※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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 最近の数話分、後で整理のため少々順番など整理して改稿しようと思います。
 やはり複数の場面が分かれて話が進むと読みにくいなー、整合性を崩すミスもしやすいしなー、と思い始め。
 しばらくは、ある程度話のラインを選んで(志野と、紫藤たちあたり)集中させて進めようかと思います。

 紫藤みなり視点です。


230 衣装箪笥を抜けるように(9)(紫)

(紫藤みなり視点、火曜日放課後、誰かの夢の中の世界)

 

「ねえ、さとみん。

 ──あれって、煙?」

 

 それを見つけたのは、あのいもむしさんを撃退してからしばらくして。

 あの巨大蜘蛛の広場から先には、進めていない。

 その広場の先にも、道は続いているようなんだけどな。

 道を外れて、木々の間を進んでもいいんだけど、その蜘蛛の広場の向こうあたりから山肌が迫っていて、うまく迂回できないかもしれない。

 

 こっちから行けない、ってことは、向こうからも来れないってことだし。

 わたしたちと同じ地点からお母さんがスタートしたとしても、そっちには行ってない可能性が高い。

(ちなみに目を凝らして、蜘蛛の巣にぶら下がった死体をみつめたけど、人間のような感じのものはなかった、と思う。たぶん。きっと。)

 その逆側に進路を見出したわたしたちは、尾根筋に上がって見渡した時にそれをみつけたのだ。

 

「あー。家?」

 

 この世界は、ずっと霧に覆われている。

 ただの霧ではないんだろう。やっぱり、この世界が夢なのかもしれない、と思うのは、そういうとき。

 わたしたちがちょうど見たい、と思うところを、巧妙に覆い隠すんだ。

 だけどそちらに注意を向けると、心なしかその方向だけ霧が晴れる。

 でも、そのかわり、微妙に視野からはずれたところの霧が濃くなる。

 なんだかあの、夢の中で見ようとして見れないなにか。

 みたらすごい衝撃があるはずなんだけど、忘れてしまってるなにか。

 それを覆い隠してるんじゃないか、ってわたしは思う。

 

 だけど、このときたまたま尾根筋に立った私たちの視界が、一瞬開けた。

 うっそうと山肌を覆い茂る大森林。しかし、その向こうに、わたしたちはかすかに煙が立つ様子、そして甍らしいものをみとがめたんだ。

 

「家があるのかな?

 山火事、って感じじゃなさそうだったね。」

 

 霧越しにわかる、すこし夕暮れっぽい傾いた太陽の光。

 煙る山肌の向こうで、煮炊きの煙だろうか。

 ハルカちゃんの言うとおり、燃え広がってる感じじゃないし、温泉って感じでもない。

 けもの道ばかりで、人の形跡らしい形跡は見つけられていなかったけど。

 この夢の中の世界にも、ほかの人が、あるいは人家が、あるのかもしれない。

 

「距離はここからそれなりにありそうだったよ。

 もしまだ元の世界に帰らないんだったら、宿をお願いしてみる?」

 

 煙の発見でちょっと大胆になっていたわたしは、そう提案してみる。

 

「──ただ、ね。

 人がいても、こちらに友好的とは限らないわよ。」

 

 さとみんは、どちらかというと警戒的だ。

 

「うーん、ここがどんな世界かわからないけど。

 あんな怪物みたいなのがいっぱいいて、退治されてない。

 今のボクたちの世界とは、常識もぜんぜん違う可能性もあるね。」

 

 いきなり、銃撃されたり。

 石を投げられたり矢を射かけられたり?

 それはこわいな、とわたしも思った。

 

「でも、みなりんのママンはどのみち見つけないといけないよね。」

 

「あれがこの世界に住む人で。その人たちと、接触するとして。

 あたしたち3人とも女なのが、プラスなのかマイナスなのか。

 たとえば『脅威じゃない』って思われて警戒が緩むならいいけど。

 『いい餌食だ』って思われる可能性もあるのよね。」

 

「ふふふ、さとみんはゴリラだからね、きっと、だいじょ──ごふっ」

 

 何かいいかけたハルカちゃんの背中を、さとみんが、ばあん、と叩いて。

 ハルカちゃんが、ケホケホと咳きこんでる。

 ただ、わたしにもハルカちゃんが何を言いたいかは、分かった。なんなら同意だよ。

 

 また霧に眺望が閉ざされてしまった尾根にうっそりと佇み、彼方を見やるさとみん。

 白い背景にコントラストを描く、女性らしい優美な体の曲線。

 でも、さとみんのあの広めの背中。

 じつは外人モデルさんみたいに、きれいに筋肉がついてるんだ。

 

 現実世界でも、もちろんさとみんは強いけれど。

 やっぱり夢の中だからなのかな、あの棍棒(杖って感じじゃないよね)を軽々と振り回して、大ねずみやいもむしを叩きのめした様子をみるに。

 現実世界よりも、出力アップしてるのかな?

 

「だいじょうぶ?ハルカちゃん」

 

「ふぐぐ。あー、うん、大丈夫だよ!」

 

 おっほん、とどこかおじさんっぽく息を整えた、ハルカちゃんは。

 まったくさとみんは野蛮なんだから、と口走って、またじろっとさとみんに見られてぺろりと舌を出したものの。

 顔をしゃきっと引き締めて、行く手の霧に目をこらす。

 

「──それで。さっきの煙の方向、目指すかな?」

 

 ハルカちゃんは、そう問いかける。

 

「──目指さないわけには、いかないでしょうね。

 言葉が通じるかすら、わからないけど。」

 

「おばあちゃんの夢の中では、通じたんだけどな。」

 

 ハルカちゃんによると、それは夢によりけりだそうで。

 もっと早く聞いておけばよかった、と思いながらも、わたしはハルカちゃんに、ハルカちゃんの夢の中での経験について聞いてみる。

 

 ハルカちゃんのおばあちゃんの夢では、おばあちゃんをいじめてくる、悪いやつらがいたけれど。

 たぶんおばあちゃんの記憶から再生されたのか、言葉は通じたそうだ。

 

「おばあちゃんの、夢だと。

 悪いやつらにはいろいろいたけど、多かったのは小学校高学年から中学生くらいの悪ガキ。

 あと、なんか意地悪そうな、制服をきた男の人たちも出てたかな。」

 

 おそらくおばあちゃんの子供のころとか、若かったときとかの記憶なんだろうね、とハルカちゃんは言う。

 

 夢には、夢をみてる人、つまり夢主の個人的な体験が反映するってことかな。

 もしこの世界が、お母さんが見ている夢だとすれば。

 ねずみやいもむしが、嫌いだったのかもしれないな。

 日本海側の雪国の生まれだったけど、この霧もお母さんの記憶の中の景色なのかもしれない。

 

「そうね、もしそうだとしたら、場合によっては力になってくれるかもしれないって思ったけど。

 ハルカのお祖母様みたいに、ネガティブな記憶の反映なら望み薄、って感じかもしれないわね。」

 

「敵対的でも友好的でも、不確定要素は除きたいよね。

 どのみち行く必要がある気がするけど、今、行く?

 途中で夢からさめたりしない?」

 

 わたしたちは、しばらく考え込み。

 

 ①安全な拠点を探すのを、優先して続行する。

 

 ②ただしその探索方向を、あの煙のみえる方向にする。

 (あの煙が人間によるものかどうか、そしてその人間が危険かどうか、知るのは必須だ。)

 

 ③もし新たな拠点候補が見つからなかったら、ハルカちゃんの腹時計をめやすに、さっきみつけた、仮の拠点候補のちいさな広場にもどる。

 

 そういうことにした。

 

 ──────

 

 それから、体感時間で1、2時間。

 (やはり夢の中は、時間の進み方が現実とはちがうみたいだ。)

 

 そして夢は、ひとつの現実のように鮮明だけど。

 やっぱり、夢は夢、なのかもしれない。

 

「えいっ。ふう、なんとか渡れそうよ。

 でもこれ、本当に勘違いしてしまいそうよね。」

 

 方針をきめた、わたしたちは。

 煙がみえた方向に進むと、けわしい山肌がいりくんだ地帯に入ってしまった。

 霧の中でもぼんやりわかる太陽のおかげで方向は分かるが、とても歩きにくいところだ。

 そして、目の前の、鋭く深く切れ込む千尋の谷に阻まれてしまい。

 道も途中で消えてて、先に進めなくなってしまっていた。

 

 そこでさとみんが、ちょっと戻ったところにあった、まだ朽ちていない倒木を。

 ずりずりと運んできて、苦労しながらも持ち上げ。

 どすーん、と音を立てながら数メートル先の谷の向こう岸(?)に、橋として渡したところだ。

 

 わたしたちも手伝ったけれども、やっぱりメインはさとみんで。

 すごい力で、大木を運んでくれたんだ。

 

「さすがにあたしも、こんな大木、現実世界じゃ運べないわよ。

 ハルカ、あなたのいう『夢の力』っていうやつかしら。

 あたしも、わかってきたかも。」

 

 さすがに肩を上下させながら、さとみんはどこか喜色を浮かべ。

 そんなことを言い、額の汗を白い大判のハンカチで拭った。

 制服は結構汚れてしまったけど、大丈夫かな。現実世界に汚れは引き継がないよね?

 

「いや、さとみんなら現実世界でも、──やめてやめて」

 

 ハルカちゃんがまたさとみんにどやされそうになっていたので、背後にかばってあげる。

 さとみんも、まあ、じゃれあいだからね。そこまで本当に怒ってるわけじゃない。

 わたしは、そこで心の中にあるわだかまりを口にした。

 

「ハルカちゃんが身軽になって、さとみんも力がつよくなって。

 ──で、わたしはどうなのかな。」

 

 なんとなくきまり悪げに、さとみんとハルカちゃんが顔を見合わせる。

 

「大丈夫だよみなりん、きっと何か変わってるはず。

 危機のときに目覚めるんだ、シャキーン、ってね!」

 

「いいえ、みなりは変わらないで? そのままのみなりが好きよ。」

 

 ハルカちゃんは無責任に励ましてくれて、さとみんはにまっと笑ってそんなことを言う。 

 

 なんだかなー。

 ふたりのいい加減なフォローに、ぶー、とむくれて笑わせて見せながら。

 でもわたしは、まだ夢の中の力を見いだせていないことに、あせりを感じはじめていた。

 

 ──────

 

 一応は、探索メインということだったんだけど。

 谷を渡り、その「家」のようなものが近づいてくると。

 やっぱり、その「家」を避難地候補と考え始める。

 敵か味方かいずれにせよ、早めに確かめないといけないしさ。

 

 さっきの谷を渡って以後、巨大な虫とかの遭遇確率はぐんと下がった。

 相変わらず、霧がたちこめているけれど、道も良くなった気がする。

 こちらは、単なる獣道じゃなくて、誰かが使ってるのかな。

 

「ねえ、さとみん。たぶん、この尾根を越えたあたりに家があるはずなんだ。」

 

「そうね。──ねえ、このまま近づくので、いいのかしら。」

 

「すみませーん、って呼びかける?」

 

 わたしたちは、顔を見合わせた。

 

 もしあぶない人たちだったら。

 わたしたちの接近を知られない方が、いいかもしれない。

 そっと忍びよって様子をみた方がいい。

 もしかすると、人殺しの家で。

 庭先では、殺されてわたを抜かれた人たちの死体がつりさがってるかもしれない。

 

 でももし、ふつうの、いい人たちだったら。

 そして音もなく忍びよって、垣のあたりから様子をうかがってるところを発見されたら。

 絶対に、いい気はしない。

 たとえふつうの人でも、こちらに不信感と敵意をもつよね。

 

「そうね。──でも、どのみち接触するのよね。

 あたしは、知らせるに一票。」

 

「わたしは、もうすこしだけだまって寄ってみて、様子をみたいかな。」

 

「うわー!ボクが決めるの?

 まあ、家が直接目視できるくらいになるまでは、しのびよって。

 場合によっては、だれか一人で様子をうかがって。

 だいじょうぶそうだったら、全員で歌でも歌いながらいく?」

 

 歌、歌はどうかな。

 でも、基本的にはもうすこし様子を見ても大丈夫だろう、ということになった。

 

 ──────

 

 家に近づく。

 なかなか立派な、石垣がぐるりを囲んでいる。

 石をつみあげただけだけど、猪くらいなら防げそうだ。

 古めのものだと思うけど、木々はまだこの石垣に根を張っていない。

 

「みなり、みえる?」

 

 わたしはさとみんに頼まれて、偵察することになり。

 さとみんの力強い肩に肩車してもらい、そうっと石垣のむこうをうかがう。

 広めの庭。むかしは錦鯉が泳いでたであろう池には、今は枯葉がたまってるな。

 その向こうに、りっぱな瓦葺きの、お屋敷がある。

 新築ぴかぴかって感じじゃない。相当の年季が入ってる。

 電線とかは、ぜんぜんない。歴史的な旧家、みたいな感じ。

 家はかなり広い。増築を重ねたのか、斜面沿いに階層を違えながら広がっているみたいだ。

 

 わたしは見たままを、声を潜めてさとみんとハルカちゃんに伝える。

 

「人の気配は、ある?」

 

「うーん。ここからはみえないかな。

 雨戸は閉めてないし、障子戸もあるし、破れてない。

 手入れは、されてるみたいだよ。

 いまはみえないけど、さっきは炊事か何かの煙があったんだよね?

 きっと誰か、いるよ。」

 

「危険な感じ、する?」

 

「庭とか、ちょっと荒れてるかなー。でも荒れきってはいない。

 障子も、破れたところは直した跡がある。

 目にみえて危険な感じはしないけど。」

 

 人の匂い。人が住んでる気配ってのかな。それはある。

 

「OK、いったん降りましょうか。」

 

 さとみんがしゃがみこみ、わたしを地面に戻してくれる。

 

「これは、──普通の人たちがいる、って想定でいきましょうか。」

 

「そうだね。」

 

 そのとき、わたしは。

 近代的な設備、たとえば電線とかテレビアンテナとかが何一つ見えなかったことを思い出し。

 少しだけ不安になりながら、乗り気な2人の背を追ったのだった。

 

 ──────

 

「せーの、「「ごめんください。」」」

 

 わたしたち3人は、開け放たれていた、入り口と思われる部屋に入り。

 声を揃えて、式台の奥におとないの声をかける。

 

 ──誰も、応じない。

 

「もう1回、大きくいくわよ?」

 

「「「ごめんくださいっ」」」

 

 さとみんの、よくとおるアルトの声。

 ハルカちゃんの、メゾソプラノの声。

 そしてわたしの、ちょっとぴよぴよしてるかもしれない、ソプラノの声。

 

 混声合唱のように放たれた声に、応じるものはいなくて、──

 

「はあい、はあい。」

 

 とつぜん、この入り口の部屋のすぐ横の引き戸が開き。

 ちいさな背の曲がったおばあさんが、現れた。

 

「はあいヨ、早かったねエ。──あれエ、3人も、マー。

 しかも、めっぽうべっぴんさんときたもんだ。」

 

「ええっと、それは、──?」

 

 思わずひいちゃったわたしとハルカちゃんを背にかばうようにして、前に出たさとみんも。

 さすがに、文脈が読めていなくて困惑している。

 

「あれ、余計なこと言うたかなア?

 にえやくの、下の村のタカガミの家の子じゃないがゃ?」

 

「違います。下の村ではなくて、その、──」

 

「なあるほど、よそん子ねエ?

 ええよええよ、うまいことやったねエ、タカガミも。

 自分の子、知っとる子なんか差し出すよりゃあ、そりゃあよかろうし。

 これだけせめがいがあろうにえなら、雲姫様も目覚めるかもしれんちゃ。」

 

「その、わたしたちは、ここには偶然来ただけなんです。

 その、別の誰かとお間違えでは、──」

 

「ええちゃええちゃ、気にすることはないがや。

 偶然は、必然。必然は、偶然。

 だからあんた方が来られたのは、なんの間違いもないがや。

 今、水、持ってくるがぁ?」

 

 おばあさんはなにか自己完結して、合点して。

 わたしたちに、足洗用の水を持ってきてくれた。

 

 わたしたちは、目を見交わす。どうする?と。

 おばあさんは、わたしたちを来客として迎えてくれるつもりはあるらしいが。

 正直、誰かと間違えているように思う。

 ただ、おばあさんはわたしたちが何を言っても、聞き入れない。

 中にあがれ、中へあがれと促すばかり。

 

 わたしたちは、軽くうなずき合う。

 ここはいったん、応じよう。

 もっと話の分かる人が出てくるはずだ。その人に、事情を話そう。

 このおばあさんは、どうもこの屋敷の主人ではなく、下女のような存在らしい。

 屋敷の主人に怒られるかもしれないけれど、それはそのときのことでしかたない。

 

 正直、足が汚れてる感じはしないけれど、足も洗った。

 これはきっとこの世界のしきたりなのだろうと考えたからだ。

 たらいの水は、冷え冷えと澄み。浸した足には、鮮烈な感覚。

 

「ねえハルカ、みなり。

 あたし、たまたまポケットにビニール袋入ってる。

 部活で描いた絵を持ち帰る用のやつ。十分、大きい。

 あなたたちの靴、いれとくわよ。」

 

 さとみんのおかげで、この玄関に靴を脱ぎ捨てていくことは免れた。

(正直、わたしはどこかこの状況に危険性を感じていて。

 どこにいても靴を履いて逃げ出せるようにしたかったから、さとみんの申し出はありがたかった。)

 

 ホー、きれいな足ねエ、などと言われながら居心地悪く足を洗い。

 手拭いで脚をぬぐわれた後、私たちは座敷に通された。

 

「その。

 どなたか、お越しになるんですよね?」

 

 あたし、服汚れてますし、などとさとみんが申し向けるが。

 

「お前さまたちが、来られたとでしょ。

 雲姫さまは、奥におられるけぇ。

 そちらの(といって、おばあさんは奥のふすまを手で示した)方に、進んでいくといいがや。」

 

 ──もし着替えが必要なら、浴衣もあるがや。

 体もぬぐいたかったら、後でお湯をだすちゃ。

 

 と、そう言ってくれる。

 親切だと思うし、そう言ってくれるのは、ありがたいんだけどさ。

 

「あの、わたしたちは、雲姫さまという方には会ったことがありません。

 それどころか、まったく知らないんです、その、ここがどこだかもわからなくて──」

 

 わたしも、口をはさんで自分の状況を説明しようとするけれど。

 

「それで、いいがや。いいがや。

 外からこられたなら、わかるわけないが?

 ここまで歩いて、疲れましたじゃろ。

 奥の部屋で、休んだらええがや。

 ふとんはあるのをお使い?お湯も、後で持ってくるちゃ。」

 

 なんだか、話が通じてない。

 おばあさんは湯のみで白湯を出してくれた後、引っ込んでいき。

 私たちは、呆然とした状態でお座敷に取り残された。

 

 ひさしの深い、日本家屋だ。

 まだ昼間なのに、部屋のなかはほのぐらい。

 黒光りする、立派な梁が渡っているのがみえる。

 

「なんだかボク、不吉な気がするよ。怪談ばなしの中にいるみたいな。」

 

「うん。わたしも。

 誰か、他の人がくるはずじゃなかったのかな。

 それと、間違われてるんだと思う。

 ──ねえ、さとみん。戻る?」

 

「そうね、あのおばあさんくらいなら、止められても突破できる。

 だけれど、──」

 

 そのとき。

 遠くで、ゴロゴロゴロ、と音がした。

 軒が深いからだけじゃないんだ、急に空が曇ってきてたんだ。

 さああっ、ぼつ、ぼつ、と。

 外で大粒の雨が、降り始めた音がする。風も強い。

 わたしたちは、再び顔を見合わせる。

 これは、ない。

 

「うーん、しばらく雨宿りさせてもらおうか?」

 

「そうね。今出て行っても、良いことなさそうね。

 その、さっきの人。布団のこととか、言ってたわよね。

 事情をもう1回、ちゃんと話して、それでも部屋を貸してもらえるか確かめましょうか。」

 

「たぶん、同じことになりそうだけどね。でも、そうしようか。

 さっきのおばあさん、あの玄関横の部屋かな?」

 

 わたしたちは、ふたたび座敷を出て、あの入り口の部屋に向かうけれど。

 そこで、異常に気がついた。

 

「おかしい。さっきは、ここが玄関だったのに。」

 

「いつのまにか、方向感覚が狂った?」

 

 なぜか、廊下を戻って玄関だったはずの扉をひらくと。

 お香の香りが漂い、奥の厨子に黒光りする馬の頭の神像がまつられた、広い仏間みたいな部屋になっていた。

 人の姿は、ない。

 

「おかしいわね。──隣を、たしかめましょう。」

 

「ええっ!?」

 

 戻って、廊下に面した別の戸を開く。違う。

 さらに別の戸も。違う。 

 

 さとみんが、小走りに廊下の他の部屋のふすまを片っ端から開けて。

 そして首を振りながら、廊下で茫然と待つわたしたちのところに帰ってきて。

 

「みなり、ハルカ。──どこにも、玄関がみつからない。

 あたしたち、迷子になったのかも。」

 

 眉をひそめて、そう言ったのだった。

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