね?と調布智美はぼやく。
「はい、とぼけられて終わりでしょうし、警戒されてしまうでしょうね。」
忍び込むにしても、警備はあるでしょうし。
ちょっと今は、思いつきません。
そう、永山若葉は答えたが、何か考えていることがありそうだった。
──────
その後小一時間ほど意見交換をして、固く秘密を守ることを再確認した後、その日は解散となった。
途中まで、永山若葉と調布智美は連れ立って歩き、ぽつぽつと他の団員の前では話せない突っ込んだ内容も相談する。
短い間ながらも、団員たちとは結構な修羅場をかいくぐってきて、気のおけない間柄になっている。自然、会話の口調もフランクになってきてるが、副官を自任する永山若葉は、この一味の首領(?)である調布智美に対しては一貫して敬語で接していた。
「ねえ、永山さん。貴女は言わなかったけど。
あのルートなら、いけるかもしれないわよね?」
「──何の方法ですか。」
「何も遠慮しなくて、いいのよ。
いるじゃない。パイプのある奴。気はすすまないけど。」
「本気ですか?」
「しかたないわよ。──人の命がかかってるかも、しれないんでしょう?」
あくまで伝聞情報と書かれては、いたが。
地下ショーの内容には、法に触れるものも含まれているとのことだった。
ルールなしの素手で、人を戦わせて殺し合わせたり。
なまなましくおぞましい行為の実演が、なされたりした例もあるとか。
「私は、反対です。
改心したとは言っても、信用はできませんし。
だいたい、彼が信用できても、その後があまりに危険すぎます。」
「ええ、わかってる。でも、他にすぐには思いつかない。」
「警察に、──」
「その、つるんでるとかいう政治家に握りつぶされかねない。
すくなくとも、証拠を握ってからよね。」
だから、非常に気が進まないのだが。
「連絡とるしかないじゃない。あの男に。」
──────
永山若葉とひそかに協議して、方針を固めた調布智美は。
その日、自宅近くの公衆電話から一本の電話を入れた。
「──様でしょうか。はい。あたし、調布智美。」
相手は幸運にも自宅にいたようだ。受話器の向こうからは、驚愕した気配が伝わってくる。
「ええ。あなたも清算処理、すすめていたんですってね?」
なんだか、いろいろな思いがあふれてくるが、ぐっと押し込めて、あえて彼女は淡々と話を進める。
「──あなたの力を借りたいことがある。お願いできるかしら」
顔を合わせたくはないが、しかたないだろう。
ただ、一応志野にも立ち会ってもらうか。あるいは、戦闘力の高そうな平山さんか。
今のところ相手は、協力的だ。
「──いいえ、お金じゃない。ええ、あたし自身も、お金はいらない。
ただ、こっちで話をつけた女の子たちの示談についてなら、窓口で受けるけど。
ただこれは、それとは別件でお願いしたいの。
もしかすると、ヤバい橋を渡ってもらうことになるかもしれない。」
それから面会の約束を取りつけ、彼女は受話器を置いた。ほうっとため息をつく。
テレホンカードを回収し、その場を離れる。
風が通らずむわっとしていた電話ボックスを出ると、日が沈んで少し涼しくなった地表を、風が吹きすぎる。
はなはだ気がすすまないけれど。
やっぱりこの件、
あの謎の声にも言われたしな。頼んでみようか。
そう、彼女は思った。
す
──────
(第三者(国領ハルカ、布田茂良男)視点)
国領ハルカは友人と楽しく充実した一日をすごした後、自宅に帰ってきて。
その日の夜、約束どおり、自室から居間に降りてきた。
すでに朝の早い彼女の伯父伯母は、就寝している。寝つきがいい彼らは、多少のことでは目を覚まさないだろう。
居間に入ると、彼女の従兄はソファにニヤつきながらふんぞり返っていた。彼女を待ち構えていたようだ。。
昼間に、模様替えと称してソファの前に場所を空けるよう家具を配置替えしたのは、やっぱりそういう目的だったんだろう。
彼女は鼓動が高まった胸を抑えながら、従兄の前に立った。
──────
「おお、感心感心。忘れてなかったんだな。
それでよ。今日、やんのか?」
──その服じゃ、違反だなあ。
それでやっても、認めんぜ?
そう、茂良男は舐めるような視線を向けながら従妹に言う。
彼の従妹は、白いTシャツに、運動用の短パンを着ているだけ。
白くすらりとした手足が目にまぶしく、それだけでもそそるものがある。
なんだか最近、体つきや手足の肌が女性らしさを増している気がする、と唾を飲みながら彼は思う。
こんなごく普通の姿ですら、勃つ。これだけでも、十分なくらいだ。
でも、彼としては彼女に付け込むすきがあれば、もちろん見逃す気はなかった。
約束は、たしかレオタード。許せるラインで水着だな、と彼は考える。
「下に着てきたんだよ。だってほら、伯父さんたちが起きてて、見られたりしたら困るし。」
そう従妹は言って、伏し目がちに俯き、ショートパンツにお腹の方から指を入れ、膝のあたりまでおろしかけ。
そして顔を上げて、彼がまじまじと見守っているのに気がつくと、パッと顔を赤らめ、後ろを向いて脱いだ。
「おい、なんでそっち向くんだよ。ちゃんとこっち見てやれよ。」
その言葉に、恥ずかしそうにまた正面に向き直った。ただ、視線はそらされている。
ショートパンツの下には、ちゃんと黄色のレオタードを着ていた。
おとなしめではあるが、大腿に沿って上に切れ込むラインに、彼はふたたび生唾を飲み込んだ。
「ごめん、茂良兄。」
そして今度は、白いTシャツを上げる。しなやかな体のラインが露わになる。
胸の起伏は乏しいが、滑らかでそそるライン。
二プレスはしているようだ。難癖をつけて、つけさせないようにするか、と彼は考える。
お尻も大きくはないが、それなりで丸く形がよい。あれをわしづかみにしたい。
脚を揃えてまっすぐに中央に立ち、おずおずと、従妹は彼にほほえみかけた。
「やれよ。」
なぜか彼も緊張して、声が喉にからむのを感じた。
演技プランを練っていたのだろうか。流麗に、彼女が舞う。
前回はごくごく簡単な体操の模擬演技だけだったが、今回は新体操系ということらしい。
10分ほどの演技。深夜だからだろう、音や振動を立てないよう、跳躍したり前転したりしても、着地はしなやかだ。
最後にポーズを決めて、またこちらに微笑みかける。額に汗で一筋の髪が張りついている。
「──まあ、及第点だな。」
我にもなく呆然としてしまい、乾いていた口を無理やり動かす。
気取られなかっただろうか、彼が今の演技に吸い込まれていたことを。
「ありがとう。これ、1万円分でいい?」
「いいだろう。」
「じゃあ、残りは7万円だね?」
「それでいい。明日、な?」
今日は7月30日。明日が〆切ということにしてある。
金策の算段は、できたのだろうか。
「それでさ、茂良兄。
もちろん、ボクもバイトをいれたりするけど、さ。
これみたいに返済額を減らせること、ってないかな?」
ほら、肩もみとか、茂良兄のノートの整理とか、部屋の掃除でも、という。小学生のお手伝いかよ。
ただ、これは好都合だ。やはり月々の額が大きいので、彼女も困っているのだろう。
機をみてさらに沼に引き込んでやろう、と思っていたが、カモネギだな。
「ああ。そうだな。なくはない。」
そう言うと、目の前(1メートルも離れていないところに、従妹は立っていた)の姿を見る。
かすかに汗ばむしっとりとした肌、肌が薄いのか桜色に上気した顔は、大学やバイト先のどんな女より、いやこれまで見知ってきたどんな女よりも、魅力的に思える。
そして、青リンゴのような、いい匂いがこの従妹から漂ってくる気がして。
思わず胸が、どきり、と疼いて、彼は従妹から目を逸らした。
「それ、たとえば?」
「ああ。──そうだな、結構、今日みたいなのはよかったじゃないか。
俺だけじゃ、もったいないだろう?
俺の仲間にも、みせてやりたい。観客を増やしたら、その分増やしてもいい。」
「茂良兄、その、写真とか──」
「写真撮影は、禁止でいい。そうだな、場所はここじゃマズいだろう。別に用意する。」
もちろん、ちゃんとした安全な場所だ。
そういうと、おそるおそる頷いている。もう一押しか。
「ただ、ちょっと時間は伸ばせるか?ほらさすがに5分とか10分じゃ、なあ?
その分、もちろん額が増えるようにする。」
観客が入るときは、15分1万円にして、かける、観客数でどうだ。
観客が俺を含めて3人、15分なら、3万円だ。
そういうと、熱心にこくこく、と頷く。乗り気なようだ。
「そうだな、それ以外は。」
──肩もみ、と言っていたが、それでもいい。今日は良いが、そのうちな。30分1万円くらいでどうだ?
靴磨きも、つけてもらうか。もちろん、俺が履いてるのをみがくんだ。1回5000円でいい。
あと俺、最近キャバとかにも行くけどよ。そういうとこと同じような、サービスありだったらもっとはずむぜ?
そう、申し向ける。
「サービス、って?」
彼女はちょっと引き気味だ。あまり高い要求は無理そうだな、と茂良男は判断する。
「たいしたことはねえんだ。水割り作ったりよ。後、隣に座ったり。」
「?それだけでいいの?」
「ああ、水割りで横に座ったら、5000円な。膝に座ったりしようもんなら、プラス1万円でいい。」
「!」
揺れてる、揺れてるな。
「うーん、飲み物つくって横に座るのは、いいけど。
膝に座るのは、──ちょっと、どのくらいかな?
一瞬、だけだったら。」
「ああ、一瞬でいい。どうせ本気じゃねえんだから。」
水割り、やってみるか?
あのボトル棚の下のワイルドターキーでいい。水で割ってくれ、と頼む。
従妹は、頷いてボトルを取り出し、台所に行って氷をとり、水を注いでいる。
その後ろ姿を、彼は体をねじって見つめた(台所と居間は引き戸で仕切られた別室だが、今は大きく開け放っているので、事実上一つの部屋と同様の状態だ)。
レオタードを着たままの後ろ姿、彼女の体のうごきの、すみずみまでがわかる。
形のよい、丸い尻のあたりをみつめる。尻を覆うように着たのだろうが、激しい動きで少しずれて、尻たぶがわずかにはみ出てみえていて、──。
「茂良兄。これでいい?」
茶色のバーボンを単純に割った、琥珀色の水割り。
啜ってみる。かなり薄いが、まあいい。
「今度からは、もう少し濃くていい。
──ほらよ、ここだ。座れよ。」
ソファの場所を開けて、手で叩いて見せると、従順に座った。
ただ、居心地悪いのか、少しそわそわしていて、髪をしきりに触っている。
「恥ずかしいのか?」
「うーん、ちょっとね。」
男子みたいな振る舞いとか言動とかしてたけれど。こいつ、あまり男慣れしていないのか?
まあ、遊んでる風を作ってるし、事実結構外遊びや朝帰りとかも多かったからな。もう貫通済みかと思ってたけど、まだ男を知らないのかもしれない。
すげー、真面目な進学校だしな。こいつの学校。
だったら、──
「ねえ、茂良兄。」
「あ?」
「その、──膝にすわるのは、今日じゃなくていいや。」
「どうしてだ?」
「うーん、だってさ。お金、一応用意できたし。」
「別にいいぞ?
じゃあ、10秒間だけでどうだ。心配すんな、俺は何もしねえよ、従妹だしな。
初回サービスで、10秒間だけでも1万円プラス。」
「うーん。」
本当に、それ以上はナシだからね。
そう、上目遣いに言った従妹は。
決心したのか、ごくり、と唾を飲みこんで。
腕を広げてみせた、彼に近づき。
背中をみせて、彼の膝に腰かける。
「体重、かけてねえじゃないか。」
「えー、だって!恥ずかしいんだよ!」
「バカ、声が大きい!」
「ごめん」
柔らかい体が、彼の膝の上で弾む。
ちょっとかかとを上げ、その膝の上のお尻を衝きあげるように促すと、従妹は応じてもう少し深く腰掛けた。
20センチもないくらいの至近距離に、彼女の白い首筋。
桃のような、あまい香りが彼を包んで──。
「──なな、はち、きゅう、じゅう!ごめん、もう無理!」
彼女のしなやかな体と熱い体温とが去ってしまう。
茂良男は、我にもなく茫然とその姿をみていた。
「じゃあ、茂良兄?」
「──ああ。水割りとあわせて、1万5千円。
残り、5万5千円な。」
明日の夜も、約束する。
10分くらいの演技で1万円、また水割りと膝乗りをやるなら、それだけで1万5千円。
もし時間が早かったら、マッサージをしてもいい、と従妹は言っている。それが1万円。
今日、やはりソフトに接したことで、積極的になってきている。良い傾向だ、と彼は思う。
「じゃあね、茂良兄。また、あした!」
「ああ、またな。」
機械的に、彼は手を振る。
従妹は着替えもせずに、脱いだショートパンツとTシャツを手に取ると、足音を忍ばせて居間から出て行った。
その後ろ姿を、見送りながら。
──俺は、いったいどうしたっていうんだ?
なぜか、胸がぐきぐきと痛む。これが何なのか、分からない。奇妙な感情だ。
彼は、おそらく恋と呼ばれる感情に伴う、強い喪失感に襲われていた。
──────
部屋にもどると、彼女は扉にちゃちな鍵をかけ、そしてレオタードを脱ぐ。
また、体を鏡に映してみる。
アフター竜神も、とくに外見で変わったところはないんだけどな、と思う。
──それにしても。
思ったより、上手くいった。
おそらくまたねちねちこまこまと、嫌がらせみたいなことをされるかと思った。
しかし、今日の従兄は、意外にも紳士的に、馬鹿にすることもなく、彼女の演技を見守っていた。
その目には、もはや侮りの色はない。むしろ、熱心な観衆となった今日の彼の目には、賞賛の色があった。
もちろん、その後でちょっとセクハラじみたことはやらされたものの、思ったよりはるかに軽度だった。
今日の彼女は、恥ずかしくはあったのだが、──その何倍も強く。
ほこらしいような、うれしいような気持ちが胸にいっぱいだった。
自分の演技が、あんなに人に伝わり、その感情を動かす。
それは、たとえようもない快感だった。
「ただ、見せるかもしれないっていう仲間って、どんな人たちだろう。変な人たちじゃ、なきゃいいけど。」
そう、独白する。
カメラ小僧みたいなオタクっぽい人々なら、むしろあまり構わない。
うん、ちょっと怖いけれど、基本そうした人は観衆としては熱心で、良い部類だと思うんだ。
──だけどな。ボクとしては、しのりんだ。しのりんにみてもらいたいな。
あ、そういえば。
あのジュリエットさんに対抗して、なにか趣向を考えようってことになってたんだっけ──
でもなー、強敵だよ。顔面偏差値の暴力じゃん!
あれと比べられたら、ボクなんてきっと、ハニワ同然。
だから、そうだ。スケベ野郎の気を惹くようなかんじの工夫を、しなきゃいけないんだ。
でも、普通にやったらビ○チかもしれないジュリエットさんに勝てない。
しのりんの、好みを研究しないとな。
新しい水着とか、買ってみようか。ちょっと挑発的なやつ。たしかさとみん、水遊びもいいかも、って言ってたし。
でもな、そのためにはお金がいるな。お金だ。
明日がんばれば、返済するお金はほんのちょっとでよくなる。
マッサージ、って何やるんだろう。背中をもむのかな。
30分1万円か。水割りとかに比べると割がわるいけど、バイトとしては破格だよね、──
そんなことを考えながら、いつしか彼女の意識は心地よい眠りに落ちていった。