※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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 ご感想をいただきました。ありがとうございました!
 遅くなってしまいましたが、いよいよ紫藤母関係にも話が進んでいく予定です。
(当面、御前様関係、竜神関係、御子須リハン関係、紫藤母関係、・・と話が複数のルートというか場面に分かれて同時並行で進むので、ちょっと読みにくいかもしれません。)
 
 第三者視点(中河原桜ほか)です。


226 衣装箪笥を抜けるように(5)(吉/桜、他)

(第三者=中河原 桜視点)

 

 午後の歩道。風はなく、日は高く、じりじりとアスファルトを焦がす。

 さっきから従姉を追跡している彼女、中河原(なかがわら)(さくら)は、ポケットから取り出したハンカチで汗をぬぐった。

 追跡されている従姉、吉祥寺(きっしょうじ)美鷹(みたか)は、それを知らぬげに、無傷な方の腕に重たげな鞄を持ち、少し俯きがちに欅の並木道を歩いている。

 おそらく相当の距離を置いて尾行している桜のことは、気づいていないと思う。

 

 桜がストーカーじみたことをしているのは、彼女の従姉である吉祥寺美鷹に、どこか不審なものを彼女が感じたからだ。

 今日の、放課後のこと。

 腕に、湿布だという包帯を巻きつけたこの美少女は、また美術室に籠ろうと思っていた、桜のもとを訪れ。

 機嫌のいい猫のように桜にすり寄って、頭をこすりつけ。

 ときどきあることだが、桜のことを赤面するくらいにちやほやと真正面からほめちぎり。

 そしてすこしだけ1年先輩としてえらそうに人生と世渡りのアドバイス(?)をして。

 最後にぎゅむぎゅむと桜に抱き着いて、バイバイ、と少し潤んだようにみえる目で手を振って去って行った。

 

 正直、今日は何もかもを忘れて画を描く気分だったので。

 ぶっちゃけ、美少女の絡みであってもややウザく感じていたのだが。

 なんとなく、その白い夏服の儚い後ろ姿が美術室のドアを開けて出て行き。

 そして、カラカラぱたん、とドアが閉まったとき。

 妙な胸騒ぎが、しはじめたのだ。

 

 だいじょうぶ大丈夫、さっちゃんは幸せな人生を送るんだよ?と。

 彼女に言い聞かせるようだった、美鷹の言葉。

 過剰なスキンシップまでもが、妙に不吉に思えてくる。

 

 ──鞄は、置いて行こう。今は、迅速な隠密行動が必要だ。

 明日の朝、授業前に取りにくればいい。

 

 なぜ隠密行動が必要なのか、とか。

 いつも寝坊で学校には滑り込んでて、朝に鞄を回収する時間などなさそうなこと、とか。

 そんなことは、この際考えないことにして。

 荷物を美術室に残し、桜は、美鷹を追いかけることにしたのだった。

 そこで桜は、2つ目の違和感を感じる。

 

 いつもは背中にも目があるのでは、と思うくらいに勘のいい美鷹なのだが。

(子供のころから、ときに美鷹をびっくりさせようとして桜が忍び寄っても、いつもあっさり先に発見されてしまっていた。)

 すれ違う友人たちと挨拶や小話を交わし、下校していくその儚く可憐な背中は、追跡する桜に気付かない。

 これは、変だ。

 何か、別のことに気を取られてるみたいだ、と桜は思う。

 

 声を掛けて一緒に帰るのも、一案かもしれない。

 だけどおそらく、従妹に対する保護者を自任するこの従姉は。

 それだと、おそらく自分の本当の問題を桜に白状するようなことはしない。

(婚約問題は教えてくれたが、この従姉が今なやんでいるのは、それとは違う問題ではないか、と桜は直感していた。)

 この従姉は、その気になれば、それはもう強固な鉄壁のガードで外面を整えてしまえる。

 桜は、過保護だよねみーちゃんは、と思うが、自分がそれに甘えてきてしまったのも事実。

 だから今日は、追跡して、手がかりを自分でみつけなきゃいけない。

 

 そして、都合がいいことに。

 目だたないモブオーラが強化されたせいだろうか。

 それとも今日は、かなりの距離を置いているからだろうか。

 なにより、美鷹が他のことに気を取られているからなのか、それらの相乗効果なのか。

 ともかく美鷹は、桜に気付いていない。

 

 ただ桜の予想に反して、美鷹は普通に自宅に向かい。

 まばらな欅の並木道をたどり。

 築は古いが上品な、西洋館風の自宅のドアに吸い込まれていく。

 

 ──あれ?勘違いだった?

 帰ろうかな。

 

 しばし思案していた、そのとき。

 ふたたびドアが開き、美鷹が現れる。

 

 そしてどこか決然とした面持ちで、砦山へ向かって歩き始めた。

 もちろん、桜も後を追う。

 ひそかに人間観察をするとき用のオペラグラスで、普通の数倍の距離を置いているので。

 おそろしく勘が鋭いうえに、ときどき振り返ってあたりを確認する美鷹にも、まだ気付かれてはいないようだった。

 

 そして、幸運なことに。

 その美鷹を、したたるような悪意で見守っていた影にも。

 桜の存在は、気付かれずに済んだのだった。

 

 ──────

 ──────

(吉祥寺 美鷹視点)

 

 吉祥寺美鷹は、疎林の木陰に入り、ふう、と息をついた。

 よく見ると少しだけくまが浮いてやつれてみえる、彼女であるが。

 それもまた不思議な魅力を、この美少女に備えさせていた。

 

 ここ数日、前にもまして眠れていない。

 あの猿は、いやらしいことに。

 小さな嫌がらせを、毎日工夫してくるからだ。

 

 自室の窓の前に、小動物の死体を吊るしたり。

 彼女が家に入る寸前に、びちゃっと蛙の死体を上から落としてきたり。

 どうやったのかはわからないが、学校の靴の中にメッセージを仕込んできたり。

(いかに身が軽いとはいえ、猿の姿のままで学校に忍びこめるか怪しい。

 何者か、人間の協力者あるいは飼い主がいるのではないか、と美鷹は考えていた。)

 

 そのメッセージに従い、彼女はまた砦山に赴く。

 要件は、推測できる。

 おそらくは、あの件での贖罪を求めるのだろう。

 彼女は、家族の身の安全を保証してもらえれば。

 自分で済むことなら、もちろんどんなことでも応じるつもりだったが。

 弁明だけはしておきたい、と考えていた。

 

 ひゅうん、ぱさり。

 音がして、美鷹にまた歩く方向を指示する。

 今日は、前回とは違う場所のようだ。

 

 小石による指示は、険しい山肌に作られた、枯れ沢を上がることを美鷹に求める。

 この小さい山には、沢が数本ある。

 湧き水から発し、晴れていても水が流れている沢もあれば。

 この枯れ沢のように、いつもは水が流れず、ごろごろとした岩が転がっている沢もある。

 美鷹が苦労して上がっているのは、枯れ沢だ。

 雨のときに水の流れる流路が、道のようになってはいるが。

 大きな石もときどきあって、段差を乗り越えるのには脚力がいる。

 制服のスカートの裾を短めにたくし上げて、美鷹は必死にそれを登っていく。

 

 枯れ沢は窪んでいるし、両側に大きな岩があったりして見通しづらい。

 それは美鷹を追跡する桜にとって、美鷹を追うのが著しく難しくなったことを意味した。

 

 ──────

 ──────

(中河原 桜視点)

 

 ──どうしよう。このままだと見失う!

 

 枯れ沢を忠実にたどると、発見される可能性が高くなってしまう。

 かといって枯れ沢の道を外れたところは藪が多く、そもそも通行すらも困難だ。

 桜は束の間、熟考し、──

 

 追わないことを選んだ。

 

 周りを見回す。沢を比較的捉えられる位置、つまり枯れ沢の下流のあたりにほど近い、大きなススキの株が群生するあたりに身をひそめる。

 幸いにも、母親が洗濯物の香りづけに使っている、ハーブのエッセンシャルオイルの香りが、蚊を遠ざけてくれている。

 ススキの葉のすきまから、オペラグラスをそっと出して様子をうかがう。

 曲がりくねった部分で、桜が隠れている方向とうまく方向が合うと、美鷹の様子は克明にわかるし。

 そうでない部分でも、美鷹の頭が、ときどき見え隠れする。それで、場所は分かる。

 

 ──あーあ、あんなにスカートを巻き上げちゃって。

 

 バレエを習っている美鷹は、とても優美な肢体をしている。

 桜も、美鷹の参加する発表会などがあるときにはお呼ばれして観劇してきたが。

 ひいき目ではあるが、参加者の中でも抜きんでた容姿と技術だった、と思っている。

 師匠からも、その道に行けない身であることを、惜しまれているらしい(本人は恥ずかしがって言わないが、それはバレエだけでなく、ピアノとかもそうだと親たちのつながりで聞いた)。

 しかし美鷹は、女の子同士ではともかく、男子には肌をできるだけみせないようにしている。

 (以前にも触れたが、政略結婚のことを考えてのことだろう。

 例外は、体育祭や、ごくたまの男女混合での体育の時間くらいだ。)

 

 しかし、今は。

 階段どころでない段差のある岩を乗り越えて行かないといけないせいか。

 美鷹は、膝すこし上くらい、太腿が見えるくらいにまで制服のスカートをベルトにはさんで、大胆に上げている。

 そして桜は、こんな時でありながら。

 オペラグラスの向こうで沢を登攀する美鷹の、きわどくさらされた生足を観察する。

 

 親友と言える、また恩義もある、大好きな従姉であるが。

 他方で実のところ、嫉妬を抱かないわけじゃない。

 人を魅了する顔と体、優れた頭脳と社交性、そして穏やかな性格と裕福な実家。

 自分に比べると何もかもが恵まれているようにみえる、この従姉に対して。

 

 そう、ときどき。

 桜も嫌なことがあって、気が荒れているときなど。

 この美しい従姉が、汚く粗野な男たちに捕らえられてめちゃくちゃにされる、といった。

 本人にはとても言えない、ひどく下劣な妄想をしてみることがある。

 妄想の中で、この美少女はかどわかされて。

 ぐじゃぐじゃに泣き顔を見せながら後ろ手に縛られ、この白い脚を割り裂かれて、──

 

「!?」

 

 山腹の途中、枯れ沢がちょっとした岩盤を乗り越えて。

 ちょうど、滝のようになっている部分がある。

 その枯れ滝の滝つぼの部分。水が流れるときに落下点にあたる部分を中心に、数メートル四方が広めにえぐれていて、周りからは段差がある。

 その場所が、周囲の灌木とあわせて、ちょうど隠れるのには都合がいい状態になっている。

 そしてたまたま、その枯れた滝つぼから、それより下流の流路への切れ口がある場所が、桜が隠れているところに向いていて。

 桜の場所からしか、その内側がのぞけない感じになっているのだ。

 

 そこに、美少女は苦労して登り。

 そして、何かを見たように身を硬直させた。

 

(──何!?)

 

 何かが、その横にいるのだ。桜は、目を凝らした。

 人影が、ある。

 美鷹と同じくらい、あるいは少し高いくらいの身長だろうか。

 やや腰をかがめたような、たくましい立ち姿。

 黒っぽい服を身にまとっているのか?いや、あれは──

 

(猿!?)

 

 桜は一度、オペラグラスを外して目をこすった。

 そして、再度覗き込む。

 

(猿だ)

 

 猿が、直立している。

 ニホンザルとかではない。チンパンジーに似ているが、大冠毛がある。

 桜の知識には、ない種類の猿なのだろうか。

 

 美鷹は、──猿を認めると。

 しとやかに身をかがめ、礼をとった後。

 あくまで優雅な挙措ながら、両膝をついて頭を垂れ、手を後ろに組んでみせた。

 まるで罪人のように、まったく無防備にその体をさらけ出して。

 

 猿が、美少女に近寄る。

 あらためてオペラグラス越しにみても、ゴリラほどではないが巨大な猿だということが分かる。

 猿は片手で美少女の顎を救い上げて、至近距離で見つめている。

 オペラグラスの向こうの美少女は、長い睫毛にふちどられた切れ長の目を閉じ、されるがままに顔を上げている。息がかかっているはずなのに、嫌悪の色ひとつ見せない。

 猿が、妙に人間臭いしぐさで、美少女の薄く血の色が透ける白い頬を黒っぽい掌で撫で上げ。

 そして、美少女の唇を、毛の生えた指の甲でなぞる。

 

(変だ)

 

 妙に、この大猿は人間じみた挙動をみせる。そして美鷹は、猿になされるがまま。

 美鷹は、この猿を知っているのだろう。そして猿も、この美少女を。

 彼らの間に何があったのか、桜には知る由もない。

 しかしそのすがたは、神話の中の山の猿神とそれに捧げられた生贄のようにも思える。

 

(みーちゃん!)

 

 猿が美少女の肩を横に突き、美少女は逆らわずに枯れ沢の砂礫の上に横ざまに崩れる。

 たくし上げていたスカートの裾が乱れて、白くなめらかな太腿が片方、付け根近くまで露になった。

 猿はのしのしと倒れた美鷹の頭の近くに寄り。

 その汚らわしい足で、この美少女の頭を押さえつけ、何か話して(猿が話をできるのだろうか?)いるようにみえる。

 

 どうしたらいいだろう。

 美鷹と猿との関係は、あまり良いものとも思えない。

 桜からは、しかし相当の距離がある。走って行っても、数分かかるだろう。

 ただ、桜には、猿が美鷹を殺すとは思えなかったし。

 何より美鷹に対する信頼があった。

 いつも、美鷹は桜にとって、絶対の、最強の味方だった。

 きっと、こんな大猿くらい、──。

 

 猿は、何かを美少女に伝えた後で。

 髪をつかんで、彼女の頭を乱暴に揺さぶっている。

 その姿に、桜は猿への敵愾心を高めたが。

 同時に、不思議に魅惑されるものを感じていた。

 あの、寝入る前とかにときどき耽る幻想だ。

 この美少女がめちゃくちゃに、この獣に狼藉されるという、そういう、──

 

 猿が、何かを命じたのだろうか。

 オペラグラスのむこうで、美少女は枯れ滝の滝つぼの、へりのあたりにある大岩に。

 上半身をもたれかけ、しがみつくような姿勢を取る。

 そして、足を少し広げ、腰をそらしてぐっと突き出してみせた。

 夏服の制服の白いブラウスの背中に、髪が乱れる。

 

 猿は、美鷹のその突き上げた腰に惹かれたように近寄り。

 その制服のスカートを、まくり上げた。

 一瞬、まくったスカートはまろやかなお尻の曲線にかからず、ずり落ちたが。

 美鷹は自分からスカートを引き上げ、完全に白い下着が露出するくらいに。

 そう、おへそがおそらく見えるくらいまで、完全にスカートをまくり上げて、さらに片手だけ背中に回して押さえてみせた。

 キュヒキュヒキュヒキュヒ、とどこか喜悦を含んだようにも思える猿の鳴き声が響いた。

 

(みーちゃんは、──あの猿にヤらせるつもりなのかな!?)

 

 猿は続いて、武骨な手で、下着を押し下げようとする。

 これに対しても、美少女は迎合するように。

 けがをしているらしい、包帯を巻いた片手に、スカートを押える手を交代し。

 もう片手で、自ら下着を下していく。

 白い柔らかい布が、足首あたりに落ちる。

 

 立って岩にしがみつき、後ろから貫かれるような姿勢で、腰をつきだしている美少女。

 その美少女のまぶしく白い脚に、そしてきれいに盛り上がるお尻に、桜の視線は釘付けになっている。

 

 猿が動き、──桜ははっとした。

 このままだと、彼女の敬愛するこの従姉が猿に犯されてしまうのではないか。

 

 しかし、猿は。

 美少女のお尻のあたりに視線をあわせてかがみこみ、──そして何かをまた言ったようだ。

 美鷹は軽く振り向き、慎重に足を動かす様子をみせ。

 どうやら片足を、足首に落とした下着(ショーツ)から抜いたのだ、と桜にはわかった。

 

 美少女は、ゆっくりと下着から抜いた方の脚を上げていく。

 おそらくバレエで磨いたのだろう、脚をまっすぐに保ちながら優雅に持ち上げ、しがみついている岩にかけた。

 猿が、ふたたび頭を美鷹の白い脚の付け根付近に寄せる。

 

(猿、じゃま)

 

 猿が、その上げた脚と支える脚の間の接合部。

 谷間があるだろう部分を、覗き込んでいる。

 猿が、その裂け目を指で何かをしているが、桜の場所からは見えない。

 桜は、──こんなときだというのに。

 自分の視線をさえぎる、この気の利かない大猿を呪ったのだった。

 

 ──────

 ──────

(第三者=羽場戸(はばと)魔琳(まりん)視点)

 

 ──やはり、御前様に従ったことは間違いではなかった。

 

 彼は眼下に、彼の主のものである猿が、美少女の下半身をあられもなく剥いていく姿を眺めながら。

 心中で、嘆声を発した。

 彼、羽場戸(はばと)魔琳(まりん)は、最近新たに「御前様」と呼ばれる怪老人にスカウトされた護衛であり。

 今回、補佐を兼ねて同道し、少し離れた地点から猿の仕事を見守っていた。

 

 彼と彼の弟とは、裕福な家庭に生まれ、何一つ不自由なく育った。

 しかし彼らは、高い知能を持つサイコパスであり。

 青い新芽や若葉のような少女を責め苛むことを好む、シリアルキラーであった。

 同じ趣味を持つ弟と、数人の少女を苦労してかどわかし、あるいは言葉巧みに誘い込み。

 別荘でじっくりと愛でながら壊し、数週間をかけて作品を完成させてきた。

 

 作品は、たとえばまるで生きているような見事な出来の剥製だったり。

 被害者の腕や肢を脚に、また胴体や皮を巧みに用いた、別荘のテーブルであったり。

 まるで狩猟家の居間にかざられるような、見事な人間の頭部のハンティング・トロフィーであったり。

 それらの制作過程をつぶさに録画した、ドキュメンタリー映像であったりする。

(ちなみに録画は自分たちで楽しむためだけのものだったが、後で御前様と呼ばれる怪人の伝手を得て、かなりの高額でその映像を売りさばくことができた。)

 

 彼らの異常さに気付いて恐怖し、通報しようとした両親も無事に始末し。

 彼と彼の弟とは、ハンターとしての気ままな生活を送ろうと考えていたが。

 最近、何かと調子が悪かったのは事実。

 

 最後に捕獲に成功した犠牲者は、もう数か月前のことになるし。

 しかもきれいな剥製に仕上げるつもりだったのに、つい楽しみ過ぎてストレスで容色が落ちてしまい、部分的にパーツを使うくらいしかできず、悔いが残っている。

 その次、つい最近狙いをつけた大柄で凛とした黒髪ロングと、ほっそりボーイッシュな茶髪の女子高生。

 これもうまく黒髪ロングに発信機を仕込んだ傘を持たせたものの、感づかれたのかあっさりと壊されてしまったようだったし。

 口直しに容易に捕獲できるロリを狙おうとしたら、目も覚めるような美少女に邪魔をされて逃げられた。

 

 意趣返しを兼ねて、次の標的にしようと考え。

 その美少女の情報を集め、その居宅を突き止め、庭に潜んでいたのだが。

 同じ標的を狙っていた、御前様と呼ばれる怪人の手の者と鉢合わせして。

 見込まれて説得され、スカウトされてしまったのだ。

 

 最初は、自由な生活を捨てることになることに思うところがなかったとはいえない。

 しかし、こそこそと警察や世間の人の目を気にしながら、生活し。

 結局は現実的にガードが緩い獲物に妥協する、いままでの生活に限界を感じていたのも事実。

 

 それに比べて。

 御前様と呼ばれ、山奥にほとんど治外法権の領地を得ている、この怪老人。

 そして、「剣の僧正」「拷儀の司祭」と呼ばれる、謎の僧クルスィファ。

 彼らは、羽場戸兄弟の思いもつかないスケールで理想を実現しようとしていた。

 

 御前様は、その名を知られた大財閥の関係者であり。

 政財界に、強いパイプを得ている。

 さすがに仔細は明かしてくれなかったが、司法機関のかなり高い地位にある者との取引があるらしく。

 この領内にいる限りは、邪魔は入らない。

 研究設備や素材も、ふんだんに提供してくれ、彼らの自由も最大限に尊重してくれる。

 つまり、理想の上司である。

 

 クルスィファと呼ばれる怪僧に至っては、もはや人知を超えた力を得ている。

 材料(犯罪者などが主であり、スカウトしたが結局試験してみて資質の足りない者だったと聞かされ、自分と似た立場だったことを知ったが、サイコパスの彼は全く同情も恐れも抱かなかった)をもとに、奇妙な()()()オブジェや、奇妙なところがあるが尋常でなく強力で従順な召使を製造する。

 彼自身には、謎が多い。羽場戸(兄)は、彼が(日本人ではないことが明らかだったが)どこの出身なのか、どのような生活を送ってきたかを、想像すらできない。

 仮に、この怪僧がこの世界の出身のものではない、と聞かされても納得してしまいそうだ。

 

 しかし。分かっていることがある。

 彼ら二人が、逆らいがたくきわめて強力であり、その庇護のもとにある限りは心強い味方であること。

 そして彼らが、世界を揺るがすような、世界をめちゃめちゃに変えてしまうような、何かを行おうとしていること。

 彼らが、羽場戸兄弟と嗜好を同じくする者たちであり。

 彼らのもとにある限り、美味しい犠牲者たちに不自由しない生活を送れそうであること。

 

 だから、羽場戸兄弟はこうして御前様に仕えることになったのだ。

 

 今回、彼は見習いを兼ねて、御前様の部下(?)であるらしい、大型の猿と行動をともにしていた。

 猿は極めて知能が高い。人間の脳を移植したのではないか、と羽場戸魔琳は考えていた。

 猿は今しも、美少女の下半身を剥き、脚を上げさせ、凶暴な手の指で器用にその裂け目を広げて、処女膜の状態をチェックしている。

 その目に、どうも人間っぽい情欲が浮かぶことがあるように彼は感じるのだ。

 

 ──今回は彼女に前回の不手際を詫びさせ、処女かどうかをチェックし、そして適切な躾により服従心を叩き込む。

 そして今週中、遅くとも来週中には、彼女に自ら出奔させて山荘の塔に収容する。

 最終的には、とある秘儀を実行するために必要なのだ。

 

 そう、御前様の小柄な、しかし絶大な権力を握る秘書から、彼は説明を受けていた。

 その過程では、もちろん羽場戸兄弟にも多大な恩恵がもたらされる。

 実際に、昨夜も彼は男を存分に叩きのめし、囚われの身となっている気の強そうな少女を嬲って味見することができた。

 

 ──この娘も、捕えた後に玩味させてもらえるのだろうか。

 

 実のところ、この美少女とは、彼は少なからぬ因縁がある。

 彼ら兄弟がロリをかどわかそうとしたのを邪魔してきた、勘のいい娘であり。

 彼が御前様のもとで働くことになった、その機縁でもある。

 

 しかし、巧みに彼ら兄弟の毒牙から獲物を救い出して逃げおおせた、この美少女であるが。

 結局は御前様の蜘蛛の巣に、ひっかかり。

 こうして卑猥な姿をさらし、涙目になってその鞭を受けているじゃないか。

 人のものを盗んだら報いを受ける。因果応報と、いうやつだろうな。

 

 そう、ぞくぞくとした愉悦と全能感を感じながら。

 彼は、娘の処女チェックを済ませた猿が。

 こんどはこの美少女に体罰を与え、教育する姿を見つめていた。

 

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