※この作品はR-18です。

タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。   作:Marchhatter

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紫藤みなり視点です。


231 衣装箪笥を抜けるように(10)(紫)

(紫藤みなり視点、火曜日放課後、誰かの夢の中の世界)

 

「すごくリアルに思えても、これは夢、ってことだね?

 さとみんの言いたいことは。」

 

「そうね。そうとしか説明しようがないんじゃないかしら。

 この家、あたしたちが入ったときから、あきらかに構造が変わってる。」

 

 わたしたちがこの家に入ってきたときの入り口が、みつからない。

 入り口があったはずの場所は、最初からそうだったというように、馬の頭の神さまを祀る礼拝室のようなものに変わっていた。

 あの、取次役みたいなおばあさんもみつからない。

 

 わたしたちは、消えてしまった入り口の謎をつきとめることをあきらめ。

 いったん自室(?)に引き返して。

 これまでに起こったこと、これからどうするのか、を考えていた。

 

「入ったときから、数時間以上は過ぎてる。

 向こうの現実世界でも同じだけ過ぎていたら、ちょっとした騒ぎになってるはずよね。」

 

「あー、引き返す?でも、どうやって引き返すのかな?

 こっちの世界で、眠ればいい?」

 

「試してみる?

 向こうの世界での眠りが、こちらでの覚醒。

 だとしたら、こっちでの眠りが、現実世界での覚醒でもおかしくない。」

 

「3人一緒に?それとも、1人が?」

 

 正直なところ、この家が安全なのかどうか、よくわからないんだ。

 その不安は、さとみんもハルカちゃんも抱いていたようだった。

 

「たしかに、3人無防備にここに寝る、ってのは、リスクがあるのよね。

 でも、バラバラになるのは避けたい。

 1人だけこっちの世界で寝て、向こうの世界で起きて、ってやってもいいけど。

 またすぐ寝て、すぐこっちの世界のこの場所にこれる、って保証もない。」

 

「あー、さとみん、みなりん。

 毒くらわば、皿まで、っていうしさ。

 一度引き返すのには賛成だけど、もうすこしだけ、調査しようよ。

 この部屋とその周辺が安全かどうか、だけでも確認できるように、さ。──そうだね、あと1時間。

 ボクが遅くなることはよくあるから、ボクは大丈夫。

 みなりん、さとみんは?」

 

「あたしも、親は遅いわね。今日は早いかもしれないけど、大丈夫よ。」

 

「わたしも、今は一人ぐらし。家には誰もいないよ。」

 

 そして、わたしたちはこの部屋を中心に、もう少しだけあたりを調査することにした。

 

 ──────

 

 霧のうずまく山の中の、旧家。

 かつては磨き抜かれていただろう、今でも黒光りがする木肌の廊下。あるくと、かすかにぎし、ときしむ。

 軒が深いのもあって、昼間(だよね?)だろうけど、家の中はうすぐらい。ところどころにある窓からみる外の景色も、どこかくすんでみえる。

 

 近代的な物品も、あることに気付いた。ただあきらかに「時代遅れ」って感じ。

 たとえば、電気のコンセント。

 一部屋に一つは、あるみたいだ。

 廊下のとくに暗いところや、トイレ(というか「厠」かな)には、古い蛍光灯。

 もう寿命切れをうかがわせるような、不安定な光。

 

 ガラス戸も、ある。

 ただ窓や扉は、いずれもアルミサッシじゃなくて、木の窓枠の引き戸。

 窓ガラスは、どこか厚みが不均一で、外の景色が歪んでみえる。

 

 さとみんは、「田舎のすっごく古い家って感じね。あたしの母の実家みたいな。」と言ってた。

 つまり、これは。

 お母さんの幼少時代の記憶から、再構成されたものなのかな。

 お母さんは日本海側の、美人が多いと思われてる県で生まれ育ったと聞いた。

 ただ、おじいちゃんやおばあちゃんの話は、あまり聞いたことがない。

 あまり「いい思い出」が、ないということかもしれない。

 つまり、そういう「いい思い出」がないお母さんの夢の中には、きっと、その良くない思い出が、──

 

「あんれー、きっときとの(活きのいい)たーた(女の子)やねぇ」

 

「うわっ!」「わー!」「──誰、あなた?」

 

 廊下をあるいてたわたしたちの横の引き戸が、とつぜん、がらがらっと開いて。

 ひょろっとした人影が、出てきてそんなことを言ったので、わたしたちは驚愕した。

 さとみんがかばうようにわたしたちの前に出て、そのちょっと浮浪者じみた男の人に対峙してくれてる。

 

「なあん、やこくて(やわらかくて)、うまそねー。」

 

「あなたは、誰?」

 

「どうせくもひめさまのところに、いくがゃ?」

 

「クモヒメさま、って、誰?」

 

 わたしは、思わずさとみんの後ろから顔を出してそう聞いてみてしまった。

 わたしの顔を、認めて。

 にまぁ、とそのおじさん(おじいさん?)のシワの深い顔が笑みくずれた。

 濃ゆく固まり切った目元の目やにがはらはら、と落ちるが。

 白目部分が黄色くなった眼球は、わたしにひたとすえられている。

 どこか邪悪なものを感じて、わたしは背中を寒気が走るのを感じた。

 もう!というように、さとみんがわたしを背中に回した手で自分の後ろに押し込み。

 ハルカちゃんも、わたしを彼の視線から隠そうとしているようだ。

 

「クモヒメさまは、クモヒメさまよぉ?

 ながい、ながい、ながい、ながい腕を持っとられて。

 みんなに、みんなに、───の肉をくれっちゃ。

 そういえば。

 そこのおたぼちゃん(お嬢さん)、この前来られたにえさまと、よう似とられるわぁ。

 はやく、クモヒメさまのところ、いかれい。

 きっと、あんたもお気にいりになるちゃ。」

 

「ねえ、貴方。

 その、クモヒメさまっていうのは、──」

 

 そのとき。

 めき、めきっと、木造の家のどこかから軋みが移ってくる気配がした。

 この家は、単純な構造ではない。

(外からみて、想像できないくらい広い。やっぱりここらへんは現実というより夢の中だからか。)

 2階建て、あるいは3階建てになっているんだろうけど。

 そのどこかで、誰か、あるいは何かが動いてる。

 ただの人の歩く、きし、きしっという音とは、違う。

 廊下の底が抜けるのでは、というすごみのあるきしみ音なんだ。

 

「ひぃっ、クモヒメさまじゃあ、クモヒメさまじゃあ!」

 

 おじさんは、急に恐慌状態となり、悲鳴を上げて。

 自分が出てきた部屋に、入ってぴしゃんと扉を閉める。

 がちゃがちゃと音がする。扉につっかえ棒をしているようだ。

 どうやら、このおじいさんだけでなく、あたりにすこしは住人がいたみたいで。

 遠くや近くで、扉がぱしりと締まり。

 戸締りをする音がする。

 

 わたしたちは、顔を見合わせた。

 

「ねえ、さとみん。ボクたちも、部屋に戻って隠れたほうが良くない?」

 

「わたしも、そう思う。なにか、良くないことが起きるんだよ。」

 

「そうね。じゃあ、戻るわよ。急いで!」

 

 私たちは、暗い迷路のように折れ曲がる廊下を走り。

(誰にもとがめられることはなかった。それどころか、どこかでわたしたちと同じように走る音が聞こえた。)

 自分たちの部屋(?)に戻ろうとしたのだが。

 

「?」

 

 わたしたちが、最初にいた部屋。

 その部屋の扉が、開かない。

 

「──、ハハハハハハ!」

 

 部屋の中から、何かすこし狂気を覚えるような笑い声。

 誰かに入られてしまって、そして締め出されたんだ!

 

「破る?あたしなら、たぶん蹴り破れるわよ。」

 

「でも。破ったら、たぶん戸締りができなくなって、──」

 

 あの、誰かが入ってきてしまう。

 どうしよう。

 

 遠くで、何かが壊れる音。そして、耳ざわりな誰かの悲鳴。

 だけど、悲鳴は途中で不自然にぶつっと切れた。

 きしみ音が、少しの間止まってる。

 

「さとみん、隣の部屋は?」

 

「あー、締まってるわね。誰かいるのかしら。」

 

 きしみ音が再開して。

 そして、──まだ近くではないけれど、だんだん近づいている。

 

「さとみん、降りてきてるよ、降りてきてるよ!」

 

 ぎし、ぎしっという音。

 階段を降りてきているのでは、ないだろうか。

 階段って、どこにあったっけ。

 ハルカちゃんは、焦りながら手近な扉を試してる。

 わたしも、暗い廊下の逆側の扉を試すが、開かない。

 さとみんは、自分の部屋を開けようとしているが、諦めて首を振り、自分も他の部屋を探そうとしてわたしのほうに来たが、──。

 

「あ、──さとみん、これは?」

 

 わたしは、たまたま一つの扉を開くことができたけど。

 あきらかに、他の扉より小さい。

 引き戸でなく、開き戸。わたしの脇あたりから下くらいの大きさ。

 中を覗き込むと、──おそらくこれは、押し入れの一種、ふとんとかの収納スペースかな。

 少し黄ばんだ、ふとんとかまくらとかが押し込んである。

 古びた匂いがするけど、洗濯してあるのかな、せっけんみたいな匂いがかすかにする。

 

「みなりんっ!もう、すぐそこまで来た!」

 

 ぎしり、ぎしりっという音。2つ先の角くらいだろうか。

 誰かが、自分の部屋で恐怖に耐えきれず(?)悲鳴を上げると、きしみ音が止まる。

 

「入りましょう!」

 

 わたし、さとみん、そしてハルカちゃんの順番で、この押し入れみたいな収納庫に入った。

 ふとんがすでに入ってるから、あまりスペースはない。

 3人で入ると、ぎちぎちだ。

 天井側の梁(?)にあたる、横木まで、すぐ10センチくらい。

 古い、すこしかび臭い、しめったふとんの臭い。

 大きなさとみんに抱きすくめられ、その大きな胸に押しつぶされるように(もげろ)、わたしは3人の真ん中に入れてもらい。

 ハルカちゃんが、さとみんの逆側。わたしの背中にすがる感じ。

 扉を閉めて、どきどきしながら待ち受ける。

 

 ぎしり、ぎしり。

 

 きしみ音が、やってくる。

 廊下の角を超え。

 すぐそこまでやってきて、──。

 

 ばり、べきっ。

 

 すぐ近くで、破壊音。

 この、位置取りは。──たぶん、わたしたちが最初に案内された部屋じゃないかな?

 わたしたちが、あの部屋に戻っていたら、もしかすると──。

 女の人(わたしたちを締め出した人だと思う)の、叫び声。

 だけど、悲鳴はすぐ止み。

 なにか、耳が痛くなるような沈黙のあと。

 

 ぎし、ぎし。

 

 きしみ音が、再開する。

 何かをずるずると引きずる音が、加わってる。

 かすかにぷるぷる震える音。あ、これ、ハルカちゃんだな。

 さとみんが動く気配。片手を伸ばして、ハルカちゃんの背中をぽんぽん叩いてるのかな。

(扉のすき間からうすぼんやり光が入るけど、まっくらで何も見えないんだ。)

 

 ぎし、ぎし、ずる、ずる。

 

 きしみ音は、私たちのこの押し入れの前を通過していった。

 ハルカちゃんの震えが、小さくなってくる。

 さとみんが、改めてわたしをぎゅっと抱きしめた。

 

 ふうっ。

 

 わたしは、眠気を感じ始めていた。

 一日、良く歩いた(夢の中だけど)。

 おおきなネズミさんや、いもむしさんと戦った。

 へんなおじいさんにわけのわからないことを言われて、困惑した。

 そんなこんなで、すくなからず、体も心もつかれてたんだろう。

 そしてそれは、ハルカちゃんとさとみんも同じだったようで。

 いつのまにか、ハルカちゃんの震えはとまり、さとみんの気を張って間隔が短くなってた呼吸が、ふかぶかした大きなものにかわってる。

 

 このよくわからない屋敷の、まっくらな押し入れのなかで。

 すこししめってかびくさくて冷たいけれど、やわらかいふとんにつつまれて。

 閉じたまぶたが、あたたかいなーと感じながら。

 わたしは、いつしか、自分の体もまた、ふとんのわたのように感じながら。

 ふしぎにおだやかな眠りに、落ちていってしまったのだった。 

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