タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
225 衣装箪笥を抜けるように(4)(三人称)
(国領ハルカ視点、火曜日、学校にて)
補習期間中は、芸術系の科目(音楽や美術)とか、体育とかの科目はない。
補習科目は主要3科目に重点配分されてて、6時限で授業が終わる。3時少し過ぎぐらい。
多くの部活では、この期間、熱心に練習する。
もちろん生徒会関係が峠を越えた国領ハルカも、創作ダンス部の方の練習に打ち込んでいたが。
今日は練習日ではなく、ぽっかりと空いていた。
この日に、国領ハルカは。
調布智美、紫藤みなりのおなじみ3人組で、街に出ようと考えていた。
もう今週で学校の補習も終わる。
クラスメイトたちの間にも、心なしか緩い雰囲気が漂っている。何人かは、親の都合もあって早くも帰省していたりする。
先生がその雰囲気を引き締めようと声を張り上げているが、エアコンもなく暑い教室で、先生もちょっとバテ気味。
国領ハルカは、俯いて熱心にノートをとるふりをしながら、横目で窓の外を眺める。
べたべたに塗ったような青い空、浮かぶ白い雲。
焦がすような強い日射し。今日はあまり風がない。
学校の外の通りを走る自動車のクラクションの音。
正門近くを通り過ぎるお母さんと小さい子供の姿。
これから先、似た光景を見ることはあっても。
これと全く同じ光景を見ることは、この先二度とない。
こんなところで1日をすごすの自体、なんだかムダな気がする。
かといって、自分が本当にやりたいこと、本当になりたいものが見つかってるわけじゃない。
現代史を丁寧に解説している先生の声を聞きながら。
彼女は気づかれないように窓から外を眺めやり、不思議に透明な感傷に浸った。
――――――
6時限目が終了すると。
国領ハルカはすぐに仮部室に移動しようとした。
「ねえ、国領ちゃん。」
――あ、ヤなやつが来た。
国領ハルカは表情にはあらわさないようにしながら、人当たりの良い笑顔を浮かべ。
心の中では、げんなりしていた。
「
声を掛けてきた短髪のスポーツ少年風のクラスメイト、
国領ハルカは、ほぼすべてのクラスメイトと良好な関係を築いている。
王子様プレイというかちょっと変わった
もちろん心中、軽蔑してたり引いてたりする子もいるだろう。しかし表面上は良好だ。
そして普通の男の子たちに対しては、性別を気にせず話せる仲間、というアプローチを心掛ける。
相手が、心中でどう思ってるかはわからない。
実は
逆に内心、男子たちワールドに踏み込まれてうっとうしく思ってる男の子もいたりするのかもしれない。
だけどこれもまた多くの男の子たちは、そういうキャラだ、と扱ってくれてる。
大多数の支持、特に女子からの支持を得ているので、やんちゃな男子の介入もあまりない。上手く立ち回ってきたのだ。
ただこの学年に上がって、最近問題を感じ始めてるのが、この根取益男とその相棒の
クラスの
他の一軍男子も、鼻持ちならないところが全くないとまでは言わないけど。
ハルカたちみたいな進学校では、ノーブレス・オブリージュとでもいうのだろうか。
他の学校と違い、たとえば体育会系の上位陣の男子やチャラ男くんたちが上下関係を誇示して、地味な子たちに威張ったりすることは、あまりない。
(まったくないとは言わない。でも、そういうのはカッコ悪いという雰囲気がある。
だから対人能力がダメクソな|志野も、ちゃんとクラスの一員として受け入れられてる。)
ところがこの国領ハルカのクラスは、やや例外的。
上位陣の男子たちが、自分たちだけ良ければいい、みたいな風潮がある。
その根底に、この根取とその相棒の影響があるのではないか、と国領ハルカは考えていた。
そして、特にこの2人の奥底に、ひどく陰湿で暴力的なものがあるようにも感じていた。
たとえば。
国領ハルカはこのクラスメイト2人に、ある種の疑惑を抱いている。
志野との待ち合わせのとき、
しつこく錦汰摩高校の先輩に合わせたがっていたことも、考えると。
錦汰摩高校と思われる、あのリーゼント巨漢*1と筋肉丸坊主少年*2と痩せたモヤシ少年*3に襲われたことには。
決め手はないのだが、この根取が何か関係しているのではないか?
そう、国領ハルカは疑っている。
だから、一見すると全く普通に応対しているように見せようとしているのだが。
特に鋭い観察者なら、どことなく国領ハルカがこの男に嫌悪感を抱いていることや、早く振り払おうとしてることが、無意識に顔を遠ざけようとして反らした彼女の上半身から読み取れたかもしれない。
「ねえねえ、こんどさぁ、俺たちベスト32に上がるじゃん。」
たしか根取少年はかなりメジャーな運動部、やってたはずだ。
すごいねすごいね。それで?
「応援に来てもらえたりすると、うれしいけどなー。
ほら、うちの部ってさあ。マネージャー、
それに
「そうだったかな?ありがとう。」
あー、たしか。ボクが出た、5月の新体操の大会のことかな。
あれ、もともとロカっちとか、クラスで仲がいい何人かで来てくれるってことになってて。
たしかこいつらが話を聞いてて割り込んできて、なぜか応援に来ることになったんだったかな。
終わったあと、一緒に行動したロカっちたちは、なんか怒ってたっていうか嫌がってたな。
思い出せないけど、助子君と二人でナンパとかしたとか、パシャパシャ写真撮ろうとしてたとか、聞いたかな?
「でも。今はボクもちょっと忙しくて、さ。ごめんね?」
「そう言わずにさー。だってよー、」
「ほんとゴメン!今日、約束があるんだー。またね?
部活、頑張ってねー!」
無理やり切って、駆けだして逃げる。
背後からの視線を感じる。階段への曲がり角で後ろを見やると、まだ彼がこっちを見ているのが見えた。
角を曲がって視野から出ると、ほうっとため息をついて普通に歩くことにした。
「なんだかなー。」
あのねばつく目で、ボクの新体操の演技見られてた、ってことか。
モラ兄も、あんな目で見てくるんだよ。
なんならしのりんも、似たような視線向けてくるけど、さ。
でも、なんかしのりんは、あばたもえくぼっていうのかな、今ではもう許せるんだ。今では。
そう思いながら、国領ハルカは仮部室のある旧本部棟への渡り廊下を渡った。
──────
「ちっ。ちょっと見れる面してるからって、よ。
いい気になりやがって。」
その国領ハルカの後ろ姿を、じっと見つめる目。
根取益男。外見はさっぱりした体育会系の青年に見える。
だが国領ハルカを見つめる目には、陰火のような剣呑な色があった。
「ねどっちー、だからおいらにまかせなよー」
へらへらと、肩を組んでくるもう一人の青年、
髪は長め、顔はにやけてるけどまあまあ。
ねっとりした話し方だが、親し気で。
根取と違って、序列の低い男子にも比較的フレンドリーだ。
いつも笑ってるような糸目も、相手に警戒心を抱かせない。
しかしその本性がなかなかに鬼畜であることを、根取は知っていた。
「いーや。お前、手ぇだすなよ。俺んだからな?」
「だってさー、みるからにネドっちにゃ、ミャクなさげじゃんー、ハルカっち。」
ふたりは戻った教室の窓から、渡り廊下を見下ろす。
渡り廊下を歩く、すらっとした後ろ姿。少し明るい色の髪、短めのスカートから伸びる、白い脚。
ふたりは、それにべとつく視線を送る。
「たーまんないねー、ハルカっちの足!ペロペロ舐めてー!」
「マジだな。最近、ますますエロいよなー。」
涎を出しそうな表情の、助子マシヤ。
それを牽制しながらも、やはりべったりと視線を張り付けて口元をいやらしくゆがませる根取益男。
だが、脳内の空想空間の中で国領ハルカの優美な肢体をなぶってオカズにしている、二人は。
すでに現実に彼女の脚を舐めまわした、けしからん男がいることを。
つゆ知らぬままなのだった。
──────
いろいろ考えつつも、国領ハルカは例の仮部室に入り。
テーブルの席に座り、突っ伏して、顔だけ横に向けて窓の外を眺めやり、親友二人が来るのを待つ。
開けた窓からは、男子の大声や。
誰かにからかわれたのだろう女子が、なんかうれしそうに抗議してる声が聞こえる。
あー、青春してるなー。
ぼんやり聞き流しながら、彼女は思いにふける。
──うらやましい?うん、少し。だって、きらきらしてる感じがする。
部活が終わって、相手の男の子と待ち合わせて。
肩を寄せ合って、一緒に帰ったりするのかな。
別れる前のひととき、夕焼けを一緒にみつめたり。
でも、たとえば自分が。
クラスメイトのカッコいいとされてる男の子と付き合いたいか?というと。
それはまた、話は別だ。
1年の2学期の、終わりごろだっただろうか。
国領ハルカは、すっごいかっこいいと評判の、生徒会の先輩に告白されたことがある。
彼女は、その交際の誘いを断った。
モテる人だったから、一瞬、虚栄心はみたされたけれど。
この人を好きになる、いろいろキスしたりそれ以上のこと(?)をしたりする、ってことが。
どうにも、うまくイメージできなかったのだ。
──断られた先輩、ショックだったのかな?
断った自分が、むしろショックだった。
ひたすら面倒だな、としか思えなかった自分が欠陥人間みたいに思えて、自己嫌悪を覚えたりした。
むしろ先輩の方がすぐ立ち直って、胸の大きい別の1年生の子とすぐラブラブになってたのが笑えた。
──もし、自分がクラスのかっこいい男子と付き合うとしたら?
他の女の子からの羨望っていうか、ランクアップ感覚っていうか。
アクセサリ感覚やコレクター趣味での、自己満足とか。
ミツグ君的な金銭的利益とか。
そんな不純なものしか、動機になりそうにない。
ぶっちゃけ外見はともかく、今のクラスの一軍男子、モラ兄に似ててあんまり好きじゃないってのもある。
他のクラスなら、外見も性格もいい男子がいるんだろうけどな、きっと。
ただ、趣味とかが合わないと一緒にいてもつまんないだろうな。
地味で「おたく」な子のほうが話は合ったりする。読書傾向とか重なってるし。
ただそれは、関心のあるテーマが近いってだけ。
その人が好きでたまらない、なんてことは、それまでなかったし。
それに彼らの一部はこじらせすぎてて、疲れることもある。
要は、かっこいい子もそうでない子も、異性として好きでたまらないという感情は、彼女にはまだ未知のものだった。これまでは。
――そんなボクは、本当の意味での恋を知らなかったんだ。
みなりんたちが罹ってる、あの熱病。
あの時までは、わからなかった。
今は?──すこしわかる、気がする。
──今のボクは、しのりんに恋してるのか、って?
うーん、実は、まだわからないんだよね。
だってこれ、──「恋してる」って感情なのかな?
だって、女の子たちがきゃあきゃあ言ってる、あんな感じのものじゃない。
ほわんと甘酸っぱい、っていうより。
もっと苦くて熱いものなんだ。
今までに味わったことのない、激しい心のうねり。
焼けつくような、この感情。
扱いを間違えると、何もかもを壊してしまいそうだな。
でも、これ。
さとみんなら、わかるはず。
さとみんの目には、似たような、激烈なものが浮かぶときがあるんだ。
あの洞窟の事件より前は、さとみんの目に浮かぶあれが、怖かった。
今は、怖くない、──とまでは言わないけれど。
ただ、今は、なんとなくわかる気がする。
だってさ、──あの感情は、おそらく、他にも向うけど、むしろ、──
そう、彼女は思索を煮詰めていたが。
「ハルカ、遅くなった。悪いわね。」「ハルカちゃん、ごめんね!」
がらがらと扉が開き、おなじみの二人があらわれたので、国領ハルカの思索は中断された。
「あ、さとみん、みなりん!
用事とか、あったのかな。大丈夫なのかな?」
ちょっと遅かったな、とそう思って、国領ハルカは目の前の小さい友人に聞いてみる。
「あ、大丈夫だよ!
今日は、こっちの家に泊まるっていうことにして、レンラクの電話してたんだ。」
──なるほど、学校に2台しかない公衆電話だ。混んでたんだろうな。
とある財団の特別奨学生に選ばれた、この小さい友人は。
住み込みで衣食住の保障を受け、そのうえ雑務との引き換えで報酬まで受けられることになるようだ。
すでに一定程度、樋木崎渓谷近くのホストファミリーの家に荷物も送ってしまっている。
でも、こっちの家も引き払わなくてよくなったので、こちらに泊まることもできるらしい。
それからあとは、住み込みでホストファミリーの家庭でお手伝いさんみたいな感じで働くとか。
住み込みで雑務あり、というのは普通なら敬遠することかもしれない。
ただ、従兄との緊張関係のため、家を出たいと思ってた国領ハルカには、ちょっと魅力的だ。
だって住居は、信用がなければ手に入らない。そして収入つきなんて、申し分ない。
――ふうん、好条件だなあ。
ボクもその奨学金、受けられたりしないかな?
そう、国領ハルカは羨ましく思ったものだ。
ただ、聞いてみると、あまり好都合とはいえない条件もある。
住み込みすることになる先は、かなり遠方であり。
そうなると、この学校に通い続けるのは難しい。
目の前の親友は、今学期中は今の学校、新学期からは別の学校に転校の予定らしい。
それもあってか、この親友はこの頃、ちょっと悩みがあるみたいだ。
彼女の恋人(と周りからは思われ、ほほえましく見守られている)と離れてしまうこと、だけでなく。
ときどき、もの言いたげなのだが、やめてしまうことが多い。
──こんどじっくり、時間をとって聞き出してあげよう。
なにしろ、ボクはみなりんの親友だからね。
そう、彼女は思ったが、少なくとも今はその親友は元気いっぱいな様子だった。
「それじゃ、行きましょうか。もう、学校には戻らないわよね?」
3人は、街に出かけていったのだった。
――――――
3人の買い物は、それはもう女の子の買い物なので。
お互いにお互いが選ぶ衣類について、つっこみを入れたり赤面したり。
そしてまた、友人の大胆さにお互いきゃあきゃあと騒いだりしながらも。
無事、満足のいくものを見繕えたと感じた3人は、病院に向かう。
病院に入ると、それまでみたいなきゃぴきゃぴとした雰囲気をひっこめる。
すこし間が空いてしまっていた調布智美、国領ハルカにとっては、紫藤みなりの母は。
やや痩せてきているように、思えた。
「じょくそうとかは、大丈夫みたいなんだけどね。
というより、どうして起きないのかよくわからない状態なんだ。」
脳の機能にめだった障害はない。しかし、刺激を与えても目覚めない。
ただ、娘が音読をしていたりすると、わずかに表情が緩んだように見えることもある。
そういう状態。
入院の自己負担分も、奨学金を出してくれた財団が負担してくれるらしい。
これまではたまたま個室だっただけだったが、今は財団が差額ベッド分を出してくれている。
「この長椅子に、一人寝れるわね。
ねえ、ハルカ。その現象、共有現象が起きるときに、相手との距離は重要?」
「あー、そういえば。
どちらも、すぐ隣に寝ていた状態だったかな。」
「つまり、小母様とあなたは必ず横にいないといけない。
そして、あなたと私たちは横にいないといけない。
そういうことね?」
「うん。」
「ベッドの配置を決めるわよ。──ハルカ、小母様の横。ちょっと小母様をずらして。
そしてそこのもう一つのベッドも、寄せちゃって。そこに、みなりとあたし。」
「──怒られないかな?」
「怒られるときは、一緒よ。
でも夕方の巡回は、6時。十分に時間はある。」
「そうだね。」
「あたしの時計でタイマー、仕掛けとく。」
調布智美が、腕に着けているデジタルウォッチでタイマーをセットしている。
女性物の白いG-Sh〇ck。去年の冬に発売されて、東京とかでは女子高生に人気だと雑誌でみた。
──さすがさとみんだなー。
でもそれって結構、高いんじゃなかったっけ?
まあ、さとみんは意外に(?)お嬢様だからな。
と、国領ハルカはちょっぴり失礼なことを思う。
彼女自身の腕時計は、伯母さんに高校入学のお祝いで買ってもらった、かわいいスウォッチ。
紫藤みなりのものは、普通の焦茶色の革ベルトに落ち着いた銀系のシンプルでありふれた国産メーカーの腕時計だ。
夕方の巡回まで、しばらく時間はある。
それまでに原状回復もしなければならない。3人は、時間を1時間と見定めた。
突然踏み込まれないように、看護婦*4さんには、しばらくゆっくりしたいのでそっとしといてください、と婉曲に伝えておく。
そして、寝る準備。
「ぴったりくっつけて。そう。少しななめに、3人が小母様に頭を向けて、枕にする感じで。みなりが小さくて、よかったわ。」
「わたしは、そんなに小さくなんて、──」
「はいはい大きい大きい。これでいいわね?」
「なんだか、へんな気分だね。」
「うふふ、とても眠れそうな気がしないよ!」
「寝るのよ?いい?寝れなくてもいいけど、寝る努力は、ちゃんとして。
照明、消すわよ。」
「ラジャ」「おやすみなさい」「ええ、おやすみ」
カーテンを引き、照明を落とし、うすぐらい寝室。
「うふふ」「こらっ」
みなりんとさとみんの、じゃれ合い。
外では、みんみんと蝉の鳴き声。
──とても眠れるわけ、ないじゃないか。
調布智美に怒られて紫藤みなりが静かになって、5分後。
そう思った国領ハルカは、横を見て驚愕する。
すうすうと、彼女の小さい親友は寝息を立て始めている。
「しーっ。」
大きい親友はまだ起きているようだったが。
切れ長の大きい片目を閉じて、いたずらっぽくほほえみかけた。
「あたしも、眠れそう。
──ハルカ、頼んだわよ。あんたが最重要なんだから。ダメモトでいい、寝てみて。」
「うーん。がんばってみるよ。」
そのまま目を閉じて、大きな友人も深々と息をして、動きを止める。
寝てはいないが、その予備段階に入ったのだろう。
国領ハルカも、目を閉じた。
ひとりだけ起きてた、なんてことなったら責任重大だよ、と思いながら。
しかし健康な彼女はやがて、うとうとと、──
──────
──しゃうっ!
空気を切りさく、威嚇の鳴き声。
何かが、襲い掛かってくる。
あっ、と思って身を守ろうと身構えたとき、横から蹴りがその毛の生えた何かを蹴り飛ばした。
「ハルカ、みなり、後ろに!」
大きな友人が、さっきみた、そのままの制服姿で。
その何かと、対峙している。
──ウサギ?
その何かは、大型犬くらいの大きさの獣だった。
しかし、犬ではない。耳が長く、彼女、国領ハルカの知る範囲の動物では、ウサギに近い。
ただウサギにしては体型が丸いし、彼女が小学校のころの学校の飼育小屋にいたものより、ずっと大きい。2倍以上はある。
そして、目がおかしい。ぎらぎらと、獲物を見つけた犬のような目。
口元からは、短いが鋭い牙が見えている。
──肉食動物のウサギ?耳長ネズミ?
「来るわよ!」
何も武器がないのに、──と思ったが。
彼女の大きい友人は、片手に何か鉄の輪のようなものを握りこんでいる。
あ、メリケンサックか。なんでそんなものを?
まあいい、ここが夢の中なんだね?
彼女が把握した限り、ここは深い森の中のようなところに思える。
湿ってひんやりとした空気、巨大な木々、薄暗い
そして、目の前には敵意をむき出しにする巨大な耳長ネズミ。
「えいっ!」
びゅん、と何かが彼女の後ろから投じられる。小さい友人が、拾った石を投げてるんだ。
石はネズミには当たらなかったが、意識が逸れた。
「ハッ!」
ひゅん、だすっ、と音を立てて、大型犬ほどもあるネズミが蹴り飛ばされる。
やっぱりさとみんは、ゴリラじゃん。
でもね。ここが夢の中なら、ボクだって!
しゅたっと横の大木(日本じゃ神木になってそうな、太い木だ)の幹に飛び。
さらにその木の幹を蹴る、いわゆる三角飛び。
そこから、体を上下一回転させる大技で。
調布智美によって蹴り飛ばされたネズミにかかと落としを叩きつけ、痛撃を与える国領ハルカだった。