※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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 第三者視点(吉祥寺美鷹)です。
 禁断症状を感じて話の流れを戻して書きましたが、少々満足いきませんでした。なにか要素が足りないですが、また改めて再挑戦します。
 話の順番的にもここだと変なので、改稿して、後で位置も変えるかもしれません。


227 衣装箪笥を抜けるように(6)(吉)?

 ──なんとか、猿には許されたみたいだ。

 

 猿に命じられ、岩にしがみつき。

 腰を突き出す、煽情的かつ屈辱的な姿勢を取らされながらも、彼女はそう思う。

 家族と親友の桜、そして彼(思い出すと、ちくりと胸が痛む)に累が及ぶ心配は、なさそうだ。

 猿の嗜虐的な視線を、背後から感じながら。

 彼女は、ここに至る経過を思い返してみる。

 

 ──────

 

 その日、従妹であり親友である桜にまとわりつき、彼女なりに別れを告げ。

 猿の残したメッセージ(人間が代筆したのだろうか)に従い、また砦山に誘い出された彼女、吉祥寺美鷹は。

 猿の投げる石による誘導に従い、金網フェンスの破れ目をくぐって、砦山の立ち入り禁止区域に分け入り。

 雨の降った時に水が流れる、枯れ谷を苦労してたどり。

 そして、枯れた滝つぼのような場所で、あの猿に遭遇した。

 

 ずっと、どこからか観察されていたのは、分かっていた。

 猿と、その(おそらくは人間の)仲間だろう。

 ちりちりと、首の後ろが軽く逆立つ感覚がしていたから。

 ただ、おそらく追跡をあばきたてても、良いことはない。

 何かのときのために、自分の能力を低く見積もらせるべきだ、と彼女の直感は告げていた。

 

「──猿さま。」

 

 猿からは、恐ろしい血臭が吹きつけてくる。

 何人、殺したのだろう、という匂いだ。

 おそらく、自分もその殺された中の一人になるのだろうな、と彼女は益体もないことを考える。

 

「お召しくださり、ありがとうございます。」

 

 あくまで優雅に、しかし真摯に頭を下げて、そのまま止める。

 姿勢は卑屈なくらいに(へりくだ)る、しかし謝罪の言葉は口にしない。

 あれは自分のやったことではないから。それは、はっきりさせなければならない。

 

「eO-Ma-Eo, Tzü-GhUi-Nha-Eo」

 

 『お前、償え』か。

 猿は、この前のことを自分の(とが)だとみているらしい。

 

「この前のことは、大変残念なことでした。お怪我は、大丈夫だったでしょうか。

 しかしあれは、私のなしたことでは、ありません。」

 

「──」

 

 猿は、何も言わない。

 その視線を感じながら、彼女は続ける。頭を下げたまま。

 

「ただ、あのナイフを投げた者は、私を救おうと考えて投げたのでしょう。

 だから、どうぞ、お心のままに。如何様(いかよう)にでも。」

 

 そして、一歩下がり、頭を垂れたまま。

 両膝立ちの姿勢を取り、手を後ろに回して目を閉じた。

 あの萩原守衛の、有名なブロンズ像にも似た姿勢で。

 

「──っ、」

 

 ざわり、ざわり、と礫を踏んで接近する音に恐怖を覚え、息を飲む。

 アドレナリンの増加、脈拍数の上昇。だが、まだもう一人の彼女は出てこない。

 猿の手を、顎に感じた。少し荒く不穏な、猿の呼吸音。

 顎を持たれ、顔を上げさせられ。

 彼女は目を開き、猿の虚無の瞳孔を覗く。

 

「TzUi-GhUi-Nha-Eo. 」

 

 「償え」、という言葉は同じだが、気勢は緩んだ気もする。

 有罪だが、ただ幾分かの情状酌量を得たか?

 

 まるで人間のように、それも恋人のように。

 猿の武骨な毛の生えた手が、桃のように透く彼女の頬を撫で上げるのを彼女は感じた。

 そして、そろそろと唇を撫でる指。

 

「あっ、」

 

 肩を猿の手に衝かれ、彼女は横に崩れ落ちた。

 しかし猿の手には、彼女に危害を加えようとするような意図は感じられない。

 むしろ、傷つけまいという手心がある。

 そういえば、あの占い師のみせてくれた、予見のなかでも。

 爪を剥がされ、手足を拉がれて生きたまま丹念に先から焼かれて炭にされても。

 最後まで胸から上は傷つけないでいてくれたな、と彼女は思いだす。

 死んだあと、剥製か胸像にでもするためだろうか。

 

 枯れ谷の、滝つぼのような場所だからだろう。

 周囲の地面は、よく粒の揃った、ごく小さい玉砂利のような砂礫で、彼女にダメージはない。

 その砂礫を、ざく、ざく、と踏みしめながら、猿がまた近づく。

 

「Tzü-GhUi-Nha-Eo. 」

  

 スカートの裾が乱れ、彼女の白い脚が片方、なめらかな太腿の半ばまで露になってしまっている。

 しかしそれを直すこともせず、彼女は猿を見上げる。

 彼女の直感が間違っていなければ、──猿は、彼女に性的な欲望を抱いている。

 ──それを、利用しなければならない。

 

 猿は倒れた彼女の頭の近くに、近づく。むせ返る、獣臭。

 猿は、足を上げ、──見上げる美鷹の頭を、踏みつけた。

 

「──猿、さま?」

 

 彼女の頭を踏む、猿の足。

 重さが加わり、砂礫に押し付けられ、頭が沈む。

 奴隷のように踏みにじられることに、屈辱の思いが湧き上がってくるが。

 

 ──ああ、これが「彼」だったらな。

 

 ふと、とてつもなく不謹慎な思いが頭に浮かび。

 美鷹は、心中狼狽と動悸の高鳴りを覚えた。

 

 彼、とは。

 昨日、美鷹自身が突き放した、後輩くん(志野君)だ。

 プライドをざくっと削られ、きっと彼女に怒りを抱いているだろう、彼。

 彼を傷つけたことに、彼女は罪悪感を抱いていた。

 彼の身を救うためとは、いえ。

 そしてまた、客観的にはたいした罵詈を述べたわけではない、とはいえ。

 彼が傷つくような言葉を、意図して、計算して放ったのは事実。

 

 恋に恋する少女でもある、この美少女は、

 「金色夜叉」の貫一とお宮のようなシチュエーションに、どきどきと惹きつけられることが実はあって。

 だからたとえば、昨日の夜。

 ちょうど、飴玉を口中に転がすように。

 眠れぬ彼女が、脳裏に転がした夢想のひとつ。

 

 ──数奇な運命で、彼女は彼にふたたびめぐりあうのだ。

 目の前には、彼女自身を恨む、突き刺すような彼の双眸。

 彼女はしかし、自分の非を正面から認めることなく、説明を拒み。

 かえって彼の憎悪をかきたてるように、謎めく笑みを浮かべてみせて。

 そして、虜囚としてとらわれた彼女は。

 ねちねちと、執拗に、彼の手で残酷な責めを受けるのだ。

 

 どういうことを、されるのかというと。

 もちろん、言葉でさまざまに辱められるのは、もちろんのこと。

 頬を打たれたり、足蹴にされたり。

(ちなみに昨日、後輩君を突き放したとき。

 蹴っても殴ってもいい、と言ったのは、本心だった。)

 あるいは、セーラーナ○トが敵に捕まったときのように、鎖につながれ。

 そして、──

 (その先、淑女の考えることではないさまざまなことが、彼女の脳裏に浮かんでは消えた。)

 

 とにかく。

 贖罪の苦痛。それが与えられる機会を、彼女はどこかで恐れつつ待ち受けていて。

 

 そして、今。

 まさに、その彼女が望む苦痛と恥辱が与えられているわけで、──。

 

「猿さま、──どうか、お許しください」

 

 そう、言いながら。

 心の中では、「猿さま」を、後輩くん(志野)の名前に置き換えてみる。

 ざりざりと猿に頭を踏まれながら、彼女は。

 あの後輩くんに踏まれている状況に、それを変換し。

 脳の芯が、ぐらぐらと揺れるような快感を覚えた。

 

「TzUi-ghUi-Nha-Eo. 」

 

 猿は、彼女になおも折檻を続けるつもりのようだ。

 猿の足は、ちょうど人間の手のように親指が他の指と離れて正対しており、ものをつかめる。

 彼女は、彼女の頭を踏みにじる猿の足指が曲がり、彼女の顎を突き、喉を軽く絞め。

 自分の息が止められるのを感じ、酸素不足の苦痛に身が震えるのを感じた。

 

 ──次は、何だろう?

 もっと恥ずかしく、苦しいことを!

 

 そう、彼女は願う。

 下から猿に流し目をくれる、誰もが魅了される彼女の瞳。

 その目の下の白く透きとおる頬に、わずかに赤みがさしそめる。

 

「eO-Ma-Eo. KhUi-RhUi-ShuI-MhEo」

 

 お前、苦しめ、と猿は言う。

 もちろん彼女は、抵抗しない。それこそは、彼女自身が望む報酬。

 猿の目的は、彼女に苦痛と屈辱を与えて罰すること。

 彼女の目的は、苦痛と屈辱を与えられて贖罪すること。

 何ら、問題ない。

 

 猿は、彼女の頭にを地に擦りつけさせたが、体重をかけることはなく。

 ひとしきり、彼女の頭をその汚らわしい足で嬲った後。

 髪を掴み、引き起こす。

 乱暴に、がくがくとゆさぶる。

 

 掴まれ、引きずられる髪の痛み。

 彼女は半ば陶然と、それを味わった。

 

 ──────

 

 そして、冒頭に時間は戻る。

 猿は、彼女に償いを求め、苦痛を予告し。

 さらに、彼女を甚振るつもりのようだ。

 

「猿さま。

 私の、家族と友人は、──?」

 

 乱暴に引き起こされた彼女は、従順に猿の暴力を受け入れつつも、猿に尋ねる。

 

「Kha-ZheO-KhUi, TheO-MeO, UI-KhuI-RhUi.」

 

 猿は、家族と友の生存を約束してくれた。

 前回と異なり、猿が「死ぬ友がいること」を口にしなかったことに、彼女は気づく。

 つまり、おそらくは?

 

「KheO-KheO-NhIu, ThEo-eO-TziU-KhEo.」

 

 ここに手を突け、と猿は彼女の痛む腕を乱暴に引っ張り、大岩に突き飛ばす。

 彼女は猿の意を組み、やはり従順に。

 そっと、おどおどと怯えた上目遣いをしてみせ、猿を観察しながら。

 岩に両手を突く。

 猿は、いたくご満悦の模様だ。

 キュヒキュヒキュヒ、と嗤う。

 機嫌がいい。今の間に、ダメ押しで確認しよう。

 

「猿さま。

 ──私の友人はすべて、生きられるんですね?男も女も。」

 

「KhUi-DheO-uI.TheO-MeO, MhuI-Nha, UI-KhuI-RhUi.」

 

 友はみな生きる、と猿は言う。

 

 ──彼の命は、救われた!

 

 彼女は、達成感と安堵感とで、胸が温かくなるのを感じた。

 彼女は、未来を変えたのだ。

 

 あとは、彼女自身のことだが。

 おそらく、──彼女の運命は変わるまい。

 かつてあの占い師の力でかいまみた、あの運命のように。

 この猿に、ボロボロになるまで犯され。

 猿の上位者である何者かによる、おぞましい拷問を味わいつくして果てるのだろう。

 それを、彼女も厭わないわけではない。

 彼女も、死ぬのは怖い。まだ生きていたい。

 思い残しは、たくさんある。でも。

 

 ──この命、もし自分の自由にすることができるなら。

 身を焼き焦がすような恋をしてみたい、と願っていた。

 

 そして。

 それ()が欲しい、と彼女が思ったとき。

 すでにその憧憬のなかに、欲しいもの()はあったのだ。

 そう、彼女は自分でも、気づかないうちに。

 ロミオに焦がれるジュリエットのように、すでに身を滅ぼす恋をしていたのだ。

 

 ──後輩くん。君は知らないよね。

 おそらくこれから先、知ることもない。

 でも、私はこれから。

 君のことを想って、生きて、そして死ぬ。

 虫のように、殺される。

 

 ──でも私の一生には、意味があった。

 君の運命を、私は変えた。

 それが、この世界に私が生きたことの意味。

 これから死までの、短い間。

 君のために、この命を、この心を捧げるんだ。

 

 ──ああ、でも。

 だったら遠慮したり、後先考えたりせずに。

 あのときやっぱり、君の唇にキスしておきたかったな。

 

「KheO-ShIu-eO, Dha-ShEo.」

 

「はい。猿さま。これで?」

 

 漫画の「みゆき」だったかな。

 ヒロインが、机につかまって、腰を出す、スカートめくりを待つような姿勢になるページ。

 小学生のときにさっちゃん(中河原 桜)と教室の後ろで読んだときは、すごくえっちで、顔が真っ赤になったっけ。

 あれみたいな感じ、ってことかな。

  

、こう、お尻を軽く出して、岩につかまって──

 

「ゃんっ!」

 

 突き出したお尻を、無遠慮に撫でられ。

 思わず、はしたない声が出てしまう。

 

「MheO-uh-TheO, Dha-ShEo.」

 

 もっと出せ、というのが猿の要求らしい。

 

 ──いいよ、いくらでも。

 これは、猿じゃない。

 これは、実はあの後輩くんなんだ。

 私に復讐心を燃やす後輩君が、私を捕らえて。

 黒服の部下たちの見守る中で、私に命じてるんだ*1

 

 そう、美鷹は自分の脳内で変換する。

 どくっ、どくっ、と胸が高鳴り、口の中が乾くように感じた。

 

 膝を少し曲げて、矯めをつくり。

 腰を大きくそらして、いやらしくお尻を突き出す。

 

 ──天井に向けるくらいのつもりで、って「トパーズ」に書いてあったな。

 

 これもこっそり、足がつかないように、県立図書館で。

 借りずに開架書庫の端の、人の来ない本棚の陰で読んだ本からの知識。

 

 猿の、嗤い声。

 あれは、後輩くんが嘲笑う声だ。

 そう、彼女は思いこもうとする。

 

 ──思えば、彼と初めて会ったときは。

 ごく地味な、内気なのっぽの少年としか思わなかったな。

 

 4月の、オリエンテーション。

 最初の自己紹介でみた、あの朴訥で誠実そうな顔。

 ちょっと揶揄うと、すぐ赤くなってた。かわいい、って思ったっけ。

 5月、映画をみた。あれは「ロビン・フッド」だったかな。ケビ○・コスナーが格好良かった。

 みんなで感想を、語り合ったっけ。

 6月、英語劇の練習。私は2つも主役を兼任した。

 彼も、あのときはまだ大根役者だったけど、真面目に台詞を覚えてきてたな、──

 

 そう思いだして、ふと彼女は違和感を抱く。

 今年のロミオの演技は、それは堂にいったものだった。

 あのちょっとおどおどしながら、なんとかこなしたという1年のころとは、全く違う。

 1年にしては、彼の成長ぶりは大きすぎる。

 もしかすると、──

 

「っ、──?」

 

 猿の手をふたたびその身に感じ、彼女の思考は中断した。

 

 くびれた、反らした細い腰をつかみ。

 まだ成熟途中だけど、それなりに張り出したお尻に、粗野な猿の手は動き。

 

「あっ!」

 

 バシッ、と猿の片手が、彼女のお尻の外側に打ちおろされ。

 彼女は、びくっと身を動かした。

 一拍遅れて、焼けるような痛みが走る。

 しかし。

 

「うっ!」

 

 猿の手は、お尻の外側に数回、打ち下ろされた。

 鞭のように強靭なその手に、彼女のお尻は打ち据えられ。

 脳内でそれを自分の好むシチュエーションに転換した、彼女は。

 切なげに眉を寄せ、額に苦痛の汗を浮かべつつも。

 万人を魅する美貌の口元に、奇妙な微笑を揺らめかせた。

 

 やがて、猿の手は止まり。

 校則どおりの長さの彼女の制服のスカートを、摘まみ上げて。

 上にずり上げていく。

 彼女の白い脚の、猿と観察者たちの目に触れる面積が増していく。

 

 黒い猿の手は、一度腰にスカートをかけようとしたが。

 丸くふくらむ彼女のお尻の曲線は、スカートを捉えそこね。

 一度、スカートは下に落ちた。

 

 彼女は、自分のなすべきことが分かっていた。

 猿より早く、しかし決して早すぎないように。

 猿に代わり、みずから、自分のスカートの裾を持ち。

 計算して、煽情的に、ゆっくりと引き上げていく。

 

 今度は、さっきよりもずっと上まで、めくりあげてみせる。

 突き出したお尻の、最高点を超えて、細いウエストの方まで。

 繊細なレースで縁取られた彼女のお気に入りの下着の、腰の側のラインがさらけだされ。

 かすかに浮く腰骨だけでなく、細身ながらバレエで鍛えた、彼女の背中がみえるまで。

 

 キュヒキュヒキュヒキュヒ、と猿は満足そうに嗤った。

 

 突き出した腰の上、背中にまで自分のスカートをめくり上げた、彼女は。

 髪を揺らし、後ろを見ようとして振り向こうとする。

 しかし。

 

「──くっ、

 お許しください、猿さま。」

 

 猿は、それが気に入らなかったのだろうか?

 彼女の後ろ髪を掴み、背中側にぐいっと無慈悲に引いたので。

 彼女の上半身は、強く反らされ。

 彼女は瞬時、息を詰まらせた。

 

 腰の上まで引き上げられたスカートは、もう落ちはしない。

 そして、猿の手は、彼女の繊細な下着にかかった。

 細身な体幹にくらべ、意外に大きいお尻を覆う、レースの下着。

 その上の縁に猿の指が入り。

 そろそろと、引き下ろす。

 

 途中から、彼女は率先して。

 スカートを念のために抑える手を、猿に前回痛めつけられた側の手に替えて。

 もう一方の手で、自分で下着を引き落としていく。

 白くまぶしい、やわらかいお尻の曲線が、露出していく。

 

 下着は、足首に落ちた。

 猿は、──ちょうど人間のようにしゃがみこみ。

 彼女のお尻の、桃のようにきれいに別れた裂け目に顔を近づける。

 

 彼女は、デリケートな内股に当たる猿の呼気に、少し落ち着かなかったが。

 思い切って、いっそうお尻を突き出してみせる。

 滑らかな背中に、かすかに背筋が浮いた。

 

「Ah-ShuI, Ah-GhEo-YheO」

 

「はい?足を、──」

 

「Ah-ShuI, Ah-GhEo-YheO」

 

 脚をあげよ、ということか。犬が小便をするように?

 猿は、きっと下司な人間の脳を移植されているにちがいない。

 

 しかし。

 彼女の脳は、いともたやすくその命令を、後輩くんの復讐メロドラマの台詞に変換する。

 

 ──ほらよ。上げるんだよ、その脚を。

 

 そう、彼女の脳内では。

 嘲弄のまなざしで、後輩くん(志野)が、彼女に命令していた。

 暗い室内、赤いじゅうたん。

 くらがりでよく見えない壁際のソファには、後輩くん(志野)の部下たちが固唾を飲んで、ボスである後輩くん(志野)による、彼女に対する折檻を見守っている。

 ごくり、と誰かの喉が音を立てた。

 

 彼女は、両手首に重たい手錠をはめられ。

 この部屋の中央、さらし台のような器具にその両手首を固定されている。

 高さは、腰とほぼ同じくらいか、ごくわずか高いくらい。

 彼女はこの後輩くんに拉致され、ここに連れてこられたのだ。

 涙で濡れた目で見上げる彼女を、彼はフフンと言いたげな嗜虐的な目で見おろす。

 その目に、好色な光が走ったのを、彼女は見逃さなかった。

 

「ねえ、その娘、あんたの何なのよ。

 早く剥いて、やっちまいなさいな。」

 

 みごとな起伏をもつ、赤いドレスを着た長身の女がそんなことを言う。

 彼女の頭の中の配役では、あのこの前砦山ででくわした、後輩くんの彼女である二人組の女の子の片割れだ。

 脳内の彼も、その悪女っぽい子にそそのかされてその気になったらしい。

 

 ──上げろよ、脚を。どうせさんざん、開いてきたんだろう?

 

 そんなことはない。

 もちろん、開脚したポーズとか、もっとすごいポーズとか、バレエやダンスでいろいろな姿勢を取るが。

 それはちゃんと衣装を着てるし、だいたい演技なのに。

 まだ男の人には、見せたことなどないのに、──!

 

 しかし彼女は、脳内の彼の命令に従い。

 下着を足首に落とし、そして片足を器用にくぐらせ、その下着の足枷から自由にする。

 自由にした足を、ゆっくりと上げていって見せる。

 前傾した姿勢から、後ろに脚を上げていく。いわゆる「パンシェ」だ。

 

 現実世界では、猿は、──キヒョキヒョ、といつもと違う嗤い方だったが、それを気にいったらしい。

 しかし猿が彼女に行わせたいこととは、違っていたのだろう。

 ぐい、と脚を掴まれ、横に回すよう誘導される。

 体のやわらかい彼女は、もちろんその誘導に従う。

 

 腰の高さくらいの大岩につかまった、彼女は、

 ちょうどハードルを越えるような感じに、あるいはミドルキックを出す前のように。

 片脚の膝を軽く曲げ、引き上げた姿勢をとることを求められた。

 この姿勢の維持はつらいので、彼女はその足を、さらに前に回して、大岩につかまった手の横に掛けた。

 猿的には、それはOKらしい。

 

 しかし、──あらためて、彼女の頬は赤らむ。

 こうすると、もはや下着を落とされた彼女の股間は。

 大きく、露出してしまうのだが、──

 

「!」

 

 猿の片手が、彼女の腿を強い握力でつかむ。手が腿の肉に食い込む。

 猿の息が、彼女の股間のデリケートなあたりに感じられる。

 指が、彼女の脚の付け根、肢と肢の間の、木の葉のような形をしたやわらかい肉たぶ。

 いつもは閉じている、その貝の口。

 岩につかまって足をその岩に掛けている、無理な姿勢をしてすこし緩んでいるその口を。

 猿のもう片手の粗野な指が、押し広げていく。

 

 恥ずかしさに、彼女の顔は桜色に染まる。

 

 ──そこ、自分でもみたことがないのに。自信ないよ。

 子供のころ、さっちゃんと見せ合いっこしたけどさ、でも、──

 

 猿は拡げた裂け目を覗き込んでいる。

 彼女は目をぎゅっとつぶり。頭の茹りそうなこの時間が過ぎ去るのを待った。

 

 猿は、何か望むものをチェックできたらしい。

 満足げに、汚らわしい息を吹き込んで割れ目を閉じる。

 彼女は、足を岩から降ろそうとしたのだが。

 

 「?」

 

 脚を下げることを許さず、猿は。

 片脚を上げておおきく開いた股の、彼女の貝の部分に手をあてる。

 そして、じわあっ、と圧力を加える。

 

 恥骨に妙に甘やかな感覚を覚えて、彼女はとまどった。

 違う、猿なんかの手に快感なんか感じちゃいけない。

 でも、これが後輩くんだったら、──

 

「──っ!」

 

 突然、その部分をすくいあげるように。

 猿は、彼女のその股間のふくらみを手の平で打った。

 ぱしっ、ばしっ、と。

 

「──っ、はうっ、あうっ、」

 

 直に、その敏感な部分を打たれる苦痛。

 それをふたたび、後輩くんからの折檻に変換して味わう、彼女は。

 いつしか、どこか甘い悲鳴が、我知らず口から洩れ。

 それと同時に。重く淫靡な歓びを体の芯に感じ始めていたのだった。

 

*1
(ちなみにこの一幕を観察している、猿の仲間と思われる複数の者の気配を、彼女は感じています。

 もっともうち一人は、彼女が考えているように猿の仲間ではなく、出歯亀をしている彼女の舎妹なのですが。)

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