※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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 ご感想をいただきました。ありがとうございました!
 ちょっと別のものに時間を取られたのと、少々順番に悩んでいたのとで遅くなっていましたが、続けていきたいと思います。
 吉祥寺先輩みたいな人が部活にいましたが、なかなかに味のある性格だなーと思います。急追してきましたし、引き続き今後も焦点の一つになりそうです!


 前半が占い師視点、後半が国領ハルカ視点です。


222 衣装箪笥を抜けるように(1)(第三者視点、他・国))

 吉祥寺美鷹と呼ばれる美少女と、志野とが訪れていた、占い師の部屋。

 彼らが去ったあと、占師とその護衛は早めに客足を切り、その残りの客をさばき切って。

 扉を閉めて、ようやく彼らはふたりきりとなった。 

 

聖女様。今の人々で、終わりです。

 

ありがとう、スギル。

 

もったいなきお言葉です。聖女様。

 

 この未知の世界での、日々のたつきを得るための占術の営業時間が終わり。

 頼れる護衛から、「聖女様」と呼びかけられた彼女は、ほうっと息をついた。

 人々の運命を読むことは、必ずしも容易なことではない。

 特に今日は、特別な運命を持つ者、あるいはそもそも、運命を持たない者。

 運命神の手の及ばぬ、理外の者。

 そういう非常に特殊な者に遭遇した結果、彼女は実のところ消耗しきっていた。

 

聖女様。ご無理をなさっておいででは、ないでしょうか。

 

大丈夫。それより戦士のそなたに、手代の如き働きばかりで苦労を掛けます。

 しかし、今日。ようやく手がかりをつかみました。

 あの少女と、少年。

 彼らが、きっと“剣の僧正”に我らを導く。

 

 スギルと呼ばれた男は、聖女の言葉にじっと聞き入る。

 

 聖女は占術のとき、彼ですら思わず見入ってしまったほど美しい、あの少女の手を取り目を覗き込んでいた。

 聖女のような強力な心術士なら、それで本人にも知られず心術でつながりをつけることも容易なのだろう。

 

この報せ。できるだけ早く送らねばなりません。

 そのために、宝具に力を貯めねばなりません。

 また、今日から3日目より後は、人々への占術も休みましょう。

 

 ──おそらくそのくらいには、国から返事が届くでしょう。

 

 そう、聖女は言い、身を軽く震わせた。

 彼にも、彼女の抱くおそれは痛いほどにわかった。

 その後、彼らは最大の難所に直面することになるであろうから。

 「剣の僧正」は強大な力なだけでなく、その邪悪で非常に残酷な行為でも知られていた。

 

御意。

 

 聞きたいことが、彼にもいくつかあった。

 尊い御方に対しては差し出がましいかもしれないが、剣の僧正との対決にあたり、武力を担う彼には決定的に重要なこともある。

 

 ──しかし、それは聖女様が消耗しきった、今でなくてもよい。折をみて聞くので十分だ。

 戦術的に考えても、まずは疲れ切った聖女様を労り、元気を回復していただくことが第一。

 

 そう彼は考えて、故地から持参した必ずしも美味とは言い難い保存食で、火を使えぬこの地での夕餉の準備を整えはじめるのだった。

 

 ──────

 ──────

 

(第三者(国領ハルカ)視点)

 

 吉祥寺美鷹が、ESSの後輩くんこと志野を手ひどく突き放し。

 志野がプンスコと怒りながら帰っていった、その同じ日の夜。

 

 国領ハルカは、その日も部活で思うままに体を動かせることの喜びを、楽しんだ後。

 また、美術部で活動していた調布智美と待ち合わせして。

 あーだこーだ、とおしゃべりを楽しみながら、帰宅し。

 

 自宅で世話焼きな伯母さんの用意してくれた、特に豪華でもないが美味しい夕ごはんを食べ。

 自宅で、コリコリと予習と復習をすませ、一休みしてベッドに転がっていた。

 時計は、すでに夜の11時を回っている。

 

 ――それにしても。

 生徒会の仕事も、先週の会議で、山を越えたし。

 その会議の議事録も、ロカっちがドラフト作ってくれるってことになってる。

 部活も休みに入るし、ボクも時間ができるはずなのに。

 しのりんは、なんか冷たいし。

 きょうは吉祥寺先輩と会うとか言って、浮かれてた!

 まあ、あの人はすっごい美人だし、仕方ないのかもしれないけれど。

 ボクにもっと、時間を取ってくれてもいいんじゃないかな?

 

 彼女は、でもちょっとだけ今日のことを思い出して頬を緩める。

 

 ──でも、さ。

 今日はすこしだけ、しのりんとおしゃべりできた!

 

 ちょっとだけ元気がでた彼女は、大きめの枕を抱いてベッドを転がる。

 

 ――やっぱりボクも、いろいろしのりんに言いすぎたんだよね。

 さとみんにこの前、ビシッて言われて、反省したよ。

 今日、ちょっぴりだけ、しのりんと話せたときは、怒ってそうな感じはしてなかったけど。

 表向き、みんなの前ではそうだ、ってだけで。

 心の底では、すっごく怒ってたりするのかもしれないよね。

 

 むー、と彼女は風呂上がりでピンク色に透ける頬をふくらませ。

 その男、志野の表情の読みにくい顔を思い浮かべる。

 

 ――だからやっぱり、ボクが言いすぎた、悪かった、ってこと。

 しのりんに、ちゃんと謝っときたいな。 

 逃さないよう、さとみんといっしょに囲んで、謝ってみよう。

 

 その次のステップにも、彼女は思いを馳せる。

 

 ――そうだ。

 週末でさとみんとふたりで、その、しのりんをどうこうするって話。

 そのときまでに、しのりんとのわだかまりを消しとかなきゃ。

 今日帰りのときに、さとみんは。

 ”ふたりで力をあわせて、あいつの蓋をこじあけてやる。

 その後、あたしとハルカの、それぞれの分の時間もちゃんと取ろう?”って。

 だからその時間、どう使ってもいい、って言ってたっけ。

 ふふふ、まるでしのりんのこと、サザエみたいに言ってたなー。

 蓋をはぐか、殻を割ってやるって。

 

 そう思い出し、彼女は頬を緩ませた。

 そこでピピピピ、とリマインダのために仕掛けていたタイマースイッチが鳴ったので、彼女は思索から覚めた。

 

 もう、夜11時を回っている。早寝早起き信者である伯父伯母は、とっくに寝ている。

 お風呂に入り、はみがきもすませてしまってる国領ハルカは。

 今は寝巻代わりの白いTシャツと濃紺のショートパンツ。

 今日の従兄との約束の時間まで、もうすぐ。お金も、渡さなければなるまい。

 今日の従兄への演技披露会(?)は、振り付けをすこし工夫してみた。ちょっと冒険した。

 彼のことは嫌いだ。だけど、鑑賞者としての彼の眼は、逆に信用できるかもしれない。

 

 だいたい、男の子がどんなことに興味と関心を抱き、惹きつけられるのか。

 国領ハルカには、よくわかっていない。

 だから彼女は、この機会に、自分の演技を男の子にウケるようにチューンアップしよう、と考えていた。

 従兄は、口ではもしかするとけちょんけちょんに言ったりするかもしれない。

 ただ、観察眼の鋭い国領ハルカは、彼が本当に受けている印象を察知できるはずだ。

 だからこの機会を、週末のしのりん対策を練る機会の一つにしよう!と。

 彼女は無邪気に考えていたのだった。

 彼女の従兄の、本当の目的にまで考えを至らせることもなく。

 

 ――――――

 ――――――

(国領ハルカの従兄、布田茂良男視点)

 

 彼は、どこか落ち着きがなくその時間を迎えた。

 昨日みた、かつてはみすぼらしいガリガリ女だった従妹の艶めかしい肢体が、頭を離れない。

 今日はアルバイトを入れていて、いつもは絶好調に押しの強さを活かし。

 気弱な客に、詐欺まがいの商品を押し売りしていき。

 外見採用の、ときに仕事を舐めてるバイト女をどやしつけて。

 販売マシーンに改造していくのが得意な、彼であるが。

 今日はちょっと上の空で、仕事に身が入らず。

 買いたくない客を無理に嵌めることもなく、バイト女をどなりつけることもなく、定時にバイトを上がった。

 

 食事を終え、両親は就寝した。

 約束の時間ちょうどくらいに、リビングに行く。

 すでに従妹は先に来ていた。これも、そわそわしている。

 それをみて、彼はすこし心を落ち着けた。

 

「あ、モラ(にぃ)、」

 

「早いな。いい心がけじゃないか。」

 

 そう、言ってみる。

 彼は、この従妹に惹かれている。正確には、従妹の体に惹かれている。

 それを、自覚するようになっていた。

 しかし、彼がソフトに従妹に接しているのは、それが理由ではない。

 やはり彼の心の奥底には、従妹への怒りと嫉妬があるのだ。

 この従妹が破滅し、徹底的に汚され、痛めつけられるところを観察したい。

 

 ただ。

 その目的は、従妹がそれまで信じていたものに裏切られ、心まで破壊されることにより、いっそう良く達成されるのではないだろうか。

 つまり、彼が協力して彼女に一時の成功体験を積ませ、彼を信用させ。

 そして、栄光の絶頂から奈落の底に突き落とし。

 そして最後に、彼女が信じていた彼が、彼女を裏切り奈落の底に落とした張本人だということを教え、絶望に身を灼かせる。

 それを思うと、頭がおかしくなりそうなほどの恍惚感を覚えるのだ。

 

「ねえ、モラ(にぃ)

 今日は、演技10分くらいでいい、って言ってたけど。

 外で他の人もみる用に、少し長めに組んでみたんだ。やってみていい?」

 

「そうか。だったら、時間を計るか。」

 

 彼は、デジタル式の腕時計で時間計測モードに設定する。

 

「じゃあ、着替えるね。

 ちょっとだけ、あっちみててよ。」

 

 また従妹は、下にレオタードを着てきたらしい。

 今朝、こっそり手洗いして陰干ししたのだろう。彼女がそれ一着しか持っていないであろうことに、彼は気づいた。

 彼の計画の一環でもある。いくばくかの援助を与えようか、と彼は検討する。

 彼女から搾取することと矛盾するようだが、原資が彼女の上納金なら、何の問題もない。

 

「ああ、悪かった。」

 

 そういって明後日の方向を向いて見せる。

 ただ、もちろん目のすみから、彼女の着替えを観察する。

 彼女はもじもじしながら、前回と同じように、向こうをむいてTシャツを上げ、ショートパンツを下ろしている。

 Tシャツを脱ぐときの、肩甲骨や背筋の動き。

 ショートパンツを脱ぐときにかすかに浮く、内股のすじ。

 それを、彼は余すところなく観察し、決心する。

 ──この女をいつか犯す。と。

 

「モラ(にぃ)。もういいよ。」

 

 とっくの昔に着替えが終わったのは知っていたが、そしらぬふりで従妹の声で振り向く。

 照れ笑いを浮かべた彼女が、優美に手を上げてポーズを取っている。

 

「最初は、演技からでいい?」

 

 もちろん、いい、と答えた。

 

 ──────

 

 新体操やダンス競技は、かなりハードな運動だ。

 通常の競技時間は、2分から長くて4分少々。

 それをショーにするにあたり15分以上にしろ、と求められたので。

 彼女は、その演技のすべてを運動量の激しい内容とすることをやめ。

 審美的な、身体の美しさを鑑賞できるような内容を大幅にとりこんでいた。

 

 ──ほう。そうきたか。

 

 彼は、そこそこ遊び人でもある。

 いかがわしげなクラブや、ハプニングなバーに出入りし。

 その手のショーも見て、それなりに目を肥やしている。

 その観点からみても、彼女の演技は称賛に値するものだった。

 

 人並みからすれば、かなり控えめな彼女の胸も。

 その胸をきれいにそらし、背筋のラインがちいさくきれいな円を描くように曲げてみせると、わずかなふくらみが強調され、不思議にそそる魅力を生じさせる。

 スリムで脂肪のまだ少ない体の線も、美しい曲線を描き出すのに一役買っていて。

 ほっそりとした腕や脚に、筋肉がうっすらと透ける様子もエ◯い。

 

 簡単に言えば、彼女はその肉置きは薄いが、優美で柔軟な体を活かして。

 躍動的に体をうごかしてみせる、動的パートだけでなく。

 ポーズや動きで、彼女の体の美しさを示す静的パートにも、見せ場をつくってみせていた。

 

 ──これまでにみた、どんなショーよりそそる。

 

 茂良男は、知らず知らずに前かがみになり。

 まばたきすらもわすれて、従妹の演技に釘付けになっていた。

 

 ほら、今も。

 床に前後に脚を開き、片足を頭につけてみせている。

 ヨガのいわゆる「鳩」のポーズに近いが、柔軟な体の持ち主しかできないようなやり方で、接地足の先まできれいに伸ばし、アレンジした姿勢。

 押し殺しながらも漏れる呼気に、彼はほとんど襲いかかりたいような衝動を感じる。

 

 そして、動きのあるパート。

 この家のリビングルームは、逆立ちこそできるが、そこまで天井が高いわけでもない。

 なのに、らくらくと重力を無視したようにジャンプで回転してみせる。

 きれいに開脚してジャンプすることで、天井に触れないように高さを稼いでいるのだ、と彼は気づく。

 そのときに視線が()()にいくことは、仕方ないだろう。

 跳ぶときはさすがに、こちらに視線はこないし。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、──おわったよ、モラ兄、時間、どう?」

 

 そう呼びかけられて、片手をこちらに出し、片足を引いたポーズできれいに終わらせた従妹が。

 こちらを、すこし不安げにみていることに気づく。

 反射的に時計を見る。14分20秒。

 

「40秒くらい短いが、──十分だ。」

 

 他の者にみせるショーとして成り立たせるには、15分必要だ、と前回言ったのは事実。

 ただ、単体でのショーでなく、他の見世物と組み合わせるのなら、むしろ10分くらいが適正かもしれない。

 そして、この、他の見世物。

 最終的に国領ハルカの演技と組み合わせるべきショーについて、彼には心当たりがあった。

 

 ──近いうちに、ごく限られた人々しか知らない特殊なショーが開催される。ここ、多賀島で。

 

 彼の交友範囲でも、極めて筋の悪い方面からこっそりと教えてもらった、その情報。

 最初は、もちろん彼の友人とかに見せて腕を磨かせる。

 

 ──そして、あの人に嵌めてもらえばいい。

 

 彼は、彼の知る限りで最強の凄腕ホストの名前を思い浮かべる。

 この世間知らずの従妹など、あっというまに籠絡されるだろう。

 そしてもちろん、そのおこぼれに彼もあずかることができるだろう。

 思わず、笑みが浮かびそうになる。

 

「モラ兄、それで、演技はどうだった?」

 

「ああ、演技は特上だ。いいぞ。」

 

 その言葉に、嘘はない。

 わずか十数分、あっというまに過ぎてしまった。まだまだ見ていたい、と思わせる演技。

 

「そうだな。あの、頭と腕で体をささえて、脚を開くやつとか。

 すげえよかったけどよ。あれ、こっち向きに開いたりできたりできねえか?」

 

「やだモラ兄ぃ、恥ずかしいよ!だってさ、──」

 

 なにか頬を紅潮させていっているが、必ずしも全面拒否でなく、嬉しそうだ。

 いくつか、彼は自分がみたショーを参考に、意見を述べる。従妹も、ふむふむと聞き入り、なにやらアイデアを練っているようだった。

 

「まあ、よかった。時間も、伸びたしな。 

 今日だけ特別に、1万5千円でいい。」

 

「ええっ?本当!?ありがとー、モラ兄!」

 

 単純に喜んでいる様子の、従妹。

 でもまだ、あるはずだよな?

 

「でもよ、今日もやってくれねえかな。

 ──あの水割りと、膝に座るやつとか。」

 

「いいよ、ちょっと待っててね。」

 

 従妹はそのまま、キッチンで水割りを作っている。

 また、そっと後ろ姿をぬすみみる。

 

「じゃあさ、ちょっとだけだよ。10秒でいい?」

 

「5秒、足してくれねーかな。

 だってよ、1万だぜ1万。」

 

「えー」

 

「それか、座る角度とか座り方、俺に変えさせてくれ。

 それなら、10秒でいい。」

 

 恥ずかしいからさ、モラ兄、10秒の方ね。と言いながら、彼女は水割りを持ってリビングに戻り。

 すーはーと息を吐いていたが、やがて決心したのか彼の前にやってきて。

 

「スタートだよ、モラ兄。」

 

 そう言って、また背中をみせて彼の膝に座ろうとして。

 

「あ、ごめん。これ、水割り。」

 

 膝に座りかけたところで、従妹はまだ水割りを彼に渡していなかったのに気づき。

 柔らかく体をねじって、彼にまだ渡してなかった水割りを渡す。

 受け取った彼は、また前を向く彼女の首、形のよい耳、そして背中、ほっそりとした腰、そして彼の膝に乗ろうとしていたお尻まで、舐めるように視線を這わせた。

 

 そして、彼女は彼の膝に、自分のお尻を載せて座った。

 クチナシの花のような、爽やかな甘い香りに、彼は包まれる。

 彼はその細い腰を、両手で軽く挟んだ。

 

「え?モラ兄?」

 

「座り方の、調整だ。」

 

 そう言うと、従妹は口をつぐんだが、ちょっと落ち着かなげにみじろぎした。

 彼は、彼女の腰をすこしずらし。

 その、小ぶりだが桃のように丸く、形のいいお尻の割れ目を、彼の左の腿にあてがうように、座らせた。

 つまり、彼女は彼の左の腿をまたぐように、座ることになる。

 彼の腿を挟むように、彼女の両腿が位置し。

 彼女の両足の結合する、裂け目のあたりが、彼の足に押し付けられる。

 

 え?というように、彼女はこちらを向きかけたが。

 彼はそっと肩に手をやり、前を向かせた。

 

「さあ、今からだ。」

 

 ──────

 

「──10秒、終わりだよ?」

 

 彼女は結局、その座り方を受け入れ、ややそわそわしながら10秒をすごし、腰を上げる。

 腕を回して引き止めたい衝動に駆られるが、彼は彼女が離れるのを了とした。

 今は、信用を作らねばならない。特にいままで、ずっと相当に冷酷に扱ってきたからな、こいつには。

 

「ふー、なんか恥ずかしかったよ。」

 

 彼女はぱたぱたと、顔を手で仰ぐ仕草をしていたが、気を取り直したように言葉を続ける。

 

「あー、そしてさ。マッサージも、できるんだっけ?

 どんなことすればいいかわからないけど。」

 

 ただ、時間が遅くなっちゃうんじゃないかな、とか言ってる。

 ここは、引き入れどきだ。好条件と約束を守る態度とで、食いつかせる。

 

「ああ、ちょっとバイトでつかれててな。よかったら、してくれないか?

 何、簡単だ。肩を叩いたり揉んだり。

 そして、うつ伏せになった背中の腰のあたりを踏んだり、乗ってくれたりするだけでいい。」

 

 ──時間も、今日は30分でなくていい。

 そうだな、10分くらいでも。

 

 そう、伝える。

 

「それで1万円分なの?

 だったらやるよ、もちろん!」

 

 あっさり、馬鹿な従妹は乗ってきた。

 

 ソファに座っている彼の背中の側にまわってもらう。

 彼女は、水割りを持つ手が揺れたりしないよう、ぽんぽんと叩いたり、もんだりしてくれている。

 意外に凝っていたらしい背中が、とろけるように心地いい。

 

「──ああ、いいな。いい。」

 

 思わず、思ったことがそのまま口に出てしまった。

 それが裏のない吐露だったということを、従妹も察知したようで、手が一層丁寧、熱心になった感じがした。

 

「そうだね。モラ兄、けっこう凝ってる。

 バイト、大変なんだ。」

 

 意外に力のある指が、彼の凝り固まった肩の肉をときほぐす。

 まだこの心地よい状態に浸っていたいという思いを抱きつつも、彼は声をかける。

 

「そのくらいで、いい。それと少しだけ背中を踏むのを、頼めるか?」

 

「どうするの?」

 

「こう、ここに寝るから、乗ってくれていい。

 足で、ここらへんを踏んでくれ。」

 

 長いソファにうつ伏せになり、彼は腰のあたりを指し示す。

 

「潰れない?大丈夫?」

 

「そうだな、ちょっと片足だけで踏んでみて、大丈夫だったら乗ればいい。

 それか、上から両手で押してくれるだけでもいい。」

 

「1万円だからね。両方やるよ。」

 

 言葉どおり、丁寧に従妹は、おっかなびっくり茂良男の背中に足を置き、踏み踏みする。

 思ったより体重が軽かったので、彼は両足で踏んでくれといい、彼女もそれに従う。

 そして手でも、背中を拳でぎゅう、ぎゅうっと押してくれた。

 

「ああ。これくらいで、今日はいい。」

 

 時計をみる。ごくわずかな間だと思っていたが、20分近くもマッサージしてくれたようだ。

 それも指摘して、マッサージ代金も少し色を付けると申し向けた。

 

「5万5千円、払わないといけないんだよね。

 だったら、」

 

「ああ。ただ、今日の分は、ちょっと色を付ける。マッサージも、長くしてくれたしな。

 演技で1万5千、水割りと膝乗りで1万5千、マッサージも1万5千でいい。」

 

 やったー、と喜ぶ従妹から、1万円札を受け取り。

 そして自分の財布から、1万円を抜き出し。

 その自分の1万円と従妹の1万円を合わせて、2万円を従妹に返した。

 

「?」

 

「それな。衣装、それだけだと困るだろ?」

 

「あー、」

 

「その、外で演技するときとかでなくていい、部活で使う分でもいい。

 なんかいいやつ、買うといい。」

 

「いいの?ありがとう!」

 

「ああ。かっこいいやつでも、選んでこい。」

 

 自分の分から1万円足したのは、もちろん計算ずくのこと。

 払ったお金がただ戻ってきた、というだけじゃ、おそらくありがたみはない。

 だが逆にお金が増えた、という体験は、きっと彼女に印象を残す。

 

 それもこれも、彼の計画の一つだ。

 彼はじゃあおやすみなさい、と言って帰っていく従妹に。

 まるで仲のいい、普通の兄のように同じ言葉を返し、後ろ姿を見送った。

 

 ──────

 ──────

(国領ハルカ視点)

 ──ふー、ちょっと最初は緊張したけど。大丈夫だった!

 

 そう、自室に戻った国領ハルカは、胸をなでおろす。

 今はレオタードも脱いで、また白いTシャツと短パンに着替えている。

 

 彼女の従兄は、いつも彼女にはシビアに当たってきたが。

 ここにきて、妙にものわかりがいい。

 今日の演技についても、ほぼ正直な印象を伝えてきたし。

 改善に向けた有益な提案を行ってきたのは、彼女にも予想外だった。

 

 ──モラ兄は、ボクがこの家に来てお金がかかるのがイヤだって、言ってたんだよね。

 あれ、口実だと思ってたけど、意外に本当だったのかな?

 実はボク自身を嫌ってる、っていうんじゃなくて。

 

 そう、基本的に性善説の彼女は考える。

 実際、彼女が金銭的に上納する、と決めたときから、彼の彼女に対する当たりの強さは影を潜めている。

 よく考えると確かに彼は締まり屋、というより守銭奴じみたところがあるなー、と思い当たるところもある。

 

 それに、よく考えるとこの最初はうへえって思った従兄との取引、まんざら悪くない。

 ごく少人数でのショーへの出演で稼ぐ、という提案もあったけど、あれは彼女の目的にも沿っているといえなくもない。

 もっと大人数へのショーへの伝手とか、ないかな?

 

 ──まあ、それはともかく。まずはモラ兄の言ったようなポーズや技、組み込んでみよう。

 それに、衣装のことも考えてみよう。

 ちょうどボクが考えてたのと、同じことだった。やっぱり必要だよ。

 

 彼女は、思いをめぐらす。

 

 ──色の違うレオタードとかも、いいだろうし。

 アラビアンダンサーとかも、アリかな。

 しのりんにぐっと訴えるやつ。やっぱり必要だよ。

 みなりんだったら、何か知ってるかな?

 

 そう、彼女は眠りの前のひととき、思いをめぐらすのだった。

 

 ──────

 

 一方、そのとき。

 自室に戻った茂良男は、電話をかけていた。

 

「もしもし。御子須(みこす)さん。すいません。

 ──その、近々、地下ショーがあるって聞いたんですが。」  

 

 そう、彼は知り合いに電話を掛ける。

 その頬には、従妹に見せていたのとは異なる、よこしまな欲望を浮かべた喜悦の笑みが浮かび始めていた。 

 

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