タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
後で多少改稿するかもしれません。
(紫藤みなり視点、8/1火曜日放課後、誰かの夢の中の世界)
「──それで、ハルカ。
結局のところ、この世界がどんなものなのか、ハルカにもわからないのよね?」
「ごめん、そうなんだ。それが、コワいところなんだよ。」
ハルカちゃんを介して、お母さんと添い寝することで入ることができた、この夢の世界。
さっき襲ってきた、巨大なねずみみたいな生き物を叩きのめした後。
わたしたちは、霧の漂う森の中を歩いてる。
わたしを真ん中に、先頭にさとみん、しんがりをハルカちゃんが固める。
まあ、わたしはこの2人と比べるとたたかう能力なんてないから、真ん中は順当。
先頭はハルカちゃんがいいんじゃないか、という話もあったけど。
ただ、突然攻撃を受けて、耐久力があるのはさとみん。
そしてこの夢の世界で、いっそう身軽で機動力の高いハルカちゃんなら、戦闘が始まっても臨機応変に飛び込んでいける。
だから、今はこの順番にしてる。
(ちなみにハルカちゃんの人外の身軽さのコツは、『自分にそれができると信じ込むこと』だそうだ。
わたしも、むう、と信じ込もうとしてるけど、効果が出てるかどうかよくわからない。
気のせいか、すこし身軽になった気はしてるんだけどね。さとみんはわからないけど。)
「これが、夢の世界とはとてもあたしには、思えない。
どれも、どうみても、
さとみんがそう言いながら、手にした杖で、けもの道の、目の高さあたりに張られたくもの巣を払う。
霧の水滴がついて、きらきらしてる。
わたしもさとみんの後に続きながら、四方に目をこらす。
茶色のトカゲかヤモリみたいな生き物が、わたしたちの気配に気づいて木のうろに引っ込んでいく。
樹齢もわからない、けっこうな大木の樹皮には、みずみずしいコケがついてる。
たしかに、ひとりの人の脳でみている夢にしては、こまかい。
この世界は、この世界で一つの
でも、この、ただよう霧のせいだろうか。
どこかわたしが注意を向けた部分以外のところは、ぼんやりしてて。
そこが、どこかもどかしい夢の中に似ている。
「向こうの現実の世界で目が覚めたら、この、ここにいるあたしたちはいなくなる。──のよね?」
「うーん、多分、そうなんだろうね。
ボクのいない夢の中の世界をボクは知らないから。」
責任を感じてるのかな。
ハルカちゃんは頭をかきながら、きまり悪げに。
──ほんとゴメン。
いきなり動物が襲ってきたりとか、こんな危険な世界だとは、思わなかったよ。
怪我とかしないように、早く帰らなきゃ。
そんなことを言いだす。
──いや、ハルカちゃんの「夢」を使おう、って言ったのはわたしだし、わたしが悪いよ。
それに、こんな世界なのはお母さんの夢だからでしょ。ハルカちゃんのせいじゃないよ。
わたしがそう言って、さとみんも。
──そうよ、大きな目標を達成するなら大きなリスクはあったり前じゃない。
危険?そんなの、もとより覚悟の上。みなりもそうよね?どんなことがあっても、それはあたしたち自身の責任。
そう、はげましたので。
しょぼんとしていたハルカちゃんも、少し持ち直した。
「ハルカちゃん。
一度、目が覚めて現実の世界に戻るとするよね。
その次に、またこの世界に来たら、──この夢の続きに、入れるのかな?」
「うーん。それもわからない。ごめんね。
ただ、みなりんのママンがずっと同じ夢を見続けてたら、そうなのかも。」
ハルカちゃんにとっても、他の人の夢に入り込む経験はそこまで頻繁ではないらしいし。
この世界がどんな世界なのか、まだわかっていないみたいだ。
自信なげに、「ボクって相当、無茶なことをしてたんだね」と言って霧をすかしみてる。
「いろいろ、試す必要があるわね。
みなりの小母様を探すために、探索の拠点をまず決めましょう。」
さとみんのリーダーシップで、方針を決め。
わたしたちは、小道をたどりながら、この世界について検証すべきことをいろいろと挙げてみる。
この世界で怪我をしたり、──考えたくないけど、死んだりしたらどうなるのか。
この世界での時間経過は、現実世界と同じなのか。
この世界でわたしたちが今持っているものは、いったいどうやって持ってこれたのか。
この世界で何も食べないと、おなかが空いてしまうのか。眠らないといけないのか。
そして、わたしのお母さんはどこにいるのか、どうやったら救い出せそうか。
比較的安全そうな、森がすこし開けた広場(大木が倒れたみたいだ)に到着し。
安全確認をしてから、わたしたちはその太さ1メートルくらいもありそうな倒木の一部にこしかけて、メモを取った。
ちなみに、夢かどうかを確かめるために手の甲をつまんでみたら、結構痛かったし、爪の痕も付いた。
──ということは、怪我することもあるってことだよね?
問題は、それが現実世界にフィードバックされるのかどうかだ。
ちなみに、向こうの状態が夢の中に引き継がれていないものもある。
さとみんは現実には生理中だけど、それは引き継がれていないみたいだって言ってた。(でも、付けてたナプキンは引き継がれてる。なんとも中途半端なんだ。)
「ほんと、何もわからなくてごめんね。
ただ、この、夢の中の世界でのけがのことなんだけどさ、──」
ハルカちゃんは、夢の中ではっきりとしたけがはしたことがないらしい。
ただ、悪い人と戦ったとき、相手の蹴りを受けた脚は、現実世界でも打ち身みたいに痛んでた、と言っていた。
「安全第一に進みましょうか。
どのみち今日は、試しのつもりであまり長時間は予定してなかったし、目覚ましもセットしてある。」
「でもまた、こんなにラッキーに夢の中に入れるかな?」
「そっちは大丈夫だと思うよ、たぶん。
おばあちゃんの場合、ボクはかなり高い確率で夢に入れてた。
そして、みなりんのママンとも、ボクは波長が合うんだと思う。」
それなら、今日は偵察で。
そして、次回はもっと準備を整えて臨もう。
そういうことになった。
「あいつにも、手伝ってもらいたいわね。
あたし、いろいろ頼んでしまったんだけど。
男手は、やっぱり必要かも。」
広場での休憩を終えて。
男ぎらいだけど同時に現実的でもあるさとみんは、そう言って。
動物が隠れていないことを確かめて、道を阻むように倒れている倒木の枝を薙ぎ、慎重に越える。
わたしたちも、さとみんのつくってくれた道に続く。
この森の中には、踏み分け道ができてる。
巨木がそびえてて暗いから、下草はあまり生えていない。
だから、この踏み分け道を多少はずれても進むことはできるかもしれない。
でも、迷いやすいし、起伏も激しく体力を消耗してしまいそうだ。
だから、まずはわたしたちはこのけもの道をたどって探索してる。
チチチチチ、と何かの虫の鳴き声が響く。
ホー、ホー、というような鳥の鳴き声。
ぱきり、ぱさり、と枯れ枝を踏み抜く一行の足音。
やっぱり、夢の中とは信じられないくらいに現実的。
わたしには、現実と違うところは見つけられない。ほら、指には指紋だってちゃんとある。
「ねえ、みなり、ハルカ。──あれって、蜘蛛よね?」
さとみんが立ち止まる。
行く手が、明るい。大き目の広場があるんだ。
しかし。
「わー、スゴい。クモさんだよ。
近づかない方が、いいかな。」
「引き返そうか、どうしてもここしか出口がなかったら挑戦しようよ。」
すこしひらけた広場。テニスコート2つ分くらい、3、40メートル四方くらいは、あるかな?
膝下くらいの、エメラルドグリーンのやわらかそうな草が、その広場を覆ってる。
しかしこの広場には、きらきらと露が輝く、レースのような繊細な糸でつくられた巨大な巣。
そしてその巣の中央にひっそりと動かず待ち受ける、巨大な蜘蛛。
巣のところどころには、糸にくるまれてぶら下がってる、何かの屍体。
わたしとあまり変わらないくらいの大きさのいきものも、ひからびてぶらさがってる気配。
これは危険だ、とわたしたちは判断する。
「両脚でさしわたし2メートルは、あったわね。」
「体だけで50センチ以上あったよ。グロい。」
蜘蛛に、限らず。
道のあちこちに、わかりやすく危険なものがいる。
もちろん、びっくり箱みたいにおぞましい生き物が飛び出してきたりもする。
さっきは、1メートル近くあるアリが数匹飛び出してきた。
以外にもろくて、さとみんの回し蹴りとハルカちゃんの杖で2、3匹の頭を飛ばすと、逃げていったけど。
あれが数十匹きたら、さすがのさとみんも対応はできない。
だからそのルートも、いったん封印して別の道を探索してる。
わたしは、ふたりに守られて地図を書いてる。
使ってるボールペンは、たまたまハルカちゃんがポケットに入れてたもの。
紙は、わたしが駅でもらったポケットティッシュの封入広告の裏紙だ。
さっき話に出たけど、この夢の世界のルールは、実のところよくわからない。
どうやってこの持ち物を持ち込めたか、ってのも謎なんだ。
「眠るときに、自分が認識していたもの」は、夢の世界に持ち込めてるんじゃないか、というのがわたしたちの現段階での推測。。
自分たちの姿も、「眠るときに、自分が認識していた姿」だと思う。お互いに目で見て確認した。
でも、服装とかは、微妙に変わってる気配もある。
たとえば、この靴。
私もさとみんも、そしてハルカちゃんも、靴は脱いでベッドに上がった、──はずだ。
でも、わたしたちはこの夢の世界でも靴を履いてる。
きっと、何かの補助ルールがあるんだ。
「自分が身に着けてると認識していたもの」「自分が身に着けてないけど、当然
ほら、こういう世界に入る時なら、靴は履くよね。
そういう感じで、靴を履いてわたしたちは夢の世界に入ったんじゃないかな。
ともかく、認識していたものが持ち込めるとしたら、今度はいろいろ持ち込むよ。
ちなみに、さとみんが巨大ねずみと戦うときに手につけてた、あの金属の金具。
握りこむことができる、メリケンサック。あれは、たまたま持ってきてたみたいだ。
(物騒なもの持ってるんだね、ってハルカちゃんが引いてた。
さとみんは、あら、乙女のたしなみよ、とすまし顔だった。わたしはハルカちゃん側だ。)
今度は金属バットを持ち込むってさとみんが宣言してる。
わたしも、懐中電灯とかロープとかは持ち込みたいかも。
わたしたちは、今では片手に杖を持ってる。
さとみんとハルカちゃんのは、2メートルくらいあるやつ。
わたしのは、もう少し短い。1メートル半くらいの自衛用。
これはもちろん、持ち込んだものじゃなくて。
こっちで拾った、よさげな木の枝なんだけどね。いろいろ有用なんだ。
ほら、たとえば、こうして蜘蛛の巣を払ったり、──
「みなり、ハルカ!芋虫!来るわよ!」
はっと、さとみんの声に顔を上げる。
うわあっ。
みょむみょむとからだをうねらせて。
あざやかな緑色の芋虫さんがやってくる。
高さは膝から腿くらい、長さは3、4メートルはあるだろうか。
ばきばきばき、と枝を折りながら突進してくる。
「うーん、退避!」
相手が攻撃してこない限りは、こちらも攻撃しない。
そして、安全第一。
すさささっと、わたしたちは道を譲るが。
「やっぱり、そうだよねー!」「わかってた!」
芋虫さんは、その巨体からすればちいさな頭をもたげ。
こちらを見て、──追ってきた!
あきらかに、わたしたちを狙ってる。
「しかたないわね!やるわよ!?」
「がってん承知!」
さとみんが、すごい勢いで杖(さとみんの持ってるのはかなり太目で、丸太テイスト)をふるう。
芋虫さんの髑髏のようにもみえる頭にヒットして、皮膚を破る。
緑色の体液が、びしゅうって噴き出て、芋虫の勢いが止まる。
松葉か楠の葉の匂いのような、場違いにさわやかなにおいが漂う。
さらにハルカちゃんが、棒高跳びみたいに杖を使って。
数メートルもとびあがり、そしてその落下の勢いをあわせて、槍を回転させ、ちいさな
頭に痛撃を与える。
その後、さとみんがぼこすこに叩きまくると。
芋虫さんが、地響きを上げ、細い下生えをなぎ倒しながら横倒しになった。
まだびくびくと動いているけど、──気持ちわるいので、あまり近寄りたくないな。
「倒しちゃったわね。──どうしようかしら。まだ、この道を行ってみる?」
「他の道は、どこかを突破しないといけないよ。試してみようよ。」
芋虫さんを遠巻きにしながら、道に戻る。
(興味はあるけど、さすがにちょっと気持ち悪いのでつつきまわすのはやめたよ。)
それにしても。
普通は草食のはずのちいさな生き物たちが、この世界では巨大で、しかも襲い掛かってくる。
ちなみに木々も、わたしたちの世界のものと同じとはかぎらない。
わたしたちの世界でのちいさな灌木や雑草とかが、この世界では巨木になってる可能性もある。
要は、スケールが違う。
もっとも、1メートルもあるアリさんや、今回襲ってきた巨大な芋虫さんもいる一方で。
ちいさな、普通のアリさんや芋虫さんもいるみたいなんだ。そこはよくわからない。
「ねえ、ハルカ。話を戻すけど。
もう、1時間はすぎたわよね。
こっちの時間と、向こうの時間とは、やっぱり流れが違うのかしら。」
「現実の一瞬の刺激で、長い夢をみることもあるみたいだよ。」
フロイトの「夢判断」だったっけ。
長い、魔女裁判みたいなものを受けて
実際には、ギロチンの刃だと思ったものは、ベッドサイドから落ちてきた目覚まし時計だったっていう。
この例の意味するのが、一瞬の刺激が長い夢を作りだせるってことだとすれば。
夢の時間と、現実の時間とは必ずしも一致しないってことじゃないかな。
「そうね、でも、もし一致しているんだったら、そろそろ目が覚めてもおかしくない。
安全そうなところに拠点を決めて、戻る準備をしましょうか。
向こうで目覚めた後、こっちがどうなるかわからないのよね。
続きから始まるんだったら、安全なところにいた方がいい。
あと時間が余れば、あなたのその、ヒュッて空中を飛ぶやつ、練習してみたいんだけど。」
「そうだね。さっきの小さな広場に戻ってみようか、それとも──」
わたしたちは、いろいろと検証しながら、この世界の探索を続けるのだった。
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(志野視点)
ふう。なんとかなったな。
この日、僕は学校をサボることにして。
運転試験場にやってきて技能試験を終え、結果待ちしている。
今回は、前回みたいなへまはしない。
取得時講習に代えて、先週、特定教習を受けた。
あとは、受かればそれでOK。
何、昨日のことはもう大丈夫なのか、って?
そりゃ、僕も人間さ。
ESSの先輩から手ひどく(ってほどでもないんだけどね、後から考えると)突き放されたのは、応えたよ。
でもさ、今ではすこし頭も冷えた。
うん、まあ、先輩って本当はもともとああいう人だったんだ。きっと。
先輩は、それはもう美少女なのは確かだ。
だけどさ、実は表裏のある性格だったんだよね。表面は取り繕ってたけど、はらわたは腐ってたんだ。本当は。
婚約者もいる、って本人自身が言ってたけどさ。もしそれが本当だとすると。
そんな身でありながら、後輩の男に声をかけて、キスする?みたいに思わせぶりなこと言ってたわけだ。
あの完璧な外面とあわせて。まともなメンタルじゃ、ない気がする。
まあ、先輩にはいろいろややこしそうな事情があるのかもしれない。
地方都市(政令市に近い人口規模だよ)でも、へき地と同様、ひどく時代錯誤な階級意識とかがある。
東京とかの都会でも、あるのは知ってる。客観的には、地方より明白に。
でも、それより旧弊に凝り固まった、がんじがらめの血族の因習みたいなのが地方にはあったりするんだ。
それで先輩は望まぬ婚約をさせられてる、ってことかもしれないし。
同情すべき事情も、あるのかもしれない。
──でもそれもひっくるめて、僕は
あ、こうして整理すると、やっぱり僕は怒ってるんだな。
でも、僕って別に神様じゃないし。
ちょっと外見がいいけど、変なしがらみがあるクズメンタルの美少女になんか。
ご縁がなくて、良かったと考えるべきじゃないだろうか。
未練はないのか、って?──ないよ。
僕には、紫藤がいるし。
調布だって、今はいてくれるし。
それにあの国領とだって、その、ちょっぴりなんかしちゃったりしたんだ。──今は、仲が微妙になっちゃったけどさ。はあ。
うん、言いたいことはわかるよ。
まあ確かに先輩の方が、世間一般的には美少女って評価されやすいんだろう。でもね。
調布だって相当だし。僕としては調布の、あのきりっとした気の強そうな怜悧な顔、すごい好み。
それに、紫藤なんだけどさ。
いつのまにか、ハムスター系小学生女子からロリ系小柄美少女に脱皮(?)しつつあるんだ。不覚にも、最近高木たちに指摘されて気づいたよ。
それに紫藤は、その、胸のふくらみとかがさ。制服の白いブラウスを押してるのがわかるようになってる。
それもあって、あの週末以来、なんだか紫藤を直視するのが恥ずかしいんだ。
僕って、こんなかわいい子と、暴発未遂しちゃったんだ!って。
また、あんなチャンスあるかな。はぁ、どうして僕、最後までできなかったんだろう。
だから、先輩に対して未練っていうほどのことはないんだよ。
そりゃ、わだかまりみたいなのは、あるよ。僕って別に根に持つ性格じゃないけど、記憶力はいいんだ。
もし、だよ。
もし先輩が、僕の目の前に土下座して。
助けてください、って言ったら。
──いや、それだけじゃダメだな。
奴隷みたいに、僕の足にすがって。
靴だって舐める、僕の気のすむまでどんな罰でも与えてほしい、って。
そう、僕の足を頭に乗せて、泥にまみれながら懇願してきたら、──。
あー、止め、止め!
もう、考えないようにしよう。
やっぱりアレが勃ってきてしまう。
あ、技能試験の結果発表の電光掲示版に、合格者の番号が出たな。
よしっ、無事合格。まあね。本気出せばこんなものだよ。
内心、落ちたらどうしよう、とびくびくしていた僕は。
勇んで、手続きをすませに行くのだった。
──────
最近いろいろ立て込んでいて、ゆっくり考える時間がなかったけど。
今日の午後は、久しぶりになにもない。
いや、学校行ってもいいんだけどね。でも、ちょっと紫藤たちから離れて、自分を見つめ直したいんだ。
そう考えた僕は、一度街に出て。
調査会社の、元さんを訪れてみた。
元さんの事務所は、小汚い雑居ビルの一室だったのだが。
同一ビルの空室を借りて、スペースを広げていて。
アルバイトも増やし、元警察に勤務していた女性を探偵のパートナーとして雇用し。
業務を拡大しつつ、堅調に業績を伸ばしているみたいだ。
(史実と比べてどうかは、僕にはわからなかったけれどね。)
元さんには、いろいろお世話になってるから、途中で買ったお菓子の包みを渡してみる。元さんも恐縮しながら受け取る。
さっそく、お茶が運ばれてくる。ここらへんも、以前と違う。
ナギさん救出の際に、お礼はそれなりに弾んであるのだが。
その後に分かったことなども、ついでに報告する。
そして、これが本命なんだけど。
2つの、もしかすると関連するかもしれない案件について、相談してみる。
一つは、例の竜神の娘が、奉公人(?)のあっせんを依頼されてるっていう件。
もう一つが、月曜日のお昼に調布から依頼された件だ。
特に後の方。不良大学生の混じったよからぬグループの罠に嵌って売り飛ばされそうな状況の女の子の救出については、これから調布が関与するつもりみたいだが。
下手をすると、あの予知夢みたいな状況になるんじゃないか、と僕は感じている。
警察OBの女性とともに、元さんは。
個室になった相談室(以前は、ただの応接でそのまま話を聞いてた)で、僕のやや人づてであやふやな話を聞いてくれた。
「そういう組織があるという話は、聞いたことがあります。」
元さんは、そう口ごもりながら切り出す。
「あの、前回救出をお手伝いした女性。
実はそちらの筋ではないか、と思ったことがありました。」
ちなみに元さんは、調査の一環でナギさんのお客になったことがあるのだが。
ヤったのかどうなのかは、聞いていない。
ナギさん、今はたっくん・マコトさんと人間ドックに行っているはず。
あの予知夢(?)のなまなましいナギさんへの凌辱の情景を思い出したりして。
なんとなく嫉妬が、沸き起こる。
いや、元さんに対して、というわけじゃない。
(仮に元さんがナギさんをヤってたとしても、それを咎める資格は僕にはない。)
どちらかというと、ナギさんに対してだ。
ナギさんを、独占したい。
ナギさんを、他の奴らより先んじて、ひどく抱きつぶしてやりたい。
そんな、我ながらおぞましい衝動が心にもやもやと生じかけて、困惑する。
「ただ、そのときの筋では、別口のようだと思ったのですが。」
僕の内心など知らない元さんは、律儀に調査メモを僕に渡して読ませてくれる。
いくつかの人身売買に関する調査情報。中には、警察内部から苦労して聞き取ったらしいものもある。
女性に目を向けると、にっこりと微笑まれた。
あまり体格は大きくないが、エネルギッシュな感じの女性だ。
もともとは元さんの後輩で、一度警察官に任官して働いていたが、結婚退職し、その後離婚したという。
元さんがこの女性に向ける目はどこか優しい。そういうことかな、と僕は想像してみる。
女性の方は、気づいているのかどうか。気づかないはずはない、僕みたいな朴念仁ですらわかるんだから。
それはともかく。
「警察でも、あまり触らない筋があります。」
女性が、発言する。
触らないのか、触れないのか。そこは不明だが。
上層部が、握りつぶしてしまうとまでは言えないまでも、あまり介入しない案件があったという。
人身売買には、限らず。
「それって、政治関係ですか?」
「──ご想像に、お任せしますが。
そういえば
暗に、肯定する。口調から苦々しい思いを抱いているのがわかった。
当たり前だが、あまり積極的に介入しない筋にもいくつかの種類があるそうだ。
いわゆる民事関係や家庭内関係とかの、一般的なものもあるし。
それ以外に、外国との国際問題の絡むものもあるようで、──。
「たとえば、『ラピエスタ』は、──」
話に出てきたものの中には、存否がわからない半ば都市伝説のようなものも含まれる。
例に出た「ラピエスタ」というのは、失敗国家の領海や領土を借りて行われる非合法な興行らしい、と聞き。
僕はもちろん食いついたのだが、女性も元さんもあまり情報を持っていなかった。
元さんは、何かわかったら情報提供してくれる、と言っている。
海外での傭兵暮らしの長い
現在は、短期で片付くはずの仕事が長引いてしまっていて、日本に戻れていないらしい。
だからか、連絡がつきにくいのは。
話し込んでいるうちに、あっという間に1時間ほどが過ぎてしまい。
別のお客さんがやってきたのを機に、僕は感謝を告げて腰を上げた。