タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
やや書き足りない、あるいは書きすぎたところがあるので、後で微修正するかもしれません。
月曜日だ。
僕は日曜日の夕方、紫藤と濃厚にいちゃついた後。
紫藤を家に送り(紫藤弟がいるかもしれないから、家のそばでは何もできなかったのが残念だった)、自宅に戻って元気に日課(感想戦やイメトレで抜くことね)をこなし。
ぐっすりと熟睡して、朝はアレをまた固くさせながら、元気いっぱいに起きて登校した。
不摂生のせいで体調が崩れ気味だった1回目の最後の頃に比べると雲泥の差だ。若い体の回復力ってすばらしい。
だが、この爽やかに始まった一日にあって。
なぜだか、調布と国領の僕に向ける視線や言葉が冷ややか、っていうか厳しい気がする。
ほら、今。2時限後の休み時間。
1・2時限目の授業は到達度別での実施だったので、国領も僕の教室に来て一緒に授業を受けてたんだ。
いや、ふたりとも朝は、あいさつしてくれたんだけどさ。なんか、もの言いたげな感じ?
そして1時限後の休み時間もそうだったんだけど、こっちを見ながらひそひそ話をしてる気配がある。
自意識過剰かもしれないけど、「しのりん」「志野」「手あたり次第」「脳が海綿体(冷笑)」とかいう言葉の断片が聞こえると、やっぱり気になるよね?
思わず、視線を向けてみるのだが。
「さとみん、しのりんがこっち見てるよ!どうしよう?」
「ええ、大丈夫。あたしの陰に隠れるといい。
オギノ式を信じるなら、今日が初日のあたしは大丈夫、防御は鉄璧。そのはず。」
そんな、あきらかに聞こえよがしの会話が、耳に入る。
漏れ聞こえたらしい近くの女子が、忍び笑いしてる。
なんだよいったい、何か僕が悪いことをしたかよ!?
──あ、確かに悪いことしてるな。うん、国領にも調布にも。覚えがある。
ほら、お尻に挿れたり、手や鞭で打ちすえてみたり。
しかしな。まあ国領が僕に思うところがあるのは当然だろうし、調布も国領に同情してか、僕をチクチク刺す言動は今まであったんだけど。
今日は、いっそう冷え込んだ感じ。いったい何が原因だったんだろう?
「志野くん、どうしたの?」
別の子とおしゃべりしてくすくす笑ってた紫藤が、こっちにきてくれた。
紫藤は、にこにこで機嫌がいい。癒される。
調布たちのことを聞きたいんだけど、ちょっと人の耳もあるし聞きにくい。
しかも紫藤、ときどき調布の話をすると怖い謎の威圧感を発生させるからな。
あれ、あの威圧感発生の共通項って、なんだろう?
いや、まずはちゃんと紫藤に答えてあげないとな。
「ああ、みなり。大丈夫なんだ。ちょっと落ち込んでたけど。
弟さん、引っ越しはもう大丈夫なんだっけ?」
そう、朝会ったときは聞き忘れてたけど。
紫藤弟はたしか正式には8月の初日の明日から寮に入居のはず。
手続をとれば、前日の今日からもう部屋には入れるって言ってたっけ。
「うん、ちゃんと今朝、いろいろ持たせたよ!
千里の荷物は大丈夫、志野くんのおかげだよ。ありがとうね。」
そうだ、ささやかながら僕も頑張ったんだ。
うれしそうな紫藤の笑顔をみると、ふんわりと僕も心臓のあたりが温まる。
「志野くん、放課後とか空いてる日、ある?
ほら、千里の小物を整理してたらさ、
紫藤がご機嫌がいいのは、引っ越しがうまく行ったからだけじゃなく、一緒に日曜日に濃厚に過ごせたからでもあるのかもな。
あー、惜しかった。ゴムまで用意してもらったにもかかわらず、残念ながら最後まで行けなかった。
まあでも、ああいう和室のたたみ部屋という昭和風な牧歌的シチュエーションもいいけど。
できれば、紫藤とのはじめては、ちょっと張り込んだ豪華なスイートルームとかにしたい。
手の込んだディナーを食べて、おしゃれな部屋に移って。
スプリングコイルの効いたふわふわベッドにお姫様抱っこした紫藤をぽんと置いて、ぼよんぼよんさせて。
「わー、すごい!」と紫藤が目を瞠って喜ぶところがみたいんだ。
そしてもちろん。その後、ゆっくり時間をかけて、──。
「さとみん、しのりんの顔が溶けかけてる!とくに、鼻の下あたり。」
「しーっ、見ちゃいけません。教育に悪い。──ハルカ、先に行こう。
みなり、またね。」
調布たちは紫藤にだけ声をかけて、僕をハブって席を立った。
調布たちは次の授業のために教室を移動する模様で、ロッカーのある廊下に出ていく。僕も移動しなきゃいけないんだけどな。
調布たちの反応から、この状況のヒントが分かった気がする。
あれだな。昨日、紫藤といちゃついたのを調布たちが察知したんだな。
それに紫藤自身が、親友たちに言ったか匂わせたかしたのかもしれない。まあ、それはしかたない。
でもな、これまでは紫藤に対して調布や国領が嫉妬なんてしたことなかったのにな。
まあいい。紫藤とのデートにも行きたいけれど、──
「ごめん。今日の放課後は、先約があるんだけど。
できるだけ、早く行こうよ。
だけど、もう引っ越すんだっけ?」
「うん、もう、当面の荷物は出せるからね。泊まるのも向こうにして、少しずつ移していこうかな。
御前様は、できるだけ早くっていうんだけど。
ただね、わたしには心配なことがあって、──うっ」
「大丈夫!?」
紫藤が、頭を押さえてる。
この前から、ときどき、こんなふうな頭痛を起こすのをみる。
お医者さんに診てもらおうか、って言ったんだけど、大丈夫大丈夫と言って、取りあってくれない。
紫藤はお母さんもおそらく過労かなにかが原因で寝たきりになってるからな。
睡眠不足には、気を付けた方がいいと思うんだ。
ゆっくり寝たほうがいい。勉強のしすぎかも、と少し強めに言う。
前に比べると、今の方がずっと健康的にみえるんだけどな。4月くらいは、朝、うすく目の下にくまが浮いてたりしたこともあったし。
紫藤が心配なことって、なんだろう。成績もいいし、奨学金もとれたし。やっぱり母親のことか?
いや、違うな。
たしか昨日、いちゃついた後のトロトロ時間で、紫藤がなんか言ってた。
紫藤が、ホストファミリーの誰かに対する危惧、懸念をしゃべってた。
ほとんど人の悪口を言わない紫藤が、って不思議に思ったんだ。
あれ、思い出さないと。なんとかって名前のお手伝いさんの胸が大きくてお色気たっぷりで、って話の前か後かで、──
「そうだね、志野くん。ありがとう!
あ、あと。それとべつに、またサクヤさん関係でたのみたいことがあるんだ。
後で、いい?」
もちろんOK、また後でね、と約束して、僕は教室を移動しようと、腰を上げた。
次の選択科目、僕は紫藤とは違った科目で、調布たちと同じ。
(ちなみにその逆パターンもある、僕と紫藤が同じで、調布・国領とは違う科目も。)
またね、と紫藤に言って、廊下に出る。もうあまり休み時間が残ってない。みんなもパタパタ移動してる。
「ねえ、志野。ちょっといいかしら。」
廊下に出ると、先に出て廊下に待っていたらしい調布が見とがめて、僕にすすすと寄ってきた。
斜め後ろには、緊張した面持ちの国領も。
3人で、次の授業の教室に移動する。階が違うんだ。
「ああ。今でないと、いけないか?」
「いいえ。そうじゃないけど。
今日の放課後、空いてる?」
どうしよう。僕氏、モテモテじゃないですかね。
女の子たちから(陰口を言われながらも)デートの申込みが殺到中。
いやー、モテ期なんすかねー。
しかし、今日はあの部長さんと先約があるんだ。悪いな!
「いや、今日はだめなんだ。
長くなければ、昼休みはどう?
それか放課後すぐ、短時間なら。」
「そう。悪かったわね。
じゃあ、できれば昼休み。ダメなら、別に今日でなくていい。
──ところで。放課後の約束って、もしかするとESS関係?」
「ああ、そうだけど。」
たしかに、部長さん案件だからな。ESS関係だ。
そう思い、肯定する。
調布と国領が、視線を交わす。
国領が一瞬、顔をしかめたな?
調布の表情はかわらないけど、国領と視線を交わした後、こっちに向き直った目の圧が増した気がする。
「それって、部活の引継ぎとかの関係?それとも、個人的なことかしら?」
「あー、個人的なことかな?」
部長さんと約束したけど、それはESSの活動のことについてじゃない。
例の、吉祥育英会の奨学生のことについて、知りたいからなんだ。
からかい上手の部長さんは、これデートだね、楽しみ!ってノリノリだったけどさ。
もちろんモテない歴数十年、百戦錬磨の僕に死角はないと思っていただこう。まちがっても好意を抱かれてるなんて勘違いなんかしないよ。でも、あのうるんだ目は、思わず勘違いしそうな──
「それって、もしかすると、さ。
あの、ジュリエットさん?」
国領がおずおずと、聞いてくる。
最近攻撃されたり無視されたりしてちょっと心穏やかでなかったけれど。
こうして国領に話しかけられると、そんなわだかまりなんて残らない。っていうか残せない。
心がきゅうっとするくらい、すごくいとおしく思えてしまう。
でも、忘れちゃいけない。
こいつは、僕のことは「友達として好き」なんだ、そう言った。
僕も、その関係だけで満足するべきだ。線を引かなきゃ。
これ以上の関係は。望んじゃいけない。僕には紫藤も、そして調布もいるし。
国領は僕の心の柔らかいところに、ぐさぐさ刺して来るときもあるけど、それはまあ仕方ない。僕があんなことやっちゃったわけだし。
それ以外のときは国領は基本はいい奴だ。フレンドリーに話してくれるし、そんな時はとても楽しい。
だからこれでいいんだ。それで。
一緒にいると楽しい、美形でちょっとどきどきする異性の友達。それでいい。
王子様プレイしてるし、交際にはそれほど興味なさそうだけど、いつかは誰かとつきあったりもするんだろうな。
そしたら、祝福して応援するさ。友人として。
──でもそう思うと、なぜか胸が痛い。
ああ、それはともかく。
ジュリエットさん、って。調布もその言い方を受け入れてるところをみると、あの劇を観てたんだろう。
まあ、印象的だったよね。あの衣装も相まって、あのときの部長さんは無双状態だった。
部長さんはごく普通の制服着てても、もちろん超かわいいんだけどさ。
あのときは、清楚な中世のお嬢様衣裳と、役に没入してのカリスマ、儚さも相まって、もう絶世の美少女と言っても過言ではなかった。
100年に一人の美少女、ってくらい。
ん?
だけどな。あの先輩、卒業後はどうしたんだろう?進学したんだよな?
1回目はそこまでESSに顔出してなかったし、あの僕の死ぬ前の記念行事でも、記憶がない。
──まてまて、考えるのは後だ。僕が黙り込んだせいか、こっちを見るふたりの顔が、緊張してきてる。
1回目のころからの、悪い癖だ。黙って考えこんじゃうんだ。
このままじゃ、胡乱な奴だよな。答えなきゃ。
「ああ、そうだ。
ただ、もちろん今日はただの事務的な話だよ。そんな面白い話じゃないんだ。
まちがっても、後ろめたいようなことはない。
だいたい、僕がそんなこと思えるような相手じゃないだろう?だから気にしなくていい。」
「ねえ、志野。それ、誓える?」
調布らしくもなく、曖昧な問いかけ。
「誓える」って。何のことだろう。
今日の放課後の先輩との約束が、そんな期待してるような面白い話じゃないってことかな?
「ああ、もちろん誓えるさ。」
「────────────そう。わかった。
ただ、そのことも後で話せるかしら?その、昼休みにでも」
なんだか、妙に長い溜めがあったな。疑ってる?
違和感があったが、ああ、もちろんだ、と返す。急がなきゃ。
だってほら、もう、授業開始ぎりぎりの時間なんだ。
みんなで、教室にたどりついて慌ててすべりこむ。
それにしても調布たちは、何を心配してるんだろうか。
──────
4時限は各ホームルームでの授業だったので、国領も自分のクラスに戻り。
(そのせいか、あるいは僕の説明に納得したのか、調布の凍てつく視線も、和らいだ。)
午前中の授業が終わり、昼休み。僕は、調布と話をするために仮部室に来ていた。
高木もなんだか僕と話したそうだったが、調布のが先約だしな。
また後で話しよう、ということになってる。
授業が終わってすぐにお弁当箱を持ってやってきたので、僕が一番乗りだ。
日差しが入りかけてる。カーテンを閉めよう。窓は開けとこうか。
ソファに座り、ちょっと行儀が悪いかもしれないけど、浅めに座って背もたれに体をもたれかけさせる。
カーテンの向こうでは蝉がうるさく鳴いている。
こんな平和な夏が、ずっと毎年、変わらずに続くと思ってたんだよな、僕。この頃は。
軽快な足音が廊下に聞こえて、すぐにカラカラ、と音を立ててドアを開け、調布が入ってきた。
なんだか少し湿度のある視線を僕に投げ、何も言わず、わざとらしくすごく近くに座ってきた。肩と腰がぶつかるくらい。
ふわっ、と調布から爽やかな、いい香りが漂い。
僕は、思わず下半身の一部にどくどくと血流が流れはじめるのを感じた。
「お、おう。お疲れ。」
「──ええ、お疲れ様。」
調布もお弁当の袋をテーブルに置いた。また、サンドイッチとかなのかな。
「紫藤は?」
「あー、ごめん。
あたし、ちょっとあなたとサシで話したくて。
今日は30分くらいあなたを借りたい、って言ってある。」
──その後、来るはずよ。たぶん、ハルカも一緒に。ごめんなさいね。
そういうと、ちょっと顰めていた眉を解き、常識的な距離に座り直した調布は。
ふうっ、と息をついてから、まじまじと僕の顔をみた。
「ねえ、志野。あなたの手を借りたいの。」
「?ああ、いいとも。」
調布の頼みだ、是非もない。
「何についてか、聞かなくていいの?」
いや、調布の頼みなら基本、何でも聞くよ。
そう思ったけど、何についてなんだ、と聞いてみる。
「あー、その。
あなたがあたしを助けに来てくれたことが、あったじゃない?」
あれか。いや、あれって調布の勘違いなんだけどな。
少々罪悪感を感じたが、そのまま話を促す。
「あの男に会わないといけなくて。
志野、悪いけど立ち会ってくれない?」
あの頭よさげで冷徹そうな元カレ、鬼畜眼鏡先輩だな。
そういえば、いろんなことがあってすっかり忘れてた。
しかしな。あまりうまくいきそうな気がしないが──。
「あいつのしたことは、許されないことかもしれない。
ただ、一応はそれなりに償いをしてるみたいなの。」
──だから、そこまで危険じゃないと思うし。
あなた、あいつに「貸し」があるわけよね?
それをテコに、あいつにやってもらいたいことがある。
あいつの昔のルートを使って、ある人と接触したいの。
そう、調布が言う。もう少し詳しい話を聞く。
たぶんプライバシーの配慮からだろう。ちょっとぼやかした表現が多かったけど。
「まあ、あいつ、っていうより。
あいつの悪い仲間が、たぶらかした女の子の一人。」
状況は、僕たちがナギさんを救出した時に近いようだ。
鬼畜眼鏡先輩は結構、悪い仲間と付き合いがあって。
その悪い仲間が、とある女性を芳しからぬ筋に売り飛ばした可能性がある。
接触して状況を確認して、必要があれば手をさしのべたい。しかし、なかなかコンタクトできない。
そこを、鬼畜眼鏡先輩の悪友ルートでアプローチしたい、ということか。
鬼畜眼鏡先輩との顔合わせに、僕にも立ち会ってもらいたい、ってことね。
ほうほう。
「ああ、もちろんいい。」
そうだな。またPCもらえたりするかな。いや、できればMac。
実は、内職(?)にしようと思ってる仕事の関係で、Win機だけじゃなく、Macも欲しいんだよなー。
そんな鬼畜なことを考えながら、僕は了承した。
話が一段落した後、僕と調布はお昼ごはんのお弁当を食べる。
調布のお弁当(簡単なサンドイッチみたいなやつ)と、少し交換してみる。悪くないけど、今の気分としては僕はお米のごはんかな。
一息ついたとき、ふと思い出したように。
調布がまた、厳しめの探るような目でこっちを見つめてきた。
「それと。あなた。放課後の用事って。
本当は、何なの?」
どうやら、僕と部長さんとの仲を疑っている?
いやー、調布が危惧してる(と僕が想像してる)ようなこと、起こるわけないんだけどな。
仲のいい先輩後輩、ってだけだ。
いや僕だって、そりゃ男の子だからさ。
ふとんの中とかで、寝る前に想像することもあるんだ。
あの天使みたいな美少女部長さんとワンチャン、みたいな。
空想の中では、部長さんは大財閥のお嬢さんで、実は僕に恋心を抱いててさ。
だけど政略結婚で、幽○白書に出てくる垂金権造みたいなおっさんに嫁ぐことになって。
”せめて、思い出が欲しい。私をさらっていってよ。”とか、僕に言うんだ。
逃避行のように、発車間際の電車に乗りこみ、追っ手を振り切り(←旧家なので追手がかかるんだ)。
目についた駅で降り、裏町の旅館に入って。その、うーん。いろいろ興奮するシーンがあるんだ。(←たいていは、ここで寝つく。)
でもその後、美少女は(僕の将来を思ってのこと、なんだけど)僕を裏切って実家に連絡を入れ。
迎えにくるお付きの人々。大柄なボディガードに、僕たちは引き離される。
外車の後部座席でうつむき、目を合わさない彼女の白い横顔を、
外で羽交い絞めにされながら、見つめ続ける僕。走り去っていく車。
ボディガードに口封じの札束を投げつけられて、佇む場末の海沿いの街角。
そして。
ラストで、「卒業」のダスティ○・ホフマンみたいに教会に乗り込んで花嫁をさらっていくのか。
あるいは「野菊の如き君なりき」の政夫のように、ただ胸を抉る痛みをかみしめるか。
それはそのときの気分なんだけどね。
いやでも、これはよくある空想。現実にならないからこそ楽しめる話。
退屈な授業中にテロリストが襲ってきて、ジョックスどもが惨殺された状況で。
女の子たちを守りながら生き残った生徒たちで反撃する妄想とかと、同じさ。
だいたい、僕には紫藤と調布がいるし(あ、この二人でもいろいろ妄想を展開する。ずっと濃い内容で。当然だよ)。
たださ。ほら、ちょっと気分を変えたり、別テイストを味見してみたいときってあるじゃん。
同じような状況に、なったら。
紫藤はたぶん、最後まで僕についてきてくれる。きっと、裏切ったりしない。そんな気がする。
調布もたぶん、──うーん?追っ手を全部撃破する未来がみえる。想像の中の僕、調布が無双する横で、恐怖でカチカチに固まってるよ。
とにかくだ、この2人以外の体や、この2人じゃ成立しない状況を味わってみたいときもあるんだよ。クズだと思うかもしれないけど、さ。
たださすがに、そんな空想を調布に言うわけにはいかない。
だって、調布を怒らせたらさ。なにか引きちぎられそう。
だから真面目な顔を作ってみせて、言う。
「ああ、あの先輩のお父さんの仕事関係について、聞きたいことがあるんだ。」
「仕事関係?」
「先輩のお父さん、たしか吉祥グループの人事やってるらしいんだ。」
「吉祥グループ?ああ、なるほど。
──あなたも、いろいろ考えてるってことね。」
調布はそれを聞いて、安心したように(何に安心したのか、そのときの僕にはわからなかった)。
ふうっと息をついて目を閉じ、猫のように柔らかく体を反らせて伸びをした。胸の形がいい。
そして調布はハッとしたように、伸びを止めて(調布の胸を凝視していた僕も、素早く視線を外し)。
僕に向き直って、思い出したように早口で問いかけてきた。
「そうそう、あなた、ここで一回寝ぼけてたことあったじゃない?
誰かと、詩のことか何か、やたら難しいことを話してたけれど。
その相手が廊下に出たのを追いかけたら、誰もいなかった、っていう?」
「ああ。」
そうだ、あの謎存在とまた遭遇して、何かをお互いに約束した夢(現実?)をみたんだよな。
なんだかすごくいいことをお願いして聞いてもらった気がしたんだけど、何だったか思い出せない。
そのことを言うと、調布が笑った。
「それ!あたしも昨日、あったの。」
調布もこの謎存在と話をして、「なにかいいものをあげる」みたいなことを言われたらしい。
しかし、その「いいもの」が具体的に何なのかは、まったくわからない。
どう考えればいいんだろう。僕らは顔を見合わせて、笑ってしまった。
だって僕たちのこの謎存在との遭遇は、すごくわかりやすい共通項があったから。それが意味するものは。
「
「そうだな、こういう体験が積み重なって学校の七不思議になるんだろうな。」
真相は、たぶん散文的なもの。
おそらく、僕の体験を聞いた調布が。
「この部屋で寝ると、謎の誰かと話す夢を見る」と無意識に思っていて。
その刷り込みのせいで、実際に僕と似た夢を見てしまう、ということなんだと思う。
予言の自己実現みたいなものだろう。
(ほら、オカルト掲示板とかでもよくあるよね。伝染性の怖い夢の話とか。)
調布にそういったことを言うと、調布も同意見のようだった。
「きっとあれは、あたしたちの集合的無意識*1の元型のひとつなんでしょう?
ただ、半覚醒夢っていうのかしら。すごいリアルだったのよね、と言っている。同感だよ。
そのとき、とんとん、とドアがノックされ、紫藤と国領がはいってきた。
ちょうど、この謎の「妖精さん」のことを話してたところだったから。
僕と調布は一瞬息を飲み、視線をからませて固まったけど。
入ってきたのが紫藤たちだって分かって、安心して笑った。
紫藤たちは僕たちが笑った理由がわからなくて、きょとんとしていたが、自分たちが笑われてるわけじゃないのはわかったらしい。
その後、僕たちの、その謎存在との遭遇体験の話を聞いて感心してる。
オカルト好きの国領なんか、そんな珍しい体験ができなかったことに悔しがってて、こんどここで寝る!とさわいでる。
紫藤も「わたしもー」と頬をふくらませてる。仲間外れにされた気がしてるのかな。
夢つながりで、国領の力(?)で紫藤母の夢の中に入るってことも話題に出た。こんど試してみなきゃね、という話になり、機会があれば国領がいける日に試行してもらうことになった。
その話も、一巡して。
どっかから国領が見つけ出したトランプ(ちょっと足りないカードもあるみたいだけど)で、遊んでみることにした。
前は家族でやってたんだけどな。姉が受験生になって、今では上京してしまったから、最近はほとんど家ではしていなかった。
こういうのって、多人数でやるのがやっぱり楽しいよね。
「あー、2がAより強いんだっけ?」
「そうね、ローカルルールだとスペードの3が強いところもあるみたいだけど。あたしの母の田舎とか。」
僕らは、大富豪の勝負に没頭する。
頭のいい調布あたりが独走かと思ったけど、意外にも紫藤が強い。二回連続で大富豪フィニッシュ、嬉しそうに顔をほころばせてる。一回目平民、二回目も富豪どまりに終わった調布は、ぐぬぬ、という顔。
僕と国領は、非常にさえない。いい札がこないんだ。1回目は国領が、2回目は僕が大貧民。今日はLUC値が低いのかもしれない。
「それで。
昨日のこととか、話しといたほうがいいのでは?」
「「あー」」
誰かの問いかけに、そうだった、と僕とみなりは顔を見合わせた。
昨日のこと。いちゃついたことじゃなくて、竜神峡のことだ。
紫藤は、まだ調布たちに竜神の娘とかの話をしていなかったらしい。まあ、話す時間なかったよな。
これは確かに、共有しておくべき大事な話だ。紫藤のことで脳内ピンク色になってて、忘れてたよ。
そして紫藤は調布たちに、僕と紫藤が昨日、竜神峡に行った話をする。僕も補足する。
調布と国領も、行きたかった、という顔をしている。この様子だと、紫藤は僕といちゃついたことも話してなさそうだな?
国領がいなくて竜神の娘が残念そうだったぞ(意訳)みたいな話をすると、国領がくすぐったそうな顔をしている。なんていうんだろう、かわいいっていうかかっこいいっていうか。
「それでさ。ふたりにも、頼みたいことがあるんだ。」
紫藤によると。
竜神の娘の
彼女は、中身は紫藤たちと同じような女の子らしい。本好きで、誠実で純情な。本当かよ。
──僕は、それは違うんじゃないかと思う。
たしかに、パッと見は美人っぽいものの。
本性見たれや、パワハラ好きのドブカス女やろ、と思ったけど。
ただ、竜神の娘の心の拠りどころであるらしい竜神がいなくなったら、彼女のタガが外れたり、逆に抜け殻みたいになったりすることはありうるな、と思うし、それは好ましいことではない。
なにより、頬をほてらせた紫藤の熱の入った話を妨げるわけにもいかず、黙って聞いてた。
ただ、みんなでサクヤさんのお友達になろうよ!というのが紫藤のポイントらしいんだが。
うーん。紫藤がいい子だってのは分かったけれど、──。
「ボクは賛成だな。
咲耶さん、本当はいい人だと思う。」
「プロジェクトを成功に導くには、信頼関係をつくることは大事よね。
あたしも、会ってみたい。」
「──ああ。」
僕だって、空気くらい読むさ。みんなが反対せずにうなずいてたら、いっしょに難しそうな顔して頷けばいいんだよね。楽勝。
竜神との約束の日程を考えると、今週中か今週末。場合によっては、サボってでも。
そういうことになった。
ただ、早くバイクの免許を取らないとな。自転車だとやっぱりキツい。一人ならいいけど、二人乗りはやっぱり行き(登り坂が多い)に時間がかかりすぎる。姿勢を変えられない紫藤も結構大変そうだ。
紫藤は、こんどはわたしも自分の自転車で行くよ、志野くんに頼りっぱなしはいけないからね!とか言ってはいるが。
そんなこんなで、いろいろと話し合っておきたいことをトランプしながら話す。
ひととおり共有しとかないといけない話は、共有したかな。
紫藤の引っ越しの話も、調布たちにしておく。
まあ今でも、ホストファミリーのところにはごく頻繁に行ってるみたいだし、送迎もあるから護衛という面では大丈夫なんだけどね。
──あと、スケジュールも決めておいたら?
ほら、病院とか、会談とか、美術館とか、いろいろ。
そういわれてあわてて、昼休みラスト5分くらいで、簡単に今週のスケジュールを決めたりした。
たしかに、紫藤の提案した竜神峡への訪問とか、紫藤母の関係とか、あと調布の前カレとの会談とか(これは先に調布が候補日をいくつか用意してくれてた)。いろいろやらなきゃいけないことがある。
あと、週末のどちらかの日をよこせ、と調布が要求。紫藤とも話はついているみたいだ。これは、デートですかね。日曜日がいいかな?
話はずいぶん進んだ。でも何か忘れてる、見落としてる気もするな。
ともかく、そんな感じで昼休みが終わった。
そして午後の授業を終え、放課後。
授業が少し伸びてしまったので、僕は荷物を急いでまとめ、紫藤に手を振られながら教室を出て。
足取りも軽く、部長さんと待ち合わせをしたLL教室(language laboratory、語学演習室ね)に向かったのだった。
──────
──────
(紫藤みなり視点)
志野くんが去った、放課後の教室で。
「ねえ、さとみん。
志野くん、あきらかにうきうきしてたよね。」
ジュリエットさん(ESSの前部長さん)との待ち合わせに急ぐ彼を見送った後、わたしは親友につぶやく。
わかってはいるが、ちょっとさびしいんだ。
「ええ、けしからんことね。
わかってる。今週はあたしの番だから、ね。
ハルカと一緒に、あいつにしっかりわからせてあげる。」
さとみんがそう言って、持ちあがってる制服の胸を、どん、と叩いて見せる。
うーん、頼もしいけど。
がんばりすぎて最後までゴールイン、しちゃったりしないかな?
ちょっと心配だけど、まあそれはそれでしょうがないか。
「さて、あたしも部活に行こうかな。」
ハルカちゃんも、今日は部活の練習日だと言ってた。
さとみんも、ハルカちゃんと待ち合わせて帰ろうかという話になってるみたいだ。
ちなみにお昼休みの話合いで、習い事やバイトの日の帰りにだけガードするけど、登校やそれ以外の普通の日の下校には護衛はいらないだろう、っていう話になってる。
志野くんは、ちょっと渋ってたし、さとみんも大丈夫、続けても大丈夫だわよ、と言ってたけど。
ハルカちゃんとしては、さとみんに負担をかけてるっていう負い目があったみたいだ。特に朝のお迎えが。
ただ、今日みたいにさとみんが部活に行く日は、いっしょに示し合わせて帰ることが多くなりそうだから、あまり変わらないかも。
今日は、わたしだけひとりぼっちな気分だ。
わたしはお迎えが来るし、文芸部も活動日不定。
お迎えに来てくれる運転手さんに悪いな、と思って、わたしは部活も早めに切り上げて帰ることが最近多くなってた。引っ越しのための、荷物の片付けもあったし。
病院に行く日は、しかたないけどね。それでも5時くらいには切り上げるようにしてた。
きょうはわたしも、お迎えがくるまで文芸部の部室に行って部誌に載せる原稿でも書こうかな。
「じゃあね、みなり。また明日!」
「またね、さとみん!」
渡り廊下のところでさとみんと別れて、わたしは一人で部室に急ぐ。
志野くんと、美術館デート。楽しみだ。
でも、いろいろ志野くんは忙しいみたいだ。ESSの部長さんとか、さとみんの用事とか、バイクの免許とか。いろいろつめこみすぎだよ!
昼休みはみんなでいろいろ話せて楽しかったな。でも、志野くんとふたりだけも、いい。
そう思いながら、わたしは廊下を渡り、階段を上りかける。
階段の踊り場の鏡を、緑色のゴム手袋をした用務員さんが熱心に磨いている。
「?」
そこで、わたしは記憶の中の、奇妙な違和感に気づいて足を止めた。
海でおよいでて、急に低い水温の、違う水の流れに触れたような、ひやっとする感覚。
さっきまでは気付いてなかったけど。明らかにおかしい。
誰が、わたしたちに昨日の竜神峡の話をしろ、って促したんだろう?
──話し方からすると、さとみん。さとみんだったかな?
美術室にいたら、確かめてみよう。
そう思って、わたしは踵を返したのだった。