タイムリープで同級生の残酷な運命を変えようと頑張る話。 作:Marchhatter
(吉祥寺 美鷹視点、8/3木曜日、山荘)
「おい、何みてんだよコラ。」
「ごめんなさい、見てはいけなかったでしょうか。」
美鷹を護送してきた、美青年たちが去ると。
美鷹と、先に牢に容れられていた少女とは、二人きりになる。
三白眼気味ににらんでくる、同室の彼女の視線を無視しかねて、美鷹は友好的に微笑み返したのだが。
それが相手には、お気に召さなかったらしい。
ヤンキーじみた言いがかりを、つけてきた。
どうも相手には、美鷹と仲良くなる気はないらしい。
「ああ?だれが見ちゃいけないって言ったよ?」
「いえ、何見てるんだって、言われたものですから。」
「バカにしてんのか、お前。ああ?
──ニヤニヤすんなっ!」
小卓の上のステンレスの水差しや、鉄格子の向こうの廊下の窓ガラスがびりびり震えるくらいの大声で、怒鳴りつけてきた。
眉を寄せて美鷹を睨みつけている、一見、怜悧そうな容貌の彼女。
どこか拗ねてるような、文句ありげなまなざし。
あまり口達者では、ない。さっきから難癖つけられてるけど、あんまり意味はわからない。
性格を誤解(理解?)されて、孤立しやすいタイプだ。
さっきの難詰(『ニヤニヤするな』)とかは、この彼女自身がよく言われてた言葉なのではないだろうか。
親が理不尽に厳しいとか体罰好きだとか、そんな事情がありそう。
そう思いながら、美鷹は。
この、美鷹を射抜かんばかりの目でにらみつけてきてる少女を観察する。
さほど恵まれた体格では、ない。平均身長程度の美鷹自身とほぼ同じ、あるいは少し小さいかも?
髪はウルフヘア。囚人暮らしでそれが伸びかけてる感じ。
顔は、クール系。胸は、──美鷹に比べると、やや小さめ。
運動が得意そうな、引き締まった手足。
ただ、もっと注目すべきは、この子の精神的なありかた、かもしれない。
妄執にも近い、ぎらぎらするような何かの熱量の高い感情(渇望?嫉妬?憎悪?)を、美鷹は相手の娘の切れ長な目に読み取った。
「何、ガンくれてんだよ。」
彼女的に、単に格付けをしようとしてるだけなのか。
いや、青筋まで立ててるのは、よほど彼女の気に障ることを美鷹が言ってしまったか。
「おい、なんとか言えよ、クソムシが。
どうせ男に媚売って腰振ってる、インバイのくせによ。」
「気に障ったようでしたら、お詫びします。
差し支えなければ、あなたを不快にしてしまった、私のいたらないところを教えてください。」
「知るかよ。インバイ。
ほらよ、この足でも舐めてみろや。そしたら教えてやる気になるかもな。」
──どうせ男のくっさいアレ、舐めてんだろ。
ならこれも、イケるよな。
はだしの足を、わざとらしく便器のフチにかけてから、こちらに突き出す。
「残念ですが、そこまでして知りたいとは思いません。」
あと私は、性風俗関係のお仕事の方に偏見はないつもりですが、私自身は違います。
丁重に、言い返す。
「クソインバイが!
いっちょ前の、口利くんじゃねえ!」
罵言は、ワンパターン。ボキャ貧?
凛とした見た目を裏切る、透けてみえる育ちの悪さ。
煽られてる美鷹だが、なぜか、この少女に。
反感や憤りのような、強い感情は抱けなかった。
小学生、中学生のころの、軽くネグレクト気味の家庭の同級生に、似てる気がしたのだ。
よくわからないポイントで突然、怒りだす彼ら。
伸びて、黒くなった爪。
洗われてなくて、黄ばんだ体操服。
買ってもらえなくて、高学年まで使ってる幼児向けのキャラプリントつき下着。
栄養バランスが悪く貧弱な体、頬ばかり膨らんだ顔、細い無感情な目。
そういったやりきれないものを、思い出すのだ。
彼女はそうした、コミュ力重視の女の子社会ではつまはじきになりがちな子たちとも。
一応の友好関係(あるいは、非敵対的関係)を、構築してきた。
(ただ外見が良くてニコニコしてるだけじゃ、美鷹の現在の地位は築けない。)
世界が違いすぎるのもあって、親しい仲とまではいかなかったけれど。
つい、彼らを思い出して、目の前の少女を見返す目に。
憐れみの情が、乗ってしまったかもしれない。
「なんだその目は!
ふざけんな!」
激昂して叫ぶ彼女は、じゃらっ、と音を立ててこちらに飛び掛かりそうな様子をみせた。
いざとなると防御できるように、膝を立ててすわり直したとき。
かつ、かつ、と、廊下から階段を上る足音が聞こえてきた。
どうやら、ご挨拶か、お食事の時間らしい。
──────
左足首の鎖ははずしてもらったが。
目隠しをされ、両手首を革手錠で鎖されて、彼女は身長190を超える巨漢の男に護送される。
巨漢は何を考えているかよくわからないが、表面上は丁重に扱ってくれる。
ただ、隠しようもなく、腐りかけた肉のような匂いがこの巨漢からも発している。
「──クソがっ」
彼女のうしろに、続く足音や声。
そう、あの「ミズキ」と呼ばれていた少女も、彼女とともに護送されている。
ミズキを護送しているのは、あの下品なチカチロウさんだ。
なにかをしきりに、ミズキに吹き込んでいたが。
ついにミズキが、カチンと来たのか、罵り声をあげた。
「あ?何だ?
クソが、どうしたって?」
ほー。
これからお嬢ちゃんたちはお茶会だって、オイラは聞いたけどよ。
そりゃあ、シェフに伝えてあげねえと、なー。
そういうチカチロウさんの声が、聞こえる。
そうか、お茶会か。
あの猿との、お茶会なのだろうか。
あるいはあの猿の、飼い主との。
いずれにせよ、楽しい会にはなりそうもない。
彼女は、気づかれないように、そっとため息をついた。
──────
──────
(第三者(篠崎瑞)視点、8/3木曜日、山荘)
篠崎 瑞は、外見の美醜にはあまりこだわる質ではない。
格闘家である父親が、外見などより喧嘩の強さが重要だとよく言っていたこと。
(ただし、そういう本人はむくつけき外見であり。
他方でその別れた妻(瑞の母)は、写真を見るかぎり瑞に似たきりっとした感じの美人であり。
父の言葉と行動との一貫性に、瑞はいつからか疑問を覚えるようになっていた。)
そして少なくとも小学校のころは、コミュ力と外見の美麗さがもてはやされる女子の社会より、あまり外見を気にしない実力主義の男子の社会が、瑞には居心地良かったこと。
(昼休みは、女子仲間がいないので男子のドッジボールに混ぜてもらい、なかなかの活躍をしていた。)
女子の中でも、いかにも女の子らしい、見栄えのいい女子と仲が悪かったこと。
そういった理由による。
ただ中学2年生あたりから、仲間だと思ってた男子たちも、露骨に外見重視になりはじめ。
外見の良い子とそうでない子とで、態度が露骨に違ってきた。
そして瑞としては少々気持ち悪いことだが。
どうやら、瑞の外見は、男子にはまあまあ好ましいものらしく。
男子グループの仲間にも、うっとうしく彼女にコナをかけてくる奴が増え、居心地が悪くなってしまった。
おかげで瑞はもともと女子社会からは疎遠で村八分状態だったところに、男子社会からも距離を置かざるを得なくなり。
幼なじみの島原モモカを除き、親しい友人がいなくなり、クラスで孤立してしまったのだった。
さて。
瑞は、自分の前を歩いているだろう、美少女のことを考える。
上に述べたとおり、瑞は、外見の美醜に拘泥しない、──それどころか。
外見のいいやつは性格が悪い、とすら考えている。
その瑞の理論から、演繹すると。
この、瑞がみてきたなかでも、最も美しい容姿と思える超絶美少女は。
きっと、最も超絶にクソろくでもない性格に違いない。
事実、彼女の挙措動作のことごとくが、瑞の気に障る。
このサディスト野郎たちに捕らえられ、牢獄に監禁されているにもかかわらず。
泰然として、落ち着きはらった様子。
思い切りガンをくれてやっているのに、恐れげもなく見返す、長い睫毛にふちどられたアーモンドの瞳。
面と向かって口ぎたなく罵ってやっているのに、全く子供の戯言のように受け流し。
まるで優雅なサロンにいるかのような、丁寧な受け答えから透ける、育ちのよさと芯の強さ。
それらすべてが、表面上は強がっていても。
囚われて拷問と凌辱の恐怖に怯える自分をあざ笑うもののように、瑞には感じられた。
「なあ、お前、どんな気分よ?
あれと比べたら、お前ブサすぎ。話にならん。」
そう、瑞を護送してるチカチロウが煽ってくる。
もうお前、用済みで、ほかされちまうかもなー?。
御前様に頼んで、お前のこと、殺されんよう「下取り」してやってもいいぜ?
手足切り取って、ダルマってのを作ってみたかったんだよな。
女は体重が軽い方がいいんだろ?手足を落とせば、体重も半分にできるぜ。
運動不足にならないように、運動ももしないとな。サッカーとかな。
もちろん、サッカーボールにしてやるぜ。
クルスィファさんに頼めば、もっと面白いものにもしてくれるかもな?
さすがにクルさんでも、「首だけ」には、できないらしいけどよ。
そう、チカチロウが顔を近づけてささやいてくる。
「──クソがっ!」
思わず声を、漏らしてしまい。
チカチロウが、馬鹿笑いをする。
しまった、このクソ男の思うつぼだ。
ぎりっ、と、瑞は歯をくいしばる。
チカチロウは、わざと瑞のコンプレックスを刺激し、あの美少女との亀裂を深めるような煽り言葉をのべている。
その狙いが、勉強は不得意だが馬鹿でない瑞には、うすうす分かっている。
御前様は、この顔だけいい新入り女を気に入っているのだろう。
(もちろん、気に入られるということはより丹念な責めを味あわされることを意味するのだが。)
だからサド男のチカチロウは、直接自分であの新入り女を嬲ることができない。
万が一、自分が彼女を嬲っていて傷をつけてしまえば、御前様の怒りを買うからだ。
だから瑞を煽り、瑞の手で新入り女を苛めるように仕向けて。
その新入り女の苦しむ様子を、楽しみ。
もし瑞がへまをして新入り女を傷つけ、御前様の怒りを買ったら、瑞の処刑役を買って出て楽しむ。
そういう考えなのだろう。
だが、それがうすうす分かっていてはいても。
瑞の、この新入り女への敵意は。
もともとの素地に重ねて、チカチロウの悪意の言葉にも結合して。
すこしずつ、沼底の泥のように瑞の心に沈澱し。
地層を成して堆積し、固く凝固しつつあった。
──────
天井で木製のシーリングファンが回る、陽光が高い窓から差し込む部屋。
少女たちと、ホスト役の貴人(御前様では、なさそうだ)の間には、特殊な織の
少女たちからは、ぼんやりと貴人のシルエットが見えるだけ。
しかし貴人からは、はっきりと少女たちの様子がみえているらしい。
──こころばかりのもてなしだが、いかがかね?
奇妙に金属的な声。何かの伝声管を使っているのだろうか。
傍らには、侍女の装いをした
「はい、お招きくださりありがとうございます。大変美味しくいただいております。
ただ私は、どんなに美味しいお茶よりも。
家でいただく、特売の水出し麦茶の方が好みです。」
問いかけられた美少女の、丁重でありつつ、ユーモアに包んだ単刀直入な言葉に。
シュウシュウシュウ、と貴人が奇妙な息を漏らして笑い。
金属らしい伝声管の共鳴で、しゅぃんしゅぃんしゅぃん、と耳障りな摩擦音が響いた。
大きく重厚な、黒光りする木の卓。
貴人の正面の席には、新入りの美少女(美鷹)が座らせられている。
服装は拉致されてきたときのまま。制服姿だ。
彼女の座る、彼女にはやや大きい木製のひじ掛け椅子は。
おそらくは何か、おぞましい目的で用いられてきたものにちがいない。
この椅子は、補強金具と鉄鋲が打たれた、強靭なつくりであり。
ところどころ、ぬぐい切れない古い血痕のような黒いしみがついている。
ひじ掛け椅子のひじ掛けと、椅子の脚の足首にあたる部分には。
手足を拘束するための、革のベルトが備えられており。
現に美鷹も、右腕の手首、両足首、両膝を椅子に固定されている。
また細い腰と、胸の下の位置にも、革のベルトが食い込むように巻かれて、彼女のトルソーを背もたれに固定している。
唯一動く左腕も、ひじの部分に革ベルトが巻かれ。
その革ベルトは、緩めの鎖で椅子に固定されていて。
テーブルの縁にある紅茶のカップを取り、口元に運ぶことまではかろうじて可能だが。
たとえば縛められた手足を自由にするための行動などは、できないようにされている。
しかしその白い手足をむごく束縛された美少女は、怯えた様子もなく。
許された左手で優雅にティーカップを口元に運び、思慮深げに味わいながら。
そのけむるような瞳を、御簾のむこうの人物に向けた。
「──貴方は、どなたなのでしょう。
そして私に、何を望まれるのでしょうか。」
しゅうしゅう、とまた貴人は笑う。
──名などは、どうでもいい。
そなたの肉と魂が、欲しい。
そう、貴人は嘯く。
「はばかりながら申し上げますと、私には婚約者がおります。
婚約者に不貞を働くわけにも、いきません。」
──婚約者のことは、好いてはいないのであろう?
そう問いかけられて、美少女が動揺したのが。
この間、口をつぐみ、美少女の横で聞き入っていた瑞にはわかった。
瑞はこの美少女のそれよりも質素なつくりの、小さめの椅子に縛られていて。
(それも、この美少女との格差を突き付けられているようで、瑞には不満だった。)
やはり左腕だけ、お茶をたしなむことができる、最小限の程度の動きを許されていたが。
とてもお茶を飲むような気分にはなれず。彼女のカップは少しずつ卓上で熱を失っていた。
「──婚約は私の一族の決めたこと。婚約者をどう思うかは、私一人の心の中のこと。
どちらも、どこのどなたかも明らかにしてくださらない貴方にとやかく言われる筋合いのことではありません。」
きぃっひっひっ、というような。
より高い、卑しい笑い声が響く。
──そうか。ならばそなたはそなたの一族が決めたことには、従うということだな。重畳、重畳。
ところで、そちらの娘。
長らく放置していて申し訳なかったね。居心地はどうかね?
「──最低、最悪だ。」
──何か、不満があるのかな?
「温かいメシを食わせろ。運動できるように部屋から出せ。風呂にくらい、入らせろ。」
彼女の答えに、また、きっひっひっ、という笑い声。
この貴人の機嫌は、悪くないらしい。
──それは悪かった。望みのとおり、はからうとも。
ところで、こうして二人を呼んだのは。
二人に、親睦を深めてもらう機会を作ろうと思ってのことでね。
まいら、準備はできているかな?
さっそく、体験してもらうことにしようか。
そう、愉悦を湛えた声は言った。